説明

引戸の上部ガイド構造

【課題】上レールの取付高さに多少の不均一があっても戸板を円滑に走行させることができ、不意の衝撃によっても戸板が上レールから外れることのない、使い勝手と安全性に優れる戸板の上部ガイド構造を提供する。
【解決手段】本発明の引戸の上部ガイド構造は、上レール13が下方に開口するリップ溝形断面形状を有し、ランナ部材41が、戸板10の框部に取り付けられるケース部42と、このケース部42の天面開口から上方へ突出して収容されるアジャスタ部43とを具備し、アジャスタ部43は、走行輪53が上レール13の両リップ部23上を転動し得る状態で上レール13に係合されるとともに、その下部がケース部42内を一定範囲内で自由に昇降しうるように保持されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸板の上部が天井面等に取り付けられた上レールに案内されて走行する引戸の上部ガイド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
室内空間の可動間仕切りとして設置されるような、比較的背が高くて重量の大きい引戸(引き違い戸や引き分け戸を含む)を、天井面等に設置した上レールから吊持する上吊り方式の引戸は、戸板の荷重を負担する上レールに相当の強度が要求され、天井部分の構造設計やレールの部材設計における難易度が高い。また、戸板を上レールに吊り込む作業も手間がかかる。
【0003】
これに対し、引戸の荷重を床面に敷設した下レールで支承する床支持方式の引戸は、部材設計が経済的に済み、戸板の建て込み作業も比較的容易である。また、天井高に多少の不均一があっても、床面と戸板との間に生じるクリアランスを一定にできるので、床面と戸板との間に足指を挟むような事故は生じにくい。
【0004】
床支持方式の引戸においても、戸板の上部が天井面や上部枠などから外れて倒れるのを防ぎつつ、戸板を円滑に走行させるため、戸板の上部をガイドする上レールが天井面や上部枠に沿って設けられる。このような床支持方式の引戸における上部ガイド構造としては、天井面や上部枠に設けた溝の内側に戸板の上部を単純に嵌め込むけんどん方式のほか、例えば特許文献1、2等に記載の技術が公知である。
【特許文献1】特開平10−196200号公報
【特許文献2】特開2002−81265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のけんどん方式や上記特許文献1記載のような上部ガイド構造では、上レールに対する戸板の掛かりしろを十分に確保しないと、戸板走行時の衝撃や人の寄り掛かり、あるいは地震の衝撃等によって戸板が上レールから外れ、倒れるおそれがある。
【0006】
ところが、一般的な天井仕上げとしては、天井面に厚さ十数ミリ程度の石こうボード等を貼設し、その石こうボード等の板厚内に上レールを埋め込むことも多い。このような条件下で、天井面一杯までの可動間仕切り等を建て込もうとすると、上レール自体の高さ寸法が小さいため、戸板の掛かりしろが少ししか確保できない。したがって、床面から上レールまでの高さを精度良く均一に仕上げなければならず、そのために必要以上の手間がかかり、天井面全体の施工性にも影響する。また、天井面に埋め込んだ上レールに、経年使用による若干の撓みや湾曲が生じることもあり、これによって戸板が上レールから外れやすくなったり、戸板の円滑な走行性が損なわれたりするおそれもある。
【0007】
上記特許文献2には、上レールの断面形状を下方に開口するリップ溝形形状とし、この上レール内に4個の走行輪を備えたランナ部材を組み込んで、上レールのリップ部上を走行させるガイド構造が開示されている。このようなガイド構造によると、上レールからランナ部材が外れてしまうおそれはないが、上レール自体の高さ寸法が小さい場合ば、ランナ部材が上レール内で上下動しうるクリアランスも少なくなるので、床面から上レールまでの高さに微小な不陸があるだけで戸板の走行に支障をきたす。したがって、このようなガイド構造を採用する場合も、床面から上レールまでの高さを精度良く均一に仕上げなければならず、施工面での負担が大きくなる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたもので、上レールの取付高さに多少の不均一があっても戸板を円滑に走行させることができ、かつ、不意の衝撃によっても戸板が上レールから外れることのないような、使い勝手と安全性に優れる戸板の上部ガイド構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の引戸の上部ガイド構造は、下レール上を走行する戸板の上部にランナ部材が取り付けられ、このランナ部材が戸板の上方に配設された上レールに沿って案内される引戸の上部ガイド構造であって、上レールは、下方に開口するリップ溝形断面形状を有し、ランナ部材は、戸板の框部に取り付けられる、天面の開口したケース部と、このケース部内に、上方へ突出した状態で収容されるアジャスタ部とを具備し、アジャスタ部は、その上部に水平方向の支軸を介して取り付けられた走行輪が上レールの両リップ部上を転動し得る状態で上レールに係合されるとともに、その下部がケース部内を一定範囲内で自由に昇降しうるように保持されることを特徴とする。
