説明

弁シートリーク検出装置

【発明の詳細な説明】
[発明の目的]
(産業上の利用分野)
この発明は弁シート部からの流体の漏洩時に発生するノイズを測定して漏洩の有無を検出する弁シートリーク検出装置に関する。
(従来の技術)
火力発電プラントや原子力発電プラント等には、プロセス制御用や隔離用等として様々な弁が数多く設けられている。
これらの弁の内、例えば高温高圧蒸気系統である主蒸気系統あるいは抽気系統に存在するドレン弁等は、起動時には約5〜15%負荷まで蒸気配管ラインのドレンを排出するため全開しているが、通常運転中はドレン発生もなく、また蒸気の熱エネルギーがいたずらに損失するのを防ぐため全閉状態となっている。
しかしながら、これらの弁は長期間使用する間に、弁シート部のエロージョンや開閉動作時の異物の噛み込み等により傷を生じてリークを発生することがある。リークが一度生じると、高速な蒸気流れにより、またたく間に傷が拡大し、更に多量のリークが発生する傾向があり、熱効率的立場からも、また保守管理の立場からも、弁リークの早期発見は重要な研究テーマになっている。
最近は、これらの弁のシート部に対して圧電セラミックス等を使用したアコースティック・エミッション(Acoustic Emission)センサー(以下AEセンサーという。)を用い、弁全閉時のリーク検出や、弁全閉動作時の誤操作を検出しようとする研究が盛んに行われている(例えば、特開昭62−80535号参照)。
第3図は、現在一般的に考えられているAEセンサーによる弁シートリーク検出装置の構成例を示すもので、1はリークを検出しょうとする対象弁、2は蒸気や水等の作動流体、3はAEセンサー、4は増幅器、5は信号処理部、6は信号判断部、7は表示部を示している。
このような構成の弁シートリーク検出装置において、弁1の全閉状態にて作動流体2に漏れが発生すると、作動流体の流動音、キャビテーション音、あるいは流れに伴う配管や弁等の振動が発生するが、これらの音や振動をAE信号としてAEセンサー3で検出する。
この信号は連続的であるが、信号レベルが低いので、増幅器4により増幅した後、信号処理部5に入力される。信号処理部5での処理方法としては、実効値を求める方法や、スペクトラム・アナライザーを用いて周波数分析をする方法等が一般的である。
信号処理部5からの信号は信号判断部6へ出力される。この判断部では、信号処理部5からの信号は弁からリークが発生していない時の実効値レベル、あるいは周波数分析結果に所定の余裕率を持たせたしきい値と比較され、検出された信号レベルが、このしきい値を越えた時、リーク発生と判断する。
また表示部7では、警報灯7aの点滅や、診断結果の根拠となった実効値あるいは周波数分析の値、推定リーク量の表示等が行われる。
(発明が解決しようとする課題)
このような弁シートリーク検出装置においては、通常運転時すなわち弁全閉時におけるリーク監視については特に問題はないが、例えば主蒸気系統あるいは抽気系統等のドレン弁のように、負荷が下がってきた場合に自動的に開する弁には、次のような問題点がある。
■ 負荷が降下してドレン弁が開した時、弁シートリーク検出装置はリーク発生を表示するが、運転員は負荷等ドレン弁開インターロック条件を考慮し、このリーク発生が本来の弁シートリーク発生によるものなのか、あるいはドレン弁が自動的に開したことにより発生したものなのかを判断する必要がある。
■ 一般的にドレン弁が開く負荷は5〜15%負荷であるが、この負荷はドレン弁により異なるので、運転員は数多くのドレン弁とその開負荷条件とを良く理解していなければならない。
特に最近の火力発電プラントは負荷調整用として運用されており、DSS(Daily Start Stop)運転あるいは深夜最低負荷運転が頻発しているため、このような改善点は今後ますますクローズアップされるものと考えられ、運転員の負担軽減化のためにも何らかの対策が必要である。
本発明は、AEセンサーによる弁シートリーク検出装置を設置したドレン弁において、ドレン弁が自動的に開するような負荷運転時、ドレン弁の開状態をこの弁シートリーク検出装置に与えることにより、プラント運転員に誤情報を与えないようにした弁シートリーク検出装置を提供することを目的とするものである。
[発明の構成]
(課題を解決するための手段)
