説明

徘徊性昆虫誘引システム

【課題】圃場内に存在する害虫を駆除するため、その天敵昆虫の一つである徘徊性昆虫を選択的に圃場内へ誘引する。
【解決手段】徘徊性昆虫誘引システム1は、圃場の周囲に設けられる第1誘引光源部2と、圃場内に設けられる第2誘引光源部3と、遮光部21とを備える。遮光部21は、第1誘引光源部2の近傍に、第1誘引光源部2からの光が照射されず第2誘引光源部3からの光が照射されるエリア(第2エリア7)を形成する。第1誘引光源部2から照射される光によって誘引された昆虫のうち、第2エリア7へ侵入した徘徊性昆虫8は、選択的に第2誘引光源部3から照射される光によって圃場内へ誘引される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物を育成する圃場において害虫を駆除するための徘徊性昆虫誘引システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、作物を育成する圃場において、害虫による作物への被害を低減するために農薬が用いられてきた。しかし、近年の作物に対する安全性志向の高まり等から、農薬の使用を減少させることが望まれている。
【0003】
そこで、農薬に依存しない害虫駆除手段の一つとして、害虫に対する天敵昆虫を圃場内へ誘引光源を用いて誘引し、誘引した天敵昆虫によって圃場内の害虫を捕食させるシステム及び方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−25673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示されるシステムは、ヤガ等の飛翔性害虫も圃場内へ誘引することがあり、必ずしも天敵昆虫だけを選択的に誘引するものではない。
【0006】
上記のような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、天敵昆虫の一つである徘徊性昆虫を選択的に圃場内へ誘引する徘徊性昆虫誘引システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る徘徊性昆虫誘引システムは、圃場の周囲に設けられ昆虫誘引活性を有する光を照射する第1誘引光源部と、圃場内に設けられ第1誘引光源部から照射される光よりも低い昆虫誘引活性を有する光を照射する第2誘引光源部と、第1誘引光源部の近傍に設けられ第2誘引光源部からの光が照射されるエリアへの第1誘引光源部からの光照射を遮る遮光部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この徘徊性昆虫誘引システムは、第2誘引光源部からの光が照射されるエリアより、第1誘引光源部からの光が照射されるエリアへ、徘徊性昆虫が逆戻りすることを防ぐ逆戻り防止機構を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の徘徊性昆虫誘引システムによれば、遮光部は、第1誘引光源部の近傍に、第1誘引光源部からの光が照射されず第2誘引光源部からの光が照射されるエリアを形成する。第1誘引光源部から照射される光によって誘引された昆虫のうち、このエリアへ侵入した徘徊性昆虫は、選択的に第2誘引光源部から照射される光によって圃場内へ誘引される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る徘徊性昆虫誘引システムの構成を示す斜視図。
【図2】上記システムの側面図。
【図3】上記システムの動作過程を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る徘徊性昆虫誘引システムについて、図面を参照して説明する。図1に示されるように、徘徊性昆虫誘引システム1は、広く昆虫を誘引する第1誘引光源部2と、第1誘引光源部2に誘引された昆虫の中から選択的に徘徊性昆虫を誘引するために利用される第2誘引光源部3とを備える。
【0012】
第1誘引光源部2は、作物4が育成される作物栽培領域40の外側で圃場5の周囲に配置された誘引装置20内に設けられ、圃場5外に向けて光を照射する。この光は、昆虫誘引活性を有し、例えば、300〜400nmの波長範囲内にピーク波長を持つ光である。
【0013】
第2誘引光源部3は、圃場5内の作物栽培領域40内に配置された支持体30上に設けられ、作物栽培領域40内及びその周辺部に向けて光を照射する。この光は、第1誘引光源部2から照射される光よりも低い昆虫誘引活性を有し、例えば、500〜700nmの波長範囲内にピーク波長を持つ光である。
