説明

張力調整装置、ベルト駆動式自転車及びチェーン駆動式自転車

【課題】無端状部材の緩みを規制する揺動可能な規制部材を取り付けた場合にケースの大型化を抑制する。
【解決手段】規制部材30は、駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に取り付けられている。規制部材30の張り側アーム30Aと緩み側アーム30Bは、駆動プーリー18の外周縁から半径方向外側に張り出している。その張り出した張り側アーム30Aと緩み側アーム30Bの側部には、駆動プーリー18の外周縁に沿って、張り側アイドラー32から緩み側アイドラー34までの範囲を覆うようにケース70が取り付けられている。規制部材30が駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動すると、ケース70が規制部材30と共に揺動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力調整装置、ベルト駆動式自転車及びチェーン駆動式自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、自転車のフロントギヤの外側面を被覆するギア被覆部を備えた半面チェーンケースを、ギア被覆部の周縁が締結固定される取付具を用いて自転車のフレームに固定する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−301552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の構成では、自転車のフロントギヤの外側面のほぼ全体を被覆するギア被覆部を備えた半面チェーンケースを取付具を用いて自転車のフレームに固定するため、部品点数および工程数が増加する。
【0005】
また、チェーンやベルト等の無端状部材に接触して無端状部材の緩みを規制する規制部材をフロントギヤの側方に揺動可能に取り付ける場合には、規制部材の揺動領域全体をカバーするケースが必要となり、ケースが大型化する。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、無端状部材の緩みを規制する揺動可能な規制部材を取り付けた場合にケースの大型化を抑制することができる張力調整装置、ベルト駆動式自転車及びチェーン駆動式自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る張力調整装置は、自転車のフレームに回転自在に取り付けられた駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材の回転軸の両端に連結され、先端にペダルが取り付けられると共に、前記駆動側回転部材と一体に回転するクランクと、前記フレームに回転自在に取り付けられ、後輪を回転させる従動側回転部材と、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材に巻き掛けられ、前記駆動側回転部材の回転によって周回移動し、前記従動側回転部材に駆動力を伝達する無端状部材と、前記回転軸周りに揺動可能に設けられ、前記無端状部材に接触する接触部を備え、前記接触部が前記無端状部材に接触して前記無端状部材の緩みを規制する規制部材と、前記規制部材と連動して、前記無端状部材が前記駆動側回転部材に進入する部位と前記接触部が前記無端状部材に接触する部位とを覆うケースと、を有するものである。
【0008】
請求項1に記載の発明では、自転車のフレームに駆動側回転部材が回転自在に取り付けられ、駆動側回転部材の回転軸の両端にクランクが連結されており、クランクの先端のペダルをこぐことによって、クランクの回転軸が回転する。駆動側回転部材と従動側回転部材とに無端状部材が巻き掛けられており、駆動側回転部材の回転により無端状部材が周回移動し、従動側回転部材に駆動力が伝達される。従動側回転部材の回転により後輪が回転する。
【0009】
その際、回転軸周りに揺動可能に規制部材が設けられており、規制部材の接触部が無端状部材に接触することで、無端状部材の緩みが規制される。このため、無端状部材の張力が不足することによる無端状部材の歯飛び等の発生が抑制される。
【0010】
また、規制部材と連動するケースが、無端状部材が駆動側回転部材に進入する部位と、接触部が無端状部材に接触する部位とを覆うことにより、自転車の乗員の衣服が無端状部材と駆動側回転部材、無端状部材と接触部との間に巻き込まれることが阻止される。そのとき、ケースが規制部材と連動することにより、ケースをフレームに固定した場合に比べて、規制部材の接触部の揺動領域全体をカバーするためにケースを大型化する必要がなく、ケースの大きさを抑えることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の張力調整装置において、前記ケースが前記規制部材に連結され前記規制部材と連動するものである。
【0012】
