説明

引戸の引き込み装置

【課題】閉まり際において引戸を十分減速することができ、引戸を完全に閉め切ることができる引戸の引き込み装置を提供する。
【解決手段】装置本体4と、操作部材7とを備え、装置本体4には、ケーシング8と、直動タイプのダンパー9と、カム11と、引っ張りコイルばね12と、ダンパー9が連結されたダンパー連結部材14とが設けられ、引戸5が閉方向に移動するとき、カム11は、案内溝10に連設された係止部10cに係止された状態で操作部材7に係合するとともに係止部10cから抜け出して案内溝10に係合してダンパー連結部材14を押圧し、ダンパー連結部材14が案内溝10の引戸5全閉位置近傍に連設された係止部10dに係止されると、ダンパー連結部材14から離れ、装置本体4は引っ張りコイルばね12の付勢力のみを受けて引戸5全閉位置まで移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸を閉まり際において緩やかに閉める引戸の引き込み装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載される引戸の引き込み装置は、枠体に設けられた装置本体と、引戸に設けられ装置本体を操作する操作部材とを備えている。装置本体には、枠体に固定されたケーシングレールと、ケーシングレールに案内されて往復移動する引き込み部材とが設けられる。引き込み部材は、ケーシングレールのラックと噛み合うピニオンギアを備え、コイルばねによって引戸の閉方向に付勢されている。ピニオンギアには回転ダンパーが連結されており、引戸が閉方向に移動するとき、ピニオンギアは回転ダンパーから抵抗力を受けて減速する。引戸が全閉位置に近付くと、ピニオンギアはラックから外れて直線部に移る。ピニオンギアが直線部に移ると、ピニオンギアは回転ダンパーからの抵抗力を受けなくなり、引戸は、コイルばねによって閉方向に付勢された状態で全閉位置まで移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−200298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の回転ダンパーは発生する抵抗力が小さいので、勢いを付けて引戸を閉めたときのように閉方向に移動する速度が高い場合には、閉まり際において引戸が十分減速されないことがあり危険である。さらに、引戸にラッチが設けられている場合には、ラッチが抵抗となって引戸が完全に閉まり切らない場合がある。
本発明の目的は、閉まり際において引戸を十分減速することができ、引戸を完全に閉め切ることができる引戸の引き込み装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、引戸に設けられた装置本体と、上枠に設けられ装置本体を操作する操作部材とを備え、装置本体には、引戸に固定されるケーシングと、ケーシングに取付けられる直動タイプのダンパーと、操作部材に係合した状態でケーシングの案内部に沿って移動するカムと、装置本体が設置された引戸を閉方向に付勢する付勢手段と、ダンパーのロッドが連結され、操作部材に係合したカムに押圧されてダンパーから抵抗力を受けるダンパー連結部材とが設けられ、引戸が閉方向に移動するとき、カムは、案内部に連設された第1係止部に係止された状態で操作部材に係合するとともに第1係止部から抜け出して案内部に係合してダンパー連結部材を押圧し、ダンパー連結部材が案内部の引戸全閉位置近傍に連設された第2係止部に係止されるとダンパー連結部材から離れ、装置本体は付勢手段の付勢力のみを受けて引戸全閉位置まで移動することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明では、引戸は引戸の閉方向に向かって下降傾斜したレールに支持されているものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、第1係止部から抜け出して案内部に係合したカムは、ダンパー連結部材が第2係止部に係止するまでの間、ダンパー連結部材を押圧するので、引戸は直動タイプのダンパーの抵抗力を受けて閉まり際において十分減速され、ダンパー連結部材が第2係止部に係止された後は、付勢手段の付勢力のみを受けて引戸全閉位置まで移動するので、引戸を完全に閉め切ることができる。
【0007】
請求項2の発明によれば、装置本体は引戸の自重によって引戸ととともに自動的に閉方向に移動するので、操作者が引戸を閉方向に移動しなくても第1係止部に係止したカムを操作部材に当接させ、カムを第1係止部から案内部へ押し出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る引戸の引き込み装置の横断面図である。
