説明

弗素系樹脂モノフィラメント、その製造方法および工業織物

【課題】工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、高い引張強度、引掛強度、結節強度を有し、接合強力と耐久性を向上させることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法および工業織物の提供。
【解決手段】引張強度が2.0cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ引掛強度が2.5cN/dtex以上のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる弗素系樹脂モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、織物の経糸として重要な高い引張強度、引掛強度、結節強度を有し、接合強力と耐久性を向上させることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこの弗素系樹脂モノフィラメントを使用した工業織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントは、耐熱性、強度、剛性などの優れた特性を有することから、各種の産業資材用途に好ましく使用されてきた。
【0003】
また、工業織物用途においても同様に優れた特質を有するモノフィラメントの要求が高まっており、特にフィルター用織物用途に使用されるモノフィラメントには、優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性などが要求されているが、従来のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などからなるモノフィラメントでは、特質上限界があり満足のいく特性が得られないことから、近年では特に優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を有する弗素系樹脂からなるモノフィラメントが求められるようになってきた。
【0004】
そして、弗素系樹脂の中でもポリフッ化ビニリデン樹脂からなるモノフィラメントは、既に高強力のモノフィラメントが水産資材用途に好ましく使用されているが、このポリフッ化ビニリデン樹脂は融点がポリアミド樹脂より低く耐熱性に劣り、しかも高強力のモノフィラメントを得るためにかなり低速での製造方法が用いられていることから、生産効率が低く高価なものとなっている。
【0005】
そこで、工業織物用途向けには、耐熱性がありしかも安価な弗素系樹脂からなる高強度モノフィラメントがしきりに求められている状況である。
【0006】
一方、工業織物用途に使用されるモノフィラメントの代表的なポリエステルモノフィラメントについては、その高強度化を目指した検討が従来から種々行われており、例えば、2セット以上のホットロールからなる多段延伸工程により製造された改良ポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)や、ジメチルホルムアミド水溶液に浸漬処理後、延伸する方法により製造されたポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)などが知られているが、いずれも高モジュラス、高引張破断強度の特性は得られるものの、引掛強度の向上効果は認められないものであった。また、ポリエチレンナフタレートからなる高ヤング率かつ高引掛強度のポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3および特許文献4参照)が提案されているが、このポリエステルモノフィラメントは、ヤング率と引掛強度の均衡化を目的としたものであり、その引掛強度は従来のポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの他のポリエステルモノフィラメントの引掛強度レベルまで達してはいないことから、工業用織物形成材料としては強度不足なものであった。
【0007】
また、これらのポリエステルモノフィラメント製造方法は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントの製造には応用することができず、例えこの方法に適用したとしても、高強度のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体モノフィラメントを得ることができなかった。
【特許文献1】特開2001−279526号公報
【特許文献2】特開平7−42021号公報
【特許文献3】特開2003−268626号公報
【特許文献4】特開平7−278954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、織物の経糸として重要な高い引張強度、引掛強度、結節強度を有し、接合強力と耐久性を向上させることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこの弗素系樹脂モノフィラメントを使用した工業織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明の工業織物は、前記弗素系モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した場合に、目ずれの発生を効果的に抑えることができ、上記の目的を達成するために本発明によれば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、JIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引張強度が2.0cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ引掛強度が2.5cN/dtex以上であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメントが提供される。
【0011】
