説明

建設機械

【課題】 エンジンの周辺の熱がオペレータに伝わるのを防止し、オペレータの作業環境を良好にする。
【解決手段】 運転席取付部16の背面側を覆うように硬質ウレタン材料等からなる断熱部材26を設け、この断熱部材26は、右断熱カバー部27と左断熱カバー部28とにより形成し、冷却風の流れ方向で下流側に位置する左断熱カバー部28には、後側に膨らんだ膨出部29を設ける。この左断熱カバー部28の膨出部29とフロア部材15の運転席取付部16との間には、内部が中空な空気層となった断熱空間部31を設ける構成とする。従って、熱交換器8を通過し、エンジン7の周囲を流通することで冷却風が温度上昇しても、この冷却風の熱は、断熱空間部31によってオペレータに伝わらないように遮断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械に関し、特に、エンジンの近傍に運転席が配置された小型の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前,後方向の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。
【0003】
また、上部旋回体は、支持構造体を形成する旋回フレームと、該旋回フレームの後側に左,右方向に延びた横置き状態で搭載されたエンジンと、前記旋回フレーム上に設けられ後側が運転席を取付けると共に前記エンジンの前側を覆う運転席取付部となり前側がオペレータが足を乗せる足乗せ部となったフロア部材とにより大略構成されている。
【0004】
ここで、油圧ショベルには、ミニショベルと呼ばれる小型の油圧ショベルがある。この小型の油圧ショベルは、住宅地、路地等の狭い作業現場でも作業を行うことができるように、下部走行体が小さな幅寸法に設定され、上部旋回体が旋回動作したときに狭幅な下部走行体からはみ出さないように小型に形成されている。
【0005】
このように、小型の油圧ショベルでは、上部旋回体が小型化されており、各部品の設置スペースも小さくなっているから、フロア部材の運転席取付部をエンジンの上側に配置し、この運転席取付部がエンジンの前カバーを兼ねる構成としている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−144068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1によるものでは、フロア部材の運転席取付部をエンジン前カバーとして用いているから、エンジンとオペレータの居住スペースが近くなっている。このために、エンジンの周辺で発生した熱が運転席取付部からオペレータの居住スペースに伝わってしまい、この熱により作業環境が悪くなるという問題がある。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、エンジンの周辺の熱がオペレータに伝わるのを防止することにより、作業環境を良好にできるようにした建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による建設機械は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、前記上部旋回体は、支持構造体を形成する旋回フレームと、該旋回フレームの後側に左,右方向に延びた横置き状態で搭載されたエンジンと、前記旋回フレーム上に設けられ後側が運転席を取付けると共に前記エンジンの前側を覆う運転席取付部となり前側がオペレータが足を乗せる足乗せ部となったフロア部材とを備えてなる。
【0010】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記フロア部材の運転席取付部には、前記エンジン側となる背面側を覆う断熱部材を設け、該断熱部材と前記運転席取付部との間には、内部が中空な空気層となった断熱空間部を設ける構成としたことにある。
【0011】
請求項2の発明は、前記断熱部材には、後側に膨らませることにより膨出部を形成し、前記断熱空間部は、前記断熱部材を前記運転席取付部に取付けることにより、前記運転席取付部と前記膨出部との間に形成したことにある。
【0012】
請求項3の発明は、前記フロア部材は、前記エンジンの前側に位置して左,右方向の一側に片寄せて配置し、前記フロア部材の他側には、油液を貯えるための貯油タンクを設け、該貯油タンクの後側には、前記エンジンの他側に位置して流体を冷却する熱交換器を設け、前記断熱空間部は前記フロア部材の一側に位置して設ける構成としたことにある。
【0013】
