説明

引出し型加熱調理器

【課題】部品点数の増加や製造コストの上昇に繋がる加熱室構成材に補強材を追加することなく、内箱体を補強することができる引出し型加熱調理器を提供する。
【解決手段】引出し体2に取付けるローラー状の緩衝材1b,10bの取付け位置を、加熱室3の側壁3b,3bにおいてスライドレール7の固定アングル8が取り付けられて剛性が高められている部位と整合させることにより、又は加熱室3の底壁3cの近傍に配置することにより、開閉ドアに偏った操作力を加えたときに、調理器本体1の前面板と開閉ドアの内面との間に隙間が発生するのを抑制し、ラッチ動作までは電波が停止しないことに起因して、当該隙間からの電波漏れを生じるのを未然に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具やキャビネット内に組み込まれる電子レンジのようなビルトイン型厨房機器である引出し型加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
開閉扉と一体とされた引出し体を調理器の前面側へ引き出し可能にした加熱調理器が、従来提案されている。この種の引出し型加熱調理器は、厨房のカウンタートップ下方にビルトイン設置し、カウンタートップを占拠することなく設置できるので、複数の調理機器を立体的に配置するキッチン構成に適している。そのため、引出し型加熱調理器は、システムキッチンを構成する調理機器の一つとして位置づけられ、特に米国では、近年普及が拡大している。
【0003】
本出願人は、引出し型加熱調理器である引出し型電子レンジの一例として、加熱室を有する調理器本体と、調理器本体の加熱室内から外へ引き出すことができるように調理器本体内で移動可能に配置される引出し体と、引出し体を調理器本体内で移動させるためのスライドレールとを備え、スライドレールを加熱室の外を設けることにより、高い耐熱性と難燃性を有する部品又は材料でスライド機構を構成する必要がなく、マイクロ波による放電不良の発生を防止することができる引出し型加熱調理器を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
電子レンジに関する安全規格は各国で制定されているが、それら各国規格の規範とされている米国では、UL(Underwriter's Laboratories)規格によって電子レンジに関する安全規格UL923が制定されており、当該UL923において、ドアが閉扉された状態における電波漏れが発生しないことに加えて、使用者が、マイクロ波(周波数 2450MHzの電波)による加熱調理中に、工具類を使用することなく電子レンジに外力や異物を作用させた異常な使用状態においても、加熱室から電波漏れが発生しないことを規定している。
【0005】
このような、電波漏れに関するUL規格への適合を確認するための試験条件の一つとして、加熱調理中に、開閉ドア(以下、「ドア」と略す。)に、電波の供給が停止しない範囲で水平方向にねじる力を加えるという条件がある。引出し型電子レンジでは左右2ヵ所にマイクロ波発生装置のメインスイッチを司るラッチが隙間検知手段として設けられているが、ドアを開けたときの調理器本体前面の見た目及びデザイン性を重視して、これらのラッチは調理器本体内の奥方に配置されている。引出し型の場合、例えば左側に設けられている主スイッチが切れると電動でドアが開くように構成されている。上記の条件は、ドアを捩じるように開けようとし、この片側の主スイッチだけが入るような状態になる際に現れる。即ち、ドアハンドルの右側だけを持ってドアを開こうとしたとき、ドアの右側だけが開き始めようとするが、ドアの左側では閉じたままでありラッチが横すべりをするだけで主スイッチが入りの状態が継続され、調理器の運転、即ちマイクロ波発生装置は停止しない。その結果、部分的に開いているドアの隙間から電波漏れが生じる。
