説明

弾力性靴下

【課題】弾力性靴下を着用していると、次第に圧迫感を強く感じると共に、ストレスを感じるようになり、長時間心地よく履いているということができない。
【課題手段】下肢に圧迫作用を与えることができる弾力性靴下1の少なくとも内面に、生理活性物質を内部に包含し、シェルによって包まれているマイクロカプセルを保持させる。生理活性物質にはウルソール酸やウルソール酸の誘導体などのテルペン類等を使用する。
この弾力性靴下1は、その圧迫作用によって静脈血をスムーズに還流させることができるようになる。そして、弾力性靴下が持つ高い圧迫圧と、弾力性靴下と皮膚の摩擦、弾力性靴下の繊維同士の摩擦作用が、マイクロカプセルに作用する。マイクロカプセルのシェルが徐々に壊れて、含有されているウルソール酸などの生理活性物質が放出され、これによってストレス感を軽減し、心地よく弾力性靴下を履き続けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足部に圧迫力を与えることができる弾力性靴下の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
長時間に亘って立ち仕事をしていると、血液の循環が悪くなって、重力のかかる下肢から静脈を通じて充分な還流が行われ難くなり、下肢が太く腫れ上がる現象が見られるようになる。
このような現象を予防するために、弾力性靴下を履くことにより、下肢を圧迫して静脈の還流を良好にしようとすることが行われている。(特許文献1)
こうした弾力性靴下は、下肢を外側から強く圧迫するように作られており、下肢のむくみ・だるさなどの軽減、下肢の静脈還流障害やリンパ浮腫等の疾患の予防又は治療、手術中・手術後の血流サポートを目的に使用されている。
【特許文献1】特許第3069369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この弾力性靴下は、足部、下腿、下肢等を継続して圧迫しておくものなので、時間の経過に従って、次第に圧迫感を強く感じさせると共に、それに伴ってストレスを感じさせるようになり、なかなか心地よく履いているということができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、圧迫作用を与えることができる弾力性靴下の少なくとも内面に、生理活性物質をシェルによって包んだマイクロカプセルを保持させるようにしたものである。このマイクロカプセルは、弾力性靴下を履いたときの加圧作用や摩擦作用によってそのシェルが壊れて、内部に包含されている生理活性物質が放出されるようになる。
この弾力性靴下の圧迫作用は、足首部から大腿部に向かって次第に減少するようにしたものや、部分的に圧迫圧の異なる領域を組み合わせるようにしたものである。また、この弾力性靴下は、少なくとも一部に圧迫圧が13hPa(10mmHg)以上の領域を持っている靴下である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、この弾力性靴下の圧迫作用によって、静脈血をスムーズに還流させることができるようになる。
そして、弾力性靴下が持つ高い圧迫圧と、弾力性靴下と皮膚の摩擦、弾力性靴下の繊維同士の摩擦作用に伴って、弾力性靴下に保持されているマイクロカプセルに作用し、マイクロカプセルのシェルに包まれている生理活性物質を放出するので、これによってストレス感を軽減するようになり、心地よく弾力性靴下を履き続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
弾力性靴下1は、伸縮性があって丈夫な糸、複合糸その他を使用した編物で構成されている。
この弾力性靴下は、長さが踝やふくらはぎまでのソックス、長さが膝下までのハイソックス、長さが膝上までのオーバーニーストッキング、長さが大腿部付根までのフルレングスストッキング、パンティと一体化したパンティストッキング、妊婦用のマタニティーパンティストッキングその他を総称するものである。
【0007】
この弾力性靴下1には、生理活性物質を包含するマイクロカプセルを保持させている。
