説明

弾丸の製造方法

【課題】鉛弾の代替えとして用いることが可能な鉛を含まない弾丸をより安価に提供する。
【解決手段】底部が閉じられた筒状(円筒形)の銅よりなるジャケット102の内部に、コア101が挿入された状態とする。次に、コア101が収容されたジャケット102が、この底部から底部鍛造ダイス121の型となる凹部内に挿入された状態とし、ポンチ122により収容されているコア101を押し込み、弾頭の底部の形状が形成された状態とする。次に、ポンチ124を頭部鍛造ダイス123の側へ押圧し、ジャケット102及びこれに収容されているコア101を頭部鍛造ダイス123の型部に押しつける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストル及びライフルなどに用いられる弾丸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ライフルや散弾銃などより発射される弾丸には、以下に示す理由により、鉛を含む金属よりなる弾心から構成されたものが用いられている。まず、比重(密度)が大きい鉛を用いることで、弾丸がより小さく形成可能であり重心の位置が制御しやすい。また、鉛は、加工しやすく、高い飛行性能を有する所望とする形状が形成しやすいなどの利点がある。
【0003】
ところが、周知のように、鉛による環境への影響が問題視され、発射された弾丸に含まれている鉛の環境への拡散が、様々な問題を引き起こしている。例えば、特別天然記念物に指定されているタンチョウヅルなどの水鳥が、生息域の水辺に沈降している散弾を小石と間違えて飲み込み、鉛中毒で死亡する事故が報告されている。また、天然記念物に指定されているオオワシなどの猛禽類が、射殺されたエゾシカを食し、エゾシカの体内に含まれている鉛の中毒により死亡する事故も相次いでいる。また、発射された弾丸の放置による、土壌や水資源に対する鉛害なども問題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上に説明した鉛の問題により、鉛を用いない非鉛弾の開発が進められている。例えば、ライフル弾としては、銅弾、スズ弾、及びタングステンよりなる弾芯をプラスチックで被覆したダングステンポリマー弾などが開発されている。しかしながら、例えば、銅弾やスズ弾は、鉛弾に比較して所望の銃弾特性が得られず、また、タングステンを用いた弾丸は非常に高価であるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、鉛弾の代替えとして用いることが可能な鉛を含まない弾丸をより安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾丸の製造方法は、スズとビスマスの合金からなる弾芯が銅よりなる金属被甲で被覆された弾丸を製造する弾丸の製造方法であって、一端が閉じられて他端が開口した円筒形の銅よりなるジャケットに、円筒状に成形されたスズとビスマスの合金からなるコアが収容された状態とする第1工程と、ジャケットに収容されたコアを一端の方向に押圧してジャケットの一端側を第1の型に押しつけ、弾丸の一端が成形された状態とする第2工程と、成形された一端を他端の方向に押圧してジャケットの他端の側を第2の型に押しつけ、弾丸の頭部が成形された状態とする第3工程とを少なくとも備えるようにしたものである。
【0007】
上記弾丸の製造方法において、コアは、円錐台状の形状に形成され、第1工程では、コアの径の小さい側がジャケットの底部の側に配置されて、ジャケットにコアが収容された状態とするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、円筒形の銅よりなるジャケットに円筒状に成形されたスズとビスマスの合金からなるコアが収容された状態とした後、鍛造により弾丸の形状を成型するようにしたので、鉛弾の代替えとして用いることが可能な鉛を含まない弾丸をより安価に提供できるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における弾丸の製造方法例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように、スズ(Sn)とビスマス(Bi)の合金から構成され、略円錐台状の形状に形成されたコア101を用意する。コア101は、例えば、全長28mm,長い方の直径が6.6mm,短い方の直径が6mmである。なお、コア101の径の小さい側(図1では下方)の端面は、球面の一部の形状とされている。例えば、図2の写真に示すような型を用いた鋳造により、コア101が形成可能である。
【0010】
次に、図1(b)に示すように、底部(一端)が閉じられた筒状(円筒形)の銅よりなるジャケット102の内部に、コア101が挿入された状態とする。ジャケット102は、例えば、全長31.7mm,外径7.8mm,内径7mmである。このとき、円錐台の径の小さい側がジャケット102の底側となるように、コア101が収容された状態とする。
【0011】
次に、図1(c)に示すように、コア101が収容されたジャケット102が、この底部から底部鍛造ダイス121の型となる凹部内に挿入された状態とし、ポンチ122により収容されているコア101を押し込む。この冷間鍛造により、図1(d)に示すように、弾丸の底部の形状が形成された状態とする。ここで、コア101の円錐台の径の小さい側がジャケット102の底側としてあるので、上記鍛造おいて、ジャケット102とコア101との間に隙間などが形成されることがなく、弾丸の底部の形状が形成可能となる。
【0012】