なお、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントにおいては、その直径が0.05〜1.5mmであることが好ましい。
【0012】
また、上記の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・延伸・熱セットするに際して、延伸温度80〜200℃、かつ延伸倍率5.0〜6.0倍で延伸し、引き続き処理温度180〜240℃、セット倍率0.90〜1.05倍で熱セット処理を行うと共に、その際の未延伸糸の引取速度を5〜15m/分、熱セット処理後の最終引取速度を25〜75m/分で行うことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の工業織物は、上記の弗素系樹脂モノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したこと、および経糸の両端をループ状に折り返してできる接合部を互いに噛み合わせ、接合部に芯線を通して構成した無端状の織物であって、前記芯線として上記の弗素系樹脂モノフィラメントを用いてなることを特徴とし、フィルター用織物、製紙用具用織物およびベルト用織物に適用した場合に最良の効果を発揮するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて、織物の経糸として重要な高い引張強度、引掛強度、結節強度を有し、織物とした場合の接合強力と耐久性を向上可能な弗素樹脂系モノフィラメントを得ることができる。
【0015】
そして、上記本発明の弗素樹脂系モノフィラメントを使用してなる工業織物は、目ずれの発生を効果的に抑えることができ、フィルター用織物、製紙用具用織物およびベルト用織物に適用した場合に最良の効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント(以下ETFEモノフィラメントと記す)は、JIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引張強度が2.0cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ引掛強度が2.5cN/dtex以上と、従来のETFEモノフィラメントに比較してきわめて強度が高いことを特徴とするものである。
【0018】
ここで、本発明のETFEモノフィラメントの引張強度は2.0cN/dtex以上、好ましくは2.1cN/dtex以上、更に好ましくは2.2cN/dtex以上であり、結節強度は1.0cN/dtex以上、好ましくは1.1cN/dtex以上、更に好ましくは1.2cN/dtex以上であり、かつ引掛強度は2.5cN/dtex以上、好ましくは2.6cN/dtex以上、更に好ましくは2.7cN/dtex以上である。
【0019】
上記のように引張強度、結節強度、および引掛強度がきわめて高い本発明のETFEモノフィラメントは、織物の経糸や経糸の両端をループ状に折り返してできる接合部を互いに噛み合わせ、接合部に芯線を通す無端状織物の芯線として重要な高い引張強度、引掛強度、結節強度を有していることから、織物の接合強力と耐久性が問題とされる各種の工業織物用途に好ましく使用することができる。また、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質が要求されているフィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物として好ましく適用することができ、その場合には従来にない優れた効果を発現することができる。
【0020】
本発明のETFEモノフィラメントを形成するポリマーは、上記のようなモノフィラメントの特性を満足するエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0021】
なお、本発明で用いる上記エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂には、必要に応じて例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの各種添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合行程、重合後あるいは紡糸直前に添加することができる。
【0022】
上記の特性を有する本発明のETFEモノフィラメントは、以下に説明する方法により効率的に製造することができる。
【0023】
まず、上記ETFEモノフィラメントを溶融紡糸するに際しては、ETFE樹脂を先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルダー型紡糸機に供給し、紡糸温度を285〜325℃で溶融混練した後、その溶融物を紡糸口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに冷却媒体浴に導いて冷却するに際し、5〜15m/分の速度で引き取って未延伸糸を得る。
【0024】
この未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取ることが重要であり、引取速度が5m/分より遅い場合は、未延伸糸が冷却媒体浴内で蛇行してしまうため、線径バラツキの原因となり、引張強度、結節強度、かつ引掛強度にバラツキが生じる傾向にあるため好ましくないばかりか、隣同士の未延伸糸条が融着してしまい得ることができなくなる。
【0025】
一方、未延伸糸の引取速度が15m/分より速い場合は、未延伸糸が冷却媒体浴内で引き延ばされてしまうことから真円性が損なわれ、本発明の目的とする高い引張強度、結節強度、かつ引掛強度を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくないばかりか、未延伸糸が途中で断糸してしまい延伸糸を得ることができなくなる。
【0026】
未延伸糸の引取速度は5〜15m/分、さらには8〜13m/分が好ましい。
【0027】
次に、得られた未延伸糸を、少なくとも1段以上の多段で延伸し、引き続いて熱セット処理を行う、その際の最終速度を25〜75m/分で行いETFEモノフィラメントを得る。
【0028】
