説明

弱い患者を処置するためのADCC最適化抗体の使用法

【課題】既存の処置に対する応答が少なくかつそのCD16の特定の多型を有する患者の集団の処置法の提供。
【解決手段】CD16 FCGR3A-158Fホモ接合体またはFCGR3A-158V/Fヘテロ接合体の多型を示すいわゆる弱応答患者の過疎個体群の処置のための、選択された細胞系において産生されるヒトのまたはヒト化されたキメラモノクローナル抗体を使用する。ここで、本抗体は、高ADCC活性ならびにサイトカインおよびインターロイキンの高い分泌をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の処置に対する応答が少なくかつそのCD16の特定の多型を有する患者の集団を処置するための、免疫系のエフェクター細胞のCD16受容体(FcγRIII)に関する強い相互作用を有しかつサイトカインおよびインターロイキンの分泌を誘導する特性を有する、特異的グリコシル化を有するキメラ、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体による免疫治療は、医療において最も重要かつ革新的なストラテジーの一つになりつつある。しかし、臨床試験において得られる結果は、複合的であるように見える。実際、多くの処置において、モノクローナル抗体は、十分に活性および/または有効であるようには見えない。有効性の欠如のため、および、臨床処置としての使用には不適格である副作用のために、数多くの臨床試験が停止されている。有効性の欠如を補いかつ治療的応答を得るために比較的活性の無いおよび/または有効性の無い抗体を高用量で投与するという条件で、これらの2つの局面は密接に関連する。高用量の投与はその後、副作用を生じる。更に、これは経済的にも引き合わない。
【0003】
これらは、モノクローナル抗体の、特にキメラ、ヒト化またはヒト抗体の業界における主要な問題である。しかし、これらの問題は、処置集団の平均と比較すると抗体の治療効果が有意に低い、特定の患者集団を悪化させる。これらの患者は一般的に、「低応答患者(low-responder patient)」と呼ばれる。
【0004】
抗体によって媒介される細胞傷害性が、抗体のFab部分のそれらの標的への結合、および、エフェクター細胞(RFc)のFc受容体とそれらのFcドメインとの結合を必要とすることは、公知である。NK細胞において、この細胞傷害性の原因となる受容体はCD16である。
【0005】
この知見を根拠として、治療すべき状態に特異的な抗体による処置に対して難治性の患者(いわゆる「低応答」患者)の亜集団とCD16多型との相互関係を確立するために、研究が行われた。
【0006】
2000年の研究 (Cartron G, Dacheux L, Salles G, Solal-Celigny P, Bardos P, Colombat P, Watier H, Therapeutic activity of humanized anti-CD20 monoclonal antibody and polymorphism in IgG Fc receptor FcgammaRIIIa gene, Blood. 2002 Feb 1; 99(3): 754-8) (非特許文献1)において、Rituxan(登録商標)で処理された患者集団の構成を、158位におけるCD16多型によって分析した。これは、20%のFCGR3A-158Vのホモ接合体(CD16の158位のバリンに関してホモ接合性の患者)、35%のFCGR3A-158Fホモ接合体(CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者)、および、45%のFCGR3A-158V/Fヘテロ接合体(CD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者)によって構成されていた。ADCC活性は、抗CD20 Rituxan(登録商標)抗体の臨床的有効性と同様に、CD16多型と相関する:FCGR3A-158Fホモ接合性またはFCGR3A-158V/Fヘテロ接合性の患者は、FCGR3A-158Vホモ接合性の患者よりも、Rituxan(登録商標)処置に応答しない。
【0007】
したがって、この研究により、治療用抗体による処置に対する応答の違いがCD16多型と関連していることを実証することが可能になった。
【0008】
しかし、この研究は、治療用抗体で処置されたいわゆる「低応答」患者におけるこの多型の効果の減少に対する解決策を提唱するものではない。これは、低応答患者の処置に適した治療的処置を提供するものではない。
【0009】
さらに、抗Rh(Rhesus)抗体を用いて実行された臨床研究からその他の結果が得られ、これにより、IgG3抗DによるRh陽性赤血球の消失がFCGR3A-158Fホモ接合性の患者においてより急速だったことが示された(Kumpel BM, De Haas M, Koene HR, Van De Winkel JG, Goodrick MJ. Clearance of red cells by monoclonal IgG3 anti-D in vivo is affected by the VF polymorphism of Fcgamma RIIIa (CD16). Clin Exp Immunol. 2003 Apr; 132 (1): 81-6)(非特許文献2)。しかしながら、研究される患者数が少ないので、この研究から技術的な結果を導くことはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cartron G, Dacheux L, Salles G, Solal-Celigny P, Bardos P, Colombat P, Watier H, Therapeutic activity of humanized anti-CD20 monoclonal antibody and polymorphism in IgG Fc receptor FcgammaRIIIa gene, Blood. 2002 Feb 1; 99(3): 754-8
【非特許文献2】Kumpel BM, De Haas M, Koene HR, Van De Winkel JG, Goodrick MJ. Clearance of red cells by monoclonal IgG3 anti-D in vivo is affected by the VF polymorphism of Fcgamma RIIIa (CD16). Clin Exp Immunol. 2003 Apr; 132 (1): 81-6
