説明

形状凍結性に優れたプレス金型

【課題】プレス成形部品における形状凍結不良を防止するプレス成形金型を提供する。
【解決手段】ポンチの長手方向とストローク方向にポンチを分割し、ストローク方向の分割個所に弾性体を配置することで、ポンチに段差を設け、成形下死点においてポンチの高さは一定となるプレス金型。また、配置した弾性体の耐荷重をそれぞれ変えることで、スプリングバック低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属板のプレス成形装置に関するものであって、特に高強度鋼板やアルミニウム合金板などの場合に生ずるスプリングバックを防止して良好な形状凍結性を確保するためのプレス金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品に高強度鋼板やアルミニウム合金板が多用されつつあるが、それらを自動車部品に成形する際に発生する形状凍結不良が問題になっている。すなわち、ハット型断面形状の部品をU字型の曲げ加工用金型を用いて成形する場合には、スプリングバックと呼ばれる形状凍結不良が発生し、寸法精度が得られないことが問題となっている。
また、この形状凍結不良は、最終製品の外観品質を著しく損なうばかりでなく、成形後に行われる組立作業において溶接不良の原因となるため、特にメンバーやフレームなどの構造部品では形状凍結不良の防止が重要視されている。
【0003】
曲げ加工で頻繁に観察される形状不良として知られているスプリングバックは、曲げ加工時に金型板に生じた残留応力が除荷時に弾性回復変形するために生ずる現象で、成形下死点での残留応力が板厚方向に不均一に分布することが原因である。一般に、プレス加工により曲げ成形した際に、型から開放すると金属板のスプリングバックにより、パンチの肩部に開きを生じる。
この問題を解決するため、特許文献1には、曲げ肩部に成形方向とは逆方向に凹む凹状段部を同時に成形するプレス成形方法及び成形品が開示されている。これはスプリングバックに対抗する逆モーメントを発生させて釣り合わせ、ポンチ肩付近の角度の開きを防止するものである。
【0004】
しかし、図1に示すように、スプリングバックは肩部1の角度変化だけではなく、材料強度が高くなると、壁部2が平面から曲率を持つ曲面に変形する「壁反り」といわれる現象も顕在化し、特許文献1に開示された発明では壁部の反りを防止することはできない。
【0005】
また、自動車部品のような実部品では、形状が非常に複雑になので、二次元的なスプリングバックである「角度変化」と「壁反り」だけでなく、図2、図3に示すような「ねじれ」、「稜線反り」が発生し、プレス成形を行う際に重要な問題となっている。
【特許文献1】特開平7−185663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プレス成形部品における形状凍結不良を防止するプレス成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明の要旨とするところは下記の通りである。
(1)ポンチ、ダイ及びしわ押さえを有するプレス金型であって、ポンチが長手方向に2つ以上に分割されており、また分割されたポンチの高さがそれぞれ異なり、前記分割
されたポンチは成形下死点において高さが一定となる機能を有することを特徴とする形状凍結性に優れたプレス金型。
(2)ポンチ、ダイ及びパッドを有するプレス金型であって、ポンチが長手方向に2つ以上に分割されており、また分割されたポンチの高さがそれぞれ異なり、前記分割されたポンチは成形下死点において高さが一定となる機能を有することを特徴とする形状凍結性に優れたプレス金型。
(3)分割されたポンチが更にストローク方向に分割されており、分割箇所に弾性体が配置されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の形状凍結性に優れたプレス金型。
(4)弾性体の耐荷重がそれぞれ異なることを特徴とする前記(3)に記載の形状凍結性に優れたプレス金型。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、寸法精度に優れる良好なハット型成形部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
