説明

弦楽器の押弦構造

【課題】 駆動装置の駆動により押弦部材を弦に当接させて弦の振動端点を形成することによって、自動演奏が可能になる小型の弦楽器の押弦構造を提供すること。
【解決手段】 押弦構造10を、指板12の表面側から進退して弦13に当接し弦13の振動端点を形成する押弦部材23と、指板12の裏面に設けられたソレノイド21と、ソレノイド21の駆動力を押弦部材23に伝達する駆動レバー22とで構成した。また、押弦部材23を1本の弦13の異なる二つの位置にそれぞれ当接する一対の部材で構成するとともに、ソレノイド21を相対向する2方向へそれぞれ出力軸21bを変位させる装置で構成し、駆動レバー22をソレノイド21の駆動力を一対の押弦部材23にそれぞれ伝達する一対の部材で構成した。さらに、押弦部材23を進退可能に収容するガイド部24を指板12の裏面側に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器の指板表面側に張設された弦を押弦する弦楽器の押弦構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ギター、バイオリンなどの弦楽器の中には、自動演奏するための押弦構造や弾弦構造を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。この弦楽器の押弦装置では、指板の表面側に張設された弦の上面側に円筒ゴムを設置して、その円筒ゴムに指板を貫通する鉄製ワイヤーの一端を接続している。そして、鉄製ワイヤーの他端を接続片やフレキシブルチューブを介してソレノイドアッセンブリのソレノイドに接続している。また、ソレノイドアッセンブリには、鉄製ワイヤー等を介して円筒ゴムを弦から離すように付勢するスプリングが備わっている。このため、ソレノイドに通電することによりスプリングの弾性力に抗して円筒ゴムを指板側に移動させて押弦することができ、ソレノイドへの通電を停止することにより、スプリングの弾性力で円筒ゴムによる押弦を解除することができる。
【特許文献1】特開平7−64543号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、前述した従来の弦楽器の押弦装置では、押弦装置を構成する各部材が、指板の表面側に張設された弦の上面側と楽器本体のネック部の裏面側との双方にわたって配置されているため大型になるとともに、構造が複雑になる。また、ソレノイドが各弦の押弦する位置ごとに必要であるため、ソレノイドの数が多くなってコストが高くなり、装置全体の小型化が困難になる。さらに、円筒ゴムが弦の上面側に設けられているため、自動演奏でなく、弦の上面から指で押弦する通常の演奏はできない。
【0004】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、駆動装置の駆動により押弦部材を弦に当接させて弦の振動端点を形成することによって、自動演奏が可能になる小型の弦楽器の押弦構造を提供することである。
【0005】
前述した目的を達成するため、本発明に係る弦楽器の押弦構造の構成上の特徴は、弦楽器の指板表面側に張設された少なくとも一つの弦を押弦する弦楽器の押弦構造において、楽器の指板表面側から弦に対してそれぞれ進退して弦の複数の異なる位置に当接し、弦の複数の振動端点を形成する複数の押弦部材と、指板の裏面に設けられ、複数の押弦部材を弦に対して進退させる駆動機構とを備えたことにある。
【0006】
前述のように構成した本発明に係る弦楽器の押弦構造では、押弦部材が弦楽器の指板側から弦に対して進退可能になっており、押弦部材が弦に当接することによって弦の振動端点が形成される。また、押弦部材を弦に対して進退させる駆動機構は指板の裏面に設けられている。このため、押弦構造を構成するすべての部材等が弦よりも弦楽器の指板側に位置するようになり、押弦構造の小型化および構造の簡略化が図れる。また、押弦構造を駆動しない状態では、指板の上面側には弦以外のものが位置しないため弦の上面からの運指や押弦が可能になり、通常の手による演奏ができる。さらに、押弦は自動演奏で行いながら弾弦は演奏者が手で行うこともでき、これによって弦楽器の教習用としての活用も可能になる。また、押弦部材の指板表面側から弦に対する進退は、例えば、指板に挿通穴を設け、この挿通穴に押弦部材の一部を挿通させることによって行うことができる。