このような条件下での電波漏れの有無を確かめる試験を、本願発明では、便宜上「ジャーク(Jerk)電波漏れテスト」と呼ぶことにする。オープンハンドルと呼ばれる、順手または逆手のどちらで持つことのできるドアの場合、持つことのできる範囲が広がっており、ドアに及ぼす“てこ”がより大きく作用するため、ドアのねじれが大きくなりジャーク電波漏れ防止に不利である。ただし、こうした状況を回避するため、わずかな変位に対してもすぐにラッチが動作してマイクロ波発生装置のメインスイッチが切れるような高感度のラッチ構造にすると、加熱調理中に軽い衝撃が加わっただけでラッチが誤動作して加熱調理が中断するなどの問題が発生するため、ラッチ調整が難しくなり、電子レンジの生産性が悪くなる。また、使用中の開閉操作などの応力で、ラッチの感度が経時変化する可能性もあるので、製品信頼性の意味からも好ましくない。
【0006】
一般に普及しているカウンタートップ設置等の電子レンジは、ヒンジを使用して、縦又は横方向にドアが開閉する構造であり、加熱調理中にドアの片側端面を掴んで、水平方向にねじる力を加えてドアが開くときは端的にラッチが開放され、マイクロ波の供給が直ちに停止することから、ジャーク電波漏れテストの規格を満足することは困難ではない。
【0007】
これに対して、引出し型電子レンジでは、加熱室の左右のラッチによりドアの開放を検知した時は直ちに電波供給を停止するが、一方に偏倚した開扉力がドアに対して作用した時のラッチの検知動作は、具体的な製品構造に依存して個々の電子レンジ毎にばらつきがあって不確定であり、前記のヒンジ構造を採用した電子レンジと異なって、製品設計及び試作時にジャーク電波漏れテストが重要である。
【0008】
特許文献1に記載された引出し型電子レンジでは、開閉ドアを搭載した引出し体が、調理器本体の加熱室外の左右両側面側及び底面側の三箇所に設けられたドア自動開閉のための移動機構を構成するスライド機構によって移動可能に搭載されているが、引出し体と加熱室の互いの加工上の寸法ばらつきを吸収できるよう、両者の寸法関係は、食品の出し入れのために開放されている上方を除き、引出し体を加熱室内に収容した状態で、左右方向及び下方において引出し体と加熱室壁面との間に所定のクリアランスを設けている。
【0009】
特許文献1に記載された引出し型電子レンジでは、引出し体に外力が加わったとき、引出し体がクリアランス相当距離を移動して、引出し体外面が加熱室内面に直接衝突するのを防止するため、引出し体の先端部(引出し方向で見て収容奥部)の外面に複数対のローラー状の緩衝材を回転自在に軸支し、このような衝突への緩衝作用と加熱室内面に対する摺動作用を行っている。
【0010】
複数対の緩衝材は、少なくとも一対の緩衝材である下方緩衝材が、引出し体底面近傍に水平方向に回転軸を有して軸支され、下方への緩衝作用及び摺動作用を行い、別の少なくとも一対の緩衝材である側方緩衝材が、下方緩衝材の上方に鉛直方向に回転軸を有して軸支され、側方への緩衝作用及び摺動作用を行う構成としている。
【0011】
また、従来の引出し型電子レンジでは、側方緩衝材を加熱室側板の上下中央付近に配設し、側方緩衝材の側方に面する加熱室側面への衝突の際に、側板の弾性変形を利用して側方緩衝材に対する応力を緩和する構成としていた。即ち、応力に対して加熱室側面が逃げる構造とすることが信頼性を高める構造であるとして、加熱室側面板において側方緩衝材の取付け位置近傍を占める部位に対しては、他部品の溶接、ねじ締めなどによる固定を回避する設計を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−223336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の緩衝材を配設した引出し型電子レンジにおいては、引出し型電子レンジの開閉ドアのいずれかの端部やドアハンドルの端部などの極端部に水平方向にねじる力を加えると、引出し体に対して縦軸回りの水平回転モーメントが加わるが、その際に、引出し体が加熱室側板内面に対して接近する側では、引出し体から緩衝材を介して加熱室側板に対して圧力が加えられる。このような圧力に応じて加熱室側板が弾性変形すると、引出し体は回転移動し、開閉ドアが閉扉した状態であれば、結果として、加熱室前板とドア内面の間に偏った隙間を生じる。
