説明

形状記憶ゴム成形体、その製造方法及びその中間混練物

【課題】発現する形状記憶性が高く、保持した変形状体の解除の設定の自由度が高く、簡便に製造可能な形状記憶ゴム成形体を提供すること。
【解決手段】本発明の形状記憶ゴム成形体1は、ゴムと結晶性の非高分子化合物とを含む混練物からなる。該混練物から得られた成形体中のゴムが架橋している。形状記憶ゴム成形体1は、非高分子化合物の結晶化により変形状態を保持し、保持した変形状態を非高分子化合物の融解により解除する。非高分子化合物はワックスであることが好ましい。形状記憶ゴム成形体1は、架橋剤を含んでいることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶ゴム成形体、その製造方法及びその中間混練物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子化合物においても、特定の温度条件下等の雰囲気とすることで、その変形状態が回復するいわゆる形状記憶性樹脂が数多く提案されている。これらの形状記憶性樹脂のうち、エラストマーやゴムに形状記憶性を発現させものについては、例えば、下記特許文献1及び2に記載の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、形状記憶性のない非熱可塑性エラストマーにそれよりもガラス転移温度又は融点が高い樹脂を含ませることで、形状記憶性を発現させたものである。また、特許文献2に記載の技術は、架橋性ゴムにビカット軟化点が特定の範囲にある樹脂を粒状にして混練分散させて架橋させることで、形状記憶性を発現させたものである。
【0004】
ところで、上記特許文献1及び2に記載の技術では、変形率が低く、発現される形状記憶性が高いものではなく、回復の速度も遅く、元の形状への回復性も十分ではなかった。また、保持した変形状態を解除させるための温度設定の自由度も高いものではなかった。
【0005】
上述の技術とは別に、架橋ゴムからなるフォーム材に、結晶性熱可塑性樹脂及びワックスを含浸させてなる感熱膨張材が提案されている。この感熱膨張材は、結晶性熱可塑性樹脂及びワックスが含浸された状態のフォーム材を熱プレスで圧縮し、次いで冷却して得られる。この感熱膨張材は、常温では圧縮状態が保持されるとともに、加熱により圧縮状態が開放されて膨張するという形状記憶性を有する。つまり、気泡がつぶれて気泡内壁どうしが熱可塑性樹脂で接着されることによって変形状態を維持するという現象を利用している。しかしこの感熱膨張材は次の課題を有する。(1)気泡内壁どうしが接触するまでの大きな変形を行わなければ変形状態を維持できず、小さな変形量では形状記憶性を発現しない。(2)架橋ゴムと結晶性熱可塑性樹脂とワックスとの接着性が低いと良好な形状記憶性が得られない。(3)予め製造された架橋ゴムからなるフォーム材に熱可塑性樹脂及びワックスを含浸させるため、フォーム材の厚みや形状によってはフォーム材内部の気泡に均一に含浸ができず、必要な形状記憶性を得ることができない。(4)気泡中の樹脂とワックスの量が少ないと変形状態の記憶保持性が悪くなり、逆に樹脂とワックスの量が多いと元の形状への回復性が悪くなる。以上のようにフォーム材の気泡中に熱可塑性樹脂が含まれていることに起因して、形状記憶性は十分に高いものとは言えない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−10819号公報
【特許文献2】特開平9−309986号公報
【特許文献3】特開平2004−276377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、発現する形状記憶性が高く(高い変形率、回復速度、小さい残留歪等)、保持した変形状体の解除の設定の自由度が高く(複雑な形状へ変形・保持した成形体の変形解除の温度設定範囲が広く)、簡便に製造可能な形状記憶ゴム成形体、その製造方法及びその中間混練物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴムと結晶性の非高分子化合物とを含む混練物からなり、該混練物から得られた成形体中の該ゴムが架橋している形状記憶ゴム成形体であって、
前記非高分子化合物の結晶化により前記形状記憶ゴム成形体の変形状態を保持し、保持した前記変形状態を前記非高分子化合物の融解により解除する形状記憶ゴム成形体を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0009】
また本発明は、前記の形状記憶ゴム成形体用の中間混練物であって、
ゴムと結晶性の非高分子化合物とを含み、該非高分子化合物が結晶化した状態において、該ゴムと該非高分子化合物とが微細に相分離しており、
前記ゴムが未架橋である形状記憶ゴム成形体用の中間混練物を提供するものである。
【0010】
また本発明は、ゴムと結晶性の非高分子化合物とを、該非高分子化合物の下記ただし書の方法で求められる融解完了温度未満において混練して中間混練物を調製した後、前記ゴムを架橋させて得られた形状記憶ゴム成形体を提供するものである。
ただし、融解完了温度は、JIS K7121に準じて非高分子化合物のDSC(示差走査熱量計)測定により得た融解曲線における融解ピークの高温側のベースラインの接線と、ピークの高温側傾斜ラインの1/5ピーク高さに位置する点の接線とが交差する点の温度を融解完了温度とし、複数のピークが存在する場合は、最も高温側に位置するピークを選択して、融解完了温度を求める。
【0011】
また本発明は、ゴムと結晶性の非高分子化合物と架橋剤とを、該非高分子化合物の融解完了温度未満において混練して中間混練物を調製した後、該中間混練物を成形し、次いで前記ゴムを架橋させる形状記憶ゴム成形体の製造方法を提供するものである。
【0012】
更に本発明は、ゴムと結晶性の非高分子化合物と架橋剤とを、該非高分子化合物の融解完了温度未満において混練して中間混練物を調製した後、該中間混練物を成形し、成形と同時に前記ゴムを架橋させるか、又は成形後に前記ゴムを架橋させる形状記憶ゴム成形体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発現する形状記憶性が高く、保持した変形状体の解除の設定の自由度が高く、簡便に製造可能な形状記憶ゴム成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0015】
