説明

張線器

【課題】弛度の調整は張力で行われるが、ウインチを用いた張力調整は、装置が大きくなりすぎ、使用できる場所が限定される。一方、従来のトルクレンチ付張線器は、ハンディタイプであるので、機動性は高いが、巻き上げリールが巻き上がると、電線若しくはこれを引っ張るワイヤが重ね巻きとなり、トルクレンチが折れた点のトルクが電線に必要な張力とは変わってしまう。
【解決手段】電線の端部を把持する掴線器に連結された線材を巻き取る巻取り部をトルクハンドルで回転させる張線器であって、前記トルクハンドルの回転トルクの設定部には、径間目盛が形成されており、前記巻取り部は、巻取り径が変化しない張線器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な弛度で電柱間にワイヤを施工するための張線器に関する。
【背景技術】
【0002】
電柱間のワイヤは、温度変化による伸縮や風などによる揺れを緩衝するために、適切な弛度でワイヤを施工する必要がある。弛度は、電線のたるみであるのでその調整は基本的に張力で調整される。
【0003】
この弛度を調整するための装置は、従来から提案されている。図5に示すように、特許文献1では、ドラム101に巻き付けた繰り出し、巻き上げ自在なロープ102の繰り出し端にかかる張力を感知する張力計103及びこの張力計103により測定した張力と設定張力とを比較してドラムを回転させる駆動装置104とから成る弛度制御部100が開示されている。
【0004】
この際、旧地線の両端を支持した二つの弛度制御部100は相互に平行に設置されたレール体上を動くのであるが、夫々独自にレール体上を動くので、二つの弛度制御部100の距離が多少変化し、これにより上記旧地線の両端を支持したロープ102はドラム101から繰り出されたり、巻き上げられたりするが、この際の各ロープ102の張力を張力計103が測定し、設定張力とこれを比較して駆動装置104によりドラム101を回転させ、常に設定張力に調整する。
【0005】
また、特許文献2では、図6に示すように爪201とラチェット車202と巻胴枠205とワイヤ203を巻く巻胴204とからなる張線器であって、トルクレンチ206によってワイヤ203を巻取る手段を有する張線器が開示されている。この張線器は、電線を把持した掴線部をワイヤ203に連結し、そのワイヤ203を巻き付けた巻軸をトルクレンチ206が巻き上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−205511号公報
【特許文献2】実開平4−72815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
弛度は、電線を安全に架線するための施工に関する法律で、どの程度に調整しなければならないかが決められている。施工者は、電柱間の距離(径間)と使用する電線の種類から決められた弛度に対する張力を求め、その張力に基づいて架線工事を行う。
【0008】
特許文献1で開示されたように、巻き上げ用のウインチ自体にかかる張力を測定するのは、正確な張力に調整することができる。しかし、この手段では、ウインチとその自動調整制御器という重量物が必要であるので、これら及び駆動のための電源を搭載した車両を用意しなければならず、使用できる場所が限定されるという課題があった。
【0009】
特許文献2のトルクレンチ付張線器は、ハンディタイプであるので、機動性は高い。また、この張線器は、巻き上げレバーが所定のトルクになると、折れるので、巻き上げ軸のトルクが設定トルクになった点は、容易に認識できる。しかし、巻き上げリールが巻き上がると、電線若しくはこれを引っ張るワイヤが重ね巻きとなり、トルクレンチが折れた点のトルクが電線に必要な張力とは変わってしまっているという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて、作業者が単独で持ち歩け、正確にしかも容易に弛度調整ができる牽引工具を提供することを目的とする。
【0011】
具体的に本発明は、
電線の端部を把持する掴線器に連結された線材を巻き取る巻取り部をトルクハンドルで回転させる張線器であって、
前記トルクハンドルの回転トルクの設定部には、径間目盛が形成されている張線器を提供する。
【0012】
また本発明の張線器は、前記巻取り部の、巻取り径が変化しない事を特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の張線器は、前記径間目盛は、弛度の異なる径間目盛が複数形成されている事を特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の張線器は、
前記線材は噛み合い伝達帯であり、
前記巻取り部は、
前記噛み合い伝達帯を所定角度だけ抱きつけた噛み合いプーリと、