【0007】
また、本発明に係る弦楽器の押弦構造の他の構成上の特徴は、駆動機構を、相対向する2方向へそれぞれ変位部を変位させる複数の駆動装置と、変位部の相対向する2方向への変位を同一の弦の異なる二つの位置に当接する押弦部材にそれぞれ伝達する複数の伝達部材とで構成したことにある。
【0008】
これによると、一つの駆動装置で1弦の2箇所を押弦可能になるため、押弦構造の簡素化、小型化、軽量化および低コスト化が可能になる。すなわち、弦楽器を演奏する場合、通常1本の弦上で同時に2箇所を押弦することはないため、押弦構造を前述のように構成することが可能になり、一つの駆動装置で1弦の2箇所を押弦できるようにしたことにより、従来の弦楽器の押弦装置に比べて駆動装置の数を半減することができる。この駆動装置を用いることによって、複数の駆動装置を左右前後に連続して並べるのでなく、例えば、左右前後に1個置きに配置することによって、全弦の各部分の押弦が可能になる。
【0009】
また、本発明に係る弦楽器の押弦構造のさらに他の構成上の特徴は、弦楽器の指板表面側に張設された少なくとも一つの弦を押弦する弦楽器の押弦構造において、同一の弦の異なる二つの位置にそれぞれ当接することによって弦の二つの振動端点を形成する一対の押弦部材と、変位部を相対向する2方向へそれぞれ変位させる駆動装置と、変位部の相対向する2方向への変位を一対の押弦部材にそれぞれ伝達し、一対の押弦部材をそれぞれ独立して弦に当接させる一対の伝達部材とを備えたことにある。
【0010】
本発明によっても、一つの駆動装置で1弦の2箇所を押弦可能になるため、押弦構造の簡素化、小型化、軽量化および低コスト化が可能になる。この場合、押弦部材が弦楽器の指板側から弦に対して進退するようにしてもよいし、弦の上方から弦に対して進退するようにしてもよい。これによると、押弦部材、駆動装置および伝達部材を任意の位置に配置することができる。
【0011】
また、本発明に係る弦楽器の押弦構造のさらに他の構成上の特徴は、押弦部材を進退可能に収容するガイド部を指板の裏面側に設けたことにある。これによると、押弦部材がガイド部によってガイドされる方向以外の方向にずれることを規制できるため、移動距離を最小限にするとともに、その移動をスムーズにさせて押弦部材を弦に当接させることができる。
【0012】
また、本発明に係る弦楽器の押弦構造のさらに他の構成上の特徴は、ガイド部を円筒体で構成して、押弦部材における弦に当接する部分に弦を挟む複数の突部を設けるとともに、ガイド部の内周面と押弦部材の外周面との間に、押弦部材がガイド部の軸方向に移動する際に、押弦部材をガイド部に対して軸周りに回転させる回転移動機構を形成したことにある。
【0013】
これによると、押弦部材がガイド部の軸方向に移動する際に、回転移動機構の作用によって軸周りに回転する。また、押弦部材における弦に当接する部分には弦を挟むことのできる複数の突部が設けられている。このため、押弦部材が指板側から弦に向って移動すると、弦は複数の突部間に位置するようになり、その状態で押弦部材は軸周りに回転するため、弦は複数の突部に係合する。この結果、指板側からの押弦であっても弦を上方に押し上げることなく確実に弦の振動端点を形成することができる。この場合の回転移動機構は、押弦部材の外周面に略螺旋状に曲がった溝部を形成して、ガイド部の内周面に押弦部材の溝部に対して移動可能に係合する突起を形成するか、または、ガイド部の内周面に略螺旋状に曲がった溝部を形成して、押弦部材の外周面にガイド部の溝部に対して移動可能に係合する突起を形成することにより構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。図1Aおよび図1Bは、同実施形態に係る押弦構造10を示しており、この押弦構造10は、本発明の弦楽器としての電子ギター(ネック11の一部しか図示せず。)に組み込まれている。この電子ギターは、内部に空洞が形成された胴体に、内部に複数の押弦装置20が収容されたネック11を結合して構成されており、胴体の上面(以下、胴体におけるサウンドホールが形成されている面側を上方とする。)におけるネック11側部分からネック11の上面先端側部分にかけて細長い指板12が設けられている。
【0015】