【0014】
このように引出し体が片方向に偏った隙間を発生させてしまうように移動すると、隙間がある程度広がるまではラッチが動作せず、マイクロ波の供給が停止しないため、当該隙間からマイクロ波の漏れが生じやすい。その結果、引出し型電子レンジは、ジャーク電波漏れテストの規格に適合しない可能性がある構造となっていた。
【0015】
このように、ジャーク電波漏れテストにおいて、開閉ドアに水平方向にねじる力を加えたときの電波漏れを防止するためには、加熱室前板とドア内面の間に隙間を生じさせないことが必要である。
【0016】
このため、製品の軽量化及びコストダウンを目的に加熱室構成材の薄板化を図ったとき、薄板化された構成材から成る加熱室の機械的な強度が充分な安全係数を有するものであっても、ジャーク電波漏れテストにおいて、加熱室側板の弾性変形が原因となって電波漏れが発生することがある。こうした電波漏れの発生が原因となって、加熱室構成材の薄板化をそのまま実現できない問題がある。
【0017】
そのためには、加熱室構成材を薄板化しながら加熱室側板の剛性を高め、弾性変形を防止する解決策が考えられるが、加熱室構成材の板厚を元に戻すことは論外としても、加熱室構成材に補強材を追加するなどの対策を行うと、加熱室構成材の薄板化によるコストダウン効果が減殺され、場合によっては、コストアップになることから、このような部品追加による補強策以外の解決策が求められている。
また、引出し型加熱調理器は、一般的な加熱調理器と比較して床面に近い低い位置に設置されていることから使用者の視点から遠いため、実使用上、ドアを開いた状態で使用者が側方から引出し体に突き当たる懸念があり、その際、引出し体が剛性を以って支持されていると、使用者に強い衝撃を与える可能性がある。したがって、安全性の面からも、加熱室側板の板厚を厚くして剛性を高めることは好ましくない。
【0018】
また、ジャーク電波漏れテスト時のドアをねじる力が加わりにくくするため、ドアハンドル形状を手前に突出した円弧状とし、中央部ではドア前面との間に十分な隙間が開いてており手指が入ることから押し引きの操作はできるが、両端部はドア前面に接近させることで手で掴めない形状としている。したがって、使用者は、引出し型電子レンジの左右幅寸法が相当に広いにもかかわらずハンドル操作部分が中央部に限定されているため、使い勝手に不便を感じることもある。
【0019】
引出し型加熱調理器においては、ドアハンドルに対する大きなデザイン的制約があるため、キッチン全体のインテリアデザインの統一および調和を図るコーディネイトの見地から、水平方向に素直に伸張したドアハンドルが好まれても、ジャーク電波漏れテストに適合しない場合、製品に採用できない問題がある。結果として、引出し型電子レンジが、そのようなインテリアデザインのキッチンに採用されず、販売台数の拡大が阻害されている。このように、ドアハンドルデザインをインテリアデザインにコーディネイトさせてもジャーク電波漏れテストにおいて電波漏れを防止できる解決策が求められている。
【0020】
そこで、外箱体と、その内部に嵌設されており前面が開口する加熱室を形成している内箱体と、開口を閉扉可能な開閉ドアを一体的に備え且つスライド機構によって加熱室内に出没可能な引出し体と、引出し体外面が加熱室内面に直接衝突するのを防止する緩衝材とを備える引出し型加熱調理器において、加熱室を構成する内箱体の側面板のうち緩衝材が対向する部位を、既存の部品を利用して補強する点で解決すべき課題がある。
【0021】
