形状加工方法および形状加工システム
【課題】機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減する。
【解決手段】形状修正対象物の母材の設計形状を設定する設計形状設定段階S1、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での第3点とを基準点として前記設計形状上で設定する基準点設定段階S2、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定段階S3、前記測定結果から、各断面での前記各基準点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出段階S4、前記各基準点から前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定段階S5、該変位に基づいて加工データを修正する修正段階S6、前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工段階S7、を含む。
【解決手段】形状修正対象物の母材の設計形状を設定する設計形状設定段階S1、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での第3点とを基準点として前記設計形状上で設定する基準点設定段階S2、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定段階S3、前記測定結果から、各断面での前記各基準点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出段階S4、前記各基準点から前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定段階S5、該変位に基づいて加工データを修正する修正段階S6、前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工段階S7、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状加工方法および形状加工システムに関し、より詳細には、形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、肉盛りされた溶接材部分を加工する形状加工方法および形状加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
形状修正対象物、たとえば、車両を構成する鋼板を形成するための金型は、金型が製作されたのち、その金型が何度も使用されることで形状に変形が生じ、その金型の形状の修正が必要となる。
【0003】
金型の形状の修正には、金型を削る修正と、金型に溶接材を肉盛りする修正とがあり、後者の金型に溶接材を肉盛りする修正は、金型の修正箇所に溶接材で肉盛りしたのち、その肉盛した溶接材を所望の形状に加工することで行われる。ここで、溶接材を肉盛りした場合、肉盛りした領域が凸凹形状を有した表面形状になるため、表面を加工するための余裕代を本来盛るべき量にプラスして行なう必要がある。
【0004】
このような金型などの形状修正対象物の肉盛りされた溶接材を加工する従来の形状加工方法としては、肉盛りされた領域が凸凹形状を有しているため、測定プローブなどの測定器によって測定することが困難である。したがって、実際の形状修正対象物の形状を母材上で肉盛りされていない領域で測定し、その測定した結果と形状修正対象物の設計形状とに基づいて、形状修正対象物を加工するための加工データを作成し、その作成された加工データに基づいて形状修正対象物を機械加工機で加工する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−126834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の形状加工方法では、一般的に、母材上で肉盛りされていない領域で測定、すなわち、肉盛りされた溶接材部分の近傍を測定器で測定し、測定した形状と設計形状とのずれを一方向のみのずれとしてNCデータを作成していたため、実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との正確な三次元的なずれを知ることができないという問題点があった。したがって、従来の形状加工方法では、その肉盛りされた溶接材部分を、機械加工機によってある程度の形状まで加工し、その後、所望の形状になるまで、作業者の経験に頼って手作業による削り加工で仕上げ(以下、必要に応じて「仕上げ工程」と称する)ていた。
【0006】
このように、手作業によって削り落とす作業が発生するため、仕上げ工程で多大な作業負荷が発生する。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決し、実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との正確な誤差を三次元的な変位で推定することによって、機械加工機による加工精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができる形状加工方法および形状加工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
本発明の形状加工方法は、形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工する方法であって、前記母材の設計形状を入力する入力段階と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とを前記設計形状上で設定する設定段階と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定段階と、前記測定結果から、それぞれの断面での前記第1点、第2点、および第3点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出段階と、前記第1点、第2点、および第3点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定段階と、前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正段階と、前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工段階と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の形状加工システムは、形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工するシステムであって、前記母材の設計形状を入力する入力手段と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とを前記設計形状上で設定する設定手段と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定手段と、前記測定結果から、それぞれの断面での前記第1点、第2点、および第3点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出手段と、前記第1点、第2点、および第3点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定手段と、前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正手段と、前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成された本発明に係る形状加工方法および形状加工システムによれば、溶接材が肉盛りされた領域の近傍を測定し、その測定した結果と設計形状とから実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との三次元的な変位を推定することで、機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る形状加工方法および形状加工システムについて詳細に説明する。なお、本実施の形態では、形状修正対象物として、車両を構成する鋼板をプレス成形する金型を例にとって説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の形状加工システムの概略構成を示す斜視図である。
【0014】
形状加工システム100は、図1に示すとおり、金型1を加工するための機械加工機2であって、金型1の母材上に肉盛りされた溶接材部分を加工するシステムである。
【0015】
金型1は、材料の塑性または流動性の性質を利用して、材料を成形加工して製品を得るための、主として金属材料を用いて作成した金型であって、たとえば、自動車のボディーなどに用いられる鋼板(金属板)を成形加工するためのプレス金型である。
【0016】
機械加工機2は、数値制御(Numerical control:NC)される工作機械であって、ドリルなどに代表される切削用工具の刃先の動作を座標値によって定義し、その座標値などの情報を基に工作機械に内蔵されたサーボモータが動くことによって工具や被加工物が動作し、加工が行われる工作機械である。
【0017】
