説明

建設機械の配索物通し構造

【課題】隣り合う配索物同士の干渉を抑制しながら、コストダウンでき、かつ、配索物が通される機械のフレームの強度低下を抑える。
【解決手段】ショベルのアッパーフレームに設けられた縦板に配索物通し穴10を設ける。この配索物通し穴10は、第1配索物11が通される第1穴部14と、第2配索物12が通される第2穴部15が溝状の連通部16を介して相連通する瓢箪形に形成し、両配索物11,12の直径寸法をA,B、連通部16の幅寸法をCとして、A>C>Bに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械において、機械のフレームに配索物通し穴を設けて配管や電気配線を通す配索物通し構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、図7に示すように下部走行体1上に上部旋回体2が旋回自在に搭載され、この上部旋回体2に作業アタッチメント3が装着されて構成される。
【0004】
上部旋回体2は、作業アタッチメント3が装着されるとともにエンジンをはじめとする各種器機類、設備が搭載される基台としてのアッパーフレーム4を備え、このアッパーフレーム4の幅方向の中間部に左右一対の縦板(一方のみを示す)5が前後方向に設けられる。
【0005】
このショベルにおいて、電磁式のコントロールバルブと油圧ポンプを結ぶ高圧、低圧両配管や、コントローラとコントロールバルブとを結ぶ電気配線等の配索物は、両縦板5の一方または双方を貫通して配索する必要があるため、両縦板5の一方または双方に配索物通し穴6が貫通して設けられる。
【0006】
この場合、一つの配索物通し穴6に、接触や、物理的な干渉(以下、まとめて「干渉」という)を避けるべき複数種類の配索物、たとえば高圧油が通る高圧配管と低圧油が通る低圧配管、あるいは油圧配管と電気配線が同時に通されるため、これらの干渉防止策を講じる必要がある。
【0007】
従来、この干渉防止策として、図8に示すように、棒材や帯板材から成る仕切り部材7を、四角形の配索物通し穴6の二辺間(図示のように隣接する二辺間、または対向する二辺間)に跨って取付けることによって配索物通し穴6を複数(図では二つ。この場合で説明する)に区画し、干渉を防止すべき二種類の配索物8,9を両区画に分けて通す構造が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−36307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記公知構造によると、仕切り部材7を縦板5に溶接等によって取付けなければならないため、製作コストが高くなるという欠点があった。
【0010】
また、四角形の配索物通し穴6を仕切り部材7で仕切る構成上、仕切られた空間のロス(配索物を通すために必要な空間以外の空間)が大きくなり、その分、縦板5の材料ロスが増えてさらにコストアップするとともに、縦板5の強度低下が大きくなるという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、隣り合う配索物同士の干渉を抑制しながら、コストダウンでき、かつ、配索物が通される機械のフレームの強度低下を抑えることができる建設機械の配索物通し構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、機械のフレームに配索物通し穴が貫通して設けられ、複数種類の配索物が上記配索物通し穴に通される建設機械の配索物通し構造において、上記複数種類の配索物が別々に通される複数の穴部を、隣り合うもの同士、連通部を介して相連通する状態で設けることによって上記配索物通し穴を構成し、上記連通部の幅寸法を、上記隣り合う第1及び第2両穴部に通される第1及び第2両配索物のうち少なくとも一方の配索物の直径寸法よりも小さく設定したものである。
【0013】
この構成によれば、少なくとも一方の配索物(ともに連通部幅寸法よりも大きければ双方)の他方の穴部への移動を連通部で阻止できるため、隣り合う配索物同士の干渉を抑えることができる。
【0014】
とくに、両配索物がともに配管の場合は、小径配管であっても、連通部を越えてまで移動する可能性が低いため、実際上、干渉のおそれがない。
【0015】
また、二つの穴部を、少なくとも一方の配索物直径よりも細幅の連通部でつないだ形状であるため、単なる四角形の配索物通し穴を仕切り部材で仕切る従来構造と比較して、配索物通し穴の全体面積を小さくすることができる。このため、空間のロスを抑えてさらにコストダウンできるとともに、配索物通し穴による機械のフレームの強度低下を抑えることができる。
【0016】
本発明においては、上記構成の一つの形態として、上記第1配索物の直径寸法をA、第2配索物の直径寸法をB、上記連通部の幅寸法をCとして、
A>C≧B
に設定すればよい(請求項2)。
