説明

引留クランプのジャンパー線接続部の切除用縦切り刃

【課題】 鋼スリーブを傷付けることなく、アルミスリーブに切り込みを入れ、ジャンパー線接続部切断後の引留クランプを弱体化させない切断装置用の縦切り刃を提供する。
【解決手段】 切断装置1は可搬式油圧プレス機2に対向一対の横切り刃3又は縦切り刃4を装着して、一方を他方に対して進退自在に移動でき、横切り刃3でアルミスリーブに軸線方向の切り込みを入れた後に、縦切り刃4で軸線直交方向に切り込みを入れる。縦切り刃4は、取付基部4aの板面から断面山形に突出し対向一対の斜面で形成される頂部稜線の中間部に円弧状の刃先4dを有する。この刃先4dの両端部に、互いに突き合わせた刃先同士の接触を阻止して刃先の切り込み深さを規制する干渉部を設けると共に、刃先4dの厚みを約4mmとし、さらに厚み方向先端断面を円弧状とすることにより、鋼スリーブC1を傷付けることなくアルミスリーブC2に切り込みを入れることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
送電線の新旧線を交換する際、旧線による新線のけん引・延線作業に先立って、旧線の前後端の引留クランプが金車上を円滑に通過するために、引留クランプのジャンパー線接続部を切除する工具に装着される縦切り刃に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数径間にまたがる旧線を新線に交換する場合には、旧線の終端に新線を接続し、旧線の始端にパイロットワイヤをつないで金車上をけん引する。旧線の始端及び終端の引留クランプは、鋼心線に圧縮接続する鋼クランプと、この鋼クランプ及びアルミより線に被挿して圧縮接続するアルミスリーブとから構成されている。アルミスリーブには、隣接する径間の電線相互を連係するジャンパー線を接続するために羽子板状のジャンパー線接続部が側方に張り出すように形成されている。このジャンパー線接続部が金車の通過を妨げる。このため従来は特許文献1に記載の切断工具により引留クランプのジャンパー線接続部を切断した後、旧線の終端に新線を接続することが行われている。この切断工具は、引留クランプにおけるジャンパー線接続部が一体形成されたアルミスリーブに軸方向の直線状切込みを入れる横切り刃と、アルミスリーブに円弧状切込みを入れる縦切り刃と、これら両刃を着脱可能な可搬式油圧プレスとを備えている。可搬式油圧プレスの上下ダイス部にまず前者を装着して切込みを直線状に入れ、次に前者を取り外して後者を装着して切込みを環状に入れれば、切除部分が手作業で除去可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-331722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切断工具では、アルミスリーブに円弧状切込みを入れる縦切り刃の刃先が、互いの突き合わせ方向先端まで形成されており、刃先同士の接触位置に対応するアルミスリーブへの切り込みが深く入るので、アルミスリーブを越えてその内部の鋼スリーブまで刃先が及び、軸線直交方向の傷を付け、金車通過時の曲げに対して引留クランプを弱体化させてしまう。また、刃先が1mm程度の厚さで鋭角なため、鋼スリーブに刃が食い込み易く、特に縦切り刃の刃先の厚み方向両端に形成されるエッジの進入が影響する。
そこで、本発明は、アルミスリーブに切り込みを入れる際に鋼スリーブを傷付けることなく、引留クランプを弱体化させないジャンパー線接続部の切断工具の縦切り刃を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、鋼心アルミより線Lを引き留め、隣接する径間の相互を連係するジャンパー線を接続するための引留クランプCにおけるアルミスリーブC2から側方へ張り出したジャンパー線接続部C3を切断除去するために、アルミスリーブC2に直交方向の切り込みを入れる油圧駆動の対向一対の円弧状縦切り刃4を、その刃先4dの長さ方向両端部から突き合わせた相手切り刃4に向かって干渉部4eを突出させ、互いに突き合わせた刃先4d同士の接触を阻止して刃先4dの切り込み深さを規制することとした。また、刃先4dの厚みを約4mmとした。さらに、刃先4dの厚み方向断面を円弧状に形成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明のおいては、縦切り刃の刃先から干渉部が突出するので、互いに突き合わせた刃先同士が接触する手前で接近を止めることにより、アルミスリーブを越えた食い込みを防止し、鋼スリーブへの傷を防ぎ、引留クランプを弱体化させない。
