建築物評価システムおよび建築物評価方法
【課題】耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる建築物評価システムおよび建築物評価方法を提供すること。
【解決手段】この建築物評価システム1は、複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価システムにおいて、再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定する手段と、前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定する手段と、前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定する手段とを含むことを特徴とする。
【解決手段】この建築物評価システム1は、複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価システムにおいて、再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定する手段と、前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定する手段と、前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定する手段とを含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物評価システムおよび建築物評価方法に関し、耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる建築物評価システムおよび建築物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建築物評価システムには、特許文献1に記載される技術が知られている。従来の建築物評価システムは、既存建築物群に対し、個々の既存建築物についてその主要構造体と非構造体と建築設備との各項目に関する数値化された耐震性能データを記憶格納する手段と、地震時における該各項目の耐震性能の重要度について、該既存建築物の用途や利用状況に即した相対的な重み付けをして数値化された重み付けデータを記憶格納する手段と、これらの各種データを新規あるいは修正入力する入力手段と、該重み付けデータを記憶格納する手段と、これらの各種データを新規あるいは修正入力する入力手段と、該重み付けデータと耐震性能データとの数値から各項目毎の評価得点を求めると共に、該評価得点を平均して該既存建築物の耐震性能の総合評価得点を求める手段と、該総合評価得点順にソートした既存建築物の改修優先順位を一覧リストデータにして出力する出力手段と、該出力データを表示する表示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0003】
すなわち、従来の建築物評価システムでは、複数の既存建築物について、その主要構造体と非構造体と建築設備の各項目に関する耐震性能から既存建築物の耐震性能の総合評価得点が個々に算出される。そして、総合評価得点の低い順に一覧リストが出力され、それが改修優先順位とされる。また、既存建築物の用途による重要度係数も考慮される。
【0004】
ここで、複数の既存建築物を対象として限られた予算内で耐震改修を行う場合には、費用対効果や重要度などを考慮しつつ耐震改修の優先順位を評価する必要がある。しかしながら、従来の建築物評価システムでは、既存建築物の耐震性能が着目されるが、地震発生の確率(地震リスク)が考慮されていない。このため、耐震改修の費用対効果を客観的に把握できないという課題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−142112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてされたものであって、耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる建築物評価システムおよび建築物評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる建築物評価システムは、複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価システムにおいて、再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定する手段と、前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定する手段と、前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定する手段とを含むことを特徴とする。
【0008】
この建築物評価システムでは、各既存建築物毎に、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクが算定され、この地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率が算定される。そして、この内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が耐震改修案毎に客観的に把握される利点がある。
【0009】
また、この発明にかかる建築物評価システムでは、前記内部収益率の算定にあたり、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮される。
【0010】
この建築物評価システムでは、内部収益率の算定にあたり、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮されるので、耐震改修の費用対効果がより客観的に把握される利点がある。
【0011】
また、この発明にかかる建築物評価システムでは、前記耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化は、耐震改修の実施時期を加味して算定される。
【0012】
この建築物評価システムでは、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が耐震改修の実施時期を加味して算定されるので、耐震改修の費用対効果がより客観的に把握される利点がある。
【0013】
