説明

張出部用型枠のブラケット支保工およびコンクリート張出部の施工方法

【課題】打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、コンクリート張出部を施工するに当たり、一連のコンクリート張出部の施工工程を、足場支保工およびパイプ支保工無しで施工できるようにした張出部用型枠のブラケット支保工およびコンクリート張出部の施工方法を提供する。
【解決手段】少なくとも連結部材を主桁3aの下端部に設けて、ジャッキボルト構造によりアンカーブラケットに対して連結部材を着脱自在とする構成としたことにより、打設済みの堤形状のコンクリート構築物1の堤頂部2に連続して、コンクリート張出部2aを施工するに当たり、一連のコンクリート張出部2aの施工工程を、足場支保工およびパイプ支保工無しで施工できるようにした張出部用型枠のブラケット支保工およびコンクリート張出部の施工方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設済みの堤形状のコンクリート構築物の頂部に連続して、前記頂部の幅方向の一方側に張り出すコンクリート張出部を順次移動しながら施工するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、堤形状のコンクリート構築物であるダムの堤頂部に連続して下流側あるいは上流側に施工されるコンクリート張出部の施工は、堤形状のダムの法面から組立・設置された足場支保工を利用してパイプ支保工を組み、1回のコンクリート打設作業区間毎に、張出部用型枠を設け、これら張出部用型枠内部にコンクリートを流し込み、その後コンクリートの硬化を待って脱型を行った後、前記張出部用型枠を横移動させ、また足場支保工を利用してパイプ支保工を組む等を繰り返すことによって施工を行っていた。
【特許文献1】特開2002−242162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来方法(足場支保工)の場合には、足場支保工およびパイプ支保工の組立・設置作業に多大な手間と時間を要し、足場支保工の容積が大きくなるとともに、設置期間も長期間となる。
【0004】
また、型枠転用時の横移動に際して、その都度足場支保工を利用してパイプ支保工を組む等の作業を繰り返すこととなり施工が非常に煩雑である。さらには、型枠、足場支保工およびパイプ支保工の組立・解体作業が人力による高所作業となるため、多くの人手と作業日数を要し、また危険作業が多くなる、などの問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、コンクリート張出部を施工するに当たり、一連のコンクリート張出部の施工工程を、足場支保工およびパイプ支保工無しで施工できるようにした張出部用型枠のブラケット支保工およびコンクリート張出部の施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題を解決するために、以下の手段を採用した。
すなわち、本発明の張出部用型枠のブラケット支保工は、打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、前記堤頂部の幅方向の一方側に張り出すコンクリート張出部を複数工程に分けて順次移動しながら施工するための張出部用型枠を前記堤形状のコンクリート構築物の法面側よりブラケット支持部を介して支保するブラケット支保工であって、
前記コンクリート張出部の一工程部分を施工する張出部型枠を支持する主桁と、
この主桁に上方より連結し、主桁を吊り上げる際に用いる吊り桁と、
この主桁に下方より連結して支持する脚部と、を備え、
前記ブラケット支持部は、
前記堤形状のコンクリート構築物の法面側壁面に、前記移動方向に所定の間隔で設置された複数のアンカーブラケットと、
少なくとも前記主桁の下端部に設けられ、ジャッキボルト構造により前記アンカーブラケットに対して着脱自在とする連結部材と、を有する
ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の張出部用型枠のブラケット支保工において、
前記連結部材は、あり溝を有し、
前記ジャッキボルト構造は、押しボルトを有し、
この押しボルトは、
その一端に前記あり溝に係合する頭部と、
他端に前記アンカーブラケット側に対し回転させて螺合させるための回転作用部と、
前記頭部と前記回転作用部との間にわたって軸側面に螺設された雄ねじ部と、を有し、
前記アンカーブラケットは、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有する構成としてもよい。
【0008】
更に、本発明の張出部用型枠のブラケット支保工において、