機械加工機2は、コンピュータを用いて制御され、そのコンピュータは、たとえば、図2に示すように、マイクロプロセッサからなるCPU(中央演算処理装置)21、CPU21にバス結合されたROM22、RAM23、ハードディスク24、表示部25、入力部26、およびインターフェイス27などの構成要素を備えている。CPU21は、コンピュータの中で各装置の制御やデータの計算・加工を行なう中枢部分である。CPU21は、ROM22に記憶されたプログラムを実行する装置で、RAM23、ハードディスク24、または入力部26からデータを受け取り、演算・加工した上で、表示部25またはハードディスク24に出力する。ROM22は、一度書き込まれた情報を読み出すための記憶装置であり、たとえば、システムプログラムなどのプログラムが格納される。RAM23は、半導体素子を利用した記憶装置であり、たとえば、CPU21が実行する処理のためのデータの一時記憶などに使用される。ハードディスク24は、外部記憶装置である。表示部25は、たとえば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置である。入力部26は、たとえば、キーボード、およびマウスなどのポインティングディバイスである。インターフェイス27は、二つのものの間に立って、情報のやり取りを仲介するものである。
【0018】
次に、図3を参照しつつ、機械加工機2の形状修正加工の処理を実行する各部について詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る機械加工機2の概略構成を示すブロック図である。機械加工機2は、形状修正加工の処理を実行する各部として、設計形状設定部211、基準点設定部212、形状測定部213、誤差算出部214、変位推定部215、NCデータ設定部216、NCデータ修正部217、および加工命令部218を含み、CPU21がこれら各部の役割を担う。
【0019】
設計形状設定部211は、金型1の母材の設計形状を設定するものであり、設計形状設定手段として機能する。設計形状設定部211は、設計形状のデータ(以下、「設計形状データ」と称する)、たとえば、所望の金型1の形状の三次元データ、金型1の成形品質、プレス鋼板の板厚などの型データ、および金型1の母材上に溶接材を肉盛して加工すべき領域部分のデータが設定されるものであり、これらのデータは入力部26または/およびインターフェイス27を介して設定される。設定形状データは、図4に示すように、たとえば、複数の構成点Pを含み、隣り合う構成点Pが連結されてメッシュ状に表現されている。なお、図4では、構成点Pの一部を図示している。
【0020】
基準点設定部212は、溶接材が肉盛された領域(以下、必要に応じて「加工領域」称する)の近傍で母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点と、をそれぞれ基準点として設計形状上で設定するものであり、基準点設定手段として機能する。
【0021】
より具体的には、基準点設定部211は、実際の金型の形状と設計形状との変位を算出するために、その変位を算出するための基準点(第1点〜第3点)を、図5および図6に示すように、第1の断面および第2の断面において設計形状データ上の構成点Pから選択する。図5は、図4のZ軸方向と平行にA−A線に沿って切断した断面図であり、図6は、図4のZ軸方向と平行にB−B線に沿って切断した断面図であり、図5および図6の実線は、実際の機械加工機2に設置された金型1の形状(以下、「実形状」と称する)の一例を表し、図5および図6の破線は、設計形状設定部211で設定された金型1の母材の設計形状の一例を表している。なお、図5および図6に示すように、機械加工機2では斜線で表される設計形状がデータとして記憶されており、設計形状と実形状との差が存在することを表している。
【0022】
また、基準点設定部212で設定される第1の断面は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度θ1と最小の角度θ2との角度差が最大となる断面であり、第1点は傾斜角度が最大の角度θ1を有する点、第2点は傾斜角度が最小の角度θ2を有する点であることが望ましい。さらに、第3点は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で第2の断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度θ3を有する点であることが望ましい。すなわち、各基準点(第1点〜第3点)は、図5において設計形状データから加工領域を除いた領域(以下、「非加工領域」と称する)で最大の角度θ1を有する点(第1点)、最小の角度θ2を有する点(第2点)、および図6において非加工領域で最大の角度θ3を有する点(第3点)として設定される。
【0023】
さらに、基準点設定部212で設定される第1の断面と第2の断面とは直交することが望ましい。
【0024】
ここで、基準点設定部212は、たとえば、設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と所定の区間に対応するオフセット形状の区間の距離との比率を算出し、比率が所定の範囲内にある位置で、各基準点(第1点〜第3点)を設定する。なお、基準点の詳細な設定方法は後述する。
【0025】
形状測定部213は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で母材形状を測定するものであり、測定手段として機能する。形状測定部213は、図7に示すように、測定プローブなどの測定器3によって、実形状を測定する。測定して得られた測定結果は、たとえば、インターフェイス27を介して機械加工機2に座標データとして設定される。測定器3は、機械加工機2に取付けられ、測定用NCデータにより金型1の形状を測定する。測定用NCデータは、たとえば、金型1の母材の表面の非加工領域を測定可能に作成されるもので、従来から一般的に用いられている形状を測定するためのデータであるので、詳細な説明は省略する。
【0026】
誤差算出部214は、形状測定部213において測定された測定結果から、それぞれの断面での前記各基準点(第1点、第2点、および第3点)から一方向上に位置する各対応点を母材形状上で算出するものであり、算出段階として機能する。誤差算出部214は、たとえば、機械加工機2の座標系において、機械加工機2の基底面からの鉛直方向をZ軸方向とすれば、設計形状データの基準点からZ軸方向上に位置する点(座標データ)を実際の金型1の形状データ(以下、「実形状データ」と称する)の対応点として算出する。すなわち、各対応点は、前記各基準点(第1点、第2点、および第3点)のX座標およびY座標が同一であって、Z座標が異なる点となる。したがって、誤差算出部214は、設計形状データと実形状データとのZ座標の差分から各基準点からのそれぞれの対応点までの各変位ベクトルを算出することができる。
【0027】
変位推定部215は、前記各基準点(第1点、第2点、および第3点)からそれぞれの対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定するものであり、推定手段として機能する。なお、変位推定部215により、三次元方向の変位を推定する詳細な方法は後述する。
【0028】
NCデータ設定部216は、金型を加工するための加工データ(NCデータ)が設定されているものである。ここで、NCデータは、入力部26またはインターフェイス27を介して設定され、機械加工機2で使用する工具の移動軌跡を数値情報として示したデータである。なお、NCデータは、たとえば、以前に加工した際の金型1のNCデータを用いたりすることができる。
【0029】
NCデータ修正部217は、推定された母材の三次元方向の変位に基づいてNCデータを修正するものであり、修正手段として機能する。NCデータ修正部217は、現在の数値情報として予め設定されているNCデータを、変位推定部215によって推定された三次元方向の変位に基づいて、新たなNCデータに修正する。
【0030】
加工命令部218は、修正されたNCデータにしたがって溶接材部分を加工する加工手段を制御するものであり、制御手段として機能する。加工手段は、機械加工機2に備えられているサーボモータ4がその役割を担い、加工命令部218からの加工命令によってサーボモータ4が駆動されることで形状修正対象物を加工する手段である。サーボモータ4は、たとえば、ドリルなどに代表される切削用工具の刃先の動作を動かすことによって、金型に肉盛された溶接材を加工するものである。
【0031】
ここで、図8を参照して、金型1の設計形状データと実形状データとの三次元方向の変位(移動量)を推定する方法を簡単に説明しておく。
【0032】
金型1の設計形状データと実形状データとの三次元方向の変位(移動量)の推定する方法は、従来から知られている、物体の移動前と移動後との変位を幾何学的に計算する方法を適用することによって達成することができる。
【0033】
図8は、三次元方向の変位を推定する方法を容易に理解できるように簡略化した物体の一例を示したものであり、物体を一の方向(たとえば、Z軸方向)から見た平面図である。図9(a)は、図8のZ軸方向と平行にC−C線に沿って切断した断面図であり、図9(b)は、図8のZ軸方向と平行にD−D線に沿って切断した断面図であり、図9の実線は物体の移動後、図9の斜線は物体の移動前を表している。
【0034】
具体的に説明すると、図9(a)において、C−C断面での接線方向が互いに異なる任意の二つの点(Q1,Q2)からZ軸方向上に位置する移動後の二つの対応点(Q1’,Q2’)までのZ軸方向の移動量(ベクトル)に基づいて、点Q1,Q2における法線方向の移動量(N1,N2)を算出する。なお、法線方向の移動量の算出は、従来から知られているベクトル解析などの一般的な幾何学的手法によって算出することができるので、詳細な説明は省略する。
