説明

建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法

【課題】建物の屋外に設けられるポーチ、テラス、或いは犬走り等々の所謂「跳ね出し部」が、冬期に寒冷地の地盤が凍結して発生する凍上現象により破損等することを防止する構造ないし施工法を提供する。
【解決手段】建物屋外の地盤上に施工される跳ね出し部2の構築にあたり、跳ね出し部2に相当する深さと平面形状に直下地盤3の掘削を行うと共に、その掘削底面である跳ね出し部の下面相当部を、建物1の側から跳ね出し部2の先端に向かって上向き勾配θの傾斜面に形成する。傾斜面上に滑り材6を敷設し、更に滑り材6の上に跳ね出し部2の鉄筋を配筋し、しかる後に滑り材6の上へコンクリートを打設して鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の屋外(外周部)に設けられるポーチ、テラス、或いは犬走り等々の所謂「跳ね出し部」が、冬期に寒冷地の地盤が凍結して発生する凍上現象により破損等することを防止する構造ないし施工法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
建物の屋外に設けられるポーチ、テラス、或いは犬走り等々の所謂「跳ね出し部」は、一般的には図2に例示したように、建物1の基礎部分7と一体的構造をなす鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2として、地盤3上に直接コンクリートを打設して構築される。
そのため北海道などの寒冷地では、冬期に地盤が凍結して生ずる地盤の凍上現象によって跳ね出し部2が破損等する不具合が起こる。因みに図2中の符号Dは地盤3が凍結する深度を示す。北海道でも地域によって異なるが、凍結深度Dは30cm〜100cm程度に及ぶ。跳ね出し部2の施工深さdが前記凍結深度Dより浅いと、凍結により地盤が盛り上がる凍上現象で、跳ね出し部2に上向きの凍上力Fが作用して破損等を来すのである。そのため前記凍上現象の防止対策として、特別な凍上防止処理が跳ね出し部2に必要とされる。
【0003】
既往の凍上防止処理として、例えば図3に示した跳ね出し部2の場合は、跳ね出し部2の先端部に、地盤の凍結深度Dよりも深く潜らせた立ち下がり部4をわざわざ構築している。そして、跳ね出し部2の下面から立ち下がり部4の内側面にかけて連続する断熱材5を施工して、跳ね出し部2の直下地面の凍結を防止する対策工が施工されている。
また、図4に示した凍上現象の防止対策は、跳ね出し部2の直下地盤を、凍結しない種類又は材質の地盤8、例えば砂質地盤などに置換した施工例を示している。
したがって、上記図3又は図4のいずれの対策工を採用して実施しても、寒冷地以外の地域に施工する跳ね出し部の施工に比較すると、建物屋外跳ね出し部2の凍上防止対策処理の分だけ、地盤の掘削費用や断熱材費用などに多くのコストを必要とするので、当事者の負担を避けられない。
【0004】
その他の例えば下記の特許文献1に記載された「建物及び断熱材の施工方法」の場合は、地盤の凍結地域における建物の基礎の深さを、地盤の凍結深度よりも浅く設計して、必要以上の深さに掘削する基礎の施工費を軽減する目的で、建物の基礎部分の外周面に断熱材を配設した構成を示している。この施工方法の場合、断熱材の上端は、基礎の上端よりも地上の上方に延びて配設され、下端は地盤の凍結深度よりも浅い基礎の下部から外方へ張り出した形に断熱材を設置した構成を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−60140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、既往の各先行技術は、それぞれに工夫が凝らされている。しかし、地盤の掘削量が多くなったり、或いは断熱材の施工を不可欠とし、又は地盤の大掛かりな置き換えを行うなど、寒冷地以外の地域に施工する跳ね出し部に比較すると、一層多くの労力とコストを必要とすることが明らかで、当事者に負担を余儀なくしているから、更に有効な解決手段の開発が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、建物の屋外に設けられるポーチ、テラス、或いは犬走り等々の所謂跳ね出し部の構築、特に北海道などの寒冷地で、冬期に地盤が凍結し、それによる凍上現象を避けられない地域で施工される建物屋外の跳ね出し部の施工に関し、地盤の凍上現象によって破損等する不具合を未然に防止することができ、施工が簡単で、労力とコストを大幅に削減可能な凍上防止工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する手段として、請求項1に記載した発明に係る建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法は、