このマイクロカプセルは、弾力性靴下の表裏全体に保持させるようにするのもよいが、少なくとも下肢に接する内面側に保持させるようにする。
【0008】
このマイクロカプセルに包含する生理活性物質は、弾力性靴下の着用者に作用するように用途に応じて種々のものが使用できるが、着用者に対するストレス軽減作用を有するものが有効に使用することができる。
こうしたストレス軽減作用を有するものとしてテルペン類を使用することができ、このテルペン類として、例えば、ウルソール酸,ウルソール酸誘導体,オレアノール酸などのトリテルペン、リナロールなどのモノテルペンアルコール、セドロールなどのセスキテルペンアルコールなどが挙げられる。その他に、イソフラボン,イソフラボン誘導体などのイソフラボノイドなどがある。
【0009】
上記ウルソール酸(Ursolic acid)やウルソール酸誘導体は、ローズマリー、カキ、サンザシ、オオバコなどに含まれている既知の物資でトリテルペノイド骨格を有するものであり、ウルソール酸は和光純薬工業株式会社から市販されている。
上記ウルソール酸の誘導体は、ウルソール酸のトリテルペノイド骨格の3位の炭素原子に結合する−OH基の水素原子が官能基で置換されたもの及び/又は28位の−COOH基の水素原子が官能基で置換されたものである。置換される官能基には、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子など種々のものがある。
【0010】
このウルソール酸やウルソール酸の誘導体が、実証的にストレスに対して有効に作用することは既に知られている。どのように作用するかについては、仮説的には、経皮的に吸収されるウルソール酸などが副交感神経を亢進し、外界からの負荷ストレスに対して体が過敏に反応することを予防し、負荷ストレスによる悪影響を予防、低減するのではないかと考えられている。
【0011】
こうしたウルソール酸やウルソール酸の誘導体その他の生理活性物質は、マイクロカプセルによって覆われており、マイクロカプセルに圧迫作用や摩擦作用が加わると、そのシェルが壊されて徐々に中の生理活性物質が放散されるようになる。
このマイクロカプセルのシェルは、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、尿素−ホルマリン系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂等によって作られるが、柔軟性や、弾力性靴下の繊維への付着性を持たせ、ホルムアルデヒド等の放出がないことから、ウレタン系樹脂を好ましく用いることができる。
【0012】
現在、弾力性靴下は、一般に、ナイロン糸、ポリウレタン糸、ポリウレタン糸をナイロン糸でカバリングした弾性糸を使用したもので作られており、このマイクロカプセルのシェルにウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂を使用しているものでは、弾力性靴下の繊維糸に対する親和性が高く、特にバインダーを使用しなくても弾力性靴下に保持させることができる。しかし、弾力性靴下の材料及びマイクロカプセルの種類によっては、適宜にバインダーを使用して弾力性靴下に保持させるとよい。
【0013】
このマイクロカプセルの粒子径は、約0.1〜50μm程度、好ましくは約1〜10μm程度の大きさにするとよい。このようなマイクロカプセルは、界面重合法、インサイチュ(In-Situ)法、コアセルベーション法などによって製造することができる。このマイクロカプセルの上記シェルは、加圧や摩擦作用が加わることによって潰れたり、壊れたりして、内包されている生理活性物質が放出され、上記作用の程度に従って促進される特性を持っている。
このマイクロカプセルを弾力性靴下へ保持させる加工を1〜10%o.w.f.(on weight of fiber)、好ましくは1〜5%o.w.f.で行う。
【0014】
この弾力性靴下に付与されているマイクロカプセルは、足首部の圧迫圧を19hPa(14mmHg)としたときに、10回装着使用後(1回は、継続して8時間装着して使用した状態を示す。)において、潰れ、崩壊、脱落したりせずに残っている足首部のマイクロカプセルの残存率が約75〜50%程度であり、好ましくは約70〜60%程度のものがよい。