そして、指板12の上面側に、直径の異なる6本の弦13が一定間隔を保って張設されている。この6本の弦13は、指板12の上面から僅かな間隔を保った状態で、胴体の上面におけるネック11とは反対側部分に設けられたテイルピースと、ネック11の先端部との間に張設されている。指板12の上面には、各弦13の振動端点を形成するための複数のフレット14が指板12の長手方向に所定間隔をおいて設けられている。また、指板12における各フレット14の近傍の各弦13に対応する部分には、それぞれ指板12の裏面から上面に貫通する挿通孔15が形成されている。すなわち、指板12の幅方向に延びる各フレット14に沿ってそれぞれ6個の挿通孔15が形成されている。
【0016】
そして、指板12の裏面側には、図2Aないし図2Dに示した複数の押弦装置20が左右前後ともに1個置きに配置されている。この押弦装置20は、それぞれ図3Aないし図3Cに示したように、本発明の駆動装置としてのソレノイド21、本発明の伝達部材としての一対の駆動レバー22、一対の押弦部材23、一対のガイド部24およびコイルばねからなる一対の付勢部材25(図3Bの一方の付勢部材25以外の付勢部材25は図示を省略している。)を備えている。ソレノイド21は、円筒形のケース21aと、ケース21aの両端面からそれぞれ本発明の変位部としての両先端部を突出させた出力軸21bとを備えた双方向型のソレノイドで構成されており、軸方向を指板12の長手方向に沿わせて配置されている。
【0017】
このソレノイド21としては、出力軸21bが軸方向に沿った双方に移動可能であるとともに、出力軸21bを双方向に駆動して出力軸21bの両端部をケース21aの両端部からそれぞれ突出させる公知の双方向型のソレノイドを用いることができる。例えば、磁性材料からなるケース21aの内側に円筒状のコイルを配置して、ケース21aの両端におけるコイルの内側に一対の円筒状の固定鉄心を間隔を保って設ける。一対の固定鉄心間には、軸方向に往復移動可能な円筒状の可動鉄心を設けるとともに、可動鉄心の外周に円筒状の永久磁石を固定して構成されたソレノイドを用いることができる。この場合、永久磁石は、内側がN極で外側がS極になるように予め磁化されており、これによって可動鉄心の両端部がともにN極に磁化されている。また、出力軸21bは可動鉄心を軸線方向に貫通して可動鉄心に固着され、可動鉄心とともに移動する。
【0018】
このように構成されたソレノイド21においては、コイルの非通電時には、出力軸21bを軸線方向に駆動することなく、出力軸21bは外力に従った位置に静止する。この実施形態においては、コイルの非通電時には、詳しくは後述する一対の駆動レバー22を介した一対の付勢部材25の付勢力によって付勢されて、出力軸21bは中立位置、すなわち出力軸21bの両端をケース21aから同一長さだけ突出させた図4(A)の状態に保たれる。一方、コイルを第1方向に通電して一方(図4の右側)の固定鉄心と可動鉄心の一端とを異極にして吸引させるとともに、他方(図4の左側)の固定鉄心と可動鉄心の他端と同極にして反発させることにより、図4(B)のように、出力軸21bが右側に突出した状態になる。
【0019】
また、コイルを前と逆の第2方向に通電して他方の固定鉄心と可動鉄心の他端と異極にして吸引させるとともに、一方の固定鉄心と可動鉄心の一端とを同極にして反発させることにより、図4(C)のように、出力軸21bが左側に突出した状態になる。各ソレノイド21は、それぞれ固定部材26を介してネック11の内壁に固定されている。固定部材26は、ソレノイド21を支持する底面部26aと、出力軸21bの両端部を外部に突出させた状態でソレノイド21の両端面と上面とを覆う固定部26bとで構成されており、固定部26bの両端にはそれぞれ外側に向って水平方向に延びる取付片26cが形成されている。
【0020】
各取付片26cの上面には、支持穴27aをそれぞれ備えた一対の軸受け27がソレノイド21の軸線方向と直交する方向に所定の間隔を保って設けられている。この一対の軸受け27には、駆動レバー22が回転可能に取付けられている。駆動レバー22は、軸受け27の支持穴27aに支持された回転軸22aと、回転軸22aの軸方向の中央側部分から固定部26bの一方の端面に沿って上方に延びたのちに固定部26bの上面から他方の端面側に延びる回転部22bと、回転部22bの先端部に形成された平面状の押上部22cとで構成されている。そして、回転部22bの回転軸22a側の垂直部分の下部と押上部22cとの幅は、固定部26bの幅と略等しく、回転部22bのそれ以外の部分の幅は、固定部26bの幅の略半分である。