建物屋外の地盤上に施工される跳ね出し部2の構築にあたり、同跳ね出し部2に相当する深さと平面形状に直下地盤3の掘削を行うと共に、その掘削底面である跳ね出し部2の下面相当部を、建物1の側から同跳ね出し部2の先端に向かって上向き勾配θの傾斜面に形成し、
前記傾斜面上に滑り材6を敷設し、
更に前記滑り材6の上に跳ね出し部2の鉄筋を配筋し、しかる後に滑り材6の上へコンクリートを打設して鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2を構築することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法において、
跳ね出し部2の下面相当部は、建物側から同跳ね出し部2の先端に向かって上向き勾配θの傾斜面と垂直な先端面とで形成し、
前記傾斜面及び先端面に滑り材6を敷設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明による建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法は、跳ね出し部2に相当する深さと平面形状に直下地盤3の掘削を行う際に、その掘削底面である跳ね出し部の下面相当部を、建物側から同跳ね出し部の先端側に向かって上向き勾配θの傾斜面に形成し、前記傾斜面上に滑り材6を敷設し、更に前記滑り材6の上に跳ね出し部の鉄筋を配筋し、しかる後に同滑り材6上へコンクリートを打設して鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2を構築するから、地盤3に凍上現象が発生しても、地盤3と跳ね出し部2の下面とは滑り材6により縁切りされているので、地盤3の凍上力Fが跳ね出し部2へ作用する負荷はかなり軽減される。即ち、地盤3の凍上力Fのうち、一部分は跳ね出し部下面の上向き勾配θの傾斜面に沿って作用する分力f1として働くが、滑り材6に沿って地盤が滑ることで応力は解放される。他の跳ね出し部2の下面に垂直な垂直分力f2は凍上力Fに比してかなり小さいので、跳ね出し部2を凍上させたり破損させるまでには至らず、跳ね出し部2は健全な状態を保つ。特に、跳ね出し部2の建物1側の端部は、上記した上向き勾配θの傾斜面により分厚く構成されて強度が倍増されているので、この意味でも跳ね出し部2が凍上したり破損する懸念がない。
一方、本発明の実施における地盤3の掘削量は、跳ね出し部2の下面相当部を上向き勾配θの傾斜面に形成する分だけ増加するが、上向き勾配θの適切な設計により、微増の範囲に抑えることができる。そして、同傾斜面の上に滑り材6を敷設し、その上にコンクリートを打設するから、コンクリート打設量も若干増加するが、むしろ労力及び工費の軽減化に大きな利益が得られるし、また、工期の短縮化にも効果が得られて、より大きな利益を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法の実施例を示した垂直断面図である。
【図2】従来の建物屋外跳ね出し部の構造を示した垂直断面図である。
【図3】従来の建物屋外跳ね出し部の異なる構造を示した垂直断面図である。
【図4】従来の建物屋外跳ね出し部の更に異なる構造を示した垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法は、建物屋外の地盤3上に施工される跳ね出し部2の構築にあたり、先ずは直下地盤3を跳ね出し部2に相当する深さと形状に掘削を行う。その際に、掘削底面である跳ね出し部2の下面相当部は、建物1の側から同跳ね出し部2の先端側に向かって上向き勾配θの傾斜面と垂直な先端面とで形成する。その上で、前記傾斜面及び先端面に滑り材6を敷設し、前記滑り材6の上に跳ね出し部2の鉄筋を配筋し、しかる後に同滑り材6上へコンクリートを打設して鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2を構築する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明による建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法の実施例を示している。
建物1の外周部である屋外の地盤3上に建物基礎7と一体化した構造の跳ね出し部2を施工するにあたり、先ずは地盤3の掘削を行う。地盤3の掘削は、建物基礎7に相当する部分の地盤を掘削する工程と並行して、当該跳ね出し部2に相当する部分の直下地盤3を、跳ね出し部2の深さと平面形状に沿って掘削することになる。