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、現在利用可能な抗体による処理が失敗するような患者または望ましくない副作用で苦しむ患者を処置するのに有効な抗体を提供することである。
【0012】
本出願人は、Fcドメインがいわゆる「低応答」患者の処置に特に適した細胞障害活性を有する特定のグリカン構造を有する抗体を見出した。これは、その細胞障害活性がFCGR3A-158V/F多型に影響を受ける、CHOにおいて産生される抗体とは異なり、CD16の第158アミノ酸のFCGR3A-158Fホモ接合性またはFCGR3A-158V/F多型に影響を受けない。さらに、本出願人は、本発明による抗体がサイトカイン/ケモカイン産生を引き起こすことを見出した。これはまた、処置される患者の免疫系のエフェクター機構を刺激することによって、治療効果の強化に寄与する。
【0013】
本発明は、従って、いわゆる「低応答」患者の亜集団の処置における、本発明の抗体の使用を提唱する。これらの抗体は、現在の処置において利用可能な抗体より最大100倍高い、ADCC活性ならびにサイトカインおよび/またはケモカイン産生を有する。
【0014】
したがって、本発明は、以下を特徴とする、キメラ、ヒト化またはヒトの最適化されたモノクローナル抗体の使用に関する:
a) その、抗体のFc領域のグリコシル化の特性に関して選択される細胞系において産生される、または
b) Fc領域のグリカン構造が、エクスビボにおいて改変された、および/または
c) その一次配列が、Fc受容体とのその相互作用を増大するように改変された。
ここで該抗体は、(i) ホモ接合性FCGR3A-158V/FまたはFCGR3A-158F CD16受容体の多型を有しかつ現在利用可能な抗体による処置に対して「低応答」と考えられる患者における状態の処置が意図される薬の調製のための、CHO系において産生される同じ抗体または市販の同種抗体と比較して60%、70%、80%を上回る、または好ましくは90%を上回る、CD16(FcγRIIIA)を介したADCCレベルを有する。
【0015】
本発明の目的に関して、「低応答」患者という用語は、いわゆる「高応答」患者、すなわち、疾患の測定可能な全ての臨床徴候および症状の消失に相当する、完全寛解(complete response)を得た患者と比較して、治療用抗体による処置に対する応答が20%から50%減少した患者を指す。
【0016】
例えば、赤血球のクリアランスの研究または血流における他の細胞型の研究の場合、「低応答」患者という用語は、別の群の患者と比べて、有意に長いクリアランスを有する患者を指す。白血病の処置においては、以下が識別される:
* 臨床試験および生物学的実験データおよび放射線検査に関して、疾患の測定可能な全ての徴候および症状の消失に相当する完全寛解を有する高応答者。最大腫瘍のサイズは、75%を上回って減少する。
* 部分的に寛解する患者については、論文、Cheson BD et al, Report of an international workshop to standardize response criteria for non-Hodgkin's lymphomas. NCI Sponsored International Working Group. J Clin Oncol. 1999 Apr; 17(4): 1244. Review. Erratum in: J Clin Oncol 2000 Jun; 18(11): 2351に記載されている。
* 腫瘍質量の減少が少なくとも50%であり、病変の増加が25%未満であり、かつ新規な病変が見られない、いわゆる安定した状態を有する患者に相当する低応答者。この群の患者も、応答が観察されない患者(死亡するまで進行する疾患の進行)を含む。
【0017】
したがって、いわゆる「低応答」患者の亜集団については、CD16の第158アミノ酸の多型(ホモ接合性FCGR3A-158FまたはFCGR3A-158V/F)またはこのCD16多型と関連している別の多型に関して、処置の有効性は、本発明の最適化抗体を用いるとより良好であり、かつ、いわゆる「高応答」患者のそれにほぼ近くなる。
【0018】
ホモ接合性FCGR3A-158Vの表現型は、ホモ接合性FCGR3A-158Fおよびヘテロ接合性FCGR3A-158V/F型よりも良好な親和性を有するので、実際は、抗体のFcに関する受容体の相互作用はCD16多型(aa158)によって異なる。本発明による抗体はCD16との強い相互作用を有するが、これにより、これらの機能活性が、ホモ接合性FCGR3A-158FまたはFCGR3A-158V/F CD16多型による影響を全くまたは非常にわずかしか受けないという事実を説明することができる。
【0019】
本発明は、従って、CD16多型(ホモ接合性FCGR3A-158FまたはFCGR3A-158V/F)を有する患者、特に、現在利用可能な抗体による処置が失敗した患者および/または本発明の最適化抗体の投与を妥当なものにするような望ましくない副作用に苦しむ患者の、特定の集団を対象にする。
【0020】
本発明による抗体により処置される状態とは特定の状態に限定されるものではなく、モノクローナル抗体により処置されることができる全ての状態を含む。
【0021】
CD16型ADCC活性(FcγRIIIA)の非常に重大な改善に加えて、本発明の抗体は、CHO系列において産生される同じ抗体に対してまたは市販の同種抗体と比較して50%、100%を上回る、または好ましくは200%を上回るCD16受容体を発現している免疫系のある種のエフェクター細胞によって少なくとも一つのサイトカインの分泌を誘導するという点に特徴付けられる。サイトカインのタイプは、IL-1、IL-4、IL-12、IL-18、IL-21、IL-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IFNα、IFNβ、TNFα、TGFβ、IP10およびTNF、IFNγから選択される。
【0022】
本発明の文脈において、本発明者らは、CD16との強い相互作用を有する抗体が、サイトカインまたはケモカインの産生、特にIFNγの産生を誘導するという利点を有することを示す。上述の2つの特徴は、互いに相補的である。実際、本発明による抗体によって誘導される、エフェクター細胞によるIFNγまたは他のサイトカインもしくはケモカインの産生は、処置される患者において免疫系のエフェクター機構を刺激することにより、治療効果を強化することができる。このような刺激の作用機構は、特に、エフェクター細胞の正のオートクリン(autocrine)調節に対応する。CD16に結合している抗体は、細胞障害活性ならびにIFNγまたは他のサイトカイン/ケモカインの産生を誘導するが、これは結局、細胞障害活性の更なる増加をもたらす。