請求項4の発明は、前記運転席の近傍には、前記作業装置を操作する操作レバーを設け、前記旋回フレームには、該操作レバーの操作に応じて前記作業装置を制御する制御弁を設け、該制御弁と前記操作レバーとの間には、前記操作レバーの操作パターンと前記制御弁との組合せパターンを切換える操作パターン切換弁を設け、該操作パターン切換弁は、前記断熱空間部の内部に配置する構成としたことにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、フロア部材の運転席取付部と該運転席取付部の背面側を覆うように設けられる断熱部材との間には、内部が中空な空気層となった断熱空間部を設ける構成としている。
【0015】
従って、エンジンの周辺で発生した熱は、運転席取付部からオペレータの居住スペースに伝わろうとするが、断熱部材と運転席取付部との間には断熱空間部を設けているから、断熱部材による断熱効果に加え、断熱空間部の内部の空気層によりエンジンの熱がオペレータに伝わるのを効率よく遮ることができる。この結果、エンジンの周辺の熱による居住スペースの温度上昇を抑制することができ、オペレータの作業環境を良好にすることができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、断熱部材に膨出部を形成しているから、この断熱部材を運転席取付部に取付けるだけで、この運転席取付部と膨出部との間に断熱空間部を容易に形成することができる。また、膨出部の位置を変更することで、断熱空間部の位置を自由に設定することができ、エンジン側で最も高温になる位置に膨出部を設けることにより、熱の伝わりを効果的に抑制することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、エンジンの一側には、熱交換器を通過した冷却風が温度上昇して供給されるから、このエンジンの一側の周囲が特に温度上昇する。これに対して、断熱空間部はフロア部材の一側に位置して設けているから、温度上昇した冷却風の熱を効果的に遮ることができ、作業環境を良好にすることができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、作業装置を操作する操作レバーの操作パターンと制御弁との組合せパターンを切換える操作パターン切換弁を、断熱空間部の空気層を利用して配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態によるキャブ仕様の油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】油圧ショベルをエンジン周りを露出させた状態で示す平面図である。
【図3】上部旋回体を外装カバーとキャブボックスの天井部分を省略した状態で示す横断面図である。
【図4】油圧ショベルを左前側から見た外観斜視図である。
【図5】フロア部材をチルトアップした状態の油圧ショベルを左後側から見た外観斜視図である。
【図6】旋回フレームにエンジンとフロア部材を搭載した状態を右後側から見た外観斜視図である。
【図7】作業装置等を操作するための油圧系統の回路図である。
【図8】フロア部材に断熱部材を取付けた状態を右後側から見た外観斜視図である。
【図9】フロア部材と断熱部材との間の断熱空間部を示す図8中の矢示IX−IX方向から見た要部拡大の断面図である。
【図10】フロア部材と断熱部材とを分解した状態で示す分解斜視図である。
【図11】図10中のフロア部材を単体で示す外観斜視図である。
【図12】図10中の断熱部材を示す外観斜視図である。
【図13】断熱部材を分解した状態で示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械として小型の油圧ショベルを例に挙げ、図1ないし図13に従って詳細に説明する。
【0021】
図1ないし図4において、1は建設機械としてのキャブ仕様の油圧ショベルを示している。この油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、該上部旋回体4の前側に揺動および俯仰動可能に設けられ土砂の掘削作業等を行うスイング式の作業装置5とにより構成されている。
【0022】
また、作業装置5は、後述する旋回フレーム6の前側に揺動可能かつ俯仰動可能に取付けられたブーム5Aと、該ブーム5Aの先端部に俯仰動可能に取付けられたアーム5Bと、該アーム5Bの先端部に回動可能に取付けられたバケット5Cと、前記ブーム5Aを俯仰動するブームシリンダ5Dと、前記アーム5Bを俯仰動するアームシリンダ5Eと、前記バケット5Cを回動するバケットシリンダ5Fとによって大略構成されている。
