説明

後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプター(sRAGE)を用いて加速性アテローム性動脈硬化症を予防する方法

【課題】加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防する方法を提供する。
【解決手段】該患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法を提供する。本発明は更に、マクロ血管疾患に罹患しやすい患者においてマクロ血管疾患を予防する方法であって、該患者においてマクロ血管疾患を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、1997年8月5日に出願された米国出願番号第08/905,709号の一部継続出願であり、その内容は、参照により本明細書の開示内容の一部とする。
【0002】
ここで開示する本発明は、保健社会福祉省からのNIH基金No.HL56811およびAG00602の下に政府援助により行われた。従って、米国政府は本発明に一部の権利を有している。
【発明の背景】
【0003】
本出願を通して、該本文の中で著者および日付により幾つかの刊行物が参照されている。これら刊行物の完全な引用は、明細書の末尾、配列表および請求の範囲の直前に、アルファベット順で掲載されている。これら刊行物の開示内容の全ては、参照により本明細書の開示内容の一部とされ、本明細書に記載されクレームされた発明の日付において当業者に公知なものとして、当該技術状況をより完全に説明している。
【0004】
虚血性心臓疾患は、総人口、とりわけ糖尿病の患者における罹患および死亡の主原因である。成人の糖尿病患者における冠状動脈疾患の罹患率は、55%もの高さである(Robertson and Strong, 1986)。実際、フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)のデータより、インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)における心臓血管疾患に由来する死亡率は、非糖尿病のコントロール患者と比較して、糖尿病男性では2倍以上であり、糖尿病女性では4倍以上であることが実証されている(Kannel and McGee, 1979)。糖尿病患者におけるアテローム性動脈硬化症は、罹患率の高さに加えて、明らかに加速性があり広範囲にわたることが研究により示された。ある一連の検死において、例えば、糖尿病の患者は、左前室間冠状動脈の重い疾患を有する率が高いこと(Wallerら, 1980)、二および三血管(two and three-vessel)疾患の発生率が高いこと(Crall and Roberts, 1978)、そしてアテローム性動脈硬化症病変の分布範囲が広いこと(Hambyら, 1976)が見出された。これらの発見は、症候性患者における冠状血管造影撮影により確認された(Pyoralaら, 1978)。
【0005】
糖尿病の状態(setting)における加速性アテローム性動脈硬化症の理由は、幾つもある。しかし、異常脂血症、高血圧および肥満を治癒した後でも、糖尿病患者は、非糖尿病患者と比べて心臓血管疾患に過度のリスクを有することが、多変量解析研究により示された(Kannel and McGee, 1979)。例えば、トータルで115,000人の女性のうち1,500人の糖尿病患者のナースの健康研究(Nurses’ Health Study)において、心臓血管疾患の発症は、コレステロールのレベルに関係なく糖尿病患者では5倍高かった(Mansonら, 1991)。これらのデータは、糖尿病患者に特異的な要素が重要な役割を果たすことを示唆している。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防する方法であって、該患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物(advanced glycation endproduct)の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法を提供する。本発明は、マクロ血管疾患に罹患しやすい患者においてマクロ血管疾患を予防する方法であって、該患者においてマクロ血管疾患を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1A、1B。アポリポ蛋白E(0)マウスの近位大動脈の、解剖顕微鏡の下での全体観察。 糖尿病のアポリポ蛋白E(0)マウス(16週齢マウス;10週糖尿病、図1A)もしくは同年齢の非糖尿病コントロール(16週齢、図1B)における大動脈の標本に、メチレンブルーの逆行性注入を行った。
【図2】図2。sRAGEによる糖尿病アポリポ蛋白E(0)マウスの治療が、加速性アテローム性動脈硬化症を抑制する。 アポリポ蛋白E(0)マウスを、stzで糖尿病にした。糖尿病の2週間後、sRAGE(20μg/日、腹腔内)もしくは等モル量のマウス血清アルブミン(40μg/日、腹腔内)でさらに6週間マウスを治療した。sRAGEで治療された糖尿病マウスの平均病変面積は、150,046±18,549μm2であり、これはマウス血清アルブミンで治療されたマウスで観察された平均病変面積、271,008±16,721μm2、p,0.02より有意に小さかった。
【図3】図3A、3B。マウス血清アルブミン(左パネル)もしくは可溶性マウスPAGE(右パネル)で治療された糖尿病アポリポ蛋白E(0)マウスの近位大動脈の、解剖顕微鏡の下での全体観察。 アポリポ蛋白E(0)マウスを、stzで糖尿病にした。糖尿病の2週間後、sRAGE(20μg/日、腹腔内)もしくは等モル量のマウス血清アルブミン(40μg/日、腹腔内)でさらに6週間マウスを治療した。近位大動脈の全体観察により、マウス血清アルブミンで治療されたマウスと比べて、sRAGEで治療されたマウスの近位大動脈の二次分枝および三次分枝には、病変がほぼ完全にないことが明らかにされた。sRAGE治療されたマウスでは、一次分枝点および大動脈弓において病変の著しい減少が更に観察された。
【発明の詳細な説明】
【0008】
本発明は、加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防する方法であって、該患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法を提供する。
【0009】
前記患者は、哺乳類であり得る。前記哺乳類は、ヒトであり得る。前記患者は、糖尿病患者であり得る。前記患者は、アポリポ蛋白欠損症、または高脂血症に罹患していてもよい。前記高脂血症は、高コレステロール血症または高トリグリセリド血症であり得る。前記患者は、グルコース代謝障害を有し得る。前記患者は、肥満患者であり得る。
【0010】
本発明の一つの態様において、前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の自然に存在する可溶性レセプターの少なくとも一部を含み得る。前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターのVドメインを含み得る。前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの10キロダルトンのドメインを含み得る。
【0011】
前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの配列内にある、20アミノ酸以下の長さの配列を含み得る。例えば前記配列は、5アミノ酸の長さ、3アミノ酸の長さ、8アミノ酸の長さ、または11アミノ酸の長さであり得る。また該配列の長さは、2〜20アミノ酸の間の任意の長さであり得る。本発明の一つの態様において、該配列の長さは1アミノ酸であり得る。
【0012】
前記ポリペプチドは、ペプチド類似体(peptidomimetic)、合成ポリペプチド、またはポリペプチド類縁体であり得る。前記ポリペプチドは、天然にはみられないキラリティを有する非天然ポリペプチド、即ちD-アミノ酸もしくはL-アミノ酸であり得る。
【0013】
本発明の別の態様において、前記方法は、前記ポリペプチドを投与する間に、薬学的に許容し得る担体を患者に投与することを更に含み得る。前記投与は、病変内、腹腔内、筋内、もしくは静脈内注射;点滴;リポソーム介在デリバリー;または局所、鼻、口、眼、もしくは耳デリバリーを含み得る。
【0014】
前記ポリペプチドは、1時間に1回、1日に1回、週に1回、月に1回、年に1回(例えば、時間放出形態で)、または1回のデリバリーとして運搬され得る。前記デリバリーは、一定期間の継続的デリバリー、例えば静脈内デリバリーであり得る。
【0015】
前記ポリペプチドの有効量は、約0.000001 mg/kg体重〜約100 mg/kg体重を含み得る。ある態様において、前記有効量は、約0.001 mg/kg体重〜約50 mg/kg体重を含み得る。別の態様おいて、前記有効量は、約0.01 mg/kg体重〜約10 mg/kg体重の範囲であり得る。実際の有効量は、ポリペプチドのサイズ、ポリペプチドの生分解性、ポリペプチドの生物活性、およびポリペプチドの生物学的利用能に基づくものであろう。もしポリペプチドがすぐに分解されず、生物学的に利用可能で活性が高ければ、有効であるためにはより少ない量が必要とされるだろう。有効な量は当業者に公知であり;ポリペプチドの形態、ポリペプチドのサイズ、およびポリペプチドの生物活性に更に依存するであろう。当業者なら、ポリペプチドの生物活性をバイオアッセイで決定することにより有効量を決定する、経験的な活性試験を慣例的に行うことができるであろう。