【0017】
この構成によれば、両配索物が異径の場合に、大径側の配索物の移動を阻止することができる。
【0018】
あるいは、上記第1配索物の直径寸法をA、第2配索物の直径寸法をB、上記連通部の幅寸法をCとして、
A>B>C
に設定してもよい(請求項3)。
【0019】
こうすれば、両配索物の移動を連通部によって阻止することができる。とくに、配索物が電気配線のようなばらける可能性のない配管の場合に移動防止効果が高いものとなる。
【0020】
本発明においては、上記隣り合う第1及び第2両穴部の直径寸法をD1、D2として、D1>D2に設定すればよい(請求項4)。
【0021】
こうすれば、上記空間ロスをさらに抑えてコスト、フレーム強度の低下抑制の点で有利となる。
【0022】
この場合、前記A>C≧Bの設定をとることにより、小径の第2配索物を大径の第1穴部に余裕を持って通した後、スライドさせて連通部経由で小径の第2穴部に移し替える手順をとることができるため、第2配索物の通し作業が簡単となる。
【0023】
また、本発明においては、他の形態として、上記隣り合う第1及び第2両穴部の直径寸法をD1、D2として、D1=D2に設定してもよい(請求項5)。
【0024】
こうすれば、等径穴を二つ並べて明ければよいため、穴明け作業が容易となる。
【0025】
また、両穴部に大小差が無いため、配索物の大小関係が逆転した場合でも対応することができる。
【0026】
一方、本発明においては、上記第2配索物を上記第2穴部に拘束する拘束手段を設けるのが望ましい(請求項6,7)。
【0027】
こうすれば、小径の第2配索物が振動等により連通部を通して第1穴部に移動して干渉し合うことを確実に防止することができる。
【0028】
この場合、上記拘束手段として、電線束を円形に束ねるクリップを用いるのが望ましい(請求項7)。
【0029】
こうすれば、第2配索物が電気配線の集合体である場合に、電気配線がばらけて第1穴部に移動することを確実に防止することができる。この場合、小径側配索物のみを拘束すればよいため、配索作業が簡単となる。
【0030】
また、第2配索物が配管の場合でも、請求項2のA>C≧Bの設定を採用する場合には移動の可能性があるため、これを拘束することによって確実な移動防止効果を得ることができる。
【0031】
この場合、複数本の電気配線を円形に束ねて上記第2配索物を構成し、上記拘束手段として、上記電気配線を束ねるクリップを用いるのが望ましい (請求項7)。
【0032】
こうすれば、結束用のクリップを拘束部材として兼用するため、部品コスト、組み付けコストが安くなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、隣り合う配索物同士の干渉を抑制しながら、コストダウンでき、かつ、縦板の強度低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る配索物通し構造を示す斜視図である。
【図2】同、拡大正面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る配索物通し構造を示す正面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る配索物通し構造を示す正面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る配索物通し構造を示す正面図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係る配索物通し構造を示す正面図である。
【図7】本発明の適用対象であるショベルの概略側面図である。
【図8】従来の配索物通し構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態を図1〜図6によって説明する。
【0036】
各実施形態は、図7に示すショベルにおける上部旋回体のアッパーフレーム縦板5に配索物通し穴10を設け、この配索物通し穴10に、相対的に大径の配索物(油圧配管の場合で説明する。以下、第1配索物という)と、小径の配索物(複数の電気配線を円形に束ねたものの場合で説明する。以下、第1、第2配索物という)11,12を通す場合を例にとっている。
【0037】
第2配索物12は、拘束手段を兼ねるリング状のクリップ13によって多数の電気配線を断面円形に束ねて構成されている。
【0038】
第1実施形態(図1,2参照)
第1実施形態において、配索物通し穴10は、相対的に大径の円形の第1穴部14と、小径の円形の第2穴部15が、溝状の連通部16を介して相連通する状態で設けられることによって、中間がくびれた大略瓢箪形に形成され、第1配索物11が第1穴部14に、第2配索物12が第2穴部15にそれぞれ通されている。
【0039】