次に、図1(e)に示すように、頭部鍛造ダイス123の型となる孔部に、ジャケット102をこの開口部(他端)の側から挿入する。このとき、ジャケット102の底部の側に、ポンチ124の開口部を嵌合させる。次いで、ポンチ124を頭部鍛造ダイス123の側(方向)へ押圧し、ジャケット102及びこれに収容されているコア101を頭部鍛造ダイス123の型部に押しつける。この冷間鍛造により、図1(f)に示すように、頭部が絞り込まれた状態に、SnとBiの合金から構成された弾芯111と、弾芯101を被覆する金属被甲112とから構成された弾丸が製造された状態が得られる。弾丸は、例えば、全長34mm程度に成型される。
【0013】
このように製造することで、Sn−Bi合金より構成されて鉛を含まない弾丸が、所望とする形状に高い精度で作製(製造)できるようになる。また、複雑な製造工程を用いることがなく、タングステンなどの高価な材料を用いることがないので、鉛を含まない弾丸をより安価に製造することが可能となる。加えて、図1に示す製造方法による弾丸によれば、以下に説明するように、鉛弾の場合と同様の着弾特性を備えたものとなる。
【0014】
まず、Biの組成比を57%としたSn−Bi合金からなる弾芯111よりなる弾丸の、着弾時の衝撃の状態(着弾特性)について実験結果を示す。この衝撃試験では、ゼラチンのブロック中に弾丸を撃ち込むことで行われる。図3は、撃ち込まれた弾丸により破壊されたゼラチンの状態(ゼラチン破壊挙動)を示す写真である。なお、図3の紙面上方より弾丸が撃ち込まれている。図3(a)が、Biの組成比を57%としたSn−Bi合金からなる弾芯111よりなる弾丸によるゼラチン破壊挙動を示し、図3(b)が鉛弾によるゼラチン破壊挙動を示し、図3(c)が銅弾によるゼラチン破壊挙動を示している。図3に示すように、前述した製造方法によるSn−Bi合金の弾丸は、鉛弾と同様の挙動を示している。なお、Biの組成比が57%は、SnとBiとの共晶組成である。
【0015】
ところで、弾芯111(コア101)は、Biが50〜80%(重量比)とされた、SnとBiの合金から構成されていればよい。以下、Sn−Bi合金の特性調査結果について説明する。例えば、Sn−Bi合金は、図4に示すように、Biが30〜80%(重量比)の範囲であれば、曲げによる亀裂が入りにくい。また、Sn−Bi合金は、図5に示すように、Biの組成比が50%を超える領域において、硬さが20.0HVより小さくなる。また、Sn−Bi合金は、図6に示すように、Biの組成比が50%付近の伸び率が高い。
【0016】
前述したように、冷間鍛造により弾丸を形成しているので、Sn−Bi合金は、圧縮時に亀裂などが入りにくく、余り硬すぎず、また、よりのびやすい方がよい。一方、Sn−Bi合金は、Biの組成比が多いほど比重が大きくなる。弾丸としては、比重が大きい方がよいので、Biの組成比は、最大でも80%とすることが望ましい。Biの組成比が高々80%とされたSn−Bi合金であれば、亀裂の発生などが抑制された状態で、加圧形成により弾丸を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における弾丸の製造方法例を示す工程図である。
【図2】コア101を形成するために用いる型の一例を示す写真である。
【図3】撃ち込まれた弾丸により破壊されたゼラチンの状態(ゼラチン破壊挙動)を示す写真である。
【図4】Sn−Bi合金の特性調査(曲げ試験)の結果を示す写真である。
【図5】Sn−Bi合金の特性調査(硬度)の結果を示す特性図である。
【図6】Sn−Bi合金の特性調査(伸び率)の結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0018】
101…コア、102…ジャケット、111…弾芯、112…金属被甲、121…底部鍛造ダイス、122…ポンチ、123…頭部鍛造ダイス、124…ポンチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズとビスマスの合金からなる弾芯が銅よりなる金属被甲で被覆された弾丸を製造する弾丸の製造方法であって、
一端が閉じられて他端が開口した円筒形の銅よりなるジャケットに、円筒状に成形されたスズとビスマスの合金からなるコアが収容された状態とする第1工程と、
前記ジャケットに収容された前記コアを前記一端の方向に押圧して前記ジャケットの一端側を第1の型に押しつけ、前記弾丸の一端が成形された状態とする第2工程と、
成形された前記一端を前記他端の方向に押圧して前記ジャケットの前記他端の側を第2の型に押しつけ、前記弾丸の頭部が成形された状態とする第3工程と
を少なくとも備えることを特徴とする弾丸の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の弾丸の製造方法において、
前記コアは、円錐台状の形状に形成され、前記第1工程は、前記コアの径の小さい側が前記ジャケットの一端の側に配置されて、前記ジャケットに前記コアが収容された状態とする
ことを特徴とする弾丸の製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−278631(P2007−278631A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107254(P2006−107254)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(500463819)
【出願人】(599161926)株式会社フジワラ (7)