また、この発明にかかる建築物評価方法では、複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価方法において、再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定するステップと、前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定するステップと、前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる建築物評価システムでは、各既存建築物毎に、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクが算定され、この地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率が算定される。そして、この内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が耐震改修案毎に客観的に把握される利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施例の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0016】
図1〜図3は、この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示すハードウェア構成図(図1)、機能ブロック図(図2)およびフローチャート(図3)である。図4および図5は、耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。図6は、各耐震改修案に対する内部収益率の算定例を示す表である。図7および図8は、耐震改修時期を考慮した場合における耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。図9は、定期的に生ずるキャッシュフロー流列を示す説明図である。図10は、再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係を示すグラフである。図11は、再調達価格により基準化された耐震改修費用とある年の地震リスクとの関係を示すグラフである。
【0017】
[内部収益率]
金融工学の分野では、費用対効果を示す指標として内部収益率IRR(Internal Rate of Return)が用いられている。まず、定期的に生ずるキャッシュフロー流列xについて、現時点で負のフローx0があり、その後定期的に正のフローx1、x2、・・・、xnがある場合を考える(図9参照)。なお、図9では、横軸が時間を表しており、縦軸がフローの正負および大きさを表している。
【0018】
このようなキャッシュフロー流列x(x0、x1、x2、・・・、xn)と割引率rが与えられた場合には、キャッシュフロー流列xの正味現在価値NPV(Net Present Value)がDCF法(Discounted Cash Flow Analysis:割引現在価値法)により次式で与えられる。
【数1】
【0019】
ここで、1/(1+r)k(k:年数)は、複利原価率と呼ばれており、将来の価値を現在の価値に割り戻すための係数である。また、キャッシュフロー流列xの正味現在価値NPV=0となる割引率rは、キャッシュフロー流列xの構造に内在する割引率rであるため、特に、内部収益率IRRと呼ばれている。
【0020】
定額で定期的な正のフローc(x1、x2、・・・、xn)が永久に続く場合には、割引率rを用いて、このキャッシュフロー流列xの現在価値PV(Present Value)がc/rにより算定される。このキャッシュフロー流列xに初期投資額(負のフロー)x0を加えると、正味現在価値NPVがx0+c/rにより算定される。そして、正味現在価値NPV=0となると、内部収益率IRR=−c/x0となる。
【0021】
ところで、既存建築物(不動産)の資産価値の評価方法の一つである直接還元法では、1年あたりの賃料等の収入から管理費や公租公課等の諸経費を差し引いた純収益(正のフロー)cと還元利回りRとに基づいて、既存建築物の資産価値がc/Rとして算定される。
【0022】
なお、かかる既存建築物の資産価値c/Rと内部収益率IRRに関係する式x0=−c/IRR(IRR=−c/x0より)とは類似しているが、違いに注意する必要がある。すなわち、前者では、1年あたりの純収益cと還元利回りRとを指定することにより既存建築物の資産価値c/Rが評価される。これに対して、後者では、初期投資額x0とその後の純収益cとを指定することにより、キャッシュフロー流列xの内部収益率IRRが算定される。そして、内部収益率IRRが大きいほど費用対効果が高い。また、純収益cが等しい場合には、還元利回りRが小さいほど既存建築物の資産価値c/Rが高い。
【0023】
[建築物評価システム]
この建築物評価システム1は、制御装置2と、入力装置3と、出力装置4と、データファイル(データベース)5とを含み、例えば、PC(Personal Computer)により構成される(図1参照)。制御装置2は、CPU(central processing unit)21と、ROM(read-only memory)22と、RAM(random-access memory)23と、インターフェイス回路24とを含み構成される。この制御装置2は、所定の評価機能(図2参照)を有すると共に、既存建築物の諸データや入力情報に基づいて既存建築物の評価を実行する。入力装置3は、例えば、キーボードやマウスから成り、インターフェイス回路24を介して制御装置2に接続されている。この入力装置3から、既存建築物の評価に必要な情報や指令が制御装置2に入力される。出力装置4は、例えば、モニターから成り、インターフェイス回路24を介して制御装置2に接続されている。この出力装置4には、情報の入力画面や既存建築物の評価結果(耐震改修の優先順位など)が表示される。データファイル(データベース)5は、例えば、外部記憶装置であり、インターフェイス回路24を介して制御装置2に接続されている。このデータファイル5には、活断層データ、歴史地震データ、地盤データ、既存建築物フラジリティデータなどが格納されている。
【0024】