先ず、本発明の形状記憶ゴム成形体(以下、単にゴム成形体とも言う。)を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態の形状記憶ゴム成形体は、ゴムと結晶性の非高分子化合物とを含む混練物からなり、該混練物から得られた成形体中の該ゴムが架橋している。ゴム成形体においては、非高分子化合物の融解温度以上における変形状態を、該非高分子化合物の結晶化により保持し、保持した該変形状態を該非高分子化合物の融解温度以上の加熱により解除する。本実施形態のゴム成形体に対して加える変形には、例えば引っ張り、曲げ若しくはひねり又はそれらの組み合わせ等が含まれる。
【0017】
本実施形態のゴム成形体においては、ゴムと非高分子化合物とが、微細に分散混練された混練物の状態になっている。ゴム成形体において、非高分子物質の比率が高すぎると、ゴムの架橋が不十分となるとともに、強度を支える成分であるゴムの量が少なくなるので、ゴム成形体の強度(破断強度、弾性率等)が低下し、後述の残留歪が大きくなる傾向にある。一方、形状記憶性を担う成分である非高分子物質が少なすぎると、ゴム成形体の伸度と形状保持性能が低下する傾向にある。これらを考慮すると、ゴムと非高分子化合物の合計質量に対して、非高分子化合物の比率を10〜90質量%とすることが好ましく、20〜80質量%とすることがより好ましい。
【0018】
本実施形態のゴム成形体においては、ゴムが架橋している。ゴムの架橋の度合い(以下、架橋度とも言う)は、当該ゴム成形体の使用目的に応じて設定される。変形の伸度を高くしたり弾性率を低くしたい場合には架橋度を低くし、破断強度や弾性率を高くしたい場合には架橋度を高くすることができる。ここで、ゴムの架橋の有無や度合いは、添加する架橋剤の量、架橋反応を生じさせるために与えるエネルギー(熱、光、電子線等)の強さや量でコントロール可能であり、破断伸度や弾性率等の力学的物性や溶媒への溶解性の評価や、また核磁気共鳴装置等により判定することができる。また、共有結合による架橋ではなく、スチレン系やオレフィン系等の熱可塑性ゴムで一般的な手法である、ゴム状態を示す相と相分離して微細に存在する結晶状態又はガラス状態の領域で物理的に架橋する手法を選択してもよい。
【0019】
本実施形態のゴム成形体に含ませるゴムに特に制限はなく、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム等のジエン系ゴム(ゴム成分の主鎖に二重結合を含むゴム)、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、オレフィン系ゴム、スチレン系ゴム、塩化ビニル系ゴム、ウレタン系ゴム、ポリエステル系ゴム、アミド系ゴム等の非ジエン系ゴム(ゴム成分の主鎖に二重結合を含まないゴム)を、一種又は二種以上を選択して使用することができる。中でも、架橋を行いやすいジエン系ゴムが好ましく用いられ、特に天然ゴム、合成イソプレンゴム及びブタジエンゴムが非高分子化合物との混練性等の点から特に好ましい。臭いや色、含まれるタンパクによるアレルギーなどの点を考慮すると、天然ゴムよりも合成イソプレンゴム又はブタジエンゴムがより好ましい。本発明によれば、天然ゴム、合成イソプレンゴム又はブタジエンゴム等のゴムと非高分子化合物とを混練することで、従来得られなかった物性改質効果を有するゴム成形体を、溶剤等を用いることなしに製造することができる。特に、非高分子化合物とゴムとを、後述する本発明の製造方法に従い混練することで、ゴムと非高分子化合物とを微視的レベルで極めて均一に混練させることが可能となる。このことは、得られるゴム成形体の溶融粘度を非常に高くしたり、非高分子化合物の融点未満でのゴム成形体の脆さを大きく改善したりするなどの有利な効果をもたらす。また本実施形態のゴム成形体は均一な混練物から得られたものなので、一般的なゴムやプラスチックの成形技術を利用して任意の形状に成形し、架橋することで様々な形態・形状の製品とすることができる。
【0020】
図7は、後述する本発明の製造方法で製造したポリイソプレン(ゴムの一種)とマイクロクリスタリンワックス(非高分子化合物の一種)が30:70の質量比で含まれている混練物(後述する実施例1における架橋剤等を添加する前の中間混練物)の透過型電子顕微鏡による内部構造の観察像である。使用した透過型電子顕微鏡は日立製H−7100FA型である。加速電圧は100kVとした。観察においては、常温にて超薄切片を切削後、OsO4及びRuO4にて染色した試料を用いた。同図から明らかなように、中間混練物は、マイクロクリスタリンワックス(非高分子化合物)が結晶化した状態において、ポリイソプレン(ゴム)とマイクロクリスタリンワックス(非高分子化合物)とが微細に分散した相分離構造を有している。この状態においては、ポリイソプレン(ゴム)は未架橋である。透過型電子顕微鏡の観察像においてポリイソプレン及び/又はマイクロクリスタリンワックスの分散の大きさは、好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下、一層好ましくは10μm以下である。この場合、ポリイソプレン又はマイクロクリスタリンワックスの小さく分散している相を選択し、その相のサイズを計測して分散の大きさを求める。もし相の形状が楕円や板状等の異方的な形態を有する場合には、短軸又は短辺等の小さなサイズを有する方向で計測する。この観察像から、ポリイソプレンの分散の大きさが1μm以下である非常に微細な分散状態が得られていることが判る。また、マイクロクリスタリンワックスの相は、ワックスの結晶に見られるラメラ晶を形成していることが確認される。このように、中間混練物は、微細な分散構造を有することから、非高分子化合物の融点以上に加熱し、更に圧縮や延伸等の大きな変形を加えても、ゴムと非高分子化合物が分離して非高分子化合物の融液が滲み出してくることはほとんどない。その結果、本実施形態のゴム成形体は、加熱、冷却及び変形を繰り返し加えても安定した形状記憶性と力学物性とを保持することが可能である。
【0021】
ゴム成形体は、これを非高分子化合物の融解温度以上に保たれた、非高分子化合物の溶解しない液体に浸漬した後の質量減少率が、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、一層好ましくは3質量%以下である。質量減少率(質量%)は、ゴムと非高分子化合物の合計質量に対する非高分子化合物の比率をR(質量%)として、下記の式により求める。
((浸漬前質量−浸漬後質量)/(浸漬前質量×(R/100)))×100