所望の引張強度、結節強度、かつ引掛強度を得るために、少なくとも1段以上の多段で延伸する。安定な延伸性を得るための延伸温度は80〜200℃であり、二段目延伸温度は一段目延伸温度よりも高い温度に設定し、かつ総合延伸倍率が5.0〜6.0倍になるように行う。
【0029】
これは、延伸倍率が低すぎると延伸斑の原因となり、得られるETFEモノフィラメントも所望の引張強度、結節強度、かつ引掛強度が不均一となるばかりか、製織時の断糸などが発生しやすくなるからである。逆に延伸温度が高すぎると糸切れの原因となりやすいためである。より良好な引張強度、結節強度、かつ引掛強度を得るためには、延伸倍率が5.3〜5.7倍であることがさらに好ましい。
【0030】
また、延伸温度が低すぎると延伸時に高い張力が掛かり、糸切れの原因となりやすく、逆に高すぎるとETFE樹脂の融点に近くなり、延伸浴内で糸切れが発生しやすくなるため、延伸温度を80〜200℃とすることが必要であり、さらには90〜190℃とすることが好ましい。
【0031】
ここで、延伸工程で使用する熱媒体としては、ETFEモノフィラメントの表面から容易に除去することができ、かつETFEモノフィラメントに対して物理的、化学的な変化を本質的に与えることがない物質であれば如何なるものをも使用することができるが、本発明は比較的低い温度で一段目の延伸を行うことから、経済的には温水浴または加熱空気浴が好適である。また、二段目の延伸工程で使用する熱媒体としては、一般的に、高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などの加熱装置が好適である。
【0032】
少なくとも1段以上の多段で延伸されたETFEモノフィラメントは、延伸工程で得られた所望の引張強度、結節強度、かつ引掛強度や熱収縮特性をさらに向上させ、かつそれを保持するために、引き続き熱セット処理に供されるが、このセット処理の温度は180〜240℃とすることが必要であり、さらには200〜230℃とすることが好ましい。
また、セット倍率は0.90〜1.05倍で、所望の熱収縮特性を得るために必要な条件である。
【0033】
このセット倍率が低すぎると、得られるETFEモノフィラメントの引張強度、結節強度、かつ引掛強度および熱収縮率が低くなるため、工業織物の熱セット後の納まりが悪くなるばかりか、接合強力と耐久性不足等も発生しやすくなり、逆にセット倍率が高すぎると、糸切れの原因となりやすいため、好ましくはセット倍率を0.93〜1.02倍とすることが必要であり、さらには0.95〜1.01倍とすることがさらに好ましい。
【0034】
ここで、セット処理工程で使用する加熱装置としては、上述した二段目の延伸と同様な高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などを挙げることができる。
【0035】
そして、セット処理されたETFEモノフィラメントは、その表面に必要に応じて油剤が付与され、その後巻具に巻き取られる。
【0036】
この場合の最終引き取り速度は25〜75m/分で行うことが好ましい。
【0037】
この最終引き取り速度は、未延伸糸引き取り速度に延伸倍率または延伸倍率/熱セット処理倍率を掛け合わせて求められるが、最終引き取り速度が25m/分より遅い場合は、延伸斑の原因となり、均一な線径を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくないばかりか、所望の強伸度や熱収縮特性が不均一となりやすくなる。
【0038】
また、最終引き取り速度が75m/分より速い場合は、糸切れの原因を招き易くなり、より良好な均一な線径や所望の強伸度および熱収縮特性を得るには、最終引き取り速度が30〜60m/分であることが好ましい。
【0039】
こうして得られた本発明のETFEモノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントにはない高い引張強度、結節強度、かつ引掛強度を有するため、このETFEモノフィラメントを工業織物の少なくとも一部に使用することが可能となるのである。
【0040】
また、本発明のETFEモノフィラメントからなる工業織物は、フィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物に使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、安定した接合強力と耐久性を保持することが可能であり、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の持つ易成型性、耐薬品性、電気特性、高耐候性、難燃性、安全性、非粘着性、二次加工性などの優れる特性を遺憾なく発揮する。
【0041】
なお、本発明のETFEモノフィラメントは、一本の連続糸であるが、必要に応じて複数本合わせて撚糸・熱セットしたもの、および単糸を捻って熱セットしたものであってもよい。
【0042】
また、本発明のETFEモノフィラメントの断面形状については、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型および馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。
【0043】
さらにまた、本発明のETFEモノフィラメントの直径についても、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、工業織物用途としては、直径0.05〜1.50mmのものが主に使用される。
【0044】
このように、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントよりも高い引張強度、結節強度、かつ引掛強度が要求される各種用途にきわめて有用である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例におけるモノフィラメントの評価は以下の方法に準じて行った。
【0046】
[操業性]
連続押出し紡糸を行う際の状況を観察し、糸切れや原料の紡糸機への押し込み安定性から次の3段階で評価した。
○:全く問題なく、至って良好であった、
△:糸切れがややあったが操業可能であった、
