説明

建築物及び建築物の施工方法

【課題】空間を区画する区画部材の他方の空間側の温度に基づく情報を一方の空間側に報知することが可能な建築物等を提供する。
【解決手段】空間を二つに区画する区画部材と、前記区画部材の、区画された二つの空間のうちのいずれか一方の空間側の部位に設けられ、他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達され、前記一方の空間側の部位が前記他方の空間側の温度より低い所定温度以上になった際に変色する示温部材と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間を二つに区画する区画部材を有する建築物及び建築物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空間を二つに区画する区画部材を有する建築物として、部屋や通路等の区画された少なくとも2つの空間を備えた建築物が知られている。このような建築物は、隣接する部屋間や部屋と通路との間が壁、床、天井などの区画部材にて区画されている。また、部屋と部屋及び通路等を区画する壁には、隣接する部屋間及び部屋と通路とを連通する開口が設けられており、開口の多くには開閉可能な扉等が設けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
複数の部屋や通路等を備えた建築物の一室にて火災が発生した場合、火災が発生している部屋(以下、火災室という)が壁等の区画部材にて閉ざされていると、火災室とは別の部屋や通路から避難する人及び消防隊には火災室内の様子を知ることはできない。このため、避難者や消防隊が火災室や火災室と隣接する部屋の扉を開けてしまう畏れがある。このとき、火災室や火災室と隣接する部屋の室内が高温になっている場合には、酸素が送り込まれることにより、火の勢いを高めてしまったり、多量の有毒ガスを火災室に隣接する部屋に流出させてしまったりする畏れがあるという課題がある。
【0004】
本発明は、以上の課題を解決するものであり、その目的とするところは、空間を区画する区画部材の他方の空間側の温度に基づく情報を一方の空間側に報知することが可能な建築物及び建築物の施工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明に係る建築物は、空間を二つに区画する区画部材と、前記区画部材の、区画された二つの空間のうちのいずれか一方の空間側の部位に設けられ、他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達され、前記一方の空間側の部位が前記他方の空間側の温度より低い所定温度以上になった際に変色する示温部材と、を有することを特徴とする建築物である。
【0006】
このような建築物は、区画部材により分けられた空間のうちの他方の空間側の温度上昇に伴う熱が区画部材にて伝達され、区画部材の一方の空間側の温度が所定温度以上になったときに、区画部材の一方側の部位に設けられた示温部材が変色するので、変色した示温部材により一方の空間側に他方の空間側の温度に基づく情報を報知することが可能である。このため、一方の空間側にいる人は他方の空間内を目視することなく、他方の空間内の状況を認識することが可能である。例えば、他方の空間にて火災が発生し室内が高温になっている場合には、その旨を一方の空間にいる避難者及び消防隊に認識させることが可能である。また、このとき、一方の空間側の温度は他方の空間側の温度より低いので、一方の空間にいる人は高温の空気に晒されることなく他方の空間側の温度に基づく情報を認識することが可能である。
【0007】
かかる建築物であって、前記所定温度は、前記二つの空間を連通し前記区画部材が有する開口に設けられた扉を開いた際に、バックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度に上昇した前記他方の空間側の温度上昇に伴う熱が前記一方の空間側の部位に伝達された際の温度であることが望ましい。
このような建築物によれば、扉を開いた際にバックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度に達しているという他方の空間側の状況を一方の空間側にいる者に報知することが可能である。
【0008】
かかる建築物であって、前記所定温度は、前記他方の空間内にて消防活動が不可能な温度に上昇した前記他方の空間側の温度上昇に伴う熱が前記一方の空間側の部位に伝達された際の温度であることとしてもよい。
このような建築物によれば、他方の空間内では消防活動が不可能な温度に上昇しているという他方の空間の状況を一方の空間側にいる者に報知することが可能である。
【0009】
かかる建築物であって、前記示温部材は、前記一方の空間側の部位が前記所定温度より低くなった際に元の色に戻ることが望ましい。