【0010】
この発明によると、戸板に取り付けられるケース部に対して、上レールに係合するアジャスタ部が自由に昇降するので、上下レール間の高さに不陸がある場合でも、アジャスタ部がその不陸を吸収しつつ自由に上下動して上レール上を円滑に走行する。アジャスタ部は、その上部に取り付けられた走行輪によって上レールのリップ部に常時、係合されるので、上レール自体の断面寸法が小さくても良好な係合状態が得られ、不意の衝撃を受けても戸板が上レールから外れない。
【0011】
上記発明において、アジャスタ部の下部近傍に重り部材を取り付けると、アジャスタ部に取り付けられた走行輪が下方に付勢されて、上レールのリップ部上での走行安定性が増す。
【0012】
また、上記発明においては、上レールの上底部中央に、下方へ垂下する振れ止め片が突設されるとともに、アジャスタ部の天面中央に断面略U字状の係合溝が形成され、この係合溝が上記振れ止め片を両側から挟み込むようにして上レールに係合するように構成してもよい。これによると、戸板の内外方向(移動方向と直交する方向)へのぶれも減少させることができる。
【0013】
上記発明におけるケース部は、戸板の框部に対して側方から取着し得るように形成されるのが好ましい。この構成によると、戸板を建て込む前に上レールにランナ部材を係合させておき、戸板を建て込むときに、上レールからぶら下がったランナ部材を戸板の框に取り付けることができるので、施工が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
上述のように構成される本発明の引戸の上部ガイド構造によれば、戸板に取り付けられるケース部に対して、上レールに係合するアジャスタ部が自由に昇降するので、上レールの取付高さに不陸がある場合でも、アジャスタ部がその不陸を吸収しつつ自由に上下動して上レール上を円滑に走行する。アジャスタ部は、その上部に取り付けられた走行輪によって上レールのリップ部に常時、係合されるので、上レール自体の断面寸法が小さくても良好な係合状態が得られ、不意の衝撃を受けても戸板が上レールから外れない。万一、戸板の下部が下レールから脱輪しても、戸板は安全に保持される。
【0015】
また、戸板の重量が大きい場合でも、上レールやランナ部材の走行輪にはアジャスタ部の自重しかかからないので、上レールの断面寸法や走行輪の径を小さくすることができる。したがって、厚さ十数ミリ程度の天井仕上材の板厚内に上レールを埋め込むことも容易になり、天井全体の構造設計や部材設計における経済性が向上するとともに施工も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0017】
図1及び図2は、本発明の引戸の上部ガイド構造を採用した引戸の概略構成を示す。この引戸は、開口部の略半分幅の2枚の戸板10が引き違い可能に、かつ、2枚の戸板10を戸袋壁11の前面に引き込んで重ねることができるように構成されたものである。2枚の戸板10は、床面に敷設された2本の下レール12と、天井面に取り付けられた2本の上レール13とによってそれぞれガイドされる。
【0018】
図3〜図5は、本発明の引戸の上部ガイド構造の実施形態を示す。図3は図1におけるA−A’断面を示し、図4は同じくB−B’断面を示す。
【0019】
下レール12は、本発明の要部ではなく、その構造は特に限定されないが、例えば床面に埋め込まれる略U字状または逆ハット状の断面形状をなし、その溝を戸板10の下部に取り付けられた高さ調整機能付きの下戸車14が転動しうるようなものである。
【0020】
本発明の要部を構成する上レール13は、戸板10の厚みと略同幅に形成された上底部21と、上底部21の両縁から垂下する一対の側壁部22と、側壁部22の下縁から内側に向かって水平に張り出す一対のリップ部23とを備えた、いわゆるリップ溝形断面形状をなしている。上底部21の中央には、リップ部23よりも下方に突出しない長さで振れ止め片24が垂下している。2本の上レール13は、上底部21を延設して形成された連結部25を介し、適宜の間隔を隔てて一体に成形されている。連結部25を天井下地材31にビス止めすることにより上レール13が天井面に固定され、この上レール13と略同厚の、例えば石こうボード等からなる天井仕上材32が、上レール13を挟むようにして天井面に貼設されている。