×:糸切れや原料の押し込み不良が多発するため操業性が困難であった。
【0047】
[繊度]
JIS L1013−1999の8.3に準じて測定した。
【0048】
[引張強度、結節強度、引掛強度]
JIS L1013−1999の8.5、8.6および8.7に準じて引張強さ、結節強さと引掛強さを測定し、繊度で割返した値を引張強度、結節強度および引掛強度(単位:cN/dtex)とした。
【0049】
[耐久性評価]
まず、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを経糸に使用し、平織織物を作成した。次に、平織物の両端部の経糸をループ状に形成してできたジョイント部を互いに噛み合わせ、そこに芯線を通して無端状の平織物にした。
【0050】
この無端状の平織物をベルトプレスフィルター工程で約1ヶ月間使用し、ジョイント部におけるETFEモノフィラメントの破断本数発生率でジョイントループによる耐久性を次の3段階で評価した。
○:破断発生率10%未満
△:破断発生率10〜30%未満
×:破断発生率30%以上
【0051】
[実施例1]
弗素樹脂にETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径3.0mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量17.3g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、9.9m/分で引き取って得た未延伸糸を、1段目延伸温度90℃で延伸倍率を4.00倍、引き続き2段目延伸温度160℃で合計延伸倍率を5.30倍として延伸し、引き続き処理温度が200℃、かつセット倍率が0.95倍のセット処理を行った。その際の最終速度を50m/分で行い、直径0.50mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0052】
[実施例2]
弗素樹脂にETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径4.5mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量27.1g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、7.9m/分で引き取って得た未延伸糸を、1段目延伸温度90℃で延伸倍率を4.00倍、引き続き2段目延伸温度190℃で合計延伸倍率を5.30倍として延伸し、引き続き処理温度が225℃、かつセット倍率が0.95倍のセット処理を行った。その際の最終速度を40m/分で行い、直径0.70mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0053】
[実施例3〜4]
実施例2において、実施例3は未延伸糸の引取速度を7.7m/分にして合計延伸倍率を5.50倍に、実施例4は未延伸糸の引取速度を7.4m/分にして合計延伸倍率を5.70倍に変更した以外は、実施例2と同様にして、直径0.70mmのモノフィラメントを得た。
【0054】
[実施例5]
弗素樹脂にETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径0.8mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量0.55g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、7.0m/分で引き取って得た未延伸糸を、1段目延伸温度95℃で延伸倍率を3.88倍、引き続き2段目延伸温度140℃で合計延伸倍率を5.30倍として延伸し、引き続き処理温度が180℃、かつセット倍率が0.95倍のセット処理を行った。その際の最終速度を35m/分で行い、直径0.10mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0055】
[実施例6]
弗素樹脂にETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径8.0mmの紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量66.9g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、7.9m/分で引き取って得た未延伸糸を1段目延伸温度90℃で延伸倍率を3.88倍、引き続き2段目延伸温度190℃で合計延伸倍率を5.30倍として延伸し、引き続き処理温度が225℃、かつセット倍率が0.95倍のセット処理を行った。その際の最終速度を40m/分で行い、直径1.10mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、1段目延伸温度を90℃から70℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0057】
[比較例2]
実施例1において、2段目延伸温度を160℃から220℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、合計延伸倍率を5.30倍から未延伸糸の引取速度を11.0m/分にして合計延伸倍率を4.80倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0059】
[比較例4]
実施例1において、合計延伸倍率を5.30倍から未延伸糸の引取速度を8.5m/分にして合計延伸倍率を6.20倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0060】
[比較例5]
実施例1において、熱セット温度を200℃から160℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0061】
[比較例6]
実施例1において、熱セット温度を200℃から250℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0062】
[比較例7]