従来から用いられてきたプレス成形用のポンチは、例えば、図4に示す高さ方向(Z方向)に反った形状のように一体構造の金型形状であり、長手方向とストローク方向には分割されていなかった。
【0010】
本発明者らは、図5に示すように、ポンチを長手方向に分割し、必要に応じ分割されたポンチを更にストローク方向にも分割するとともに、ストローク方向の分割個所に弾性体を配置することで、図6に示すように、ポンチに段差を設けることを可能にした。
なお、図6においては、ポンチはストローク方向にも分割されているが、必ずしもストローク方向に分割する必要はなく、長手方向毎に高さの異なるポンチを設け、成形下死点において高さが一定になるようにストローク方向に移動自在な構造としても良い。
また、配置した弾性体の耐荷重をそれぞれ変えることで、スプリングバックをさらに低減できることを知見した。
【0011】
前記(1)に係る発明は、ポンチ、ダイ及びしわ押さえを有するプレス金型であって、ポンチが長手方向に2つ以上に分割されており、また分割されたポンチの高さがそれぞれ異なり、前記分割されたポンチは成形下死点において高さが一定となる機能を有することを特徴とする。
ポンチを長手方向に分割することでポンチの高さを部分的に設定でき、製品とポンチの接触タイミングを自由に設定することを可能にした。それにより、材料の肉あまり(ポンチ底のたるみ)をコントロールし、成形下死点でそれをつぶすことで、ねじれと稜線反りを低減することができる。
【0012】
前記(2)に係る発明は、ポンチ、ダイ及びパッドを有するプレス金型であって、ポンチが長手方向に2つ以上に分割されており、また分割されたポンチの高さがそれぞれ異なり、前記分割されたポンチは成形下死点において高さが一定となる機能を有することを特徴とする。
しわ押さえを配置しない構造でもスプリングバックを低減できるのは、しわ押さえを用いない方が材料の肉あまり(ポンチ底のたるみ)を多く発生させることができ、成形下死点でそれをつぶすことで、ねじれと稜線反りを低減することができるからである。
【0013】
前記(3)に係る発明は、分割されたポンチが更にストローク方向に分割されており、分割箇所に弾性体が配置されていることを特徴とする。
図7に示すように分割箇所に弾性体を配置すると、成形下死点でのダイ底との決め押し効果により、ポンチの段差はなくなり(図7(b))、元のポンチ形状と同一の高さになる。ただし、しわ押さえ力と背圧が大きい場合には、成形下死点までポンチの段差を保つことができないので、弾性体の耐荷重はそれ以上にしなければならない。
弾性体として、金属バネ、ウレタン材等を使用することができる。
【0014】
前記(4)に係る発明は、弾性体の耐荷重がそれぞれ異なることを特徴とする。
弾性体の耐荷重を部分的に変化させることでスプリングバックを低減できるのは、成形下死点でポンチの段差をつぶす耐荷重を変化させることができるので、ポンチ肩の決め押し荷重を増大させることもできるためである。
【0015】
なお、本発明の効果は成形品の縦壁角度に影響されるものではなく、縦壁が垂直な場合も、傾斜している場合にも有効である。また、成形に際し、潤滑を施しても本発明の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0016】
本発明例として、板厚1.2mmで、引張り強さ590MPa級の鋼板を用いてハット型プレス成形試験を行った。部品形状は、図8(a)〜(c)に示すように、X−Y平面上で部品の長手方向に湾曲(R330)し(図8(c))、高さ方向(Z方向)には反りのないものである(図8(b)参照)。試験片は幅200mm、長さ500mmとして、ポンチの幅60mm、パンチ肩R5mm、ダイス幅62.4mmの金型であって、図9に示すように、ポンチ2の高さを両サイドのポンチから10mmあるいは20mm高くなるように変え、成形高さ40mmのハット曲げ試験を行った。なお、成形中のしわ押さえ力は200kNあるいはなし(表1では「−」で表記)とした。なお、ポンチ2に配置した弾性体の耐荷重は300kNの金属バネ製とした。
比較例として、実施例1と同一の鋼板及びポンチを分割しない金型を用いて、ハット曲げ試験を行った。
【0017】
曲げ試験を行った試験片は三次元形状測定装置にて天井面の長手方向の形状を測定し、図10に示したように、天井面におけるねじれ角度αで評価した。評価基準は、ねじれ角度が0°以上2°以下のものに◎、2°以上4°以下のものに○、4°以上6°以下に△とした。