【0023】
好ましくは、この抗体は、CHO系において産生される同じ抗体または市販の同種抗体と比較して少なくとも100%を上回るADCCレベルを有し、かつ、CHO系において産生される同じ抗体または市販の同種抗体に対して少なくとも100%を上回る、CD16受容体を発現する免疫系のある種のエフェクター細胞による少なくとも一つのサイトカインの産生レベルを有する。
【0024】
最適化抗体によってその放出がもたらされるサイトカインは、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、インターフェロン、および、腫瘍壊死因子(TNF)から選択される。
【0025】
したがって、本発明による抗体は、免疫系のエフェクター細胞により、IL-1、IL-4、IL-12、IL-18、IL-21、IL-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IFNα、IFNβ、TNFα、TGFβ、IP10およびTNF、IFNγから選択される少なくとも一種類のサイトカインの分泌を誘導できる。
【0026】
好ましくは、選択される抗体は、CD16受容体を発現する免疫系のエフェクター細胞によってIFNγまたは他のサイトカイン/ケモカインの分泌を誘導する能力を有し、より具体的にはCD16 Jurkat細胞によってIL2の分泌を誘導する能力を有する。分泌されるIFNγまたは他のサイトカインおよび/もしくはケモカインのレベルは、抗体のFc領域とCD16との相互作用能を表し、かつ、抗原への結合能も表す。免疫系の細胞によるIFNγまたは他のサイトカインおよび/もしくはケモカインの分泌は、エフェクター細胞(NK、単核細胞、マクロファージ、多核性好中球など)の細胞障害活性を増大させるおよび/または誘導することができる。
【0027】
エフェクター細胞は、サイトカインおよび/もしくはケモカインまたは増殖因子によっておそらく修飾可能な内因性のCD16を発現することができるか、または形質転換されることができる。「形質転換細胞」という用語は、受容体、特にCD16受容体を発現するように遺伝的に改変された細胞を指す。
【0028】
特定の態様において、本発明の抗体は、白血球、特にNK(ナチュラルキラー)細胞のファミリーによって、または、骨髄性単球系(単核細胞-マクロファージおよび樹状突起細胞)の細胞によって、少なくとも一つのサイトカインの分泌を誘導することができる。
【0029】
好ましくは、抗体の選択のために、エフェクター細胞として、CD16受容体をコードする発現ベクターによってトランスフェクションされたJurkat系を使用する。この系は不死化されかつ培養物中で無期限に維持されているので、特に有利である。分泌されるIL2のレベルは、CD16と抗体のFc領域との相互作用能を表し、かつ、抗原への結合能も表す。
【0030】
CD16受容体をコードする発現ベクターによってトランスフェクションされたさまざまなJurkat系を、エフェクター細胞として使用することができ、これらの系はそれぞれ、特定のCD16を発現する。
【0031】
さらに、精製および/またはそのFc領域のグリカン構造に対するエクスビボ改変の後に、最適化抗体を調製することができる。このために、抗体のグリカン構造の改変に適した、任意の化学的、クロマトグラフィー的、または酵素的な手段を用いることができる。例えば、さまざまな供給源から得られた抗体を精製すること、一つまたは複数のグリコシルトランスフェラーゼ、特にガラクトシルトランスフェラーゼを反応混合物に加えること、および、上述のグリカン構造を有する抗体が得られるまで、所定の期間インキュベートすることが可能である。
【0032】
治療用抗体を産生するために一般的に使用される、ラットミエローマ系、特にYB2/0およびその誘導体、ヒトリンパ芽球状細胞、昆虫細胞、ネズミミエローマ細胞、ハイブリドーマ、ならびに酵母などの真核細胞のような細胞によって産生される抗体を用いて、選択を行うことができる。
【0033】
還元末端(reductive end)において6位のN-アセチルグルコサミン残基に結合したフコースαの1位のオリゴ糖鎖の修飾に関与する酵素、特に1,6-フコシルトランスフェラーゼ、およびガラクトシルトランスフェラーゼから特に選択される一つまたは複数のグリコシルトランスフェラーゼを発現する一つまたは複数の配列を導入することにより、遺伝的に改変された哺乳動物細胞系、例えば遺伝的に改変されたCHOにおいて抗体を産生することも可能である。また、選択を、トランスジェニック植物またはトランスジェニック哺乳動物により産生される抗体の評価に応用することもできる。
【0034】
したがって、CHOにおける産生は、本発明による抗体を導く産生系を比較および選択するための参照(薬物抗体の産生において使用されるCHO)として働く。ポリクローナル抗体を用いる比較はまた、モノクローナル抗体の有効性試験においても有用である。したがって、CD16の第158アミノ酸の多型またはこの多型と関連している別の多型に関していわゆる「低応答」患者の亜集団については、処置の有効性は、本発明の最適化抗体を用いるとより良好であり、かつ、いわゆる「高応答」患者のそれと類似している。本発明者らは、最適化されたモノクローナル抗体の機能活性が治療用ポリクローナル抗体のそれに関連することを示す。したがって、一部の治療実験においては、起源の異なるモノクローナル抗体の有効性に関する試験における対照としてポリクローナル抗体を使うことができる。これにより、低応答患者の亜集団の処置のために意図されるモノクローナル抗体を選択することが可能になる。
【0035】
したがって、一部の治療実験においては、起源の異なるモノクローナル抗体の有効性に関する試験における対照としてポリクローナル抗体を使うことができる。これにより、低応答患者の亜集団の処置のために意図されるモノクローナル抗体を選択することが可能になる。別の選択肢は、市販の抗体、特に開発中の抗体)、販売認可(marketing authorisation)が得られた抗体、または、臨床実験が中止され、かつ、無効であることもしくは投与用量で望ましくない副作用を生じることが示された抗体との比較を実行することからなる。実際、本発明の改変抗体は、免疫系のエフェクター細胞によって支持されるADCCを活性化させるために少なくとも100%さらに効果的であり、これは、前述の抗体に関して使用されるよりも低い投与用量を意味し、かつ、この場合、現在利用可能な抗体の有効性がないと証明された患者を処置する可能性を意味する。