前記アンカーブラケットは、前記堤形状のコンクリート構築物の法面側壁面に対して、着脱自在に設置されている構成としてもよい。
【0009】
更に、本発明の張出部用型枠のブラケット支保工において、
前記主桁と前記吊り桁に回転自在に連結し、前記吊り桁を吊り上げる際に、前記主桁の傾き及び揺動を防止するバランス桁を備えた構成としてもよい。
【0010】
更に、本発明のコンクリート張出部の施工方法は、
本発明の張出部用型枠のブラケット支保工を用いて、打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、前記堤頂部の幅方向の一方側に張り出すコンクリート張出部を施工するための張出部用型枠を複数工程に分けて順次移動しながら施工するコンクリート張出部の施工方法において、
前記ブラケット支持部を介して、前記ブラケット支保工を堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に設置する工程と、
前記コンクリート張出部を構築する工程と、
前記ブラケット支持部を介して、前記ブラケット支保工を堤形状のコンクリート構築物の堤頂部から取り外す工程と、
前記コンクリート張出部が全て構築されていなければ、前記ブラケット支保工を未構築の位置に移動させて前記堤頂部に設置し、前記コンクリート張出部を構築する工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少なくとも連結部材を主桁の下端部に設けて、ジャッキボルト構造によりアンカーブラケットに対して連結部材を着脱自在とする構成としたことにより、打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、コンクリート張出部を施工するに当たり、一連のコンクリート張出部の施工工程を、従来施工で必須だった足場支保工およびパイプ支保工を行わないで施工できるようになり、支保工の組立・解体作業が安全且つ容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付の図1〜図8を参照して説明する。
図1は本発明に係る張出部用型枠のブラケット支保工をダム頂部に設置した状態の側面図(一方、図8は本発明に係る張出部用型枠のブラケット支保工をダム頂部から取り外した状態の側面図)であり、図2はダム頂部の斜視図である。また、図3は図1のブラケット支持部の一部拡大図、図4は図3のZ矢視図、図5はブラケット支持部の説明図であり、スライドブラケットを示す。また、図6もブラケット支持部の説明図であり、押ボルトを示す。図7はコンクリート張出部の施工方法のフローチャートである。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態では、打設済みの堤形状のコンクリート構築物1がダムであり、このダムの堤頂部2が幅5mのものを下流方向に幅3m張り出して幅計8mの道路を施工する場合で説明する。
【0014】
[張出部用型枠の支保工(ブラケット支保工3という)の構造の説明]
まず、ブラケット支保工3を説明する。
ブラケット支保工3は、図1に示されるように、打設済み堤形状のダム1の堤頂部の上面に連続して、逆L字状に側方に張り出した張出部2aを含むコンクリート頂壁部2を順次移動しながら施工するための装置である(図2の2点鎖線部分(2)参照)。
【0015】
ブラケット支保工3は、主要には張出部2aの型枠5を支持する主桁3aと、主桁3aを下部より支える脚部3bと、この主桁3aに上方より連結し、主桁3aを吊り上げる際に用いる吊り桁3cと、主桁3aと吊り桁3cに回転自在に連結し、吊り桁3cを吊り上げる際に、主桁3aの傾き及び揺動を防止するバランス桁3dからなるが、型枠工、鉄筋工およびコンクリート打設工などの一連の施工工程を行うための作業用足場3eが主桁3aの下部に吊り下げられて設置されている。また、作業者が後述するブラケット支持部4を着脱するための作業用足場3eも主桁3aの下部に吊り下げられて設置されている。
【0016】
[ブラケット支持部の説明]
主桁3aおよびまたは脚部3bには、図3に示すように、下部先端(下端部)に一山クレビス31が形成されている。この一山クレビスは後述するアンカーブラケット40に突設された二山クレビス41,41とピン49を介して係合する。なお、二山クレビス41,41にはピン49を挿入する長穴41b,41bが設けられており、ピン49及び一山クレビス31は長穴41b,41bに規制され二山クレビス41,41に対し図3の上下方向に移動自在である。
【0017】
[アンカーブラケット40]