このような建築物によれば、一方の空間側の部位が所定温度より低くなった場合には、示温部材の色が元の色に戻るので、一方の空間側の部位及び他方の空間側の温度が低下したことを報知することが可能である。また、例えば、夏の強い日射等により所定温度以上になったとしても、温度が低下することにより示温部材が元の状態に戻るので、示温部材を交換することなく継続して使用することが可能である。
【0010】
かかる建築物であって、前記区画部材は、前記他の空間側の温度と、前記所定温度との差を調節するための調節部材を有することが望ましい。
このような建築物によれば、区画部材が調節部材を有するので、他方の空間側の温度に応じた調節部材を用いることにより、他方の空間側の任意の温度に対して一種類の示温部材にて温度に基づく情報を報知することが可能である。
【0011】
かかる建築物であって、前記調節部材は、断熱材であり、前記断熱材の厚さを変更して前記他の空間側の温度と前記所定温度との差を調節することが望ましい。
このような建築物によれば、区画部材が調節部材として断熱材を有するので、一方の空間側の温度を他方の空間側の温度より確実に低くすることが可能であり、また、断熱材の厚さを変更するだけで、他方の空間側の様々な温度に対して示温部材を変色させることが可能である。
【0012】
かかる建築物であって、前記調節部材は、熱伝導率が互いに異なる複数種類の断熱材から選択した前記断熱材により前記他の空間側の温度と前記所定温度との差を調節することが望ましい。
このような建築物によれば、区画部材が調節部材として断熱材を有し、互いに異なる熱伝導率を有する複数の断熱材のうちから示温部材が変色する温度に適した断熱材を選択して用いるだけで、一方の空間側の温度を他方の空間側の温度より確実に低くしつつ他方の空間側の様々な温度に対して示温部材を変色させることが可能である。
【0013】
かかる建築物であって、前記示温部材は、変色する温度が互いに異なる複数種類の前記示温部材のうちから、前記他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達されたときの前記一方の空間側の部位の温度に基づいて選択されることが望ましい。
このような建築物によれば、変色する温度が互いに異なる複数種類の示温部材のうちから使用する示温部材を選択するので、他方の空間側の様々な温度に対応させて示温部材を変色させることが可能である。また、変色させたい温度に応じて示温部材を選択し、選択した示温部材を一方の空間側の部位に設けるだけで、所望の温度にて一方の空間側の部位を容易に変色させることが可能である。
【0014】
かかる建築物であって、前記示温部材は、前記一方の空間側の部位に塗布された示温塗料であることが望ましい。
このような建築物によれば、示温部材は塗料なので、外部に突出することがなく、一方の空間を有効に使用することが可能である。
【0015】
かかる建築物であって、前記示温部材は、前記一方の空間側の部位が前記所定温度以上になった際に変色して、前記他の空間側の温度に基づく情報を報知することが望ましい。
このような建築物によれば、前記他の空間側の温度に基づく情報が変色した示温部材により報知されるので、単に変色する場合より、他の空間側の温度に基づくより多くの情報を報知することが可能である。例えば、変色した示温部材にて文字を表示すると、他方の空間側の温度に基づく情報をより正確に報知することが可能である。
【0016】
また、二つの空間に区画する区画部材の、前記二つの空間のうちの一方の空間側の部位に、他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達されて前記一方の空間側の部位が前記他方の空間側の温度より低い所定温度以上になった際に変色する示温部材を付与することを特徴とする建築物の施工方法である。
【0017】
このような建築物の施工方法によれば、区画部材により区画される二つの空間のうちの一方の空間側の部位に、他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達されて一方の空間側の部位が他方の空間側の温度より低い所定温度以上になった際に変色する示温部材を付与するだけで、一方の空間側から他方の空間側の温度に基づく情報を報知することが可能な建築物を容易に施工することが可能である。
【0018】
かかる建築物の施工方法であって、前記区画部材は、前記空間を二つに区画するための区画構成材と、前記他方の空間側の温度と前記所定温度との差を調節するための調節部材と、を有し、前記区画構成材に前記調節部材を付与することが望ましい。
このような建築物の施工方法によれば、区画部材を構成する区画構成材に調節部材を付与することにより、他方の空間側の任意の温度に対して一種類の示温部材にて温度に基づく情報を報知することが可能な建築物を施工することが可能である。
【0019】