【0015】
この弾力性靴下は、水中において下肢にかかる圧力の静水圧と同様に、足首部から大腿上部に向かって段階的に圧力が減少するように形成しており、足首部における圧迫圧を100としたときに、ふくらはぎ部80〜50、大腿中央部60〜20程度になるように形成すると、上記した静脈還流に効果的である。
【0016】
上記マイクロカプセルを保持させた弾力性靴下を履くと、その弾力性によって脚部に圧迫作用を加えることができ、静脈血の還流をスムーズに行うことができる。
着用時の弾力性靴下が持つ高い圧迫圧と、弾力性靴下と皮膚の摩擦、弾力性靴下の繊維同士の摩擦等により、弾力性靴下に保持されているマイクロカプセルに外力が作用し、マイクロカプセルのシェルを徐々に壊すようになり、中に包含されているウルソール酸やウルソール酸の誘導体その他の生理活性物質が放出され、経皮的に吸収されて弾力性靴下を着用していることに伴うストレス感を軽減するようになる。
上記マイクロカプセルに対する外力の作用は、弾力性靴下の強い圧力と経時的な足の動きにより加わる作用によって強くなるので、マイクロカプセルのシェルが壊される割合も次第に増すことになり、効果的にストレス感を軽減することができる。
【0017】
また、病院の看護師、食品を扱う店舗や工場の従業員など、香りの存在が業務の妨げになるような場合には、生理活性物質としてウルソール酸、ウルソール酸誘導体、リナロール、セドロールなどを使用すると、殆ど香りが感じられないので、治療、調理、食品などに影響を及ぼすことなく一層好適に用いることができる。さらに、嗜好差も無いので、上記に限らず広く用いることができる。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
ポリウレタン糸をナイロン糸でカバリングした弾性糸と、ナイロン糸とで編み立て後、編み目を均一にするためにプリセット、脂汚れや糸くずを除去するために精練を行って弾力性パンティストッキングを作製した。この弾力性パンティストッキングは、足首周囲19〜23cm、ふくらはぎ周囲32〜38cm、大腿周囲48〜55cmの人が履いた時に、足首部で27hPa(20mmHg)、ふくらはぎ部で19hPa(14mmHg)、大腿部で13hPa(10mmHg)の圧迫圧を示すように設計している。
次に、染色して、水洗を行い、同浴中でマイクロカプセル加工を行った。マイクロカプセルの加工は浸漬法を用い、ストッキング重量に対して、「ネオアージュUR」(商品名:日華化学株式会社製)を用いてウルソール酸含有マイクロカプセルを2%o.w.f.で加工した。加工は、浴比(生地と加工液の量的な割合)を1:15とし、40℃で10分処理して、加工済み弾力性パンティストッキングを得た。
【0019】
(実施例2)
足首周囲19〜23cm、ふくらはぎ周囲32〜38cm、大腿周囲48〜55cmの人が履いた時に、足首部で19hPa(14mmHg)、ふくらはぎ部で13hPa(10mmHg)、大腿部で9hPa(7mmHg)の圧迫圧を示すように設計した弾力性パンティストッキングを、実施例1と同様に編み立て後、同様の処理を行い、加工済み弾力性パンティストッキングを得た。
【0020】
(比較例)
足首周囲19〜23cm、ふくらはぎ周囲32〜38cm、大腿周囲48〜55cmの人が履いた時に、足首部で9hPa(7mmHg)、ふくらはぎ部で9hPa(7mmHg)、大腿部で9hPa(7mmHg)の圧迫圧を示すように設計した弾力性パンティストッキングを、ポリウレタン糸をナイロン糸でカバリングした弾性糸とナイロン糸とで編み立て後、実施例1と同様の処理を行い、加工済み弾力性パンティストッキングを得た。
【0021】
(マイクロカプセルの残存率の測定)
上記実施例及び比較例について、弾力性パンティストッキングのマイクロカプセルからのウルソール酸の放出状況を検証するために、マイクロカプセルの残存率の測定を行った。