また、刃先の厚みが4mm程度の広さのため、アルミスリーブを越えて刃先が食い込んでも硬質の鋼スリーブへの食い込みが小さい。
さらに、刃先の厚み方向断面を円弧状に形成したため、刃先の厚み方向両端にエッジが形成されず、鋼スリーブへの食い込みを防止でき、さらに傷を付け難くするという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】横切り刃を装着した切断装置の正面図である。
【図2】本発明に係る縦切り刃を装着した切断装置の正面図である。
【図3】横切り刃の斜視図である。
【図4】本発明に係る縦切り刃の斜視図である。
【図5】縦切り刃の正面図である。
【図6】縦切り刃の平面図である。
【図7】縦切り刃の中央の一部切欠き縦断面図である。
【図8】ジャンパー線接続部の切除作業の過程を示す説明図である。
【図9】引留クランプの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の一形態を図面を参照して説明する。
図9において、引留クランプCは、鋼心アルミより線Lの鋼心線L1を鋼クランプC1の中心孔へ挿入圧着し、さらにアルミスリーブC2を鋼クランプC1上に圧着したものである。アルミスリーブC2にはジャンパー線を接続するための羽子板状のジャンパー線接続部C3が側方(図中下方)に張り出している。
【0009】
図1,図2に示すように、アルミスリーブC2のジャンパー線接続部C3を切除するための切断装置1は、可搬式油圧プレス機2と、油圧プレス機2に装着される横切り刃3及び縦切り刃4とを備えている。油圧プレス機2は、略コ字状のフレーム5を備え、その対向する装着部5a,5bにホルダ6を介して横切り刃3又は縦切り刃4が装着される。フレーム5の一方の装着部5aにはホルダ6が固定され、他方の装着部5bにはホルダ6が一方の装着部5aに対して油圧プレス機2の油圧により直線上を進退可能に設けられる。ホルダ6は内広がりの溝を備えた略C字状を成す。
【0010】
図3に示すように、横切り刃3は、断面凸形の矩形板状の取付基部3aと、取付基部3aから突出した刃先3bとを備えている。取付基部3aは、ホルダ6の溝にスライド嵌合し、所定位置でホルダ6に螺合する固定ピン7が挿入され固定される。刃先3bは、取付基部3aの長手方向中間部の上部板面から先端に向かって前後に先細りに張り出し、取付基部3aの側面に連続する平行する側面と前後一対の傾斜面とを備え、両傾斜面間に直線状の鋭角な頂部稜線が形成される。
【0011】
図4ないし図7に示すように、縦切り刃4は、断面凸形の矩形板状の取付基部4aと、取付基部4aの上部に連続する凹状の支持部4bと、支持部4bの対向部間に形成される刃頭部4cと、刃頭部4cの上部に延出する刃先4dとを備えている。取付基部4aは、ホルダ6の溝にスライド嵌合し、所定位置でホルダ6に螺合する固定ピン7が挿入され固定される。刃頭部4cは、支持部4bの対向部に結合し、先端に向かって厚み方向前後に先細りに張り出し、前後一対の傾斜面により形成される頂部稜線の中間部が下側へ円弧状に湾曲している。刃先4dは、刃頭部4cの円弧状湾曲部からさらに上方へ厚み方向に先細りに突出している。刃先4dの頂部稜線は鋼クランプC1の外周に対応して円弧状をなす。刃頭部4cの長手方向両端部には、突き合わせた相手刃先側へ刃先4dより突出した干渉部4eが形成されている。刃先4dは、図6,図7に示すように、厚みtが4mmで、先端の厚み方向断面が円弧状をなし、従来のような厚み方向両端のエッジがない。
【0012】
油圧プレス機2は、フレーム5の基部に図示しない油圧シリンダが一体に形成されており、横切り刃3又は縦切り刃4を油圧駆動するためのラムが摺動可能に嵌合している。このラムの一端部にホルダ6が固定される。そして、油圧シリンダには、外部の油圧ポンプが接続され、油圧制御によりラムを直線的に移動させて横切り刃3又は縦切り刃4を接近・開離動作させる。
【0013】
この引留クランプのジャンパー線接続部の切断装置1においては、アルミスリーブC2の端部の始めの切り込み位置に予め印を付けておき、装着した一方の横切り刃3の刃先を当てて位置決めする。図8(A)乃至(C)に示すように、切断装置1は、油圧プレス機2を油圧駆動し、横切り刃3の一方を他方に接近移動させることにより両横切り刃3,3で引留クランプCを両側から圧し、アルミスリーブC2に軸線方向の直線状の切り込みを入れる。油圧プレス機2は、横切り刃3,3がアルミスリーブC2に食い込んで鋼クランプC1に接触すると、油圧が上限に達し、安全弁が動作し、切り込みを停止する。次いで、圧縮動作を反転させて食い込んだ横切り刃3を後退させる。このようなアルミスリーブC2への切り込み操作を、引留クランプCの軸線方向へずらしながら複数回繰り返し、ジャンパー線接続部C3を過ぎる位置まで延長していく。