この条件を満たすことで、ゴム成形体を、例えばお湯の中で加熱して変形させ、次いで冷水中で変形状態を固定することができる。用いる液体としては、例えば親油性の非高分子化合物を用いた場合には水が挙げられる。親水性の非高分子化合物を用いた場合にはパラフィンオイル等の油が挙げられる。この評価において質量減少率が上述の好ましい範囲を満たしていることは、本実施形態のゴム成形体が、前記のような好ましい構造及び性能を有することを判断するための一つの指標となる。前記液体の温度は、非高分子化合物の融解温度以上で、かつ融解温度+30℃以下とすることが好ましい。また、前記液体中での浸漬時間は10分とする。
【0022】
これに対して、上述した特許文献3に記載の技術のように、架橋ゴムからなるフォーム材の細孔中にワックスを含浸させた場合には、先に述べた(1)〜(4)の課題に加え、ワックスが溶融した状態でフォーム材を変形させると、気泡中からワックスが絞り出されて周囲を汚染することがあるという課題がある。それを回避するために、含浸させる樹脂やワックスの量を少なくすると、気泡内壁どうしの十分な接着力が得られず、変形状態を安定に維持することが困難になるという不都合がある。また架橋ゴムからなるフォームを製造した後に樹脂とワックスを含浸するという工程を経るので、加工性の自由度が低く、かつコストも高くなってしまうという不都合もある。
【0023】
本実施形態のゴム成形体に含ませる結晶性の非高分子化合物とは、重量平均分子量が10000以下である結晶性の化合物のことを言う。重量平均分子量が10000以下であると、ゴムとの相溶性が良く、変形状態を解除する時間が短く、残留歪を小さく、したがって、元の形状への回復性が向上するが、該重量平均分子量が5000以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。また、重量平均分子量が小さすぎると、非高分子化合物の融点が低くなるので、通常環境下で使用を前提とする場合には、重量平均分子量の下限値は100以上が好ましく、200以上であることがより好ましい。本明細書において、非高分子化合物が結晶性であるとは、結晶化温度以下において結晶を形成して固体となり、融解温度以上において結晶が融解して液体となる相転移を可逆的に生じる性質を有することを言う。結晶性の有無を確認する手法としては、X線回折法等の構造解析手段、示差走査型熱量計等の熱分析手段といった一般的な手法を用いることができる。
【0024】
なお、前記非高分子化合物の選定においては、非高分子化合物の融解温度以上において、使用するゴムとの相溶性が良好であることが好ましい。また、ゴム成形体の使用目的に応じて次の(1)〜(3)の点を考慮することが好ましい。
(1)融解することで低粘度の液体に相転移すること。粘度が低いことで、変形状態の解除が速やかに行われる。
非高分子化合物の融解により変形状態を解除するので、目的に応じて最適な融点と融解速度を選択すること。融点としては、一般的な実用性を考慮すると40〜300℃が好ましく、70〜200℃であることがより好ましい。また、低温で変形解除させることが必要な場合には、デカン(融点約−30℃)等の低融点のワックスを使用することも可能である。非高分子化合物が温度変化に対してシャープな融解挙動を示す場合には変形状態の解除が速やかに行われ、一方、温度変化に対してブロードな融解挙動を示す場合には変形状態の解除を緩やかに進行させることができる。
(2)非高分子化合物の結晶化により変形状態を固定するので、最適な結晶化温度と結晶化速度を選択することが好ましい。変形状態の固定を速やかに行うことを考えると、結晶化温度は融解温度に近く、シャープな融解挙動を示すことが好ましい。
(3)複数の非高分子化合物を使用することも可能である。複数の融解温度と結晶化温度持つ場合には、変形状態の解除等を複数の温度で段階的に生じさせることも可能となる。
【0025】
前記非高分子化合物としては、各種の結晶性の脂肪族系化合物や結晶性の芳香族系化合物等が挙げられる。これらの中でもゴムとの相溶性がよく混練が容易で、融解温度と融解温度分布の選択範囲が広いという点からワックスが好ましい。
【0026】
前記ワックスには、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックス等を用いることができる(例えば、府瀬川健蔵、「ワックスの性質と応用」、幸書房、1993年、改訂2版第1刷、2頁目、表1.0.1に記載されたワックスが使用可能である。)。該植物系ワックスとしては、ライスワックス、カルナバワックス、木ろう、キャンデリラワックス等が挙げられる。該動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ろう等が挙げられる。該石油系ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。該合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等が、該鉱物ワックスとしては、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等が挙げられる。これらのワックスはいずれも好ましく使用することができる。
【0027】
通常の環境での使用を考慮すると、ワックスは、JISK2235−5.3.2に記載の方法で測定された融点が40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。特に、低融点成分が少ないワックスを用いることが好ましい。この理由は、後述する製造方法に従いゴム成形体を製造するときに、十分な冷却能力を持つ混練機を使用できない場合には、混練時の剪断発熱による温度上昇でワックス中の低融点成分が融解してワックスの粘度が低下し、混練成分に十分な剪断力が加わらなくなるおそれがあるからである。同様の理由で、非晶成分が少ないワックスを用いることも好ましい。ただし、ゴム成形体の用途によっては、生活温度範囲(例えば−10〜40℃)である程度の粘着性を必要とする場合があるので、混練に大きな影響を与えない範囲で、適度な量の低融点成分や非晶成分を含有することが好ましい場合もある。
【0028】
前記ワックスは、一種又は二種以上を選択して使用することができる。また、ゴムに天然ゴム等のバイオマス由来のゴムを、ワックスにもライスワックス、カルナバワックス、油脂の誘導体として得られるワックス等のバイオマス由来ワックスを用いることで、温暖化ガス排出量を削減でき、かつ生分解性を有する環境適合性の高い形状記憶材料を得ることができる。
【0029】
なお、本発明で言うワックスとは、前記の府瀬川健蔵監修「ワックスの性質と応用」(幸書房発行、1993年)に記載の下記の定義に従う。
・ワックスとは、常温で固体又は半固体のアルキル基を持つ有機物のことを言う。
【0030】
