説明

循環型冷却水系の電解処理方法及び電解処理装置

【課題】循環型冷却水系の水を電解装置に通水して電解処理する方法及び装置において、水系のスケール成分濃度及び塩素濃度を適正範囲に保つことができる電解処理方法及び電解処理装置を提供する。
【解決手段】電解処理工程にあっては、陽極3、陰極4間に電圧を印加し、電解装置1に貯水槽51からの水を循環通水し、電解処理する。陰極4の近傍では水素が発生してアルカリ性となる。陰極4の近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらが電極表面に析出することからスケール化傾向が低減される。電解処理水中の酸化還元電位が所定範囲となるように電流密度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は循環型冷却水系の電解処理方法及び電解処理装置に係り、特に、電解装置内にてスケールを析出させて水系から除去すると共に、塩素系酸化剤を生成させるようにした電解処理方法及び電解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、ビルなどのコンプレッサー、冷凍機で発生した廃熱は、熱交換器を介して冷却水(冷却媒体)で冷却されている。熱交換器において、廃熱との熱交換で温度が上昇した冷却水は開放型冷却塔で空気と接触することで蒸発して放熱、冷却され、再び熱交換器に循環される。従って、このような循環型冷却水系では、冷却塔で蒸発ないし飛散して減少した水量に相当する補給水が補給されて運転が行われている。
【0003】
しかし、そのままでは補給水中に含有されるスケール成分が冷却水系内で濃縮されて、その溶解度を超え、熱交換器の伝熱面、冷却塔の充填材や底部或いは配管にスケールとして析出して付着し、熱交換効率の低下、通水抵抗の増加といった様々な運転障害を引き起こす。
【0004】
そこで、系内をスケール析出が起こらない濃縮倍率に相当する導電率を上限とし、その導電率に達したならば、冷却塔の底部から、濃縮された冷却水をブロー水として系外へ排出し、補給水で全体を希釈することにより、循環冷却水を一定の水質で運転管理することが行われている。ここで、ブロー水量を多くして、系内のスケール成分濃度を低くして運転すると、補給水を多く必要として上下水道料金が過大となる。反対に、ブロー水量を少なくして高濃縮運転を行うと、冷却水中のスケール成分が溶解度を超え難溶塩のスケールが析出することとなる。
【0005】
従来、このような冷却水系内のスケール析出を防止するために、リン酸系薬剤やカルボン酸系など各種ポリマーよりなるスケール防止剤を添加することが行われている。
【0006】
これら薬剤処理は効果が認められる一定濃度で連続注入するので、補給水濃度に負荷変動が生じた場合、季節によって塩素消費速度が変動した場合には、処理効果が不足する場合や過剰処理となる場合が生じる。一般的には処理不足でスケール付着やスライム付着が生じて、問題となる場合が多いので、薬品注入量は過剰気味とする。したがって、薬剤コストが過大となるばかりか、薬剤が溶存したブロー水はCODやリン化合物を含有しており、放流域に住む水生生物へ影響を与える可能性があることから、下水道放流又は水処理が必要となるという問題もあった。
【0007】
このようなスケール防止剤を使用しない方法として、物理的スケール防止技術が提案されている。
【0008】
例えば、特開2003−190988号公報には、冷却水系の補給水または循環水を、極性が変わるバイポーラ電極を有する電解装置に通水し、補給水または循環水に含まれるスケール成分を微小な結晶として析出させることにより、冷却水系におけるスケール付着、特に伝熱面におけるスケール付着を防止する方法が記載されている。
【0009】
この電解装置においては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオンは導電性粒子の陰極側に集まり、炭酸イオン、シリカなどは陽極側に集まる。陰極付近が高pHのため、陰極付近でスケールが析出する。正負の極性を逆に変換すると陰極は陽極となり、電極表面のpHが低下する。このため、析出したスケールは電極近傍で溶解して溶液中へ流れ出る。この結果、非常に微細な結晶が冷却水中に分散したものとなる。この微細結晶が核となってスケール成分が析出する。極性を変換しながら電解を継続することにより、被処理水中のスケール成分がこの微細結晶上に析出することにより、循環水のスケール傾向が低減され、伝熱面等へのスケール付着が防止される。