かかる建築物の施工方法であって、前記示温部材は示温塗料であり、前記区画部材に前記示温塗料を塗布することが望ましい。
このような建築物の施工方法によれば、示温部材が塗料なので、区画部材の、一方の空間側の部位に塗布するだけで、他方の空間側の温度を報知することが可能な建築物を容易に施工することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、空間を区画する区画部材の他方の空間側の温度に関する情報を一方の空間側に報知することが可能な建築物及び建築物の施工方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る建築物の第一実施例を説明するための図である。図2は、ガラス壁にて区画された火災室の温度、火災室側の壁面温度、通路側の壁面温度の変化を示す図である。図3は、建築物内を区画する壁の一構成例を説明するための模式断面図である。
【0022】
本実施形態にかかる建築物は、空間を二つに区画する区画部材により区画された空間を備えた建築物であり、具体的には、複数の部屋及び通路等の区画された空間を有する建築物である。区画部材としては、部屋及び通路を区画しているコンクリート、石膏ボード、ALC板などの壁、床、天井等、鋼製シャッター、耐火ガラス、防火戸などの扉等が挙げられる。
【0023】
本実施形態では、建築物が有する部屋と、部屋に隣接して設けられている通路とを区画する壁と、当該壁が有する部屋への出入り口をなす開口に設けられた扉との通路側の面に、示温部材としての示温塗料が塗布されている例について説明する。ここで、示温塗料とは、特定の温度にて明瞭に変色する塗料であり、例えば、アセイ工業株式会社製 WAX示温インク、大日本インキ化学工業株式会社製 示温インキ等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の建築物1は、図1に示すように、複数の部屋のうち所定の部屋にて火災が発生し、火災が発生した他方の空間としての部屋(以下、火災室という)10と隣接する一方の空間としての通路12の壁面21a(一方の空間側の部位)及び火災室10と通路12とを連通する開口を開閉可能に設けられた扉14の通路側の面14a(一方の空間側の部位)に示温塗料24が塗布されている。そして、示温塗料24は、火災室10から通路12側に伝達される熱により、壁20及び扉14の通路側の壁面21a、14aが所定温度以上になった際に変色するように構成されている。図2はガラス壁にて区画さている火災室の温度、火災室側の壁面温度、通路側の壁面温度の時間経過による変化を示しているが、図示するように、通路12側の壁面21aの温度も火災室10とほぼ同様に高温になっており、鉄板もほぼ同様の温度変化を示す。一方、可逆性示温塗料の変色域は一般的に約70℃以下なので、示温部材24を直接壁に塗布することはできない。このため、本実施形態では、火災室10側の温度と、示温塗料24を変色させるべき温度との差を調節するための調節部材として断熱材23を用いている。
【0025】
本実施形態の壁20及び扉14は、図3に示すように、火災室10側の壁面22a及び通路12側の壁面21aを構成する区画構成材としての2枚の鉄板21、22が間隔を隔てて対面されており、2枚の鉄板21、22の間には調節部材としての断熱材23が介在されている。そして、通路12側の壁面21aには、示温塗料24が塗布されている。
【0026】
示温塗料24としては、例えば、通常は周囲の天井16等と同色をなしており、塗布されている壁面21aの温度が所定温度以上になると透明に変色して下地色が見え、温度が低下して所定温度より低くなった際に再び発色する示温塗料24が用いられている。このとき、示温塗料24が透明になる温度、及び再び発色する所定温度は、示温塗料24を塗布する前に、まず、以下の方法で決定され、変色する温度に適した示温塗料24が選択され、選択された示温塗料24が塗布される。
【0027】
<示温塗料の決定方法及び施工方法>
示温塗料24は、建築物1の内部空間を区画する壁、扉、天井、床等が施工された後に塗布されるが、その前に示温塗料を変色させるべき温度を決定し、その温度に適した示温塗料24を選択する。
【0028】
図4は、示温塗料を変色させるべき温度を決定する方法を説明するため図である。図示するように、火災室10側の鉄板22と通路12側の鉄板21との間に熱伝導率が異なる二種類の断熱材23a、23bが設けられている例について説明する。また、本説明においては、分かりやすくするために、火災室10の温度及び通路12の温度は定常として扱うこととする。
【0029】
図4に示すように、火災室10の温度をTf[K]、通路12側の空間の温度Tr[K]、火災室10となる部屋の室側壁部材(鉄板)22、室側断熱材23a、通路側断熱材23b、通路側壁部材(鉄板)21の各厚さをd1、d2、d3、d4[m]、各熱伝導率をk1、k2、k3、k4[kW/mK]、及び、火災室10の熱伝達率をhf、通路12の熱伝達率をfrとする。