【0021】
一対の駆動レバー22は左右の向きを互いに逆にして、回転部22bの幅の狭い上部側部分を、ソレノイド21の上方の同一面上に平行に並べた状態でそれぞれ一対の軸受け27に取り付けられている。このため、ソレノイド21の出力軸21bが一方側に移動すると、一方側に回転軸22aが位置する駆動レバー22の回転軸22a近傍部分が出力軸21bに押圧されてその駆動レバー22は回転軸22aを中心として、例えば図3Bの状態で時計周り方向に回転してその押上部22cが上方に移動する。
【0022】
また、ソレノイド21の出力軸21bが他方側に移動すると、他方側に回転軸22aが位置する駆動レバー22の回転軸22a近傍部分が出力軸21bに押圧されてその駆動レバー22は回転軸22aを中心として、反時計周り方向に回転してその押上部22cが上方に移動する。この駆動レバー22によって、ソレノイド21の出力軸21bの移動量が拡大されるとともに出力軸21bの水平方向への移動が上下方向への移動に変更されて押上部22cに伝達される。また、ネック11の内壁における押上部22cの下方部分には、それぞれ矩形のストッパ28が設けられており、このストッパ28によって、押上部22cの上下移動の下端位置が規制される。
【0023】
押弦部材23は、図5に示したように、円柱状の被ガイド部23aと、被ガイド部23aの外周面下部側に形成されたフランジ部23bとで構成されている。被ガイド部23aの下端面は球面状に形成され、被ガイド部23aの上端部は弦13に当接して振動端点を形成する押弦部29を構成する。押弦部29は、前後方向(弦13と直交する方向)に離間して配置された一対の突部29aと、その突部29a間に形成された左右方向(弦13が延びる方向)に延びる溝部29bとで構成されている。そして、各突部29aは平面視が扇形状に形成され、その相対向する面の上部側部分が弦13を溝部29b内に導けるように上部側にいくほど互いの間隔が広くなった傾斜面に形成されている。また、溝部29bの下部側部分の幅は弦13の直径と略等しい長さに形成されている。
【0024】
また、指板12の下面における挿通孔15の周縁部には、それぞれ円筒状のガイド部24が挿通孔15と中心軸を合わせて設けられている。押弦部材23は、上部側部分をガイド部24内に侵入させた状態で、押上部22cの上面に設置されている。押上部22cの下端部がストッパ28の上面に位置しているときには、押弦部材23の上端部は押弦部材23の自重及び付勢部材25の付勢力により指板12の上面と略等しい位置にある。押上部22cが上方に移動すると、押弦部材23もガイド部24に沿って押上部22cとともに上昇して、押弦部29が弦13に当接する。この場合、弦13は一対の突部29aに挟まれて溝部29b内に位置する。押弦部29が弦13に当接した押弦部材23と、押弦部29が弦13から後退した押弦部材23とは、それぞれ図1Bの中に示されている。なお、押弦部材23の組み付け時または移動時のガイド部24に対する回転位置を規制するための位置決め手段を設けておくとよい。
【0025】
また、被ガイド部23aとガイド部24との外周側における指板12の下面とフランジ部23bとの間には、付勢部材25が設けられている。この付勢部材25は、ソレノイド21の駆動力よりも小さな力で押弦部材23を指板12から下方に付勢している。ソレノイド21が、その通電により押弦部材23を上昇させるように駆動すると、付勢部材25は押弦部材23の上昇にともなって収縮する。そして、ソレノイド21による押弦部材23を上昇させる駆動が停止すると、付勢部材25は押弦部材23を下降させる。なお、図示していないが、この電子ギターには、駆動用基板や電源部等、電子ギターを自動演奏するために必要な種々の装置等が備わっている。
【0026】