【0035】
次いで、法線方向の移動量(N1,N2)を算出した後、各移動量から、図10に示すように、一般的な幾何学的手法によって、物体の移動前と移動後の移動量A1を求めることができる。その移動量A1は、下記の数式(1)で表すことができる。
【0036】
【数1】
【0037】
その結果、図11(a)に示すように、物体の移動前から移動後のZ軸方向の移動量Z1、およびZ軸方向と垂直をなすC−C断面方向の移動量S1を求めることができる。
【0038】
次いで、図9(b)において、移動前の任意の一つの点(Q3)からZ軸方向上に位置する移動後の一つの対応点(Q3’)までのZ軸方向の移動量に基づいて、点Q3における法線方向の移動量(ベクトル)N3を算出する。ここで、図9(a)および図9(b)に示す断面図が、Z軸方向と平行に切断していることから、物体の移動前と移動後とのZ軸方向の移動量は、図9(a)と図9(b)との断面で一致する。したがって、Z軸方向と垂直をなす一方向との移動量S2は、図11(b)に示すように、上記で算出したZ軸方向の移動量Z1、および点Q3の法線方向の移動量N3によって、一般的な幾何学的手法により求めることができる。その結果、図12に示すように、上記で求めたC−C断面方向の移動量S1およびD−D断面方向の移動量S2を合成した移動量S3が、物体の移動前から移動後のXY平面における移動量となり、Z軸方向の移動量Z1と合わせて、物体の移動前から移動後の三次元的な変位の推移を求めることができる。
【0039】
したがって、物体の移動前と移動後との変位を幾何学的に算出する方法と同様に、本実施の形態においては、金型1の設計形状データと実形状データとの三次元方向の変位を推定するに際して、金型1の設計形状データ(物体の移動前)および実形状データ(移動後)を、上述した方法によって求めることができる。
【0040】
したがって、従来の形状加工方法では、測定した形状と設計形状とのずれを一方向のみのずれ(たとえば、Z軸方向)としてのみNCデータを作成し、測定のずれが、横軸方向のずれによって生じたもの(図13(a)参照)なのか、または縦軸方向のずれによって生じたもの(図13(b)参照)なのかを把握することができず、三次元的なずれを正確に推定することができなかったが、本実施の形態では、上述した方法を用いることで、三次元的なずれを正確に推定することができる。この結果、機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができるようになる。
【0041】
以上のように構成された形状加工システムを用いて、本実施の形態に係る形状加工方法が実行される。
【0042】
次に、図14に示すフローチャートに基づいて、本実施の形態の形状加工方法を説明する。以下の処理は、CPU21が主として実行する。図14は、本実施の形態の形状加工システムの処理内容を示すフローチャートである。
【0043】
まず、CPU21は、金型1の設計形状を設定する(ステップS1)。この設計形状のデータは、上述のように、たとえば、所望の金型1の形状の三次元データ、および溶接材を母材上に肉盛りする範囲などのデータであって、入力部26または/およびインターフェイス27を介して外部から入力される。
【0044】
次いで、CPU21は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で金型1の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とをそれぞれ基準点として設計形状上で設定する処理を実行する(ステップS2)。
【0045】
ここで、本実施の形態における基準点(第1点〜第3点)は、各基準点に対応する対応点を測定するために、非加工領域で設定される必要があることはもちろんであるが、さらに、金型1の母材の表面において、変化が突飛な凸形状および凹形状と、後の処理で使用する測定器3の先端部分が入らない凹形状とを考慮し、基準点に対応する対応点を測定するのに適さない領域を除いた範囲で設定されることが望ましい。
【0046】
すなわち、基準点を設定する領域として、図15(a)に示すように、変化が突飛な凸形状を有する領域である場合、基準点からその基準点に対応する実形状の対応点へのベクトルの算出が正確にできないおそれがある。また、基準点を設定する領域として、図15(b)に示すように、測定器3の金型1の母材と接触して測定する先端部分が入らない凹形状を有する範囲においても、前記基準点に対応する対応点を測定することが不可能なおそれがあり、基準点の設定には望ましくない。したがって、基準点を設定する領域としては、図15(c)に示すように、たとえば、すべてが緩やかな凸形状の場合が望ましい。
【0047】
したがって、図16(a)および図16(b)に示すように、設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と所定の区間に対応するオフセット形状の区間の距離との比率を算出し、前記比率が大きい領域は、基準点を設定する領域として除き、図16(c)に示すように、前記比率が小さい領域は、基準点を設定する領域とする。
【0048】
以下、基準点を設定する領域として望ましい領域を判定する手法を、図17〜図20を参照しつつ、詳細に説明する。
【0049】
まず、図17(a)に示すように、基準点を設定しない領域の対象とする凸形状(凸円弧)の凸部最小半径R1を定めて、母材の表面上においてその表面の法線方向に一定量オフセットさせ、設計形状データにおける所定の区間Lと、その所定の区間に対応するオフセット形状の区間Laとによって、最大拡大率(La/L)を設定する。また、図17(b)に示すように、基準点を設定しない領域の対象とする凹形状(凹円弧)の凹部最小半径R2を定めて、最大拡大率の設定と同様に最小縮小率(Lb/L)を設定する。なお、凹部最小半径R2は、測定器3の先端部分の半径を考慮して定める必要がある。
【0050】
そして、図18(a)に示すように、ある所定の区間Lに対応する法線方向にオフセットさせた区間L1において、最大拡大率よりその拡大率(L1/L)が大きければ、変化が突飛な凸形状(以下、「凸部円弧」と称する)であるとして、基準点を設定する領域外と判定され、図18(b)に示すように、最大拡大率よりその拡大率(L1/L)が小さければ、基準点を設定する対象形状であるとして、基準点を設定する対象の領域と判定される。
【0051】
凸形状の場合と同様に、凹形状の場合も、図18(c)に示すように、ある所定の区間Lに対応する法線方向にオフセットさせた区間L2において、最小縮小率よりその縮小率(L2/L)が大きければ、基準点を設定する領域の対象外の凹形状(以下、「凹部円弧」と称する)であるとして、基準点を設定する領域外と判定され、図18(d)に示すように、最小縮小率よりその縮小率(L2/L)が小さければ、基準点を設定する対象形状であるとして、基準点を設定する対象の領域と判定される。
【0052】
ここで、基準点を設定する領域として望ましい領域を判定する手法の一例として、図19(a)に示す形状で説明する。図19(b)に示すように、設計形状から法線方向にオフセットさせた場合、たとえば、L1〜L5において、基準点を設定する領域かを判定すると、凸形状の判定として、L2/L2’は最大拡大率より小さく基準点を設定する対象の領域となり、L3/L3’およびL4/L4’は最大拡大率より大きく凸部円弧と判定される。また、凹形状の判定として、L1/L1’は最小縮小率より大きく基準点を設定する対象の領域となり、L5/L5’は最小縮小率より小さく凹部円弧と判定される。その結果、図20に示すように、基準点を設定する対象領域が定まり、凸部円弧および凹部円弧を除いた領域の中から傾斜の最も緩やかな位置で基準点を設定することができる。
【0053】
以上より、基準点の設定すべき領域(以下、「基準点設定対象領域」)は、凸部円弧および凹部円弧を除いた領域、かつ、金型1の母材に溶接材が肉盛りされていない非加工領域であることが望ましい。
【0054】
基準点の設定は、図21に示すフローチャートにしたがって実行する。基準点の設定は、まず、金型1の設計形状データから、加工領域に位置する一つの構成点Pが選択され、その選択された構成点Pを主構成点P1として設定する(ステップS21)。主構成点P1を選択する方法としては、たとえば、加工領域周辺を含めた三次元的な移動量を求めるために、加工領域の中心付近で選択されることが望ましく、任意に設定することができる。また、主構成点P1は、以前の形状加工した経験に基づき、設定されることもできる。
【0055】
次いで、主構成点P1を含むようにZ軸方向と平行な一断面を選択する(ステップS22)。
【0056】
次いで、基準点設定対称領域で、選択された母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度θ1[1]および最小の角度θ2[1]を算出する(ステップS23)。ここで、角度の算出は、各構成点は座標であらわすことができるため、その一つの構成点の座標とその構成点に隣接する構成点の座標とから計算して一般的に知られている方法で算出することができる。
【0057】
次いで、最大の角度θ1[1]および最小の角度θ2[1]との角度差a[1]を算出する(ステップS24)。
【0058】
次いで、角度差a[1]をRAMメモリに保存(記憶)する(ステップS25)。
【0059】