【実施例2】
【0018】
本発明例として、板厚1.6mmで、引張り強さ780MPa級の鋼板を用いてハット型プレス成形試験を行った。部品形状は、図11(a)〜(c)に示すように、製品の流入方向に、つまりY−Z平面で長手方向に湾曲(R1000)しており(図11(c))、X−Y平面へ投影した形状は長手方向に真っ直ぐである(図11(b)参照)。試験片は幅160mm、長さ400mmとして、ポンチの幅40mm、パンチ肩R5mm、ダイス幅43.2mmの金型であって、図12に示すように、ポンチ3の高さをポンチから2.5mm,5mm,10mm、ポンチ2の高さを2.5mm,5mm高くなるように変え、成形高さ40mmのハット曲げ試験を行った。なお、ポンチ2,3に配置した弾性体の耐荷重は100kN,200kNの金属バネ製とした。
比較例として、実施例2と同一の鋼板及びポンチを分割しない金型を用いて、ハット曲げ試験を行った。
【0019】
曲げ試験を行った試験片は三次元形状測定装置にて両端の断面形状を測定し、図13に示したように、ポンチ面からの稜線反り角度β(Y−Z平面における長手方向の反り)を評価した。評価基準は、反り角度が0°以上2°以下のものに◎、2°以上4°以下のものを○、4°以上6°以下を△とした。
【0020】
上記実施例1〜2の測定結果を表1〜2に示す。本発明により、部品形状によらず良好な寸法精度に優れるハット型成形部品を得ることができた。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のハット曲げ部品を示す断面図である。
【図2】ハット型成形部品のねじれを示す図である。
【図3】ハット型成形部品の稜線反りを示す図である。
【図4】従来のポンチ形状を示す図である。
【図5】本発明に係るポンチ形状を示す図である。
【図6】本発明に係るポンチ形状を示す図である。
【図7】本発明に係るポンチの(a)は成形初期、(b)は成形下死点における状 態を示す断面図である。
【図8】本発明に係るフランジ部及び天井部の稜線が水平に連続的または不連続に 曲がっているハット型成形部品例の(a)は概念図、(b)はX−Z平面における平 面図、(c)はX−Y平面における平面図である。
【図9】本発明の実施例で使用したポンチ形状を説明する図である
【図10】ねじれ角度を測定する試験片の両端の断面図である。
【図11】本発明に係るフランジ部及び天井部の稜線が垂直方向に連続的または不 連続に曲がっているハット型成形部品例の(a)概念図、(b)X−Z平面における 平面図、(c)Y−Z平面における平面図である。
【図12】本発明の実施例で使用したポンチ形状を示す図である。
【図13】稜線反り角度を測定する試験片の側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 肩部
2 壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンチ、ダイ及びしわ押さえを有するプレス金型であって、ポンチが長手方向に2つ以上に分割されており、また分割されたポンチの高さがそれぞれ異なり、前記分割されたポンチは成形下死点において高さが一定となる機能を有することを特徴とする形状凍結性に優れたプレス金型。
【請求項2】
ポンチ、ダイ及びパッドを有するプレス金型であって、ポンチが長手方向に2つ以上に分割されており、また分割されたポンチの高さがそれぞれ異なり、前記分割されたポンチは成形下死点において高さが一定となる機能を有することを特徴とする形状凍結性に優れたプレス金型。
【請求項3】
分割されたポンチが更にストローク方向に分割されており、分割箇所に弾性体が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の形状凍結性に優れたプレス金型。
【請求項4】
弾性体の耐荷重がそれぞれ異なることを特徴とする請求項3に記載の形状凍結性に優れたプレス金型。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−116554(P2006−116554A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304843(P2004−304843)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】