請求項2に記載の発明では、規制部材が回転軸周りに揺動可能に設けられ、ケースが規制部材に連結され規制部材と連動しており、ケースが規制部材と共に回転軸周りに揺動する。このため、ケースをフレームに固定して規制部材の揺動領域全体をカバーする場合に比べて、ケースが大型化するのを抑制することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の張力調整装置において、前記ケースが、前記回転軸を回転可能に支持するフレームに揺動可能に連結されており、前記規制部材に当接し前記ケースが揺動して前記規制部材と連動するものである。
【0014】
請求項3に記載の発明では、ケースが、回転軸を回転可能に支持するフレームに揺動可能に連結されており、規制部材が回転軸周りに揺動したときに規制部材に当接してケースが揺動する。このため、ケースをフレームに固定して規制部材の揺動領域全体をカバーする場合に比べて、ケースが大型化するのを抑制することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の張力調整装置において、前記ケースが前記クランクに揺動可能に連結されており、前記規制部材に当接し前記ケースが揺動して前記規制部材と連動するものである。
【0016】
請求項4に記載の発明では、ケースがクランクに揺動可能に連結されており、規制部材が回転軸周りに揺動したときに規制部材に当接してケースが揺動する。このため、ケースをフレームに固定して規制部材の揺動領域全体をカバーする場合に比べて、ケースが大型化するのを抑制することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の張力調整装置において、前記ケースが前記駆動側回転部材に揺動可能に連結されており、前記規制部材に当接し前記ケースが揺動して前記規制部材と連動するものである。
【0018】
請求項5に記載の発明では、ケースが駆動側回転部材に揺動可能に連結されており、規制部材が回転軸周りに揺動したときに規制部材に当接してケースが揺動する。このため、ケースをフレームに固定して規制部材の揺動領域全体をカバーする場合に比べて、ケースが大型化するのを抑制することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の張力調整装置において、前記規制部材は、前記連結部から前記駆動側回転部材の上方における前記無端状部材の張り側へ延出される張り側アームと、前記連結部から前記駆動側回転部材の下方における前記無端状部材の緩み側へ延出される緩み側アームと、前記張り側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する張り側接触部と、前記緩み側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する緩み側接触部と、を備え、前記ケースは、前記無端状部材と前記張り側接触部とが接触する部位、および前記無端状部材と前記緩み側接触部とが接触する部位を覆うように形成されているものである。
【0020】
請求項6に記載の発明では、規制部材の張り側アームに設けられた張り側接触部が駆動側回転部材の上方で無端状部材の外周面と接触し、規制部材の緩み側アームに設けられた緩み側接触部が駆動側回転部材の下方で無端状部材の外周面と接触する。クランクが回転し、従動側回転部材の抵抗により無端状部材の張り側の張力が上昇すると、無端状部材が張られるので、規制部材が揺動して張り側接触部が上方に移動する。このとき、無端状部材の緩み側は緩むことになるが、規制部材の揺動により緩み側接触部が無端状部材の外周面を押し付ける方向に移動し、無端状部材に対して張力を付加する。これによって、トルクの変動が発生した場合(停止からこぎ出しになった場合、平地から上り坂になった場合等)でも、素早く必要な張力を無端状部材に付加することが可能となる。
【0021】
また、ケースは、無端状部材と張り側接触部とが接触する部位、および無端状部材と緩み側接触部とが接触する部位を覆うように形成されており、ケースが回転軸周りに揺動可能に設けられることで、ケースの大型化を抑制できると共に、無端状部材と張り側接触部又は緩み側接触部との間に自転車の乗員の衣服が巻き込まれるのを阻止することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の張力調整装置において、前記ケースには、前記無端状部材と前記張り側接触部とが接触する部位と、前記無端状部材と前記緩み側接触部とが接触する部位と、を連結するカバー部が前記駆動側回転部材に沿って設けられているものである。
【0023】
請求項7に記載の発明では、無端状部材と張り側接触部とが接触する部位と、無端状部材と緩み側接触部とが接触する部位とを連結するカバー部が駆動側回転部材に沿って設けられており、ケースの取り付け構造が簡略化される。
【0024】
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の張力調整装置において、前記規制部材は、前記回転軸に作用するトルクの変動による前記無端状部材の緩みを規制するものである。
【0025】