次いで、主構成点P1を中心にZ軸方向と平行な一断面を回転させて、同様に角度差を算出する処理をN回繰り返す(ステップS26:No)。角度差を算出する処理をN回繰り返した後(ステップS26:Yes)、角度差a[1]〜a[N]の中で、最大の角度差を有した一断面を第1の断面として設定する(ステップS27)。次いで、設定された第1の断面の最大の角度θ1および最小の角度θ2を有したそれぞれの構成点を、基準点(第1点、第2点)として設定する(ステップS28)。
【0060】
次いで、主構成点P1において第1の断面と交差する第2の断面を設定する(ステップS29)。
【0061】
次いで、設定された第2の断面の最大の角度θ3を有する構成点を、基準点(第3点)として設定する(ステップS30)。
【0062】
図14に戻り、上述のように基準点(第1点〜第3点)が設定された後、CPU21は、機械加工機2に組み付けられた金型1の溶接材が肉盛りされた領域の近傍(基準点設定対称領域)で母材形状を測定する処理を実行する(ステップS3)。
【0063】
次いで、CPU21は、ステップS3で得られた測定結果から、図5および図6に示すとおり、それぞれの断面での各基準点から一方向(たとえば、Z軸方向)上に位置する各対応点を母材形状上で算出する処理を実行する(ステップS4)。
【0064】
次いで、CPU21は、各基準点からそれぞれの対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する(ステップS5)。この変位の推定方法は、上述で説明した物体の移動前から移動後の変位(移動量)を三次元的に求める方法を用いることができる。すなわち、図5および図6に示すように、第1点、第2点、および第3点の各基準点から、Z軸方向に位置するそれぞれの対応点までの各ベクトルから、各基準点における法線方向のベクトルを算出し、そのベクトルを合成することで、設計形状データから実形状データへの三次元的なずれを算出することができる。
【0065】
次いで、CPU21は、金型1の溶接材を加工するために取得したNCデータから、推定された母材の三次元方向の変位に基づいてNCデータを修正する処理を実行する(ステップS6)。
【0066】
次いで、CPU21は、サーボモータ4が修正されたNCデータに基づいて溶接材部分を加工するために、サーボモータ4に加工命令の処理を実行する(ステップS7)。
【0067】
以上のように、本実施形態の形状加工システムによれば、第1の断面は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度と最小の角度との角度差が最大となる断面であることによって、比較する傾斜角度の差が最大となり、ベクトルの合成・分解の誤差を最小にすることができる。
【0068】
さらに、第1の断面と第2の断面とが直交することによって、比較する傾斜角度の差が最大となり、ベクトルの合成・分解の誤差を最小にすることができる。
【0069】
さらに、設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と前記所定の区間に対応する前記オフセット形状の区間の距離との比率を算出し、前記比率が所定の範囲内にある位置で、前記第1点、第2点、および第3点を基準点として設定することによって、測定不可能な領域を除くことができる。
【0070】
この結果、本実施形態の形状加工システムによれば、実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との三次元的な変位を、溶接材が肉盛りされた領域の近傍を測定し、その測定結果から推定することで、機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができる。
【0071】
以上のように本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるべきものではなく、特許請求の範囲に表現された思想および範囲を逸脱することなく、種々の変形、追加、および省略が当業者によって可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態の形状加工システムの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の形状加工システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態に係る機械加工機2の形状修正加工の処理を実行する各部を示すブロック図である。
【図4】本実施形態の形状加工システムで仕様する設計形状データの概略図の一例である。
【図5】図4のA−A線に沿って切断した断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿って切断した断面図である。
【図7】金型の形状を測定器によって測定する様子を示す図である。
【図8】三次元方向の変位を推定する方法を容易に理解できるように簡略化した物体の一例の平面図である。
【図9】図8のZ軸方向と平行にC−C線に沿って切断した断面図である。
【図10】図8のZ軸方向と平行にD−D線に沿って切断した断面図である。
【図11】三次元方向の変位を推定するための図である。
【図12】三次元方向の変位を推定するための図である。
【図13】従来の形状修正加工方法の問題点を説明するための図である。
【図14】本実施の形態の形状加工システムの処理内容を示すフローチャートである。
【図15】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図16】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図17】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図18】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図19】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図20】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図21】基準点の設定手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0073】
3 測定器、
4 サーボモータ、
211 設計形状設定部、
212 基準点設定部、
213 形状測定部、
214 誤差算出部、
215 変位推定部、
216 NCデータ設定部、
217 NCデータ修正部、
218 加工命令部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状加工方法および形状加工システムに関し、より詳細には、形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、肉盛りされた溶接材部分を加工する形状加工方法および形状加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
形状修正対象物、たとえば、車両を構成する鋼板を形成するための金型は、金型が製作されたのち、その金型が何度も使用されることで形状に変形が生じ、その金型の形状の修正が必要となる。
【0003】
金型の形状の修正には、金型を削る修正と、金型に溶接材を肉盛りする修正とがあり、後者の金型に溶接材を肉盛りする修正は、金型の修正箇所に溶接材で肉盛りしたのち、その肉盛した溶接材を所望の形状に加工することで行われる。ここで、溶接材を肉盛りした場合、肉盛りした領域が凸凹形状を有した表面形状になるため、表面を加工するための余裕代を本来盛るべき量にプラスして行なう必要がある。
【0004】
このような金型などの形状修正対象物の肉盛りされた溶接材を加工する従来の形状加工方法としては、肉盛りされた領域が凸凹形状を有しているため、測定プローブなどの測定器によって測定することが困難である。したがって、実際の形状修正対象物の形状を母材上で肉盛りされていない領域で測定し、その測定した結果と形状修正対象物の設計形状とに基づいて、形状修正対象物を加工するための加工データを作成し、その作成された加工データに基づいて形状修正対象物を機械加工機で加工する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−126834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の形状加工方法では、一般的に、母材上で肉盛りされていない領域で測定、すなわち、肉盛りされた溶接材部分の近傍を測定器で測定し、測定した形状と設計形状とのずれを一方向のみのずれとしてNCデータを作成していたため、実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との正確な三次元的なずれを知ることができないという問題点があった。したがって、従来の形状加工方法では、その肉盛りされた溶接材部分を、機械加工機によってある程度の形状まで加工し、その後、所望の形状になるまで、作業者の経験に頼って手作業による削り加工で仕上げ(以下、必要に応じて「仕上げ工程」と称する)ていた。
【0006】