【0023】
ここで、上部旋回体4は、図2に示すように、下部走行体2の車幅とほぼ等しい左,右方向の幅寸法を有し、かつ旋回中心Oを中心とした旋回半径Rの仮想円C内に収まるように、上方から見てほぼ円形状に形成されている。これにより、油圧ショベル1は、上部旋回体4が下部走行体2上で旋回中心Oを中心として旋回したときに、後述するカウンタウエイト12の後面がほぼ下部走行体2の車幅内に収まる後方小旋回型の油圧ショベルとして構成されている。
【0024】
なお、上述の旋回半径Rは、旋回中心Oからカウンタウエイト12の後面までの距離によって規定され、上述の仮想円Cは、上部旋回体4の旋回時におけるカウンタウエイト12の後面の軌跡となっている。
【0025】
そして、上部旋回体4は、支持構造体をなす旋回フレーム6と、該旋回フレーム6上に設けられた後述のエンジン7、フロア部材15、運転席19、キャブボックス24等により構成されている。また、旋回フレーム6の前側には、作業装置5が揺動可能かつ俯仰動可能に取付けられている。さらに、上部旋回体4は、フロア部材15をキャブボックス24等と一緒に前側位置を支点としてチルトアップ(図5の状態)、チルトダウン(図1、図4の状態)することができる。
【0026】
6は上部旋回体4の支持構造体を構成する旋回フレームである。この旋回フレーム6は、図5、図6に示す如く、左,右方向の中間部を前,後方向に延びた平板状の底板6Aと、該底板6Aの上面側に左,右方向に離間して略V字状に立設された左縦板6B,右縦板6Cと、該各縦板6B,6Cの前端部に設けられ、作業装置5を支持する支持ブラケット6Dと、前記底板6Aの前端部から左側に延びつつ屈曲して後側に延びた左サイドフレーム6Eと、前記底板6Aの前端部から右側に延びつつ屈曲して後側に延びた右サイドフレーム6Fとにより大略構成されている。
【0027】
7は旋回フレーム6の後側に搭載されたエンジンで、該エンジン7は、左,右方向に延在する横置き状態に配置されている。エンジン7は、前側と上側が後述するフロア部材15の運転席取付部16によって覆われている。エンジン7の左,右方向の他側となる右側位置には、吸込式の冷却ファン7Aが設けられ、この冷却ファン7Aに対面した後述する作動油タンク10の後側位置には、ラジエータ、オイルクーラ等の熱交換器8が配設されている。一方、エンジン7の左側には、該エンジン7によって駆動されることにより後述の制御弁13に向けて圧油を供給する油圧ポンプ9が設けられている。
【0028】
ここで、エンジン7の周囲での空気の流れについて述べる。冷却ファン7Aを回転駆動すると、外部の空気を冷却風として吸込み、右側に対面した熱交換器8に供給することで、内部を流通するエンジン冷却水、作動油等の流体を冷却する。また、熱交換器8を通過して温度上昇した冷却風は、エンジン7を周囲から冷却してさらに温度上昇した後、エンジン7の左側(油圧ポンプ9)の辺りで旋回フレーム6の下側に排出される。従って、冷却風は、エンジン7の左側で最も高温になるから、後述するフロア部材15の運転席取付部には、その左側部位に熱の伝わりを遮断するための断熱空間部31を設けている。
【0029】
10は後述するフロア部材15の他側となる右側に位置して旋回フレーム6上に搭載された貯油タンクとしての作動油タンクを示している(図3参照)。この作動油タンク10は、各種アクチュエータを駆動するための作動油を貯えるものである。
【0030】
11は作動油タンク10の前側に隣接して旋回フレーム6上に搭載された貯油タンクとしての燃料タンクで、該燃料タンク11は、エンジン7に供給するための燃料を貯えるものである。
【0031】
12は旋回フレーム6の後部に取付けられたカウンタウエイトである。このカウンタウエイト12は、作業装置5との重量バランスをとるもので、左,右方向の中央部が後方に突出する円弧状の重量物として形成されている。
【0032】
13は油圧ポンプ9の前側に位置して旋回フレーム6の左側に搭載された制御弁(図5参照)である。この制御弁13は、後述する作業用の操作レバー20,21、走行用の操作レバー・ペダル23等の操作に応じて駆動する油圧パイロット部を備えた複数個の油圧パイロット式スプール弁により形成されている。
【0033】
ここで、制御弁13は、図7に示す如く、旋回装置3の旋回モータ3Aを制御する旋回制御弁13Aと、作業装置5のアームシリンダ5Eを制御するアーム制御弁13Bと、ブームシリンダ5Dを制御するブーム制御弁13Cと、バケットシリンダ5Fを制御するバケット制御弁13Dとを含んで構成されている。そして、制御弁13は、主管路14を介して油圧ポンプ9に接続され、それぞれの油圧パイロット部は、後述の操作パターン切換弁22を介して左,右の操作レバー20,21の出力部に接続されている。