また、この建築物評価システム1は、第一評価部2a〜第五評価部2eを有する(図2参照)。これらの評価部2a〜2eは、例えば、プログラムとしてROM22に格納されており、システム稼働時にて、RAM23に読み込まれて制御装置2により実行される。第一評価部2aは、既存建築物の地震リスク(直接被害および間接被害)を評価(算定)する手段である。第二評価部2bは、再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係を評価(設定)する手段である。第三評価部2cは、各耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを評価(算定)する手段である。第四評価部2dは、各耐震改修案に対する内部収益率IRRを評価(算定)する手段である。第五評価部2eは、内部収益率IRRに基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価(決定)する手段である。
【0025】
[建築物評価方法]
この建築物評価システム1では、以下のように、既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が評価される(図3参照)。まず、対象となる既存建築物のフラジリティデータ(構造諸元および重要度係数)が設定される(ST1)。具体的には、各既存建築物について、構造種別、地上階数、構造耐震指標(Is値)、ピロティや偏心などの構造上の脆弱要因の有無、経年劣化状況、立地場所(緯度および経度)、ならびに、地盤条件(ボーリング調査によるN値および地盤柱状図、あるいは、PS検層によるP波速度およびS波速度構造)が設定される。
【0026】
ここで、既存建築物の重要度係数とは、相対的な重要度を考慮するために設定される係数である。
【0027】
つぎに、これらのフラジリティデータと、活断層データ、歴史地震データおよび地盤データとに基づいて、現状における既存建築物の地震リスク評価が行われる(ST2)。かかる現状での地震リスク評価は、キャッシュフロー流列xとして把握され、その年間期待値、あるいはある年超過確率に対する地震リスクが各既存建築物について年毎に算出される(図4(a)および図5(a)参照)。
【0028】
つぎに、再調達価格で基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係が各既存建築物に対して設定される(ST3)。そして、耐震改修後における既存建築物の地震リスク評価が行われる(ST4)。かかる耐震改修後の地震リスク評価は、現状での地震リスク評価に対応するキャッシュフロー流列xとして把握され、その年間期待値、あるいはある年超過確率に対する地震リスクが各既存建築物について年毎に算出される(図4(b)および図5(b)参照)。また、耐震改修後の地震リスク評価は、各既存建築物における各耐震改修案毎に行われる。なお、地震リスク評価では、建築物の被害による直接被害と、施設の休業による営業収入の喪失などの間接被害とが必要に応じて考慮される。
【0029】
ここで、再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係では、耐震改修費用がある程度以上増えると、構造耐震指標の増加が頭打ちとなる傾向がある(図10参照)。一方、再調達価格により基準化された耐震改修費用とある年の地震リスクとの関係は、耐震改修費用が増加すると、それに伴って地震リスクが減少する傾向がある(図11参照)。
【0030】
また、耐震改修前後のキャッシュフロー流列xおよびその変化に着目すれば、耐震改修による費用支出がt0の時点で発生すると、地震リスクが低減して、見かけ上、正のフローx1、x2、・・・、xnがt1時点以降で発生する(図5(c)参照)。すなわち、耐震改修により既存建築物の賃料収入および売却価格が増加する。したがって、キャッシュフロー流列xの内部収益率IRRを各耐震改修案に対して算出することにより、耐震改修にかかる費用対効果を比較できる。
【0031】
そこで、この建築物評価システム1では、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化(還元利回りRの変化)を考慮するか否かが判断される(ST5)。そして、これが考慮される場合には、耐震改修による賃料収入の増加分t0〜tn-1および売却価格の増加分tnが算定され、必要に応じてキャッシュフロー流列xが修正される(ST6)(図8(c)および(d)参照)。また、キャッシュフロー流列xを求める期間は、各既存建築物の供用期間までである。
【0032】
なお、耐震改修による賃料収入および売却価格の変化は、耐震改修による影響が大きいと判断される場合に考慮される。
【0033】
つぎに、各耐震改修案に対するキャッシュフロー流列xの内部収益率IRRが、各既存建築物毎に算定される(ST7)(図6参照)。このとき、一の既存建築物に対して複数の耐震改修案がある場合には、各耐震改修案(耐震改修投資)について、地震リスクの低減にかかる内部収益率IRRが算定される。なお、この実施例では、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮されていない。
【0034】
つぎに、各既存建築物について各耐震改修案毎に内部収益率IRRが比較され、内部収益率IRRがより高い耐震改修案が選択される(ST8)(図6参照)。この実施例では、No.1の既存建築物にて耐震改修案aが選択され、No.2の既存建築物にて耐震改修案dが選択され、No.3の既存建築物にて耐震改修案eが選択されている。
【0035】
つぎに、内部収益率IRRに対して既存建築物の重要度係数が掛け合わされ、その算定結果に基づいて、既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定される(ST9)(図6参照)。この実施例では、優先順位第1位がNo.2の既存建築物にかかる耐震改修案d、第2位がNo.1の既存建築物にかかる耐震改修案a、第3位がNo.3の既存建築物にかかる耐震改修案eとなっている。
【0036】
[効果]
この建築物評価システム1では、上記のように、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクが各既存建築物毎に算定され、この地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率IRRが算定される。そして、この内部収益率IRRに基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定される。これにより、耐震改修の費用対効果が各既存建築物毎に客観的に把握される利点がある。
【0037】
また、従来の建築物評価システムには、上記した定額で定期的な正のフローcの現在価値PVに対する公式を応用して、耐震改修等の費用(以下、耐震改修費用という。)に対する内部収益率IRRを算定するものがある(中村孝明外1名著「投資利回りによる耐震投資の意思決定」、土木学会論文集、No.745/I−65、pp.203−207、2003年10月発行を参照)。かかる従来の建築物評価システムでは、耐震改修費用がそのまま既存建築物の資産価値c/Rの増加分になるとされる。