【0030】
まず、壁20の熱抵抗Rを(式1)にて求める。

(式1)にて求めた熱抵抗Rに基づき、壁20を通る定常熱流束qを(式2)にて求める。

(式2)により求めた定常熱流束qより通路12側の壁面温度Tは、(式3)にて求められる。

【0031】
(式1)〜(式3)を用いて、壁20に塗布する示温塗料24の種類を決定する。一例を以下に説明する。ここでは、室側壁部材(鉄板)22、室側断熱材23a、通路側断熱材23b、通路側壁部材(鉄板)21の各厚さd1、d2、d3、d4[m]、各熱伝導率k1、k2、k3、k4[kW/mK]、及び、火災室側空間の熱伝達率をhf、通路側空間の熱伝達率をfrが以下のように設定されているものとする。
室側壁部材 d1=0.01[mm] k1=0.1×10−3[kW/mK]
室側断熱材 d2=0.3[mm] k2=1.2×10−3[kW/mK]
通路側断熱材 d3=0.02[mm] k3=0.04×10−3[kW/mK]
通路側壁部材 d4=0.01[mm] k4=0.1×10−3[kW/mK]
火災室側空間の熱伝達率 hf=0.5[kW/mK]
通路側空間の熱伝達率 fr=0.02[kW/mK]
通路側の空間の温度 Tr=300[K]=27[℃]

そして、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfを決定する。例えば、火災室10の温度Tfが1300[K]すなわち1027[℃]のときに示温塗料24を変色させたいとする。
この場合には、上記(式1)(式2)に上記の数値を代入して、
熱抵抗 R=1002[mK/kW]
定常熱流束 q=1.00[kW/m
が求められ、(式3)にて通路12側の壁面温度TがT=350[K]=77[℃]となる。
【0032】
これにより、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfが1027[℃]のときに、通路12側の壁面温度Tは77[℃]となることが導き出せる。このため、通路12側の壁面温度Tは77[℃]以上になったときに変色する示温塗料24が、壁20に塗布すべき示温塗料24の種類であると選択することができる。同様にして、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfが800[K](527[℃])の場合には、火災室10の温度Tfが800[K]のときに通路12側の壁面温度Tが52[℃]となるため、52[℃]にて変色する示温塗料24を選択し、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfが500[K](227[℃])の場合には、火災室10の温度Tfが500[K]のときに通路12側の壁面温度Tが37[℃]となるため、37[℃]にて変色する示温塗料24を選択すればよい。
【0033】
このとき、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfを、例えば、扉14を開き酸素が供給されるとバックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度(例えば600[℃])に設定すると、火災室10内の温度Tfが600℃以上になった際に、通路12側の壁面21aに塗布された示温塗料24が変色するので、消防隊にその旨を報知することが可能である。また、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfを、例えば、防火服を着用した消防隊が消防活動可能な温度(例えば100[℃])に設定すると、火災室10内の温度Tfが100℃以上になった際に、通路12側の壁面21aに塗布された示温塗料24が変色するので、消防隊にその旨を報知することが可能となる。
【0034】
そして、選択した示温塗料24が通路12側の壁面21aに塗布される。このとき、示温塗料24はすべての壁20、扉14、天井16等の区画部材に塗布しても良いが、少なくとも避難経路となる通路や、消防隊の浸入路及び消防活動拠点等の壁に塗布することが望ましい。
【0035】
なお、上記の決定方法は、火災室10の温度および通路12の温度は定常として扱った一例を示したものであるが、熱伝導解析や実験に基づき示温塗料24を決定しても良い。
【0036】
本実施形態の建築物1によれば、壁20や扉14により区画された火災室10側の温度Tfが壁20や扉14にて熱が伝達されて通路12側の温度Tが所定温度以上になったときに、壁20や扉14の通路12側の壁面21aに塗布された示温塗料24が透明に変色するので、通路12側の空間から火災室10側の温度Tfに関する情報を通路12側に報知することが可能である。このため、例えば、火災室10内が高温になっている状況を通路12側にいる避難者及び消防隊に認識させることが可能である。このとき、通路12側の温度Tは火災室10側の温度Tfより低いので通路12にいる者が高温の空気に晒されることなく火災室10側の温度Tfを認識することが可能である。また、示温部材として、示温塗料24を用いたので、示温部材が壁20や扉14から通路12側に突出することはなく、通路12を有効に使用することが可能である。