【図2】装置本体の縦断面図である。
【図3】装置本体の正面図である。
【図4】ケーシング部材の平面図である。
【図5】カムの斜視図である。
【図6】係止部材の斜視図である。
【図7】ダンパー連結部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第1の実施の形態について図1〜図7に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る引戸の引き込み装置1の横断面図である。図2は装置本体4の縦断面図である。図3は装置本体4の正面図である。図4はケーシング部材8aの平面図である。図5はカム11の斜視図である。図6は係止部材26の斜視図である。図7はダンパー連結部材14の斜視図である。
【0010】
引戸の引き込み装置1は、引戸5をレール3に移動可能に支持する吊り車6に連設される装置本体4と、上枠2に取り付けられたレール3に係止され装置本体4を操作する操作部材7とを備える。レール3は引戸5の閉方向である戸先側に向かって下降傾斜しており、開方向である戸尻側に移動した引戸5は、引戸5の自重によって自動的に閉方向に移動可能である。
【0011】
装置本体4には、引戸5にねじ止めされるケーシング8と、ケーシング8に設置される直動タイプのダンパー9と、操作部材7に係合した状態でケーシング8の案内溝10に沿って移動するカム11と、装置本体4を引戸5の開方向に付勢する引っ張りコイルばね12と、一端部がダンパー9のロッド13先端部に連結され、引戸5が閉方向に移動するときカム11に押圧されてダンパー9からの抵抗力を受けるダンパー連結部材14とが設けられる。
【0012】
ケーシング8は、たとえば樹脂成型され、引戸5の移動方向に沿って上下に分割可能なケーシング部材8aと8bとを備える。ケーシング部材8aと8bとは、ケーシング部材8aと8bとを結合する結合部を除いて対称に形成されている。ケーシング部材8a,8bには、ダンパー9のシリンダー部を収容するダンパー収容部15と、カム11とダンパー連結部材14とを案内する案内溝10と、引っ張りコイルばね12の一端部をケーシング8に支持する支持部材17を係止する係止溝18とを備える。
【0013】
ダンパー9はロッド13が戸先側に位置した状態で、シリンダー部分がダンパー収容部15に収容される。案内溝10は第1案内溝10aと第2案内溝10bとを備える。第1案内溝10aと第2案内溝10bとは、ダンパー収容部15の戸先側に位置する側壁内面に形成される。第2案内溝10bは、ダンパー9の軸心上に幅広に形成される。第1案内溝10aは、ダンパー9の軸心上であって第2案内溝10bの底部中央に第2案内溝10bよりも幅狭に形成される。第2案内溝10bの戸先側端部と戸尻側端部とには、後に詳述するカム11の第2係合部24が係止される係止部10cと、ダンパー連結部材14の係合部35が係止される係止部10dとが、他側部側に突出した状態で連設される。
【0014】
係止溝18の戸尻側端部には他側部側に突出した係止部18aが連設されている。引っ張りコイルばね12の一端部を支持する支持部材17は係止溝18の戸先側端部に係止されているが、支持部材17を戸尻側端部に位置する係止部18aに係止させて、カム11に働く付勢力を大きくすることができる。
【0015】
カム11は、引戸5の移動方向に対して上下対称となるように樹脂成型される。カム11の中央部にはダンパー9のロッド13が挿通される孔部19が形成され、カム11の一側部には、戸尻側と戸先側とに各々凸部20と凸部21とが形成される。凸部20と凸部21との間には操作部材7に係合する凹部22が形成される。カム11の上面と下面とには、第1係合部23と第2係合部24とが上下方向に突出するように各々形成される。第1係合部23と第2係合部24とはともに円柱状とされ、第1係合部23は第2係合部24よりも小径細長に形成される。第1係合部23はケーシング8の第1案内溝10aに係合し、第2係合部24はケーシング8の第2案内溝10bに係合する。カム11の他側部には引っ張りコイルばね12の戸先側端部を支持する鉤部25が形成される。
【0016】
ダンパー9のロッド13先端部には、ロッド13をダンパー連結部材14に係止するための係止部材26が取付けられる。係止部材26には、ロッド13の先端部が圧入される孔部27と、ダンパー連結部材14に係合する係合凸部28とが形成される。係合凸部28は、係止部材26の側面に、孔部27と直交する上下方向に突出した状態で形成される。
【0017】