【0036】
本発明の好ましい態様において、第一段階で、抗体を、CD16受容体との相互作用能力について選択することができ、次に、Jurkat CD16細胞によるサイトカイン、特にIL-2の産生、またはCD16を発現するエフェクター細胞によるIFNγの産生を誘導する特性について、上述のように試験および選択することができる。
【0037】
このような抗体は、CD16を介したADCCの誘導、ならびに、免疫系の細胞によるIFNγまたは他のサイトカインおよび/もしくはケモカインの産生の誘導という、この二重の特性を有し、これはエフェクター細胞(特に、NK、単核細胞、マクロファージ、および多核性好中球)の細胞障害活性を増大させるおよび/または誘導することができる。
【0038】
したがって、本発明は、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)の状態の処置のために意図された薬物の調製のための、上述のように定義された抗体の使用に関する。
【0039】
本発明によるこのような抗体は、特異的グリコシル化を有する。本発明による抗体は、短鎖、低シアリル化、付着部位の非介在末端マンノースおよびGlcNAc、ならびに低フコシル化を有する、二分岐型(biantennary-type)Fcドメインを有する。
【0040】
したがって、本発明の別の態様は、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)の状態の処置のために意図された薬物の調製のための、キメラ、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体の使用に関し、この抗体のFcドメインのグリカン構造は、短鎖、低シアリル化、付着部位の非介在末端マンノースおよびGlcNAc、ならびに低フコシル化を有する二分岐型に対応する。
【0041】
実際、抗体のFcドメインのこのグリカン形状は、後者に、上述のように、強いDCCならびにサイトカインおよび/またはケモカインの産生を誘導する特性を与える。
【0042】
この抗体において、介在(intercalary)GlcNAcのレベルはゼロではない。例えば、G0F形状+G1F形状の濃度が50%未満、好ましくは30%未満という条件で、G0形状+G1形状+G0F形状+G1F形状についての濃度が60%を上回る、好ましくは80%を上回る組成物を、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)の処置のために意図された薬物の調製のために用いることができる。
【0043】
上述の抗体は、好ましくはIgG1である。
【0044】
本発明の別の目的とは、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)へのキメラ、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体の投与を含む、治療的処置方法を提供することに関し、この抗体のFcドメインのグリカン構造は、短鎖、低シアリル化、付着部位の非介在末端マンノースおよびGlcNAc、ならびに低フコシル化を有する二分岐型に対応する。
【0045】
患者は、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性(FCGR3A-158Fホモ接合体)であることが有利である。
【0046】
好ましくは、処置される患者において、現在利用可能な抗体は治療の失敗をもたらした、または、患者は望ましくない副作用を経験した。
【0047】
患者に投与される抗体の用量は、同じ特異性を有するがグリコシル化が異なるまたはCHO系によって産生された抗体を用いて示された用量の、好ましくは1/2、1/5、および好ましくは1/10、1/25、1/50、または最も好ましくは1/100であることが好ましい。
【0048】
患者に投与される抗体の用量は、異なるグリコシル化により同じ特異性を有するまたはCHO系によって産生された抗体の用量の、1/2〜1/5、1/5〜1/10、1/5〜1/25、1/5〜1/50、または好ましくは1/5〜1/100であることが有利である。
【0049】
本発明の別の態様において、本発明の抗体を、ラットミエローマ細胞系、例えばYB2/0(ATCC番号CRL 1662)において産生することができる。実際、このような細胞は、上述のグリコシル化抗体を得ることを可能にする。したがって、本発明の相補的な態様は、CD16のホモ接合型のFCGR3A-158V/FもしくはFCGR3A-158Fを有する患者、特に現在利用可能な抗体による処置が失敗した患者、または、本発明の最適化抗体の投与を妥当なものにするような望ましくない副作用で苦しんでいる患者の処置のために意図される薬物の調製のための、ラットミエローマ系、例えばYB2/0またはその誘導体のうちの1つにおいて産生されるキメラ、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体の使用に関する。好ましくは、本発明は、ラットミエローマ細胞系、特にYB2/0およびその誘導体において産生される抗体の使用に関する。CD16のホモ接合型のFCGR3A-158V/FまたはFCGR3A-158Fを介したADCCの誘導、ならびに、CD16受容体を発現すると記載されているエフェクター細胞(NK、単核細胞、マクロファージ、多核性好中球など)の細胞障害活性を増大させるおよび/または誘導することができる、免疫系の細胞によるIFNγまたは他のサイトカインおよび/もしくはケモカインの産生の誘導という二重特性を有する該抗体を、低応答患者または現在利用可能な抗体による処置が失敗したもしくは望ましくない副作用に苦しむ患者の特定の集団の処置のために意図される薬物の調製のために、使用することができる。
【0050】
ラットミエローマ細胞系、特にYB2/0またはその誘導体の一つにおいて産生される、本発明による抗体は、上述のFc断片のグリカン構造、上述のG0形状+G1形状+G0F形状+G1F形状およびG0F形状+G1F形状濃度のを有し、かつこれは、ADCCにより細胞傷害性を誘導し、上述の方法でサイトカインの分泌を誘導する。
【0051】
本発明の抗体は、健常ドナー細胞に存在する非偏在性の抗原に対するもの(例えば抗体は、抗Rhヒト赤血球特異的である)、または、病的(pathological)細胞もしくはヒトに対する病原性生物体の抗原に対するものであることができ、特に、癌細胞またはウイルス感染細胞の抗原に対するものであることができる。癌およびこれらの患者に対する病原物質による感染症の処置のための上記で定義された抗体の使用が有利である。