【0014】
第1誘引光源部2及び第2誘引光源部3は、効率的に昆虫を圃場5内へ誘引するため、圃場5に自然光が照射されていない日の入から日の出までの時間帯に点灯されることが好ましい。また、これら両光源の点灯及び消灯は、同時に行われることが好ましく、ソーラータイムスイッチを利用することにより予め記憶された日の出・日の入り時刻に従って制御されてもよい。
【0015】
第1誘引光源部2及び第2誘引光源部3から照射される光の光量は、特に限定されるものではないが、第1誘引光源部2から照射される光の光量は、第2誘引光源部3から照射される光の光量よりも大きい又は同等レベルであることが好ましい。
【0016】
第1誘引光源部2及び第2誘引光源部3は、例えば、特定波長の光を照射するように構成された有機EL、LED若しくはカラー蛍光ランプ、又は特定波長の光を透過させるフィルタで覆われた蛍光灯若しくはHIDランプ等の汎用光源から成る。
【0017】
図2に示されるように、第1誘引光源部2を持つ誘引装置20は、遮光部21と、徘徊性昆虫歩行部22と、筺体部23とを備える。
【0018】
遮光部21は、第1誘引光源部2の近傍に設けられ、第2誘引光源部3からの光が照射されるエリアへの第1誘引光源部2からの光照射を遮る。これにより、第1誘引光源部2からの光が主に照射されるエリア(第1エリア6)と、第2誘引光源部3からの光が照射されるエリア(第2エリア7)が形成される。遮光部21は、例えば、金属(アルミ、鉄等)や樹脂等の材質から形成されるが、少なくとも第1誘引光源部2から照射される光を遮光できる材質であればよく、例えば、300〜400nmの波長を有する光を透過しないフィルムを貼着した透明板等から構成される。
【0019】
徘徊性昆虫歩行部22は、遮光部21の下の地面上に配置される扁平な構造体であり、作物4が育成される作物栽培領域40の近傍へ連なる。
【0020】
筺体部23は、第1誘引光源部2と、遮光部21と、徘徊性昆虫歩行部22とを一体化するものであり、金属(アルミ、鉄等)や樹脂等の堅い材質から成ることが好ましい。
【0021】
徘徊性昆虫誘引システム1は、地面と第1エリア6と第2エリア7とに連なって地面上に設けられる徘徊性昆虫8用の移動経路を持ち、この移動経路上に第2エリア7より第1エリア6へ徘徊性昆虫8が逆戻りすることを防ぐ逆戻り防止機構を備えることが好ましい。この逆戻り防止機構は、例えば、誘引装置20の一部として、第1エリア6と第2エリア7との境界付近の地面上に配置される段差部24より構成される。段差部24は、例えば、片側スロープ構造を持ち、第1エリア6から第2エリア7へ向かう徘徊性昆虫8は乗り越えることができるが、第2エリア7から第1エリア6へ向かう徘徊性昆虫8は乗り越えることができない形状となっている。
【0022】
なお、徘徊性昆虫8は、圃場5の周囲に生息している土着性昆虫であり、具体的には、捕食性のオサムシ及びゴミムシ類(セアカヒラタゴミムシ、キボシアオゴミムシ、オオアトボシアオゴミムシ等)等の昆虫を含む。
【0023】
図3上図に示されるように、第1誘引光源部2から照射される光は、圃場5外から第1エリア6へ徘徊性昆虫8を誘引する。第1エリア6へ誘引された徘徊性昆虫8は、より第1誘引光源部2へ近付こうと移動するうちに、第2エリア7へ到達する。第2エリア7へ到達した徘徊性昆虫8は、遮光部21の作用により第1誘引光源部2から照射される光を視認することができないため、第2誘引光源部3から照射される光を誘引光として視認する。その結果、図3下図に示されるように、第2エリア7へ到達した徘徊性昆虫8は、第2誘引光源部3から照射される光によって作物栽培領域40へ誘引され、そこで作物4に付着した害虫の駆除にあたることとなる。
【0024】
また、段差部24が配置されることにより、第1誘引光源部2から照射される光に誘引された徘徊性昆虫8は、段差部24のスロープを登り、第1誘引光源部2へより近付くことができる。しかし、段差部24は、第1誘引光源部2と連結されていないため、徘徊性昆虫8は、段差部24のスロープを登り切った時点で第2エリア7に配置される徘徊性昆虫歩行部22へ落ちる。ここで、上述のように、段差部24は、徘徊性昆虫8が第2エリア7側から乗り越えることができない形状となっているため、徘徊性昆虫歩行部22へ落ちた徘徊性昆虫8は、第2エリア7内に閉じ込められることとなる。これにより、第2エリア7内に徘徊性昆虫8を蓄積させることが可能となる。
