説明

復水工法、及び復水システム

【課題】難透水層が存在しない地中領域に対して地下水位低下工法を実施する際の排水の処理費用を抑える。
【解決手段】復水工法及び復水システムであって、難透水層が存在しない地下水位低下領域1に、揚水井20と注水井30とを、注水井30の注水口30Aが揚水井20の揚水口20Aよりも深層側に位置するように設け、揚水井20から揚水した地下水の一部を、注水井30を通じて地下水位低下領域1へ戻し、その残りを放流することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、復水工法、及び復水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の地下水位を低下させる地下水位低下工法として、揚水井から揚水された地下水を、注水井を通じて地中に戻す復水工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の復水工法では、粘土層(すなわち、難透水層)よりも浅い位置で揚水井により揚水し、揚水量が少量であれば、粘土層よりも浅層側で注水井により復水し、揚水量が多量であれば、粘土層よりも深層側で注水井により復水する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006―77567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、粘土層が存在しない地中領域に対して復水工法を用いた場合には、当該地中領域で地下水が循環するだけで、地下水位を低下させることができないと考えられていた。そのため、粘土層が存在しない地中領域に対しては復水工法は用いられておらず、揚水した地下水は全て放流していた。しかしながら、地下水の放流量が多くなるほど、ろ過処理費や放流料金(下水道料金)が高額になり、費用負担が大きくなるため、対策が必要であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、難透水層が存在しない地中領域に対して地下水位低下工法を実施するに際して、揚水した地下水の処理費用を抑えることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る復水工法は、難透水層が存在しない地中領域に、揚水井と注水井とを、前記注水井の注水口が前記揚水井の揚水口よりも深層側に位置するように設け、前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る復水工法は、難透水層が存在せず、地下水流の流れ方向が既知である地中領域に、揚水井と注水井とを、前記揚水井が前記注水井よりも地下水流の上流側に位置するように設け、前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る復水システムは、難透水層が存在しない地中領域に、揚水井と注水井とを、前記注水井の注水口が前記揚水井の揚水口よりも深層側に位置するように設け、前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る復水システムは、難透水層が存在せず、地下水流の流れ方向が既知である地中領域に、揚水井と注水井とを、前記揚水井が前記注水井よりも地下水流の上流側に位置するように設け、前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする。
【0010】
上記復水システムは、前記揚水井から揚水した地下水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽の下部に一端を接続され、前記注水井に他端を接続され、前記貯留槽内の水を前記注水井に送る第1の送水管と、前記第1の送水管より高位で前記貯留槽に一端を接続され、前記所定の放流先に他端を接続され、前記貯留槽内の水を前記所定の放流先に送る第2の送水管と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難透水層が存在しない地中領域に対して地下水位低下工法を実施するに際して、揚水した地下水の処理費用を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係る復水システムの概略を示す断面図である。
【図2】排水分配部の概略構成を示す図である。
【図3】揚水量と注水量と放水量との関係を説明するための図である。
【図4】他の実施形態に係る復水システムの概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る復水システム10の概略を示す断面図である。この図に示すように、本実施形態に係る復水システム10は、掘削する領域(以下、掘削領域2という)とその深層部の地下水位(図中にWLで示す)を低下させる復水工法を実施するためのシステムである。ここで、掘削領域2とその深層部とこれらの周辺とを含む領域(以下、対象領域という)1と、その周辺の領域とは、粘土層等の難透水層(透水係数が1×10−5〜1×10−7cm/s以下の水が浸透し難い層)が存在しない、砂層等の透水層のみで構成された透水性地盤となっている。
【0014】
復水システム10は、地下水を揚水するための揚水井(深井戸)20と、揚水井20により揚水された地下水を地中に戻すための注水井30と、揚水された地下水を注水井30と放流先の下水道とに分配する排水分配部40とを備えている。揚水井20と注水井30とは、対象領域1に設けられており、根切り底面3よりも深層側まで削孔されている。ここで、注水井30は、揚水井20よりも深層側まで削孔されており、注水井30の底部の注水口30Aは、揚水井20の底部の揚水口20Aよりも深層側に位置している。
【0015】