ダンパー連結部材14は、たとえば樹脂成型される。ダンパー連結部材14は、壁部30と、壁部30の戸尻側に一端部側に傾いた状態で連設される壁部31と、壁部31の戸尻側端部から一側部側に立ち上がる立ち上がり部32と、壁部30の戸先側端部から一側部側に立ち上がる立ち上がり部33とを備える。壁部31と立ち上がり部32とには、カム11の鉤部25基端部が収容される水平方向の切り込み34が形成される。
【0018】
切り込み34には段付き部が設けられ、戸尻側開口部が幅広に形成されているので、カム11の鉤部25基端部は、立ち上がり部32に接触することなく切り込み34に収容される。立ち上がり部32端部の上面と下面とには係合部35が各々上下方向に突出するように形成される。係合部35は円柱状に形成されており、ケーシング部材8の第2案内溝10bに係合する。
【0019】
立ち上がり部33の端部には、ダンパー9のロッド13先端部に取り付けられた係止部材26が係合する係合部39が形成される。係合部39には、ロッド13の軸心方向に沿って切り込み36が設けられる。切り込み36を形成する上下壁部の一側部側には、ロッド13の軸心方向と直交する方向に溝部37が形成される。溝部37の他側部側には、溝部37よりも幅広な丸孔38が連設される。
【0020】
係止部材26の係合凸部28は、円筒の側面が平面状にカットされた幅狭な形状とされており、平面部28aが溝部37と平行な状態で、係合凸部28を溝部37に嵌め込んで、係合凸部28を丸孔38に係止させることができる。係合部39に係合した係合凸部28は、立ち上がり部33の上面側と下面側とに突出しているので、係合凸部28を容易にケーシング8の第1案内溝10aに係合することができる。
【0021】
引戸の引き込み装置1の動作について説明する。引戸5が開いているときの引戸の引き込み装置1を図2(a)に示す。カム11は、鉤部25基端部がダンパー連結部材14の切り込み34に収容された状態で、第1係合部23が第1案内溝10aに係合し、第2係合部24が係止部10cに係止されている。ダンパー連結部材14は、係合部39に係合した係止部材26の係合凸部28が第1案内溝10aに係合し、係合部35が第2案内溝10bに係合した状態で、カム11の他側部側を覆うように配置されている。なお、カム11の戸先側他側部は面取りされているので、カム11の第2係合部24が係止部10cに係止されたとき、カム11がダンパー連結部材14と接触することを防止することができる。
【0022】
戸尻側に位置している装置本体4が引戸5とともに閉方向に移動すると、カム11の凸部20が、操作部材7に当接する。カム11は、第2係合部24が係止部10cに係止されて戸先側が他側部側に傾いているので、戸先側の凸部21が操作部材7に当接することが防止される。凸部20が操作部材7に当接してカム11が戸尻側に押圧されると、第2係合部24が係止部10cから抜け出て第2案内溝10bに移動する。
【0023】
図2(b)に示すように、カム11が係止部10cから抜け出ると、閉方向に移動する装置本体4には、引っ張りコイルばね12の付勢力が閉方向に働く。カム11の戸尻側端面40がダンパー連結部材14の立ち上がり部32を押圧し、ダンパー連結部材14に係合したダンパー9のロッド13を戸尻側に押すので、装置本体4はダンパー9から抵抗力を受けながら戸先側に移動する。引戸5は、ダンパー9の抵抗力によって、戸先側に移動するにしたがって減速される。ダンパー9として直動タイプのものが用いられているので、勢い良く引戸5が閉められた場合であっても引戸5を確実に減速させることができる。本実施の形態ではエアダンパーを用いているが、これに限定されるものではなくオイルダンパーを用いることもできる。
【0024】
装置本体4がさらに戸先側に移動すると、ダンパー連結部材14の係合部35は、第2案内溝10bから離れて、図2(c)に示すように係止部10dに係止される。係合部35が係止部10dに係止されると、ダンパー連結部材14は戸尻側が他側部側に傾く。立ち上がり部32が他側部側に移動するので、カム11はダンパー連結部材14から離れる。カム11は、ダンパー連結部材14から離れるとダンパー9から抵抗力を受けなくなる。装置本体4は、引っ張りコイルばね12によって戸先側に付勢された状態で引戸の全閉位置まで移動するので、引戸5を完全に閉め切ることができる。
【0025】