【0025】
第1誘引光源部2及び第2誘引光源部3から照射される光は、徘徊性昆虫8に加え、作物4に被害を与え得るヤガ等の飛翔性害虫80も誘引する。ここで、上述のように、第1誘引光源部2から照射される光は、第2誘引光源部3から照射される光と比べ、より高い昆虫誘引活性を有している。そのため、飛翔性害虫80は、第1誘引光源部2から照射される光によってより強く誘引され、その結果、第1エリア6により長く留まることとなる。また、仮に飛翔性害虫80が第2エリア7へ入り込んだとしても、飛翔性害虫80は、昆虫誘引活性の低い光が照射されている第2エリア7には長く留まらず、飛翔しているうちに第1エリア6の存在に気付き、第1エリア6へ移動する。
【0026】
第2エリア7へ入り込んだ飛翔性害虫80の第1エリア6への移動を促進するため、遮光部21は、第1誘引光源部2の上方へ照射される光を透過させるよう改変されてもよい。これにより、第2エリア7へ入り込んだ飛翔性害虫80は、飛翔中に第1誘引光源部2の上方へ照射される光を視認することができるようになるため、第1エリア6へ移動する確率が高くなる。ここで、この改変された遮光部21は、第2エリア7内の地面への第1誘引光源部2からの光照射を遮り、そして第1誘引光源部2の上方へ照射される光は、第2エリア7内の地面には到達しない。そのため、この改変された遮光部21は、第2エリア7内の地面上に存在する徘徊性昆虫8の行動に何ら影響を与えない。
【0027】
上記実施形態によれば、第1誘引光源部2から照射される光によって圃場5外より広く昆虫を誘引した後、第2誘引光源部3から照射される光によってこれらの昆虫の中から選択的に徘徊性昆虫8を圃場5内(作物栽培領域40内)へ誘引することが可能となる。圃場5内へ誘引された徘徊性昆虫8は、段差部24等の逆戻り防止機構により、圃場5内に閉じ込められる。これらにより、圃場5内に存在する徘徊性昆虫8の数を増やすことができ、結果として、作物4に付着した害虫を効率良く徘徊性昆虫8に捕食させることが可能となる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、第1誘引光源部2及び第2誘引光源部3の配置場所及び配置台数は、上記実施形態に示される例に限定されない。第1誘引光源部2は、飛翔性害虫80を捕獲するため、徘徊性昆虫8が歩行しない位置で、かつ第1誘引光源部2の近傍に設置される粘着シート等の捕獲トラップを備えていてもよい。また、徘徊性昆虫歩行部22は、より効率良く徘徊性昆虫8を作物の栽培領域40へ誘引するため、第2誘引光源部3から照射される光を反射する反射板等を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 徘徊性昆虫誘引システム
2 第1誘引光源部
21 遮光部
24 段差部(逆戻り防止機構)
3 第2誘引光源部
5 圃場
6 第1エリア(第1誘引光源部からの光が照射されるエリア)
7 第2エリア(第2誘引光源部からの光が照射されるエリア)
8 徘徊性昆虫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の周囲に設けられ昆虫誘引活性を有する光を照射する第1誘引光源部と、
前記圃場内に設けられ前記第1誘引光源部から照射される光よりも低い昆虫誘引活性を有する光を照射する第2誘引光源部と、
前記第1誘引光源部の近傍に設けられ前記第2誘引光源部からの光が照射されるエリアへの前記第1誘引光源部からの光照射を遮る遮光部と、を備えることを特徴とする徘徊性昆虫誘引システム。
【請求項2】
前記第2誘引光源部からの光が照射されるエリアより、前記第1誘引光源部からの光が照射されるエリアへ、徘徊性昆虫が逆戻りすることを防ぐ逆戻り防止機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載の徘徊性昆虫誘引システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55246(P2012−55246A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202392(P2010−202392)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】