【0038】
しかしながら、収益還元法(直接還元法)では、賃料収入や売却価格の変化により資産価値c/Rが変化するが、必ずしも耐震改修費用がそのまま資産価値c/Rの増加分になるとは限らない。また、既存建築物の場合には、還元利回りRが既存建築物の立地場所、グレード、耐震性能(旧基準か現行基準か)等により異なる。このため、かかる従来の建築物評価システムでは、耐震改修の優先順位決定にあたり、耐震改修の費用対効果を客観的に把握できないという課題がある。この点において、この建築物評価システム1では、地震リスクの評価に基づいて、既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が客観的に把握される利点がある。
【0039】
また、他の従来の建築物評価システムには、複数の耐震改修案の費用対効果を調べるものがある(日吉信弘著「保険とリスクマネジメント」、損害保険講座テキスト、財団法人損害保険事業総合研究所、2002年発行を参照)。かかる従来の建築物評価システムでは、現状と各耐震改修後の地震による年間予想損失額との比較により、年間予想損失額の低減額(以下、年間予想損失低減額という。)が算出され、これと耐震改修費用を償却期間で除した金額が比較される。そして、耐震改修費用を初期投資額x0、償却期間をn年、耐震改修による年間予想損失低減額を純収益cとして、x0/n+cの正負が判定される。そして、このx0/n+cが正であれば、費用対効果のバランスがよいと判断される。
【0040】
しかしながら、かかる従来の建築物評価システムでは、キャッシュフロー流列xが現在価値PVにより割り引かれていない。また、既存建築物にかかる耐震改修の時期ならびに耐震改修による賃料収入や売却価格の変化が考慮されていない。このため、かかる従来の建築物評価システムでは、耐震改修の優先順位決定にあたり、耐震改修の費用対効果を客観的に把握できないという課題がある。この点において、この建築物評価システム1では、耐震改修の時期ならびに耐震改修による賃料収入や売却価格の変化を考慮しつつ耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が客観的に把握される利点がある。
【0041】
[耐震改修時期の考慮]
なお、耐震改修による賃料収入および売却価格の変化が考慮される場合には、併せて、耐震改修の実施時期が考慮されることが好ましい(図7および図8参照)。これにより、耐震改修の費用対効果がより客観的に把握される利点がある。
【0042】
例えば、耐震改修の実施時期がt2時点の場合には、耐震改修により既存建築物の賃料収入および売却価格がt2時点から増加する。したがって、かかる賃料収入および売却価格の増加に応じて、キャッシュフロー流列xが修正される。そして、複数の耐震改修の実施時期に対する内部収益率IRRが上記と同様に算出され(ST7)、これに基づいて最適な実施時期が選択される。また、一の既存建築物に対して複数の耐震改修案がある場合には、これらの耐震改修案が内部収益率IRRに基づいて比較されて、上記と同様に選択される(ST8)。そして、内部収益率IRRに重要度係数を掛け合わせた数値が比較されて、既存建築物にかかる改修の優先順位が決定される(ST9)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明にかかる建築物評価システムおよび建築物評価方法は、耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示すハードウェア構成図である。
【図2】この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示す機能ブロック図である。
【図3】この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示すフローチャートである。
【図4】耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図5】耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図6】各耐震改修案に対する内部収益率の算定例を示す図表である。
【図7】耐震改修時期を考慮した場合における耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図8】耐震改修時期を考慮した場合における耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図9】定期的に生ずるキャッシュフロー流列を示す説明図である。
【図10】再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係を示すグラフである。
【図11】再調達価格により基準化された耐震改修費用とある年の地震リスクとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1 建築物評価システム
2 制御装置
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 インターフェイス回路
2a 第一評価部
2b 第二評価部
2c 第三評価部
2d 第四評価部
2e 第五評価部
3 入力装置
4 出力装置
5 データファイル
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物評価システムおよび建築物評価方法に関し、耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる建築物評価システムおよび建築物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建築物評価システムには、特許文献1に記載される技術が知られている。従来の建築物評価システムは、既存建築物群に対し、個々の既存建築物についてその主要構造体と非構造体と建築設備との各項目に関する数値化された耐震性能データを記憶格納する手段と、地震時における該各項目の耐震性能の重要度について、該既存建築物の用途や利用状況に即した相対的な重み付けをして数値化された重み付けデータを記憶格納する手段と、これらの各種データを新規あるいは修正入力する入力手段と、該重み付けデータを記憶格納する手段と、これらの各種データを新規あるいは修正入力する入力手段と、該重み付けデータと耐震性能データとの数値から各項目毎の評価得点を求めると共に、該評価得点を平均して該既存建築物の耐震性能の総合評価得点を求める手段と、該総合評価得点順にソートした既存建築物の改修優先順位を一覧リストデータにして出力する出力手段と、該出力データを表示する表示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0003】