【0016】
本発明は、マクロ血管疾患に罹患しやすい患者においてマクロ血管疾患を予防する方法であって、該患者においてマクロ血管疾患を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法を更に提供する。
【0017】
前記患者は、ヒトまたは動物であり得る。前記患者は、糖尿病患者であり得る。前記患者は、アポリポ蛋白欠損症に罹患していてもよい。前記患者は、高脂血症に罹患していてもよい。前記高脂血症は、高コレステロール血症または高トリグリセリド血症であり得る。前記患者は、グルコース代謝障害を有し得る。前記患者は、肥満患者であり得る。
【0018】
本発明の一つの態様において、前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の自然に存在する可溶性レセプター(RAGE)の少なくとも一部を含む。前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターのVドメインを含み得る。
【0019】
前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの10キロダルトンのドメインを含み得る。前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの配列内にある、20アミノ酸以下の長さの配列を含み得る。
【0020】
前記ポリペプチドは、ペプチド類似体(peptidomimetic)、合成ポリペプチド、またはポリペプチド類縁体であり得る。
【0021】
本発明の別の態様において、前記方法は、前記ポリペプチドを投与する間に、薬学的に許容し得る担体を患者に投与することを更に含み得る。
【0022】
前記投与は、病変内、腹腔内、筋内、もしくは静脈内注射;点滴;リポソーム介在デリバリー;または局所、鼻、口、眼、もしくは耳デリバリーを含み得る。
【0023】
前記sRAGEポリペプチドは、1時間に1回、1日に1回、週に1回、月に1回、年に1回(例えば、時間放出形態で)、または1回のデリバリーとして運搬され得る。前記デリバリーもしくは投与は、一定期間の継続的デリバリー、例えば静脈内デリバリーであり得る。
【0024】
以下の略語を、本明細書で使用する:AGE−後生的グリケーション最終生成物;RAGE−後生的グリケーション最終生成物のレセプター;sRAGE−後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプター。
【0025】
前記ポリペプチドは、ペプチド、ペプチド類似体、合成ポリペプチド、天然ポリペプチドの誘導体、修飾ポリペプチド、標識ポリペプチド、または非天然ペプチドを含むポリペプチドであり得る。前記ペプチド類似体は、ペプチド類似体である種々の化合物の大ライブラリーをスクリーニングして、加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防できる化合物を決定することにより同定され得る。
【0026】
前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプター(sRAGE)の誘導体であり得る。前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物のレセプターの可溶性細胞外部分、後生的グリケーション最終生成物のレセプターに特異的に結合できる抗体、もしくは該抗体の一部であり得る。前記抗体は、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体であり得る。前記抗体の一部は、Fab、または相補性決定領域、または可変領域であり得る。前記ポリペプチドは、アミロイド−βペプチドに特異的に結合できてもよい。前記ポリペプチドは、後生的グリケーション最終生成物のレセプターが相互作用する部位でアミロイド−βペプチドに結合し得る。
【0027】
sRAGEに由来するポリペプチドの天然の存在形態に加えて、本発明は更に、他のsRAGEポリペプチド、例えばsRAGEのポリペプチド類縁体を包含する。前記類縁体は、sRAGEの断片を含む。Altonらによる公開された出願(WO 83/04053)の方法に従って、微生物発現のためのコード遺伝子であって、本明細書で記載したものとは一以上の残基の同一性もしくは位置において異なる一次コンフォメーションを有するポリペプチドをコードする遺伝子を容易にデザインし製造することができる(例えば、置換、末端および中間の付加および欠失)。あるいは、cDNAおよびゲノム遺伝子の修飾は、周知の位置指定突然変異誘発の技術により容易に成し遂げることができ、sRAGEポリペプチドの類縁体および誘導体を作成するために使用することができる。このような生成物は、sRAGEの生物学的特性の少なくとも一つを共用するが、他の点で異なっていてもよい。例として、本発明の生成物は以下のものを含む:例えば欠失により短縮されたもの;または加水分解に対してより安定なもの(従って、天然に存在するものより顕著な効果もしくは長い持続効果を有し得るもの);またはO-グリコシル化および/またはN-グリコシル化の可能な一以上の部位を欠失させたり付加したりして変更したもの、または例えばアラニンもしくはセリン残基により置換されるか欠失される一以上のシステイン残基を有し、微生物システムから活性形態で容易に単離され得るもの;またはフェニルアラニンにより置換される一以上のチロシン残基を有し、標的タンパク質もしくは標的細胞上のレセプターに程度の差こそあれ容易に結合するもの。sRAGE内の連続アミノ酸配列の一部もしくは二次コンフォメーションでのみ重複するポリペプチド断片であって、sRAGEのある特性を有するが他の特性はもたないポリペプチド断片が、更に包含される。本発明の任意の一以上のポリペプチドが治療効果もしくは他の場面での効果、例えばsRAGE拮抗作用のアッセイにおける効果などを有することが活性に必ずしも必要でないことは注目すべきことである。競合的アンタゴニストは、例えばsRAGEの過剰生産の場合にかなり有効であり得る。
【0028】
本発明のポリペプチド類縁体に対する適用可能性については、天然に存在するタンパク質、糖タンパク質、および核タンパク質に現存するアミノ酸配列と実質的に重複する合成ペプチドの免疫学的特性の報告がある。より詳細には、生理学的に重要なタンパク質、例えばウイルス抗原、ポリペプチドホルモンなどの免疫反応に期間及び程度の点で類似した免疫反応に、比較的低分子量のポリペプチドが関与することが示された。このようなポリペプチドの免疫反応の中に含まれるのは、免疫学的に活性な動物において特定の抗体形成を誘発することである[Lernerら, Cell, 23, 309-310 (1981); Rossら, Nature, 294, 654-658 (1981); Walterら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 4882-4886 (1981); Wongら, Proc. Natl. Sci. USA, 79, 5322-5326 (1982); Baronら, Cell, 28, 395-404 (1982); Dressmanら, Nature, 295, 185-160 (1982); およびLerner, Scientific American, 248, 66-74 (1983)。ペプチドホルモンの二次構造はおよそ共有しているが、一次構造のコンフォメーションを共有し得ない合成ペプチドの生物学的特性および免疫学的特性に関しては、Kaiserら[Science, 223 249-255 (1984)]を更に参照されたい。
【0029】
本発明のポリペプチドは、少なくとも部分的に天然ではないペプチド類似化合物であり得る。前記ペプチド類似化合物は、sPAGEのアミノ酸配列の一部と類似した低分子であり得る。前記ペプチド類似化合物は、その類似性により、高い安定性、効能、能力および生物学的利用能を有し得る。更に前記ペプチド類似化合物は、低い毒性を有し得る。前記ペプチド類似化合物は、高い粘膜腸管の透過性を有し得る。前記ペプチド化合物は、合成により調製され得る。本発明のペプチド類似化合物は、L-、D-、もしくは非天然のアミノ酸、アルファ-、アルファ-ジ置換アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、乳酸(アラニンの等電点類縁体)を含み得る。前記化合物のペプチド骨格は、PSI-[CH=CH]で置換された少なくとも一つの結合を有し得る(Kempfら 1991)。前記化合物は、トリフルオロチロシン、p-Cl-フェニルアラニン、p-Br-フェニルアラニン、ポリ-L-プロパルギルグリシン、ポリ-D,L-アリルグリシン、またはポリ-L-アリルグリシンを更に含み得る。
【0030】