請求項8に記載の発明では、規制部材が無端状部材に接触することで、回転軸に作用するトルクの変動による無端状部材の緩みが規制される。
【0026】
請求項9に記載の発明に係るベルト駆動式自転車は、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がプーリーであり、前記無端状部材がベルトで構成されているものである。
【0027】
請求項9に記載の発明では、駆動側のプーリーの駆動力をベルトによって従動側のプーリーに伝達するベルト駆動式自転車においても、揺動可能な規制部材とベルトとが接触する部位を覆うケースの大型化を抑制することができる。
【0028】
請求項10に記載の発明に係るチェーン駆動式自転車は、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がスプロケットであり、前記無端状部材がチェーンで構成されているものである。
【0029】
請求項10に記載の発明では、駆動側のスプロケットの駆動力をチェーンによって従動側のスプロケットに伝達するチェーン駆動式自転車においても、揺動可能な規制部材とチェーンとが接触する部位を覆うケースの大型化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、無端状部材の緩みを規制する揺動可能な規制部材を取り付けた場合に、ケースの大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態である張力調整装置を示す構成図である。
【図2】図1に示す張力調整装置の主要部を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示す張力調整装置に用いられる規制部材の駆動プーリーへの連結部付近を示す断面図である。
【図4】規制部材を示す断面図である。
【図5】張り側アイドラーを示す断面図である。
【図6】張力調整装置の規制部材が駆動プーリーに対して下方へ揺動したときのケースの状態を示す側面図である。
【図7】張力調整装置の規制部材が駆動プーリーに対して上方へ揺動したときのケースの状態を示す側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態である張力調整装置の主要部を示す構成図である。
【図9】図8中のB−B線におけるケースの取り付け状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本発明の第1実施形態である張力調整装置10が適用される自転車2の主要部を示す側面図である。また、図2は、張力調整装置10の駆動プーリー付近の分解斜視図である。
【0034】
図1に示すように、この張力調整装置10では、自転車2のシートパイプ4の下端のハンガーパイプ13に回転軸12が設けられており、回転軸12の両端部に、それぞれ反対方向に伸びたクランク14が連結されている。クランク14の先端には、ペダル16が回転可能に支持されている。左右のクランク14の間には、クランク14に連結される回転軸12と一体となって回転する駆動側回転部材としての楕円状の駆動プーリー18が取り付けられている(図2を参照)。回転軸12は自転車2のチェーンステー6の一端に支持されており、チェーンステー6の他端には、従動側回転部材としての円形状の従動プーリー20が設けられている。この従動プーリー20に連動して後輪(図示省略)が回転する。
【0035】
駆動プーリー18と従動プーリー20には、無端状部材としてのベルト24が巻き掛けられている。すなわち、自転車2は、駆動プーリー18の駆動力をベルト24によって従動プーリー20に伝達するベルト駆動式の自転車である。ベルト24の内周面には、複数の歯(図示省略)が形成されており、これらの歯が駆動プーリー18と従動プーリー20の周面に形成された複数の歯28(図2では、駆動プーリー18のみ図示している)と噛合されている。そして、クランク14を矢印A方向(時計回り)に回転させると、回転軸12と一体となった駆動プーリー18が矢印B方向(時計回り)に回転し、ベルト24が矢印C方向に周回移動する。ベルト24の周回移動により従動プーリー20が回転し、後輪(図示省略)に駆動力が伝達されるようになっている。
【0036】
図2に示すように、ハンガーパイプ13の内部には、回転軸12が貫通するように配置されている。回転軸12の幅方向両側には略矩形状の連結部12Aが形成されており、連結部12Aがクランク14の一端部14A(ペダル16と反対側の端部)に形成された略矩形状の開口14Bに挿入される。そして、連結部12Aの幅方向外側に形成されたネジ部12Bにナット42が螺合されることで、回転軸12の幅方向両側にクランク14の一端部14Aが連結されている。回転軸12は、自転車2のシートパイプ4の下端に固定支持されたハンガーパイプ13内に、ベアリング(図示省略)を介して回転可能に支持されている(図1参照)。
【0037】