【0052】
これらの患者におけるこのような抗体の投与を必要とする状態は、例えば、新生児および免疫応答を免れている人々の溶血性疾患、特にセザリー症候群、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL-B)、充実性腫瘍、乳癌、特にポリ塩化ビフェニルにさらされた人々を冒す環境に関連する状態、感染症、特に結核、慢性疲労症候群(CFS)、特に妊婦における例えば住血吸虫またはマラリアなどの寄生虫感染症、ならびに、ウイルス保有細胞(特にHIV、HCV、HBV)および感染細胞を標的とするためのウイルス感染症から選択される疾患を含む。
【0053】
治療される状態は、抗原の発現量が少ない(poorly expressed)状態(例えば赤血球性白血病(erythrocytes leukaemia)、慢性リンパ球白血病B(CLL-B)におけるRhD抗原)を含む。「発現量が少ない抗原」とは、標的細胞あたり250,000未満、好ましくは100,000または50,000未満、非常に有利には10,000または5,000未満の抗原部位の数を指す。
【0054】
本発明の特定の態様においては、CD16のホモ接合性のFCGR3A-158V/F型またはFCGR3A-158V型をもつ患者、および、CLL-Bを有する患者が対象となる。これらの腫瘍細胞においてCD20の発現量は大変少ないので、本発明による抗CD20抗体をこれらの患者の処置のために使用することは特に有利である。
【0055】
最も具体的には、癌は、HLAクラスII陽性細胞の癌、B細胞リンパ腫、B細胞急性白血病、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL-B)、T細胞のリンパ腫および白血病、非ホジキンリンパ腫、ならびに慢性骨髄性白血病に関わる。
【0056】
本発明による抗体は、抗HLA-DR抗体または抗CD20抗体であることができる。
【0057】
本発明の特定の態様において、抗体が抗CD20抗体である場合、抗体は、187.5mg/kg、75mg/kg、37.5mg/kg、15mg/kg、7.5mg/kg未満の用量で、または好ましくは3.75mg/kg未満の用量で有利に投与される。投与される用量は、有利には187.5mg/kg〜75mg/kg、または75mg/kg〜37.5mg/kg、75mg/kg〜15mg/kg、75mg/kg〜7.5mg/kg、および好ましくは75mg/kg〜3.75mg/kg、または15mg/kg〜3.75mg/kgである。
【0058】
この抗体は、Rituxan(登録商標)のそれよりも、100%を上回る大きさのADCCレベル、および、最大で1000%高い、CD16 Jurkat細胞によるIL-2産生レベルを有利に有する。
【0059】
本発明の抗CD20抗体を、ラットミエローマ細胞系、特にYB2/0において産生することができる。
【0060】
さらに一例として、本発明による抗体は、表1に列挙された、現在利用可能な抗体に対応する第二世代の(second generation)抗体であることができる。
【0061】
【表1】


【0062】
その他の抗体を、抗Ep-CAM、抗HER2、抗CD52、抗HER1、抗GD3、抗CA125、抗GD、抗GD2、抗CD-23、および抗プロテインC;抗KIR3DL2、抗EGFR、抗CD25、抗CD38、抗CD30、抗CD33、抗CD44、凝固因子などの阻害剤特異的抗イディオタイプ、ならびに抗ウイルス物質: HIV, HBV, HCVおよびRSVから選択することができる。
【0063】
好ましい態様では、抗体は抗HLA-DR抗体である。この抗体は、Remitogen(登録商標)の発現系であるCHO系において発現される同じ抗体と比べて、ADCCレベルが100%を上回り、かつ、CD16 Jurkat 細胞によるIL2産生レベルまたCD16受容体を発現する免疫系のエフェクター細胞によるIFNγ産生レベルが最大1000である。
【0064】
本発明の抗HLA-DR抗体を、ラットミエローマ系、特にYB2/0において産生することができる。
【0065】
また本発明は、免疫系の天然のエフェクター細胞によるIL-1、IL-4、IL-12、IL-18、IL-21、IL-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IFNα、IFNβ、TNFα、TGFβ、IP10、およびIFNγの発現誘導が意図される薬物を産生するための、上述の抗体の使用にも関し、この薬物は特に、現在利用可能な抗体が失敗している患者または本発明の最適化抗体の投与を妥当なものにする望ましくない副作用に苦しむ患者、特にCD16のV/F158型またはF/F158型を有する患者における癌および感染症の処置において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】異なる供血者のエフェクター細胞(PBMC:Peripheral Blood Mononuclear Cells)および多価免疫グロブリン(Tegeline 500μg/ml)存在下での、抗RhDモノクローナル抗体R297(YB2/0で産生されるIgG1 T125)およびポリクローナル抗体WinRhoのADCC活性。
【図2】ホモ接合表現型CD16 FCGR3A-158FのドナーのNK細胞において、抗RhD抗体(ポリクローナル抗体WinRho、YB2/0内で産生されるT125、およびCHOにおいて産生されるT125)によって誘導されるADCC。
【図3】ホモ接合表現型CD16 FCGR3A-158FのドナーのNK細胞において、抗RhD抗体(ポリクローナル抗体WinRho、YB2/0内で産生されるT125、およびCHOにおいて産生されるT125)によって誘導されるADCC。
【図4】YB2/0およびCHOにおいて発現される抗RhD抗体T125によるホモ接合性FCGR3A-158F CD16 Jurkatの活性化。
【図5】YB2/0およびCHOにおいて発現される抗RhD抗体T125によるホモ接合性FCGR3A-158V CD16 Jurkatの活性化。
【図6】YB2/0およびCHOにおいて発現される抗HLA-DR抗体によって誘導されるホモ接合性FCGR3A-158F CD16 Jurkatの活性化。
【図7】YB2/0およびCHOにおいて発現される抗HLA-DR抗体によって誘導されるホモ接合性FCGR3A-158V CD16 Jurkatの活性化。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明のその他の態様および利点を以下の実施例に記載するが、これは、例示のみを意図しており本発明の範囲を制限するものではないことを考慮されたい。