本発明の一つの態様は、患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防する生物学的活性を有するペプチド類似化合物であって、適切な類似体で置換された結合、ペプチド骨格、またはアミノ酸成分を有するペプチド類似化合物である。適切なアミノ酸類似体であり得る非天然アミノ酸の例には、β-アラニン、L-α-アミノ酪酸、L-γ-アミノ酪酸、L-α-アミノイソ酪酸、L-ε-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、システイン(アセトアミンドメチル)、N-ε-Boc-N-α-CBZ-L-リシン、N-ε-Boc-N-α-Fmoc-L-リシン、L-メチオニンスルフォン、L-ノルロイシン、L-ノルバリン、N-α-Boc-N-δCBZ-L-オルニチン、N-δ-Boc-N-α-CBZ-L-オルニチン、Boc-p-ニトロ-L-フェニルアラニン、Boc-ヒドロキシプロリン、Boc-L-チオプロリンが含まれる(Blondelleら 1994; Pinillaら 1995)。
【0031】
前記患者は、哺乳類もしくは非哺乳類であり得る。前記患者は、ヒトであり得る。前記患者は、マウス、ウシ、サル、ウマ、ブタ、またはイヌであり得る。前記患者は、糖尿病の患者であり得る。前記患者は、アポリポ蛋白欠損症に罹患していてもよい。前記患者は、グルコース代謝障害を有し得る。前記患者は、肥満の患者であり得る。前記患者は、遺伝的もしくは食事誘発性の高脂血症を有し得る。AGEsは、正常血糖でさえ、脂質過多な環境において形成される。
【0032】
この態様での投与は、病変内、腹腔内、筋内、もしくは静脈内注射;点滴;リポソーム介在デリバリー;局所、鼻、口、肛門、眼、もしくは耳デリバリーであり得る。前記投与は、一定の期間連続的であるか、または周期的に一定の間隔であり得る。
【0033】
前記担体は、賦形剤、エーロゾル剤、局所性担体、水溶液、非水溶液、または固形担体であり得る。
【0034】
本発明の任意の方法の実施、または任意の薬学的組成物の調製において、「治療に有効な量」とは、加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防することができる量である。従って有効な量は、治療すべき患者、並びに治療すべき状況に応じて変化するであろう。本発明の目的のために、投与の方法は、皮膚、皮下、静脈内、非経口、経口、局所、またはエーロゾル剤による投与を含むがこれに限定されない。
【0035】
本明細書で使用される「適切な薬学的に許容し得る担体」という用語は、任意の標準的な薬学的に許容される担体、例えばリン酸緩衝化食塩水、水、油/水エマルジョンもしくはトリグリセリドエマルジョンのようなエマルジョン、種々のタイプの湿潤剤、錠剤、被覆錠剤、およびカプセル剤を包含する。前記化合物の静脈内および腹腔内投与に有効な許容し得るトリグリセリドエマルジョンの例は、Intralipid(登録商標)として商業的に公知なトリグリセリドエマルジョンである。
【0036】
典型的に前記担体は、賦形剤、例えばデンプン、ミルク、糖、あるタイプの粘土、ゼラチン、ステアリン酸、タルク、野菜脂肪もしくは油、ガム、グリコール、またはその他公知の賦形剤を含む。前記担体は、香味および色添加剤、またはその他の成分も含み得る。
【0037】
本発明は、アミロイド−βペプチドと後生的グリケーション最終生成物のレセプターとの結合を阻害することにより、患者の加速性アテローム性動脈硬化症を予防することができる治療に有効な量のポリペプチド組成物および化合物を、適切な賦形剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、補助剤および/または担体とともに含む薬学的組成物を更に提供する。前記組成物は、液体、または凍結乾燥もしくはその他の方法で乾燥された製剤であり得、以下のものを含む:種々の緩衝液含量(例えば、トリス-HCl、酢酸、リン酸)、pH、およびイオン強度の賦形剤、表面への吸収を妨害するアルブミンもしくはゼラチンなどの添加剤、界面活性剤(例えば、Tween 20、Tween 80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、バルク物質または張度変更剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、ポリエチレングリコールなどのポリマーの前記化合物への共有結合、金属イオンとの複合体化(complexation)、またはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲルなどのポリマー化合物の粒状製剤への前記化合物の取り込み、またはリポソーム、ミクロエマルジョン、ミセル、ユニラメラもしくはマルチラメラ小胞、赤血球ゴースト、またはスフェロプラストへの前記化合物の取り込み。このような組成物は、前記化合物もしくは組成物の物理的状態、溶解度、安定性、in vivoでの放出速度、およびin vivoでのクリアランス速度に影響を及ぼすであろう。組成物の選択は、加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防することができる化合物の物理的および化学的特性に依存するであろう。
【0038】
制御放出性もしくは持続放出性組成物は、親油性デポ剤(例えば、脂肪酸、サックス、油)中の製剤を含む。本発明により更に包含されるのは、ポリマーで被覆された粒状組成物(例えば、ポロキサマーもしくはポロキサミン)、および組織特異的なレセプター、リガンド、もしくは抗原に対する抗体に結合した化合物、または組織特異的なレセプターのリガンドに結合した化合物である。本発明の組成物の他の態様は、粒状形態の保護コーティング、プロテアーゼ阻害剤、または種々の投与ルート(非経口、肺、鼻および経口など)のための透過エンハンサーを含む。
【0039】
本発明のポリペプチドもしくは組成物の一部を、(例えば、I125で放射能ラベルするか、またはビオチン化された)検出可能なマーカー物質と結合させることにより「ラベル」すると、固体状組織および液体サンプル(血液、脳脊髄液または尿など)に存在する化合物またはそのレセプター支持細胞(bearing cell)またはその誘導体の検出および定量に有効な試薬を提供することができる。
【0040】
投与されると、化合物は血液循環からすぐに除去されるため、比較的短命の薬理学的活性が得られる。その結果、生物活性な化合物の比較的多量の頻繁な注入が、治療効果を維持するために必要とされる。ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマー、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはポリプロリンの共有結合により改変された化合物は、対応する改変されてない化合物よりも、静脈内注射後に血液中でかなり長い半減期を示すことは公知である(Abuchowskiら, 1981; Newmarkら, 1982; およびKatreら, 1987)。このような改変により、水溶液中で化合物の溶解度は更に高まり、凝集しなくなり、化合物の物理的および化学的安定性は高まり、そして化合物の免疫抗原性および反応性は大きく低下する。その結果、改変されてない化合物よりも少ない投与回数もしくは少ない投与量で、このようなポリマー化合物アダクトを投与することにより、所望のin vivo生物学的活性が達成され得る。
【0041】
ポリエチレングリコール(PEG)の化合物への結合は、PEGが哺乳類に非常に低い毒性を有するため特に有効である(Carpenterら, 1971)。例えば、アデノシンデアミナーゼのPEGアダクトは、ヒトの重い複合免疫不全症候群の治療に使用することが米国において承認された。PEGの結合により得られる第二の利点は、異種化合物の免疫抗原性および抗原性を効果的に低下させることである。例えば、ヒトタンパク質のPEGアダクトは、重い免疫応答を誘発する危険もなく、他の哺乳類種での疾患の治療に有効である。本発明のポリペプチドもしくは組成物は、ポリペプチドに対する、またはポリペプチドを産生し得る細胞に対する宿主の免疫応答を低下させるか妨害するために、ミクロカプセル化デバイスに輸送され得る。本発明のポリペプチドもしくは組成物は、リポソームのように、膜にミクロカプセル化されて輸送されてもよい。
【0042】
PEGのようなポリマーは、タンパク質における一以上の反応性アミノ酸残基(例えば、アミノ末端アミノ酸のアルファアミノ基、リジン側鎖のイプシロンアミノ基、システイン側鎖のスルフヒドリル基、アスパルチルおよびグルタミル側鎖のカルボキシル基、カルボキシ末端アミノ酸のアルファカルボキシル基、チロシン側鎖)に、またはアスパラギン、セリンもしくはスレオニン残基に結合したグリコシル鎖の活性化誘導体に、便宜的に結合することができる。
【0043】
タンパク質と直接反応するのに適したPEGの多くの活性化形態が記載されている。タンパク質のアミノ基との反応に有効なPEG試薬には、カルボン酸の活性なエステルまたは炭酸誘導体が含まれ、特に遊離基がN-ヒドロキシスクシンイミド、p-ニトロフェノール、イミダゾール、または1-ヒドロキシ-2-ニトロベンゼン-4-スルホネートであるものが含まれる。マレイミド基もしくはハロアセチル基を含むPEG誘導体は、タンパク質の遊離スルフヒドリル基を改変するのに有効な試薬である。同様に、アミノヒドラジン基もしくはヒドラジド基を含むPEG試薬は、タンパク質の炭水化物基の過ヨウ素酸酸化により生成されるアルデヒドとの反応に有効である。
【0044】
臨床的側面
