説明

建築用ボードおよびその製造方法

【課題】釘保持力または釘引き抜き耐力の飛躍的向上を図った石膏系の建築用ボードを得る。
【解決手段】基材である焼石膏に天然高分子系の糊成分と水とを加えて混合して石膏スラリとする。この石膏スラリをシート状の芯材であるガラス繊維マット2の表裏両面にコーティングした上で乾燥・硬化させ、ガラス繊維マット2とその両面の石膏層3a,3bとからなる三層複合構造の建築用ボード1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物の内装材、特に壁材や天井材、床材等として用いるのに好適な石膏系の建築用ボードとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の石膏系の建築用ボードとしては、例えば特許文献1〜3に記載のように、石膏層に補強材として繊維質マットのほかゴム板、樹脂板あるいは木板等の板材を組み合わせることでいわゆるサンドウィッチ状に複合化したものが種々提案されている。
【0003】
そして、この種の従来の石膏系の建築用ボードにおいては、それ自体の強度等は使用している補強材の材質にも依存することになるものの、一般的には軽量で、不燃性、耐震性あるいは防音性等に優れているとされている。
【特許文献1】特開平10−138219号公報
【特許文献2】特開平10−259309号公報
【特許文献3】特開平10−315378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の石膏系の建築用ボードにおいては、補強材と組み合わせることで複合化されてはいても、石膏層はそれ自体で単一のリジットな層を形成していることには変わりはなく、したがって特に釘、ビスあるいは画鋲等を使用した場合の保持力が十分ではなく、それらの釘等が容易に抜け落ちてしまうという欠点がある。
【0005】
なお、釘、ビスあるいは画鋲等を使用した場合の保持力の度合いを、ここでは後述するように釘保持力または釘引き抜き耐力を言う。
【0006】
上記のように釘保持力が乏しく、それらの釘等が容易に抜け落ちてしまうのは、石膏材料自体が靱性に乏しく脆いためで、釘等の打ち込み力を受けると直ちにクラックが発生し、材料自体の自己弾性力や摩擦等による釘保持力または釘引き抜き耐力が得られないことに基づいている。
【0007】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、特に釘保持力または釘引き抜き耐力の飛躍的向上を図った石膏系の建築用ボードとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、石膏系の建築用ボードとして、基材である石膏材料に糊成分と水とを加えて混合した石膏スラリをシート状の芯材の少なくとも片面にコーティングした上で乾燥・硬化させることで複合構造としたことを特徴とする。
【0009】
この場合、請求項2に記載のように、石膏スラリをシート状の芯材の両面にコーティングして複合構造とすることももちろん可能である。
【0010】
ここで、使用する石膏材料は、粉砕した二水石膏を加熱して結晶水の一部を除くことにより半水石膏(CaSO4・1/2H2O)としたいわゆる焼石膏を用いる。この半水石膏は水を反応して結晶水を取り込み、安定した二水石膏に戻る性質があり、適当な水量により膨張と発熱を伴って凝結固化することになる。
【0011】
石膏材料に混入する糊成分としては、例えば天然高分子系、無機系および合成樹脂系のもののうちからいずれかを選択使用する。天然高分子系の糊にはタンパク質系のものと含水炭素系のものとがあり、前者の代表的なものとしてニカワ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン等があり、また後者の代表的なものとしてデンプン、セルロース誘導体、アラビアガム等がある。他方、無機系の糊には珪酸ソーダがあり、いわゆる化学糊とも称される合成樹脂系の糊には酢酸ビニルやポリビニルアルコール等がある。
【0012】
本発明では、基材である二水石膏等の石膏材料と均一に混合する上で粉体状の糊成分の使用を前提とし、先に例示したもののなかからいずれかを単独で、または複数のものを所定の割合で併用するものとする。ただし、石膏材料に糊成分を混入する目的は凝結固化後の石膏層に適度な弾性と靱性とを付与することにあり、しかも石膏層の強度低下や変色等の二次的不具合を招かないようにするためには天然高分子系のものの使用が望ましい。
【0013】
シート状の芯材は従来同様に石膏層の補強材として機能するものであり、例えばゴム板のほか、ウレタンやスチレンフォーム等の樹脂板、合板を含む木板、珪酸カルシウム板、セメント板、パーライト板、発泡コンクリート板、パーティクルボード等、任意のものを使用することが可能である。
【0014】
