説明

強度補償用高強度セメント混和材およびそれを用いたセメント組成物

【課題】 強度の低いセメントを用いた場合でも、蒸気養生後の1日圧縮強度の低下を補償することが可能となり、所定の時期に応力を導入することが可能となるセメントの強度補償用高強度セメント混和材及びそれを用いたセメント組成物を提供すること。
【解決手段】 II型無水石膏と、硫酸ナトリウム、消石灰、及び/又は生石灰の強度補償材とからなる、セメントクリンカーのエーライト量が50〜58%であるセメントの強度補償用高強度セメント混和材、II型無水石膏の粉末度が3,000〜7,000cm2/gである該混和材、セメントと、II型無水石膏と該強度補償材とからなる該セメントの混和材成分とを含有するセメント組成物、セメントと該混和材とを含有するセメント組成物であり、II型無水石膏が、セメント100部に対して、2〜15部である該セメント組成物、該強度補償材が、セメント100部に対して、0.5〜2部である該セメント組成物を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの強度補償用高強度セメント混和材及びそれを用いたセメント組成物に関する。
本発明のセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0002】
従来、高強度コンクリートを製造する方法において、II型無水石膏を主成分とするセメント混和材とセメントを用いて蒸気養生をすることにより、70N/mm2程度という高強度の1日圧縮強度を得ていた(特許文献1参照)。
これらの高強度コンクリートは、例えば、あらかじめ、プレテンションした鉄筋を配置した型枠に充填した後、遠心力成型して、蒸気養生し、その後、テンションを開放し、応力を導入したコンクリートパイル、ポール、鋼管複合パイル、及びヒューム管等の製造に用いられていた。
【0003】
これらの高強度コンクリートには、通常、普通ポルトランドセメントを用いているが、普通ポルトランドセメント製造時に用いられるセメントクリンカーの化学組成が変動した場合、蒸気養生後の1日圧縮強度が大きく変動する欠点を有していた。
【0004】
【特許文献1】特許第2631764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者は、特定のセメントの強度補償用高強度セメント混和材を使用することによって、強度の低いセメントを用いた場合でも、蒸気養生後の1日圧縮強度の低下を補償することが可能となる知見を得て、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、II型無水石膏と、硫酸ナトリウム、消石灰、及び生石灰からなる群より選ばれた一種又は二種以上の強度補償材とからなる、セメントクリンカーのエーライト量が50〜58%であるセメントの強度補償用高強度セメント混和材であり、II型無水石膏の粉末度が3,000〜7,000cm2/gである該強度補償用高強度セメント混和材であり、セメントと、II型無水石膏と該強度補償材とからなるセメントクリンカーのエーライト量が50〜58%であるセメントの強度補償用高強度セメント混和材成分とを含有するセメント組成物であり、セメントと該強度補償用高強度セメント混和材とを含有するセメント組成物であり、II型無水石膏が、セメント100部に対して、2〜15部である該セメント組成物であり、該強度補償材が、セメント100部に対して、0.5〜1部である該セメント組成物である。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明は、セメントクリンカーのエーライト量が50〜58%であるセメントに、強度補償用高強度セメント混和材(以下、本混和材という)を配合するものである。
【0009】
一般に、セメントとしては、焼成工程を経て製造されるセメントクリンカーに、仕上げ工程で、石灰石、スラグ、フライアッシュ、及び二水石膏を加え混合粉砕したもの、さらに、得られたセメントに、粉砕スラグやフライアッシュなどを混合した混合セメントなどが挙げられる。
【0010】
セメントクリンカーは、石灰質原料、ケイ酸質原料、酸化鉄原料、及び粘土質原料等を、目標とする化学組成となるように、粉砕、配合した調合原料とし、例えば、ニューサスペンジョンプレヒーターが設置されたキルンで約1,450℃で焼成して製造されるが、セメントに要求される強度に応じて調合原料の化学組成が決定される。
【0011】
調合原料の化学組成は、水硬率(HM:hydraulic modulus、(CaO−0.7SO3)/(SiO2+Al2O3+Fe2O3))、ケイ酸率(SM:silica modulus、SiO2/(Al2O3+Fe2O3))、及び鉄率(IM:iron modulus、Al2O3/Fe2O3)によって決定され、焼成工程を経て形成されるセメントクリンカーの鉱物は、エーライト(3CaO・SiO2、C3S、Tricalcium silicate)、 ビーライト(2CaO・SiO2、C2S、Dicalcium silicate)、アルミネート相(3CaO・Al2O3、C3A、Tricalcium aluminate)、及びフェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3、C4AF、Tetracalcium aluminoferrite)から構成される。