【0037】
また、壁20や扉14に塗布した示温塗料24が変色する温度を、火災室10と通路12とを連通する、壁が有する開口に設けられた扉14を開いた際に、バックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度に上昇した火災室10側の、温度上昇に伴う熱が壁20や扉14の通路12側の壁面21a、22aに伝達された際の温度とすることにより、火災室10の温度Tfが扉14を開いた際にバックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度であることを、消防隊や避難者が扉14を開ける前に報知することが可能である。
【0038】
また、壁20や扉14に塗布した示温塗料24が変色する温度を、火災室10内にて消防活動が不可能な温度に上昇した火災室10の、温度上昇に伴う熱が壁20や扉14の通路12側の壁面21a、22aに伝達された際の温度とすることにより、火災室10内が消防活動不可能な温度に上昇している状況であることを通路12にいる人に報知することが可能である。
【0039】
また、示温塗料24として、壁20や扉14の通路12側の壁面21a、22aが所定温度より低くなった際に元の色に戻る可逆性の示温塗料24を用いたので、通路12側の壁面21aが所定温度より低くなった場合には、示温塗料24の色が元の色に戻るため、通路12側の壁面21a及び火災室10側の温度Tfが所定温度より低下したことを報知することが可能である。例えば、夏の強い日射により所定温度以上になった場合には、本来の目的と異なる状況にて示温塗料24が変色してしまうが、温度が低下することにより示温塗料24の色が元の状態に戻るので、本来の目的を果たさないまま示温塗料24を塗布し直したり、示温塗料24が塗布された部材を交換することなく継続して使用することが可能である。
【0040】
また、火災室10と通路12とを区画する壁20は、火災室10側の温度Tfと、示温塗料24が変色する所定温度との差を調節するための断熱材23を有しているので、火災室10側の温度Tfに応じた断熱材23を用いることにより、火災室10側の任意の温度に対して一種類の示温塗料24にて温度に基づく情報を報知することが可能である。また、断熱材23の厚さを変更することにより火災室10側の温度Tfと示温塗料24を変色させる所定温度との差を調節する場合には、断熱材23の厚さを変更するだけで、火災室10側の様々な温度に対して示温塗料24を変色させることが可能である。
【0041】
上記実施形態の建築物1の施工方法によれば、部屋(火災室)10と通路12とを区画する壁20や扉14に、火災室10側の温度Tfが、壁20や扉14にて熱が伝達されて通路12側の壁面21aの温度Tが所定温度以上になったときに、透明に変色する示温塗料24を塗布するので、示温塗料24を塗布するだけで通路12から火災室10側の温度Tfに基づく情報を認識することが可能な建築物1を容易に施工することが可能である。特に、壁面21aに示温塗料24を塗布するだけなので、既存の建築物であっても後施工により、通路12から火災室10側の温度Tfに基づく情報を認識することが可能な建築物1を実現することが可能である。
【0042】
また、部屋(火災室)10と通路12とを区画する壁20や扉14を構成する鉄板212、22に断熱材23を付与することにより、火災室10側の温度Tfと示温塗料24が変色する所定温度との差を調節するので、火災室10側の任意の温度に対して一種類の示温塗料24にて温度に基づく情報を報知することが可能な建築物1を施工することが可能である。
【0043】
本実施形態においては、部屋10側の鉄板22と通路12側の鉄板21との間に断熱材23が既に設けられており、示温塗料24を変色させたい火災室10の温度Tfに応じて示温塗料24を選択する例について説明したが、変色する温度が定められた示温塗料24を用いる場合には、部屋10側の鉄板22と通路12側の鉄板21との間に設ける断熱材23の厚さを変更したり、熱伝導率が互いに異なるような種類の異なる断熱材に変更しても良い。
【0044】
示温塗料を選択することにより火災室10の温度Tfと変色させたい温度との差を調節する場合には、まず、示温塗料を選択した後に、既に施工されている壁20等に選択した示温塗料24を塗布したが、断熱材23を選択することにより火災室10の温度Tfと変色させたい温度との差を調節する場合には、まず、熱抵抗Rを求める際に使用する示温塗料に応じて断熱材を選択し、選択した断熱材を用いて壁を施工した後に、示温塗料を塗布することになる。