本発明の目的は、加熱室構成材の薄板化に対して、部品点数の増加や製造コストの上昇に繋がる加熱室構成材に補強材を追加するということなく、内箱体を補強することができる引出し型加熱調理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、この発明による引出し型加熱調理器は、矩形の開口部を有する前面板を備えた外箱体と、前記外箱体内に嵌設されており前記外箱体の前記開口部に対応して前面に開口する加熱室が内部に形成された直方体状に構成されている内箱体と、前記加熱室内に出没する引出し状の載置部及び該載置部の前面に衝立状に一体的に配設された開閉ドアを有する引出し体と、前記載置部の左右両側外面において前記内箱体の側板に対向して配設された少なくとも一つの対の緩衝材と、前記内箱体の外側に設けられた固定側移動部材及び前記引出し体に設けられ且つ前記固定側移動部材と係合し摺動動作する可動側移動部材を有しており前記引出し体を前記加熱室内に出没可能に案内するスライド機構とを備えた引出し型加熱調理器において、前記スライド機構の前記固定側移動部材は、前記開閉ドアの閉扉状態のときに一対の前記緩衝材が対向している前記内箱体の側面の部位の背面において固定されていることを特徴としている。
【0023】
この引出し型加熱調理器によれば、引出し体を構成する載置部の左右両側外面において配設された少なくとも一つの対の緩衝材が、開閉ドアの閉扉状態のときに対向することになる内箱体の側板の部位の背面において、引出し体を加熱室内に出没可能に案内するスライド機構の固定側移動部材が固定されているので、内箱体の側板の当該部位が固定側移動部材によって補強される。
【0024】
この引出し型加熱調理器において、一対の前記緩衝材は、前記開閉ドアの閉扉状態のときに前記内箱体の底面と前記側面とが交差する底面角曲げ部の近傍において、前記側板に内接させることができる。
【発明の効果】
【0025】
この引出し型加熱調理器によれば、既存の部品である固定側移動部材の取付け位置について工夫を凝らしているので、加熱室を形成する内箱体の構成材に補強材を追加することなく、従って部品点数の増加や製造コストの上昇させることなく、内箱体を補強することができる。
【0026】
また、この引出し型加熱調理器によれば、一対の前記緩衝材が、前記開閉ドアの閉扉状態のときに前記内箱体の底面と前記側面とが交差する底面角曲げ部の近傍において、前記側板に内接しているので、底壁や底面角曲げ部の剛性によって、側方緩衝材による加熱室の側壁の弾性変形を一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明による引出し型加熱調理器の外観斜視図である。
【図2】図2は図1に示す引出し型加熱調理器における緩衝材配置を示す平面断面概略図である。
【図3】図3は図2に示した緩衝材を備える引出し型加熱調理器を、開閉ドアを取り去った状態で且つ一部を破断して示す正面図である。
【図4】図4は図2に示した緩衝材を備える引出し型加熱調理器を、引出し体が収容された状態で示す側面断面概略図である。
【図5】図5は図4に示す引出し型加熱調理器を、引出し体が引き出された状態で示す側面断面概略図である。
【図6】図6は従来の引出し型加熱調理器の平面断面概略図である。
【図7】図7は図6に示す従来の引出し型加熱調理器を、開閉ドアを取り去った状態で且つ一部を破断して示す正面図である。
【図8】図8は図6に示す従来の引出し型加熱調理器を、引出し体が収容された状態で示す側面断面概略図である。
【図9】図9は図6に示す従来の引出し型加熱調理器を、引出し体が引き出された状態で示す側面断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明による引出し型加熱調理器の実施例を説明する。図1〜図5には、本発明による引出し型加熱調理器の一実施例として引出し型電子レンジが示されている。図1に示すように、調理器本体1は加熱物6を加熱調理するための加熱室3を有する。引出し体2は、矢印で示す方向に調理器本体1の加熱室3内から外へ引き出すことができるように調理器本体1内で移動可能に配置されている。加熱調理器は、引出し体2を調理器本体1内で移動させるための機構としてスライドレール7を含むスライド機構を備えている。引出し体2は、加熱室3の前面に開く開口3aを開閉するための開閉ドア4と、調理物である加熱物6を載置可能であり且つ加熱室3の上記開口から出没可能な容器状の載置台(テーブル)5とを備えている。載置台5は、その周囲において背面側に立設された後壁5aと左右側に立設された側壁5a,5aとを備えており、上方は加熱物6を出し入れするために開いており、前方には開閉ドア4が締結等によって取り付けられている。開閉ドア4が加熱室3の開口3aを閉じることによって、加熱室3の内部空間は調理器本体1の内壁面と引出し体2によって密閉空間とされる。