アンカーブラケット40は、図3および図4(図3のZ矢視図)に示すように、ベースプレートに対し直交して設けられた二山クレビス41,41と、この二山クレビス41,41との間に設けられたナット部42と、二山クレビス41,41を補強する補強材43,44とから構成される。なお、二山クレビス41,41との間には、後述するスライドブラケットを上下方向に規制するガイド部材41a,41aが設けられている。
【0018】
[スライドブラケット]
スライドブラケットは、図5(a)の正面図、図5(b)の側面図に示すように、2枚の長方形プレート46と、この2枚のプレート46の間の下部に固定されたフック部47とから構成される。フック部47には後述する押しボルト48の頭部48aを係合するためのあり溝47aが形成されている。また、2枚の長方形プレート46が二山クレビス41,41との間に設けられたガイド部材41a,41aの間に挿入されてピン49及び一山クレビス31と共に上下方向のみ移動可能に規制される。
【0019】
[押しボルト48]
押しボルト48は、図6に示すように、ボルトの頭である頭部48aと、雄ねじ部48bと、先端が押しボルト48を工具に係合して回転させるために断面形状が四角形となる作用部48cとから構成される。このように、ブラケット支持部はジャッキボルト構造となっており、押しボルト48を操作することで、型枠5を組み立てる際は主桁3a(一山クレビス31)をガイド部材41a,41aを介して二山クレビス41,41に対し上方向に移動させ、型枠5から離脱させる際は主桁3a(一山クレビス31)をガイド部材41a,41aを介して二山クレビス41,41に対し下方向に移動させることができる。
【0020】
[コンクリート張出部の施工方法]
この実施の形態に係る張出部用型枠のブロック支保工3は、ダム(打設済みの堤形状のコンクリート構築物)1の頂部に連続して、頂部の幅方向の一方側に張り出すコンクリート張出部2aを順次移動しながら施工する。
【0021】
ブラケット支持部4(4a,4b)は、ダム1の法面側壁面に対して、移動方向に所定の間隔でかつ所定区間に亘って設置される複数のアンカーブラケット40と、主桁3aおよび脚部3bの下端部とアンカーブラケット40とをジャッキボルト構造(スライドブラケットおよび押しボルト48)により着脱自在とする連結部材と、を有する。
【0022】
次に、コンクリート張出部の施工方法を、図7のフローチャートに基づき説明する。
このコンクリート張出部の施工方法は、ブラケット支保工を組み立てる工程(S1)と、ブラケット支持部4を介して、ブラケット支保工3を堤形状のダム1の堤頂部に設置する工程(S2;図1参照)と、コンクリート張出部2aの一部を構築する工程(S3)と、ブラケット支持部4を介して、ブラケット支保工3を堤形状のダム1の堤頂部から取り外す工程(S4)と、コンクリート張出部2aが全て構築されていなければ(S5:NO)、ブラケット支保工3を未構築の位置に移動させる工程(S6;図2及び図8参照)と、コンクリート張出部2aが全て構築されていれば(S5:YES)、ブラケット支保工3を解体する工程(S7)と、を含むものである。なお、ブラケット支保工3を未構築の位置に移動させる工程(S6)の後は、工程S2〜工程S4を繰り返してブラケット支保工3を堤頂部に設置し、コンクリート張出部2aを構築する。
【0023】
次に、コンクリート張出部2aの一部を構築する工程(S3)を説明する。
ブラケット支保工3を堤形状のダム1の堤頂部に設置した後、張出部用型枠(スラブ型枠)5を主桁3aの上に設置するのであるが、設置する際、根太材6を複数本等間隔に並べ、根太材6の上で張出部用型枠(スラブ型枠)5を組み立てる。
【0024】
次に、スラブ型枠5内で張出部用の鉄筋を配筋し、スラブ型枠5内にコンクリートを打設する。そして、コンクリートが固まれば、ブラケット支持部のジャッキボルト構造により、主桁3aを家宝へ移動させ、スラブ型枠5及び根太材6を離脱させる。
【0025】
また、ブラケット支保工3を堤形状のダム1の堤頂部に設置する工程(S2)において、脚部3bの丈方向の一部に、図1に示すように、キリンジャッキ(長さ調節手段)7bを設けておき、キリンジャッキ7の長さを調節することで、主桁3aの傾斜角度を調節するようにすれば、コンクリート張出部2aの傾斜部を精度良く構築することができる。
【0026】
また、ブラケット支保工3を堤形状のダム1の堤頂部から取り外す工程(S4)において、吊り桁3cとバランス桁3dとの連結部に、キリンジャッキ(長さ調節手段)7aを設けておき、キリンジャッキ7の長さを調節することで、吊り桁3cとバランス桁3dとの間隔を調節するようにすれば、ブラケット支持部を離脱させ、ブラケット支保工3を取り外す際に、ブラケット支持部のジャッキボルト構造と協働させて主桁3aを下方に下げることで型枠5と根太材6を分離させることができ、ブラケット支保工3の離脱・移動を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る張出部用型枠のブラケット支保工をダム頂部に設置した状態の側面図である。