すなわち、従来の建築物評価システムでは、複数の既存建築物について、その主要構造体と非構造体と建築設備の各項目に関する耐震性能から既存建築物の耐震性能の総合評価得点が個々に算出される。そして、総合評価得点の低い順に一覧リストが出力され、それが改修優先順位とされる。また、既存建築物の用途による重要度係数も考慮される。
【0004】
ここで、複数の既存建築物を対象として限られた予算内で耐震改修を行う場合には、費用対効果や重要度などを考慮しつつ耐震改修の優先順位を評価する必要がある。しかしながら、従来の建築物評価システムでは、既存建築物の耐震性能が着目されるが、地震発生の確率(地震リスク)が考慮されていない。このため、耐震改修の費用対効果を客観的に把握できないという課題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−142112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてされたものであって、耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる建築物評価システムおよび建築物評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる建築物評価システムは、複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価システムにおいて、再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定する手段と、前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定する手段と、前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定する手段とを含むことを特徴とする。
【0008】
この建築物評価システムでは、各既存建築物毎に、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクが算定され、この地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率が算定される。そして、この内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が耐震改修案毎に客観的に把握される利点がある。
【0009】
また、この発明にかかる建築物評価システムでは、前記内部収益率の算定にあたり、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮される。
【0010】
この建築物評価システムでは、内部収益率の算定にあたり、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮されるので、耐震改修の費用対効果がより客観的に把握される利点がある。
【0011】
また、この発明にかかる建築物評価システムでは、前記耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化は、耐震改修の実施時期を加味して算定される。
【0012】
この建築物評価システムでは、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が耐震改修の実施時期を加味して算定されるので、耐震改修の費用対効果がより客観的に把握される利点がある。
【0013】
また、この発明にかかる建築物評価方法では、複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価方法において、再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定するステップと、前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定するステップと、前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる建築物評価システムでは、各既存建築物毎に、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクが算定され、この地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率が算定される。そして、この内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が耐震改修案毎に客観的に把握される利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施例の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0016】
図1〜図3は、この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示すハードウェア構成図(図1)、機能ブロック図(図2)およびフローチャート(図3)である。図4および図5は、耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。図6は、各耐震改修案に対する内部収益率の算定例を示す表である。図7および図8は、耐震改修時期を考慮した場合における耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。図9は、定期的に生ずるキャッシュフロー流列を示す説明図である。図10は、再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係を示すグラフである。図11は、再調達価格により基準化された耐震改修費用とある年の地震リスクとの関係を示すグラフである。
【0017】
[内部収益率]
金融工学の分野では、費用対効果を示す指標として内部収益率IRR(Internal Rate of Return)が用いられている。まず、定期的に生ずるキャッシュフロー流列xについて、現時点で負のフローx0があり、その後定期的に正のフローx1、x2、・・・、xnがある場合を考える(図9参照)。なお、図9では、横軸が時間を表しており、縦軸がフローの正負および大きさを表している。