【0010】
即ち、上記特開2003−190988号公報の電解装置を備えた冷却水系において、電解装置で生じた微粒子を含んだ冷却水は熱交換器や冷却塔へ送り込まれ、その部位において溶解度が過飽和状態になる。過飽和状態において新たに結晶核を生成するために必要なエネルギーと既に存在する結晶を元に結晶成長するために必要なエネルギーでは既に存在する結晶を元に成長する方がはるかに必要なエネルギーが小さいので、流れてきたスケール成分の微粒子を種晶としてその上にスケール成分が析出する。そして、微細結晶は堆積するまでは成長せずにブローラインより排出される。
【0011】
また、特表2001−502229号公報には、円筒形容器内に黒鉛よりなる1対の電極を配置すると共に、該電極間に黒鉛等の炭素質材料よりなる導電性の粒子と、シリカ、ガラス、プラスチック等の非導電性の粒子とを混合充填し、この電極間に通電しつつ円筒形容器に水を通水させてスケール生成を低減する方法が記載されている。同号の記載によると、この通電処理によりアルカリが生成し、このアルカリによって結晶核が生成し、スケール生成傾向が低下する。このスケール防止方法では、アルカリ領域でスケール微細結晶の生成と共に電極へのスケール付着も起こり、定期的な洗浄が必要となる。この洗浄方法として、一定時間で電極を極性転換し、アルカリ側でスケール付着した電極が酸性領域となりスケールを剥離・溶解させる技術がある。
【0012】
しかしながら、電極の極性を転換させる方法では、極性転換によって陽極と陰極が反転するために電極自体の酸化・還元が繰り返され、電極が劣化し易い。電極の多くは酸化・還元どちらかの用途で用いられるが、両極で用いる場合、極性転換の時間によっては電極としての機能を果たす時間が非常に短くなる。例えば、グラファイト電極の場合、陽極で電極自身が酸化され、グラファイト粉末が流出して劣化する。不溶性電極としてよく使用される白金酸化物やイリジウム酸化物を被覆したチタン電極では、陽極での酸化には耐性を有するが、陰極では酸化物が剥離して劣化が進み易い。電極の交換を頻繁に行うことで上記問題は解決されるが、それに要する電極費が過大となる。
【0013】
特開2000−140849号公報には、凹凸の金属電極ユニットを備えた電解装置に被処理水を通してスケール成分を陰極面に析出させ、さらに極性反転して析出したスケール成分を系外へ除去する装置および方法が記載されている。この方法の問題点は、極性転換により電極が劣化し易いこと、及び、極性転換のみでは、付着したスケールの除去性が不十分なことである。即ち、一定量のスケールが電極に付着してから極性転換したときには、スケールが付着した部分が非導電性となり、電流に分布が生じる。従って、スケールが溶解する酸性領域が形成されるのはスケールが付着していない部分からとなり、スケールの剥離・溶解に時間がかかる。
【0014】
特開2004−132592号公報には、電解により循環水を処理し、電極表面にスケールが付かないように被処理水中の電気伝導度を計測しながら、CaCO換算で250mg/L以下となるように保持する方法が記載されている。しかしながら、この方法では塩素の発生量を制御することができず、被処理水の塩素消費量が著しく低い場合には配管、熱交換器が腐食する恐れがある。
【特許文献1】特開2003−190988号公報
【特許文献2】特表2001−502229号公報
【特許文献3】特開2000−140849号公報