【0021】
上レール13における側壁部22の外側には、天井仕上材32の端面を当接させるための凸条26が、材軸方向に沿って形成されている。さらに、側壁部22の下縁部には、リップ部23の外方に延設された張出片27と、この張出片よりやや上方に突設された突片28からなる溝部が形成されている。この溝部は、天井仕上材32の下面に貼設されるクロス材33の端部を美麗に仕舞って、クロス材33の端部がめくれるのを防ぐのに寄与する。
【0022】
ランナ部材41は、戸板10の框部に取り付けられる金属製のケース部42と、ケース部42内に収容される硬質樹脂製のアジャスタ部43とを備える。ケース部42は、天面が開口して内側に略直方体状の中空部を有する箱状の部材であって、その前後幅が戸板10の縦框15の厚みに収まる寸法に形成され、戸板10の縦框15に形成された取付用切欠部16に側方から取り付けられる。ケース部42と戸板10との固定は、ケース部42の端壁部と前後壁部からそれぞれ延設された固定片44、45を戸板10の縦框15にビス止めすることにより行われる。
【0023】
アジャスタ部43は、ケース部42の中空部と略合致する略直方体状の部材であって、その上部をケース部42の天面から突出させた状態でケース部42内に収まり、ケース部42内で昇降自在に保持される。アジャスタ部43の前後両面には、それぞれ縦方向に延びる凹溝46が形成される一方、ケース部42の前後壁部の内側には、それぞれ縦方向に延びる凸条47が形成され、これら凹溝46と凸条47とが係合してアジャスタ部43の昇降が円滑に案内される。また、アジャスタ部43の底部には、前後方向に張り出す小さな爪辺48が形成される一方、ケース部42の前後壁部の内側における中間位置には横方向に延びる段部49が形成され、上記爪辺48が上記段部49に引っ掛かることにより、アジャスタ部43がケース部42から抜け出してしまわないように保持される。さらに、アジャスタ部43の下部近傍には、例えば真鍮等からなる棒状の重り部材51が嵌入されて、アジャスタ部43に降下方向の付勢力を与えている。
【0024】
アジャスタ部43の上部には、戸板10の移動方向に延びる断面略U字状の係合溝52が、アジャスタ部43の天面中央に開口して形成されている。また、この係合溝52を挟むようにして、アジャスタ部43の上部の前後左右に4個の走行輪53が取り付けられている。走行輪53は、前後方向に取り付けられた支軸54を介して同じ高さに保持され、縦方向に回転する。この走行輪53がアジャスタ部43の前後に張り出すことによって、アジャスタ部43はケース部42内に完全に没入しないようになっている。
【0025】
アジャスタ部43は、上部の走行輪53が上レール13の両リップ部23上を転動し得る状態で上レール13に係合される。このとき、アジャスタ部43の上部に形成された係合溝52は、上レール13の振れ止め片24を両側から挟み込む。アジャスタ部43の走行輪53と上レール13の上底部21との間、及び、アジャスタ部43の係合溝52と上レール13の振れ止め片24との間には、それぞれ適宜のクリアランスが確保される。
【0026】
このようにして、上レール13に係合されるアジャスタ部43が、戸板10に取り付けられるケース部42内に昇降自在に収容されることにより、戸板10が上レール13または下レール12の不陸等によって走行中に上下動しても、アジャスタ部43と上レール13との良好な係合状態が保持され、アジャスタ部43の走行輪53は上レール13のリップ部23上を円滑に走行する。また、戸板10に強い衝撃が加わった場合でも、アジャスタ部43は上レール13から外れず、また、アジャスタ部43がケース部42から抜け出したりもしないので、戸板10が倒れるのを防止することができる。
【0027】
図6〜図7は、アジャスタ部43を上レール13に係合させるための構造を示す。アジャスタ部43を上レール13に係合させるには、図6に示すように、上レール13の片端にリップ部23のない欠取部17を設け、この欠取部17からアジャスタ部43の上部を挿入する。アジャスタ部43を挿入した後、欠取部17の断面形状に合わせて形成した、図7に示すようなストッパ部材18を欠取部17に嵌め込み、上レール13にビス止めする。
【0028】