【図2】図1の斜視図である。
【図3】図1のブラケット支持部の一部拡大図である。
【図4】図3のZ矢視図である。
【図5】スライドブラケットの説明図である。
【図6】押しボルトの説明図である。
【図7】コンクリート張出部の施工方法のフローチャートである。
【図8】本発明に係る張出部用型枠のブラケット支保工をダム頂部から取り外した状態の側面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ダム(打設済みの堤形状のコンクリート構築物)
2 堤頂部
2a コンクリート張出部
3 ブラケット支保工
3a 主桁
3b 脚部
3c 吊り桁
3d バランス桁
3c 足場
4 支持部
5 張出部用型枠
6 根太材
7 長さ調節手段(キリンジャッキ)
31 一山クレビス
40 アンカーブラケット
41 二山クレビス
41a ガイド部材
41b 長穴
42 ナット部
43,44 補強材
46 スライドブラケット
47 フック部
47a あり溝
48 押しボルト
48a 頭部
48b 雄ねじ部
48c 作業部
49 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、前記堤頂部の幅方向の一方側に張り出すコンクリート張出部を複数工程に分けて順次移動しながら施工するための張出部用型枠を前記堤形状のコンクリート構築物の法面側よりブラケット支持部を介して支保するブラケット支保工であって、
前記コンクリート張出部の一工程部分を施工する張出部型枠を支持する主桁と、
この主桁に上方より連結し、主桁を吊り上げる際に用いる吊り桁と、
この主桁に下方より連結して支持する脚部と、を備え、
前記ブラケット支持部は、
前記堤形状のコンクリート構築物の法面側壁面に、前記移動方向に所定の間隔で設置された複数のアンカーブラケットと、
少なくとも前記主桁の下端部に設けられ、ジャッキボルト構造により前記アンカーブラケットに対して着脱自在とする連結部材と、を有する
ことを特徴とする張出部用型枠のブラケット支保工。
【請求項2】
前記連結部材は、あり溝を有し、
前記ジャッキボルト構造は、押しボルトを有し、
この押しボルトは、
その一端に前記あり溝に係合する頭部と、
他端に前記アンカーブラケット側に対し回転させて螺合させるための回転作用部と、
前記頭部と前記回転作用部との間にわたって軸側面に螺設された雄ねじ部と、を有し、
前記アンカーブラケットは、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を有する、
請求項1に記載の張出部用型枠のブラケット支保工。
【請求項3】
前記アンカーブラケットは、前記堤形状のコンクリート構築物の法面側壁面に対して、着脱自在に設置されている請求項1または2に記載の張出部用型枠のブラケット支保工。
【請求項4】
前記主桁と前記吊り桁に回転自在に連結し、前記吊り桁を吊り上げる際に、前記主桁の傾き及び揺動を防止するバランス桁を備えた請求項1〜3のいずれかに記載の張出部用型枠のブラケット支保工。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の張出部用型枠のブラケット支保工を用いて、打設済みの堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に連続して、前記堤頂部の幅方向の一方側に張り出すコンクリート張出部を施工するための張出部用型枠を複数工程に分けて順次移動しながら施工するコンクリート張出部の施工方法において、
前記ブラケット支持部を介して、前記ブラケット支保工を堤形状のコンクリート構築物の堤頂部に設置する工程と、
前記コンクリート張出部を構築する工程と、
前記ブラケット支持部を介して、前記ブラケット支保工を堤形状のコンクリート構築物の堤頂部から取り外す工程と、
前記コンクリート張出部が全て構築されていなければ、前記ブラケット支保工を未構築の位置に移動させて前記堤頂部に設置し、前記コンクリート張出部を構築する工程と、
を含むことを特徴とするコンクリート張出部の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−62768(P2009−62768A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232901(P2007−232901)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000158725)岐阜工業株式会社 (56)