説明

張力調整装置、ベルト駆動式自転車及びチェーン駆動式自転車

【課題】駆動力を伝達する無端状部材と規制部材との間のずれの発生を抑制し、無端状部材の規制部材からの脱落や異音の発生を抑制する。
【解決手段】駆動プーリー18の取付部19Aには、クランク14の一端部14Aが連結され、駆動プーリー18がクランク14と一体で回転する。駆動プーリー18の取付部19Aには、ベアリング40を介して規制部材30の連結部30Cが揺動可能に連結されている。規制部材30には、連結部30Cから駆動プーリー18の上方におけるベルト24の張り側に延出された張り側アーム30Aが設けられている。張り側アーム30Aの先端には、ベルト24の外周面に接触する張り側アイドラー32が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力調整装置、ベルト駆動式自転車及びチェーン駆動式自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車のペダルが支持されるクランクの回転を後輪に伝達するための装置として、前後一対のプーリーに巻き掛けられた歯付のベルトを用いた駆動力伝達装置が知られている。
【0003】
下記特許文献1には、自転車のクランクを回転可能に支持するフレームに規制部材を揺動可能に組み付けると共に、規制部材をベルトに接触させてベルトに張力を付与するようにした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−44527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の構成では、クランクを回転させるときの荷重等によりフレームやクランク軸などが撓むと、ベルトと規制部材との間にずれが生じ、ベルトの脱落や異音が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、駆動力を伝達する無端状部材と規制部材との間のずれの発生を抑制し、規制部材からの無端状部材の脱落や異音の発生を抑制することができる張力調整装置、ベルト駆動式自転車及びチェーン駆動式自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る張力調整装置は、自転車のフレームに回転自在に取り付けられた駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材の回転軸の両端に連結され、先端にペダルが取り付けられると共に、前記駆動側回転部材と一体に回転するクランクと、前記フレームに回転自在に取り付けられ、後輪を回転させる従動側回転部材と、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材に巻き掛けられ、前記駆動側回転部材の回転によって周回移動し、前記従動側回転部材に駆動力を伝達する無端状部材と、前記駆動側回転部材又は前記クランクに揺動可能に取り付けられ、前記無端状部材に接触して前記無端状部材の緩みを規制する規制部材と、を有するものである。
【0008】
請求項1に記載の発明では、自転車のフレームに駆動側回転部材が回転自在に取り付けられ、駆動側回転部材の回転軸の両端にクランクが連結されており、クランクの先端のペダルをこぐことによって、クランクの回転軸が回転する。駆動側回転部材と従動側回転部材とに無端状部材が巻き掛けられており、駆動側回転部材の回転により無端状部材が周回移動し、従動側回転部材に駆動力が伝達される。従動側回転部材の回転により後輪が回転する。
【0009】
駆動側回転部材又はクランクには、規制部材が揺動可能に取り付けられており、規制部材が無端状部材に接触することで無端状部材の緩みが規制される。このため、無端状部材の張力が不足することによる無端状部材の歯飛び等の発生が抑制される。
【0010】
また、駆動側回転部材又はクランクに規制部材が揺動可能に取り付けられており、ペダルをこぐときの荷重等によりフレームやクランクの回転軸などが撓んでも、無端状部材と規制部材との間にずれが生じにくくなる。また、駆動側回転部材又はクランクに規制部材が揺動可能に取り付けられていることにより、無端状部材と規制部材との間の組み付け誤差が小さくなる。このため、規制部材からの無端状部材の脱落が抑制されると共に、異音の発生が抑制される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の張力調整装置において、前記規制部材は、前記駆動側回転部材又は前記クランクに揺動可能に連結される連結部と、前記連結部から延出されたアームと、前記アームの先端部に設けられ、前記駆動側回転部材の巻き掛け部から離れた前記無端状部材の外周面と接触する接触部と、を備え、前記駆動側回転部材の回転軸方向において、前記接触部の幅方向の中心線が、前記連結部の幅方向の中心線とほぼ一致するように配置されているものである。