ここで、図2に示すように、第1穴部14の直径寸法をD1、第2穴部15の直径寸法をD2、第1配索物11の直径寸法をA、第2は配索物12の直径寸法(円形に束ねた状態での直径寸法)をB、連通部16の幅寸法をCとして、次の関係に設定されている。
【0040】
D1>D2
D1>A
D2>B
A>C>B
C<D2
この設定により、大径側の第1配索物11の第2穴部15への移動を連通部16によって阻止することができる。このため、基本的に、両配索物11,12同士の干渉を抑制することができる。
【0041】
また、二つの穴部14,15を細幅の連通部16でつないだ形状であるため、単なる四角形の配索物通し穴を仕切り部材で仕切る従来構造と比較して、配索物通し穴の全体面積を小さくすることができる。このため、空間のロスを抑えてさらにコストダウンできるとともに、配索物通し穴による機械のフレームの強度低下を抑えることができる。
【0042】
一方、この実施形態においては、第2配索物12を構成する電気配線がばらけて第1穴部14に移動することを防止する拘束手段として、第2穴部15の周縁部にたとえば六角長ナット状のクリップ止め17が溶接等によって取付けられ、クリップ13がこのクリップ止め17に固定されている。
【0043】
クリップ13は止め軸13aを備え、この止め軸13aがクリップ止め17にねじ込まれることによって固定される。
【0044】
これにより、第2配索物12が第2穴部15から移動しないように拘束されるため、両配索物11,12の干渉を確実に防止することができる。
【0045】
この場合、小径側の第2配索物12のみを拘束すればよいため、配索作業が簡単となる。
【0046】
なお、第2配索物12が第1配索物11と同様の配管(鋼管またはホース)の場合は、電気配線のようにばらけるおそれがないため、上記C>Bの設定によっても、第2配索物12が連通部16を越えてまで移動する可能性が低く、実際上、干渉のおそれがない。
【0047】
さらに、この実施形態によると、上記設定により、先に小径の第2配索物12を大径の第1穴部14に余裕を持って通した後、図の右側にスライドさせて連通部16経由で小径の第2穴部15に移し替える手順をとることができるため、第2配索物12の通し作業が簡単となる。
【0048】
ところで、第1実施形態の変形形態として、B=Cに設定してもよい。
【0049】
この場合でも、第2配索物12を第1穴部14に通した後、連通部16内をスライドさせて第2穴部15に移し変えることは可能である。
【0050】
第2〜第5各実施形態
以下の各実施形態においても、基本構成、すなわち、配索物通し穴10が、相対的に大径の第1配索物11が通される第1穴部14と、相対的に小径の第2配索物12が通される第2穴部15と、この両穴部14,15をつなぐ溝状の連通部16とによって、中間がくびれた大略瓢箪形に形成される点、及び基本的な作用効果は第1実施形態と同じであり、各寸法D1,D2,A,B,Cの設定のみが第1実施形態と異なる。
【0051】
第2実施形態(図3参照)においては、
D1=D2
D1>A
D2>B
A>C>B
C<D2
に設定されている。
【0052】
つまり、両穴部14,15が同径に設定されている点のみが第1実施形態と異なる。
【0053】
この構成をとれば、等径穴を二つ並べて明ければよいため、穴明け作業が容易となる。
【0054】
また、両穴部14,15に大小差が無いため、両配索物11,12の大小関係が逆転した場合でも対応できるという利点を有する。
【0055】
第3実施形態(図4参照)においては、
D1>D2
D1>A
D2>B
A>B>C
C<D2
に設定されている。
【0056】
つまり、連通部16が両配索物11,12の直径よりも細幅に形成されている。
【0057】
この構成をとれば、両配索物11,12の移動を連通部16によって阻止することができる。
【0058】
とくに、両配索物11,12とも、電気配線のようなばらける可能性のない配管の場合は移動のおそれがないため、配索物同士の干渉を確実に防止することができる。
【0059】
この場合、第1及び第2両実施形態のクリップ13及びクリップ止め17(拘束手段)は、第2配索物12が電気配線の場合は両実施形態と同様に設けてもよいし、第2配索物12が配管の場合は図示のように設けなくてもよい。
【0060】
第4実施形態(図5参照)においては、
D1>D2
D1>A
D2>B
A>C>B
C=D2
に設定されている。
【0061】
つまり、連通部幅寸法Cが第2穴部15の直径寸法D2と同じに設定され、配索物通し穴10全体が鍵穴状に形成されている点が第1〜第3各実施形態と異なる。
【0062】
この構成をとれば、穴形状が比較的単純化されるため、穴明け加工が容易となる。
【0063】
第5実施形態(図6参照)においては、他の穴形状例として、両穴部14,15が四角穴として並設され、これらが連通部16でつながって配索物通し穴10が構成されている。
【0064】
この実施形態によっても、基本的な作用効果は他の実施形態と同様に得ることができる。