つぎに、このように構成した押弦構造10を作動させる場合について説明する。いずれのソレノイド21も通電されず、すべての押弦装置20が作動してない状態では、すべての押弦部材23の上端は指板12よりも下方に位置する(図1A参照)。ここで、複数の押弦装置20のうちの所定の押弦装置20を作動させて一対の押弦部材23の一方を上昇させると、図6Aないし図6Cに示したように、一方の押弦部材23の押弦部29が弦13に当接してその当接部分に振動端点が形成される。そして、図示していない弾弦装置により、弦13の胴体側部分を弾くと、弦13の種類および弦13におけるテイルピースと押弦部29との間の長さに応じた楽音が発生する。この場合、一方の押弦部材23は付勢部材25の弾性力に抗して上昇しており、その上限位置は、フランジ部23bがガイド部24の下面に当接することによって規制される。その後、前記通電を解除すれば、一方の押弦部材23は、付勢部材25の弾性力によって下方に変位する。
【0027】
つぎに、ソレノイド21に逆方向に通電すると、図7Aないし図7Cに示したように、他方の押弦部材23が上昇する。これによって、他方の押弦部材23の押弦部29が弦13に当接してその当接部分に振動端点が形成される。そして、図示していない弾弦装置により、このため、弦13の胴体側部分を弾くと、弦13の種類および弦13におけるテイルピースと他方の押弦部材23の押弦部29との間の長さに応じた楽音が発生し、この場合の楽音は前述した楽音よりもやや高音になる(テイルピースは、図6および図7の右側に位置している。)。
【0028】
この場合、他方の押弦部材23は付勢部材25の弾性力に抗して上昇しており、その上限位置は、フランジ部23bがガイド部24の下面に当接することによって規制される。そして、前記逆方向の通電を解除すると、他方の押弦部材23は、付勢部材25の付勢力によって下方に変位する。このような押弦が、楽曲のデータに基づいてすべての押弦装置20によって順次行われ、押弦にともなって弾弦も行うことにより、楽曲の自動演奏が行われる。
【0029】
また、演奏者による通常の演奏を行う場合には、一方の手の指で順次弦13を指板12側に押してその弦13をフレット14に当接させていくことにより、順次振動端点を形成する。そして、押弦にともなって他方の手の指で弾弦することにより、所定の楽曲を演奏することができる。この場合、フレット14の位置と、押弦部材23の押弦部29の位置との差のためにピッチ変化が問題となる場合には、自動演奏したのちに通常演奏を行う場合または通常演奏を行ったのちに自動演奏する場合には、各弦13のピッチの調整を行うとよい。また、前述した説明では、弦13を押弦装置20により自動的に押弦した後、図示しない弾弦装置により自動的に弾弦するようにしたが、弾弦に関してはユーザが手動で行ってもよい。
【0030】
このように、本実施形態に係る押弦構造10では、ソレノイド21、駆動レバー22、押弦部材23等で構成される押弦装置20がネック11の内部における指板12の裏面側に設置されている。そして、押弦部材23の上端に形成された押弦部29だけが指板12に形成された挿通孔15から突出して弦13に当接可能になっている。このため、押弦構造10を小型化できるとともにその構造の簡略化が図れる。また、指板12の上面には、複数のフレット14が設けられ、自動演奏していないときには指板12の上方には弦13以外のものはないため、弦13の上面からの運指や押弦が可能になり、通常の手動による演奏もできる。
【0031】
また、本実施形態に係る押弦構造10では、ソレノイド21として、出力軸21bの両端部がケース21aの左右両面から突出した状態で左右に移動可能な双方向型のものを用いるとともに、押弦部材23を弦13の異なる二つの位置にそれぞれ当接することによって二つの振動端点を形成できる一対の部材で構成している。そして、駆動レバー22をソレノイド21の駆動力を一対の押弦部材23にそれぞれ伝達して一対の押弦部材23をそれぞれ独立して弦13の異なる位置に当接させる一対の部材で構成している。このため、一つのソレノイド21の駆動力で弦13の2箇所を押弦することができるようになり、ソレノイド21の数を半減することができる。この結果、押弦構造10の簡素化、小型化、軽量化および低コスト化が可能になる。
【0032】
さらに、本実施形態に係る押弦構造10では、指板12の裏面側にガイド部24を設けて、押弦部材23の弦13に対する進退をガイドするようにしている。このため、押弦部材23がガイド部24によってガイドされる方向以外の方向にずれることを規制でき、移動距離を最小限にするとともに、その移動をスムーズにさせて押弦部材23を弦13に当接させることができる。また、駆動レバー22は、回転軸22aと、固定部26bの両端面と上面とを覆うようにして延びる回転部22bとを備えているため、出力軸21bの移動量を拡大して押上部22cおよび押弦部材23に伝達することができる。さらに、この駆動レバー22を用いることによって、押弦構造10全体をコンパクトにできる。