本発明の一態様において、前記患者は以下に記載のとおり、そしてHarper’s Biochemistry, R.K.Murrayら (Editors) 21st Edition,(1988) Appelton & Lange, East Norwalk, CTに更に記載のとおり、臨床的側面に苦しむ場合がある。このような臨床的側面は、アテローム性動脈硬化症または加速性アテローム性動脈硬化症に患者を罹患されやすくする。従ってこのような患者は、有効な期間にわたって有効な量、sRAGEに由来するポリペプチドを投与されることで恩恵を受けるであろう。
【0045】
本発明の患者は、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症、または以下に記載の他の障害の臨床的徴候を表し得る。
【0046】
臨床上、高コレステロール血症は、胆汁酸の腸肝循環を妨害することにより治療され得る。血漿コレステロールの有意な減少は、この手法により起こることが報告されており、これはコレスチラミン樹脂の使用により、もしくは回腸の排除手術により外科的に成し遂げられる。両手法とも、胆汁酸の再吸収において遮断を引き起こす。次いで、胆汁酸により通常行われるフィードバック調節から免れるため、胆汁酸のプールを維持しようとしてコレステロールの胆汁酸への変換は大きく増大する。肝臓におけるLDL(低比重リポ蛋白質)レセプターは、アップレギュレートされ、LDLの取り込みを増加させ、その結果血漿コレステロールは低下する。
【0047】
コレステロール、アテローム性動脈硬化症、および冠動脈心臓疾患
多くの研究者らは、ヒトにおける血清脂質レベルの増大と、冠動脈心臓疾患およびアテローム性動脈硬化症の発症との関係を実証した。血清脂質のなかで、コレステロールは、その関係に主に関与するものとして最も頻繁に選ばれるものである。しかし、血清トリアシルグリセロール濃度のようなその他のパラメーターが、同様の関係を示している。動脈疾患の患者は、以下の異常性の一つをもち得る:(1)正常濃度のLDLであって、VLDL(超低比重リポ蛋白質)の濃度の増大;(2)正常VLDLであって、LDLの増大;(3)両リポ蛋白フラクションの増大。HDL(高比重リポ蛋白質)(HDL2)濃度と、冠動脈心臓疾患との間に逆の関係もあり、最も予測される関係はLDL:HDLコレステロール比であると考えられる。この関係は、組織へコレステロールを輸送する際のLDLの提案される役割、およびコレステロールのスカベンジャーとして機能するHDLの提案される役割に関して説明することができる。
【0048】
アテローム性動脈硬化症は、動脈壁の結合組織における、コレステロールおよびapo-B-100を含むリポ蛋白のコレステリルエステルの沈着により特徴づけられる。VLDL、IDL、またはLDLレベルの増加が長期的に血液中で起こる疾患(例えば、真性糖尿病、脂質ネフローゼ、甲状腺機能低下症、および高脂血症の他の状態)は、早発性もしくは重いアテローム性動脈硬化症に付随することが多い。
【0049】
動物におけるアテローム性動脈硬化症の誘導実験は、感受性において広範な種の多様性を示している。ウサギ、ブタ、サル、およびヒトは、コレステロールを与えることによりアテローム性動脈硬化症を誘導できる種である。ラット、イヌ、マウス、およびネコは、抵抗性を有する。甲状腺摘出術またはチオウラシル薬剤での処置により、イヌおよびラットにおいてアテローム性動脈硬化症を誘導できる。低い血中コレステロールは、甲状腺機能低下症に特徴的である。
【0050】
遺伝性因子は、個々の血中コレステロール濃度を決定するのに大きな役割を果たすが、血中コレステロールを低下させる食事因子および環境因子のうち、多価不飽和脂肪酸の食事において飽和脂肪酸の幾つかを交換することは、最も熱心に研究されてきた。
【0051】
高い比率のリノール酸を含有する天然に存在する油は、血漿コレステロールを低下させるのに有益であり、落花生油、綿実油、トウモロコシ油、およびダイズ油を含むが、高比率の飽和脂肪酸を含むバター脂肪、ビーフ脂肪、およびココナッツ油は、血漿コレステロールレベルを増加させる。スクロースおよびフルクトースは、他の炭水化物と比べて、血中脂質、特にトリアシルグリセロールを増加させるのに大きな効果を有する。
【0052】
多価不飽和脂肪酸のコレステロールを低下させる効果の理由は、いまだ明らかになっていない。しかし、コレステロールの腸への排出の刺激、およびコレステロールの胆汁酸への酸化の刺激など、前記効果を説明するために幾つかの仮説が発展してきた。多価不飽和脂肪酸のコレステリルエステルは、肝臓および他の組織により急速に代謝され、これが代謝回転および排出の速度を高めることが可能である。前記効果は、LDLの異化速度が高まったために、血漿から組織へコレステロールの分配が移行したことに依るものであるという他の証拠がある。飽和脂肪酸は、比較的多いコレステロールを含む小さいVLDL粒子の形成を引き起こし、大きな粒子よりも遅い速度で肝臓外の組織に利用される。こうした傾向の全てが、アテローム発生と考えられる。
【0053】
冠動脈心臓疾患において役割を果たすと考えられる追加の因子には、高血圧、喫煙、肥満、運動不足、および硬水に対して軟水を飲むことが含まれる。血漿の遊離脂肪酸の増加は、肝臓によるVLDL排出の増加につながり、これは過剰のトリアシルグリセロールおよびコレステロールの血経循環への排出を伴う。遊離脂肪酸の高レベルもしくは変動レベルの原因因子は、感情的ストレス、喫煙によるニコチン、コーヒーを飲むこと、および連続的な食事というより少し多い食事の摂取が含まれる。閉経前の女性は、おそらく男性および閉経後の女性よりHDL濃度が高いために、これら多くの有害な因子に対して保護されているようである。
【0054】
低脂血症(hypolipidemic)薬剤
食事処置が血清脂質レベルの低下を達成できないと、低脂血症(hypolipidemic)薬剤の使用に戻される。生合成経路の種々の段階でコレステロールの形成を妨害する幾つかの薬剤が公知である。これら薬剤の多くは有害な効果を示すが、HMG-CoAレダクターゼの真菌類阻害剤、コンパクチンおよびメビノリンは、ほとんど不利な効果もなくLDLコレステロールレベルを低下させる。シトステロールは、胃腸管でのコレステロールの吸収を阻害することにより作用する低コレステロール血症剤である。コレスチポールおよびコレスチラミン(Questran)のような樹脂は、これら樹脂と結合させることで胆汁塩の再吸収を妨害することにより、糞便量の減少が高まる。ネオマイシンは更に胆汁酸の再吸収を阻害する。クロフィブレートおよびゲムフィブロジルは、遊離脂肪酸の肝臓の流れをエステル化経路から酸化経路に変えることにより、トリアシルグリセロールおよびVLDL含有コレステロールの肝臓による排出は減少させ、低脂血症(hypolipidemic)効果の少なくとも一部の役割を果たす。その上、リポ蛋白リパーゼによるVLDLトリアシルグリセロールの加水分解を促進する。プロブコールは、レセプター非依存経路によるLDL異化を高めるようである。ニコチン酸は、脂肪組織の脂肪分解を阻害することによりFFAの流れを減少させ、それにより肝臓でのVLDL生産を阻害する。
【0055】
血漿リポ蛋白の障害(異常リポ蛋白血症(Dyslipoproteinemias))
集団の中で僅かな個体は、低リポ蛋白血症もしくは高リポ蛋白血症の何れかの初期状況に至るリポ蛋白の遺伝的欠陥を示す。真性糖尿病、甲状腺機能低下症、およびアテローム性動脈硬化症のような欠陥を有する多くの他の人は、初期の遺伝的状況に非常に似た異常なリポ蛋白パターンを示す。実際、これら初期状況の全てが、リポ蛋白の形成、輸送、または破壊の段階での欠陥によるものである。前記異常の全てが有害であるとは限らない。
【0056】
低リポ蛋白血症:
1.無ベータリポ蛋白血症 − これは、血漿中にベータリポ蛋白(LDL)が存在しないことにより特徴づけられる稀な遺伝的疾患である。血中脂質は低濃度で存在し、カイロミクロンもしくはVLDLが形成されないため、特にアシルグリセロールは実際に存在しない。腸および肝臓の両方にアシルグリセロールが蓄積する。無β−リポ蛋白血症は、アポ蛋白B合成の欠陥によるものである。
【0057】
2.家族性低ベータリポ蛋白血症 − 低ベータリポ蛋白血症において、LDL濃度は正常の10〜50%であるが、カイロミクロンの形成は起こらない。apo-Bはトリアシルグリセロール輸送に必須であるという結論に至る。多くの人は健康で長生きする。
【0058】
3.家族性アルファリポ蛋白欠損症(タンジアー病) − ホモ接合の人では、血漿HDLがほとんど存在せず、組織にコレステリルエステルが蓄積している。カイロミクロン形成または肝臓によるVLDLの排出に欠陥はない。しかし、電気泳動では、プレ-β-リポ蛋白はないが、幅広いβ-バンドが内因性トリアシルグリセロールを含んで見出される。これは、正常なプレ-β-バンドが、HDLにより通常提供される他のアポ蛋白を含んでいるためである。患者は、通常リポ蛋白リパーゼを活性化するapo-C-IIが存在しない結果、高トリアシルグリセロール血症を発症しやすい。
【0059】
高リポ蛋白血症
1.家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症(タイプI) − この病状は、血液循環からカイロミクロンの除去が非常に遅いことにより、カイロミクロンが異常に高いレベルに達することで特徴づけられる。VLDLは増加するが、LDLおよびHDLは減少する。従って、その状況は脂肪が誘導される。食事の脂肪量を減少させ、複合炭水化物の比率を高めることで、その状況を直すことができる。この疾患の変化は、リポ蛋白リパーゼの補因子として必要であるapo-C-IIの欠陥により引き起こされる。