【0029】
調理器本体1は外箱体に構成されており、加熱室3は、調理器本体1の内部において、金属板を溶接等によって組み立てることにより、前方に開口3aが開く内箱体に形成されている。調理器本体1は、この開口3aと整合する開口部を有する略矩形の金属板である前面板1aを組み合わせた加熱室組品として構成されている。引出し体2を調理器本体1に対してスライド可能に案内するスライドレール7は、加熱室3の外部、即ち、左右両外側及び底部外側の三箇所に配設されている。底部外側のスライドレールには電動モーターによる駆動機構を組み合わせることができ、この場合、駆動機構によって引出し体2を自動開閉させることができる。載置台5が加熱室3内に完全に収容される収容位置では、開閉ドア4は前面板1aの開口部(加熱室3の開口)を閉じることができる。
【0030】
電子レンジにおいては、開閉ドア4の開閉時に加熱源へ電力供給を開始又は停止するスイッチの作動を確実にするために、隙間検知手段としてラッチ機構が必須である。ラッチ機構は、開閉ドア4の閉止状態では確実に係合され、開閉ドア4を開扉動作させるときに速やかに分離する動作を行う。ラッチ機構の設置場所については、引出し型電子レンジにおいては引出し体2が水平方向にリニア移動するため、調理器本体1の前面板1a付近の位置からスライドレール7の終端付近に至る任意の位置であれば支障なく配設することができる。ここでは、ラッチ機構として、スライドレール7の奥端にラッチヘッド11,11を設けると共に、開閉ドア4の閉鎖状態でラッチヘッド11,11と係合可能なラッチフック12,12を加熱室3の奥壁内に設けて、ラッチヘッド11,11がラッチフック12,12と係合することでラッチスイッチが入るように構成した例を示したが(図2、図6)、前面板1a付近に開口3aを挟んで対称となる左右二箇所に配設することもできる。
【0031】
引出し体2が加熱室3内に収容されている状態では、引出し体2と加熱室3の内壁(側壁3b,3b及び底壁3c)との間には左右方向のクリアランスが存在する。引出し体2は、そのままでは、左右方向にねじれて移動する動作をするときにはその奥部で外側面が加熱室3の内面に衝突し、引出し体がそのまま開閉動作すれば加熱室3の内面と擦れ合うことになる。そうした衝突と擦れ合いを回避するため、引出し体2の先端部2aの外面には、プラスチック材料によって形成されたローラー状の緩衝材を回転可能に軸支したローラー組品10が加熱室3内面との間に介在される態様で設けられている。ローラー組品10は、加熱室3の側壁3b,3bとの間で緩衝作用を奏する側方緩衝材10b,10bと、加熱室3の底壁3cとの間で緩衝作用を奏する下方緩衝材10cとから成っている。
【0032】
ジャーク電波漏れ試験において、開閉ドア4のハンドル4aの片側端面を掴んで水平方向にねじる力を加えたとき、一方の側方緩衝材10bが加熱室3の側壁3bの壁面に押し付けられる。加熱室3の側壁3b,3bは、機械的強度を要求される部位ではないことから薄板化が進んでいる。また、側壁3b,3bは、前記したように側方緩衝材10b,10bからの押付力が作用したときには、弾性変形することを予定して設計されている。したがって、ローラー組品10は、引出し体2が左右方向にねじれて移動する動作をするときには、側方緩衝材10b,10bが側壁3b,3bとの衝突を緩衝するのに加えて、移動動作に対しては、ローラー状の緩衝材が回転することにより、側壁3b,3bとの擦れ合いを防止する。
【0033】