本実施形態のゴム成形体は、後述のように溶剤を使用せずにゴムと非高分子化合物とを混練して得られるので、残留溶剤を実質的に含まないものとすることができる。したがって、残留溶剤の量は、検出可能な3ppm以下の濃度である。そのため、本発明のゴム成形体を用いた中間品や製品の製造工程において、労働環境を汚染することがないので極めて安全性が高い。また、本発明のゴム成形体は、食品その他の包装材料をはじめとする多くの分野において安全に利用することができる。
【0031】
本実施形態のゴム成形体には、前記ゴム及び前記非高分子化合物以外に、ゴムの架橋剤並びに該架橋剤の架橋助剤及び架橋促進剤を含ませることができる。
【0032】
前記架橋剤としては、従来からゴムの架橋に使用されているものを使用することができ、使用するゴムに合わせて適切なものを選択することが好ましい。架橋剤としては例えば、硫黄、一塩化硫黄、セレン、テルル、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、チウラムジスルフィド等のチウラム類、ジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩、p−キノンジオキシム等のオキシム類、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロベンゼン等のジニトロソ化合物、ペルオキシド等の有機化酸化物が挙げられる。天然ゴム、合成イソプレンゴム又はブタジエンゴムを用いる場合、好ましい架橋剤としては、硫黄、硫黄系化合物、有機化酸化物が挙げられる。架橋剤は一種又は二種以上を選択して使用することができる。架橋剤は、前記ゴム100質量部に対して0.5〜30質量部含ませることが好ましく、2〜10質量部含ませることがより好ましい。架橋剤が少なすぎると架橋反応が不均一になりやすく、多すぎるとゴムとしての弾性的な性質が損なわれやすい。
【0033】
前記架橋促進剤及び架橋促進助剤には、従来からゴムの架橋に使用されているものを使用することができる。例えば、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系などの架橋促進剤、及び金属酸化物、脂肪酸、アミン類などの架橋促進助剤が挙げられる。架橋促進剤及び架橋促進助剤はそれぞれ一種又は二種以上を選択して使用することができる。架橋促進剤及び架橋促進助剤の配合量は通常のゴムの架橋で用いられる範囲で好ましく使用できる。前記ゴム100質量部に対して0.05〜10質量部含ませることが好ましく、0.1〜7質量部含ませることがより好ましい。
【0034】
また、架橋剤を用いずに、熱以外の、架橋反応を生じさせるために与えるエネルギー(例えば電子線、光等)の照射によりゴムを架橋させることもできる。
【0035】
本実施形態のゴム成形体には、その効果や製造工程に影響を与えない範囲で、必要に応じ、更に、従来からゴムに添加されている、着色剤、酸化防止剤、カーボンブラックやシリカなどの汎用の補強剤(フィラー)、各種オイル、可塑剤などのゴム混練物用に一般的に配合されている各種添加剤を含ませることができる。上述した特許文献3に記載の結晶性熱可塑性樹脂が、本実施形態のゴム成形体又は中間混練物においてゴムとしての役割を担う成分ではない場合には、該結晶性熱可塑性樹脂は、本実施形態のゴム成形体に含まれないことが好ましい。
【0036】
本実施形態のゴム成形体は、一般的なゴム成形体と同様にその形態に特に制限はなく、棒状、繊維状等の一次元の形態、シート状、不織布、織布等の二次元の形態、或いは図1に示すような中空又は中実の管体や立方体、球体等の三次元(立体)の形態で提供される。またその大きさも、例えば1mm以下の粒子、幅1mを超える長尺のシート、自動車や航空機などに使用される大型の三次元成形体など幅広く設定することができる。
【0037】
本発明のゴム成形体は非高分子化合物の融解温度未満及び融解温度以上でゴム弾性を有する。通常は、融解温度以上での弾性率は、非高分子化合物が液体になるので、融解温度未満での弾性率に比べて低い。非高分子化合物の選定又は添加量によっては、非高分子化合物の融解温度以上の場合と、非高分子化合物の融解温度未満の場合とで、ゴム成形体の弾性率の差を大きくしたり、小さくしたりすることが可能である。したがって、形状記憶性以外にも、本発明のゴム成形体を、非高分子化合物の融解温度の前後で大きく弾性率が変化する弾性体として利用できる。この場合、例えば、非高分子化合物の融解温度未満での弾性率ELと融解温度以上での弾性率EHとの比EL/EHを5倍以上、更には10倍以上にすることが可能である。また、非高分子化合物の融解温度以上に加熱して融解させゴム成形体を変形させた状態で冷却し、変形状態を固定化したものもゴム弾性を示すようにすることも可能である。その場合、矩形に切り出したシートを一軸方向に2倍に変形した状態を保持したものを試験片としたとき、室温での同方向への変形可能倍率(破断せずに弾性変形可能な倍率)は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、そのときの残留歪は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。ただし、すでに一軸方向に延伸した状態で保持されているので、場合によっては残留歪がマイナスになることもある。
【0038】
本実施形態のゴム成形体は、その形態、用途などに応じて前記非高分子化合物の融解温度以上に加熱して該非高分子化合物を融解させ、次いで該ゴム成形体を変形させた状態で冷却し、変形状態を固定化したときの変形倍率を任意に設定することができる。この場合の変形倍率は、少なくとも、一次元の変形倍率で1.1〜10倍、更には1.5〜5倍に変形できるように設定することが好ましい。
【0039】
本実施形態のゴム成形体は、上述のように、変形させた後、前記非高分子化合物の融解温度未満に冷却して結晶化させると、前記変形状態が保持される。変形状態を解除する場合には、前記非高分子化合物を融解させる。
【0040】
本実施形態のゴム成形体は、前記変形状態の解除に伴う形状の残留歪の大きさを架橋の程度などにより任意に設定することができる。目的によっては残留歪を大きめに設定することも可能であるが、一般的には残留歪は小さな方が好ましいことが多い。変形量が大きいほど、また変形回数が多いほど永久歪も大きくなりやすい。一次元の伸長により3倍以上の長さに変形状態を保持し、その後に変形状態を解除した場合、残留歪は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、更には10%以下であることが一層好ましい。残留歪ε(単位%)は、初期サンプル長L0、変形解除後のサンプル長Lとすると次の式で求められる。
ε=((L−L0)/L0)×100。
【0041】