【0033】
(変形例)
図8は、前述した第1実施形態に備わった押弦装置20の変形例による押弦装置30を示している。この押弦装置30では、ソレノイド31は固定部材36によって指板(図示せず)の裏面に固定されている。固定部材36は、出力軸31bの両端部を外部に突出させた状態でソレノイド31の両端面と下面とを覆った固定部36bと、固定部36bの両端からそれぞれ指板の裏面に沿って外側水平方向に延びる取付片36cとで構成されている。そして、図示は省略しているが、固定部36bの両端面の下部側部分にそれぞれ支持穴を備えた一対の軸受けが外側に向って突出しており、この一対の軸受けにそれぞれ駆動レバー32が回転可能に取付けられている。
【0034】
駆動レバー32は、固定部36bの一方の端面の上部側からその端面に沿って下方に延びたのちに固定部36bの下面から他方の端面側に延びる回転部32bと、回転部32bの先端部に形成された平面状の押上部32cと、回転部32bの側部における固定部36bの一方の端面側に形成された回転軸32aとで構成されている。そして、駆動レバー32は、固定部36bにおける回転軸32aの上部側部分を出力軸31bの先端部に対向させて回転軸32aを中心に回転可能に取付けられている。
【0035】
また、この押弦装置30でも、ストッパ(図示せず)は、ネックの内壁における押上部32cの下方部分に設けられており、このストッパによって、押弦部材33の下限位置が決まる。押弦部材33が下端位置にある場合には、回転部32bの下部は、図8に示したように傾斜した状態になる。そして、ソレノイド31の作動により出力軸31bの一方の端部がさらに外部に突出すると、回転部32bの下部は略水平になり、押弦部材33は押上部32cによって上方に押し上げられる。
【0036】
また、回転部32bの回転軸32a側の垂直部分の上部と押上部32cとの幅は、固定部36bの幅と略等しくなり、回転部32bのそれ以外の部分の幅は、固定部36bの幅の略半分になっている。そして、一対の駆動レバー32は左右の向きを互いに逆にして、回転部32bの幅の狭い下部側部分を平行に並べた状態でそれぞれ一対の軸受けに取り付けられている。この押弦装置30のそれ以外の部分の構成は、前述した押弦装置20の対応する部分と同一である。この押弦装置30を用いた押弦構造によると、ソレノイド31が指板の裏面に固定されているため、指板に対するソレノイド31の設置精度がよくなる。この押弦装置30を用いた押弦構造のそれ以外の作用効果は、前述した押弦構造10の作用効果と同様である。
【0037】
(第2実施形態)
図9Aおよび図9Bは、本発明の第2実施形態に係る押弦構造が備える押弦部材43を示しており、図10Aおよび図10Bは、その押弦構造が備えるガイド部44側部分を示している。押弦部材43の被ガイド部43a外周面には、被ガイド部43aの上端部に形成された溝部49bに連なった溝部41が形成されている。溝部41は被ガイド部43aの外周面における溝部49bの端部から真っ直ぐに下方に向って延びたのちに、フランジ部43bに近づいたところで一方(図9Aの左側)に曲がりながら下方に延びてフランジ部43bに達している。この溝部41の上端部と下端部との間の平面視による角度は、略30度になるように設定されている。
【0038】
ガイド部44は、指板42と一体的に形成された円筒体で構成されており、指板42の下面から下方に突出している。また、ガイド部44の内周面44aは、指板42に形成された挿通孔45に連通しており、その下端部に溝部41に係合できる突起46が形成されている。押弦部材43の溝部41とガイド部44の突起46とで本発明の回転移動機構が構成される。この押弦部材43およびガイド部44を備えた押弦構造のそれ以外の部分の構成は、前述した押弦構造10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記している。
【0039】