地盤3の掘削に際しては、掘削底面である跳ね出し部の下面相当部は、建物1の基礎側から同跳ね出し部2の先端側に向かって、上向き勾配θの傾斜面に形成することが特徴である。前記上向き勾配θの具体的な大きさに関しては、後述するように地盤3に凍上現象が発生し、凍上力Fが作用した際に、跳ね出し部2の下面(傾斜面)に垂直な分力f2の大きさが、跳ね出し部2を破損させる虞のない範囲に設計することになる。
跳ね出し部2を建物基礎7に一端を固定した片持ち梁と見た場合に、垂直な力f2の大きさが、跳ね出し部2を破損させることのない安全率の範囲内の小さな数値となるように設計し施工することになる。
その一方で、跳ね出し部2の下面(傾斜面)に平行な分力f1は多少大きくても、この分力f1は滑り材6によって地盤3と跳ね出し部2とを縁切りしたから、縁切り面での滑りによって応力は解放される。よって、前記上向き勾配θの大きさは、前記垂直分力f2の大きさのみを考慮して決定すれば足り、具体的には30度以上とするのが好ましい。
【0014】
本発明による凍上防止工法の次の工程は、上記のように地盤3を掘削して、掘削底面である跳ね出し部2の下面相当部を、建物1の基礎7の側から同跳ね出し部2の先端側に向かって上向き勾配θの傾斜面及び垂直な先端面に形成した、その傾斜面及び先端面に滑り材6を敷設する。ここで言う滑り材6とは、地盤3と跳ね出し部2とを縁切りして、地盤3の凍上現象により上記の平行分力f1が発生しても、地盤の滑りによって応力を解放させる効果を奏する材料であれば足りる。例えばテフロン(登録商標)加工を施したプラスチックシートが好ましいが、一定の層厚に敷設した敷き砂とか、厚紙、或いは木板などであっても良い。
【0015】
上記のように、掘削底面である跳ね出し部の下面相当部へ滑り材6を敷設した後に、建物基礎7の鉄筋と共に上記滑り材6の上にも跳ね出し部2の鉄筋を配筋する。しかる後、同滑り材6の上に跳ね出し部2のコンクリートを打設して、鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2を建物1の基礎7と一体的構造に構築する。
上記のようにして鉄筋コンクリート造の跳ね出し部2を施工すると、当該跳ね出し部2の下面は、地盤3とは滑り材6によって完全に縁切りされた構造となる。
したがって、仮に冬期に地盤3が凍結して跳ね出し部2の直下地盤に凍上現象が発生しても、既に説明したとおり、地盤3の凍上力Fは、跳ね出し部2の下面の上向き勾配θの傾斜面に沿って平行な分力f1と垂直な分力f2として作用する。そして、前記平行な分力f1は傾斜面に沿って地盤が滑ることで応力の解放をもたらす。一方、跳ね出し部2の下面を押す垂直分力f2は、上記の上向き勾配θに比例して凍上力Fよりもかなりの割合で小さいから、跳ね出し部2自体を凍上或いは破損させる程の負荷に成長しない。
しかも跳ね出し部2の構造は、図1に断面を示したとおり、建物1の基礎7と繋がった基端部が分厚く強度及び耐力が大きい片持ち梁の構成になっているので、この意味からも破損等を生ずる虞はない。
【0016】
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、もとより本発明は上記実施例の構成に限定されるものではない。いわゆる当業者が必要に応じて行うであろう設計変更その他の応用、改変の範囲まで含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0017】
1 建物
2 跳ね出し部
3 地盤
6 滑り材
7 建物の基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物屋外の地盤上に施工される跳ね出し部の構築にあたり、同跳ね出し部に相当する深さと平面形状に直下地盤の掘削を行うと共に、その掘削底面である跳ね出し部の下面相当部を、建物側から同跳ね出し部の先端に向かって上向き勾配の傾斜面に形成し、
前記傾斜面上に滑り材を敷設し、
前記滑り材の上に跳ね出し部の鉄筋を配筋し、しかる後に滑り材上へコンクリートを打設して鉄筋コンクリート造の跳ね出し部を構築することを特徴とする、建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法。
【請求項2】
跳ね出し部の下面相当部は、建物側から同跳ね出し部の先端に向かって上向き勾配の傾斜面と垂直な先端面とで形成し、
前記傾斜面及び先端面に滑り材を敷設することを特徴とする、請求項1に記載した発明に係る建物屋外跳ね出し部の凍上防止工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211457(P2012−211457A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77182(P2011−77182)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】