【0018】
このようなキャッシュフロー流列x(x0、x1、x2、・・・、xn)と割引率rが与えられた場合には、キャッシュフロー流列xの正味現在価値NPV(Net Present Value)がDCF法(Discounted Cash Flow Analysis:割引現在価値法)により次式で与えられる。
【数1】
【0019】
ここで、1/(1+r)k(k:年数)は、複利原価率と呼ばれており、将来の価値を現在の価値に割り戻すための係数である。また、キャッシュフロー流列xの正味現在価値NPV=0となる割引率rは、キャッシュフロー流列xの構造に内在する割引率rであるため、特に、内部収益率IRRと呼ばれている。
【0020】
定額で定期的な正のフローc(x1、x2、・・・、xn)が永久に続く場合には、割引率rを用いて、このキャッシュフロー流列xの現在価値PV(Present Value)がc/rにより算定される。このキャッシュフロー流列xに初期投資額(負のフロー)x0を加えると、正味現在価値NPVがx0+c/rにより算定される。そして、正味現在価値NPV=0となると、内部収益率IRR=−c/x0となる。
【0021】
ところで、既存建築物(不動産)の資産価値の評価方法の一つである直接還元法では、1年あたりの賃料等の収入から管理費や公租公課等の諸経費を差し引いた純収益(正のフロー)cと還元利回りRとに基づいて、既存建築物の資産価値がc/Rとして算定される。
【0022】
なお、かかる既存建築物の資産価値c/Rと内部収益率IRRに関係する式x0=−c/IRR(IRR=−c/x0より)とは類似しているが、違いに注意する必要がある。すなわち、前者では、1年あたりの純収益cと還元利回りRとを指定することにより既存建築物の資産価値c/Rが評価される。これに対して、後者では、初期投資額x0とその後の純収益cとを指定することにより、キャッシュフロー流列xの内部収益率IRRが算定される。そして、内部収益率IRRが大きいほど費用対効果が高い。また、純収益cが等しい場合には、還元利回りRが小さいほど既存建築物の資産価値c/Rが高い。
【0023】
[建築物評価システム]
この建築物評価システム1は、制御装置2と、入力装置3と、出力装置4と、データファイル(データベース)5とを含み、例えば、PC(Personal Computer)により構成される(図1参照)。制御装置2は、CPU(central processing unit)21と、ROM(read-only memory)22と、RAM(random-access memory)23と、インターフェイス回路24とを含み構成される。この制御装置2は、所定の評価機能(図2参照)を有すると共に、既存建築物の諸データや入力情報に基づいて既存建築物の評価を実行する。入力装置3は、例えば、キーボードやマウスから成り、インターフェイス回路24を介して制御装置2に接続されている。この入力装置3から、既存建築物の評価に必要な情報や指令が制御装置2に入力される。出力装置4は、例えば、モニターから成り、インターフェイス回路24を介して制御装置2に接続されている。この出力装置4には、情報の入力画面や既存建築物の評価結果(耐震改修の優先順位など)が表示される。データファイル(データベース)5は、例えば、外部記憶装置であり、インターフェイス回路24を介して制御装置2に接続されている。このデータファイル5には、活断層データ、歴史地震データ、地盤データ、既存建築物フラジリティデータなどが格納されている。
【0024】
また、この建築物評価システム1は、第一評価部2a〜第五評価部2eを有する(図2参照)。これらの評価部2a〜2eは、例えば、プログラムとしてROM22に格納されており、システム稼働時にて、RAM23に読み込まれて制御装置2により実行される。第一評価部2aは、既存建築物の地震リスク(直接被害および間接被害)を評価(算定)する手段である。第二評価部2bは、再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係を評価(設定)する手段である。第三評価部2cは、各耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを評価(算定)する手段である。第四評価部2dは、各耐震改修案に対する内部収益率IRRを評価(算定)する手段である。第五評価部2eは、内部収益率IRRに基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価(決定)する手段である。
【0025】
[建築物評価方法]
この建築物評価システム1では、以下のように、既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が評価される(図3参照)。まず、対象となる既存建築物のフラジリティデータ(構造諸元および重要度係数)が設定される(ST1)。具体的には、各既存建築物について、構造種別、地上階数、構造耐震指標(Is値)、ピロティや偏心などの構造上の脆弱要因の有無、経年劣化状況、立地場所(緯度および経度)、ならびに、地盤条件(ボーリング調査によるN値および地盤柱状図、あるいは、PS検層によるP波速度およびS波速度構造)が設定される。
【0026】
ここで、既存建築物の重要度係数とは、相対的な重要度を考慮するために設定される係数である。
【0027】
つぎに、これらのフラジリティデータと、活断層データ、歴史地震データおよび地盤データとに基づいて、現状における既存建築物の地震リスク評価が行われる(ST2)。かかる現状での地震リスク評価は、キャッシュフロー流列xとして把握され、その年間期待値、あるいはある年超過確率に対する地震リスクが各既存建築物について年毎に算出される(図4(a)および図5(a)参照)。
【0028】
つぎに、再調達価格で基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係が各既存建築物に対して設定される(ST3)。そして、耐震改修後における既存建築物の地震リスク評価が行われる(ST4)。かかる耐震改修後の地震リスク評価は、現状での地震リスク評価に対応するキャッシュフロー流列xとして把握され、その年間期待値、あるいはある年超過確率に対する地震リスクが各既存建築物について年毎に算出される(図4(b)および図5(b)参照)。また、耐震改修後の地震リスク評価は、各既存建築物における各耐震改修案毎に行われる。なお、地震リスク評価では、建築物の被害による直接被害と、施設の休業による営業収入の喪失などの間接被害とが必要に応じて考慮される。
【0029】