【0012】
請求項2に記載の発明では、駆動側回転部材の回転軸方向において、無端状部材の周面と接触する規制部材の接触部の幅方向の中心線が、駆動側回転部材又はクランクに揺動可能に連結される規制部材の連結部の幅方向の中心線とほぼ一致するように配置されており、無端状部材の張力が規制部材にかかる際に、連結部に作用する曲げモーメントが小さくなり、規制部材のずれの発生が抑制される。このため、規制部材からの無端状部材の脱落や異音の発生がよりいっそう少なくなる。また、連結部に作用する曲げモーメントが小さくなるため、規制部材がスムーズに揺動する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の張力調整装置において、前記接触部が、前記アームの先端部に回転可能に設けられたアイドラーであるものとする。
【0014】
請求項3に記載の発明では、接触部がアームの先端部に回転可能に設けられたアイドラーであるので、無端状部材との接触抵抗がアイドラーの回転で軽減されると共に、無端状部材、アイドラー等の接触部分の磨耗を抑えることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の張力調整装置において、前記アームは、前記連結部から前記駆動側回転部材の上方における前記無端状部材の張り側へ延出される張り側アームと、前記連結部から前記駆動側回転部材の下方における前記無端状部材の緩み側へ延出される緩み側アームと、で構成され、前記接触部は、前記張り側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する張り側接触部と、前記緩み側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する緩み側接触部と、を備えているものである。
【0016】
請求項4に記載の発明では、規制部材の張り側アームに設けられた張り側接触部が駆動側回転部材の上方で無端状部材の外周面と接触し、規制部材の緩み側アームに設けられた緩み側接触部が駆動側回転部材の下方で無端状部材の外周面と接触する。クランクが回転し、従動側回転部材の抵抗により無端状部材の張り側の張力が上昇すると、無端状部材が張られるので、規制部材が揺動して張り側接触部が上方に移動する。このとき、無端状部材の緩み側は緩むことになるが、規制部材の揺動により緩み側接触部が無端状部材の外周面を押し付ける方向に移動し、無端状部材に対して張力を付加する。これによって、トルクの変動が発生した場合(停止からこぎ出しになった場合、平地から上り坂になった場合等)でも、素早く必要な張力を無端状部材に付加することが可能となる。このため、無端状部材の張力が不足することによる無端状部材の歯飛び等の発生を抑制することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の張力調整装置において、前記連結部の揺動中心が前記回転軸と同軸上に設けられているものである。
【0018】
請求項5に記載の発明では、規制部材の連結部の揺動中心が回転軸と同軸上に設けられているので、取り付け誤差による性能差が発生しにくい。また、規制部材の連結部を駆動側回転部材又はクランクに揺動可能に連結する構造や部品構成がシンプルになり、低コスト化が可能である。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の張力調整装置において、前記規制部材は、前記回転軸に作用するトルクの変動による前記無端状部材の緩みを規制するものである。
【0020】
請求項6に記載の発明では、規制部材が無端状部材に接触することで、回転軸に作用するトルクの変動による無端状部材の緩みが規制される。
【0021】
請求項7に記載の発明に係るベルト駆動式自転車は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がプーリーであり、前記無端状部材がベルトで構成されているものである。
【0022】
請求項7に記載の発明では、駆動側のプーリーの駆動力をベルトによって従動側のプーリーに伝達するベルト駆動式自転車においても、ベルトと規制部材との間のずれの発生を抑制し、規制部材からのベルトの脱落や異音の発生を抑制することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明に係るチェーン駆動式自転車は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がスプロケットであり、前記無端状部材がチェーンで構成されているものである。
【0024】
