説明

強靭鋼の高能率製造方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、オーステナイトを微細化する過程を必要とすることなく、強靭鋼を高能率に製造する方法に関するものである。
(従来の技術)
60〜80キロHTや低温用鋼は、通常、焼入れ焼戻しプロセスによって製造される。このプロセスにおいては、オーステナイト組織を可及的に微細化するためにAc1点直上の温度に加熱して焼入れを行っていた。このようなプロセスは、たとえば特公昭46−3851号公報、特公昭47−7981号公報、特公昭53−23241号公報および特公昭56−20335号公報等に開示されている。これらはいずれもオーステナイトの粗大化を狙ったものではなく、また焼戻しも高温の炉に材料を装入し、短時間に行うものではない。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、焼入れ焼戻しによって鋼を製造するに際し、敢えてオーステナイトを微細化する必要はなく、また焼戻し過程において、目的とする焼戻し温度よりもはるかに高い温度に保たれた炉に材料を装入し、短時間に能率良く焼戻し処理を行うことができる強靭鋼の製造方法を提供する。
(課題を解決するための手段)
本発明は、重量で、 C :0.03〜0.2%、 Si:0.03〜0.5%、 Mn:0.3〜1.8%、 Al:0.019〜0.064%、 Cu、Ni、Cr、Mo:合計量で0.3%超2.7%以下、 B :0.0003〜0.003%を含有し、さらに、必要に応じて V :0.1%以下、 Nb:0.1%以下、 Ti:0.1%以下の1種以上を合計で0.2%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、900℃以上で圧延を終了するよう熱間圧延し、冷却速度(℃/s)>23−0.25×板厚(mm)を満足する冷却速度で400℃以下の温度まで水冷し、次いで850℃以上の温度に保たれた炉に装入し、鋼の表面温度が400℃以上700℃以下の温度になった時点で炉から抽出する焼戻し処理を行うことを特徴とする強靭鋼の高能率製造方法である。
(作用)
本発明にあっては、所定の成分の鋼を鋳造まま直ちにまたは温度調整のための加熱後もしくは一旦冷片となったものを再加熱後圧延し、900℃以上の高温で圧延を終了する。これにより、オーステナイトが過度に微細化されず、焼入れ性が劣化することなく焼入れされる。
また、焼戻しも、従来技術にあっては目的とする温度に保たれた炉の中に鋼を装入し、極めて長時間をかけて昇温し、さらにその温度に30分〜1時間保定することにより行っていたが、本発明においては、極めて短時間のうちに目的の温度に加熱し、さらにその温度に保持することなく直ちに炉から抽出することによって、微細な焼入れ焼戻し組織を得るとともに、セメンタイトの凝集、析出物の粗大化を防ぎ、優れた機械的性質を有する鋼を得る。
Cは鋼の焼入れ性および強度を高めるために添加する。0.03%未満では効果が十分に発揮されない。また0.2%超では靭性および溶接性を劣化させる。
SiはCと同様の効果をもたらすが、Cより効果が小さく、そのために下限を0.03%に、上限を0.5%にした。
MnもCと同様に鋼の焼入れ性および強度を高める効果があるが、Cとは異なりその量を増しても靭性をあまり劣化させない。このため0.3〜1.8%添加する。
そのほかCu、Ni、Cr、Moを添加するが、いずれも鋼の靭性を損なわず、地鉄の強化、焼入れ性の増大に効果がある。これらの元素は合計量で下限を0.3%超、上限を2.7%にした。0.3%以下では効果が小さく、2.7%超では溶接性および靭性が劣化する。
Bは鋼の焼入れ性を高めるために添加し、微量で効果があるが、0.0003%未満では効果がなく、0.003%超では靭性を劣化させる。
V、Nb、Tiは微量で析出硬化作用を持ち、強度を高めるために必要に応じ添加するが、それぞれ0.1%以下、合計で0.2%以下の量で添加してもかまわない。Nは特に限定しないが、0.005%以下が望ましい。
上記成分の鋼を鋳造後圧延を行うが、直接圧延、再加熱圧延のいずれでもかまわない。圧延によりオーステナイトが細粒化して焼入れ性を劣化させるのを防ぐため、900℃以上で圧延を終了しなければならない。
さらに、圧延の終了後水冷により焼入れを行うが、冷却速度が遅いと焼きが入らない。冷却速度は板厚によって異なるために、冷却速度(℃/s)>23−0.25×板厚(mm)を満足しなければならない。また、冷却の終了温度は400℃以下でないと焼入れ組織が得られない。
焼戻しは通常の方法とは異なり急速に焼戻しを行うため、目的とする焼戻し温度(通常600〜650℃)より高い850℃以上に予め加熱された炉中に挿入する。850℃未満では急速加熱が不十分で、効果が少ない。400℃以上700℃以下の焼戻し温度になった時点で炉から抽出する。この温度で保定を行うとセメンタイトが凝集し、その他の析出物も粗大化するので、保定は行わない。
(実施例)
表1に鋼の化学成分、表2に製造条件と材質を示す。H、Sの符号を付けたものは比較例で、Hの符号が付いたものはそれぞれHの符号が付かない1〜4の鋼と同じ化学成分で、鋼の成分要件は満たすが、他の製造条件が要件を見たさないものであり、Sの符号が付いたものは鋼の化学成分が要件を満たさないものである。これより、本発明の有効性が明らかである。




(発明の効果)
本発明により、粗大なオーステナイトからでも微細な焼入れ焼戻し組織が得られ、優れた靭性を有する高張力鋼が高能率で得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】重量で、C :0.03〜0.2%、Si:0.03〜0.5%、Mn:0.3〜1.8%、Al:0.019〜0.064%、さらにCu、Ni、Cr、Mo:合計量で0.3%超2.7%以下、B :0.0003〜0.003%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、900℃以上で圧延を終了するよう熱間圧延し、冷却速度(℃/s)>23−0.25×板厚(mm)を満足する冷却速度で400℃以下の温度まで水冷し、次いで850℃以上の温度に保たれた炉に装入し、鋼の表面温度が400℃以上700℃以下の温度になった時点で炉から抽出する焼戻し処理を行うことを特徴とする強靭鋼の高能率製造方法。
【請求項2】重量で、C :0.03〜0.2%、Si:0.03〜0.5%、Mn:0.3〜1.8%、Al:0.019〜0.064%、Cu、Ni、Cr、Mo:合計量で0.3%超2.7%以下、B :0.0003〜0.003%を含有し、さらに、V :0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下の1種以上を合計で0.2%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、900℃以上で圧延を終了するよう熱間圧延し、冷却速度(℃/s)>23−0.25×板厚(mm)を満足する冷却速度で400℃以下の温度まで水冷し、次いで850℃以上の温度に保たれた炉に装入し、鋼の表面温度が400℃以上700℃以下の温度になった時点で炉から抽出する焼戻し処理を行うことを特徴とする強靭鋼の高能率製造方法。

【特許番号】第2780104号
【登録日】平成10年(1998)5月15日
【発行日】平成10年(1998)7月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−89983
【出願日】平成1年(1989)4月10日
【公開番号】特開平2−270914
【公開日】平成2年(1990)11月6日
【審査請求日】平成7年(1995)12月6日
【出願人】(999999999)新日本製鐵株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−163210(JP,A)
【文献】特開 昭61−48517(JP,A)
【文献】特開 昭58−104120(JP,A)
【文献】特開 昭58−96817(JP,A)