【0065】
なお、図例では、両穴部14,15の幅寸法(他の実施形態の穴部直径寸法に相当。直径寸法と同じ符号D1、D2を付している)と、配索物直径寸法A,Bと、連通部幅寸法Cについて、第1実施形態と同様に、
D1>D2
D1>A
D2>B
A>C>B
C<D2
に設定されている。
【0066】
但し、図3に示す第2実施形態、図4に示す第3実施形態、図5に示す第4実施形態の設定をとってもよい。
【0067】
他の実施形態
(1) 拘束手段として、上記第1、第2、第4,第5各実施形態で挙げた、リング状のクリップ13とクリップ止め17を用いる構成に代えて、先端側で配索物を挟み込む一対のバンドまたはプレートの基端部をフレーム(縦板)にねじ止めする構造のもの等、他の手段を用いてもよい。
【0068】
(2) 第2穴部15に配管(たとえば低圧配管)を通してもよい。この場合、拘束手段は設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0069】
また、一つの穴部に二種類以上の配索物(干渉によるトラブルのおそれのない組み合わせ)を通してもよい。
【0070】
(3) 三つ以上の穴部を、隣り合うもの同士が連通部で相連通する状態で設けて配索物通し穴を構成してもよい。
【0071】
この場合、配索物通し穴全体を正面から見てL字形やU字形としてもよい。
【0072】
(4) 上記各実施形態では、連通部16を、図示のように一定の長さを持つ溝穴として形成し、配索物通し穴10全体として瓢箪形または鍵穴状に構成したが、両穴部14,15を、互いの一部が接し、かつ、この接する部分で相連通する状態で設けることによって配索物通し穴全体を「だるま状」に形成してもよい。
【0073】
この場合、上記接する部分が連通部となる。
【0074】
(5) 上記実施形態では、アッパーフレーム上に設けられる縦板に配索物通し穴10を設けたが、垂直、水平、傾斜を問わず配索経路中に他の配索障壁が存在する場合にも上記同様に適用することができる。
【0075】
また、本発明はショベルに限らず、複数種類の配索物が配索物通し穴を通って配索される建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
5 配索物が通されるフレームとしての縦板
10 配索物通し穴
11 第1配索物
12 第2配索物
13 拘束手段としてのクリップ
17 同、クリップ止め
14 第1穴部
15 第2穴部
16 連通部
A,B 配索物の直径寸法
C 連通部幅寸法
D1,D2 両穴部の直径寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械のフレームに配索物通し穴が貫通して設けられ、複数種類の配索物が上記配索物通し穴に通される建設機械の配索物通し構造において、上記複数種類の配索物が別々に通される複数の穴部を、隣り合うもの同士、連通部を介して相連通する状態で設けることによって上記配索物通し穴を構成し、上記連通部の幅寸法を、上記隣り合う第1及び第2両穴部に通される第1及び第2両配索物のうち少なくとも一方の配索物の直径寸法よりも小さく設定したことを特徴とする建設機械の配索物通し構造。
【請求項2】
上記第1配索物の直径寸法をA、第2配索物の直径寸法をB、上記連通部の幅寸法をCとして、
A>C≧B
に設定したことを特徴とする請求項1記載の建設機械の配索物通し構造。
【請求項3】
上記第1配索物の直径寸法をA、第2配索物の直径寸法をB、上記連通部の幅寸法をCとして、
A>B>C
に設定したことを特徴とする請求項1記載の建設機械の配索物通し構造。
【請求項4】
上記隣り合う第1及び第2両穴部の直径寸法をD1、D2として、D1>D2に設定したことを特徴とする請求項2または3記載の建設機械の配索物通し構造。
【請求項5】
上記隣り合う第1及び第2両穴部の直径寸法をD1、D2として、D1=D2に設定したことを特徴とする請求項2または3記載の建設機械の配索物通し構造。
【請求項6】
上記第2配索物を上記第2穴部に拘束する拘束手段を設けたことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の建設機械の配索物通し構造。
【請求項7】
複数本の電気配線を円形に束ねて上記第2配索物を構成し、上記拘束手段として、上記電気配線を束ねるクリップを用いたことを特徴とする請求項6記載の建設機械の配索物通し構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72182(P2013−72182A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210192(P2011−210192)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】