ここで、再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係では、耐震改修費用がある程度以上増えると、構造耐震指標の増加が頭打ちとなる傾向がある(図10参照)。一方、再調達価格により基準化された耐震改修費用とある年の地震リスクとの関係は、耐震改修費用が増加すると、それに伴って地震リスクが減少する傾向がある(図11参照)。
【0030】
また、耐震改修前後のキャッシュフロー流列xおよびその変化に着目すれば、耐震改修による費用支出がt0の時点で発生すると、地震リスクが低減して、見かけ上、正のフローx1、x2、・・・、xnがt1時点以降で発生する(図5(c)参照)。すなわち、耐震改修により既存建築物の賃料収入および売却価格が増加する。したがって、キャッシュフロー流列xの内部収益率IRRを各耐震改修案に対して算出することにより、耐震改修にかかる費用対効果を比較できる。
【0031】
そこで、この建築物評価システム1では、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化(還元利回りRの変化)を考慮するか否かが判断される(ST5)。そして、これが考慮される場合には、耐震改修による賃料収入の増加分t0〜tn-1および売却価格の増加分tnが算定され、必要に応じてキャッシュフロー流列xが修正される(ST6)(図8(c)および(d)参照)。また、キャッシュフロー流列xを求める期間は、各既存建築物の供用期間までである。
【0032】
なお、耐震改修による賃料収入および売却価格の変化は、耐震改修による影響が大きいと判断される場合に考慮される。
【0033】
つぎに、各耐震改修案に対するキャッシュフロー流列xの内部収益率IRRが、各既存建築物毎に算定される(ST7)(図6参照)。このとき、一の既存建築物に対して複数の耐震改修案がある場合には、各耐震改修案(耐震改修投資)について、地震リスクの低減にかかる内部収益率IRRが算定される。なお、この実施例では、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮されていない。
【0034】
つぎに、各既存建築物について各耐震改修案毎に内部収益率IRRが比較され、内部収益率IRRがより高い耐震改修案が選択される(ST8)(図6参照)。この実施例では、No.1の既存建築物にて耐震改修案aが選択され、No.2の既存建築物にて耐震改修案dが選択され、No.3の既存建築物にて耐震改修案eが選択されている。
【0035】
つぎに、内部収益率IRRに対して既存建築物の重要度係数が掛け合わされ、その算定結果に基づいて、既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定される(ST9)(図6参照)。この実施例では、優先順位第1位がNo.2の既存建築物にかかる耐震改修案d、第2位がNo.1の既存建築物にかかる耐震改修案a、第3位がNo.3の既存建築物にかかる耐震改修案eとなっている。
【0036】
[効果]
この建築物評価システム1では、上記のように、耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクが各既存建築物毎に算定され、この地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率IRRが算定される。そして、この内部収益率IRRに基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定される。これにより、耐震改修の費用対効果が各既存建築物毎に客観的に把握される利点がある。
【0037】
また、従来の建築物評価システムには、上記した定額で定期的な正のフローcの現在価値PVに対する公式を応用して、耐震改修等の費用(以下、耐震改修費用という。)に対する内部収益率IRRを算定するものがある(中村孝明外1名著「投資利回りによる耐震投資の意思決定」、土木学会論文集、No.745/I−65、pp.203−207、2003年10月発行を参照)。かかる従来の建築物評価システムでは、耐震改修費用がそのまま既存建築物の資産価値c/Rの増加分になるとされる。
【0038】
しかしながら、収益還元法(直接還元法)では、賃料収入や売却価格の変化により資産価値c/Rが変化するが、必ずしも耐震改修費用がそのまま資産価値c/Rの増加分になるとは限らない。また、既存建築物の場合には、還元利回りRが既存建築物の立地場所、グレード、耐震性能(旧基準か現行基準か)等により異なる。このため、かかる従来の建築物評価システムでは、耐震改修の優先順位決定にあたり、耐震改修の費用対効果を客観的に把握できないという課題がある。この点において、この建築物評価システム1では、地震リスクの評価に基づいて、既存建築物にかかる耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が客観的に把握される利点がある。
【0039】
また、他の従来の建築物評価システムには、複数の耐震改修案の費用対効果を調べるものがある(日吉信弘著「保険とリスクマネジメント」、損害保険講座テキスト、財団法人損害保険事業総合研究所、2002年発行を参照)。かかる従来の建築物評価システムでは、現状と各耐震改修後の地震による年間予想損失額との比較により、年間予想損失額の低減額(以下、年間予想損失低減額という。)が算出され、これと耐震改修費用を償却期間で除した金額が比較される。そして、耐震改修費用を初期投資額x0、償却期間をn年、耐震改修による年間予想損失低減額を純収益cとして、x0/n+cの正負が判定される。そして、このx0/n+cが正であれば、費用対効果のバランスがよいと判断される。
【0040】
しかしながら、かかる従来の建築物評価システムでは、キャッシュフロー流列xが現在価値PVにより割り引かれていない。また、既存建築物にかかる耐震改修の時期ならびに耐震改修による賃料収入や売却価格の変化が考慮されていない。このため、かかる従来の建築物評価システムでは、耐震改修の優先順位決定にあたり、耐震改修の費用対効果を客観的に把握できないという課題がある。この点において、この建築物評価システム1では、耐震改修の時期ならびに耐震改修による賃料収入や売却価格の変化を考慮しつつ耐震改修の優先順位が決定されるので、耐震改修の費用対効果が客観的に把握される利点がある。
【0041】
[耐震改修時期の考慮]
なお、耐震改修による賃料収入および売却価格の変化が考慮される場合には、併せて、耐震改修の実施時期が考慮されることが好ましい(図7および図8参照)。これにより、耐震改修の費用対効果がより客観的に把握される利点がある。
