説明

弾性表面波霧化装置

【課題】基板上に供給された液体の動きを制御することが可能な弾性表面波霧化装置を提供する。
【解決手段】弾性表面波を生成する基板部12を備え、基板部12に供給される液体13を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置1であって、基板部表面には、基板部12の素地とは親水性の程度が異なる領域30aが形成されており、親水性の程度が異なる領域30aでは、親水性の程度が弾性表面波の伝搬方向xに沿って変化している構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波を用いた霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波は、通常、圧電材料などからなる基板上に設けた交差指電極(Interdigital Transducer:IDT)に高周波電圧が印加されることによって、その基板表面に生成される。弾性表面波が伝搬している基板の表面に液体を供給すると、液体は弾性表面波のエネルギを受け取って振動しつつ流動し微小粒子となって飛翔する。従来、この現象により液体を霧化する弾性表面波霧化装置が知られている。
【0003】
弾性表面波霧化装置において、安定した霧化を効率的に行うには、液体供給量と噴霧量とのバランスを良好に保つと共に、液体を基板上に薄く延ばすことが必要である。
【0004】
しかしながら、基板上の液体が広がる範囲を限定することは困難である。基板上の液体が広がる範囲を限定できないと、例えば、液体が交差指電極に達し、交差指電極に腐食や短絡、断線などの損傷が生じる。そこで、交差指電極に液体が付着しないように、交差指電極が形成された基板表面と弾性表面波が伝搬する基板表面との間を疎水処理した霧化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−114467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の霧化装置は、交差指電極の方向に移動してきた液体が電極に付着することを防止できるものの、交差指電極の方向に移動しないように液体そのものの動きを制御することは困難である。また、弾性表面波は液体に対して弾性表面波の伝搬方向に移動させるような力を及ぼす性質がある。この力により液体は弾性表面波の伝搬方向に移動してしまい、例えば、基板外に液体が漏れ、液体を損失すると共に落下した液体で装置周辺が汚損するというおそれがある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、基板上に供給された液体の動きを制御することが可能な弾性表面波霧化装置を提供することを目的とする。ひいては、液体が電極に付着したり基板外に漏れたりすることを防ぐことが可能な弾性表面波霧化装置を提供することを目的とする。また、基板上に供給した液体を薄く延ばすことができ、弾性表面波によって液体の広がりを促進して効率的に霧化することが可能な弾性表面波霧化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、弾性表面波を生成する基板部を備え、基板部に供給される液体を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置であって、基板部表面には、基板部の素地とは親水性の程度が異なる領域が形成されており、親水性の程度が異なる領域では、親水性の程度が弾性表面波の伝搬方向に沿って変化している構成とする。
【0009】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、親水性の程度が異なる領域は、基板部の素地とは親水性の程度が異なる複数の領域構成部により構成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の弾性表面波霧化装置において、領域構成部をパターニングにより形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾性表面波霧化装置は、基板部表面には、基板部とは親水性の程度が異なる領域が形成されており、親水性の程度が異なる領域では、親水性の程度が弾性表面波の伝搬方向に沿って変化している構成とすることで、弾性表面波による力を相殺するような力を液体に働かせることができるため液体の移動を防止することができる。また、液体を基板部に広がりやすくすることができるため液体を基板部に薄く延ばすことができる。
【0012】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、親水性の程度が異なる領域は、基板部の素地とは親水性の程度が異なる複数の領域構成部により構成されていることで、例えば、基板部に対する複数の領域構成部の存在割合を変化させることができるため親水性の異なる領域内の親水性の程度を簡便に変化させることができる。
【0013】
また、本発明の弾性表面波霧化装置は、領域構成部をパターニングにより形成することで、基板部に精度よく親水性の程度が異なる領域を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図2】接触角を説明するための対象物上の液滴の断面形状図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る他の例の弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波霧化装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波霧化装置を、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0017】
弾性表面波霧化装置1は、基板部12を備える。基板部12は、高周波電圧の印加によって弾性表面波を励振する交差指電極11を有する。そして、図示しない液体供給部によって基板部12表面に供給される液体13を基板部12表面に生成される弾性表面波によって霧化する。以下、各構成を詳細に説明する。
【0018】