図3に示すように、駆動プーリー18は、左右一対のうちの一方(図2中の左側)のクランク14の一端部14Aに取り付けられる取付部19Aと、取付部19Aの側部に固定支持されると共にベルト24の歯(図示省略)と噛合される複数の歯28を備えた環状部19Bと、を備えている。取付部19Aの中心部には、円形状の開口19Cが形成されている。取付部19Aにおける開口19Cの内周面には、半径方向内側に突出する複数の突起19Dが形成されている。また、一方(図2中の左側)のクランク14の一端部14Aの外周面には、半径方向内側に窪んだ複数の凹部14Cが形成されている。すなわち、駆動プーリー18の取付部19Aの内周面に複数の突起19Dが形成され、それに組み合わせ可能な複数の凹部14Cがクランクの一端部14Aの外周面に形成され、それらを組み合わせた状態でクランクの一端部14Aの幅方向の縁部(図3の左側縁部)を加締めることでクランク14が取り付けられている。
【0038】
駆動プーリー18の取付部19Aには、規制部材30が揺動可能に連結されている。図1及び図2に示すように、規制部材30は、略V字状に形成されており、駆動プーリー18の上方におけるベルト24の張り側に延出する張り側アーム30Aと、駆動プーリー18の下方におけるベルト24の緩み側に延出する緩み側アーム30Bと、略V字状に屈曲した部分に形成された連結部30Cと、を備えている(図4参照)。規制部材30は、連結部30Cで駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能(回動可能)に支持されている。
【0039】
図3及び図4に示すように、規制部材30の連結部30Cには、幅方向に沿って円形状の開口30Dが形成されており、連結部30Cの内周面がベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aの外周面に揺動可能に連結されている。ベアリング40は、取付部19Aの外周面に止め輪46によって取り付けられている。規制部材30の連結部30Cの揺動中心は、回転軸12(図2参照)と同軸上に設けられており、規制部材30の連結部30Cの揺動中心と駆動プーリー18の取付部19Aの回転中心は同心となっている。これにより、規制部材30の支持構造がシンプルとなり、コストを低減することができる。
【0040】
張り側アーム30Aの先端部には、ベルト24の外周面と接触する張り側接触部としての略円柱状の張り側アイドラー32が回転可能に支持されている。緩み側アーム30Bの先端部には、ベルト24の外周面と接触する緩み側接触部としての略円柱状の緩み側アイドラー34が回転可能に支持されている。
【0041】
図1に示すように、クランク14を矢印A方向に回転させると、駆動プーリー18の回転によりトルクが上昇すると駆動プーリー18の上方におけるベルト24の上方側は張るが、そのベルト24の上方側(張り側)の駆動プーリー18と近接対向する位置に、張り側アイドラー32が接触している。一方、ベルト24の上方側が張ることにより駆動プーリー18の下方におけるベルト24の下方側は緩むが、そのベルト24の下方側(緩み側)の駆動プーリー18と近接対向する位置に、緩み側アイドラー34が接触している。
【0042】
また、規制部材30の揺動中心と緩み側アイドラー34との距離は、規制部材30の揺動中心と張り側アイドラー32との距離より大きく設定されている。これによって、ベルト24が張ったときの張り側アイドラー32の少ない移動により、緩み側アイドラー34を大きく移動することができ、ベルト24の緩み側にすばやく大きな張力を付加することができる。
【0043】
図1、図2及び図4に示すように、規制部材30における張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34が設けられた側の側部には、駆動プーリー18の外周縁に沿って張り側アイドラー32から緩み側アイドラー34までの範囲を覆うようにケース70が取り付けられている。ケース70は、張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34の回転軸方向(駆動プーリー18の幅方向)に配置された壁部70Aと、壁部70Aの幅方向外側端部(ハンガーパイプ13と反対側の端部)から屈曲されて張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34の先端側を覆うように配置されたカバー部としての側壁部70Bと、壁部70Aの幅方向内側端部から屈曲されて張り側アーム30Aの側面に当接する取付部70Cと、壁部70Aの幅方向内側端部から屈曲されて緩み側アーム30Bの側面に当接する取付部70Dと、を備えている。
【0044】
側壁部70Bは、駆動プーリー18の幅方向外側(ハンガーパイプ13と反対側)の側壁18Cの外周縁に沿って配置されており、回転時の駆動プーリー18と干渉しないように形成されている。壁部70A及び側壁部70Bは、駆動プーリー18から張り出した張り側アーム30Aの側方と、張り側アイドラー32の先端及び周囲を覆うように形成されると共に、駆動プーリー18から張り出した緩み側アーム30Bの側方と、緩み側アイドラー34の先端及び周囲を覆うように形成されている。側壁部70B及び壁部70Aの張り側アイドラー32側の端部は、ベルト24が駆動プーリー18に進入する部位を覆う位置まで延設されている。