請求項8に記載の発明では、駆動側のスプロケットの駆動力をチェーンによって従動側のスプロケットに伝達するチェーン駆動式自転車においても、チェーンと規制部材との間のずれの発生を抑制し、規制部材からのチェーンの脱落や異音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、駆動力を伝達する無端状部材と規制部材との間のずれの発生を抑制し、規制部材からの無端状部材の脱落や異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態である張力調整装置を示す構成図である。
【図2】図1に示す張力調整装置の主要部を示す側面図である。
【図3】図1に示す張力調整装置の主要部を示す分解斜視図である。
【図4】図2中のA−A線における規制部材の駆動プーリーへの連結部付近を示す断面図である。
【図5】規制部材単体を示す側面図である。
【図6】規制部材単体を示す断面図である。
【図7】張り側アイドラーを示す断面図である。
【図8】回転軸に作用するトルクが最大となるときのクランク及び駆動プーリーの状態を示す構成図である。
【図9】クランクの1回転中に2回発生するトルクのピークを示すグラフである。
【図10】本発明の第2実施形態である張力調整装置の主要部を示す構成図である。
【図11】図10に示す張力調整装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態である張力調整装置10が適用される自転車2の主要部を示す側面図である。また、図2は、張力調整装置10の駆動プーリー付近を示す側面図であり、図3は、張力調整装置10の駆動プーリー付近の分解斜視図である。また、図4は、図2中のA−A線における断面図である。
【0029】
図1に示すように、この張力調整装置10では、自転車2のシートパイプ4の下端のハンガーパイプ13に回転軸12が設けられており、回転軸12の両端部に、それぞれ反対方向に伸びたクランク14が連結されている。クランク14の先端には、ペダル16が回転可能に支持されている。左右のクランク14の間には、クランク14に連結される回転軸12と一体となって回転する駆動側回転部材としての楕円状の駆動プーリー18が取り付けられている(図2及び図3を参照)。回転軸12は自転車2のチェーンステー6の一端に支持されており、チェーンステー6の他端には、従動側回転部材としての円形状の従動プーリー20が設けられている。この従動プーリー20に連動して後輪(図示省略)が回転する。
【0030】
駆動プーリー18と従動プーリー20には、無端状部材としてのベルト24が巻き掛けられている。すなわち、自転車2は、駆動プーリー18の駆動力をベルト24によって従動プーリー20に伝達するベルト駆動式の自転車である。ベルト24の内周面には、複数の歯(図示省略)が形成されており、これらの歯が駆動プーリー18と従動プーリー20の周面に形成された複数の歯28(図3では、駆動プーリー18のみ図示している)と噛合されている。そして、クランク14を矢印A方向(時計回り)に回転させると、回転軸12と一体となった駆動プーリー18が矢印B方向(時計回り)に回転し、ベルト24が矢印C方向に周回移動する。ベルト24の周回移動により従動プーリー20が回転し、後輪(図示省略)に駆動力が伝達されるようになっている。
【0031】
図3に示すように、ハンガーパイプ13の内部には、回転軸12が貫通するように配置されている。回転軸12の幅方向両側には略矩形状の連結部12Aが形成されており、連結部12Aがクランク14の一端部14A(ペダル16と反対側の端部)に形成された略矩形状の開口14Bに挿入される。そして、連結部12Aの幅方向外側に形成されたネジ部12Bにナット42が螺合されることで、回転軸12の幅方向両側にクランク14の一端部14Aが連結されている。回転軸12は、自転車2のシートパイプ4の下端に固定支持されたハンガーパイプ13内に、ベアリング(図示省略)を介して回転可能に支持されている(図1参照)。
【0032】
図4に示すように、駆動プーリー18は、左右一対のうちの一方(図3中の左側)のクランク14の一端部14Aに取り付けられる取付部19Aと、取付部19Aの側部に固定支持されると共にベルト24の歯(図示省略)と噛合される複数の歯28を備えた環状部19Bと、を備えている。取付部19Aの中心部には、円形状の開口19Cが形成されている。取付部19Aにおける開口19Cの内周面には、半径方向内側に突出する複数の突起19Dが形成されている。また、一方(図3中の左側)のクランク14の一端部14Aの外周面には、半径方向内側に窪んだ複数の凹部14Cが形成されている。すなわち、駆動プーリー18の取付部19Aの内周面に複数の突起19Dが形成され、それに組み合わせ可能な複数の凹部14Cがクランクの一端部14Aの外周面に形成され、それらを組み合わせた状態でクランクの一端部14Aの幅方向の縁部(図4の左側縁部)を加締めることでクランク14が取り付けられている。
【0033】