全閉位置にある引戸5を開ける場合には、引っ張りコイルばね12の付勢力に抗して引戸5を開方向に移動させる。装置本体4が開方向に移動して、係止部10dに係止されているダンパー連結部材14の切り込み34にカム11の鉤部25基端部が収容されるとともに、ダンパー連結部材14の立ち上がり部33がカム11の戸先側端面41に当接する。引戸5をさらに開方向に移動すると、ダンパー連結部材14の係合部35が係止部10dから抜け出て第2案内溝10bに移動する。装置本体4は、ダンパー連結部材14の立ち上がり部33がカム11の戸先側端面41に当接した状態で開方向に移動する。このときダンパー9の抵抗力は生じない。カム11の第2係合部24は第2案内溝10bから離れて係止部10cに移動する。第2係合部24が係止部10cに係止されると、カム11は戸先側が斜めに傾き、凸部21は操作部材7から離れて引戸5とともに戸尻側に移動する。本実施の形態では、引戸5側に装置本体4が設けられ、上枠2側に操作部材7が設けられているが、これに限定されるものではなく、引戸5側に操作部材7を設け、上枠2側に装置本体4を設けることもできる。
【0026】
このように、引戸5に設けられた装置本体4と、上枠2に設けられ装置本体4を操作する操作部材7とを備え、装置本体4には、引戸5に固定されるケーシング8と、ケーシング8に取付けられる直動タイプのダンパー9と、操作部材7に係合した状態でケーシング8の案内部である案内溝10に沿って移動するカム11と、装置本体4が設置された引戸5を閉方向に付勢する付勢手段である引っ張りコイルばね12と、ダンパー9のロッド13が連結され、操作部材7に係合したカム11に押圧されてダンパー9から抵抗力を受けるダンパー連結部材14とが設けられ、引戸5が閉方向に移動するとき、カム11は、案内溝10に連設された第1係止部である係止部10cに係止された状態で操作部材7に係合するとともに係止部10cから抜け出して案内溝10に係合してダンパー連結部材14を押圧し、ダンパー連結部材14が案内溝10の引戸5全閉位置近傍に連設された第2係止部である係止部10dに係止されるとダンパー連結部材14から離れ、装置本体4は引っ張りコイルばね12の付勢力のみを受けて引戸5全閉位置まで移動するので、閉まり際において引戸5を十分減速することができ、引戸5を完全に閉め切ることができる。
【0027】
さらに、引戸5は引戸5の閉方向に向かって下降傾斜したレール3に支持されているので、操作者が引戸5を閉方向に移動しなくても係止部10cに係止したカム11を操作部材7に当接させ、カム11を係止部10cから案内溝10へ押し出すことができる。
【符号の説明】
【0028】
1 引戸の引き込み装置
2 上枠
3 レール
4 装置本体
5 引戸
6 吊り車
7 操作部材
8 ケーシング
8a,8b ケーシング部材
9 ダンパー
10 案内溝
10a 第1案内溝
10b 第2案内溝
10c,10d 係止部
11 カム
12 引っ張りコイルばね
13 ロッド
14 ダンパー連結部材
15 ダンパー収容部
17 支持部材
18 係止溝
18a 係止部
19,27 孔部
20,21 凸部
22 凹部
23 第1係合部
24 第2係合部
25 鉤部
26 係止部材
28 係合凸部
28a 平面部
30,31 壁部
32,33 立ち上がり部
34,36 切り込み
35 係合部
37 溝部
38 丸孔
40 戸先側端面
41 戸尻側端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸に設けられた装置本体と、上枠に設けられ装置本体を操作する操作部材とを備え、
装置本体には、引戸に固定されるケーシングと、
ケーシングに取付けられる直動タイプのダンパーと、
操作部材に係合した状態でケーシングの案内部に沿って移動するカムと、
装置本体が設置された引戸を閉方向に付勢する付勢手段と、
ダンパーのロッドが連結され、操作部材に係合したカムに押圧されてダンパーから抵抗力を受けるダンパー連結部材とが設けられ、
引戸が閉方向に移動するとき、カムは、案内部に連設された第1係止部に係止された状態で操作部材に係合するとともに第1係止部から抜け出して案内部に係合してダンパー連結部材を押圧し、ダンパー連結部材が案内部の引戸全閉位置近傍に連設された第2係止部に係止されるとダンパー連結部材から離れ、装置本体は付勢手段の付勢力のみを受けて引戸全閉位置まで移動することを特徴とする引戸の引き込み装置。
【請求項2】
前記引戸は引戸の閉方向に向かって下降傾斜したレールに支持されていることを特徴とする請求項1に記載の引戸の引き込み装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96203(P2013−96203A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242955(P2011−242955)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000133319)株式会社ダイケン (53)