【0045】
取付部70Cと取付部70Dにはそれぞれボルト挿通孔72が形成されている。取付部70Cは張り側アーム30Aに面接触された状態で、ボルト挿通孔72に挿通されたボルト74が張り側アーム30Aに形成された雌ネジに螺合されることで張り側アーム30Aに固定されている。取付部70Dは緩み側アーム30Bに面接触された状態で、ボルト挿通孔72に挿通されたボルト74が緩み側アーム30Bに形成された雌ネジに螺合されることで緩み側アーム30Bに固定されている。
【0046】
規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されており、規制部材30が駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動する際に(回転軸12周りに揺動する際に)、規制部材30に取り付けられたケース70が、規制部材30と連動して駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動する(回転軸12周りに揺動する)ようになっている。
【0047】
図5に示すように、規制部材30の張り側アーム30Aの先端には、幅方向に沿って雌ネジ31が形成されており、雌ネジ31に張り側アイドラー32を支持するための雄ネジ52が螺合されている。雄ネジ52の円柱部52Aには、幅方向両側にダストカバー54、56が外挿されている。ダストカバー54、56は、円柱部52Aの周囲の断面が略U字状に形成されており、このU字状の部分が対向するように配置されている。ダストカバー54、56のU字状の部分の間には、環状のカラー58が挟持されている。張り側アイドラー32の中心部には、円形状の開口部32Aが形成されており、張り側アイドラー32の開口部32Aがカラー58の外周面と当接するように外挿されている。雄ネジ52の円柱部52Aの抜け出たネジ部には、緩み止めとしてナット50が螺合されている。
【0048】
張り側アイドラー32は、カラー58に対して回転するが、ダストカバー54、56により張り側アイドラー32とカラー58の回転接触部となる張り側アイドラー32の開口部32Aに粉塵等が浸入することが防止される。
【0049】
また、張り側アイドラー32の両端部には、フランジ部61が形成されており、フランジ部61によってベルト24が外れないように保持されている。張り側アイドラー32のフランジ部61の間の外周面には、ベルト24の巾より小さい凹部62が形成されている。張り側アイドラー32は、この凹部62の両側の水平面でベルト24の外周面と接触する。なお、緩み側アイドラー34も張り側アイドラー32と同じ構成である。
【0050】
図6及び図7に示すように、駆動プーリー18は楕円状であり、長径部18Aとこの長径部18Aと直交する方向の短径部18Bとを備えている。図7に示すように、クランク14が鉛直方向に対して時計方向に約70°まで回転したときに、駆動プーリー18の長径部18Aが、駆動プーリー18と従動プーリー20との軸間方向に対して直角となるように、駆動プーリー18が回転軸12に連結されている。
【0051】
自転車2は、クランク14の1回転中、左右のペダル16を踏み降ろすときにトルクのピークが2回発生する。そのピーク値は、平地や坂道等の走行状態によって大きく変動し、坂道やこぎ出し時は特にピーク値が大きくなる。一般的にはクランク14が鉛直方向に対して時計方向に約70°まで回転したとき、回転軸12に作用するトルクが最大となり、この時、本実施形態では回転軸12に設けられた駆動プーリー18の長径部18Aが、駆動プーリー18と従動プーリー20との軸間方向に対して直角となる。左右のクランク14は、180°位相がずれているので、片側のクランク14が70°の位置にあれば、逆側のクランク14も鉛直方向に対して逆側に70°の位置にある。
【0052】
ここで、駆動プーリー18の歯数は、50Tに設定されており、駆動プーリー18の扁平率は、約0.0472に設定されている。ここで、扁平率とは、長径部18Aの半径をaとし、短径部18Bの半径をbとしたとき、(a−b)/aで示される値をいう。
【0053】
次に、張力調整装置10の作用について説明する。
【0054】
図6及び図7に示すように、自転車2に乗ったライダーがペダル16(図1参照)を踏んで、クランク14を矢印A方向に回転させると、回転軸12の回転により駆動プーリー18が矢印B方向に回転する。駆動プーリー18の回転により、ベルト24が矢印C方向に周回移動し、従動プーリー20が回転する。そして、従動プーリー20の回転により、後輪(図示省略)に駆動力が伝達される。
【0055】
その際、ベルト24の上方側(張り側)の駆動プーリー18との近接対向位置では、ベルト24の外周面に張り側アイドラー32が接触している。これによって、図7に示すように、クランク14が矢印A方向に回転し、従動プーリー20の抵抗により張り側のベルト24の張力が上昇すると、張り側のベルト24が張られるので、張り側アイドラー32は上方向(矢印D方向)へ移動する。このとき、下方側(緩み側)のベルト24は緩むことになるが、規制部材30の緩み側アーム30Bが上方向に揺動し、これにともない、緩み側アーム30Bに支持された緩み側アイドラー34が上方向(矢印E方向)に移動する。これによって、緩み側アイドラー34がベルト24の外周面を押圧し、ベルト24の緩み側に張力が付加される。