駆動プーリー18の取付部19Aには、規制部材30が揺動可能に連結されている。図1、図2及び図5に示すように、規制部材30は、略V字状に形成されており、駆動プーリー18の上方におけるベルト24の張り側に延出する張り側アーム30Aと、駆動プーリー18の下方におけるベルト24の緩み側に延出する緩み側アーム30Bと、略V字状に屈曲した部分に形成された連結部30Cと、を備えている。規制部材30は、連結部30Cで駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能(回動可能)に支持されている。
【0034】
図4〜図6に示すように、規制部材30の連結部30Cには、幅方向に沿って円形状の開口30Dが形成されており、連結部30Cの内周面がベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aの外周面に揺動可能に連結されている。ベアリング40は、取付部19Aの外周面に止め輪46によって取り付けられている。規制部材30の連結部30Cの揺動中心は、回転軸12(図3参照)と同軸上に設けられており、規制部材30の連結部30Cの揺動中心と駆動プーリー18の取付部19Aの回転中心は同心となっている。これにより、規制部材30の支持構造がシンプルとなり、コストを低減することができる。
【0035】
張り側アーム30Aの先端部側には、緩み側アーム30Bと反対側に延出された延出部30Eが形成されており、張り側アーム30Aの先端部には、ベルト24の外周面と接触する張り側接触部としての略円柱状の張り側アイドラー32が回転可能に支持されている。緩み側アーム30Bの先端部側は、張り側アーム30Aと反対側に若干突出するように屈曲する屈曲部30Fが形成されており、緩み側アーム30Bの先端部には、ベルト24の外周面と接触する緩み側接触部としての略円柱状の緩み側アイドラー34が回転可能に支持されている。
【0036】
図1に示すように、クランク14を矢印A方向に回転させると、駆動プーリー18の回転によりトルクが上昇すると駆動プーリー18の上方におけるベルト24の上方側は張るが、そのベルト24の上方側(張り側)の駆動プーリー18と近接対向する位置に、張り側アイドラー32が接触している。一方、ベルト24の上方側が張ることにより駆動プーリー18の下方におけるベルト24の下方側は緩むが、そのベルト24の下方側(緩み側)の駆動プーリー18と近接対向する位置に、緩み側アイドラー34が接触している。
【0037】
また、規制部材30の揺動中心と緩み側アイドラー34との距離は、規制部材30の揺動中心と張り側アイドラー32との距離より大きく設定されている。これによって、ベルト24が張ったときの張り側アイドラー32の少ない移動により、緩み側アイドラー34を大きく移動することができ、ベルト24の緩み側にすばやく大きな張力を付加することができる。
【0038】
図7に示すように、規制部材30の張り側アーム30Aの先端には、幅方向に沿って雌ネジ31が形成されており、雌ネジ31に張り側アイドラー32を支持するための雄ネジ52が螺合されている。雄ネジ52の円柱部52Aには、幅方向両側にダストカバー54、56が外挿されている。ダストカバー54、56は、円柱部52Aの周囲の断面が略U字状に形成されており、このU字状の部分が対向するように配置されている。ダストカバー54、56のU字状の部分の間には、環状のカラー58が挟持されている。張り側アイドラー32の中心部には、円形状の開口部32Aが形成されており、張り側アイドラー32の開口部32Aがカラー58の外周面と当接するように外挿されている。雄ネジ52の円柱部52Aの抜け出たネジ部には、緩み止めとしてナット50が螺合されている。
【0039】
張り側アイドラー32は、カラー58に対して回転するが、ダストカバー54、56により張り側アイドラー32とカラー58の回転接触部となる張り側アイドラー32の開口部32Aに粉塵等が浸入することが防止される。
【0040】
また、張り側アイドラー32の両端部には、フランジ部61が形成されており、フランジ部61によってベルト24が外れないように保持されている。張り側アイドラー32のフランジ部61の間の外周面には、ベルト24の巾より小さい凹部62が形成されている。張り側アイドラー32は、この凹部62の両側の水平面でベルト24の外周面と接触する。なお、緩み側アイドラー34も張り側アイドラー32と同じ構成である。
【0041】
図6に示されるように、張力調整装置10の正面視(自転車2の正面視)にて、張り側アイドラー32のベルト24との接触部(フランジ部61の間)の幅方向における中心線44は、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されている位置の幅方向の中心線(ベアリング40の中心を通る線)とほぼ一致しており、幅方向にずれていない。この構成は、緩み側アイドラー34のベルト24との接触部(フランジ部61の間)の幅方向における中心線44についても同じである。これによって、ベルト24の張力が規制部材30にかかる際に、規制部材30の連結部30Cに作用する曲げモーメントが小さくなり、ベルト24と規制部材30の張り側アイドラー32(緩み側アイドラー34)との間にずれが生じることが抑制される。