揚水井20は、ディープウェル工法(重力排水工法)により地下水を揚水するための深井戸であり、その底部には水中ポンプ22が設置され、井戸内には下端にストレーナ24Aを有する揚水管24が挿入されている。また、揚水管24と穿孔壁との間にはフィルター材が充填されている。このような揚水井20では、フィルター材を透過して揚水井20のストレーナ部24A内に流入した地下水が、水中ポンプ22の作用により、揚水管24を通って揚水される。即ち、揚水井20の底部に形成された揚水口20Aから、地下水が揚水される。
【0016】
注水井30内には、下端にストレーナ部34Aを有する注水管34が挿入されている。また、注水管34のストレーナ部34Aと穿孔壁との間にはフィルター材が充填され、フィルター材の上側にはシール材が充填されている。このような注水井30では、注水管34に送られた地下水が、ストレーナ部34Aからフィルター材を透過して地中に注入される。即ち、注水井30の底部に形成された注水口30Aから、揚水した地下水が、注水される。
【0017】
図2は、排水分配部40の概略構成を示す図である。この図に示すように、排水分配部40は、ノチタンク42と、送水管44A、44Bと、排水管46とを備えている。ノチタンク42は地上に設置されている。また、送水管44Aは、上流端は揚水管24に接続され、下流端はノチタンク42の上部に配されており、揚水管24で揚水された地下水を、ノチタンク42に供給する。また、送水管44Bは、上流端はノチタンク42の底部に接続され、下流端は注水管34に接続されており、ノチタンク42に溜まった地下水を、注水管34に供給する。また、排水管46は、上流端はノチタンク42の上部に接続され、下流端は下水道等の放流先に接続されており、ノチタンク42の水位が排水管46の位置まで上昇した場合に、ノチタンク42内の地下水を放流先に排出する。なお、排水管46の設置高さは、揚水量と柱水量との収支に合わせて適宜設定すればよい。
【0018】
図3は、揚水量と注水量と放水量との関係を説明するための図である。この図において矢印の太さで水量を示すように、注水量(図中矢印A)は、揚水量(図中矢印B)及び放水量(図中矢印C)と比して少ない。例えば、揚水された地下水の80〜90%程度が放水されるのに対し、注水されるのは揚水された地下水の10〜20%程度である。なお、揚水量と放水量との比率は、地盤の透水係数や地下水流量等に応じて適宜設定すればよい。
【0019】
ここで、上述したように、対象領域1の地盤は、砂層等の透水層のみからなる透水性地盤であり、揚水井20の揚水口20Aと注水井30の注水口30Aとの間に粘土層等の難透水層は存在しない。即ち、注水井30の注水口30Aと揚水井20の揚水口20Aとの間に、注水口30Aから揚水口20Aまでの水の浸透を遮る層が存在しない。このため、注水口30Aから地中に戻された地下水が、揚水口20Aの周辺まで浸透して再び揚水される(即ち、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環される)だけで、地下水位は低下されないとも考えられる。
【0020】
しかし、図中に拡大して示すように、砂層等の透水層では、横方向へ広がる粘土シーム4が混在しており、上方向についての透水経路は、横方向についての透水経路と比して、狭く、また蛇行することで長くなる。これにより、上方向についての透水係数が横方向についての透水係数よりも小さくなる。このため、図中に破線矢印D、Eの長さで示すように、注水口30Aから上方への水の浸透流速は、注水口30Aから側方への浸透流速と比して格段に遅くなることから(例えば、1/10倍)、注水口30Aから地中に戻された水が、揚水口20Aまで浸透するのには時間がかかる。そして、注水口30Aから地中に戻された水が揚水口20Aまで浸透するまでの間、揚水井20による揚水は進行している。
【0021】
これによって、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環しないようにしたうえで、揚水と注水とを並行させることができるため、地下水位を低下させながら、揚水した地下水の一部を地中に戻すことができる。従って、難透水層が存在しない対象領域1に対して地下水位低下工法を実施するに際して、地下水の放流量を減らすことができ、ろ過処理費や放流料金(下水道料金)等の揚水した地下水の処理費用を抑えることができる。
【0022】
ここで、揚水井20と注水井30との距離が延びるほど、注水口30Aから揚水口20Aまで水が浸透する時間は長くなり、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環され難くなる。しかし、対象領域1の周辺領域に注水井30を設けることができず、揚水井20と注水井30との双方を対象領域1に設けなければならない等、揚水井20と注水井30との距離を延ばすのに制限がある場合がある。
【0023】
このような場合であっても、本実施形態に係る復水工法及び復水システム10によれば、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環しないようにしたうえで、揚水と注水とを並行させることができ、以って、地下水位を低下させながら、揚水した地下水の一部を地中に戻すことができる。
【0024】
図4は、他の実施形態に係る復水システム100の概略を示す断面図である。この図に示すように、本実施形態に係る復水システム100は、掘削領域2とその深層部の地下水位(図中にWLで示す)を低下させる復水工法を実施するためのシステムである。ここで、対象領域101と、その周辺の領域とは、粘土層等の難透水層が存在しない、砂層等の透水層のみで構成された透水性地盤となっている。また、図中破線で示すように、掘削領域2を挟んで図中左右に対向する一方側(図中右側)と他方側(図中左側)とでは、地下水位が異なり、一方側の地下水位が他方側の地下水位よりも高くなっている。このため、対象領域1では、地下水が掘削領域2の一方側から他方側へ流れており、掘削領域2の一方側が地下水流の上流側に相当し、掘削領域2の他方側が地下水流の下流側に相当する。
【0025】
復水システム100は、掘削領域2に削孔された揚水井20と、掘削領域2の他方側、即ち、地下水流の下流側に掘削された注水井30と、揚水された地下水を注水井30と放流先の下水道とに分配する排水分配部40とを備えている。また、掘削領域2の周囲には遮水性のある山留壁102が構築されている。