【0056】
また、楕円状の駆動プーリー18の長径部18Aが駆動プーリー18と従動プーリー20の軸間方向と直角になっているとき(図7の状態)は、短径部18Bが駆動プーリー18と従動プーリー20の軸間方向と直角になっているとき(図6の状態)よりも、行路差が生じてベルト24に大きな予備張力が付加される。
【0057】
駆動プーリー18は、クランク14が鉛直方向に対して矢印A方向に約70°の位置にあるときに、長径部18Aが駆動プーリー18と従動プーリー20との軸間方向に対して直角となるように支持されている。このため、坂道やこぎ出し時など、回転軸12に作用するトルクが最大となるときに、ベルト24に予備張力を付加することができるので応答性が良い。
【0058】
また、張り側アイドラー32の移動に連動する緩み側アイドラー34を設けることで、駆動プーリー18の長径部18Aと短径部18Bによる行路差を拡大することができる。このため、ベルト24の張力が不足することによるベルト24の歯飛びの発生を抑制することができる。ここで、歯飛びとは、張力が弱いときに、ベルト24の歯が駆動プーリー18又は従動プーリー20の歯に乗り上げ、飛び越してしまう現象をいう。
【0059】
また、規制部材30の張り側アーム30A及び緩み側アーム30Bにケース70が取り付けられており、ケース70が張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34の周囲と、ベルト24が駆動プーリー18に進入する部位を覆っている。これによって、自転車2のライダーの衣服等がベルト24と駆動プーリー18との間、ベルト24と張り側アイドラー32との間、ベルト24と緩み側アイドラー34との間に巻き込まれることが阻止される。
【0060】
さらに、規制部材30の連結部30Cがベアリング40を介して駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されており、規制部材30が駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動すると、規制部材30の張り側アーム30A及び緩み側アーム30Bに取り付けられたケース70が、規制部材30と共に駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動する。このため、例えばケースをハンガーパイプ13やチェーンステー6に固定支持した場合(ケースが揺動しない場合)に比べて、規制部材30の張り側アーム30A及び緩み側アーム30Bの揺動領域全体をカバーするためにケースを大型化する必要がない。すなわち、ケース70が規制部材30と一体に動くので、ケース70の大きさを最小限に抑えることができる。
【0061】
また、ケース70を組み付ける際には、予め規制部材30と駆動プーリー18とクランク14からなるクランクセットを組み立てておけば、そのクランクセットを回転軸12に組み付け、ベルト24を装着した後、ケース70を規制部材30に取り付ける、といった工程となる。
【0062】
これに対して、ケースをハンガーパイプ13に固定する場合には、取付具を固定した後、規制部材30と駆動プーリー18とクランク14からなるクランクセットを回転軸12に組み付け、ベルト24を装着した後、ケースをハンガーパイプ13又は取付具に組み付ける、といった工程が必要となり、工程数が増加する。このため、本実施形態のケース70を組み付ける場合は、取付具が不要となると共に、工程が簡略化される。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態である張力調整装置について説明する。なお、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0064】
図8及び図9に示すように、本実施形態の張力調整装置80では、第1実施形態の駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されたケース70(図1等参照)に代えて、ハンガーパイプ13(図9参照)に揺動可能に連結されたケース84が設けられている。
【0065】
図9に示すように、ハンガーパイプ13内を貫通する回転軸12は、ハンガーパイプ13内にベアリング82を介して回転可能に支持されている。ケース84は、ハンガーパイプ13の外周面に揺動可能に連結される連結部84Aと、連結部84Aから規制部材30の側部に沿って延設された側壁部84Bと、側壁部84Bの端部から幅方向外側(ハンガーパイプ13と反対側)に屈曲されて張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34の回転軸方向(駆動プーリー18の幅方向)に配置された壁部84Cと、壁部84Cの幅方向外側端部から屈曲されて張り側アイドラー32及び緩み側アイドラー34の先端側を覆うように配置されたカバー部としての側壁部84Dと、を備えている。