【0060】
2.家族性高コレステロール血症(タイプII) − 患者は高ベータリポ蛋白血症(LDL)により特徴づけられ、これは血漿の全コレステロールの増加と関連がある。タイプIIbにおいては、VLDLが増加する傾向もある。従って患者は、ある程度トリアシルグリセロールレベルが増大するが、(高リポ蛋白血症の他のタイプでは当てはまらないが)血漿は透明なままである。組織における脂質の沈着(例えば、キサントーマ、アテロ−ム)は一般的である。タイプIIパターンは、甲状腺機能低下症の二次的結果としても起こり得る。該疾患は、欠陥性LDLレセプターによる血液循環からのLDLの除去速度の低下と関連しているようであり、アテローム性動脈硬化症の発症の増加と関連している。食事のコレステロールおよび飽和脂肪を減少させることは、治療に有効であり得る。種々の原因によるが高コレステロール血症を起こす疾患は、ウォルマン病(コレステロールエステル貯蔵病)である。これは、LDLを普通に代謝する繊維芽細胞のような細胞のリソソームにおいて、コレステリルエステルヒドロラーゼが欠損していることによる。
【0061】
3.家族性タイプIII高リポ蛋白血症(ブロードベータ疾患、レムナントリムーバル疾患、家族性異ベータリポ蛋白血症) − この病状は、カイロミクロンおよびVLDLレムナントの両方の増加により特徴づけられる;1.019未満の比重のリポ蛋白が存在するが、電気泳動で幅広のβ-バンドとして観察される(β−VLDL)。この病状は、高コレステロール血症および高トリアシルグリセロール血症を引き起こす。末梢動脈および冠状動脈の両方のキサントーマおよびアテローム性動脈硬化が存在する。減量による治療、並びに複合炭水化物、不飽和脂肪、および低コレステロールを含む食事による治療が、推奨される。前記疾患は、3種の異性体、E2、E3、およびE4に通常存在するapo-Eの異常により引き起こされる肝臓によるレムナント代謝の欠陥によるものである。タイプIII高リポ蛋白血症の患者は、Eレセプターと反応しないE2のみを有する。
【0062】
4.家族性高トリアシルグリセロール血症(タイプIV) − この病状は、高レベルの内部生産されたトリアシルグリセロール(VLDL)により特徴づけられる。コレステロールレベルは、高トリアシルグリセロール血症に比例して増大し、グルコース不耐性は頻繁に存在する。LDLおよびHDLの両方とも正常以下の量であった。このリポ蛋白パターンは、冠動脈心臓疾患、タイプIIインスリン非依存性糖尿病、肥満、並びにアルコール症および月経前期ホルモンの摂取など多くの他の状況と通常関連している。一次性タイプIV高リポ蛋白血症の治療は、減量;可溶性の食事の炭水化物を、複合炭水化物、不飽和脂肪、低コレステロールの食事に変えること;並びに低脂血症剤による。
【0063】
5.家族性タイプV高リポ蛋白血症 − カイロミクロンおよびVLDLともに増大し、トリアシルグリセロール血症およびコレステロール血症を引き起こすため、リポ蛋白パターンは複雑である。LDLおよびHDLの濃度は低い。キサントーマは頻繁に存在するが、アテローム性動脈硬化症の発症は、明らかに目立ってはいない。グルコース不耐性は異常であり、肥満および糖尿病としばしば関連性がある。家族性の状況に対する理由は、明らかではない。治療は、炭水化物もしくは脂肪のあまり高くない食事に続く減量からなる。
【0064】
高リポ蛋白血症の別の原因が、VLDLおよびLDLの血漿濃度に影響を及ぼすapo-Bの過剰生産であることが示唆されている。
【0065】
6.家族性高アルファリポ蛋白血症 − これは、健康に明らかに有益なHDL濃度の増加と関連した稀な病状である。
【0066】
家族性レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症: 罹患患者において、コレステリルエステルおよびリソレシチンの血漿濃度は低いが、コレステロールおよびレシチンの濃度は高い。血漿は、混濁しやすい。異常はリポ蛋白質にも見出される。HDLフラクションは、積み重ねられた(in stacks or rouleaux)ディスク状の構造を含み、これはLCATが存在しないためにコレステロールを取ることができない明らかに初期のHDLである。リポ蛋白-Xは、異常なLDLサブフラクションとして存在し、それ以外は胆汁うっ滞の患者でのみ見られる。VLDLは異常であり、電気泳動でβ-リポ蛋白として移動する(β-VLDL)。実質性肝臓疾患の患者は、LCAT活性の減少、並びに血清脂質およびリポ蛋白の異常性を更に示す。
【0067】
担体を含む薬剤
ある好ましい態様において、薬学的担体は液体であり得、薬学的組成物は溶液の形態である。別の同様に好ましい態様において、薬学的に許容し得る担体は固体であり、該組成物は粉剤もしくは錠剤の形態である。更に別の態様において、薬学的担体はゲルであり、該組成物は坐剤もしくは乳剤の形態である。更に別の態様において、該有効成分は薬学的に許容し得る経皮パッチの一部として製剤化され得る。
【0068】
固形担体は、一以上の物質を含むことができ、これは香味剤、潤滑剤、可溶化剤、懸濁化剤、充填剤、滑り剤(glidant)、圧縮補助剤、結合剤、または錠剤崩壊剤として作用し得る;それはカプセル化材料にもなり得る。粉剤において、担体は、細かく分割された有効成分と混合された細かく分割された固体である。錠剤において、有効成分は、必要な圧縮特性を有する担体と適切な比率で混合され、所望の形状およびサイズに固められる。粉剤および錠剤は、好ましくは有効成分を99%まで含有する。適切な固形担体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、スターチ、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリドン、低溶融ワックス、およびイオン交換樹脂を含む。
【0069】
液体担体は、液剤、懸濁剤、エマルジョン、シロップ剤、エリキシル剤、および加圧(pressurized)組成物を調製する際に使用される。有効成分は、薬学的に許容し得る液体担体、例えば水、有機溶媒、その混合液、または薬学的に許容し得る油もしくは脂肪に溶解もしく懸濁することができる。液体担体は、他の適切な薬学的添加剤、例えば可溶化剤、乳化剤、緩衝液、保存剤、甘味剤、香味剤、懸濁化剤、増粘剤、色素、粘性調節剤、安定剤、または浸透調節剤を含むことができる。経口投与および非経口投与のための液体担体の適切な例には、水(上述の添加剤、例えばセルロース誘導体を一部含有するもの、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール、例えばグリコールなど)およびその誘導体、並びに油(例えば、分画されたココナッツ油および落花生油)などがある。非経口投与において、担体は、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルであってもよい。滅菌された液体担体は、非経口投与用の滅菌液体形態の組成物において有効である。加圧(pressureized)組成物のための液体担体は、ハロゲン化炭化水素もしくは他の薬学的に許容し得る噴射剤(propellent)であり得る。
【0070】
滅菌溶液もしくは懸濁液である液体薬学的組成物は、例えば筋内、髄腔内、硬膜上、腹腔内、または皮下注射により利用され得る。滅菌溶液は、静脈内投与することもできる。有効成分は、滅菌水、食塩水、またはその他の適切な滅菌注入媒質を用いて、投与時に溶解もしくは懸濁することが可能な滅菌固形組成物として調製することができる。担体には、必要且つ不活性な結合剤、懸濁化剤、潤滑剤、香味剤、甘味剤、保存剤、色素、およびコーティングを含むことが意図される。
【0071】
本発明の有効成分(即ち、sRAGE由来のポリペプチド、または組成物)は、他の溶質もしくは懸濁化剤(例えば等張溶液をつくるのに充分な食塩もしくはグルコース、胆汁塩、アカシア、ゼラチン、ソルビタンモノオレアート、ポリソルベート80(酸化エチレンと共重合化したソルビトールおよびその無水物のオレイン酸エステル)など)を含有する滅菌溶液もしくは懸濁液の形態で経口投与され得る。
【0072】
前記有効成分は、液体もしくは固形組成物の形態で経口投与されてもよい。経口投与に適した組成物には、固体形態(例えば丸剤、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、および粉剤)、および液体形態(例えば液剤、シロップ剤、エリキシル剤、および懸濁剤)が含まれる。非経口投与に有効な形態には、滅菌液剤、エマルジョン、および懸濁剤が含まれる。
【0073】
アテローム性動脈硬化症