【0042】
図1及び図8に示すように、駆動プーリー18は楕円状であり、長径部18Aとこの長径部18Aと直交する方向の短径部18Bとを備えている。図8に示すように、クランク14が鉛直方向に対して時計方向に約70°まで回転したときに、駆動プーリー18の長径部18Aが、駆動プーリー18と従動プーリー20との軸間方向に対して直角となるように、駆動プーリー18が回転軸12に連結されている。
【0043】
図9に示すように、自転車2は、クランク14の1回転中、左右のペダル16を踏み降ろすときにトルクのピーク70が2回発生する。そのピーク値は、平地や坂道等の走行状態によって大きく変動し、坂道やこぎ出し時は特にピーク値が大きくなる。一般的にはクランク14が鉛直方向に対して時計方向に約70°まで回転したとき、回転軸12に作用するトルクが最大(図9のピーク70)となり、この時、本実施形態では回転軸12に設けられた駆動プーリー18の長径部18Aが、駆動プーリー18と従動プーリー20との軸間方向に対して直角となる。左右のクランク14は、180°位相がずれているので、片側のクランク14が70°の位置にあれば、逆側のクランク14も鉛直方向に対して逆側に70°の位置にある。
【0044】
ここで、駆動プーリー18の歯数は、50Tに設定されており、駆動プーリー18の扁平率は、約0.0472に設定されている。ここで、扁平率とは、長径部18Aの半径をaとし、短径部18Bの半径をbとしたとき、(a−b)/aで示される値をいう。
【0045】
次に、張力調整装置10の作用について説明する。
【0046】
図8に示すように、自転車2に乗ったライダーがペダル16を踏んで、クランク14を矢印A方向に回転させると、回転軸12の回転により駆動プーリー18が矢印B方向に回転する。駆動プーリー18の回転により、ベルト24が矢印C方向に周回移動し、従動プーリー20が回転する。そして、従動プーリー20の回転により後輪(図示省略)に駆動力が伝達される。
【0047】
その際、ベルト24の上方側(張り側)の駆動プーリー18との近接対向位置では、ベルト24の外周面に張り側アイドラー32が接触している。これによって、クランク14が矢印A方向に回転し、従動プーリー20の抵抗により張り側のベルト24の張力が上昇すると、張り側のベルト24が張られるので、張り側アイドラー32は上方向(矢印D方向)へ移動する。このとき、下方側(緩み側)のベルト24は緩むことになるが、規制部材30の緩み側アーム30Bが上方向に揺動し、これにともない、緩み側アーム30Bに支持された緩み側アイドラー34が上方向(矢印E方向)に移動する。これによって、緩み側アイドラー34がベルト24の外周面を押圧し、ベルト24の緩み側に張力が付加される。
【0048】
また、楕円状の駆動プーリー18の長径部18Aが駆動プーリー18と従動プーリー20の軸間方向と直角になっているときは、短径部18Bが駆動プーリー18と従動プーリー20の軸間方向と直角になっているときよりも、行路差が生じてベルト24に大きな予備張力が付加される。
【0049】
駆動プーリー18は、クランク14が鉛直方向に対して矢印A方向に約70°の位置にあるときに、長径部18Aが駆動プーリー18と従動プーリー20との軸間方向に対して直角となるように支持されている。このため、坂道やこぎ出し時など、回転軸12に作用するトルクが最大(図9のピーク70)となるときに、ベルト24に予備張力を付加することができるので応答性が良い。
【0050】
また、張り側アイドラー32の移動に連動する緩み側アイドラー34を設けることで、駆動プーリー18の長径部18Aと短径部18Bによる行路差を拡大することができる。このため、ベルト24の張力が不足することによるベルト24の歯飛びの発生を抑制することができる。ここで、歯飛びとは、張力が弱いときに、ベルト24の歯が駆動プーリー18又は従動プーリー20の歯に乗り上げ、飛び越してしまう現象をいう。
【0051】
また、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されており、ペダル16をこぐときの荷重等によりハンガーパイプ13やクランク14の回転軸12などが撓んでも、規制部材30の位置変動が生じにくく、ベルト24と規制部材30の張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34との間のずれの発生が抑制される。さらに、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されていることにより、ベルト24と規制部材30の張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34との間の組み付け誤差が小さくなる。このため、張り側アイドラー32又は緩み側アイドラー34からのベルト24の脱落が抑制されると共に、異音の発生が抑制される。