【0034】
15は旋回フレーム6上に設けられたフロア部材(図4、図5参照)で、該フロア部材15は、図6に示すように、エンジン7の前側に位置して旋回フレーム6の左,右方向の一側となる左側に片寄せて配置されている。フロア部材15は、オペレータが搭乗するもので、前側位置が旋回フレーム6の前側位置に取付けられ、後側位置がカウンタウエイト12上に取付けられている。そして、フロア部材15は、後側に位置して運転席19が取付けられる運転席取付部16と、前側に位置してオペレータが足を乗せる足乗せ部17とにより大略構成されている。
【0035】
16はフロア部材15の後側に位置してステップ状に形成された運転席取付部で、該運転席取付部16は、運転席19を取付けるための台座を形成すると共に、エンジン7の前側から上側を覆う前カバーを形成している。また、運転席取付部16は、図9、図11等に示す如く、後述する足乗せ部17の後部から上側に延びた前板16Aと、該前板16Aの上部から後側に延び運転席19を搭載するほぼ平坦な搭載板16Bと、該搭載板16Bの後部から上側に向けて延びた背板16Cと、該背板16Cの上部から後側に延びた取付板16Dと、前記前板16Aから搭載板16B、背板16Cの左端縁に沿うように後側に延びた左側面板16Eと、前記搭載板16B、背板16Cの右側に位置して前記前板16Aと取付板16Dの間を斜めに延びた斜面板16Fとにより大略構成されている。
【0036】
ここで、運転席取付部16の前板16Aは、後述する左操作レバー20の下側となる左側位置に配置された左前面部16A1と、中央に位置して該左前面部16A1よりも後側に奥まった位置に配置された左,右方向に広幅な中央前面部16A2と、右側に設けられた右前面部16A3とにより形成されている。左前面部16A1は、中央前面部16A2よりも前側寄りに配置されることで、後側に空間部を形成することができ、この空間部を利用して左前面部16A1には後述の操作パターン切換弁22が取付けられている。
【0037】
また、運転席取付部16には、左前面部16A1と中央前面部16A2との境界部に位置し、前板16Aの後面から搭載板16Bの下面に亘って逆L字形状の補強板16Gが設けられている。この補強板16Gは、後述する断熱部材26の左断熱カバー部28を取付けるためのブラケットを兼ねている。
【0038】
17はフロア部材15の足乗せ部を示し、該足乗せ部17は、運転席19に着座したオペレータが足を乗せるもので、運転席取付部16の前側に設けられている。また、足乗せ部17は、左,右方向に長尺な長方形状の平坦な板体として形成されている。
【0039】
18は足乗せ部17の前側に設けられたレバー・ペダル取付部で、該レバー・ペダル取付部18は、足乗せ部17の前端に沿って左,右方向に延びている。また、レバー・ペダル取付部18には、後述する走行用の操作レバー・ペダル23等が取付けられている。
【0040】
19はフロア部材15上に設けられた運転席(図4参照)で、該運転席19は、運転席取付部16を構成する搭載板16Bの左,右方向の中央位置に搭載されている。この運転席19は、油圧ショベル1を操縦するときにオペレータが着座するものである。
【0041】
20は運転席19の左側に配設された作業用の左操作レバーで、該左操作レバー20は、前,後方向、左,右方向に傾転操作することにより、制御弁13の油圧パイロット部にパイロット圧を供給し、旋回装置3の旋回モータ3A、作業装置5の各シリンダ5D,5E,5Fのうち、いずれか2つを操作するものである。
【0042】
一方、21は運転席19の右側に配設された作業用の右操作レバーで、該右操作レバー21は、左操作レバー20とほぼ同様に構成されている。そして、右操作レバー21は、旋回装置3の旋回モータ3A、作業装置5の各シリンダ5D,5E,5Fのうち、左操作レバー20が操作する2つ以外の残りの2つを操作するものである。
【0043】
22は運転席取付部16の左側位置に設けられた操作パターン切換弁を示している。この操作パターン切換弁22は、左,右の操作レバー20,21が前,後方向と左,右方向に傾転操作されたときの操作パターンと制御弁13A〜13Dとの組合せパターンを、複数パターンに切換えるものである。操作パターン切換弁22は、図7に示すように、方向切換弁(図示せず)を内蔵した弁本体22Aと、該弁本体22A内の方向切換弁を操作する切換レバー22Bとによって大略構成されている。操作パターン切換弁22は、切換レバー22Bが前側となるように、前板16Aの左前面部16A1の上側位置に取付けられている。操作パターン切換弁22は、図7に示す油圧回路において、左,右の操作レバー20,21と制御弁13との間に配設されている。