【0045】
また、上記実施形態においては、部屋10側の鉄板22と通路12側の鉄板21との間に断熱材23を備えた例について説明したが、これに限るものではない。図5は、熱抵抗の調節方法の第1変形例である。図6は、熱抵抗の調節方法の第2変形例である。壁20及び扉14等の内部に空隙がない場合などには、図5に示すように、通路12側の壁面21a、あるいは扉14の通路側の表面14aに断熱材23を設けることにより熱抵抗Rを調節しても良いし、図6に示すように、火災室10側の壁面22aにドレンチャー等の散水設備30により調節部材としての水を流すことにより熱抵抗Rを調節しても良い。図7は、熱抵抗が十分に大きな壁等に示温塗料を塗布する例を説明するための図である。図8は、コンクリート壁にて区画された火災室の温度、火災室側の壁面温度、通路側の壁面温度の変化を示す図である。図8に示すように、RC壁25は熱抵抗Rが十分に大きいため、RC壁のみでも通路12側の壁面21aの温度Tは火災終了時であっても100℃以下である。このためRC壁等の熱抵抗Rが十分に大きな壁等に示温塗料24を塗布する場合には、図7に示すように断熱材23を設けることなく壁面25aに直接塗布しても良い。ただし、RC壁等の場合は通路12側の壁面21aの温度Tは上昇しづらいので、RC壁ではなく、RC壁に設けられた扉に示温塗料を塗布するのが望ましい。
【0046】
また、上記実施形態においては、示温塗料24が透明になることにより通路12側の壁面21aの下地色が見え、火災室10の温度Tfが所定温度以上であることを報知する例について説明したが、通常透明な示温塗料が火災室10の温度Tfが所定温度以上になった際に発色する形態でも、また、所定の色の示温塗料が異なる他の色に変色する形態であっても構わない。
【0047】
また、熱抵抗Rが互いに異なる複数の部位を壁20や扉14に設けたり、変色する温度が互いに異なる複数種類の示温部材を設け、一方の示温部材がバックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度にて変色し、他方の示温部材が火災室10内にて消防活動不可能な温度にて変色するように設定しておくと、火災室10側の異なる複数の状況を通路12側に報知することが可能である。
【0048】
図9は、示温塗料による報知方法の変形例を示す図である。図示するように、単に壁面21aの色を変えるだけでなく、例えば、火災室側の温度Tfに基づく情報として、示温塗料24にて注意を促す文字26、例えば「開けるな」「入るな」「高温につき危険」「触れるな」などの文字を壁面21a及び扉14に書いておいても良い。このように、単なる変色だけでなく文字26にて注意を促すことにより、火災室10内の様子を、より正確に報知することが可能であり、また、一般の避難者にも、壁20や扉14に触れたり近づかないような注意を促すことが可能である。
【0049】
上記実施形態においては、可逆性の示温塗料24を用いた例について説明したが、必ずしも可逆性の示温部材に限るものではなく、塗布する場所や変色する条件に応じて使い分けても良い。
【0050】
上記実施形態においては、二つの空間を部屋(他方の空間、火災室)と通路(一方の空間)とし、区画部材が部屋及び通路を区画している例について説明したが、これに限るものではない。例えば、二つの空間が共に火災室となり得る部屋で、区画部材がこの二つの部屋を区画している場合は、示温部材はこの区画部材の両面に設けられる。
【0051】
上記実施形態においては、示温部材として所定の温度以上になると変色する塗料を用いた例について説明したが、所定の温度以上になると変色するテープ、ラベル、プレート等を用いてもよい。
【0052】
また、上記実施形態においては、示温部材24を変色させたい火災室10の温度Tfを、扉14を開き酸素が供給されるとバックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度、消防隊が消防活動可能な温度としたが、これに限るものではない。
【0053】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る建築物の第一実施例を説明するための図である。
【図2】ガラス壁にて区画された火災室の温度、火災室側の壁面温度、通路側の壁面温度の変化を示す図である。
【図3】建築物内を区画する壁の一構成例を説明するための模式断面図である。
【図4】示温塗料を変色させるべき温度を決定する方法を説明するため図である。
【図5】熱抵抗の調節方法の第1変形例である。
【図6】熱抵抗の調節方法の第2変形例である。
【図7】熱抵抗が十分に大きな壁等に示温塗料を塗布する例を説明する図である。
【図8】コンクリート壁にて区画された火災室の温度、火災室側の壁面温度、通路側の壁面温度の変化を示す図である。