前記噛み合いプーリの軸に回転中心が固定された歯車と、
前記歯車に係合し、前記トルクハンドルから付勢を受ける係合爪部と、
を有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の張線器は、前記径間目盛を用いる電線の径を確認する対応電線確認手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の張線器は、噛み合い伝達帯を噛み合いプーリに所定角度だけ抱かせて、トルクハンドルで電線を巻き取るようにしたので、常に巻取り径が変化せず、トルクハンドルで検知されるトルクに相当する張力で電線を引っ張ることができる。その結果、トルクハンドルでのトルク調整を所定の弛度に対する径間に換算することができ、弛度調整が可能な張線器を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の張線器の平面図と側面図である。
【図2】図1のA−Aの断面図である。
【図3】図1のC−Cの断面図である。
【図4】径間目盛を示す図である。
【図5】従来例の弛度制御部の平面図である。
【図6】他の従来例の張線器の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(a)は本発明の張線器1の平面図であり、図1(b)は、本発明の張線器の側面図である。本発明の張線器1は、掴線器を保持するホルダ2と、ホルダ2に固定された歯付ベルト4と、歯付ベルト4を巻き取る巻取り部5と、巻取り軸6に連結されたトルクハンドル7を有する。なお、後述するように、歯付ベルト4は「噛み合い伝達帯」に含まれ、さらに、掴線器に連結された線材である。
【0019】
ホルダ2は、略U字形状で、U字の底部分には貫通孔が穿設された2つの係留部材(8a、8b)と、歯付ベルト4を狭持する狭持板9を有する。また、係留部材8a、8bは、U字状の開口部分の両腕を同軸で貫通する貫通孔も形成されている。係留部材同士8(8a、8b)は、U字の底部分同士を合わせてボルト10で固定される。これらはヘッド径が貫通孔より大きな係止ピンで回転自在に枢着されていてもよい。
【0020】
狭持板9は上下で1組であり、歯付ベルト4の端部を狭持する。歯付ベルト4を狭持した狭持板9は貫通孔が形成されている。一方の係留部材8bのU字の開口側は歯付ベルト4を狭持した狭持板9を挟み込むように挿入され、貫通孔同士を合わせてボルト11で固定される。係留部材8aの他方のU字開口側の貫通孔には、掴線器を係止するための係止ピン若しくは係止用ボルト12が配置される。
【0021】
歯付ベルト4の他方の端部は、巻取り部5内の歯付プーリ13(図2参照)に所定の角度だけ巻き付けられている。図2に図1(a)のA−Aの断面を示す。巻取り部5は筐体50と筐体50の略中央部に枢支された巻取り軸6を有する。巻取り軸6には歯付プーリ13が挿着固定されており、外部から巻取り軸6を回転させると、歯付プーリ13も回転する。なお、後述するように、歯付プーリ13は「噛み合いプーリ」に含まれる。
【0022】
歯付プーリ13には歯付ベルト4が略200度の角度で、それぞれの歯が嵌合するように巻き付けられている。歯付プーリ13の周囲には、歯付ベルト4をガイドするガイドプーリ(51〜55)が配置されており、巻取り口58から巻き込まれる歯付ベルト4は、歯付プーリ13に嵌合しながら巻き送られた後、巻出し口59から巻き出される。
【0023】
筐体50の後方部には、固定ホルダ14が固定されている。固定ホルダ14は、本発明の張線器1を電柱などに固定する際に利用される。例えば、電柱に巻き付けたワイヤをこの固定ホルダ14に係止させるなどである。
【0024】
図1に戻って巻取り部5の筐体50の外側には、巻取り軸6が延設され、巻取り軸6にはラチェット部19を介してトルクハンドル7が連結されている。トルクハンドル7は、レバー部16と、目盛部17と径間調節ツマミ28を有する。目盛部17と径間調節ツマミ28でトルクハンドル7の回転トルクの設定部を構成する。
【0025】
図3には、ラチェット構造とトルクレバーの断面であるC−C間の断面を示す。ラチェット部19には、ラチェットボディ20内に収納され、巻取り軸6に固定された歯車21と、ラチェットボディ20に揺動可能に枢支された係合爪部22が配置されている。係合爪部22は、歯車21と係合する爪23とトルクハンドル7の先端部15と当接する突起24を有する。
【0026】
トルクハンドル7は、ラチェット部19の係合爪部22の突起24に当接する先端部15とトルクハンドル7本体内部に配置された先端部15を付勢するバネ25と、バネ25と先端部15の間に配置されるトグル26と、バネ25の付勢力を調整する調整ネジ18と、調整ネジ18に螺嵌されたスライダ27と、本体の他端に回転結合され調整ネジ18を固定する径間調整ツマミ28を有する。