測定は、上記実施例及び比較例の弾力性パンティストッキングを、足首19〜23cm、ふくらはぎ32〜38cm、大腿48〜55cmの女性会社員(20〜40代)10人に10回(1回当たり継続して約8時間の勤務時間中)装着して使用してもらい、その後で、潰れ、崩壊、脱落したりせずに残っている足首部のマイクロカプセルの残存率を顕微鏡(KEYENCE社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)を用い、750倍で観察した。装着前のマイクロカプセルの数量を100%とし、平均値を出した。
【0022】
(マイクロカプセルの残存率の測定結果)
上記実施例1のマイクロカプセルの残存率は、65%であった。
上記実施例2のマイクロカプセルの残存率は、70%であった。
上記比較例のマイクロカプセルの残存率は、95%であった。
上記両実施例では比較例に比べてマイクロカプセルが多く破壊されてウルソール酸が放出されており、実施例中でも圧迫力の高い実施例1のものが実施例2に比べてマイクロカプセルが多く破壊されてウルソール酸が多く放出されていることが判る。
【0023】
(装着使用試験)
実施例1、実施例2、比較例のそれぞれの弾力性パンティストッキング、及び同じ圧迫圧、バランスが得られる下記の表1に示す異なるサイズの同様の弾力性パンティストッキングを用意し、ストッキングの疲労軽減効果を確認するための試験を行った。
【表1】

【0024】
(装着使用試験の評価方法)
20〜40代の女性会社員50人に、上記L、M、Sの中から適合するサイズのパンティストッキングを選択してもらい、連続3日間それぞれのパンティストッキングを朝から夕方までの勤務中に(1日に約8時間)はいてもらって、脱いだ直後に下記の設問に対する回答を得た。回答は下記の5段階中から選んで貰った。
(設問1)パンティストッキングを使用しないときに比べて、足の疲労感をどのように感じましたか?
A:疲れた
B:やや疲れた
C:どちらでもない
D:やや楽になった
E:楽になった
(設問2)このパンティストッキングを履いて疲労軽減・むくみ防止に効果があると思いますか?
A:思わない
B:やや思わない
C:どちらでもない
D:やや思う
E:思う
【0025】
(装着使用試験の結果)
上記各設問に対して、下記表2、表3に示す回答結果が得られた。
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
(装着使用試験の評価)
(設問1)について、楽になったと答えた人(D、E)の割合は、実施例1:76%、実施例2:65%で、半数以上の人が効果を感じたが、比較例では10%であった。
(設問2)について、効果があると思った人(D、E)の割合は、実施例1:68%、実施例2:83%で、約7割以上の人が効果があると感じたが、比較例では12%であった。
この結果から、本発明の実施例では、充分な効果が得られていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 弾力性靴下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足首部から大腿部側に向かって次第に減少する圧迫作用又は部分的に異なる圧迫作用を有する弾力性靴下の少なくとも内面に、生理活性物質をシェルによって内部に包含したマイクロカプセルを保持させた弾力性靴下。
【請求項2】
上記弾力性靴下に保持させたマイクロカプセルは、弾力性靴下の足首部の圧迫圧を19hPa(14mmHg)としたときに、この弾力性靴下を10回装着使用した後での足首部におけるマイクロカプセルの残存率が75〜50%である請求項1記載の弾力性靴下。
【請求項3】
上記弾力性靴下に保持させたマイクロカプセルに内包されている生理活性物質がテルペン類である請求項1または2記載の弾力性靴下。
【請求項4】
上記弾力性靴下に保持させたマイクロカプセルに内包されている生理活性物質のテルペン類がウルソール酸及び/またはウルソール酸誘導体である請求項3記載の弾力性靴下。
【請求項5】
上記弾力性靴下の領域の一部が少なくとも13hPa(10mmHg)以上の圧迫圧を有している請求項1〜4のいずれかに記載の弾力性靴下。
【請求項6】
上記弾力性靴下の圧迫圧の比率が足首部とふくらはぎ部で、100:80〜50である請求項1〜5のいずれかに記載の弾力性靴下。

【図1】
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