【実施例】
【0068】
実施例1:107人の供血者群におけるポリクローナル抗D抗体と比較される抗RhDモノクローナル抗体R297のADCC活性
抗RhD R 297モノクローナル抗体およびポリクローナル抗D抗体が、異なる個々のドナーのエフェクター細胞存在下で赤血球を溶解させる能力を、それぞれ比較する(図1)。
【0069】
エフェクター細胞は、107人の供血者群に由来する。単核細胞(PBMC)は、フィコール勾配(Pack Plus Pharmacia)の遠心分離によって、血液バッグから単離される。血小板を遠心分離(190g、15分)によって除去し、残存赤血球はNH4Clで溶解させる。細胞を洗浄し、8×107細胞/mlでIMDMに再懸濁する。治療用濃縮物(グループO、Rh+)から得られる赤血球を、パパイン(1mg/ml)で10分間処置し、その後生理食塩水緩衝液で3回洗浄して、IMDM中で濃度4×107/mlまたは2×107/ml(NK試験)に調整する。
【0070】
試験は、96ウェルプレート(NUNC)において実行する。培養上清または精製された抗体(IMDM + 0.5%FBS中で100μl〜200ng/ml)、エフェクター細胞(25μl)、赤血球(25μl)、および、多価免疫グロブリン(Tegeline、LFB)(50μl)は、CO2濃縮(CO2-enriched)雰囲気下で、37℃で16時間インキュベートされる。非特異的溶解のために、エフェクター細胞をIMDMに置き換える。37℃で16時間後、プレートを遠心分離する。上清60μlを回収し、2.7ジアミノフルオレン(DAF、Sigma)60μlと混合する。
【0071】
5分後、620nmでのODを計測する。
【0072】
溶解のパーセンテージは、それぞれ100%、75%、50%、25%、および、0%溶解に相当する、NH4Clにより溶解された異なる希釈度の赤血球を用いて得られた検量線を用いて推定される。
【0073】
同じ地理的領域のドナーについて行われた遺伝子型の研究に基づいて、本研究により、CD16多型に関する107人のドナーの平均的分布が、FCGR3A-158Fホモ接合体が27人、FCGR3A-158Vホモ接合体が20人、および、FCGR3A-158V/Fが60人であることが推定される。
【0074】
この結果は、被験抗体に関係なく、様々な被験者のエフェクター細胞が陽性Rh赤血球の溶解を誘導する能力における広い多様性を示している。研究されるドナーに関係なく、および従って、ドナーのエフェクター細胞のCD16多型に関係なく、YB2/0細胞系において発現される抗体は、ポリクローナル抗体のそれと同等の細胞溶解活性を有する(図1を参照のこと)。
【0075】
実施例2:CD16多型によってCHOおよびYB2/0において産生される抗体のADCC有効性
RhD抗原の特定のIgG1をコードする同じ配列を、CHOおよびYB2/0細胞系にトランスフェクションした。陽性Rh赤血球(標的細胞)、および、その158位でのCD16表現型について以前遺伝子型同定された6人の異なるドナー(FCGR3A-158Vホモ接合体3人およびFCGR3A-158Fホモ接合体3人)由来のNK細胞と共に、抗体をインキューベートした。NK細胞は、Myltenyiの磁気ビーズ分離技術(MACS)を用いて単離される。NK細胞を洗浄し、2×107/mlおよび/または6×107/mlでIMDMに再懸濁する。赤血球を、IMDM中で濃度2×107/mlに調整する。TegelineをIMDMで置換する。これらの修正を除いて、本試験は、PBMCを用いたADCC試験と同一である。
【0076】
赤血球に対する抗体の細胞障害活性(ADCC)を評価した(図2および図3)。
【0077】
ドナーの表現型に関係なく、CHO系において産生された抗体は、YB2/0において産生された抗体よりも、溶解の誘導性が低かった。YB2/0系において発現されたR297抗体は、最低濃度から、強い細胞溶解活性を誘導した。25ng/mlの最大濃度において、2つの抗体は同じパーセンテージのADCCを誘導した。
【0078】
25ng/ml未満の濃度において、CHO中で産生された抗体およびYB2/0中で産生された抗体の間の溶解の違いは、ホモ接合性FCGR3A-158Vのドナーにおいてよりも、ホモ接合性FCGR3A-158Fのドナーにおいて大きい。2.5ng/mlの濃度において、ホモ接合性FCGR3A-158VのNK細胞の存在下では、CHOによって産生された抗体は54%の溶解を誘導したが、YB2/0によって産生された抗体は89%の溶解を誘導し、すなわち56%の増加であった。対照的に、同じ濃度において、ホモ接合性FCGR3A-158FのNK細胞の存在下では、CHOによって産生された抗体はわずか22%の溶解しか誘導しなかったが、YB2/0によって産生された抗体は74%の溶解を誘導し、すなわち236%の増加であった。
【0079】
従って、YB2/0系において発現された抗体は、CHOにおいて産生された抗体により低い溶解を生じている患者を処置するためのより良好な産物であることが判明した。このように、FCGR3A-158Vおよびホモ接合性FCGR3A-158Fの患者の間のADCC活性の違いは、CHOにおいて発現された抗体を用いて観察された活性(56%および22%)と比べて、YB2/0において発現された抗体を用いるとより低くなる(89%および74%)。
【0080】
最適化抗体は応答を有し、これはしたがって、CD16の多型には殆ど依存しないようである。
【0081】
さらに、YB2/0において発現されたモノクローナル抗体は、常にポリクローナル抗体を上回るかこれに等しい溶解を誘導する。
【0082】
実施例3:CHOおよびYB2/0においてそれぞれ産生される抗Rh抗体によって誘導される、ホモ接合性FCGR3A-158F CD16 Jurkat細胞およびホモ接合性FCGR3A-158F CD16 Jurkat細胞の活性化の比較:IL2産生の評価
本試験は、抗体の、CD16 Jurkat細胞で発現されるCD16受容体(FcγRIII)に結合する能力およびIL2の分泌を誘導する能力を推定するものである。
【0083】
RhD抗原特異的なIgG1(T125)をコードする同じ配列を、CHOおよびYB2/0細胞系にトランスフェクションした。抗体を、陽性Rh赤血球(標的細胞)およびCD16 Jurkat細胞(エフェクター細胞)と共にインキュベートする。二種類のJurkat細胞を使用した:1、158位にアミノ酸フェニルアラニン(F)を有するRFcをコードする遺伝子をトランスフェクションした細胞(F型);2、158位にアミノ酸バリン(V)を有するRFcをコードする遺伝子をトランスフェクションした細胞(V型)。CD16 Jurkat細胞によって分泌されるサイトカイン(IL2)の量は、ELISAによって測定した。