【0044】
23はフロア部材15のレバー・ペダル取付部18に設けられた走行用の操作レバー・ペダルを示している。この走行用の操作レバー・ペダル23は、下部走行体2を走行させるときに手動操作または足踏み操作によって操作されるものである。
【0045】
24はフロア部材15上に設けられたキャブボックスで、該キャブボックス24は、運転席19の周囲と上方を覆うものである。また、キャブボックス24は、ボックス状に形成され、下端部がフロア部材15の周縁に取付けられている。これにより、キャブボックス24は、フロア部材15上にオペレータの居住スペースとなる運転室を形成している。
【0046】
25はフロア部材15の足乗せ部17の裏面側に取付けられた空調ユニットで(図5参照)、該空調ユニット25は、空調装置の室内機を構成するものである。この空調ユニット25は、内気または外気を吸込み、所望の温度、湿度に調整した調和空気としてキャブボックス24内の運転室に供給するものである。
【0047】
次に、エンジン7側の熱が該エンジン7の前側を覆うフロア部材15の運転席取付部16を介してオペレータの居住スペース側に伝わるのを防止するために、前記運転席取付部16に設けられた断熱部材26について、図8ないし図13を参照しつつ説明する。
【0048】
図8において、26はフロア部材15の運転席取付部16に設けられた断熱部材を示している。この断熱部材26は、エンジン7側の熱や騒音がオペレータの居住スペース側に伝わるのを防止するものである。断熱部材26は、運転席取付部16のエンジン7側となる背面側を覆うもので、図8、図10に示すように、運転席取付部16の背面側の形状に合わせて形成されている。断熱部材26は、図13に示すように、右断熱カバー部27、左断熱カバー部28、膨出部29、断熱空間部31により大略構成されている。
【0049】
27は断熱部材26を構成する右断熱カバー部である。この右断熱カバー部27は、熱を伝え難い材料、例えば硬質ウレタン材料等を用いて所定の形状に形成されている。右断熱カバー部27は、左,右方向の中央位置から右側、具体的には、運転席取付部16の左側寄りに配置された補強板16Gから右側に設けられている。即ち、右断熱カバー部27は、前板16Aの中央前面部16A2および右前面部16A3の後面を覆う前縦面部27Aと、搭載板16Bの下面を覆う横面部27Bと、背板16Cの後面を覆う後縦面部27Cと、斜面板16Fの下面を覆う傾斜面部27Dとを備えている。この前縦面部27A、横面部27B、後縦面部27C、傾斜面部27Dは、対応する前板16A、搭載板16B、背板16C、斜面板16Fに対し、例えば接着、貼着、ねじ止め等の手段を用いて密着するように取付けられている。
【0050】
28は運転席取付部16の左側に設けられた左断熱カバー部である。この左断熱カバー部28は、右断熱カバー部27とほぼ同様に、硬質ウレタン材料等を用いて所定の形状に形成されている。左断熱カバー部28は、その右側が右断熱カバー部27左端部に重なるように取付けられ、左側が左側面板16Eに取付けられている。左断熱カバー部28は、運転席取付部16の前板16Aの左前面部16A1に対面する位置で背板16Cに沿うように上,下方向に延びた後縦板28A(図9参照)と、該後縦板28Aの右端縁から補強板16Gの右側に向け前側に延びた右縦板28Bと、前記後縦板28Aと右縦板28Bの底部を覆う底横板28Cとにより大略構成されている。また、後縦板28Aと右縦板28Bの右端部には、右断熱カバー部27の横面部27B、後縦面部27Cの左端部に重なって取付けられる重なり代28Dが右側に延びて設けられている。
【0051】
ここで、左断熱カバー部28は、後縦板28Aと右縦板28Bと底横板28Cとによって後側に向けて膨らんだ箱形状の膨出部29を有している。この膨出部29を有した左断熱カバー部28を運転席取付部16に取付けると、後縦板28Aが前板16Aから離間し、右縦板28Bが左側面板16Eから離間し、底横板28Cが搭載板16Bから離間するから、この膨出部29と運転席取付部16との間には、後述の断熱空間部31を形成することができる。
【0052】
左断熱カバー部28は、左,右方向に横置きされたエンジン7の周囲を流れる冷却風のうち、熱交換器8、エンジン7によって温められて最も高温になる該エンジン7の左側部位と対向する位置に配置されている。従って、左断熱カバー部28に膨出部29を設けることにより、特に高温となった冷却風の熱が運転室側に伝わるのを防止することができる。そして、左断熱カバー部28は、後縦板28A、底横板28Cの左端部が左側面板16Eに取付ねじ30を用いて取付けられ、右縦板28Bの前部が補強板16Gに取付ねじ30を用いて取付けられている。このように、取付ねじ30を用いて運転席取付部16に取付けられた左断熱カバー部28は、容易に取外しことができ、内部の操作パターン切換弁22等を点検、整備することができる。