このように、手作業によって削り落とす作業が発生するため、仕上げ工程で多大な作業負荷が発生する。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決し、実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との正確な誤差を三次元的な変位で推定することによって、機械加工機による加工精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができる形状加工方法および形状加工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
本発明の形状加工方法は、形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工する方法であって、前記母材の設計形状を入力する入力段階と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とを前記設計形状上で設定する設定段階と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定段階と、前記測定結果から、それぞれの断面での前記第1点、第2点、および第3点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出段階と、前記第1点、第2点、および第3点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定段階と、前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正段階と、前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工段階と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の形状加工システムは、形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工するシステムであって、前記母材の設計形状を入力する入力手段と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とを前記設計形状上で設定する設定手段と、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定手段と、前記測定結果から、それぞれの断面での前記第1点、第2点、および第3点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出手段と、前記第1点、第2点、および第3点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定手段と、前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正手段と、前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成された本発明に係る形状加工方法および形状加工システムによれば、溶接材が肉盛りされた領域の近傍を測定し、その測定した結果と設計形状とから実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との三次元的な変位を推定することで、機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る形状加工方法および形状加工システムについて詳細に説明する。なお、本実施の形態では、形状修正対象物として、車両を構成する鋼板をプレス成形する金型を例にとって説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の形状加工システムの概略構成を示す斜視図である。
【0014】
形状加工システム100は、図1に示すとおり、金型1を加工するための機械加工機2であって、金型1の母材上に肉盛りされた溶接材部分を加工するシステムである。
【0015】
金型1は、材料の塑性または流動性の性質を利用して、材料を成形加工して製品を得るための、主として金属材料を用いて作成した金型であって、たとえば、自動車のボディーなどに用いられる鋼板(金属板)を成形加工するためのプレス金型である。
【0016】
機械加工機2は、数値制御(Numerical control:NC)される工作機械であって、ドリルなどに代表される切削用工具の刃先の動作を座標値によって定義し、その座標値などの情報を基に工作機械に内蔵されたサーボモータが動くことによって工具や被加工物が動作し、加工が行われる工作機械である。
【0017】
機械加工機2は、コンピュータを用いて制御され、そのコンピュータは、たとえば、図2に示すように、マイクロプロセッサからなるCPU(中央演算処理装置)21、CPU21にバス結合されたROM22、RAM23、ハードディスク24、表示部25、入力部26、およびインターフェイス27などの構成要素を備えている。CPU21は、コンピュータの中で各装置の制御やデータの計算・加工を行なう中枢部分である。CPU21は、ROM22に記憶されたプログラムを実行する装置で、RAM23、ハードディスク24、または入力部26からデータを受け取り、演算・加工した上で、表示部25またはハードディスク24に出力する。ROM22は、一度書き込まれた情報を読み出すための記憶装置であり、たとえば、システムプログラムなどのプログラムが格納される。RAM23は、半導体素子を利用した記憶装置であり、たとえば、CPU21が実行する処理のためのデータの一時記憶などに使用される。ハードディスク24は、外部記憶装置である。表示部25は、たとえば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置である。入力部26は、たとえば、キーボード、およびマウスなどのポインティングディバイスである。インターフェイス27は、二つのものの間に立って、情報のやり取りを仲介するものである。
【0018】
次に、図3を参照しつつ、機械加工機2の形状修正加工の処理を実行する各部について詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る機械加工機2の概略構成を示すブロック図である。機械加工機2は、形状修正加工の処理を実行する各部として、設計形状設定部211、基準点設定部212、形状測定部213、誤差算出部214、変位推定部215、NCデータ設定部216、NCデータ修正部217、および加工命令部218を含み、CPU21がこれら各部の役割を担う。
【0019】
設計形状設定部211は、金型1の母材の設計形状を設定するものであり、設計形状設定手段として機能する。設計形状設定部211は、設計形状のデータ(以下、「設計形状データ」と称する)、たとえば、所望の金型1の形状の三次元データ、金型1の成形品質、プレス鋼板の板厚などの型データ、および金型1の母材上に溶接材を肉盛して加工すべき領域部分のデータが設定されるものであり、これらのデータは入力部26または/およびインターフェイス27を介して設定される。設定形状データは、図4に示すように、たとえば、複数の構成点Pを含み、隣り合う構成点Pが連結されてメッシュ状に表現されている。なお、図4では、構成点Pの一部を図示している。
【0020】
基準点設定部212は、溶接材が肉盛された領域(以下、必要に応じて「加工領域」称する)の近傍で母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点と、をそれぞれ基準点として設計形状上で設定するものであり、基準点設定手段として機能する。
【0021】
より具体的には、基準点設定部211は、実際の金型の形状と設計形状との変位を算出するために、その変位を算出するための基準点(第1点〜第3点)を、図5および図6に示すように、第1の断面および第2の断面において設計形状データ上の構成点Pから選択する。図5は、図4のZ軸方向と平行にA−A線に沿って切断した断面図であり、図6は、図4のZ軸方向と平行にB−B線に沿って切断した断面図であり、図5および図6の実線は、実際の機械加工機2に設置された金型1の形状(以下、「実形状」と称する)の一例を表し、図5および図6の破線は、設計形状設定部211で設定された金型1の母材の設計形状の一例を表している。なお、図5および図6に示すように、機械加工機2では斜線で表される設計形状がデータとして記憶されており、設計形状と実形状との差が存在することを表している。
【0022】
また、基準点設定部212で設定される第1の断面は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度θ1と最小の角度θ2との角度差が最大となる断面であり、第1点は傾斜角度が最大の角度θ1を有する点、第2点は傾斜角度が最小の角度θ2を有する点であることが望ましい。さらに、第3点は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で第2の断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度θ3を有する点であることが望ましい。すなわち、各基準点(第1点〜第3点)は、図5において設計形状データから加工領域を除いた領域(以下、「非加工領域」と称する)で最大の角度θ1を有する点(第1点)、最小の角度θ2を有する点(第2点)、および図6において非加工領域で最大の角度θ3を有する点(第3点)として設定される。
【0023】
さらに、基準点設定部212で設定される第1の断面と第2の断面とは直交することが望ましい。
【0024】
ここで、基準点設定部212は、たとえば、設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と所定の区間に対応するオフセット形状の区間の距離との比率を算出し、比率が所定の範囲内にある位置で、各基準点(第1点〜第3点)を設定する。なお、基準点の詳細な設定方法は後述する。