これらのクリンカー中の鉱物量は、X線回折リートベルト法やポイントカウンティング法等により決定される。
【0012】
X線回折リートベルト法とは、粉末X線回折による回折強度からエーライトなどの鉱物量を定量する方法で、定量計算は、例えば、「SIROQUANT Version2.5」(Sietronics社製)を用いて、エーライトやビーライトの格子定数、選択配向やプロファイル関数について精密化を行い、アルミネート相やフェライト相については定量値と比例するスケールファクターのみを精密化し、格子定数等の各パラメーターは固定して計算をする方法である(セメントクリンカーの鉱物組成と製造条件の関係、吉野他、Cement Science and Concrete Technology,No.56,2002、社団法人セメント協会)。
【0013】
また、ポイントカウンティング法は、偏光顕微鏡を用いて画像中の屈折率の異なるエーライトやビーライトの占有面積からエーライトやビーライトの鉱物量を求める方法である。
【0014】
X線回折リートベルト法やポイントカウンティング法により決定されるクリンカー中のエーライト量は、エーライト量=エーライト/(エーライト+ビーライト+アルミネート相+フェライト相)×100(%)の式から算出される。
【0015】
本発明で使用するセメントとしては、各種セメントのうち、エーライト(C3S)が50〜58%含有されているものである。C3Sが50%未満では、強度低下が著しく、本混和材を用いても蒸気養生後の1日圧縮強度が、所定の1日圧縮強度に達しない場合がある。C3Sを58%を超えて使用しても、効果が増大することが期待できない。
【0016】
本発明で使用するII型無水石膏としては、天然の硬石膏、二水石膏を400℃以上で高温焼成して得られる無水石膏、及びフッ酸製造時に副生するフッ酸無水石膏のいずれも使用可能である。
II型無水石膏の粉末度は、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で3,000〜7,000cm2/gが好ましい。3,000cm2/g未満では、蒸気養生後の1日圧縮強度が、所定の1日圧縮強度に達しない場合があり、7,000cm2/gを超えると、セメントとII型無水石膏との反応によりエトリンガイトが促進形成され、高強度コンクリートが異常膨張を起こす場合がある。
II型無水石膏の使用量は、セメント100部に対して、CaSO4換算で2〜15部が好ましく、5〜11部がより好ましい。2部未満では、蒸気養生後の1日圧縮強度が、所定の1日圧縮強度に達しない場合があり、15部を超えると、セメントとII型無水石膏との反応によりエトリンガイトが促進形成され、高強度コンクリートが異常膨張を起こす場合がある。
【0017】
本発明では、II型無水石膏と、硫酸ナトリウム、消石灰、及び生石灰からなる群より選ばれた一種又は二種以上の強度補償材とを使用する。
【0018】
本発明で使用する硫酸ナトリウムは特に限定されるものではないが、通常、粒径1mm以下、純度95%以上の工業製品を用いる。
【0019】
本発明で使用する消石灰とは特に限定されるものではないが、通常、粒径600μm以下、酸化カルシウム(CaO)65%以上の工業製品を用いる。
【0020】
本発明で使用する生石灰とは特に限定されるものではないが、酸化カルシウム(CaO)90%以上の工業製品を用いる。
【0021】
強度補償材の使用量は、セメント100部に対して、0.5〜2部が好ましい。0.5部未満では、蒸気養生後の1日圧縮強度が、所定の1日圧縮強度に達しない場合があり、2部を超えると蒸気養生後の1日圧縮強度が低下する場合がある。
なお、硫酸ナトリウムを用いた場合は、ナトリウム量の増加によりアルカリ骨材反応を促進する可能性がある。
【0022】
本発明で使用する骨材としては、高強度コンクリート用として堅牢な、また、安定な骨材が使用され、硬質砂岩等が用いられる。
【0023】
本発明で、セメント、II型無水石膏、強度補償材、及び骨材の混合方法は特に限定されるものではなく、一般のレディーミクストコンクリートの製造工程と同様な方法を用いることが可能である。
【0024】
本発明で使用する水の量は、セメント、II型無水石膏、及び強度補償材の合計である結合材100部に対して、35部以下が好ましい。35部を超えると蒸気養生後の1日圧縮強度が、所定の1日圧縮強度に達しない場合がある。
【0025】
また、前記水の量に調整するため、減水剤を使用することが有効である。
【0026】
減水剤としては、JIS A 6204(コンクリート用化学混和剤)で規定されている減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、及び高性能AE減水剤が用いられる。これらの具体例としては、減水剤として、花王社製商品名「マイティ100」、「マイティ150」、及び「マイティ200」などのナフタリンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩、エヌエムビー社製商品名「レオビルトNL-1460」などの変性リグニンと高縮合芳香族スルホン酸塩複合体、グレース社製商品名「ダーレックスハイコール3S」などのスルホン化メラミン高縮合物塩系、並びに、藤沢薬品工業社製商品名「パリック♯1」などのオキシカルボン酸系の化学混和剤、AE減水剤として、グレース社製商品名「ダーレックスWRDA」などのリグニンスルホン酸塩等の化学混和剤、高性能AE減水剤として、グレース社製商品名「ダーレックススーパー100PHX」などのポリカルボン酸系化合物等の化学混和剤のいずれも使用可能である。