【0027】
図4にトルクハンドル7の目盛部17を示す。目盛部17はトルクハンドル7本体の一部が切除されており、本体内の調整ネジ18を直視することができる。調整ネジ18に螺嵌されたスライダ27の一部に指示マーク30が形成されている。そして、切除されたトルクハンドル7本体の肉厚部には、径間目盛31が距離で示されている。図4では弛度1.5%(32)と2%(33)の2種類の弛度に対して径間目盛31が形成されている。
【0028】
径間目盛31は、この張線器1が対象とする太さの電線を所定の径間で架線する際に、所定の弛度となるための張力を歯付プーリ13で引っ張った際に、トルクハンドル7の変位トルクに基づいて形成されている。
【0029】
より具体的には、
張力T(kgf)、ワイヤの単位重量W(kg/m)、径間S(m)、および弛度D(%)、の間には、次の関係が成立する。
T=(WS/8D)・100・・・(1)
また、張線器において、トルクMt(kgf・m)、プーリ径r(m)、には、次の関係が成立する。
Mt=T・r・・・(2)
そこで、上述した、(1)式、及び(2)式より、
所定の径間において、ワイヤが所望の弛度を有するための張線器を締め付けるトルク値は、以下のように決定される。
Mt=(WS/8D)・100・r
ここで、ワイヤの単位重量Wは、使用する電線の太さで決まる値であり、また弛度D(%)も決められている。歯付プーリ13の径は、本発明の張線器1の作製者がわかっている。結果、所定の弛度に対するトルクMtは径間Sの関数として求めておくことができ、図4のような目盛として具現化することができる。
【0030】
言い換えると、トルクハンドルの回転トルクの設定部には、通常のトルク(N・m)の表示ではなく、径間目盛を表示させることができる。なお、ここで弛度の調整は数%の幅があるため、1つの張線器に、複数の弛度に対する径間目盛が形成されていてもよい。例えば、図4では、弛度が1.5%と2%に対する径間目盛31が形成されている。
【0031】
再び図1を参照して、対応電線確認手段40は、トルクハンドル7の目盛部17以外の部分に設けられる。上記の式のように、ワイヤの単位重量WはトルクMtに対して独立変数となる。従って、目盛部17に形成した目盛にはこの値を盛り込んでおく必要がある。しかしワイヤの単位重量は、その太さによって大きく異なり、1つの張線器で全ての種類の電線に対応させるのは困難である。
【0032】
そこで、本発明の弛度調整が可能な張線器1は、使うことのできる電線の太さを確認できる対応電線確認手段40を有するのが望ましい。対応電線確認手段40は、この張線器1が使える電線の太さを黒線で示した対応電線確認手段40である。すなわち、直径がこの黒線と異なる電線にはこの張線器1は利用できないことを示している。なお、ここで示した対応電線確認手段40は1例であって、他の方法であってもよい。
【0033】
次に本発明の張線器1の1使用方法について説明する。本発明の張線器1はハンディタイプであるため、作業者が持ち歩くことが出来る。予め確認しておくことは、これから調整する電線の太さ(規格)と、調整する電線が架線されている電柱間の径間距離である。従って、作業者は調整する電線の規格を予め調べておき、それに対応する本発明の張線器1を持って、現地で電線の太さを対応電線確認手段40で確認する。次に調整する電線間の径間距離を測定する。また、設定する電線弛度を(工事基準などから)あらかじめ確認する。
【0034】
次に作業者は、調整する電線が固定されていない方の電柱に登り、電柱に本発明の張線器1を固定する。固定方法は、上述したように、電柱にワイヤを巻き付け、その一端を張線器1の後部にある固定ホルダ14に係止する。
【0035】
また、作業者は、別途用意した掴線器に電線の他端を把持させ、掴線器を張線器1のホルダ2に係止する。これで、電線の端部と電柱の間には、ワイヤで固定された張線器1が介在する。ここで、張線器1の径間調整ツマミ28を回して、目盛部17のスライダ27の指示マーク30が、径間目盛31に合うように調節する。径間目盛31の表示は設定する電線弛度のものを選択する。
【0036】
この状態で、作業者はトルクハンドル7を操作する。トルクハンドル7を操作すると、ラチェット部19を介して巻取り軸6が回転し、それに伴い歯付プーリ13が歯付ベルト4を巻き取る。歯付ベルト4の先端に連結された電線も張線器1に向かって手繰り寄せられる。
【0037】
図3よりラチェット部19では、係合爪部22が歯車21を係止している。トルクハンドル7の先端部15が当接する係合爪部22の突起24で係止されることで、トルクハンドル7の回転力が係合爪部22の爪23で係止されている歯車21を回転させる。ここで、トルクハンドル7の先端部15はトグル26を介してバネ25で付勢されているので、所定の回転力までは係合爪部22の突起24に回転力を与えることができる。