【0025】
形状測定部213は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で母材形状を測定するものであり、測定手段として機能する。形状測定部213は、図7に示すように、測定プローブなどの測定器3によって、実形状を測定する。測定して得られた測定結果は、たとえば、インターフェイス27を介して機械加工機2に座標データとして設定される。測定器3は、機械加工機2に取付けられ、測定用NCデータにより金型1の形状を測定する。測定用NCデータは、たとえば、金型1の母材の表面の非加工領域を測定可能に作成されるもので、従来から一般的に用いられている形状を測定するためのデータであるので、詳細な説明は省略する。
【0026】
誤差算出部214は、形状測定部213において測定された測定結果から、それぞれの断面での前記各基準点(第1点、第2点、および第3点)から一方向上に位置する各対応点を母材形状上で算出するものであり、算出段階として機能する。誤差算出部214は、たとえば、機械加工機2の座標系において、機械加工機2の基底面からの鉛直方向をZ軸方向とすれば、設計形状データの基準点からZ軸方向上に位置する点(座標データ)を実際の金型1の形状データ(以下、「実形状データ」と称する)の対応点として算出する。すなわち、各対応点は、前記各基準点(第1点、第2点、および第3点)のX座標およびY座標が同一であって、Z座標が異なる点となる。したがって、誤差算出部214は、設計形状データと実形状データとのZ座標の差分から各基準点からのそれぞれの対応点までの各変位ベクトルを算出することができる。
【0027】
変位推定部215は、前記各基準点(第1点、第2点、および第3点)からそれぞれの対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定するものであり、推定手段として機能する。なお、変位推定部215により、三次元方向の変位を推定する詳細な方法は後述する。
【0028】
NCデータ設定部216は、金型を加工するための加工データ(NCデータ)が設定されているものである。ここで、NCデータは、入力部26またはインターフェイス27を介して設定され、機械加工機2で使用する工具の移動軌跡を数値情報として示したデータである。なお、NCデータは、たとえば、以前に加工した際の金型1のNCデータを用いたりすることができる。
【0029】
NCデータ修正部217は、推定された母材の三次元方向の変位に基づいてNCデータを修正するものであり、修正手段として機能する。NCデータ修正部217は、現在の数値情報として予め設定されているNCデータを、変位推定部215によって推定された三次元方向の変位に基づいて、新たなNCデータに修正する。
【0030】
加工命令部218は、修正されたNCデータにしたがって溶接材部分を加工する加工手段を制御するものであり、制御手段として機能する。加工手段は、機械加工機2に備えられているサーボモータ4がその役割を担い、加工命令部218からの加工命令によってサーボモータ4が駆動されることで形状修正対象物を加工する手段である。サーボモータ4は、たとえば、ドリルなどに代表される切削用工具の刃先の動作を動かすことによって、金型に肉盛された溶接材を加工するものである。
【0031】
ここで、図8を参照して、金型1の設計形状データと実形状データとの三次元方向の変位(移動量)を推定する方法を簡単に説明しておく。
【0032】
金型1の設計形状データと実形状データとの三次元方向の変位(移動量)の推定する方法は、従来から知られている、物体の移動前と移動後との変位を幾何学的に計算する方法を適用することによって達成することができる。
【0033】
図8は、三次元方向の変位を推定する方法を容易に理解できるように簡略化した物体の一例を示したものであり、物体を一の方向(たとえば、Z軸方向)から見た平面図である。図9(a)は、図8のZ軸方向と平行にC−C線に沿って切断した断面図であり、図9(b)は、図8のZ軸方向と平行にD−D線に沿って切断した断面図であり、図9の実線は物体の移動後、図9の斜線は物体の移動前を表している。
【0034】
具体的に説明すると、図9(a)において、C−C断面での接線方向が互いに異なる任意の二つの点(Q1,Q2)からZ軸方向上に位置する移動後の二つの対応点(Q1’,Q2’)までのZ軸方向の移動量(ベクトル)に基づいて、点Q1,Q2における法線方向の移動量(N1,N2)を算出する。なお、法線方向の移動量の算出は、従来から知られているベクトル解析などの一般的な幾何学的手法によって算出することができるので、詳細な説明は省略する。
【0035】
次いで、法線方向の移動量(N1,N2)を算出した後、各移動量から、図10に示すように、一般的な幾何学的手法によって、物体の移動前と移動後の移動量A1を求めることができる。その移動量A1は、下記の数式(1)で表すことができる。
【0036】
【数1】
【0037】
その結果、図11(a)に示すように、物体の移動前から移動後のZ軸方向の移動量Z1、およびZ軸方向と垂直をなすC−C断面方向の移動量S1を求めることができる。
【0038】
次いで、図9(b)において、移動前の任意の一つの点(Q3)からZ軸方向上に位置する移動後の一つの対応点(Q3’)までのZ軸方向の移動量に基づいて、点Q3における法線方向の移動量(ベクトル)N3を算出する。ここで、図9(a)および図9(b)に示す断面図が、Z軸方向と平行に切断していることから、物体の移動前と移動後とのZ軸方向の移動量は、図9(a)と図9(b)との断面で一致する。したがって、Z軸方向と垂直をなす一方向との移動量S2は、図11(b)に示すように、上記で算出したZ軸方向の移動量Z1、および点Q3の法線方向の移動量N3によって、一般的な幾何学的手法により求めることができる。その結果、図12に示すように、上記で求めたC−C断面方向の移動量S1およびD−D断面方向の移動量S2を合成した移動量S3が、物体の移動前から移動後のXY平面における移動量となり、Z軸方向の移動量Z1と合わせて、物体の移動前から移動後の三次元的な変位の推移を求めることができる。
【0039】
したがって、物体の移動前と移動後との変位を幾何学的に算出する方法と同様に、本実施の形態においては、金型1の設計形状データと実形状データとの三次元方向の変位を推定するに際して、金型1の設計形状データ(物体の移動前)および実形状データ(移動後)を、上述した方法によって求めることができる。
【0040】
したがって、従来の形状加工方法では、測定した形状と設計形状とのずれを一方向のみのずれ(たとえば、Z軸方向)としてのみNCデータを作成し、測定のずれが、横軸方向のずれによって生じたもの(図13(a)参照)なのか、または縦軸方向のずれによって生じたもの(図13(b)参照)なのかを把握することができず、三次元的なずれを正確に推定することができなかったが、本実施の形態では、上述した方法を用いることで、三次元的なずれを正確に推定することができる。この結果、機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができるようになる。
【0041】
以上のように構成された形状加工システムを用いて、本実施の形態に係る形状加工方法が実行される。
【0042】
次に、図14に示すフローチャートに基づいて、本実施の形態の形状加工方法を説明する。以下の処理は、CPU21が主として実行する。図14は、本実施の形態の形状加工システムの処理内容を示すフローチャートである。
【0043】
まず、CPU21は、金型1の設計形状を設定する(ステップS1)。この設計形状のデータは、上述のように、たとえば、所望の金型1の形状の三次元データ、および溶接材を母材上に肉盛りする範囲などのデータであって、入力部26または/およびインターフェイス27を介して外部から入力される。
【0044】
次いで、CPU21は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で金型1の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とをそれぞれ基準点として設計形状上で設定する処理を実行する(ステップS2)。
【0045】
ここで、本実施の形態における基準点(第1点〜第3点)は、各基準点に対応する対応点を測定するために、非加工領域で設定される必要があることはもちろんであるが、さらに、金型1の母材の表面において、変化が突飛な凸形状および凹形状と、後の処理で使用する測定器3の先端部分が入らない凹形状とを考慮し、基準点に対応する対応点を測定するのに適さない領域を除いた範囲で設定されることが望ましい。
【0046】
すなわち、基準点を設定する領域として、図15(a)に示すように、変化が突飛な凸形状を有する領域である場合、基準点からその基準点に対応する実形状の対応点へのベクトルの算出が正確にできないおそれがある。また、基準点を設定する領域として、図15(b)に示すように、測定器3の金型1の母材と接触して測定する先端部分が入らない凹形状を有する範囲においても、前記基準点に対応する対応点を測定することが不可能なおそれがあり、基準点の設定には望ましくない。したがって、基準点を設定する領域としては、図15(c)に示すように、たとえば、すべてが緩やかな凸形状の場合が望ましい。
【0047】