次に、本発明のゴム成形体の製造方法を、前記実施形態のゴム成形体の製造方法に適用した実施形態に基づいて説明する。
【0042】
本実施形態のゴム成形体の製造方法においては、ゴムと結晶性の非高分子化合物と架橋剤とを、該非高分子化合物の融解完了温度未満において混練して中間混練物を調製した後、該中間混練物を成形し、次いで前記ゴムを架橋させる。
【0043】
前述のように、架橋促進助剤又は架橋促進剤を加える場合には、前記融解完了温度未満で、かつ架橋剤の架橋温度未満において、前記ゴム、前記非高分子化合物及び前記架橋剤とともに混練することが好ましい。この製造方法の場合、低温で均一な混練を行うことができるので、架橋反応を進行させずに架橋剤や架橋促進助剤及び架橋促進剤等の添加剤を良好に分散させることができるので、工業的な製造方法として極めて有用である。この場合、混練時の発熱などにより前記の添加剤が劣化したり、架橋反応が進行したりすることをより一層抑制するために、予め前記ゴムと前記非高分子化合物のみをある程度以上混練した後に、架橋剤等を投入して混練することがより好ましい。
【0044】
本実施形態のゴム成形体の製造方法では、前記各成分を前記配合で前記非高分子化合物の融解完了温度未満の温度、好ましくはDSC測定により得た融解曲線から求めた融解ピーク温度以下の温度で各種の混練機の機械力によって混練することが好ましい。融解ピークが複数ある場合は、融解熱量の最も大きなピークのピーク温度以下で混練することが好ましい。該非高分子化合物の融解温度以上の温度で該非高分子化合物と各成分とを混練すると、非高分子化合物の融解により非高分子化合物の粘度が急激に低下するため、混練成分に十分な剪断力が加わらないので、混練が不十分となり均一な混練物を得ることが困難となる。非高分子化合物の融解完了温度未満の温度で混練することで、未融解状態の非高分子化合物の結晶が残っているので、非高分子化合物を見かけ上高粘度の流動体として扱うことができる。その結果、一般的に行われているプラスチック材料のコンパウンドと同様の方法により、原料の混練を行うことができる。混練温度の下限値は、ゴムが流動性を示す温度(ガラス転移温度又は熱可塑性ゴムの場合には融点以上)以上であることが好ましい。また同時に、非高分子化合物の融解開始温度Ts以上の温度であることがより好ましい。汎用性の高いゴム成形体となすには、生活温度範囲よりも高い融解温度を持つ非高分子化合物が選択されることが好ましい。その場合の非高分子化合物の融解温度は、20℃、特に50℃であることが好ましい。ここでDSCとは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry)のことであり、試料の温度を等速度で昇温又は降温を行い試料の発熱・吸熱量を測定するものである。DSCによる温度測定方法はJIS K7121に、熱測定方法はJIS K7122に規定してある。
【0045】
また、より好ましい混練温度の選定方法として以下の方法がある。DSC測定により得た融解曲線から、図2に示すように、融解した非高分子化合物分の全吸熱量をΔHとした場合に、低温側からの吸熱量(融解開始温度Tsから混練温度Tmixまでの吸熱量)の積算値ΔH'が好ましくはΔHの70%以下となる温度範囲、より好ましくは50%以下となる温度範囲、更に好ましくは30%以下となる温度範囲で、良好な混練が可能となる。非高分子化合物の融解開始温度よりも低い温度で混練を行うことに支障はないが、結晶性の高い硬い非高分子化合物などにおいて、混練温度で粘りを有することが好ましい場合には、下限温度として、前記積算値ΔH'が好ましくはΔHの3%以上、より好ましくは5%以上となるよう選択する。
【0046】
最適な混練温度は、混練する各成分の物性に合わせて、上記の混練温度の中から適宜選択することができる。非高分子化合物や他の混練成分の温度依存性を良く考慮し、前記の好ましい範囲の中でも、ゴム及び非高分子化合物の物性が混練に最適な状態になるように混練温度を調整することが好ましい。
【0047】
本実施形態における非高分子化合物の融解完了温度、融解ピーク温度、ΔHとΔH'の比は、例えば、以下の方法で求めることができる。
測定機:セイコー電子工業(株)の型式DSC220
試料容器:品番PN/50−020(アルミ製オープン型試料容器、容量15μl)及び品番PN/50−021(アルミ製オープン型試料容器クリンプ用カバー)
試料質量:約10mg
昇温速度、降温速度:5℃/分
雰囲気:窒素ガスフロー
測定温度範囲:用いる非高分子化合物に応じて、最適な範囲を選択する。融解完了温度及び融解ピーク温度は、一度融解させた後に5℃/分の速度で結晶化させた後、再度5℃/分の速度で昇温させたときのデータを使用して求める。
具体例を挙げると、[第1昇温過程]30℃から130℃まで、[降温過程]130℃(5分間保持)から−30℃まで、[第2昇温過程]30℃から130℃までと連続して測定を行い、第2昇温過程のデータを使用する。
融解完了温度:図3に示すように、JIS K7121に準じて非高分子化合物のDSC測定により得た融解曲線における融解ピークの高温側のベースラインL1の接線と、ピークの高温側傾斜ラインの1/5ピーク高さに位置する点の接線L2とが交差する点の温度を融解完了温度とする。複数のピークが存在する場合は、最も高温側に位置するピークを選択して、融解完了温度を求める。
主ピーク温度:融解曲線のピークの温度を上記データから求める。複数のピークを持つ場合は、融解熱量の最も大きなピークを選択し、それを融解ピーク温度とする。
【0048】
前記各成分の混練は、非高分子化合物の結晶が残っている状態での混練になるので、粘度の高い材料の混練に用いられる混練装置を用いることが好ましい。また、均一な混練状態を得るためには、非高分子化合物の融解完了温度未満の最適な温度に制御する必要があるので、混練容器が低温に制御できる仕様となっている混練装置を用いることがより好ましい。更にはローターやスクリューなどの可動部も冷却できる仕様となっている混練装置を用いることがより好ましい。かかる観点から、加圧ニーダー、オープンニーダー、ロール混練機を用いて混練することが好ましい。
【0049】
以上の操作によって、ゴム成形体の前駆体である中間混練物が得られる。中間組成物においては、ゴムは未だ架橋されていない状態にある。中間混練物は、混練の工程中に気泡を含むことがあるので、必要に応じ、その気泡を抜くための脱泡を行うことができる。脱泡には一般的な方法を用いることができる。例えば、減圧下にある恒温槽中で非高分子化合物の融解温度以上で前記ゴムの架橋反応開始温度未満の温度で保持する方法、減圧手段を持つニーダーなどの混練装置を用いて減圧下で非高分子化合物の融解温度以上で前記ゴムの架橋反応開始温度未満の温度で混練する方法などが用いられる。