ただし、石膏層との完全一体化の観点や、軽量で且つ引っ張りや曲げ強度に優れている点からは、芯材はスラリ含浸性のある不織布や繊維質のもの、例えば請求項3に記載のように、ガラス繊維を主要素とするチョップドストランドマット等の繊維質のもの、または不織布とし、より具体的には請求項4に記載のように、連続した長繊維のガラス繊維(連続ストランド)を無方向に均一な厚みに積層して結合材を用いてマット状に成形したガラス繊維マット、または不織布を均一な厚みに積層してニードル加工にてマット状に成形した不織布マットを使用することが望ましい。
【0015】
また、上記のように芯材として繊維質のものやガラス繊維マット、あるいは不織布マットを使用することを前提とした場合には、請求項5に記載のように、予め石膏スラリを含浸させた芯材にさらに石膏スラリをコーティングした上で乾燥・硬化させることで複合構造とすることももちろん可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材である石膏材料に糊成分と水とを加えて混合した石膏スラリをシート状の芯材の少なくとも片面にコーティングした上で乾燥・硬化させることで複合構造の建築用ボードとしたので、凝結固化後の石膏層に適度な弾性と靱性とが付与されて、特に釘、ビスあるいは画鋲等を使用した場合でもそれらの釘等が容易に抜け落ちてしまうことがなく、釘保持力または釘引き抜き耐力が飛躍的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明に係る建築用ボードのより具体的な実施の形態としてその断面図を示している。
【0018】
この建築用ボード1は、同図に示すように、ガラス繊維マット2をシート状の芯材としてその表裏両面に石膏層3a,3bを配置して一体化し、いわゆるサンドウィッチ状の複合構造としたものである。
【0019】
ここで、図1では芯材であるガラス繊維マット2とそれぞれの石膏層3a,3bとの境界が比較的明確に現れているが、本実施の形態ではガラス繊維マット2とそれぞれの石膏層3a,3bを単に重ね合わせて貼り合わせたものではなく、後述するように基材である石膏材料に糊成分と水とを加えて混合した石膏スラリをガラス繊維マット2にコーティングした上でこれを乾燥・硬化させることでガラス繊維マット2と一体にそれぞれの石膏層3a,3bが形成されている。したがって、芯材であるガラス繊維マット2には石膏スラリが含浸することになるので、実際の断面では図1に比べてガラス繊維マット2とそれぞれの石膏層3a,3bとの境界が不明確になっている。
【0020】
このような複合構造の建築用ボード1の製造方法の一例を図2を参照しながら説明すれば次の通りである。
【0021】
最初に、シート状の芯材として所定の大きさに裁断したガラス繊維マット2を用意するとともに、基材である石膏材料として粉砕した二水石膏を加熱して結晶水の一部を除くことにより半水石膏としたいわゆる焼石膏のほか、天然高分子系の粉体状の糊(デンプン糊)と水とを用意し、それら三者の混合割合を体積比で例えば5:1:4と定める。
【0022】
なお、上記混合割合は一例にすぎず、使用する焼石膏や糊の種類、あるいは建築用ボード1に要求される機械的強度等に応じ適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0023】
そして、所定のミキサーに焼石膏と粉体状の糊を入れて混合し、両者が均一に混ぜ合わされたならば最後に水を入れてそれら混練して石膏スラリとする(図2のステップS1)。
【0024】
また、上記シート状の芯材として用意したガラス繊維マット2は、周知のように長繊維のガラス繊維(連続ストランド)を無方向に均一な厚みに積層して結合材を用いてマット状に成形したものであり、これを予め上記と同様の石膏スラリの中に浸漬させて予め含浸処理を施しておく。ここでは、上記ガラス繊維マット2として日本電気硝子(株)製の「ユニフィロU−816−300×127」(商品名)を使用した。
【0025】
これとは別に、例えば合板等からなる剛性感のある図示外の平板状の定盤を用意し、その表面に離型剤を兼ねたゲル剤をコーティングして定盤の平滑化処理を施しておく。
【0026】
この定盤の上に例えばスプレーガンや含浸ローラ等を用いて上記の石膏スラリを所定厚みで均一にコーティングしていずれか一方の石膏層3aまたは3bとし(図2のステップS2)、そのまま所定時間放置してその凝結固化、すなわち乾燥・硬化を促進させる(図2のステップS3)。
【0027】
コーティングした一方の石膏層3aまたは3bが半硬化状態にある間に、予め石膏スラリを含浸させてあるガラス繊維マット2を一方の石膏層3aまたは3bの上に重ね合わせる(図2のステップS4)。
【0028】
この場合、重ね合わせたガラス繊維マット2の上からローラ等を用いて均一な押圧処理を施すものとし、これによりガラス繊維マット2のなかに含まれる気泡成分の脱泡を行いながら表面の平滑化とガラス繊維マット2の完全なる敷き込みを行う。
【0029】
そして、この状態で所定時間放置して石膏スラリを含浸したガラス繊維マット2の凝結固化、すなわち二層の積層体としての乾燥・硬化を促進させる(図2のステップS5)。
【0030】