このように構成したため、押弦部材43を下方に位置させて弦13に当接させていないときには、図11Aないし図11Cに示した状態になる。この場合、押弦部29の溝部49bは、弦13の下方で弦13の延びる方向に位置を合わせた状態になり、溝部41の上端部も弦13の下方に位置する。そして、ソレノイド21の駆動により押弦部材43を上方に移動させていくと、最初は押弦部材43は回転することなく真直ぐに上昇していくが、溝部49bの上部側に弦13が入り込んだころから溝部41の曲がった部分に突起46が位置するようになり、押弦部材43は緩やかに軸周りに回転し始める。
【0040】
そして、押弦部材43が上限位置に達して弦13が溝部49bの下部側に入り込んだときには、図12Aないし図12Cに示した状態になる。この場合、押弦部29の溝部49bの延びる方向は、弦13の延びる方向に対して平面視で略30度の角度で傾斜するようになり、これによって弦13は溝部49b内でひねられた状態になって押弦部29に係合する。この結果、弦13における押弦部29に係合する部分は上方に押し上げられることなく、その係合部分に振動端点が形成される。
【0041】
また、その状態から、押弦部材43が下方に移動する場合には、押弦部材43は、軸周りに回転しながら下降するため弦13との係合を徐々に解除していく。そして、溝部49bの延びる方向と、弦13の延びる方向とが一致したのちには、押弦部材43は回転することなく真直ぐに下降していく。このように、外周面に溝部41が形成された押弦部材43と内周面44aに突起46が形成されたガイド部44とを備えた押弦構造を用いることにより、指板42側からの押弦であっても弦13を上方に押し上げることなく確実に弦の振動端点を形成することができる。
【0042】
また、本発明に係る弦楽器の押弦構造は、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜、変更して実施することが可能である。例えば、前述した各実施形態では、押弦構造10等が取り付けられる弦楽器を、電子ギターとしているが、この弦楽器としては、電子ギター以外のものでもよく、バイオリンやチェロ等、押弦と弾弦を行うことにより演奏できる弦楽器であればよい。この場合、使用する弦楽器に応じてフレットは省略することができる。また、前述した実施形態では、駆動装置として、ソレノイドを用いているが、これに代えて、磁歪素子や、モータとカムを備えた駆動装置を用いることもできる。
【0043】
磁歪素子は、磁気を与えることにより形状が変化する磁歪現象を利用したもので、これによると応答速度が速くなり大きな駆動力を発生することもできる。また、モータとカムを備えた駆動装置では、モータの回転駆動力をカムで上下方向の運動に変更することができる。さらに、前述した第2実施形態では、回転移動機構を、押弦部材43に設けた溝部41とガイド部44に設けた突起46とで構成しているが、これに代えて、押弦部材43の被ガイド部43a外周面に突起を設けるとともに、ガイド部44の内周面44aに溝部を設けて回転移動機構を構成することもできる。
【0044】
また、前述した第1実施形態の押弦装置20および変形例の押弦装置30では、自動演奏時に確実に振動端点を形成するために、押弦部20を、一対の突部29aとその突部29a間に形成された溝部29bとで構成しているが、この押弦部の上面を平面で構成してもよい。バイオリンやフレットレスベースなどのようにフレットのない弦楽器においては、指板面と押弦部の上面とがフラットになる構造の方が、手動演奏する場合に好ましい。このように手動での演奏性をより重視する場合は、押弦部の上面を平面にして、押弦部の弦に対する押圧力で振動端点を形成してもよい。
【0045】
さらに、前述した各実施形態では、指板12等におけるフレット14の近傍に挿通孔15等を設け、挿通孔15等内に押弦部材23等を設置しているが、これに代えて、フレットに挿通孔を設けて押弦部の上端部がフレットの一部を構成するようにしてもよい。これによると、自動演奏するときと通常演奏するときの振動端点が一致する。また、弦楽器の押弦構造を構成するそれ以外の部分の構成についても本発明の技術的範囲内で適宜変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1A】本発明の第1実施形態に係る押弦構造を示す斜視図である。
【図1B】図1Aの押弦構造の所定の押弦部材を弦に当接させた状態を示す斜視図である。
【図2A】複数の押弦装置の配置を示す斜視図である。
【図2B】図2Aに示した複数の押弦装置の正面図である。
【図2C】図2Aに示した複数の押弦装置の平面図である。