【0066】
図8及び図9に示されるように、側壁部84Dは、駆動プーリー18の幅方向外側(ハンガーパイプ13と反対側)の側壁18Cの外周縁に沿って配置されており、回転時の駆動プーリー18と干渉しないように形成されている。壁部84Cと側壁部84Dは、駆動プーリー18から張り出した張り側アーム30Aの側方と、張り側アイドラー32の先端及び周囲を覆うように形成されると共に、駆動プーリー18から張り出した緩み側アーム30Bの側方と、緩み側アイドラー34の先端及び周囲を覆うように形成されている。側壁部84D及び壁部84Cの張り側アイドラー32側の端部は、ベルト24が駆動プーリー18に進入する部位を覆う位置まで延設されている。
【0067】
図9に示すように、連結部84Aは、ハンガーパイプ13の側縁部に螺合されるリングナット86によってハンガーパイプ13に揺動可能に支持されている。規制部材30が駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動するときに、張り側アーム30A又は緩み側アーム30Bがケース84の壁部84Cに当接することで、ケース84が規制部材30に連動してハンガーパイプ13に対して揺動する(ケース84が回転軸12周りに揺動する)ようになっている。
【0068】
このような張力調整装置80では、ケース84によって、自転車2のライダーの衣服等がベルト24と駆動プーリー18との間、ベルト24と張り側アイドラー32との間、ベルト24と緩み側アイドラー34との間に巻き込まれることが阻止される。また、規制部材30が駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動するときに、ケース84が規制部材30に連動してハンガーパイプ13に対して揺動するので、例えばケースをハンガーパイプ13やチェーンステー6に固定支持した場合(ケースが揺動しない場合)に比べて、規制部材30の張り側アーム30A及び緩み側アーム30Bの揺動領域全体をカバーするためにケースを大型化する必要がなく、ケースの大きさを抑えることができる。
【0069】
なお、第1及び第2実施形態のケース70、84に代えて、駆動プーリー18の取付部19Aに揺動可能に連結されるケースを設け、規制部材30が揺動するときに、規制部材30に当接してケースが駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動する構成としてもよい。また、クランク14の一端部14Aに揺動可能に連結されるケースを設け、規制部材30が揺動するときに、規制部材30に当接してケースがクランク14の一端部14Aに対して揺動する構成としてもよい。このような構成でも、例えばケースをハンガーパイプ13やチェーンステー6に固定支持した場合(ケースが揺動しない場合)に比べて、規制部材30の張り側アーム30A及び緩み側アーム30Bの揺動領域全体をカバーするためにケースを大型化する必要がなく、ケースの大きさを抑えることができる。
【0070】
なお、第1及び第2実施形態では、ケース70、84は、張り側アイドラー32が配置された部位と緩み側アイドラー34が配置された部位とを連結するカバー部としての側壁部70B、84Dが設けられているが、これに限定されず、張り側アイドラー32が配置された部位と緩み側アイドラー34が配置された部位とで分割された2つのケースを設けてもよい。この場合、2つのケースをそれぞれ回転軸12周りに揺動可能に連結する。
【0071】
なお、第1及び第2実施形態では、規制部材30は、駆動プーリー18の取付部19Aに対して揺動可能に連結される構成であるが、これに限定されず、例えば、規制部材30がクランク14の一端部14Aに揺動可能に連結される構成、又は規制部材30がハンガーパイプ13に揺動可能に連結される構成などを採用してもよい。
【0072】
なお、第1及び第2実施形態の張力調整装置10、80は、駆動プーリー18、84の駆動力をベルト24によって従動プーリー20に伝達するベルト駆動式の自転車2に適用したが、これに限定されるものではない。例えば、駆動スプロケットと従動スプロケットに無端状のチェーンを巻き掛け、駆動スプロケットの回転によりチェーンを周回移動させて従動スプロケットに駆動力を伝達するチェーン駆動式の自転車に本発明の張力調整装置を適用してもよい。
【0073】
なお、第1及び第2実施形態では、規制部材30は、張り側アーム30Aと緩み側アーム30Bを備え、張り側アーム30Aの先端部の張り側アイドラー32がベルト24の周面に接触し、緩み側アーム30Bの先端部の緩み側アイドラー34がベルト24の周面に接触する構成であるが、この構成に限定されず、張り側アーム30Aと緩み側アーム30Bのうち一方のアームのみを設け、アームの先端部のアイドラー(接触部)がベルト24の周面に接触する構成でもよい。この構成では、アイドラー(接触部)の周囲、及びベルト24が駆動プーリー18に進入する位置をカバーするようなケースを設ければよい。