実施例1において、熱セット倍率を0.95倍から0.88倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0063】
[比較例8]
実施例1において、熱セット倍率を0.95倍から1.07倍に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0064】
[比較例9]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を9.9m/分から4.6m/分に、モノフィラメントの最終速度を50.0m/分から23.0m/分に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0065】
[比較例10]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を9.9m/分から15.9m/分に、モノフィラメントの最終速度を50.0m/分から80.0m/分に変更した以外は、実施例1と同様にして、直径0.50mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0066】
上記実施例1〜6および比較例1〜10で得られた各ETFEモノフィラメントの特性結果を表1に併せて示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果から明らかなように、本発明のETFEモノフィラメント(実施例1〜6)は、いずれも引張強度が2.0cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ引掛強度が2.5cN/dtex以上で高強度を有したものである。
【0069】
一方、溶融紡糸・延伸するに際しての延伸温度、延伸倍率や熱セット処理温度、セット倍率、および未延伸糸の引取速度とセット処理後の最終速度が本発明の条件を満たさない製法により製造されたETFEモノフィラメント(比較例1〜10)は、いずれも引張強度、結節強度、かつ引掛強度の少なくともいずれかが劣り、操業性の悪いもの(比較例1、2、7、9)や、延伸切れを起こして製糸できないもの(比較例4、6、8、10)であり、本発明が目的とする効果を十分に満たすものではなかった。
【0070】
また、引張強度、結節強度、かつ引掛強度が高かった実施例1のETFEモノフィラメントを平織物の経糸に使用し両端部の経糸をループ状に形成してできたジョイント部を互いに噛み合わせ、そこに芯線を通して無端状の平織物をベルトプレスフィルター工程に供して、ジョイント部におけるETFEモノフィラメントの破断本数発生率でジョイントループによる耐久性を評価したところ、ジョイントループ破断発生率は10%未満で良好であったのに対し、比較例3、5のETFEモノフィラメントは、破断発生率が10〜30%未満で、比較例1、2、7、9のETFEモノフィラメントは、破断発生率破断発生率が30%以上といずれも劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明のETFEモノフィラメントは、織物の経糸として重要な高い引張強度、引掛強度、結節強度が従来のETFEモノフィラメントに比べて飛躍的に改良されたものであることから、例えばフィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物などの工業織物用としての使用が極めて有用である。
【0072】
また、本発明の製造方法によれば、引張強度、引掛強度、結節強度が極めて高いETFEモノフィラメントを効率的に製造することができる。
【0073】
さらに、本発明のETFEモノフィラメントを用いた工業織物は、フィルター用織物や製紙用具用織物およびベルト用織物などに使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、その織物の接合強力と耐久性が向上できると共に目ずれを起こし難いものであり、さらに弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの効果を遺憾なく発揮することから、工業用織物として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントであって、JIS L 1013:1999の規定に準じて測定した引張強度が2.0cN/dtex以上、結節強度が1.0cN/dtex以上、かつ引掛強度が2.5cN/dtex以上であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項2】
直径が0.05〜1.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項3】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・延伸・熱セットするに際して、延伸温度80〜200℃、かつ延伸倍率5.0〜6.0倍で延伸し、引き続き処理温度180〜240℃、セット倍率0.90〜1.05倍で熱セット処理を行うと共に、その際の未延伸糸の引取速度を5〜15m/分、熱セット処理後の最終引取速度を25〜75m/分で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業織物。
【請求項5】
経糸の両端をループ状に折り返してできる接合部を互いに噛み合わせ、接合部に芯線を通して構成した無端状の織物であって、前記芯線として請求項1または2に記載の弗素系樹脂モノフィラメントを用いてなることを特徴とする工業用織物。
【請求項6】
フィルター用織物であることを特徴とする請求項4または5に記載の工業織物。
【請求項7】
製紙用具用織物であることを特徴とする請求項4または5に記載の工業織物。
【請求項8】
ベルト用織物であることを特徴とする請求項4または5に記載の工業用織物。

【公開番号】特開2008−248405(P2008−248405A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87992(P2007−87992)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】