本発明の一態様において、患者はアテローム性動脈硬化症に罹患しやすい。この罹患しやすさには、遺伝的素質、環境的素質、代謝的素質、または物理的素質が含まれる。アテローム性動脈硬化症および心臓血管の疾患について最近のレビューがある。例えば、Keating and Sanguinetti, (May 1996) Molecular Genetic Insights into Cadiovascular Disease, Science 272: 681-685は、その全てを参照により本明細書の開示内容の一部とする。この著者は、不整脈、心筋症、および血管疾患のような心臓血管の疾患の遺伝型に分子的ツールを適用することを概説している。この参照文献の表1は、心臓疾患、および各疾患と関連した異常なタンパク質を含んでいる。掲載された疾患は以下のとおりである:LQT疾患、家族性肥大型心筋症;デュシェーヌ筋ジストロフィーおよびベッカー筋ジストロフィー;バルト症候群アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症;ミトコンドリア障害;家族性高コレステロール血症;低ベータリポ蛋白血症;ホモシスチン尿症;タイプIII高リポ蛋白血症;弁上部性大動脈狭搾症;エーレルス−ダンロー症候群IV;マルファン症候群;.遺伝性出血性毛細管拡張症。これらの状況は、患者がアテローム性動脈硬化症に罹患しやすい潜在的素質として含められる。
【0074】
更にアテローム性動脈硬化症のマウスモデルは、Breslow (1996) Mouse Models of Atherosclerosis, Sience 272:685に概説されている。この参照文献は、更にその全てを参照により本明細書の開示内容の一部とする。Breslowは、種々のマウスモデルおよびアテローム発生の刺激を列挙した表(表1)を更に含む。例えば、マウスモデルは、C57BL/6;ApoE欠損症;ApoE病巣;ApoE R142C;LDLレセプター欠損症;およびHuBTgを含む。本発明の一態様は、Breslowの刊行物に記載のマウスモデルにより示されるとおり、患者がアテローム性動脈硬化症に罹患しやすい素質を有するものである。
【0075】
Gibbons and Dzauは、Molecular Therapies for Vascular Disease, Science Vol.272, ページ689-693において、血管の疾患を概説している。本発明の一態様において、Gibbons and Dzauの刊行物の表1に記載されるとおり、患者は病理学的経過を明らかに示す。例えば、患者は、内皮の機能不全、内皮の傷害、細胞の活性化および表現型のモデュレーション、調節異常の細胞増殖、調節異常のアポトーシス、血栓症、プラーク破壊、異常細胞の移動、または細胞外もしくは細胞内マトリクス修飾を有し得る。
【0076】
本発明の別の態様において、患者は糖尿病を有し得る。前記患者は、糖尿病と関連した合併症を実証することができる。このような合併症の例には、以下のものを含む:内皮およびマクロファージAGEレセプターの活性化、変化したリポ蛋白、マトリクス、および基底膜タンパク;変化した血管平滑筋の収縮性およびホルモン応答性;変化した内皮細胞の透過性;ソルビトールの蓄積;神経ミオイノシトールの除去、または変化したNa-K ATPアーゼ活性。このような合併症は、Porte and Schwartz, Diabetes Complications: Why is Glucose potentially Toxic?, Science, Vol.272, ページ 699-700により最近の刊行物に記載されている。
【0077】
以下の実験の詳細の部で本発明を説明する。この部分は、本発明の理解を助けるために記載されたものであって、如何なる意味においても、その後に続く請求の範囲に明記された本発明を限定することを意図したものではなく、またそのように解してはならない。
【実験の詳細な説明】
【0078】
例1:後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプター(sRAGE)による、加速性糖尿病性アテローム性動脈硬化症の抑制
糖尿病にとって重要なことは、高血糖症の存在である。グルコースとタンパク/脂質との相互作用の重大な合併症は、後生的グリケーション最終生成物、即ちAGEsの不可逆的な形成である(Brownlee, 1992)。AGEsは、通常の老化の間に血漿および組織に蓄積し、糖尿病の患者では加速的な程度で蓄積する。AGEsは、糖尿病合併症の病因と関連している。
【0079】
単球および内皮細胞上の細胞レセプターRAGE(AGEのレセプター)とAGEsとの相互作用により、炎症前環境が発生し、ここで、単球移動/活性化の増大、内皮の高透過性、並びに内皮細胞上での接着分子および組織因子の発現の増加により、血管病変の発生を導く環境が形成されることが実証された(Schmidtら, 1992; Neeperら, 1992; Schmidtら, 1994; Schmidtら, 1995)。
【0080】
一つの「V」タイプ免疫グロブリンドメインと、それに続く二つの「C」タイプドメインとから成るRAGEの細胞外部分(可溶性もしくはsRAGEと称される)が、細胞RAGEに結合し活性化するAGEsの能力に関与していることが更に実証された(Schmidtら, 1994)。in vivoにおいて、sRAGEの投与は、糖尿病ラットの高浸透能力を阻害する(Wautierら, 1996)。
【0081】
以下に記載するとおり、糖尿病における加速性アテローム性動脈硬化症のモデルが開発され、sRAGEの慢性投与(22時間の糖尿病齧歯類におけるto/2排出(to/2 elimination))が加速性アテローム性動脈硬化症の発症を予防するという仮説を試験するために使用された。
【0082】
これらの研究により、sRAGEの毎日の腹腔内注入が、ストレプトゾトシンで糖尿病を付与されたアポリポ蛋白E欠損(またはノックアウト)マウスにおいて、アテローム性動脈硬化症の加速的な発生を予防することが実証された。
【0083】
材料および方法:
[動物および糖尿病の誘発] C57B1/6Jバックグラウンドでのアポリポ蛋白E(0)マウス(N10;>99%ホモロジーを有する戻し交配された第10世代)を、Jackson Laboratoriesから入手した。4回の毎日の注射で、滅菌クエン酸緩衝液(0.05 M;pH 4.5)中のストレプトゾトシン(55 mg/kg)を多数回、腹腔内注射することにより、7週齢でオスマウスに糖尿病を誘導した。コントロールマウスを賦形剤(緩衝液のみ)で処置した。次いで、尾の静脈から入手した血液を用いて、血漿のグルコース濃度を比色アッセイ(colormetric assay(Sigma(登録商標)))で測定した。二つの個々の事例において血漿のグルコースレベルが300 mg/dlを越えていれば、マウスは糖尿病だとみなした。全てのマウスを普通の食事で飼育した。
【0084】
[アテローム性動脈硬化症の病巣の定量] 糖尿病の誘導もしくはコントロールの処置の後、以下に記載の時点でマウスを屠殺した。アテローム性動脈硬化症の病変の定量解析は、大動脈洞からの切片で行った。無痛の屠殺後、心臓をホルマリン(10%)で固定し、ゼラチン(25%)に包埋し凍結した。クリオスタット切片を10ミクロンの厚さに切断し、オイルレッドOで染色し、ヘマトキシリンおよびライトグリーンで対比染色した。次いで、各々80ミクロンごとに分離された5つの連続切片において、コンピューター補助イメージ解析(Zeiss Image, Media Cybernetics)により、脂肪の病変面積を測定した。平均病変面積を、各グループについて定量した。
【0085】
[可溶性マウスRAGEの調製] マウス可溶性RAGEのcDNAを含む構築物を調製し、製造者の指示に従ってバキュロウイルスDNAを用いてコトランスフェクトした(PharMingen)。次いで、胎仔ウシ血清(10%)を含むGrace’s昆虫培地で3日間、血清なしのGrace’s昆虫培地(Gibco(登録商標))で3日間、前記構築物をSf9細胞に感染させた。2回目の3日間の終わりに、遠心(1,200 rpm×20分)で細胞を上清から分離し、リン酸ナトリウム(0.02 M;pH 7.4)およびNaCl(0.05 M)を含む緩衝液に対して上清を透析した。透析した後、FPLCシステム(Pharmacia(登録商標))を用いてSPセファロース樹脂(5mL)に上清を添加した。塩化ナトリウムの直線的勾配(0.05M〜0.6M)を用いて、マウス可溶性RAGEを溶出した。SDS-PAGEにより、該物質がシングルバンドであることが明らかになった。マウスへの導入に先立って、精製されたマウス可溶性RAGEを、内毒素除去カラム(Detoxigel, Pierce)に通した。リムルスアメーバ様細胞アッセイ(Sigma(登録商標))での試験により測定されるとおり、最終生成物は内毒素を欠いており、リン酸緩衝化食塩水に対して透析し、80℃で一部ずつ保存した。
【0086】
[可溶性RAGEによる糖尿病マウスの治療] 糖尿病を誘導した後、可溶性マウスRAGE(20μg/日;腹腔内)もしくは等モル濃度のマウス血清アルブミン(40μg/日;腹腔内)を用いて、糖尿病を誘導してから2週間後から6週間継続して、糖尿病のマウスを1日に1回治療した。この治療の最後に、マウスを屠殺し、大動脈に、アテローム性動脈硬化症病変の定量的形態測定(morphometric)の分析を行った。
【0087】
[リポ蛋白の解析] リポ蛋白を解析するための血漿を得るのに先だって、マウスを4時間絶食させた。コレステロールおよびトリグリセリドの血漿濃度を、市販のキット(Boehringer Mannheim(登録商標))を用いて測定した。VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中比重リポ蛋白)/LDL(低比重リポ蛋白)、およびHDL(高比重リポ蛋白)を、密度超遠心並びにFPLCにより分離した。