【0026】
本実施形態においても、注水量は、揚水量及び放水量と比して少ない。例えば、揚水された地下水の80〜90%程度が放水されるのに対し、注水されるのは揚水された地下水の10〜20%程度である。なお、揚水量と放水量との比率は、地下水流量や地盤の透水係数等に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
ここで、上述したように、対象領域101の地盤は、砂層等の透水層のみからなる透水性地盤であり、揚水井20の揚水口20Aと注水井30の注水口30Aとの間に粘土層等の難透水層は存在しない。このため、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環されるだけで、地下水位は低下されないとも考えられる。
【0028】
しかし、対象領域101では、地下水が揚水井20側から注水井30側へ流れており、注水井30側から揚水井20側への地下水の浸透流速は、揚水井20側から注水井30側への浸透流速と比して格段に遅くなることから、注水口30Aから地中に戻された水が揚水口20Aまで浸透するまでの間、揚水井20による揚水は進行している。
【0029】
これによって、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環しないようにしたうえで、揚水と注水とを並行させることができるため、地下水位を低下させながら、揚水した地下水の一部を地中に戻すことができる。従って、難透水層が存在しない対象領域101に対して地下水位低下工法を実施するに際して、地下水の放流量を減らすことができ、ろ過処理費や放流料金(下水道料金)等の揚水した地下水の処理費用を抑えることができる。
【0030】
ここで、揚水井20と注水井30との距離が延びるほど、注水口30Aから揚水口20Aまで水が浸透する時間は長くなり、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環され難くなる。しかし、対象領域101の周辺領域に注水井30を設けることができず、揚水井20と注水井30との双方を対象領域101に設けなければならない等、揚水井20と注水井30との距離を延ばすのに制限がある場合がある。
【0031】
このような場合であっても、本実施形態に係る復水工法及び復水システム100によれば、地下水が揚水井20と注水井30とを通じて循環しないようにしたうえで、揚水と注水とを並行させることができ、以って、地下水位を低下させながら、揚水した地下水の一部を地中に戻すことができる。
【0032】
以上、上記の各実施形態では、地下水位低下工法としてディープウェル工法(重力排水工法)を用いた例を挙げて本発明を説明したが、地下水位低下工法としては、ウェルポイント工法(強制排水工法)等の他の工法を用いてもよい。また、上記の実施形態では、注水井30を対象領域1、101に設けたが、対象領域1、101の周辺に設けてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 対象領域(地中領域)、2 掘削領域、3 根切り底面、4 粘土シーム、10 復水システム、20 揚水井、20A 揚水口、22 水中ポンプ、24 揚水管、30 注水井、30A 注水口、34 注水管、40 排水分配部、42 ノチタンク(貯留槽)、44A 送水管、44B 送水管(第1の送水管)、46 排水管(第2の送水管)、100 復水システム、101 対象領域(地中領域)、102 山留壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難透水層が存在しない地中領域に、揚水井と注水井とを、前記注水井の注水口が前記揚水井の揚水口よりも深層側に位置するように設け、
前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする復水工法。
【請求項2】
難透水層が存在せず、地下水流の流れ方向が既知である地中領域に、揚水井と注水井とを、前記揚水井が前記注水井よりも地下水流の上流側に位置するように設け、
前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする復水工法。
【請求項3】
難透水層が存在しない地中領域に、揚水井と注水井とを、前記注水井の注水口が前記揚水井の揚水口よりも深層側に位置するように設け、
前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする復水システム。
【請求項4】
難透水層が存在せず、地下水流の流れ方向が既知である地中領域に、揚水井と注水井とを、前記揚水井が前記注水井よりも地下水流の上流側に位置するように設け、
前記揚水井から揚水した地下水の一部を、前記注水井を通じて前記地中領域へ戻し、その残りを所定の放流先へ送ることを特徴とする復水システム。
【請求項5】
前記揚水井から揚水した地下水を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽の下部に一端を接続され、前記注水井に他端を接続され、前記貯留槽内の水を前記注水井に送る第1の送水管と、
前記第1の送水管より高位で前記貯留槽に一端を接続され、前記所定の放流先に他端を接続され、前記貯留槽内の水を前記所定の放流先に送る第2の送水管と、
を備えることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の復水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92514(P2012−92514A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238781(P2010−238781)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】