図8は、戸板10の建て込み方法を示す。まず、図6〜図7のようにして、戸板10に取り付けていない状態のランナ部材41を上レール13に係合させる。1枚の戸板10は、通常、2個のランナ部材41によってガイドされるので、各上レール13に2個ずつのランナ部材41を係合させた後、上レール13の欠取部17にストッパ部材18を取り付け、ランナ部材41の抜け出しを防ぐ。
【0029】
次いで、戸板10を下レール12に載せて建て起こし、戸板10の縦框15と、上レール13に係合されているランナ部材41とを連結する。ランナ部材41のケース部42は、上レール13に係合されたアジャスタ部43に対して昇降可能であり、また、戸板10の縦框15に形成された取付用切欠部16は、ランナ部材41のケース部42を側方から取り付けられるように開口しているので、戸板10を持ち上げなくとも、戸板10とランナ部材41とを容易に連結することができる。また、戸板10とランナ部材41とを連結する作業は、開口面内の任意の位置で行うことができる。
【0030】
戸板10とランナ部材41とが連結されたならば、戸板10の端面に戸当り緩衝材を貼設し、下戸車14を上下動させて戸板10の建て付けを調整する。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されず、戸板及びレールの数や開閉形態(片引き、引き違い、引き込み、引き分け等)を変えたり、上レールを天井以外の部位(例えば梁下等)に取り付けたりするなどの形態によっても実施することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の引戸の上部ガイド構造は、各種建築物や家具の引戸式建具、可動間仕切り壁等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る引戸の概略構成を示す立面図である。
【図2】同じく、平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る引戸の上部ガイド構造を示す縦断面(図1のA−A’断面)図である。
【図4】同じく、横断面(図1のB−B’断面)図である。
【図5】ランナ部材と戸板の縦框の形状を示す部分斜視図である。
【図6】ランナ部材のアジャスタ部を上レールに係合させる方法を示す斜視図である。
【図7】上レールの欠取部に取り付けるストッパ部材の形状を示す斜視図である。
【図8】戸板の建て込み方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
10 戸板
12 下レール
13 上レール
21 上底部
23 リップ部
24 振れ止め片
41 ランナ部材
42 ケース部
43 アジャスタ部
51 重り部材
52 係合溝
54 支軸
53 走行輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下レール上を走行する戸板の上部にランナ部材が取り付けられ、このランナ部材が戸板の上方に配設された上レールに沿って案内される引戸の上部ガイド構造であって、
上レールは、下方に開口するリップ溝形断面形状を有し、
ランナ部材は、戸板の框部に取り付けられる、天面の開口したケース部と、このケース部内に、上方へ突出した状態で収容されるアジャスタ部とを具備し、
アジャスタ部は、その上部に水平方向の支軸を介して取り付けられた走行輪が上レールの両リップ部上を転動し得る状態で上レールに係合されるとともに、その下部がケース部内を一定範囲内で自由に昇降しうるように保持されることを特徴とする引戸の上部ガイド構造。
【請求項2】
アジャスタ部の下部近傍に重り部材が取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の引戸の上部ガイド構造。
【請求項3】
上レールの上底部中央に、下方へ垂下する振れ止め片が突設されるとともに、アジャスタ部の天面中央に断面略U字状の係合溝が形成され、この係合溝が上記振れ止め片を両側から挟み込むようにして上レールに係合することを特徴とする請求項1に記載の引戸の上部ガイド構造。
【請求項4】
ケース部は、戸板の框部に対して側方から取着し得るように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の引戸の上部ガイド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−194026(P2006−194026A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8620(P2005−8620)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】