【0088】
結果
ストレプトゾトシン(stz)で治療した後、平均血漿グルコース濃度は、コントロールの130〜160 mg/dlと比べて、約350〜500 mg/dlであった。
【0089】
apo E(0)マウスの以前の研究(Plumpら, 1992)と一致して、糖尿病マウスとコントロールマウスの両方に、脂肪の線条病変が早い時期(4週間)に観察された。該病変は、大動脈根および大動脈弓の小弯において最初に見られ、近くから延びていく胸大動脈の主要な枝の各々に進行した。各時間において、コントロールと比べて糖尿病のマウスは、該病変が一貫してサイズが大きく広範囲であった。例えば、糖尿病の10週間後、胸の分枝点のそれぞれで別々の病変が、血管をほぼ完全に閉塞した状態であることをマウスは実証した(図1B)。これは、同年齢のクエン酸処置されたコントロールマウスが、大動脈根において脂肪の線条のみが観察された(図1A)のと比較してかなり対照的であった。
【0090】
該病変の定量的解析により、糖尿病の8週間後、糖尿病マウスの平均病変面積は、糖尿病でないコントロールで観察されたものより約3.7倍大きいことが明らかにされた。糖尿病の8週間後、オイルレッドO/ヘマトキシリン ライトグリーンを用いた観察により、線維性キャップ(fibrous cap)の形成が証拠となって、後生的アテローム性動脈硬化症の病変が実証された。同様の実験により、糖尿病の6週間後に、平均病変面積の約3倍の増加が明らかになった。
【0091】
脂質プロフィールの解析により、クエン酸処置のコントロールマウスと比較して、糖尿病の誘導は、VLDLレベルが約2倍に増大し、LDLレベルが約1.4倍に増大し、HDLレベルは変化しないことが示された。糖尿病マウスと非糖尿病マウスとの間で血漿トリグリセリドのレベルに違いはなかった。
【0092】
AGE-RAGE相互作用の増加が、糖尿病マウスにおける加速性アテローム性動脈硬化症の病因に重要であるという本明細書に記載の仮説と一致して、sRAGE(20μ/日;腹腔内)で糖尿病マウスを処置すると、マウス血清アルブミンで処置された糖尿病マウスと比較して、平均病変面積は約1.8倍減少した(それぞれ、150,046±18,549 vs. 271,008±16,721μm2、p<0.02、図2)。マウス血清アルブミンで処置された、糖尿病の8週間後の典型的な糖尿病マウスの大動脈ツリーを肉眼で観察することにより、主要な分枝点および大動脈弓で広範囲のアテローム性動脈硬化症プラークの形跡が明らかになり(図3A)、これはsRAGEで処置した糖尿病マウスでは著しく減少した(図3B)。重要なことに、sRAGEで処置されたマウスは、血漿グルコースのレベルが変化しないことが実証された。更に、sRAGEで処置されたマウスは、マウス血清アルブミンで処置された糖尿病マウスと比較して、脂質プロフィール(全コレステロール、全トリグリセリド、並びにFPLC解析によるリポ蛋白の分別)に差異がないことが明らかにされた。これらのデータにより、sRAGEを用いた処置が、グルコースおよび脂質それぞれ別々のやり方で、加速性糖尿病性アテローム性動脈硬化症を減少させることが示唆される。
【0093】
議論
本明細書で詳述したとおり、ストレプトゾトシンで処置した後の糖尿病マウスにおける加速性アテローム性動脈硬化症の第一モデルの開発が実証された。糖尿病マウスにおいて、時期的に早く且つより後生的なアテローム性動脈硬化症病変が、同年齢のコントロールと比較して実証された。
【0094】
加速性糖尿病性動脈硬化症の発症においてAGE-RAGEの相互作用が高まること、糖尿病マウスのsRAGE(AGEsと細胞性RAGEとの相互作用の拮抗阻害剤)による治療において重要な役割は、糖尿病の8週間後に平均アテローム性動脈硬化病変の統計的に有意な減少に至った。
【0095】
総合して考えると、これらのデータは、可溶性RAGEの投与が加速性アテローム性動脈硬化症のような糖尿病の慢性合併症を予防するための新規且つ重要な手段であり得ることを示している。
【0096】
例2:ヒトApo Bを過剰発現する糖尿病マウスにおける加速性アテローム性動脈硬化症のモデル:後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターによる抑制
脂質に非依存のメカニズムは、糖尿病(D)における加速性心臓血管疾患の一因となる。持続性高血糖症において、タンパク質/脂質の非酵素的グリケーション/酸化が、不可逆的な後生的グリケーション最終生成物(AGE)を形成し、これはD血漿/組織で蓄積し、別個の細胞性レセプター、例えばRAGEと相互作用し、血管性細胞の混乱を起こす。in vitroにおいて、可溶性RAGE(sRAGE)、RAGEの細胞外の2/3は、AGEsを結合し、AGEsの細胞性RAGEと相互作用し活性化する能力を阻害する。我々は、ヒトapo Bを過剰発現するメスマウスを、ストレプトゾトシンで糖尿病にした;Dマウスおよびコントロール(C)マウスに、6週間通常の食事を与えた。Dマウスを、sRAGE(20μg/日、腹腔内)もしくはマウス血清アルブミン(MSA、40μg/日)で1日に1回処置した。6週間目に、形態測定(morphometric)解析により、Cマウスに対してDマウスでは、平均病変面積(MLA)の26倍の増加が明らかになった(919±38 v. 35±15μm2;p<0.0005)。Cマウスと比較してDマウスにおいて、コレステロール(TC)レベル(113±25 v 73±19 mg/dl;p=0.08)、トリグリセリド(TG)レベル(102±21 v.79±7mg/dl;p=0.33)、およびapoB(62.7±7 v.70±5mg/dl;p=0.39)には違いがなかった。FPLC解析により、同一の脂質プロフィールが明らかになった。MSAで治療されたマウスと比べてsRAGEで治療されたマウスにおいて、MLAは8倍減少し(124±18 v.993±48μm2;p<0.0005)、TCレベル(102±5v.106±7mg/dl;p=0.65)、TGレベル(122±8v.112±9mg/dl;p=0.46)、またはapoBレベル(61±2v.63±3mg/dl;p=0.66)は、MSA処置されたマウスと比べてsRAGE処置されたマウスでは有意な差異は見られなかった。高血糖症(HbAlc)は、両グループで持続していた。従って、ヒトapoBを過剰発現する糖尿病マウスは、加速性糖尿病性アテローム性動脈硬化症の基礎となる脂質非依存のメカニズムの一因を分析するための理想的なモデルであり得る。これらのデータにより、糖尿病性血管症を予防するための治療剤をデザインするための新規ターゲットとして、AGE-RAGE相互作用が確証された。
【0097】
従って、sRAGEは、ヒトのアポリポ蛋白B遺伝子を過剰発現している糖尿病マウスにおいて加速性アテローム性動脈硬化症病変の発症を抑制する。このマウスモデルのシステムは、糖尿病性ミクロ血管疾患を治療するための化合物を試験するのに有効である。本発明の一態様は、患者の糖尿病性ミクロ血管疾患を改善する化合物の同定方法であって、患者(例えば、このマウスモデル)に該化合物を投与することと、投与されたマウスにおける加速性アテローム性動脈硬化症病変の発症量を、該化合物を投与されなかったマウスにおける病変の発症量と比較することとを含み、第一のマウスにおける病変発症の減少は、該化合物が糖尿病性ミクロ血管疾患を改善するのに有効であることを示す方法である。
【0098】
例3 − AGEの可溶性レセプター(sRAGE)で処置された糖尿病のLDLレセプター・ヌルマウスにおける血管構造の完全な状態の維持
レセプター非依存のメカニズム(例えば後生的グリケーション最終生成物、タンパク質の非酵素的グリコキシ化(glycoxidation)の生成物の形成および架橋結合の増大)、並びに特定レセプターとの相互作用に依存したメカニズムの結果;血管構造の完全な状態(VSI)は、糖尿病では減少している。最も特徴付けられたAGEのレセプター(RAGE)は、AGE構造と相互作用し、これは、血管の高浸透性、接着分子の内皮(EC)発現の増加、並びにサイトカイン(例えばTNF-αおよびIL-1β)の生産によるマクロファージ(MP)の誘引および活性化につながる。LDLRヌル(LDLR 0)マウスは、ストレプトゾトシンにより糖尿病にした。糖尿病性血管疾患におけるこの相互作用の役割を研究するため、糖尿病性LDLR 0マウスを、可溶性RAGE(sRAGE;AGEsを結合し、細胞性RAGEと相互作用し活性化する能力を妨害するRAGEの細胞外の2/3)もしくは等モル濃度の賦形剤、マウス血清アルブミン(MSA)で処置した。大動脈の抗張力(TS)をVSIの指標として測定した。sRAGE(20μg/日)を毎日投与して6週間後、大動脈のTSは、101±6.9ニュートン(N)(平均値±SEM)であったのに対し、MSAで処置された糖尿病性LDLR 0マウスでは40±7.3Nであった(p=0.004)(2.53倍)。LDLR 0コントロールマウスのTSは、91±13Nであり;sRAGEマウスとコントロールマウスとの間に有意な差はなかった(p=0.57)。コントロールのTSと糖尿病性LDLR 0大動脈との間に有意な差が存在した(p=0.02)。大動脈抽出物のザイモグラフィーにより、sRAGE処置されたマウスに対して、糖尿病性MSA処置されたマウスでは、ゼラチナーゼ活性の増大が明らかになった。総合的に考えると、これらのデータは、多くのメカニズム、例えばAGEsの形成およびレセプター介在の組織破壊的炎症プロセスが、糖尿病において血管構造の完全な状態を減少させるように作用することを示唆している。sRAGEの有益な効果は、このプロセスにおけるAGE−RAGE相互作用の役割を示しており、RAGEが糖尿病性血管疾患の重要な治療ターゲットであると確認される。