【0084】
96ウェルプレート内で以下を混合する:
IMDM(Iscove改変ダルベッコ培地)5%FBS(ウシ胎仔血清)中での希釈率50ng/ml;37.5ng/ml;25ng/ml;18.75ng/ml;12.5ng/ml;9.4ng/ml;6.25ng/ml;3.125ng/mlの、抗体50μl
- IMDM 5%FBS中で希釈率40ng/mlの、PMA 50μl
- IMDM 5%FBS中で8×106/mlの、パパインで処理された赤血球50μl
- IMDM 5%FBS中で2×106/mlの、Jurkat CD16 50μl
37℃で一晩インキュベートする。
次にプレートを遠心分離し、上清100μlを回収して、市販のキット(R/DのQuantikine)を用いてIL2を分析する。450nmにおいて読み取りを行う。
【0085】
CHOにおいて発現された抗体と違って、YB2/0系において発現された抗体は、CD16表現型(図4および図5)に関わらず、より高いIL2分泌を誘導することができる。
【0086】
CHOにおいて産生された抗体は、ホモ接合性FCGR3A-158F CD16 Jurkat由来のIL2分泌を誘導せず、かつ、ホモ接合性FCGR3A-158V型のIL2のきわめて少量の産生を誘導する。
【0087】
Rh系の特徴の1つは膜表面での抗原の低発現であるので、これらの条件下では、YB2/0系において発現された抗体が、CD16のホモ接合型FCGR3A-158Fを有するエフェクター細胞を活性化するための非常に良好な産物であるようであり、これは、CHOにおいて産生された抗体によっては活性化できないようである。ホモ接合型FCGR3A-158Vに関しては、YB2/0によって産生されるきわめて少量の抗体(<1.56)により、CHOにおいて産生される、より高濃度の抗体(12.5ng/ml)によって得られる活性化と同等の活性化を誘導することが可能になる。
【0088】
ホモ接合型FCGR3A-158Fを用いかつ12.5ng/mlの濃度において、CHOにおいて産生された抗体は、YB2/0において産生された抗体によって誘導されるIL2分泌(1435pg/ml)の2%を下回るIL2分泌(18pg/ml)を誘導する。CHOにおいて産生された抗体と比べると、YB2/0において産生された抗体を使用する場合、これは7000%を上回る増加に相当する。
【0089】
ホモ接合型FCGR3A-158Vを用いかつ12.5ng/mlの濃度において、CHOにおいて産生された抗体は、YB2/0において産生された抗体によって誘導されるIL2分泌(12312pg/ml)の8%を下回るIL2分泌(869pg/ml)を誘導する。CHOにおいて産生された抗体と比べると、YB2/0において産生された抗体を使用する場合、これは1,300%を上回る増加に相当する。
【0090】
実施例4:CHOおよびYB2/0においてそれぞれ発現される2つの抗HLA-DR抗体によって誘導される、ホモ接合性FCGR3A-158F CD16 Jurkat細胞ならびにホモ接合性FCGR3A-158V Jurkat細胞の活性化の比較:IL2分泌の評価
HLA-DR抗原特異的なIgG1をコードする同じ配列を、CHOおよびYB2/0細胞系にトランスフェクションした。抗体を、Raji細胞(陽性HLA-DR標的細胞)およびCD16 Jurkat細胞(エフェクター細胞)と共にインキュベートする。二種類のJurkat細胞を使用した:1、158位にアミノ酸フェニルアラニン(F)を有するRFcをコードする遺伝子をトランスフェクションした細胞(F型);2、158位にアミノ酸バリン(V)を有するRFcをコードする遺伝子をトランスフェクションした細胞(V型)。CD16 Jurkat細胞によって分泌されるサイトカイン(IL2)の量は、ELISAによって測定した。
【0091】
96ウェルプレート内で以下を混合する:
IMDM 5%FBS中での希釈率50ng/ml;37.5ng/ml;25ng/ml;18.75ng/ml;12.5ng/ml;9.4ng/ml;6.25ng/ml;3.125ng/mlの、抗体50μl
- IMDM 5%FBS中で希釈率40ng/mlの、PMA 50μl
- IMDM 5%FBS中で6×105/mlの、Raji細胞50μl
- IMDM 5%FBS中で20×106/mlの、Jurkat CD16 50μl
37℃で一晩インキュベートする。
次にプレートを遠心分離し、上清100μlを回収して、市販のキット(R/DのQuantikine)を用いてIL2を分析する。450nmにおいて読み取りを行う。
【0092】
CHOにおいて発現された抗体と違って、YB2/0系において発現された抗体は、CD16表現型(図6および図7)に関わらず、より高いIL2分泌を誘導することができる。
【0093】
赤血球上のRh系とは異なり、Raji細胞の膜表面におけるHLA-DR抗原の発現は低くはない(200,000コピー〜400,000コピー)。これらの条件下では、YB2/0において発現された抗体は、CD16のF158型およびV158型を有する、かつより具体的には低い抗体濃度を有する、エフェクター細胞を活性化に対して非常に有効な産物であるようである。したがって、1.56ng/mlの濃度において、CHOにおいて産生された抗体は、YB2/0において産生された抗体によって誘導されるIL2分泌(16952pg/ml)の15%を下回るIL2分泌(2410pg/ml)を誘導する。CHOにおいて産生された抗体と比べると、YB2/0において産生された抗体を使用する場合、これは600%を上回る増加に相当する。
【0094】
12.5ng/mlの濃度において、CHOにおいて産生された抗体は、YB2/0において産生された抗体によって誘導されるIL2分泌(34823pg/ml)の45%を下回るIL2分泌(14597pg/ml)を誘導する。CHOにおいて産生された抗体と比べると、YB2/0において産生された抗体を使用する場合、これは100%を上回る増加に相当する。
【0095】
YB2/0系において発現された抗体は、従って、多型の型V158(FCGR3A-158Vホモ接合体)およびF158(FCGR3A-158Fホモ接合体)を有するエフェクター細胞のサイトカインの分泌を誘導に対して非常に有効な産物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)の処置のために意図された薬物の調製のための、キメラ、ヒト化またはヒトモノクローナル抗体の使用であって、該抗体のFcドメインのグリカン構造が、短鎖、低シアリル化、付着部位の非介在末端マンノースおよびGlcNAc、ならびに低フコシル化を有する二分岐型に対応する、使用。