【特許文献4】特開2004−132592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、循環型冷却水系の水を電解装置に通水して電解処理する方法及び装置において、系内のスケール成分を適正量除去すると共に、電解装置からの流出水中に塩素系酸化剤が適正量含有されるように電解処理することができる電解処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、その一態様において、該電解装置の電極に析出したスケールを容易に除去することができる電解処理方法及び電解処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の循環型冷却水系の電解処理方法は、循環型冷却水系の循環水及び/又は補給水よりなる被処理水を、電極を有する電解装置に通水して電解して、前記電極表面にスケールを析出させると共に、塩素系酸化剤を生成させる電解処理工程を有する循環型冷却水系の電解処理方法において、該循環型冷却水系の循環水の残留塩素濃度又は酸化還元電位を測定し、該残留塩素濃度又は酸化還元電位が所定範囲となるように電極間の電流密度を制御することを特徴とするものである。
【0018】
請求項2の循環型冷却水系の電解処理方法は、請求項1において、電流密度を、系にスケールが析出せず、かつ腐食もしない電流密度の範囲内で制御することを特徴とするものである。
【0019】
請求項3の循環型冷却水系の電解処理方法は、請求項1又は2において、電流密度を0.1〜1.5A/dmの範囲内で制御することを特徴とするものである。
【0020】
なお、該電流密度の範囲は系にもよるが0.1〜1.5A/dmが特に好ましく、0.2〜1A/dmがさらに好ましい。
【0021】
請求項4の循環型冷却水系の電解処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記電解処理工程での電解処理により、前記電極に所定量以上のスケールが付着した場合にスケール除去工程を実施し、その後、電解処理工程に復帰することを特徴とするものである。
【0022】
請求項5の循環型冷却水系の電解処理方法は、請求項4において、該スケール除去工程において、炭酸ガス及び/又は炭酸ガス溶解水を該電解装置に供給することを特徴とするものである。
【0023】
請求項6の循環型冷却水系の電解処理方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記電解処理工程において、循環型冷却水系の循環水中の導電率を測定し、この導電率が所定範囲となるようにブロー水量及び/又は補給水量を制御することを特徴とするものである。
【0024】
請求項7の循環型冷却水系の処理装置は、電極を有する電解装置と、該電解装置内に、循環型冷却水系の循環水又は補給水よりなる被処理水を通水する手段と、を備えてなる循環型冷却水系の処理装置において、該循環型冷却水系の循環水の残留塩素濃度又は酸化還元電位(ORP)を測定する手段と、測定された残留塩素濃度又は酸化還元電位が所定範囲となるように電極への通電量を制御する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0025】
請求項8の循環型冷却水系の処理装置は、請求項7において、電極への通電量を制御する手段が、系にスケールが析出せず、かつ腐食もしない通電量に制御する手段であることを特徴とするものである。
【0026】
請求項9の循環型冷却水系の処理装置は、請求項7又は8において、前記循環型冷却水系の循環水中の導電率の測定手段と、この導電率が所定範囲となるようにブロー水量及び/又は補給水量を制御する手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
[請求項1,7について]
本発明の電解方法及び装置によって循環型冷却水系におけるスケール析出を防止する場合には、循環型冷却水系の水を電解装置に通水して電解処理する。この電解処理により、スケールが析出する。
【0028】
即ち、この電解装置において冷却水は以下のように電解される。
陽極:2HO→O+4H+4e
陰極:4HO+4e→4OH+2H
【0029】
この反応により陰極近傍では水素が発生してアルカリ性となる。このため、陰極近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出することから冷却水系のスケール化傾向が低減される。従って、循環冷却水又は補給水をこの電解装置に通水することにより、循環冷却水のスケール生成傾向が低下する。