【0050】
中間混練物は、これを前記非高分子化合物の融解温度以上で、かつ前記ゴムの架橋温度以上に加熱して、前記ゴムを架橋させる。これによって目的とするゴム成形体を製造する。このゴムの架橋は、中間混練物を成形した後の別工程で行うことができる。或いは、中間混練物の成形とともに行うこともできる。中間混練物の成形とともに行う場合、射出成形やプレス成形で加熱された型を用いる等の方法を用いることで、架橋中に形状が変形することを防止することができる。成形終了後、必要に応じ、トリミングなどの処理を施し、ゴム成形体の製造を完了する。
【0051】
架橋剤、電子線又は電磁波等の手段により架橋を行うゴムを使用した場合には、中間混練物を、未架橋の前記ゴムを架橋させる前に成形することが好ましい。成形方法は、原料(ゴム及び結晶性の非高分子化合物等)の種類、混練混練物の性状、成形体の寸法・形態、生産数量等に応じて任意に選択できる。成形方法には通常のゴムやプラスチックに使用される方法を用いることができる。好ましい成形方法としては、押出成形(フィルム、シート、棒、パイプ等)、射出成形(精密な形状を有する成形体など)、プレス成形(フィルム、シート、ブロック等)、注型成形(ブロック、棒、パイプなど)、ブロー成形(中空成形体)等の成形方法が挙げられる。また、これらの方法で成形した成形体を、各種の機械加工技術で研削、打ち抜き等を行って任意の形状に加工することもできる。更に、これらの方法で成形した成形体どうし、又はこれらの方法で成形した成形体を他の成形体と積層したり、組み合わせたりして使用することもできる。
【0052】
本実施形態の製造方法によれば、発現する形状記憶性が高く、保持した変形状体の解除の設定の自由度が高く、簡便に製造可能なゴム成形体を好適に製造することができる。
【0053】
本発明のゴム成形体は、その用途に制限はない。特に、本発明のゴム成形体は、前記の製造方法を用いると、有機溶剤などを一切使用せずに製造できるので、様々な分野において極めて安全に使用できる。前記の方法以外にも、(a)溶解した前記非高分子化合物に前記ゴムを混練する方法、(b)前記ゴムと前記非高分子化合物とを溶剤中に溶解させて混練する方法といった手段を利用することが可能である。尤も、(a)の方法は、加熱によるエネルギー使用量が大きく、混練にも時間を要するので、環境性及び経済性の観点から課題を有する。(b)の方法は、有機溶剤が残留したり環境へ放出されたりするといった課題や、乾燥におけるエネルギー使用量が大きいといった経済性の課題を有する。しかし、粒子状の成形体を得る場合には有効な方法である。
【0054】
本発明のゴム成形体の用途としては、チューブ状に成形し、チューブの内径を拡げた変形状態を保持させた後、該変形を解除させて収縮させて使用するシュリンクチューブ、フィルム状の成形体を用いて対象物の立体形状を転写する転写シート、形状の異なる物体を把持するための冶具(例えば、容器に液体製品などを充填するための設備で使用する容器の固定冶具で、容器形状に合わせて変形状態を固定化することで、1つの冶具で異なる形状の複数の容器に対応可能)が挙げられる。また、人や動物の体型にフィットさせることが可能な、衣類、日用品等の道具、シート(自動車や航空機等)、靴(スポーツシューズ、スキーブーツ等)、マウスパッド、枕、ベッド、ギブスや義足等の医療器具、マスク、メガネやゴーグル、帽子、ヘルメット、スポーツ用の防具や道具(ラケットのグリップ等)、文房具、スプーン等などの食器や調理器具の持ち手等に利用できる。温度に対する反応性が良いことを利用して特定温度(非高分子化合物の融点)で収縮するスイッチング材料、同様に特定温度で収縮して物体を把持したり、又は把持した状態を開放する装置などに組み込む機械要素等に利用することもできる。また繊維にすることで、以上の用途以外にも、用途に合わせて形状を変形できる容器、建築物や家具等の損傷等による隙間を埋めるための部材又は自由に形状の変えられる家電製品の筐体、自動車等の内装又はアクセサリー、ブラシやパーマ用部材等の整髪用の道具等にも利用可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明は本実施例になんら制限されるものではない。
【0056】
表1に示す混練成分を使用し、表2に示す配合で、下記実施例1及び2のようにしてゴム成形体を作製した。そして、得られたゴム成形体のゴム弾性及び形状記憶性を下記のように評価した。表1に示すワックス(1)及び(2)の融解曲線をそれぞれ図5及び図6に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
〔実施例1〕
(株)モリヤマ製の加圧ニーダー(DS0.3−3型)を用い、加圧ニーダーの混練容器に表1に記載のゴムとワックスとを投入し、混練装置に13℃の冷却水を通水した状態で、該ワックスの融解完了温度未満の52℃(混練直後の混練物温度)において混練して混練物を得た。その後、表1に示す架橋剤、架橋促進助剤及び架橋促進剤を投入し、同じ温度で5分間混練した。この混練物を、表面に剥離剤(シリコーン)処理が施されたフィルムを敷いたバッドに入れ、100℃、600hPa気圧の減圧窒素ガスフロー中で24時間脱泡し中間混練物を調製した。実施例1では、この中間混練物を120℃に設定したプレス機で厚さ1mmのシートに成形し、その温度でそのまま300分間架橋処理を施し、ゴム成形体を製造した。
【0060】
〔実施例2〕
架橋促進剤を表2に示したものに変更し、プレス機の温度を140℃、架橋処理時間を30分間とした以外は、実施例1と同様にしてゴム成形体を製造した。
【0061】
〔実施例3及び4〕
ゴムとワックスとの配合比率を表2に示す値とする以外は、実施例1と同様にしてゴム成形体を製造した。
【0062】
〔実施例5〕
ワックスとして表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にしてゴム成形体を製造した。
【0063】
〔ゴム弾性の評価方法〕
得られたゴム成形体を、以下の方法で評価した。得られたゴム成形体を切り出して長さ50mm×幅5mmの矩形の試験片を作製し、中心部に30mmの標線を入れた。この試験片を室温(20℃)空気中と95℃の温水の各環境中で、50%伸長して(標線間距離が45mm)伸長性を評価した。次いで応力を取り除いて残留歪を測定した。ただし、要求されるゴム弾性は目的に応じて異なるので、伸長可能な伸度が50%に満たなくても本発明の範囲を逸脱するものではない。残留歪は、応力を取り除いた後の標線間距離をdとして次式から求められる。
〔d−30〕/30〕×100 (%)
【0064】
〔形状記憶の評価方法〕
