説明

弾性リングの嵌着装置

【課題】個々の弾性リングをばらつきなく同じ状態で確実に嵌着することができる弾性リングの嵌着装置を提供する。
【解決手段】ジョイント1の外周面に形成された環状溝2にOリング3を嵌着させる弾性リングの嵌着装置であって、上記環状溝2の中心が軸心に合うようにジョイント1を押圧することにより軸心方向にスライドするカムロッド6と、上記カムロッド6のスライドに伴って軸心に対してラジアル方向に開くことによりOリング3を拡径させる爪部材7と、上記カムロッド6のさらなるスライドに伴って上記拡径されたOリング3を爪部材7から外すことにより、ジョイント1の環状溝2にOリング3を嵌着させる嵌着部材8とを備えたことにより、カムロッド6のスライドに伴って、そのつど一定量だけOリング3を拡径して確実に環状溝2に嵌着することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ホースのジョイント等のワークの外周面に形成された環状溝に弾性リングを嵌着させるための弾性リングの嵌着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ホースやえきたいホースのジョイントは、外周面に形成された環状溝に弾性リング(Oリング)が嵌着されて使用されている。このようなジョイントへの弾性リングの取付けは、1つずつ手で嵌めることが行なわれているが、弾性リングが部分的に捩れてきちんと取り付けられなかったり、個々に拡げ方にばらつきが生じてゴムの劣化度合いがばらついたりする問題がある。そこで、弾性リングを自動的に取り付ける装置として下記の特許文献1および2に示すものが開示されている。
【特許文献1】実開平6−17880号公報
【特許文献2】特開平8−309624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の装置は、弾性リングを拡径した状態で多数ストックしておき、先細りの作用口端の斜面に弾性リングを滑らせながら嵌着するものである。この装置では、弾性リングを拡径した状態でストックしなければならないことから、拡径した状態での放置時間が個々の弾性リング間でばらついてしまうという問題がある。また、作用口端の斜面に弾性リングを滑らせながら嵌着することから、この段階で弾性リングが捩れてしまうおそれがある。このように、上記装置では、従来の問題点の根本的な解決には至っていないのが実情である。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、個々の弾性リングをばらつきなく同じ状態で確実に嵌着することができる弾性リングの嵌着装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の弾性リングの嵌着装置は、ワークの外周面に形成された環状溝に弾性リングを嵌着させる弾性リングの嵌着装置であって、
上記環状溝の中心が軸心に合うようにワークを押圧することにより軸心方向にスライドするカムロッドと、
上記カムロッドのスライドに伴って軸心に対してラジアル方向に開くことにより弾性リングを拡径させる爪部材と、
上記カムロッドのさらなるスライドに伴って上記拡径された弾性リングを爪部材から外すことにより、ワークの環状溝に弾性リングを嵌着させる嵌着部材とを備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
すなわち、本発明の弾性リングの嵌着装置は、上記環状溝の中心が軸心に合うようにワークをカムロッドに対して押圧することによりカムロッドを軸心方向にスライドさせ、上記カムロッドのスライドに伴って爪部材が軸心に対してラジアル方向に開くことにより弾性リングが拡径され、上記カムロッドのさらなるスライドに伴って上記拡径された弾性リングが嵌着部材によって爪部材から外されて、ワークの環状溝に弾性リングが嵌着する。このように、カムロッドのスライドに伴って、そのつど一定量だけ弾性リングを拡径して確実に環状溝に嵌着することができる。このため、従来のように、弾性リングが捩れたりめくれたりすることを防止して確実に正常に挿着できる。また、拡げ方に個々にばらつきが生じたり長時間広げた状態で放置したりすることによる弾性材料の劣化を防止する。さらに、作業は、弾性リングを爪部材に引っ掛けて、ワークをカムロッドに押圧してスライドさせるだけでよいため、誰でも簡単に挿着作業を行なえるし、自動化も容易である。
【0007】
本発明において、上記カムロッドには、カムロッドの第1段階のスライドにより、爪部材を拡径させるためのカム作用をする第1カム部が設けられている場合には、カムロッドを第1段階スライドさせるだけで確実に一定量だけ弾性リングを拡径することができる。
【0008】