【0053】
31は左断熱カバー部28と運転席取付部16との間に設けられた断熱空間部を示している。この断熱空間部31は、運転席取付部16の前板16Aのうち前側寄りに配置された左前面部16A1と、背板16Cの位置まで後退した左断熱カバー部28の後縦板28Aとの間に、内部が中空な空気層として形成されている。これにより、断熱空間部31は、冷却風が高温になって左断熱カバー部28の近傍を流れても、この冷却風の熱の伝わりを空気層で遮断することができるから、エンジン7側が高温になってもオペレータの居住スペースは適温状態に保持することができる。
【0054】
しかも、左断熱カバー部28と運転席取付部16との間に設けた断熱空間部31には、内部の空気層を利用して操作パターン切換弁22を収容することができる。これにより、小型の油圧ショベル1でも、エンジン7側の熱の伝わりを遮断でき、また設置スペースを確保することができる。
【0055】
なお、32は旋回フレーム6上に設けられた外装カバーである。この外装カバー32は、フロア部材15の周囲に設けられ、旋回フレーム6上に搭載されたエンジン7、熱交換器8、作動油タンク10、燃料タンク11等を覆うものである。
【0056】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、この油圧ショベル1の動作について説明する。
【0057】
油圧ショベル1を用いて掘削作業等を行う場合、フロア部材15上に搭乗し、運転席19に着座したオペレータは、走行用の操作レバー・ペダル23を操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。また、左,右の操作レバー20,21を操作することにより、旋回装置3、作業装置5を駆動して土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0058】
作業を行うにあたり、オペレータは、運転席取付部16に設けた操作パターン切換弁22の切換レバー22Bの位置を確認することにより、左,右の操作レバー20,21の操作パターンが自分の好みに合っているか否かを確認することができる。このときに、左,右の操作レバー20,21の操作パターンが自分の好みに合っていない場合には、操作パターン切換弁22の切換レバー22Bを回動操作することにより、操作パターンを自分の好みのものに合わせることができる。
【0059】
油圧ショベル1の走行時、作業時には、旋回フレーム6の後側に設けたエンジン7が運転状態にあるから、冷却ファン7Aによって外装カバー32内を流れる冷却風は、熱交換器8等によって高温になってしまう。このエンジン7側の熱がフロア部材15を通じてオペレータの居住スペース側に伝わると、温度上昇して作業環境が悪くなってしまう。
【0060】
然るに、本実施の形態によれば、運転席取付部16の背面側を覆うように設けた断熱部材26の左断熱カバー部28には、後側に膨らんだ膨出部29を設け、この左断熱カバー部28の膨出部29とフロア部材15の運転席取付部16との間には、内部が中空な空気層となった断熱空間部31を設ける構成としている。
【0061】
従って、熱交換器8を通過し、エンジン7の周囲を流通することで冷却風が温度上昇すると、この冷却風の熱が運転席取付部16からオペレータの居住スペースに伝わろうとするが、左断熱カバー部28と運転席取付部16との間に断熱空間部31を設けているから、運転席取付部16の背面側に設けた断熱部材26による断熱効果に加え、断熱空間部31の内部の空気層によりエンジン7側からオペレータに熱が伝わるのを効率よく遮断することができる。
【0062】
この結果、エンジン7の周辺の熱によってオペレータが作業する居住スペースの温度上昇を抑制することができるから、オペレータの作業環境を良好にすることができ、作業性等を向上することができる。また、断熱部材26および断熱空間部31は、エンジン7側の騒音も遮断することができ、騒音面でも作業環境を良好にすることができる。
【0063】
左断熱カバー部28に膨出部29を形成しているから、この左断熱カバー部28を運転席取付部16に取付けるだけで、この運転席取付部16と膨出部29との間に断熱空間部31を容易に形成することができる。また、膨出部29の位置を変更することで、エンジン7側で最も高温になる位置に膨出部29を設けることができ、特に高い熱が伝わるのを効果的に抑制することができる。