交差指電極11は、それぞれ互いに異なる電極に属している櫛形電極11a、11bから構成されている。櫛形電極11a、11bの歯のそれぞれのピッチは励振する弾性表面波の波長の大きさに等しく、櫛形電極11a、11bを互いに噛み合わせて配置されている。
【0019】
交差指電極11が高周波電圧印加用の電源14から高周波(例えば、MHz帯)電圧を印加されることにより、交差指電極11によって電気的エネルギが波の機械的エネルギに変換されて、基板部12の表面にレイリー波と呼ばれる弾性表面波が励振される。励振された弾性表面波の振幅は、交差指電極11に印加する電圧の大きさで決まる。また、励振された弾性表面波の波束の長さは、電圧の印加時間の長さに対応する。
【0020】
交差指電極11によって励振された弾性表面波は櫛形電極11a、11bの歯に垂直な方向(方向x)に伝搬する。弾性表面波は、基板部12の表面に存在する液体13に対して、弾性表面波の伝搬方向に移動させるような力を及ぼす性質がある。
【0021】
基板部12は、例えば、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)のような圧電体からなる基板であり、平面視が長方形の板状である。また、基板部12は、基板部12の長手方向の一端側(図1の左方側)に交差指電極11を備えている。
【0022】
基板部12には、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30aが形成されている。親水性の大きな領域30aは、基板部12表面の周辺を残し中程に形成されている。
【0023】
そして、基板部12の素地よりも親水性の大きな複数の領域構成部21aにより領域30aは構成されている。このため、基板部12の素地よりも親水性の大きな領域構成部21aと基板部12そのもので基板部12と親水性の程度が同じである基板領域部が存在することになる。
【0024】
一般に親水性の程度は、対象物51の接触角θを測定することにより求めることができる。接触角θとは図2で示すように、対象物51に液体を滴下したときの、液滴52の対象物51表面との接線53と対象物51とのなす角度をいう。図2(a)のように接触角θが小さいほど親水性の程度は大きくなり、図2(b)のように接触角θが大きいほど親水性の程度は小さくなる。また、一般に接触角θは、液体と対象物の馴染みやすさの指標として用いられる。接触角θが小さいときは液体と対象物は馴染みやすいといえ、接触角θが大きいときは液体と対象物は馴染みにくいといえる。
【0025】
また、基板部12には、基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて、弾性表面波の伝搬方向に沿って基板部12に対しての領域構成部21aの存在割合が傾斜的に変化している。傾斜的に変化するとは、徐々に変化することをいい、例えば、基板部12の長手方向距離に対して比例的に変化する場合や階段状に変化する場合のことをいう。
【0026】
図1における領域構成部21aは、光官能層の成膜、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、剥離、洗浄の工程を経て、パターニングにより形成されている。パターニングにより形成されたひとつひとつの領域構成部21aは、形状が円状で大きさが略同等である。これらを基板部12に対して疎密を変化させ配置することで、基板部12に対しての領域構成部21aの存在割合を変化させている。
【0027】
図1では、領域構成部21aは、交差指電極11から遠くなるにつれ基板部12に対して疎に配置されている。これにより基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて基板部12に対しての領域構成部21aの存在割合が傾斜的に小さくなっている。その結果、親水性の程度は、交差指電極11から近いところでは大きく、交差指電極11から遠くなるにつれて小さくなっている。
【0028】
液体供給部は、例えば、液体容器などのような液体供給手段を構成したものや、フェルト、紙、多孔質材料などからなる液体を含浸することができるものなどから構成される。このような液体供給部から基板部12に液体13が供給される。
【0029】
基板部12に形成された領域30aに液体13(例えば、水のような親水性の大きな液体)が供給されると、基板部12では交差指電極11に近づくにつれて親水性の程度が傾斜的に大きくなっているため、交差指電極11に向かって移動させるような力を液体13に対して働かせることができる。このため、供給された液体13が弾性表面波から伝搬方向に力を受けたときでも、弾性表面波による力を相殺するような力を液体13に働かせることができるため、液体13の移動を防止することができる。よって、液体13が基板外に漏れることを防ぐことができる。
【0030】
液体13の移動を防止するために、弾性表面波の伝搬方向とは逆の方向に液体13が移動するように領域30aを形成することが好ましい。つまり、基板部12において交差指電極11が形成されていない他端側から形成されている一端側に向かって、液体13に対して馴染みがよくなるような領域30aを形成することが好ましい。
【0031】
また、基板部12に領域30aが形成されていることで、領域30aに供給された液体13は、基板部12に広がりやすくなる。親水性の程度が大きな領域30aは基板部12の素地よりも親水性の程度が大きいため、基板部12に親水性の程度が大きな領域30aが形成されていないときと比べ、親水性の程度が大きい領域30aに供給された液体13に働く表面張力は小さくなる。このため、液体13は基板部12に広がりやすくなり液体13を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0032】
このように、液体13が基板部12に薄く延びると、液体13表面から基板部12までの距離が短くなる。このため、弾性表面波が液体13表面に作用しやすくなり、液体13全体に弾性表面波が作用しやすくなる。このため、液体13を効率的に霧化することができる。
【0033】
なお、領域30aは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体13の広がる範囲を限定することができる。このため、交差指電極への液体13の移動を防止できる。また、供給された液体13が基板外に漏れることを防ぐことができ、供給した液体13を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0034】