【0052】
さらに、図6に示されるように、張力調整装置10の正面視(自転車2の正面視)にて、張り側アイドラー32のベルト24との接触部(フランジ部61の間)の幅方向における中心線44は、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されている位置の幅方向の中心線(ベアリング40の中心を通る線)とほぼ一致している。これによって、ベルト24の張力が規制部材30にかかる際に、規制部材30の連結部30Cに作用する曲げモーメントが小さくなり、ベルト24と規制部材30の張り側アイドラー32(緩み側アイドラー34)との間にずれが生じることが抑制される。このため、張り側アイドラー32(緩み側アイドラー34)からのベルト24の脱落や異音の発生がよりいっそう少なくなる。また、規制部材30の連結部30Cに作用する曲げモーメントが小さくなるため、規制部材30の連結部30Cが駆動プーリー18の取付部19Aに対してスムーズに揺動する。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態である張力調整装置について説明する。なお、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0054】
図10及び図11に示すように、本実施形態の張力調整装置80では、クランク82の一端部に形成された取付部82Aと、駆動プーリー84を構成する支持部82Bとが一体に形成されている。すなわち、クランク82の取付部82Aから半径方向外側に当該取付部82Aと一体で支持部82Bが延設されており、支持部82Bの側方(クランク82と反対側)には、ベルト24(図1参照)の歯と噛合される複数の歯28を備えた環状部84Aが加締締結具86により取り付けられている。すなわち、駆動プーリー84は、支持部82Bと環状部84Aとを備えており、支持部82Bと取付部82Aとが一体で形成されていることにより、クランク82と駆動プーリー84とが一体で回転する。駆動プーリー84の環状部84Aは、第1実施形態と同様に、長径部とこの長径部と直交する方向の短径部とを備えた楕円状に形成されている。
【0055】
取付部82Aの支持部82Bを挟んでクランク82と反対側の外周面には、ベアリング40を介して規制部材30の連結部30Cが揺動可能に連結されている。ベアリング40は、取付部82Aの外周面に止め輪46によって取り付けられている。
【0056】
このような張力調整装置80では、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介してクランク82の取付部82Aに揺動可能に連結されており、ペダル16(図1参照)をこぐときの荷重等によりハンガーパイプ13や回転軸12(図1参照)などが撓んでも、規制部材30の位置変動が生じにくく、ベルト24と規制部材30の張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34との間のずれの発生が抑制される。また、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介してクランク82の取付部82Aに揺動可能に連結されていることにより、ベルト24と規制部材30の張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34との間の組み付け誤差が小さくなる。このため、張り側アイドラー32又は緩み側アイドラー34からのベルト24の脱落が抑制されると共に、異音の発生が抑制される。
【0057】
なお、第1及び第2実施形態の張力調整装置10、80は、駆動プーリー18、84の駆動力をベルト24によって従動プーリー20に伝達するベルト駆動式の自転車2に適用したが、これに限定されるものではない。例えば、駆動スプロケットと従動スプロケットに無端状のチェーンを巻き掛け、駆動スプロケットの回転によりチェーンを周回移動させて従動スプロケットに駆動力を伝達するチェーン駆動式の自転車に本発明の張力調整装置を適用してもよい。
【0058】
なお、第1及び第2実施形態では、駆動プーリー18、84は、楕円状であるが、この形状に限定するものではなく、例えば円形としてもよい。
【0059】
なお、第1及び第2実施形態では、規制部材30は、張り側アーム30Aと緩み側アーム30Bを備え、張り側アーム30Aの先端部の張り側アイドラー32がベルト24の周面に接触し、緩み側アーム30Bの先端部の緩み側アイドラー34がベルト24の周面に接触する構成であるが、この構成に限定されるものではない。例えば、規制部材が張り側アーム30Aのみを備え、張り側アーム30Aの先端部のアイドラー(接触部)がベルト24の周面に接触する構成でもよい。