【図2D】図2Aに示した複数の押弦装置の側面図である。
【図3A】押弦構造を示す斜視図である。
【図3B】図3Aに示した押弦構造の正面図である。
【図3C】図3Aに示した押弦構造の側面図である。
【図4】(A)〜(C)は、ソレノイドの駆動状態による出力軸の位置を説明する図である。
【図5】押弦部材を示す斜視図である。
【図6A】押弦装置の一方の押弦部材を弦に当接させた状態の押弦構造を示す斜視図である。
【図6B】図6Aに示した押弦構造の正面図である。
【図6C】図6Aに示した押弦構造の側面図である。
【図7A】押弦装置の他方の押弦部材を弦に当接させた状態の押弦構造を示す斜視図である。
【図7B】図7Aに示した押弦構造の正面図である。
【図7C】図7Aに示した押弦構造の側面図である。
【図8】変形例による押弦装置を示す正面図である。
【図9A】本発明の第2実施形態に係る押弦構造が備える押弦部材を示す側面図である。
【図9B】図9Aに示した押弦部材の平面図である。
【図10A】本発明の第2実施形態に係る押弦構造が備える突起の周辺部分を示す平面図である。
【図10B】図10AのA−A断面図である。
【図11A】第2実施形態に係る押弦構造が備える押弦部材を下方に位置させた状態を示す斜視図である。
【図11B】図11Aに示した押弦構造の平面図である。
【図11C】図11Aに示した押弦構造の側面図である。
【図12A】第2実施形態に係る押弦構造が備える押弦部材を弦に係合させた状態を示す斜視図である。
【図12B】図12Aに示した押弦構造の平面図である。
【図12C】図12Aに示した押弦構造の側面図である。
【符号の説明】
【0047】
10…押弦構造、12,42…指板、13…弦、21,31…ソレノイド、21b,31b…出力軸、22,32…駆動レバー、23,33,43…押弦部材、24,44…ガイド部、29…押弦部、29a…突部、41…溝部、46…突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の指板表面側に張設された少なくとも一つの弦を押弦する弦楽器の押弦構造において、
前記楽器の指板表面側から前記弦に対してそれぞれ進退して前記弦の複数の異なる位置に当接し、前記弦の複数の振動端点を形成する複数の押弦部材と、
前記指板の裏面に設けられ、前記複数の押弦部材を前記弦に対して進退させる駆動機構とを備えたことを特徴とする弦楽器の押弦構造。
【請求項2】
前記駆動機構を、相対向する2方向へそれぞれ変位部を変位させる複数の駆動装置と、前記変位部の相対向する2方向への変位を同一の弦の異なる二つの位置に当接する押弦部材にそれぞれ伝達する複数の伝達部材とで構成した請求項1に記載の弦楽器の押弦構造。
【請求項3】
弦楽器の指板表面側に張設された少なくとも一つの弦を押弦する弦楽器の押弦構造において、
同一の弦の異なる二つの位置にそれぞれ当接することによって前記弦の二つの振動端点を形成する一対の押弦部材と、
変位部を相対向する2方向へそれぞれ変位させる駆動装置と、
前記変位部の相対向する2方向への変位を前記一対の押弦部材にそれぞれ伝達し、前記一対の押弦部材をそれぞれ独立して前記弦に当接させる一対の伝達部材と
を備えたことを特徴とする弦楽器の押弦構造。
【請求項4】
前記押弦部材を進退可能に収容するガイド部を前記指板の裏面側に設けた請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の弦楽器の押弦構造。
【請求項5】
前記ガイド部を円筒体で構成して、前記押弦部材における前記弦に当接する部分に前記弦を挟む複数の突部を設けるとともに、前記ガイド部の内周面と前記押弦部材の外周面との間に、前記押弦部材がガイド部の軸方向に移動する際に、前記押弦部材を前記ガイド部に対して軸周りに回転させる回転移動機構を形成した請求項4に記載の弦楽器の押弦構造。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【公開番号】特開2009−31494(P2009−31494A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194656(P2007−194656)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】