図6〜図9に示すように、従来の加熱調理器(電子レンジ)では、側方緩衝材10b,10bは、下方緩衝材10cに近接した位置に設けられており、側方緩衝材10b,10bが当接する側壁3b,3bの部位は、基本的に何らの補強も施されていない。その結果、引出し体2が左右方向にねじれて移動する動作をするときには、そのねじれ方向に応じてローラー状の側方緩衝材10bが加熱室3の側壁3bに先当たりし、側壁3bは側方緩衝材10bの押付けによってその押付け方向に弾性変形して変位する。引出し体2は側壁3bのこの変位によって更にねじれ方向にずれ、前面板1aと開閉ドア4の内面との間に間隙gを生じ、電波漏れが生じる。発明者は、従来の加熱調理器に対してジャーク電波漏れテストを繰返した結果を総合的に分析することにより、該テスト時の電波漏れが、このような構造的要因によるとの知見を得た。
【0034】
このような知見を得たことから、引出し体2の加熱室3の側壁3b,3bへの衝突自体は加熱調理器製品の流通のための輸送途上を除いては発生しないと考えられるが、本発明では、この引出し体2のかかる衝突時の側壁3b,3bによる緩衝作用への考慮を低優先度事項とし、ジャーク電波漏れテストへの適合の優先度を高めることを図っている。即ち、加熱室構成材の薄板化を行うとき、加熱室3の側壁3b,3bのうち上側の側方緩衝材10b,10bが接触する接触部の剛性を、スライドレール7のアングル部品8等を利用して高めることにより、ジャーク電波漏れテストにおいて側方緩衝材10bの圧力により加熱室3の側壁3bの当該接触部が変形しない構造とすれば、引出し体2はねじれ方向にずれることができない。そうすれば、調理器本体組品の前面板1aと引出し体2の開閉ドア4の内面との間に間隙gを生じないことから、電波漏れが発生せず、ジャーク電波漏れテストに合格する引出し型電子レンジとすることができる。
【0035】
あるいは、電波漏れが発生せず、ジャーク電波漏れテストに合格する引出し型電子レンジとするために、加熱室構成材の薄板化を行うとき、加熱室3の側壁3b,3bの剛性を高めるためには、加熱室3を構成する板材、特に、側壁3b,3bを薄くすることを中止する、側壁3b,3bに補強リブを設ける、或いは、側壁3b,3bの側方緩衝材10b,10bが接触する部分に補強材を追加するなどの対応策が考えられる。しかしながら、いずれの対応策も、軽量化及びコストダウンの意図に反するものであり、実際上、採用することが困難である。
【0036】
本引出し型電子レンジでは、引出し体2を加熱室3内に収容した状態における側方緩衝材10b,10bが加熱室3内において占める配設位置と、スライドレール7,7を調理器本体1に取り付けるために加熱室3の側壁3b,3bの背面に配置される固定アングル8,8の取付け位置とが整合されている。このような整合配置とすることにより、側方緩衝材10bが加熱室3の側壁3a,3aを加圧する接触部の位置では、固定アングル8,8が側壁3b,3bを背後から補強しているために、側壁3b,3bの剛性が高くなっている。そして、側方緩衝材10b,10bによって側壁3b,3bへの押付け力は補強された側壁3b,3bで支持されるため、側壁3b,3bの変形が抑制される。したがって、調理器本体1の前面板1aと開閉ドア4の内面との間に間隙gを生じることが無いことから、ジャーク電波漏れテストにおいて電波漏れが発生せず、ジャーク電波漏れテストに合格する引出し型電子レンジとすることができる。
【0037】
このように、加熱室3の側壁3b,3bの板厚を薄くするとき、余分な補強材を必要することもなく、加熱室3の側壁3b,3bの側方緩衝材10b,10bとの接触部の剛性を高めることができるので、加熱室3の製作上のコストダウンを図ることができる。また、ドアハンドル4aを、開閉ドア4に捩じり力を与えないように、中央部分のみを持つことができる構造としたドアハンドル形状に代えて、ドア前面に平行に配設され使用者が任意の位置で把握して開閉力を加えることのできる直柱的形状にしても、使用者操作力によるドア部電波漏れを防止することができ、ドアハンドルに対するデザイン的な制約が、実際上、解消するので好ましい。