【0038】
しかし、バネ25で付勢された力以上の力が先端部15から加えられると、トグル26は回転し他の位置に移り、トルクハンドル7が折れることで、所定のトルクが与えられたことが作業者に認識される。
【0039】
このように、作業者のトルクハンドル7の操作によって、歯付プーリ13が回転させられるが、歯付プーリ13は手繰り寄せた歯付ベルト4を巻出し口59から手繰り寄せた分だけ繰り出す。従って、いくら巻き取っても、歯付プーリ13の直径で決まる巻き付け直径は変化せず、常に(2)式の関係が保持される。
【0040】
電線が所定の弛度になると、上述したように、巻取りトルクがトルクハンドル7で設定した値になって、トルクハンドル7の先端部15が突起に係合しながらラチェット部19の歯車21を回せなくなり、トグル26の部分で折れる。この時点で、歯付プーリ13が手繰り寄せた電線は所定の弛度に対応する張力で懸架されていることが分かる。
【0041】
以上のように本発明の張線器1は、歯付プーリ13で歯付ベルト4を巻き取るようにしたので、電線を巻き取る際に巻取り径が変化しない。そのため、張線器1の歯付プーリ13を回転させるトルクで所望の弛度に対応する張力を電線に与える事が出来る。これによって、調整する弛度は規則で決まっているため、トルクハンドル7の目盛を径間として、弛度調製可能な張線器1を構成することができた。
【0042】
なお、本発明では歯付ベルト4と歯付プーリ13を巻取り部5に用いたが、所定の抱きつけ角度でベルトを巻き取ることが出来れば、歯付ベルトと歯付プーリに限定されるものではない。例えば、歯付ベルトと歯付プーリの代わりにチェーンとギアの組み合わせでもよいし、タイミングベルトとタイミングプーリ等の組み合わせでもよい。したがって、本発明の歯付ベルトは、チェーンやタイミングベルト等を含む「噛み合い伝達帯」と言うことができる。また歯付プーリは、ギア、タイミングプーリ等を含む「噛み合いプーリ」と言うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、適切な弛度で電柱間にワイヤを施工するための牽引工具について有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 張線器
2 ホルダ
4 歯付ベルト
5 巻取り部
6 巻取り軸
7 トルクハンドル
8(8a、8b) 係留部材
9 狭持板
10、11 ボルト
12 係止用ボルト
13 歯付プーリ
14 固定ホルダ
15 先端部
16 レバー部
17 目盛部
18 調整ネジ
19 ラチェット部
20 ラチェットボディ
21 歯車
22 係合爪部
23 爪
24 突起
25 バネ
26 トグル
27 スライダ
28 径間調整ツマミ
30 指示マーク
31 径間目盛
40 対応電線確認手段
50 筐体
51〜55 ガイドプーリ
58 巻取り口
59 巻出し口
100 弛度制御部
101 ドラム
102 ロープ
103 張力計
104 駆動装置
201 爪
202 ラチェット車
203 ワイヤ
204 巻胴
205 巻胴枠
206 トルクレンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の端部を把持する掴線器に連結された線材を巻き取る巻取り部をトルクハンドルで回転させる張線器であって、
前記トルクハンドルの回転トルクの設定部には、径間目盛が形成されている張線器。
【請求項2】
前記径間目盛は、弛度の異なる径間目盛が複数形成されている請求項1に記載された張線器。
【請求項3】
前記巻取り部は、巻取り径が変化しない請求項1または2のいずれかに記載された張線器。
【請求項4】
前記線材は噛み合い伝達帯であり、
前記巻取り部は、
前記噛み合い伝達帯を所定角度だけ抱きつけた噛み合いプーリと、
前記噛み合いプーリの軸に回転中心が固定された歯車と、
前記歯車に係合し、前記トルクハンドルから付勢を受ける係合爪部と、
を有する請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載された張線器。
【請求項5】
前記径間目盛を用いる電線の径を確認する対応電線確認手段を有する請求項1乃至4のいずれか1の請求項に記載された張線器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−16246(P2012−16246A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153316(P2010−153316)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)