得られたゴム成形体を切り出して長さ50mm×幅5mmの矩形の試験片を作製し、中心部に30mmの標線を入れた。そして、該試験片を、100℃のお湯の中で伸長させて標線間隔を長さ60mmに変形させ、20℃の水の中での該変形状態を保持させ、再び95℃のお湯の中での変形状態を解除して回復させて残留歪を調べた。実施例1ではこの操作を4回繰り返して、繰り返し形状記憶させることが可能か調べた。その結果を表3に示した。
【0065】
〔実施例1のゴム弾性の評価結果〕
ゴム弾性の評価結果は、室温及び非高分子物質が完全に融解する95℃の水中ともに50%伸長が可能であり、伸長状態を戻した後の残留歪は、室温で2%、95℃水中で1%で、ゴムとしての物性を有することを確認した。
また、繰り返し可能な形状記憶性を有し、残留歪も小さいことを確認した(表3)。
更に次の(1)〜(3)の評価も行った。
(1)上記と同様の手順で、本試験片を標線間隔115mm(延伸倍率3.8倍)のより高い倍率で変形状態を保持し、再び95℃のお湯の中での変形状態を解除したところ、標線間隔は35mm(17%)まで回復し、より高い変形倍率でも形状記憶性と高い回復性を有していることを確認した。
(2)ゴム成形体を切り出して長さ100mm×幅5mmの矩形の試験片を作製し、中心部に50mmの標線を入れた。この試験片を100℃のお湯の中で伸長させ、次いで20℃の水の中で標線間隔を長さ100mmに保持させた。これに再度50mmの標線を入れ、室温で更に2倍に変形した後の残留歪は0%であった。このことから、変形状態を保持したものも、弾性体として機能することを確認した。
(3)引張試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTA500、八島製作所製テンシロン用高低温度恒温槽TCF−R3T−A)、によって、厚み1mm、幅5mm、初期長30mm、引張速度100mm/minで評価した20℃での引張弾性率は1.35MPa、100℃での引張弾性率は0.086MPaとなり、その比は15.7で融点前後での弾性率の大きな変化を確認できた(歪200%までの応力−歪曲線を図4に示す)。図4に示すように、任意の温度を境に急激に弾性率が変化するので、剛性と同時に衝撃吸収性、反発性大きく変化する。したがって、本発明のゴム成形体及び中間混練物は、任意の温度領域で剛性、衝撃吸収性、反発性等の物性が大きく変化する温感性ゴムとしての利用も可能であることが判る。
【0066】
〔実施例2のゴム弾性の評価結果〕
ゴム弾性の評価結果については、室温及び95℃水中ともに50%伸長が可能であり、伸長状態を戻した後の残留歪は、室温で6%、95℃水中で2%であった。また、繰り返し可能な形状記憶性を有し、残留歪も小さいことを確認した(表3)。
【0067】
【表3】

【0068】
〔実施例1及び実施例3ないし5の形状記憶性及び残留歪の評価結果〕
実施例1及び実施例3ないし5で得られたゴム成形体について、繰り返し可能な形状記憶性を有すること、及び残留歪が小さいことを、以下の方法で評価した。その結果を表4に示す。なお、実施例1で得られたゴム成形体については、上述の評価で用いた試験片とは別の試験片を用意して評価を行った。
(イ)ゴム成形体を切り出して長さ50mm×幅5mmの矩形の試験片を作製し、中心部に30mmの標線を入れる。
(ロ)試験片を95〜100℃のお湯の中で伸長させて標線間隔を長さ60mmに変形させる。
(ハ)変形させた状態を維持したまま試験片を20℃の水の中に入れて変形状態を固定する。
(ニ)試験片を水中から取り出して卓上に置き、標線間隔を測定する。この標線間隔を長さd1とする。また、〔(60−d1)/60〕×100の値を収縮率とする。
(ホ)試験片を再び95〜100℃のお湯の中に入れて、変形状態を解除する。
(ヘ)変形状態が解除された試験片を20℃の水の中に入れて、変形状態が解除された状態を固定する。
(ト)試験片を水中から取り出して卓上に置き、標線間隔を測定する。この標線間隔を長さd2とする。また、〔(d2−30)/30〕×100の値を残留歪とする。
(チ)(ロ)ないし(ト)の操作を3回繰り返す。
表4において、収縮率の欄に記載した長さはd1、残留歪の欄に記載した長さはd2を示している。
【0069】
〔実施例1及び実施例3ないし5の破断伸度の評価結果〕
また、実施例1及び実施例3ないし5で得られたゴム成形体について、引張試験を行い破断伸度を測定した。その結果を表5に示す。いずれも高い破断伸度を有していることを確認した。引張試験の測定条件は以下のとおりとした。破断伸度は破断したときのチャック(サンプルを把持する治具)間の距離をLとし、次式で定義される。
〔(L−25)/25〕×100 (%)
なお、実施例1で得られたゴム成形体については、上述の評価で用いた試験片とは別の試験片を用意して評価を行った。
・試験片長さ:75mm
・試験片幅:10mm
・試験片厚み:1.5〜2.0mm
・初期チャック間距離:25mm
・引張速度:100mm/min
・環境:23℃、50%RH
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
以上の結果から、いずれの実施例のゴム成形体も、ゴム弾性を示すことが判った。また、表3に示したように、いずれの実施例のゴム成形体も、形状記憶性を示すことが判った。
【0073】
〔実施例1及び実施例4の収縮回復の評価結果〕
ワックスの融点の違いにより、ゴム成形体の収縮温度を制御できることを確認するための評価を以下の方法で行った。その結果を表6に示す。
(イ)ゴム成形体を切り出して長さ50mm×幅5mmの矩形の試験片を作製し、中心部に30mmの標線を入れる。
(ロ)試験片を95〜100℃のお湯の中で伸長させて標線間隔を長さ60mmに変形させる。
(ハ)変形させた状態を維持したまま試験片を20℃の水の中に入れて変形状態を固定する。
(ニ)試験片を水中から取り出して卓上に置き、標線間隔を測定する。この標線間隔を長さd3とする。また、〔(60−d3)/60〕×100の値を収縮率Aとする。
(ホ)試験片を40℃のお湯の中に入れる。
(ヘ)試験片を40℃のお湯から取り出し、次いで20℃の水の中に入れて、形状を固定する。
(ト)試験片を水中から取り出して卓上に置き、標線間隔を測定する。この標線間隔を長さd4とする。また、〔(60−d4)/60〕×100の値を収縮率Bとする。
(チ)試験片を95〜100℃のお湯の中に入れて変形状態を解除させる。
(リ)変形状態を解除させた試験片を20℃の水の中に入れて形状を固定する。
(ヌ)試験片を水中から取り出して卓上に置き、標線間隔を測定する。この標線間隔を回復長さd5とする。また、〔(30−d5)/30〕×100の値を残留歪とする。