【符号の説明】
【0074】
2 自転車
10 張力調整装置
12 回転軸
13 ハンガーパイプ(フレーム)
14 クランク
16 ペダル
18 駆動プーリー(駆動側回転部材)
20 従動プーリー(従動側回転部材)
24 ベルト(無端状部材)
30 規制部材
30A 張り側アーム
30B 緩み側アーム
32 張り側アイドラー(張り側接触部)
34 緩み側アイドラー(緩み側接触部)
70 ケース
70B 側壁部(カバー部)
80 張力調整装置
84 ケース
84D 側壁部(カバー部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のフレームに回転自在に取り付けられた駆動側回転部材と、
前記駆動側回転部材の回転軸の両端に連結され、先端にペダルが取り付けられると共に、前記駆動側回転部材と一体に回転するクランクと、
前記フレームに回転自在に取り付けられ、後輪を回転させる従動側回転部材と、
前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材に巻き掛けられ、前記駆動側回転部材の回転によって周回移動し、前記従動側回転部材に駆動力を伝達する無端状部材と、
前記回転軸周りに揺動可能に設けられ、前記無端状部材に接触する接触部を備え、前記接触部が前記無端状部材に接触して前記無端状部材の緩みを規制する規制部材と、
前記規制部材と連動して、前記無端状部材が前記駆動側回転部材に進入する部位と前記接触部が前記無端状部材に接触する部位とを覆うケースと、
を有する張力調整装置。
【請求項2】
前記ケースが前記規制部材に連結され前記規制部材と連動する請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
前記ケースが、前記回転軸を回転可能に支持するフレームに揺動可能に連結されており、
前記規制部材に当接し前記ケースが揺動して前記規制部材と連動する請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項4】
前記ケースが前記クランクに揺動可能に連結されており、
前記規制部材に当接し前記ケースが揺動して前記規制部材と連動する請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項5】
前記ケースが前記駆動側回転部材に揺動可能に連結されており、
前記規制部材に当接し前記ケースが揺動して前記規制部材と連動する請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項6】
前記規制部材は、
前記連結部から前記駆動側回転部材の上方における前記無端状部材の張り側へ延出される張り側アームと、
前記連結部から前記駆動側回転部材の下方における前記無端状部材の緩み側へ延出される緩み側アームと、
前記張り側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する張り側接触部と、
前記緩み側アームに設けられ、前記無端状部材の外周面と接触する緩み側接触部と、
を備え、
前記ケースは、前記無端状部材と前記張り側接触部とが接触する部位、および前記無端状部材と前記緩み側接触部とが接触する部位を覆うように形成されている請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の張力調整装置。
【請求項7】
前記ケースには、前記無端状部材と前記張り側接触部とが接触する部位と、前記無端状部材と前記緩み側接触部とが接触する部位と、を連結するカバー部が前記駆動側回転部材に沿って設けられている請求項6に記載の張力調整装置。
【請求項8】
前記規制部材は、前記回転軸に作用するトルクの変動による前記無端状部材の緩みを規制する請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の張力調整装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、
前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がプーリーであり、前記無端状部材がベルトで構成されているベルト駆動式自転車。
【請求項10】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の張力調整装置を備え、
前記駆動側回転部材及び前記従動側回転部材がスプロケットであり、前記無端状部材がチェーンで構成されているチェーン駆動式自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−56386(P2012−56386A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199812(P2010−199812)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000112978)ブリヂストンサイクル株式会社 (78)