【0099】
例4 − AGE可溶性レセプター(sRAGE)による、糖尿病性LDLレセプター ヌルマウスにおける加速性アテローム性動脈硬化症の抑制
我々は、ストレプトゾトシン(stz)を用いて糖尿病にしたLDLレセプター ヌル(LDLR 0)マウスは、非糖尿病性コントロールLDLR 0と比較して、通常の食事の6週間後に血管病変の発症が増加することを以前に実証した。脂質含量の解析により、血漿コレステロールもしくはトリグリセリドのレベルもしくはプロフィールにおいて有意な差異は明らかにされず、これは脂質に依存しないメカニズムが関与していることを示唆している。後生的グリケーション最終生成物(AGEs)と、細胞性レセプターRAGEとの相互作用の可能な役割を記載するため、我々は糖尿病性LDLR 0 マウスを、可溶性RAGE(sRAGE)もしくは等モル濃度のマウス血清アルブミン(MSA)で、ともに腹腔内投与により1日に1回処置した。食事における毎日の治療の6週間後、平均アテローム性動脈硬化症病変面積(MALA)は、MSAで処置されたマウスにおいて8803±287μm2であった。対照的に、sRAGE 20μgで処置されたマウスにおけるMALAは、2412±184μm2(MSAと比較してp<0.0001)、sRAGE(40μg)で処置されたマウスでは、1312±73μm2(MSAと比較してp<0.0001)であった。脂質における有意な差異は、sRAGE(20μg)とMSAグループとの間に観察されなかった(コレステロール:sRAGE − 216±19 mg/dlおよびMSA − 220±20 mg/dl(p=0.53))、(トリグリセリド:sRAGE − 81±7mg/dlおよびMSA − 77±8mg/dl(p=0.3))。FPLCによれば、脂質プロフィールに差異はなかった。屠殺時に、グリコシル化ヘモグロビンの平均レベルは、MSAおよびsRAGE(20μg)で処置されたマウスにおいて、それぞれ9.69±9および9.23±7;p=0.3であった。総合的に考えると、AGEsと細胞性RAGEとの相互作用が、糖尿病性LDLR 0 マウスの加速性血管病変の発症において重要な構成要素であり得ることをこれらのデータは示しており、この相互作用は、糖尿病性血管疾患を予防するための適切なターゲットであると確認された。
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速性アテローム性動脈硬化症に罹患しやすい患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防する方法であって、該患者において加速性アテローム性動脈硬化症を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記患者が哺乳類である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳類がヒトである請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記患者が糖尿病の患者である請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記患者がアポリポ蛋白欠損症に罹患している請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記患者が高脂血症に罹患している請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記高脂血症が、高コレステロール血症または高トリグリセリド血症である請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記患者がグルコース代謝障害を有する請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記患者が肥満の患者である請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの少なくとも一部を含む請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターのVドメインを含む請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの10キロダルトンのドメインを含む請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの配列内にある、20アミノ酸以下の長さの配列を含む請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記ポリペプチドが、ペプチド類似体、合成ポリペプチド、またはポリペプチド類縁体である請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記ポリペプチドを投与する間に、薬学的に許容し得る担体を患者に投与することを更に含む請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記投与が、病変内、腹腔内、筋内、もしくは静脈内注射;点滴;リポソーム介在デリバリー;または局所、鼻、口、眼、もしくは耳デリバリーを含む請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドが毎日投与される請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドの有効量が、約0.000001 mg/kg体重〜約100 mg/kg体重を含む請求項1記載の方法。
【請求項19】
マクロ血管疾患に罹患しやすい患者においてマクロ血管疾患を予防する方法であって、該患者においてマクロ血管疾患を予防するのに有効な量で、後生的グリケーション最終生成物の可溶性レセプターに由来するポリペプチドを該患者に投与することを含む方法。
【請求項20】
前記患者がヒトである請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記患者が糖尿病の患者である請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記患者がアポリポ蛋白欠損症に罹患している請求項19記載の方法。
【請求項23】
前記患者が高脂血症に罹患している請求項19記載の方法。
【請求項24】
前記高脂血症が、高コレステロール血症または高トリグリセリド血症である請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記患者がグルコース代謝障害を有する請求項19記載の方法。
【請求項26】
前記患者が肥満の患者である請求項19記載の方法。
【請求項27】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの少なくとも一部を含む請求項19記載の方法。
【請求項28】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターのVドメインを含む請求項19記載の方法。
【請求項29】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの10キロダルトンのドメインを含む請求項19記載の方法。
【請求項30】
前記ポリペプチドが、後生的グリケーション最終生成物の天然に存在する可溶性レセプターの配列内にある、20アミノ酸以下の長さの配列を含む請求項19記載の方法。
【請求項31】
前記ポリペプチドが、ペプチド類似体、合成ポリペプチド、またはポリペプチド類縁体である請求項19記載の方法。
【請求項32】
前記ポリペプチドを投与する間に、薬学的に許容し得る担体を患者に投与することを更に含む請求項19記載の方法。
【請求項33】
前記投与が、病変内、腹腔内、筋内、もしくは静脈内注射;点滴;リポソーム介在デリバリー;または局所、鼻、口、眼、もしくは耳デリバリーを含む請求項19記載の方法。
【請求項34】
前記ポリペプチドが毎日投与される請求項19記載の方法。
【請求項35】
前記ポリペプチドの有効量が、約0.000001 mg/kg体重〜約100 mg/kg体重を含む請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65040(P2010−65040A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−236481(P2009−236481)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【分割の表示】特願2000−506991(P2000−506991)の分割
【原出願日】平成10年8月5日(1998.8.5)
【出願人】(592104782)ザ・トラスティーズ・オブ・コランビア・ユニバーシティー・イン・ザ・シティー・オブ・ニューヨーク (21)
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK
【Fターム(参考)】