【請求項2】
CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)の処置のために意図された薬物の調製のための、請求項1記載の抗体の組成物の使用であって、組成物が、G0F形状+G1F形状が50%未満、好ましくは30%未満という条件で、G0形状+G1形状+G0F形状+G1F形状について60%を上回る、好ましくは80%を上回る濃度を有する、使用。
【請求項3】
患者が、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性(FCGR3A-158Fホモ接合体)であることを特徴とする、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
現在利用可能な抗体による処置が患者において失敗しているか、または患者が望ましくない副作用を経験していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
患者に投与される抗体の用量が、同じ特異性を有するがグリコシル化は異なる抗体またはCHO系において産生される抗体の用量の1/50、好ましくは1/100であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
抗体が、健常ドナー細胞に存在する非偏在性の抗原、特に抗ヒト赤血球Rh(anti-Rhesus of the human red blood cell)に対する、または、病的(pathological)細胞もしくはヒトに対する病原性生物体の抗原に対するものであり、特に、癌細胞またはウイルス感染細胞の抗原に対するものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
癌および病原体による感染の処置のために意図される薬物の調製のための、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
特に、新生児の溶血性疾患、セザリー症候群、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL-B)、充実性腫瘍、乳癌、特にポリ塩化ビフェニルにさらされた人々を冒す環境に関連する状態、感染症、特に結核、慢性疲労症候群(CFS)、特に妊婦における例えば住血吸虫またはマラリアなどの寄生虫感染症、ならびに、ウイルス感染症から選択される、免疫応答を免れている疾患の処置のために意図される薬物の調製のための、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
抗原の発現量が少ない状態の処置のために意図される薬物の調製のための、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
陽性HLAクラスII細胞の癌、B細胞リンパ腫、急性B細胞白血病、バーキット症候群、ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、慢性B細胞リンパ性白血病(CLL-B)、T細胞のリンパ腫および白血病、非ホジキンリンパ腫、ならびに慢性骨髄性白血病の処置のために意図される薬物の調製のための、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
抗体が、抗HLA-DR抗体または抗CD20抗体であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項記載の使用。
【請求項12】
抗体が、抗Ep-CAM、抗HER2、抗CD52、抗HER1、抗GD3、抗CA125、抗GD、抗GD2、抗CD-23、および抗プロテインC;抗KIR3DL2、抗EGFR、抗CD25、抗CD38、抗CD30、抗CD33、抗CD44、凝固因子などの阻害剤特異的抗イディオタイプ、ならびに抗ウイルス抗体から選択されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項記載の使用。
【請求項13】
CHOにおいて産生される同じ抗体または市販の同種製品と比べて60%を上回る、FcγRIII型(CD16)のADCCによる増大された細胞傷害性を誘導することが意図された薬物の製造のための使用であって、薬物が、CD16の158位のフェニルアラニンに関してホモ接合性の患者(FCGR3A-158Fホモ接合体)またはCD16の158位のバリン/フェニルアラニンに関してヘテロ接合性の患者(FCGR3A-158V/F)の癌および感染症の処置において特に有用である、請求項1〜12のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
抗体の濃度が10ng/mlである場合に、CHOにおいて産生される同じ抗体または市販の同種抗体と比べて100%を上回る、FcγRIII型(CD16)のADCCによる増大された細胞傷害性を誘導することが意図された薬物の産生のための、請求項1〜13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
CD16を発現する免疫系のある種のエフェクター細胞により、CHO系において産生される同じ抗体と比べて50%を上回る、100%の、または好ましくは200%を上回る、IL-1、IL-4、IL-12、IL-18、IL-21、IL-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IFNα、IFNβ、TNFα、TGFβ、IP10およびTNF、IFNγから選択される少なくとも一種類のサイトカインの分泌を誘導することが意図された薬物の産生のための、請求項1〜14のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−46521(P2012−46521A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199174(P2011−199174)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【分割の表示】特願2006−521632(P2006−521632)の分割
【原出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(509302803)エルエフビー バイオテクノロジーズ (4)
【Fターム(参考)】