減水剤の使用量は、結合材100部に対して、0.1〜2部が好ましい。0.1部未満では前記水の量が35部を超え、蒸気養生後の1日圧縮強度が、所定の1日圧縮強度に達しない場合があり、2部を超えると凝結遅延等を起こしやすい場合がある。
【0027】
本発明において、セメント組成物、水、及び骨材を混合して、セメントコンクリートを調製し、打設し、養生し、硬化させる。
【0028】
本発明における打設方法は特に限定されるものではないが、セメントコンクリートを型枠に充填する時、バイブレターなどを用いて強制的に充填する方法が好ましい。
また、高強度パイルなどを製造する場合は、バイブレーターにより型枠に充填した後、遠心成型を行う。
【0029】
本発明における養生方法は特に限定されるものではないが、セメント組成物と水とを混合して調製したセメントコンクリートを、型枠に充填、成型後、蒸気養生を行うことが好ましい。
養生条件は特に限定されるものではないが、例えば、65〜90℃、約2〜5時間程度の蒸気養生をすることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明のセメント組成物を使用することにより、強度の低いセメントを用いた場合でも、蒸気養生後の1日圧縮強度の低下を補償することが可能となり、本来の所定の時期にテンションの開放を行い、応力を導入することが可能となった。
【実施例1】
【0031】
表1に示すセメント、細骨材、II型無水石膏、強度補償材、及び水を混練してモルタルを調製し、圧縮強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0032】
<使用材料>
セメントα:スラグセメント、エーライト(C3S)67.1%、ビーライト(C2S)12.7%、アルミネート相(C3A)2.7%、及びフェライト相(C4AF)17.5%、ブレーン値3,150cm2/g、比重3.14
セメントβ:フライアッシュセメント、C3S 53.8%、C2S 27.0%、C3A 11.6%、及びC4AF 7.6%、ブレーン値3,200cm2/g、比重3.14
細骨材 :砕砂
II型無水石膏:天然無水石膏、市販品
強度補償材A:消石灰、市販品
強度補償材B:生石灰、市販品
強度補償材C:硫酸ナトリウム、市販品
強度補償材D:塩化カルシウム、市販品
強度補償材E:カリウムミョウバン、市販品
強度補償材F:炭酸ナトリウム、市販品
減水剤 :高性能減水剤、ナフタリンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩、市販品
【0033】
<測定方法>
圧縮強度 :モルタルを混練3時間後、昇温3時間、65℃2時間蒸気養生し、その後、7時間養生槽中で20℃迄冷却後、JIS R 5201に準じて測定
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のセメント組成物は、コンクリートパイル、ポール、鋼管複合パイル、及びヒューム管等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
II型無水石膏と、硫酸ナトリウム、消石灰、及び生石灰からなる群より選ばれた一種又は二種以上の強度補償材とからなる、セメントクリンカーのエーライト量が50〜58%であるセメントの強度補償用高強度セメント混和材。
【請求項2】
II型無水石膏の粉末度が3,000〜7,000cm2/gであることを特徴とする請求項1記載の強度補償用高強度セメント混和材。
【請求項3】
セメントと、II型無水石膏と、硫酸ナトリウム、消石灰、及び生石灰からなる群より選ばれた一種又は二種以上の強度補償材とからなる、セメントクリンカーのエーライト量が50〜58%であるセメントの強度補償用高強度セメント混和材成分とを含有してなるセメント組成物。
【請求項4】
セメントと、請求項1又は請求項2に記載の強度補償用高強度セメント混和材とを含有してなるセメント組成物。
【請求項5】
II型無水石膏が、セメント100部に対して、2〜15部であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のセメント組成物。
【請求項6】
強度補償材が、セメント100部に対して、0.5〜2部であることを特徴とする請求項3〜請求項5のうちの一項に記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2006−117465(P2006−117465A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306722(P2004−306722)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】