【0064】
さらに、作業装置5等を操作する操作レバー20,21の操作パターンと制御弁13との組合せパターンを切換える操作パターン切換弁22を、断熱空間部31の空気層を利用して配置することができ、小型の油圧ショベル1でも操作パターン切換弁22を設けることができる。
【0065】
なお、実施の形態では、断熱空間部31内に操作レバー20,21の操作パターンと制御弁13との組合せパターンを切換える操作パターン切換弁22を配置した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば断熱空間部31内に他の油圧機器、電装部品等を配置する構成としてもよい。また、断熱空間部31内に何も設けない構成としてもよい。
【0066】
また、実施の形態では、断熱部材26を右断熱カバー部27と左断熱カバー部28との2部材に分割して設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、断熱部材26を、1つの部材によって形成してもよい。また、3つ以上の部材に分割する構成としてもよい。
【0067】
さらに、実施の形態では、建設機械としてキャブ仕様の油圧ショベル1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えばキャノピ仕様の油圧ショベルにも適用することができる。また、ホイール式の油圧ショベル等の他の建設機械にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体
3 旋回装置
4 上部旋回体
5 作業装置
6 旋回フレーム
7 エンジン
7A 冷却ファン
8 熱交換器
9 油圧ポンプ
10 作動油タンク(貯油タンク)
11 燃料タンク(貯油タンク)
12 カウンタウエイト
13 制御弁
15 フロア部材
16 運転席取付部
17 足乗せ部
19 運転席
20 左操作レバー
21 右操作レバー
22 操作パターン切換弁
26 断熱部材
27 右断熱カバー部
28 左断熱カバー部
29 膨出部
31 断熱空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、
前記上部旋回体は、支持構造体を形成する旋回フレームと、該旋回フレームの後側に左,右方向に延びた横置き状態で搭載されたエンジンと、前記旋回フレーム上に設けられ後側が運転席を取付けると共に前記エンジンの前側を覆う運転席取付部となり前側がオペレータが足を乗せる足乗せ部となったフロア部材とを備えてなる建設機械において、
前記フロア部材の運転席取付部には、前記エンジン側となる背面側を覆う断熱部材を設け、
該断熱部材と前記運転席取付部との間には、内部が中空な空気層となった断熱空間部を設ける構成としたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記断熱部材には、後側に膨らませることにより膨出部を形成し、前記断熱空間部は、前記断熱部材を前記運転席取付部に取付けることにより、前記運転席取付部と前記膨出部との間に形成してなる請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記フロア部材は、前記エンジンの前側に位置して左,右方向の一側に片寄せて配置し、前記フロア部材の他側には、油液を貯えるための貯油タンクを設け、該貯油タンクの後側には、前記エンジンの他側に位置して流体を冷却する熱交換器を設け、前記断熱空間部は前記フロア部材の一側に位置して設ける構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記運転席の近傍には、前記作業装置を操作する操作レバーを設け、前記旋回フレームには、該操作レバーの操作に応じて前記作業装置を制御する制御弁を設け、該制御弁と前記操作レバーとの間には、前記操作レバーの操作パターンと前記制御弁との組合せパターンを切換える操作パターン切換弁を設け、該操作パターン切換弁は、前記断熱空間部の内部に配置する構成としてなる請求項1,2または3に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−24012(P2013−24012A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163260(P2011−163260)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】