【0030】
本発明の電解処理装置及び方法によると、薬品を使用せずに循環冷却水中スケール成分を一定濃度で運転することができるため、熱交換部や冷却塔にスケールが析出することが防止ないし抑制及び腐食の低減が可能となる。また、補給水の硬度が高い地方においては高濃縮運転が可能となり、節水に繋がる。
【0031】
また、冷却水には塩化物イオンなどの塩素成分が含まれているので、電解処理により次亜塩素酸などの酸化剤が発生する。これにより、循環型冷却水系における水の殺菌を行うことができる。
【0032】
本発明では、電極へのスケール析出量を適正に保持できるような電流密度範囲で運転し、さらに残留塩素濃度又はORPの測定値が一定範囲を超えた場合、(電源をオン/オフするのではなく)該電流密度の範囲内で電流密度を変動させることで塩素発生速度を調整し、残留塩素濃度を一定範囲に保つように制御するのが好ましい。
【0033】
[請求項3,6,9について]
なお、この電解装置の電流密度と塩素発生速度及びスケール析出速度との間には、概略的に第3図に示される関係がある。即ち、電流密度と塩素発生速度とはほぼ比例する。スケール析出速度は、電流密度が小さい範囲では略比例するが、やがて頭打ちとなり、さらに電流密度がある値よりも大きくなると、逆にスケール析出速度が低下してくる。電流密度とスケール析出速度との間にこのような頭打ち、あるいは逆比例の関係があるのは、電流密度を上げすぎるとOHが電極近傍に多く発生しすぎてスケール成分の接近を妨げ、その結果、陰極表面で生じたスケールの核が電極表面に付着せずに系内に流れてしまうため、スケール析出速度は下がるためである。
【0034】
[請求項4,5について]
この電解処理を継続していると、電極のスケール付着量が増加してくるので、スケール除去工程を行う。
【0035】
このスケール除去を行うには、電解処理装置に二酸化炭素を供給して該スケールを除去するのが好ましい。例えば5時間電解、1時間CO洗浄というフローの場合、CO洗浄の1時間は電解をしないため系内循環水のスケール成分濃度は上昇し、残留塩素濃度は低下する。その一時的な負荷変動も本発明の運転制御によって対応可能である。
【0036】
なお、スケールは炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを主成分とするものであり、これらは二酸化炭素と次のように反応して溶解除去される。
CO+HO→HCO+H+HCO (二酸化炭素の水への溶解)
CaCO+CO+HO→Ca2++2HCO (炭酸カルシウムの溶解)
Ca(OH)+2H→Ca2++2HO (水酸化カルシウムの溶解)
MgCO+CO+HO→Mg2++2HCO(炭酸マグネシウムの溶解)
Mg(OH)+2H→Mg2++2HO (水酸化マグネシウムの溶解)
【0037】
この二酸化炭素による溶解方式によると、酸洗浄用薬品の購入や危険な搬入作業が無くなり、薬品コストが削減されると共に、作業の安全性が向上する。また、二酸化炭素を市水に溶解させた場合、水のpHは5を下回ることはなく、スケールを溶解させた溶液はpH6以上となるので、下水道放流が可能となる。
【0038】
スケール除去工程において電解処理に二酸化炭素を供給する場合、二酸化炭素として炭酸ガスを供給してもよく、炭酸ガス溶解水として供給してもよく、炭酸ガスの気泡が分散した炭酸ガス溶解水として供給してもよい。
【0039】
炭酸ガスは、上記の通り水に分散した気泡として電解処理装置に供給されてもよく、ガスとして直接に電解処理に供給されてもよい。ガスを直接に電解処理装置に供給したり、あるいは炭酸ガス気泡含有水を比較的高流速にて電解処理装置内に流入させることにより、ガスあるいは気泡が電極表面に与える衝撃を利用して電極表面からスケールを剥離させることも可能である。
【0040】
本発明では、電極に析出したスケールの溶解当量の1〜3倍モル程度の二酸化炭素を電解処理装置に供給することにより、スケールを十分に除去することができる。
【0041】