本発明の弁シートリーク検出装置は、上記目的を達成するため、プラントの負荷に応じて自動的に開閉する複数の弁にそれぞれ設置される複数のAEセンサーと、これらのAEセンサーの検出信号を入力しそれぞれ弁シート部のリーク発生か否かを判定するリーク発生判断部と、プラントの負荷信号に基づいて各前記弁について全閉か否かを判定する弁開度判定部と、この弁開度判定部の判定結果および前記リーク発生判断部の判定結果を入力し、前記弁の少なくとも1つが全閉でかつがリーク発生と判定されたとき、前記リーク発生判断部の判定結果を表示部に入力させる表示判断部とを備え、プラント運転員に、弁シートリークの検出有効期間中だけ情報を与えるようにしたことを特徴とするものでる。
(実施例)
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、第1図および第2図中、従来技術と同一要素には同一の符号を付してある。
第2図に、本発明の弁シートリーク検出装置の一実施例を示し、第1図はその基本構成を示すものである。
この実施例においては、第2の信号判断部8が設けられ、この第2の信号判断部8の出力によりオン/オフする条件スイッチ14が第1の信号判断部6と表示部7の間に介挿されている。
第2図において、図示を省略しているが、第1図に示すような検出対象弁1毎に取付けられるAEセンサー3からの検出信号が、それぞれ対応する増幅器4A、4B、4Cに入力され、それらの各増幅信号は信号選択器20を介して信号処理部5に入力され、ついで第1の信号判断部6に入力されて、検出対象弁1毎に弁シートリーク発生の有無が判定される。さらに、これらの弁シートリーク発生の判定結果は信号集合部21に入力され、条件スイッチ14がオンのとき表示部7に出力される。
第2の信号判断部8は、弁開度状態を示す信号として負荷信号18等を入力し各検出対象弁1が全閉か否かを判定する弁開度判定部と、この弁開度判定部の各検出対象弁1の判定結果および第1の信号判断部6からの対応する検出対象弁1のリーク発生の判定結果を入力し、いずれかの弁1が全閉でかつリーク発生ありと判定されたとき条件スイッチ14をオンとする表示判断部とで構成される。
本実施例では、第2図に示すように、弁開度判定部は負荷信号18に基づいて各検出対象弁1についてそれぞれ全閉か否かを判定する負荷条件判定部11で構成される。また、表示判断部は、負荷条件判定部11による全閉か否かの各検出対象弁1の判定結果と第1の信号判断部6からの対応する検出対象弁1のリーク発生の判定結果を入力信号とする論理積回路13A、13B、13Cと、これらの論理積回路13A、13B、13Cの出力信号を入力しいずれかの論理積が成立したとき条件スイッチ14をオンとする信号集合部19とで構成される。
なお、弁開度判定部は、第1図に示すように、検出対象弁1の実開度状態を表す全閉位置検出用リミットスイッチ15または差動トランス等の実開度検出器からの信号16に基づいて全閉か否かを判定する実開度条件判定部9、検出対象弁1のに基づいて全閉か否かを判定する開度要求条件判定部10および負荷信号18に基づいて全閉か否かを判定する負荷条件判定部11のいずれか、またはこれらの判定結果を入力する論理和回路12とで構成することもできる。これら判定部9〜11は、いずれも弁開度状態を表す信号16〜18を入力し、全閉状態時にのみオン信号を出力する。
しかしながら、実際の発電プラントにおいては、弁シートリーク検出装置が対象とするドレン弁1が1つの場合は稀であり、一般的には数弁〜数十弁を対象とするのが通例である。これらの弁1はいずれも決められた負荷以下においては全開しているが、例えば弁開度状態を示す信号としてリミットスイッチ15等からの信号16や開度要求信号17を採用した場合、弁シートリーク検出装置への入力信号もこれに比例して増大することになる。
また、ドレン弁1が設置される場所は発電プラントの現場であるのに対し、弁シートリーク検出装置は中央操作室に設置されるのが一般的であり、リミットスイッチ信号16を取出すために、これらの間をケーブルで結ぶことは大変な労力や費用を要することになる。
さらに、リミットスイッチ15等の信号をケーブルを介して中央操作室にある盤等より引出すことが可能であっても、ケーブルの芯線は最低限、検出対象の弁数分は必要であり、かなり複雑なシステムとなる。
これに対して、弁開度状態を示す信号として負荷信号18を採用する場合は、弁開度判定部の入力信号はこの信号のみでよく、さらに多数の弁が接続されてもそれらに影響されることなくシステムを構築することができる。
なお、検出対象の各ドレン弁1が全閉から開となる負荷の値は負荷条件判定部11に設置され、ここではそれぞれα1、α2、α3(α1>α2>α3)とする。