【0038】
また、加熱室3の側壁3b,3bの板厚を薄くするとき、図7に示すように、上側のローラー状の側方緩衝材10b,10bを,開閉ドア4の閉扉状態で、内箱体である加熱室3の底壁3cと側壁3b,3bとが交差する底面角曲げ部の近傍において配設することができる。このような配置により、側方緩衝材10b,10bは、加熱室3の構造上最も剛性が高くそれゆえ最も変形しにくい部位である底面角曲げ部に当たることになり、側方緩衝材10b,10bによる加熱室3の側壁3b,3bの弾性変形が一層抑制できるので、引出し体2がねじれにくくなり、更に好ましい。この例では、加熱室3の構造材の板厚を薄板化するとき、引出し体2による圧力に抗して加熱室3の側壁3b,3bが弾性変形しない強度を有するものとなる。したがって、ジャーク電波漏れテストにおいて電波漏れが発生せず、ジャーク電波漏れテストに合格する引出し型電子レンジとすることができる。
このように加熱室3の側壁3b,3bの板厚を薄くしたときに、ジャーク電波漏れテストの対象となる完全に閉扉した位置では、引出し体の回転に対して剛性が生じているが、ドアが開いた状態では引出し体の回転は、加熱室側面板の弾性力で柔軟に支持され、使用者が側方から引出し体に突き当たった場合等は、衝撃が緩和されるので好ましい。
【符号の説明】
【0039】
1 調理器本体 1a 前面板
2 引出し体 2a 先端部
3 加熱室 3a 開口
3b,3b 側壁 3c 底壁
4 開閉ドア 4a ハンドル
5 載置台(テーブル) 5a 後壁
5b,5b 側壁 6 加熱物
7 スライドレール 8 固定アングル
10 ローラー組品 10b 側方緩衝材
10c 下方緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の開口部を有する前面板を備えた外箱体と、
前記外箱体内に嵌設されており前記外箱体の前記開口部に対応して前面に開口する加熱室が内部に形成された直方体状に構成されている内箱体と、
前記加熱室内に出没する引出し状の載置部及び該載置部の前面に衝立状に一体的に配設された開閉ドアを有する引出し体と、
前記内箱体の外側に設けられた固定側移動部材及び前記引出し体に設けられ且つ前記固定側移動部材と係合し摺動動作する可動側移動部材を有しており前記引出し体を前記加熱室内に出没可能に案内するスライド機構とを備え、
前記開閉ドアが閉扉状態から開扉され前記前面板と前記開閉ドアの間に隙間が発生したとき、前記隙間が前記加熱室からマイクロ波が外部に漏洩可能となる間隔となる以前に前記隙間の発生を検知するために少なくとも一対の隙間検知手段を前記開口部の左右に備えた引出し型加熱調理器において、
前記引出し体は、前記開閉ドアが閉扉されていない状態で水平方向の回転に対して裕度を有して支持され、
前記開閉ドアの閉扉状態で前記開閉ドアの極端部に開扉操作力が加わったとき、いずれかの隙間検知手段が前記隙間の発生を検知することを特徴とする引出し型加熱調理器。
【請求項2】
前記載置部の左右両側外面において前記内箱体の側板に対向して配設された少なくとも一つの対の緩衝材を有し、
前記固定側移動部材は、前記開閉ドアの閉扉状態のときに一対の前記緩衝材が対向している前記内箱体の側面の部位の背面において固定されていることを特徴とする請求項1に記載の引出し型加熱調理器。
【請求項3】
一対の前記緩衝材が、前記開閉ドアの閉扉状態のときに前記内箱体の底面と前記側面とが交差する底面角曲げ部の近傍において、前記側板に内接していることを特徴とする請求項2に記載の引出し型加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−181107(P2010−181107A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26015(P2009−26015)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】