【図9】示温塗料による報知方法の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 建築物、10 火災室(部屋)、12 通路、
14 扉、14a 面、16 天井、
20 壁、21 鉄板(通路側壁部材)、21a 壁面、
22 鉄板(室側壁部材)、22a 壁面、
23 断熱材、23a 室側断熱材、23b 通路側断熱材、
24 示温塗料、25 RC壁、25a 壁面、26 文字、
30 給水機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を二つに区画する区画部材と、
前記区画部材の、区画された二つの空間のうちのいずれか一方の空間側の部位に設けられ、他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達され、前記一方の空間側の部位が前記他方の空間側の温度より低い所定温度以上になった際に変色する示温部材と、
を有することを特徴とする建築物。
【請求項2】
請求項1に記載の建築物であって、
前記所定温度は、
前記二つの空間を連通し前記区画部材が有する開口に設けられた扉を開いた際にバックドラフトまたはフラッシュオーバーが発生する畏れがある温度に上昇した前記他方の空間側の温度上昇に伴う熱が前記一方の空間側の部位に伝達された際の温度であることを特徴とする建築物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建築物であって、
前記所定温度は、
前記他方の空間内にて消防活動が不可能な温度に上昇した前記他方の空間側の温度上昇に伴う熱が前記一方の空間側の部位に伝達された際の温度であることを特徴とする建築物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建築物であって、
前記示温部材は、前記一方の空間側の部位が前記所定温度より低くなった際に元の色に戻ることを特徴とする建築物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の建築物であって、
前記区画部材は、前記他の空間側の温度と、前記所定温度との差を調節するための調節部材を有することを特徴とする建築物。
【請求項6】
請求項5に記載の建築物であって、
前記調節部材は、断熱材であり、前記断熱材の厚さを変更して前記他の空間側の温度と前記所定温度との差を調節することを特徴とする建築物。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の建築物であって、
前記調節部材は、熱伝導率が互いに異なる複数種類の断熱材から選択した前記断熱材により前記他の空間側の温度と前記所定温度との差を調節することを特徴とする建築物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の建築物であって、
前記示温部材は、変色する温度が互いに異なる複数種類の前記示温部材のうちから、前記他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達されたときの前記一方の空間側の部位の温度に基づいて選択されることを特徴とする建築物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の建築物であって、
前記示温部材は、前記一方の空間側の部位に塗布された示温塗料であることを特徴とする建築物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の建築物であって、
前記示温部材は、前記一方の空間側の部位が前記所定温度以上になった際に変色して、前記他の空間側の温度に基づく情報を報知することを特徴とする建築物。
【請求項11】
二つの空間に区画する区画部材の、前記二つの空間のうちの一方の空間側の部位に、他方の空間側の温度上昇に伴う熱が伝達されて前記一方の空間側の部位が前記他方の空間側の温度より低い所定温度以上になった際に変色する示温部材を付与することを特徴とする建築物の施工方法。
【請求項12】
請求項11に記載の建築物の施工方法であって、
前記区画部材は、前記空間を二つに区画するための区画構成材と、前記他方の空間側の温度と前記所定温度との差を調節するための調節部材と、を有し、
前記区画構成材に前記調節部材を付与することを特徴とする建築物の施工方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の建築物の施工方法であって、
前記示温部材は示温塗料であり、前記区画部材に前記示温塗料を塗布することを特徴とする建築物の施工方法。

【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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