【0014】
横切り刃3による横方向の切り込み後、図8(D)乃至(F)に示すように、横切り刃3に代えて縦切り刃4をホルダ6にセットして、縦方向の切り込み操作を行う。油圧プレス機2を長手方向上下に向け、引留クランプCの横方向の切り込みのほぼ先端部に装着部5a側の縦切り刃4を置いて、先と同様にして油圧プレス機2の油圧駆動により、縦切り刃4,4で引留クランプCを上下から圧し、アルミスリーブC2に縦方向の切込みを入れる。縦切り刃4が突き当たると鋼クランプSのほぼ外周面に沿い、アルミ層にほぼ輪状の切り込みを入れる。縦切り刃4がアルミスリーブC2に食い込んで鋼クランプSに突き当たると、油圧が上限に達し、安全弁が動作し、切り込みを停止する。次いで、油圧プレス12の圧縮動作を反転させて、食い込んだ縦切り刃4を後退させる。アルミスリーブC2のジャンパー線接続部C3は縦横の切り込みを入れたら、手作業で引留クランプCからジャンパー線接続部を容易にはぎとることができる。
【0015】
縦切り刃4,4は、刃先4dの両端部に干渉部4eが突出しているので、互いに突き合わせた刃先4d同士の接触が妨げられて刃先4dの切り込み深さを制限する。また、その刃先の厚みが4mm程度と広いため、アルミスリーブC2に切り込むことができるが、従来の厚み1mmのものに比べると硬質の鋼スリーブC1に食い込み難い。さらに、縦切り刃4,4の刃先4dの厚み方向断面を円弧状に形成したため、従来の刃先のように厚み方向両端にエッジが形成されず、鋼スリーブへの食い込みを緩和する。従って、鋼スリーブC1への傷を防止し、強度の低下を招かない。
なお、本実施形態において縦切り刃4の刃先の厚みは、刃先の厚みを従来の1mmから種々変えて、切り込み動作時の鋼スリーブへの傷の程度を測る比較試験を行った結果決定したものであるが、良好な効果をもたらす範囲があり、特定の離散的数値で表されるものではないことは言うまでもなく、近似の良好な効果をもたらすことができる限り4mmの前後の近似の寸法を採用することができる。
【符号の説明】
【0016】
1 切断装置
2 可搬式油圧プレス機
3 横切り刃
4 縦切り刃
4d 刃先
4e 干渉部
5 フレーム
5a 装着部
5b 装着部
C 引留クランプ
C1 鋼クランプ
C2 アルミスリーブ
C3 ジャンパー線接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼心アルミより線を引き留め、隣接する径間の相互を連係するジャンパー線を接続するための引留クランプのアルミスリーブから側方へ張り出すジャンパー線接続部を切断除去するために、アルミスリーブに軸線直交方向の切り込みを入れる油圧駆動により接近、開離する対向一対の円弧状縦切り刃において、
刃先の長さ方向両端部から突き合わせた相手切り刃に向かって突出し、刃先同士の接触を阻止して引留クランプへの切り込み深さを規制する干渉部を有することを特徴とする引留クランプのジャンパー線接続部の切除用縦切り刃。
【請求項2】
前記刃先の厚みが約4mmであることを特徴とする請求項1に記載の引留クランプのジャンパー線接続部の切除用縦切り刃。
【請求項3】
前記刃先の厚み方向断面が円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の引留クランプのジャンパー線接続部の切除用縦切り刃。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−211848(P2011−211848A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77981(P2010−77981)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(591045541)岳南建設株式会社 (6)
【出願人】(592049542)株式会社ヒメノ (2)
【出願人】(391036921)川北電気工業株式会社 (4)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)