したがって、図16(a)および図16(b)に示すように、設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と所定の区間に対応するオフセット形状の区間の距離との比率を算出し、前記比率が大きい領域は、基準点を設定する領域として除き、図16(c)に示すように、前記比率が小さい領域は、基準点を設定する領域とする。
【0048】
以下、基準点を設定する領域として望ましい領域を判定する手法を、図17〜図20を参照しつつ、詳細に説明する。
【0049】
まず、図17(a)に示すように、基準点を設定しない領域の対象とする凸形状(凸円弧)の凸部最小半径R1を定めて、母材の表面上においてその表面の法線方向に一定量オフセットさせ、設計形状データにおける所定の区間Lと、その所定の区間に対応するオフセット形状の区間Laとによって、最大拡大率(La/L)を設定する。また、図17(b)に示すように、基準点を設定しない領域の対象とする凹形状(凹円弧)の凹部最小半径R2を定めて、最大拡大率の設定と同様に最小縮小率(Lb/L)を設定する。なお、凹部最小半径R2は、測定器3の先端部分の半径を考慮して定める必要がある。
【0050】
そして、図18(a)に示すように、ある所定の区間Lに対応する法線方向にオフセットさせた区間L1において、最大拡大率よりその拡大率(L1/L)が大きければ、変化が突飛な凸形状(以下、「凸部円弧」と称する)であるとして、基準点を設定する領域外と判定され、図18(b)に示すように、最大拡大率よりその拡大率(L1/L)が小さければ、基準点を設定する対象形状であるとして、基準点を設定する対象の領域と判定される。
【0051】
凸形状の場合と同様に、凹形状の場合も、図18(c)に示すように、ある所定の区間Lに対応する法線方向にオフセットさせた区間L2において、最小縮小率よりその縮小率(L2/L)が大きければ、基準点を設定する領域の対象外の凹形状(以下、「凹部円弧」と称する)であるとして、基準点を設定する領域外と判定され、図18(d)に示すように、最小縮小率よりその縮小率(L2/L)が小さければ、基準点を設定する対象形状であるとして、基準点を設定する対象の領域と判定される。
【0052】
ここで、基準点を設定する領域として望ましい領域を判定する手法の一例として、図19(a)に示す形状で説明する。図19(b)に示すように、設計形状から法線方向にオフセットさせた場合、たとえば、L1〜L5において、基準点を設定する領域かを判定すると、凸形状の判定として、L2/L2’は最大拡大率より小さく基準点を設定する対象の領域となり、L3/L3’およびL4/L4’は最大拡大率より大きく凸部円弧と判定される。また、凹形状の判定として、L1/L1’は最小縮小率より大きく基準点を設定する対象の領域となり、L5/L5’は最小縮小率より小さく凹部円弧と判定される。その結果、図20に示すように、基準点を設定する対象領域が定まり、凸部円弧および凹部円弧を除いた領域の中から傾斜の最も緩やかな位置で基準点を設定することができる。
【0053】
以上より、基準点の設定すべき領域(以下、「基準点設定対象領域」)は、凸部円弧および凹部円弧を除いた領域、かつ、金型1の母材に溶接材が肉盛りされていない非加工領域であることが望ましい。
【0054】
基準点の設定は、図21に示すフローチャートにしたがって実行する。基準点の設定は、まず、金型1の設計形状データから、加工領域に位置する一つの構成点Pが選択され、その選択された構成点Pを主構成点P1として設定する(ステップS21)。主構成点P1を選択する方法としては、たとえば、加工領域周辺を含めた三次元的な移動量を求めるために、加工領域の中心付近で選択されることが望ましく、任意に設定することができる。また、主構成点P1は、以前の形状加工した経験に基づき、設定されることもできる。
【0055】
次いで、主構成点P1を含むようにZ軸方向と平行な一断面を選択する(ステップS22)。
【0056】
次いで、基準点設定対称領域で、選択された母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度θ1[1]および最小の角度θ2[1]を算出する(ステップS23)。ここで、角度の算出は、各構成点は座標であらわすことができるため、その一つの構成点の座標とその構成点に隣接する構成点の座標とから計算して一般的に知られている方法で算出することができる。
【0057】
次いで、最大の角度θ1[1]および最小の角度θ2[1]との角度差a[1]を算出する(ステップS24)。
【0058】
次いで、角度差a[1]をRAMメモリに保存(記憶)する(ステップS25)。
【0059】
次いで、主構成点P1を中心にZ軸方向と平行な一断面を回転させて、同様に角度差を算出する処理をN回繰り返す(ステップS26:No)。角度差を算出する処理をN回繰り返した後(ステップS26:Yes)、角度差a[1]〜a[N]の中で、最大の角度差を有した一断面を第1の断面として設定する(ステップS27)。次いで、設定された第1の断面の最大の角度θ1および最小の角度θ2を有したそれぞれの構成点を、基準点(第1点、第2点)として設定する(ステップS28)。
【0060】
次いで、主構成点P1において第1の断面と交差する第2の断面を設定する(ステップS29)。
【0061】
次いで、設定された第2の断面の最大の角度θ3を有する構成点を、基準点(第3点)として設定する(ステップS30)。
【0062】
図14に戻り、上述のように基準点(第1点〜第3点)が設定された後、CPU21は、機械加工機2に組み付けられた金型1の溶接材が肉盛りされた領域の近傍(基準点設定対称領域)で母材形状を測定する処理を実行する(ステップS3)。
【0063】
次いで、CPU21は、ステップS3で得られた測定結果から、図5および図6に示すとおり、それぞれの断面での各基準点から一方向(たとえば、Z軸方向)上に位置する各対応点を母材形状上で算出する処理を実行する(ステップS4)。
【0064】
次いで、CPU21は、各基準点からそれぞれの対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する(ステップS5)。この変位の推定方法は、上述で説明した物体の移動前から移動後の変位(移動量)を三次元的に求める方法を用いることができる。すなわち、図5および図6に示すように、第1点、第2点、および第3点の各基準点から、Z軸方向に位置するそれぞれの対応点までの各ベクトルから、各基準点における法線方向のベクトルを算出し、そのベクトルを合成することで、設計形状データから実形状データへの三次元的なずれを算出することができる。
【0065】
次いで、CPU21は、金型1の溶接材を加工するために取得したNCデータから、推定された母材の三次元方向の変位に基づいてNCデータを修正する処理を実行する(ステップS6)。
【0066】
次いで、CPU21は、サーボモータ4が修正されたNCデータに基づいて溶接材部分を加工するために、サーボモータ4に加工命令の処理を実行する(ステップS7)。
【0067】
以上のように、本実施形態の形状加工システムによれば、第1の断面は、溶接材が肉盛りされた領域の近傍で母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度と最小の角度との角度差が最大となる断面であることによって、比較する傾斜角度の差が最大となり、ベクトルの合成・分解の誤差を最小にすることができる。
【0068】
さらに、第1の断面と第2の断面とが直交することによって、比較する傾斜角度の差が最大となり、ベクトルの合成・分解の誤差を最小にすることができる。
【0069】
さらに、設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と前記所定の区間に対応する前記オフセット形状の区間の距離との比率を算出し、前記比率が所定の範囲内にある位置で、前記第1点、第2点、および第3点を基準点として設定することによって、測定不可能な領域を除くことができる。
【0070】
この結果、本実施形態の形状加工システムによれば、実際の肉盛りされた形状修正対象物の形状と設計形状との三次元的な変位を、溶接材が肉盛りされた領域の近傍を測定し、その測定結果から推定することで、機械加工機の加工の精度をあげて、手作業による仕上げ工程を省略もしくは軽減することができる。
【0071】
以上のように本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるべきものではなく、特許請求の範囲に表現された思想および範囲を逸脱することなく、種々の変形、追加、および省略が当業者によって可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態の形状加工システムの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の形状加工システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態に係る機械加工機2の形状修正加工の処理を実行する各部を示すブロック図である。
【図4】本実施形態の形状加工システムで仕様する設計形状データの概略図の一例である。
【図5】図4のA−A線に沿って切断した断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿って切断した断面図である。
【図7】金型の形状を測定器によって測定する様子を示す図である。
【図8】三次元方向の変位を推定する方法を容易に理解できるように簡略化した物体の一例の平面図である。
【図9】図8のZ軸方向と平行にC−C線に沿って切断した断面図である。
【図10】図8のZ軸方向と平行にD−D線に沿って切断した断面図である。