次に、本実施例の作用を説明する。
プラントの負荷がα1以上のときには、負荷条件判定部11において各ドレン弁1の開度は全閉と判定され、各論理積回路13A、13B、13Cへオンの信号が出力される。
また、各論理積回路13A、13B、13Cには、第1の信号判断部6から対応する弁1についてリーク有無の判定結果がそれぞれ入力されており、いずれの弁1についてもシートリーク発生なしの場合には、第1の信号判断部6からの信号は全てオフとなり、各論理積回路13A、13B、13Cの論理積は成立しない。
しかしながら、いずれかの弁1にシートリークが発生している場合には、論理積回路13A、13B、13Cのうちいずれかの論理積が成立するため、信号集合部19は条件スイッチ14をオンとする。これにより、表示部7は信号集合部21から弁シートリーク発生情報を入力し、この弁に対応する警報灯7aの点滅を行うとともに、診断結果表示部7bに推定リーク量等を表示する。
同様に、負荷がα2以上、あるいはα3以上となったとき、対応するドレン弁1の開度が条件的に全閉と判定され、この弁1に取付けられたAEセンサー3からの出力信号は弁シートリークを検出していることになる。
逆に、負荷がα1、α2、α3以下のとき、それぞれ対応するドレン弁1が開となり、AEセンサー3からの出力信号レベルは弁シートリークありと見なされるが、全閉条件が成立しないため、条件スイッチ14はオフとなり、表示部7はリークありの誤情報を提供しない。したがって、操作員に無用な混乱を与えることはない。
このように、本実施例によれば、ドレン弁の数に関係なく、1つの代表的信号、例えば負荷信号にてドレン弁の開度状態を代表することができ、システムを簡略化することができる。
また、ドレン弁の数に関係なく、1つの条件スイッチで弁シートリーク検出対象外の判定情報の表示を阻止することができ、システムの構成を簡略化することができる。
[発明の効果]
以上説明したように、本発明によれば発電プラントのドレン弁等に代表されるような制御弁の弁シートリーク検出装置において、この検出装置に対象とする弁の開度状態を決定する負荷信号を入力し、弁シートリーク検出結果が妥当であると判断することにより、プラント低負荷時の無用な警報信号の出力を防止することができる。
このため、発電プラント運転員は、弁シートリーク検出装置からの誤信号にまどわされることなく、非常に複雑で注意を要する起動時の運転操作に専念することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明による弁シートリーク検出装置の基礎構成を示す系統図、第2図は弁開度状態を代表する信号をプラントの負荷信号とした実施例を示す系統図、第3図は従来の弁シートリーク検出装置の系統図である。
1……弁
2……作動流体
3……AEセンサー
4、4A、4B、4C……増幅器
5……信号処理部
6……信号判断部(第1の信号判断部)
7……表示部
8……第2の信号判断部
9……実開度条件判定部
10……開度要求条件判定部
11……負荷条件判定部
12……論理和回路
13A、13B、13C……論理積回路
14……条件スイッチ
15……リミットスイッチ
16〜18……信号
19、21……信号集合部
20……信号選択器

【特許請求の範囲】
【請求項1】プラントの負荷に応じて自動的に開閉する複数の弁にそれぞれ設置される複数のAEセンサーと、これらのAEセンサーの検出信号を入力しそれぞれ弁シート部のリーク発生か否かを判定するリーク発生判断部と、プラントの負荷信号に基づいて各前記弁について全閉か否かを判定する弁開度判定部と、この弁開度判定部の判定結果および前記リーク発生判断部の判定結果を入力し、前記弁の少なくとも1つが全閉でかつがリーク発生と判定されたとき、前記リーク発生判断部の判定結果を表示部に入力させる表示判断部とを備えることを特徴とする弁シートリーク検出装置。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【特許番号】第2597654号
【登録日】平成9年(1997)1月9日
【発行日】平成9年(1997)4月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−133621
【出願日】昭和63年(1988)5月31日
【公開番号】特開平1−302132
【公開日】平成1年(1989)12月6日
【出願人】(999999999)株式会社東芝
【参考文献】
【文献】特開 昭50−152322(JP,A)