(ヲ)(ロ)ないし(ヌ)の操作を3回繰り返す。
表6において、収縮率の欄に記載した長さはd3又はd4、残留歪の欄に記載した長さはd5を示している。
【0074】
【表6】

【0075】
表6に示す結果から明らかなように、融点の低いワックスを含むゴム成形体(実施例4)の方が、変形状態を解除したときの回復の程度が大きいことが判る。また、融点の異なるワックスをゴム成形体に配合することで、所望の温度においてゴム成形体の変形状態を解除したときの回復の程度を制御できることが判る。
【0076】
〔実施例2ないし実施例5の質量減少率の測定結果〕
液中に浸漬することに起因するゴム成形体の質量減少率の測定を行った。その結果を表7に示す。測定は以下の手順で行った。
(イ)厚み2〜4mm、30×30mmのゴム成形体を作製して試料とし、浸漬前の質量を測定する(成形体から切り出してもよい)。
(ロ)90℃の液中に前記の試料を浸漬する。ここでは非高分子化合物としてワックスを使用しているので、液体として水を選択した。また、試料が浮き上がらないよう攪拌する(又は液中に保持治具を使用してもよい)。今回は200mlのビーカーに175mlの水を入れ、試料を1枚(質量は1枚1〜2g程度)浸漬して評価したが、試料に対して十分な量の液体の中に浸漬すればよい。
(ハ)10分間浸漬した後に液体から試料を取り出し、ガラス製のシャーレに試料を入れて非高分子化合物が結晶化する温度まで冷却する。次いで、ペーパータオル等で試料の表面の水を拭き取る。試料をガラス製のシャーレに入れ、105℃の恒温槽中で窒素ガスフロー下で減圧して3時間乾燥させて水分を十分に除去する。この際、水分を十分に除去できるよう乾燥時間を適宜調整する。
(二)恒温槽から試料を取り出したら、これを非高分子化合物が結晶化する温度まで冷却し、浸漬後の質量を測定する。
(ホ)ゴムと非高分子化合物の合計質量に対する非高分子化合物の比率をR(質量%)として、下記の式により質量減少率を求める。
((浸漬前質量−浸漬後質量)/(浸漬前質量×(R/100)))×100
【0077】
【表7】

【0078】
表7に示したように、質量減少率は3質量%以下と小さいことが判る。これにより、表3等に示したように、形状記憶を繰り返しても性能が低下しないことが実現されていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の形状記憶ゴム成形体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】DSC測定結果におけるΔH、ΔH'及び混練温度の関係を示す図である。
【図3】DSC測定結果から融解完了温度、融解ピーク温度を求める手法の説明図である。
【図4】実施例1のゴム成形体の引張試験結果を示す図である。
【図5】実施例1で用いたワックスの融解曲線を示すグラフである。
【図6】実施例5で用いたワックスの融解曲線を示すグラフである。
【図7】実施例1の中間混練物(架橋剤等添加する前)の透過型電子顕微鏡による内部構造の観察像である。
【符号の説明】
【0080】
1 形状記憶ゴム成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと結晶性の非高分子化合物とを含む混練物からなり、該混練物から得られた成形体中の該ゴムが架橋している形状記憶ゴム成形体であって、
前記非高分子化合物の結晶化により前記形状記憶ゴム成形体の変形状態を保持し、保持した前記変形状態を前記非高分子化合物の融解により解除する形状記憶ゴム成形体。
【請求項2】
前記ゴムと前記非高分子化合物の合計質量に対して、該非高分子化合物の含有量が10〜90質量%である、請求項1記載の形状記憶ゴム成形体。
【請求項3】
前記形状記憶ゴム成形体中において、前記ゴム及び前記非高分子化合物が微細に分散した相分離構造をしている請求項1又は2記載の形状記憶ゴム成形体。
【請求項4】
前記形状記憶ゴム成形体を、前記非高分子化合物の融解温度以上に保たれた、該非高分子化合物を溶解しない液体に浸漬した後の該形状記憶ゴム成形体の質量減少率が10質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の形状記憶ゴム成形体。
【請求項5】
前記非高分子化合物がワックスである請求項1ないし4のいずれかに記載の形状記憶ゴム成形体。
【請求項6】
架橋剤によって前記ゴムが架橋されている請求項1ないし5のいずれかに記載の形状記憶ゴム成形体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の形状記憶ゴム成形体用の中間混練物であって、
ゴムと結晶性の非高分子化合物とを含み、該非高分子化合物が結晶化した状態において、該ゴムと該非高分子化合物とが微細に分散した相分離構造をしており、
前記ゴムが未架橋である形状記憶ゴム成形体用の中間混練物。
【請求項8】
ゴムと結晶性の非高分子化合物とを、該非高分子化合物の下記ただし書の方法で求められる融解完了温度未満において混練して中間混練物を調製した後、前記ゴムを架橋させて得られた形状記憶ゴム成形体。
ただし、融解完了温度は、JIS K7121に準じて非高分子化合物のDSC(示差走査熱量計)測定により得た融解曲線における融解ピークの高温側のベースラインの接線と、ピークの高温側傾斜ラインの1/5ピーク高さに位置する点の接線とが交差する点の温度を融解完了温度とし、複数のピークが存在する場合は、最も高温側に位置するピークを選択して、融解完了温度を求める。
【請求項9】
ゴムと結晶性の非高分子化合物と架橋剤とを含み、該ゴムと該非高分子化合物の合計質量に対して、該非高分子化合物の含有量が10〜90質量%である原料を、該非高分子化合物の融解完了温度未満で、かつ該架橋剤の架橋温度未満において混練して中間混練物を得る、中間混練物の製造方法。
【請求項10】
ゴムと結晶性の非高分子化合物と架橋剤とを、該非高分子化合物の融解完了温度未満において混練して中間混練物を調製した後、該中間混練物を成形し、成形と同時に前記ゴムを架橋させるか、又は成形後に前記ゴムを架橋させる形状記憶ゴム成形体の製造方法。
【請求項11】
前記中間混練物の成形とともに前記架橋を行う請求項10記載の形状記憶ゴム成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−24169(P2009−24169A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162430(P2008−162430)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】