【図11】三次元方向の変位を推定するための図である。
【図12】三次元方向の変位を推定するための図である。
【図13】従来の形状修正加工方法の問題点を説明するための図である。
【図14】本実施の形態の形状加工システムの処理内容を示すフローチャートである。
【図15】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図16】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図17】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図18】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図19】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図20】基準点を設定する対象となる領域の判定を説明するための図である。
【図21】基準点の設定手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0073】
3 測定器、
4 サーボモータ、
211 設計形状設定部、
212 基準点設定部、
213 形状測定部、
214 誤差算出部、
215 変位推定部、
216 NCデータ設定部、
217 NCデータ修正部、
218 加工命令部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工する方法であって、
前記母材の設計形状を設定する設計形状設定段階と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とをそれぞれ基準点として前記設計形状上で設定する基準点設定段階と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定段階と、
前記測定結果から、それぞれの断面での前記各基準点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出段階と、
前記各基準点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定段階と、
前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正段階と、
前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工段階と、
を有する形状加工方法。
【請求項2】
前記第1の断面は、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度と最小の角度との角度差が最大となる断面であり、
前記第1点は前記傾斜角度が最大の角度を有する点、および前記第2点は前記傾斜角度が最小の角度を有する点であることを特徴とする請求項1に記載の形状加工方法。
【請求項3】
前記第1の断面と前記第2の断面とは直交することを特徴とする請求項2に記載の形状加工方法。
【請求項4】
前記第3点は、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記第2の断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度を有する点であることを特徴とする請求項3に記載の形状加工方法。
【請求項5】
前記基準点設定段階は、前記設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と前記所定の区間に対応する前記オフセット形状の区間の距離との比率を算出し、前記比率が所定の範囲内にある位置で、前記第1点、第2点、および第3点を基準点として設定することを特徴とする請求項1に記載の形状加工方法。
【請求項6】
前記形状修正対象物は、プレス用金型であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の形状加工方法。
【請求項7】
形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工するシステムであって、
前記母材の設計形状を入力する入力手段と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とを前記設計形状上で設定する設定手段と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定手段と、
前記測定結果から、それぞれの断面での前記第1点、第2点、および第3点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出手段と、
前記第1点、第2点、および第3点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定手段と、
前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正手段と、
前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工手段と、
を有する形状加工システム。
【請求項1】
形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工する方法であって、
前記母材の設計形状を設定する設計形状設定段階と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とをそれぞれ基準点として前記設計形状上で設定する基準点設定段階と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定段階と、
前記測定結果から、それぞれの断面での前記各基準点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出段階と、
前記各基準点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定段階と、
前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正段階と、
前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工段階と、
を有する形状加工方法。
【請求項2】
前記第1の断面は、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の一断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度と最小の角度との角度差が最大となる断面であり、
前記第1点は前記傾斜角度が最大の角度を有する点、および前記第2点は前記傾斜角度が最小の角度を有する点であることを特徴とする請求項1に記載の形状加工方法。
【請求項3】
前記第1の断面と前記第2の断面とは直交することを特徴とする請求項2に記載の形状加工方法。
【請求項4】
前記第3点は、前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記第2の断面での接線方向の傾斜角度が最大の角度を有する点であることを特徴とする請求項3に記載の形状加工方法。
【請求項5】
前記基準点設定段階は、前記設計形状から法線方向に一定量オフセットさせたオフセット形状を算出し、設計形状における所定の区間の距離と前記所定の区間に対応する前記オフセット形状の区間の距離との比率を算出し、前記比率が所定の範囲内にある位置で、前記第1点、第2点、および第3点を基準点として設定することを特徴とする請求項1に記載の形状加工方法。
【請求項6】
前記形状修正対象物は、プレス用金型であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の形状加工方法。
【請求項7】
形状修正対象物の母材上に溶接材を肉盛りし、前記肉盛りされた溶接材部分を加工するシステムであって、
前記母材の設計形状を入力する入力手段と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材の第1の断面での接線方向が互いに異なる少なくとも二つの第1点および第2点と、前記第1の断面と交差する第2の断面での少なくとも一つの第3点とを前記設計形状上で設定する設定手段と、
前記溶接材が肉盛りされた領域の近傍で前記母材形状を測定する測定手段と、
前記測定結果から、それぞれの断面での前記第1点、第2点、および第3点から一方向上に位置する各対応点を前記母材形状上で算出する算出手段と、
前記第1点、第2点、および第3点からそれぞれの前記対応点までの各変位ベクトルから母材の三次元方向の変位を推定する推定手段と、
前記推定された母材の三次元方向の変位に基づいて加工データを修正する修正手段と、
前記修正された加工データにしたがって前記溶接材部分を加工する加工手段と、
を有する形状加工システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2008−126338(P2008−126338A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311923(P2006−311923)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
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