本発明において、上記カムロッドは、カムロッドの第2段階のスライドにより、弾性リングを爪部材から外すために爪部材の移動規制を解除するためのカム作用をする第2カム部が設けられている場合には、カムロッドを第1段階スライドに引き続いて第2段階スライドさせるだけで、一定量だけ拡径した弾性リングを確実に環状溝に嵌着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0010】
図1〜図3は、本発明の弾性リングの嵌着装置の一実施の形態を示す。図1は全体の外観を示す斜視図、図2はA−A位置およびB−B位置の断面図、図3は平面図である。なお、図2に示すA−A位置断面は後述するカムロッド6が最も上方に位置した状態、図2に示すB−B位置断面は上記カムロッド6が最も下方に位置した状態である。
【0011】
この例は、ワークとして油圧ホースや液体ホースのジョイント1を対象とし、上記ジョイント1の外周面に形成された環状溝2に弾性リングであるOリング3を嵌着させる弾性リングの嵌着装置である。
【0012】
この装置は、円筒状の外側ケース4の天井面中央に、平面視略十字状の開口5が形成され、上記開口5の中心部からカムロッド6の先端部分が上方に突出している。上記カムロッド6の周囲には、上記十字状の開口5における4つの放射状の切欠部に対応するよう4つの爪部材7が配置され、天井面の上に露出している。さらに、上記外側ケース4の天井面には、各爪部材7の間、すなわち上記開口5における4つの放射状の切欠部の間に、爪部材7に引っ掛けられたOリング3を外す嵌着部材8が突出形成されている。
【0013】
より詳しく説明すると、上記カムロッド6は、円筒状の外側ケース4内においてその軸心に沿うように配置されている。上記カムロッド6は、外側ケース4の上部の開口5から突出した突出部9の先端部に対してワークであるジョイント1をかぶせ、ジョイント1の環状溝2の中心が軸心に合うようにジョイント1を冠合させて下向きに押圧することにより、軸心方向にスライドするように構成されている。
【0014】
上記カムロッド6には、上記突出部9より下側に第1カム部11が形成され、さらにその下側に第2カム部12が形成されている。
【0015】
上記第1カム部11の周囲には、上記爪部材7が形成された開閉ブロック10が4つ配置されている。上記4つの開閉ブロック10は、カムロッド6を中心にして開口5の十字状に沿う十字状に配置されている。上記4つの開閉ブロック10には、それぞれ第1カム部11に摺接する第1カム13が設けられている。
【0016】
図4および図5に示すように、上記カムロッド6が上下スライドすることにより、第1カム部11と第1カム13の作用で、4つの開閉ブロック10がカムロッド6の軸心に対してラジアル方向に開閉動作をするように構成され、上記4つの爪部材7は、上記カムロッド6の上下スライドに伴って軸心に対してラジアル方向に開閉するようになっている。
【0017】
そして、図5(B)に示すように、上記爪部材7にOリング3を引っ掛けてリング台座25に着座させた状態で、カムロッド6の突出部9にジョイント1をかぶせて下向きに押圧することによりカムロッド6が下方にスライドし、図5(C)に示すように、上記爪部材7がカムロッド6のスライドに伴って軸心に対してラジアル方向に開いてOリング3を拡径させるように構成されている。このように、上記カムロッド6には、カムロッド6の押し下げによる第1段階スライドにより、爪部材7を拡径させるためのカム作用をする第1カム部11が設けられている。
【0018】
図5(C)に示す拡径位置において、拡径されたOリング3は、外側ケース4の天井部上面に突出形成された嵌着部材8の上を通過するようになっている。
【0019】
上記4つの開閉ブロック10は、外側ケース4内に上下移動可能に配置された浮きブロック14上に開閉スライド可能に配置されている。上記4つの開閉ブロック10は、浮きブロック14の上面に十字状に形成された溝にスライド可能に嵌入され、付勢部材15により内向き付勢されている。これにより、第1カム13を第1カム部11に対して押し付け付勢している。
【0020】
一方、上記浮きブロック14は、中心部にカムロッド6がスライド嵌入される貫通穴16が形成され、上記カムロッド6が浮きブロック14に対して上下スライドするとともに、浮きブロック14自体も外側ケース4に対して上下移動可能となるよう収容されている。上記浮きブロック14は、付勢部材17で上向き付勢されることにより、外側ケース4内において浮いた状態で上下移動可能となっている。
【0021】