【0042】
例えば、耐震改修の実施時期がt2時点の場合には、耐震改修により既存建築物の賃料収入および売却価格がt2時点から増加する。したがって、かかる賃料収入および売却価格の増加に応じて、キャッシュフロー流列xが修正される。そして、複数の耐震改修の実施時期に対する内部収益率IRRが上記と同様に算出され(ST7)、これに基づいて最適な実施時期が選択される。また、一の既存建築物に対して複数の耐震改修案がある場合には、これらの耐震改修案が内部収益率IRRに基づいて比較されて、上記と同様に選択される(ST8)。そして、内部収益率IRRに重要度係数を掛け合わせた数値が比較されて、既存建築物にかかる改修の優先順位が決定される(ST9)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明にかかる建築物評価システムおよび建築物評価方法は、耐震改修の費用対効果を各既存建築物の耐震改修案毎に客観的に把握できる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示すハードウェア構成図である。
【図2】この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示す機能ブロック図である。
【図3】この発明の実施例1にかかる建築物評価システムを示すフローチャートである。
【図4】耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図5】耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図6】各耐震改修案に対する内部収益率の算定例を示す図表である。
【図7】耐震改修時期を考慮した場合における耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図8】耐震改修時期を考慮した場合における耐震改修前後のキャッシュフロー流列およびその変化を示す説明図である。
【図9】定期的に生ずるキャッシュフロー流列を示す説明図である。
【図10】再調達価格により基準化された耐震改修費用と構造耐震指標との関係を示すグラフである。
【図11】再調達価格により基準化された耐震改修費用とある年の地震リスクとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1 建築物評価システム
2 制御装置
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 インターフェイス回路
2a 第一評価部
2b 第二評価部
2c 第三評価部
2d 第四評価部
2e 第五評価部
3 入力装置
4 出力装置
5 データファイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価システムにおいて、
再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定する手段と、
前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定する手段と、
前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定する手段とを含むことを特徴とする建築物評価システム。
【請求項2】
前記内部収益率の算定にあたり、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮される請求項1に記載の建築物評価システム。
【請求項3】
前記耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が、耐震改修の実施時期を加味して算定される請求項2に記載の建築物評価システム。
【請求項4】
複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価方法において、
再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定するステップと、
前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定するステップと、
前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定するステップとを含むことを特徴とする建築物評価方法。
【請求項1】
複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価システムにおいて、
再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定する手段と、
前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定する手段と、
前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定する手段とを含むことを特徴とする建築物評価システム。
【請求項2】
前記内部収益率の算定にあたり、耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が考慮される請求項1に記載の建築物評価システム。
【請求項3】
前記耐震改修による既存建築物の賃料収入および売却価格の変化が、耐震改修の実施時期を加味して算定される請求項2に記載の建築物評価システム。
【請求項4】
複数の既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を評価する建築物評価方法において、
再調達価格により基準化された耐震改修費用および構造耐震指標の関係に基づいて耐震改修案に対する既存建築物の地震リスクを各既存建築物毎に算定するステップと、
前記地震リスクに基づいて耐震改修案に対する内部収益率を各既存建築物毎に算定するステップと、
前記内部収益率に基づいて既存建築物にかかる耐震改修の優先順位を決定するステップとを含むことを特徴とする建築物評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−133871(P2006−133871A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319471(P2004−319471)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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