複数の領域構成部21aの配置方法を変更させることで、基板部12に対する存在割合を簡便に変化させることができる。領域構成部21aは、図1のように交差指電極11側から他端側に向かうにつれて領域構成部21aの基板部12に対する存在割合を小さくなるように形成するだけではなく、例えば、図3のように領域構成部21aの基板部12に対する存在割合を基板部12の中央を大きくし両側に向かうにつれて小さくするように形成していてもよい。
【0035】
また、親水性の程度が異なる領域をパターニングにより形成することで、基板部12に精度よく親水性の程度が異なる領域を形成することができる。特に、簡便に基板部12に対しての親水性の程度の異なる領域の存在割合を変化させることができるため好ましい。
【0036】
図1および図3では、領域構成部21aはそれぞれ形状が円で大きさが略同等のものを示したが、これに限られることなく、例えば、格子形状やひし形や三角形などのその他の形状であってもよいし、異なる大きさの領域構成部21aを設けてもよい。
【0037】
(第2の実施形態)
以下に述べる各実施形態は、上述した第1の実施形態と同様の構成については同一符号を付して詳しい説明を省略し、相違する構成について詳述する。
【0038】
図4は第2の実施形態に係る弾性表面波霧化装置1を示す。
【0039】
弾性表面波霧化装置1の基板部12に形成された基板部12の素地よりも親水性の大きな領域30bでは、基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて親水性の程度が傾斜的に徐々に小さくなっている。領域30bは、蒸着材料であるアルミニウムとフッ素樹脂を真空蒸着する際に、それぞれの蒸着方向と蒸着時間を制御することにより形成されている。
【0040】
基板部12に形成された領域30bに液体(例えば、水のような親水性の大きな液体)が供給されると、領域30bでは、基板部12の長手方向の交差指電極11が形成されている側から他端側に向けて親水性の程度が小さくなっているため、交差指電極11に向かって移動させるような力を液体に対して働かせることができる。このため、供給された液体が弾性表面波から伝搬方向に力を受けたときでも、弾性表面波による力を相殺するような力を液体に働かせることができるため、液体の移動を防止することができる。よって、液体が基板外に漏れることを防ぐことができる。
【0041】
また、基板部12に形成された領域30bに供給された液体は、基板部12に領域30bが形成されていることで、基板部12に広がりやすくなる。このため、液体を基板部12に薄く延ばすことができる。
【0042】
なお、領域30bは、基板部12表面において周辺を残し中程に形成されていることで、基板部12に広がりやすくなった液体の広がる範囲を限定することができる。このため、交差指電極への液体の移動を防止できる。また、供給された液体が基板外に漏れることを防ぐことができ、供給した液体を損失することなく効率的に霧化することができる。
【0043】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、基板部12の素地よりも親水性の程度が異なる領域構成部をアルミニウムなどで形成したが、例えば、その他の金、白金などのような金属からなる薄膜や、ポリエチレングリコールのような有機物からなる薄膜などで形成することもできる。また、基板部12を脱酸素処理することや、基板部12に金属イオンを注入することによりも形成することができる。
【0044】
また、上記各実施形態では、基板部12の素地よりも親水性の程度が異なる領域30として親水性の大きな領域を基板部12に形成したが、これに限られず、親水性の小さな領域を形成することも可能である。基板部12の素地よりも親水性の小さな領域を形成することによって、霧化対象である液体が、例えば、トルエンやヘキサンなどの有機溶剤を含むときなどに、本実施形態にて述べた効果を得ることができる。つまり、基板部12と親水性の程度が異なる領域30は、供給する液体に対して馴染みのよい領域であればよい。
【0045】
また、上記各実施形態では、基板部12はLiNbO3(ニオブ酸リチウム)のような圧電体からなる基板であったが、これに限られることなく、非圧電基板の表面に圧電薄膜、例えば、PZT薄膜(鉛、ジルコニウム、チタン合金薄膜)を形成したものでもよい。このとき、非圧電基板の表面に形成された圧電体薄膜の表面部分において、弾性表面波が励振される。従って、基板部12は、弾性表面波が励振される圧電体部分を表面に備えた基板であればよい。
【0046】
以上、各実施形態を説明したが、本発明は、上記構成に限られることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 弾性表面波霧化装置
11 交差指電極
12 基板部
13 液体
14 電源
30 親水性の程度が異なる領域
51 対象物
52 液滴
53 接線
x 弾性表面波の伝搬方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を生成する基板部を備え、
前記基板部に供給される液体を弾性表面波によって霧化する弾性表面波霧化装置であって、
前記基板部表面には、前記基板部の素地とは親水性の程度が異なる領域が形成されており、
前記親水性の程度が異なる領域では、親水性の程度が前記弾性表面波の伝搬方向に沿って変化していることを特徴とする弾性表面波霧化装置。
【請求項2】
前記領域は、前記基板部の素地とは親水性の程度が異なる複数の領域構成部により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波霧化装置。
【請求項3】
前記領域構成部をパターニングにより形成することを特徴とする請求項1乃至請求項2いずれかに記載の弾性表面波霧化装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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