上記浮きブロック14には、上記第2カム部12に摺接して横方向にスライドする第2カム18が設けられている。上記第2カム18は、浮きブロック14に形成された横穴19内に鋼球20が収容されて構成されている。上記鋼球20には、付勢部材21によって内向き付勢されたロックピン22が当接されている。上記ロックピン22は、外側ケース4に取り付けられたロックプレート23に穿設されたロック穴24に挿通されるようになっている。
【0022】
これにより、カムロッド6が最も上方に位置する初期位置では、第2カム18によりロックピン22が外向きに移動してロック穴24に挿通されている。この状態では、ロックピン22がロック穴24に挿通されていることにより、浮きブロック14の上下移動が規制される。このように、上記ロックピン22、ロック穴24、第2カム18等によってロック機構が構成されている。
【0023】
この初期位置において、上記4つの爪部材7は、外側ケース4の天井部の開口5から露出し、天井部に突設された嵌着部材8上面よりもリング台座25が上側に位置するようになっている。そして、図4および図5に示した開閉ブロック10および爪部材7の開閉動作は、ロック機構により浮きブロック14の上下移動が規制された状態で行なわれる。
【0024】
図6に示すように、上記カムロッド6を上から押し下げ、開閉ブロック10を広げてOリング3を拡径させる拡径位置(図4および図5(C)参照)から、さらにカムロッド6を押し下げると第2カム部12と第2カム18の作用で、ロックピン22が付勢部材21の付勢力により内向きにスライドしてロック穴24から外れる。ロックピン22がロック穴24から外れると、浮きブロック14が移動可能な状態になる。
【0025】
一方、上記カムロッド6には、下端部近傍に固定されてカムロッド6と平行になるよう配置された押し下げロッド26が取り付けられており、上記押し下げロッド26の上部先端側は、浮きブロック14に形成された収容路27内に収容されている。上記押し下げロッド26は、先端頭部30が付勢部材28で浮きブロック14に対して上向き付勢されるとともに、カムロッド6が押し下げられたときにそれと連動して押し下げられ、先端頭部30が押し下げ筒29に接触して浮きブロック14自体を外側ケース4内で下向きに押し下げるようになっている。
【0026】
そして、カムロッド6の押し下げにより上記ロックピン22がロック解除されると同時に、押し下げロッド26の先端頭部30が付勢部材28の付勢力に抗して押し下げ筒29の上端に接触し、外側ケース4内での浮きブロック14の押し下げが開始されるようになっている。このように、上記カムロッド6は、カムロッド6の押し下げによる第2段階スライドにより、Oリング3を爪部材7から外すために爪部材7の上下移動を規制するロック機構を解除するためのカム作用をする第2カム部12が設けられている。
【0027】
以後、さらにカムロッド6を押し下げると、付勢部材17の付勢力に抗して浮きブロック14が外側ケース4内で押し下げられる。これに伴い、開閉ブロック10も押し下げられて、爪部材7は、Oリング3を引っ掛けた状態でそのまま下に下がり、開口5内に入ろうとする。このとき、Oリング3が着座したリング台座25の上面が、嵌着部材8の上面よりも下がるときに、嵌着部材8の上面がOリング3を押し上げるようなかっこうでOリング3が爪部材7から外される。
【0028】
そして、図7に示すように、上記カムロッド6のさらなるスライドに伴って上記拡径されたOリング3を嵌着部材で爪部材7から外すことにより、ワークであるジョイント1の環状溝2にOリング3を嵌着させるようになっている。
【0029】
上記装置では、Oリング3を爪部材7に引っ掛けて、ワークであるジョイント1をカムロッド6の先端にかぶせて押し下げる動作だけでOリング3をジョイント1の環状溝2に嵌着することができる。
【0030】
まず、嵌着部材8上面よりもリング台座25が上側に位置した初期位置において、爪部材7にOリング3を引っ掛ける(図4(A)、図5(B))。ついで、ジョイント1の開口をカムロッド6の先端部に位置決めして流路内に先端部を挿通させるようにしてかぶせる。
【0031】
ついで、その状態からジョイント1を押し下げてカムロッド6の押し下げを開始する。このとき、第1段階の押し下げでは、浮きブロック14はロック機構によって上下移動が規制されており、カムロッド6は付勢部材28の付勢力に抗して浮きブロック14に対して下向きスライドする。このとき、開閉ブロック10は同じ高さ位置を維持しながら外向けにスライドして開き、爪部材7が開いてOリング3が拡径される(図4(B)、図5(C))。
【0032】
つぎに、そこからさらにジョイント1を押し下げ、第2段階の押し下げで、ロック機構のロックが解除するとともに、浮きブロック14の押し下げが開始され(図6)、爪部材7の位置が下降を開始する。そして、ジョイント1の環状溝2が嵌着部材8上面の高さを通過するときに、嵌着部材8によって爪部材7からOリング3が外され、環状溝2にOリング3が嵌着される(図7)。カムロッド6の下降は、その下端部がストッパ31に当接することにより停止する。