【0060】
また、第1及び第2実施形態では、規制部材30のアームに対して張り側アイドラー32と緩み側アイドラー34を設けたが、これに限定されず、ベルト24に接触する接触部が規制部材30のアームに対して回転しない構成でもよい。
【符号の説明】
【0061】
2 自転車(ベルト駆動式自転車)
10 張力調整装置
12 回転軸
13 ハンガーパイプ(フレーム)
14 クランク
14A 一端部
16 ペダル
18 駆動プーリー(駆動側回転部材)
18B 短径部
18A 長径部
20 従動プーリー(従動側回転部材)
24 ベルト(無端状部材)
30 規制部材
30A 張り側アーム
30B 緩み側アーム
30C 連結部
32 張り側アイドラー(張り側接触部)
34 緩み側アイドラー(緩み側接触部)
40 ベアリング
44 中心線
80 張力調整装置
82 クランク
82A 取付部
82B 支持部
84 駆動プーリー(従動側回転部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のフレームに回転自在に取り付けられた駆動側回転部材と、
前記駆動側回転部材の回転軸の両端に連結され、先端にペダルが取り付けられると共に、前記駆動側回転部材と一体に回転するクランクと、
前記フレームに回転自在に取り付けられ、後輪を回転させる従動側回転部材と、
前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材に巻き掛けられ、前記駆動側回転部材の回転によって周回移動し、前記従動側回転部材に駆動力を伝達する無端状部材と、
前記駆動側回転部材又は前記クランクに揺動可能に取り付けられ、前記無端状部材に接触して前記無端状部材の緩みを規制する規制部材と、
を有する張力調整装置。
【請求項2】
前記規制部材は、
前記駆動側回転部材又は前記クランクに揺動可能に連結される連結部と、
前記連結部から延出されたアームと、
前記アームの先端部に設けられ、前記駆動側回転部材の巻き掛け部から離れた前記無端状部材の外周面と接触する接触部と、を備え、
前記駆動側回転部材の回転軸方向において、前記接触部の幅方向の中心線が、前記連結部の幅方向の中心線とほぼ一致するように配置されている請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
前記接触部が、前記アームの先端部に回転可能に設けられたアイドラーである請求項2に記載の張力調整装置。
【請求項4】
前記アームは、
前記連結部から前記駆動側回転部材の上方における前記無端状部材の張り側へ延出される張り側アームと、
前記連結部から前記駆動側回転部材の下方における前記無端状部材の緩み側へ延出される緩み側アームと、で構成され、
前記接触部は、
前記張り側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する張り側接触部と、
前記緩み側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する緩み側接触部と、を備えている請求項2又は請求項3に記載の張力調整装置。
【請求項5】
前記連結部の揺動中心が前記回転軸と同軸上に設けられている請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の張力調整装置。
【請求項6】
前記規制部材は、前記回転軸に作用するトルクの変動による前記無端状部材の緩みを規制する請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の張力調整装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、
前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がプーリーであり、前記無端状部材がベルトで構成されているベルト駆動式自転車。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、
前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がスプロケットであり、前記無端状部材がチェーンで構成されているチェーン駆動式自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−56385(P2012−56385A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199811(P2010−199811)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000112978)ブリヂストンサイクル株式会社 (78)