石膏スラリを含浸したガラス繊維マット2が半硬化状態にある間に、そのガラス繊維マット2の上から上記と同様にスプレーガンや含浸ローラ等を用いて石膏スラリを所定厚みで均一にコーティングして他方の石膏層3bまたは3aとする(図2のステップS6)。
【0031】
その状態で所定時間放置して、実質的にガラス繊維マット2のほかその表裏両面の石膏層3a,3bとからなる三層構造の積層体のさらなる凝結固化、すなわち乾燥・硬化を促進させる(図2のステップS7)。
【0032】
この後、完全なる乾燥・硬化を待って定盤から三層の積層体を剥がし、適宜表面調整処理等を施した上で規格寸法に裁断することで(図2のステップS8)、製品として建築用ボード1に仕上げられることになる(図2のステップS9)。
【0033】
こうして成形された三層複合構造の建築用ボード1は、シート状の芯材であるところのガラス繊維マット2が補強材として機能することから、引っ張りあるいは曲げ強度、軽量化、不燃性および耐震性等の面で著しく優れることはもちろんのこと、建築用ボード1の表裏両面の石膏層3a,3bにはスラリ段階で予め糊成分を含有させてあるため、それぞれの石膏層3a,3bが凝結固化した段階では従来のものと比べて適度な弾性と靱性とが付与される。
【0034】
そのため、釘、ビスあるいは画鋲等を打ち込んだとしても、従来のようにクラックが発生することもなければ、釘等が容易に抜け落ちてしまうこともなく、石膏層3a,3b自体の自己弾性力や摩擦力によって必要十分な釘保持力が得られ、結果として釘引き抜き耐力が飛躍的に向上することになる。
【0035】
本発明者が上記実施の形態で得られた建築用ボード1について、日本農林規格に規定されている「釘抜き試験」等に準じて釘耐力性能試験を行ったところ、必要十分な性能が得られることが確認できた。
【0036】
ここで、図2に示した建築用ボード1の製造方法は一例にすぎず、特に当該建築用ボード1を量産する場合には、自動化製造設備での製法に適したように適宜変更することが可能である。例えば、いずれか一方の石膏層3aまたは3bのコーティングと、それに続く石膏スラリを含浸したガラス繊維マット2の敷き込み、および他方の石膏層3bまたは3aのコーティングとを、連続走行するコンベヤ上において順次行い、それら三層をプレス処理を施した後にまたはプレス状態にて乾燥・硬化させ、最後のカッティングを行うようにすることももちろん可能である。
【0037】
また、上記実施の形態では、シート状の芯材であるガラス繊維マット2の表裏両面に石膏層3a,3bを設ける場合を示したが、シート状の芯材としてガラス繊維マット以外にも不織布マット、ウレタンやスチレンフォーム等の樹脂板、木板、珪酸カルシウム板、セメント板、パーライト板、発泡コンクリート板、パーティクルボード等の任意のものを必要に応じて用いることができることは先に述べた通りである。また、必要に応じてガラス繊維マット2に代表されるような芯材の片面にのみ石膏層3aまたは3bを設けることももちろん可能である。
【0038】
さらに、石膏層3a,3bとしては、硬質石膏層と軟質石膏層を二層にわたり重ね合わせるように形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る建築用ボードの一例を示す断面説明図。
【図2】図1に示した建築用ボードの製造手順の一例を示す工程説明図。
【符号の説明】
【0040】
1…建築用ボード
2…シート状の芯材としてのガラス繊維マット
3a,3b…石膏層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材である石膏材料に糊成分と水とを加えて混合した石膏スラリをシート状の芯材の少なくとも片面にコーティングした上で乾燥・硬化させることで複合構造としたことを特徴とする建築用ボード。
【請求項2】
石膏スラリをシート状の芯材の両面にコーティングして複合構造としたことを特徴とする請求項1に記載の建築用ボード。
【請求項3】
芯材は、ガラス繊維を主要素とする繊維質のもの、または不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載の建築用ボード。
【請求項4】
芯材は、連続した長繊維のガラス繊維を無方向に均一な厚みに積層して結合材を用いてマット状に成形したガラス繊維マット、または不織布を均一な厚みに積層してニードル加工にてマット状に成形した不織布マットであることを特徴とする請求項3に記載の建築用ボード。
【請求項5】
予め石膏スラリを含浸させた芯材にさらに石膏スラリをコーティングした上で乾燥・硬化させることで複合構造としたことを特徴とする請求項3または4に記載の建築用ボード。
【請求項6】
基材である石膏材料に糊成分と水とを加えて混合して石膏スラリとし、
この石膏スラリをシート状の芯材の少なくとも片面にコーティングした上で乾燥・硬化させることで両者を一体化して複合構造とすることを特徴とする建築用ボードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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