【0033】
環状溝2へのOリング3の嵌着が終了すると、ジョイント1の押し下げを停止し、ジョイント1をカムロッド6から外す。そうすると、付勢部材17の付勢力で浮きブロック14が上昇し、初期の高さまで復元したときに付勢部材21の付勢力でロックピン22がロック穴24に嵌合してロック機構が働く。さらに、付勢部材28の付勢力でカムロッド6がさらに上昇して初期位置まで戻り、付勢部材15の付勢力により開閉ブロック10が元の位置に閉じて初期状態に復元する。
【0034】
以上のように、本実施形態の弾性リングの嵌着装置は、カムロッド6のスライドに伴って、そのつど一定量だけOリング3を拡径して確実に環状溝2に嵌着することができる。このため、従来のように、Oリング3が捩れたりめくれたりすることを防止して確実に正常に挿着できる。また、拡げ方に個々にばらつきが生じたり長時間広げた状態で放置したりすることによる弾性材料の劣化を防止する。さらに、作業は、Oリング3を爪部材7に引っ掛けて、ジョイント1をカムロッド6に押圧してスライドさせるだけでよいため、誰でも簡単に挿着作業を行なえるし、自動化も容易である。
【0035】
上記実施形態において、カムロッド6の第1カム部11の深さ寸法を変更することにより、爪部材7を広げる距離すなわちOリング3を拡径する寸法を調節することができる。また、Oリング3の内径を変更するときは、爪部材7の外形を変更すればよい。また、ジョイント1の流路深さや環状溝2と端面との距離が異なる場合には、カムロッド6の突出部9の突出寸法を変更すればよい。したがって、異なる規格寸法のジョイント1に異なる内径のOリング3を嵌着する場合等には、開閉ブロック10およびカムロッド6を変更することにより対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の弾性リングの嵌着装置の外観を示す斜視図である。
【図2】上記弾性リングの嵌着装置を示す断面図である。
【図3】上記弾性リングの嵌着装置を示す平面図である。
【図4】上記弾性リングの嵌着装置の動作状態を説明する断面図である。
【図5】上記弾性リングの嵌着装置の動作状態を説明する断面図である。
【図6】上記弾性リングの嵌着装置の動作状態を説明する平面図である。
【図7】上記弾性リングの嵌着装置の動作状態を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1:ジョイント
2:環状溝
3:Oリング
4:外側ケース
5:開口
6:カムロッド
7:爪部材
8:嵌着部材
9:突出部
10:開閉ブロック
11:第1カム部
12:第2カム部
13:第1カム
14:浮きブロック
15:付勢部材
16:貫通穴
17:付勢部材
18:第2カム
19:横穴
20:鋼球
21:付勢部材
22:ロックピン
23:ロックプレート
24:ロック穴
25:リング台座
26:押し下げロッド
27:収容路
28:付勢部材
29:押し下げ筒
30:先端頭部
31:ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの外周面に形成された環状溝に弾性リングを嵌着させる弾性リングの嵌着装置であって、
上記環状溝の中心が軸心に合うようにワークを押圧することにより軸心方向にスライドするカムロッドと、
上記カムロッドのスライドに伴って軸心に対してラジアル方向に開くことにより弾性リングを拡径させる爪部材と、
上記カムロッドのさらなるスライドに伴って上記拡径された弾性リングを爪部材から外すことにより、ワークの環状溝に弾性リングを嵌着させる嵌着部材とを備えたことを特徴とする弾性リングの嵌着装置。
【請求項2】
上記カムロッドには、カムロッドの第1段階のスライドにより、爪部材を拡径させるためのカム作用をする第1カム部が設けられている請求項1記載の弾性リングの嵌着装置。
【請求項3】
上記カムロッドは、カムロッドの第2段階のスライドにより、弾性リングを爪部材から外すために爪部材の移動規制を解除するためのカム作用をする第2カム部が設けられている請求項1または2記載の弾性リングの嵌着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46727(P2010−46727A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210812(P2008−210812)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(508251449)株式会社淀川金属 (1)
【Fターム(参考)】