この電解処理装置の電極を多孔体にて構成した場合には、水との接触面積が増大し、水を効率よく電解処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1はそれぞれ実施の形態に係るスケール除去装置の系統図であり、図2は冷却水系の概略的な系統図である。
【0043】
図2の通り、水はクーリングタワー50で冷却され、貯水槽51に貯留される。この冷却水が循環ポンプ52を介して熱交換器53へ送られ、熱交換後、クーリングタワー50で冷却され、貯水槽51に戻される。
【0044】
この貯水槽51内の水をポンプ55及び配管56を介して電解装置1に通水し、電解処理した後、配管57を介して貯水槽51に戻す。貯水槽51内の水は適宜ブローされ、代わりに補給水が供給される。
【0045】
貯水槽51には導電率計58とORP計(酸化還元電位計)59とが設けられ、これらの検出値が制御器60に入力されている。この制御器60は、これらの検出値に基づいて電解装置1の電流密度を制御すると共に、ブロー弁(図示略)を制御する。
【0046】
次に、図1を参照して電解装置1の構成について説明する。
【0047】
電解装置1は、ケーシング2内に2個の陽極3と3個の陰極4とを交互に配置し、陽極3と陰極4との間の通水スペース5に貯水槽51からの水を通水して電解処理するよう構成している。この実施の形態では、多孔質の板よりなる陰極4が3枚、相互間に間隔をあけて配置され、各陰極4,4間にそれぞれ板状の陽極3が配置されている。
【0048】
陰極4を構成する多孔体の材料としては、導電性を有し、酸に不溶な材料が好ましく、具体的にはガラス質炭素、不溶性金属、金属酸化物、SUSなどの金属複合物が好適である。なお、多孔体電極の空隙率は30〜97%の範囲が好ましく、特に80〜97%が好適である。陽極には不溶性の金属電極、耐酸化性のある電極を使うのが好ましく、具体的には、白金、イリジウムを被覆したチタン電極や白金メッキ電極等が好ましい。なお、電解処理工程において、陽極3と陰極4とに印加する電圧を反転させないので、白金、イリジウムを被覆したチタン電極を陽極に用いることができる。
【0049】
陽極3と陰極4との間隔は3〜20mm特に5〜10mmが好適である。
【0050】
ケーシング2の下端側に前記被処理水導入用の配管56が弁56aを介して接続され、他端側に電解処理水流出用の配管57が弁57aを介して接続されている。
【0051】
ケーシング2内の該下端側にパンチングメタル等よりなる2枚の多孔板6,6が板面を略水平として配置され、配管56からの流入水を各スペース5に分散させて流入させるようにしている。なお、この多孔板6,6間が炭酸ガス溶解水の流入スペース7となっている。
【0052】
ケーシング2内の上端側にパンチングメタル等よりなる多孔板8が板面を略水平として配置されており、この多孔板8の上側に炭酸ガス溶解水の集合用スペース9が形成されている。このように流出側にも多孔板8を配置することにより、各スペース5の流れをより均等なものとすることができる。
【0053】
陰極4に付着したスケールを溶解させるために炭酸ガス溶解水を該ケーシング2内に供給する炭酸ガス溶解水供給装置20が設置されている。この炭酸ガス溶解水供給装置20は、液体炭酸ボンベ21が弁22を介して接続された溶解タンク23と、該溶解タンク23内から炭酸ガス溶解水を送り出すポンプ24と、該ポンプ24の吐出側に接続されたエゼクタ25と、該エゼクタ25の吸気口と溶解タンク23の上部とを連通する炭酸ガス供給用配管26等を有する。溶解タンク23には圧力ゲージ27が設けられている。
【0054】
このエゼクタ25の吐出側は前記ケーシング2の流入スペース7に弁29及び配管28を介して接続されている。ケーシング2の前記集合用スペース9と溶解タンク23の上部とは、配管30及び弁31を介して接続されている。
【0055】
この溶解タンク23内の上部のガス圧が所定圧となるようにボンベ21から炭酸ガスが供給される。弁29,31を開としてポンプ24を作動させると、溶解タンク23内の水がエゼクタ25に供給され、配管26を介して吸い込まれた炭酸ガスがエゼクタ25の吐出水中に巻き込まれ、その一部は水中に溶解する。この炭酸ガス溶解水が配管28からケーシング2内を通った後、配管30を介して溶解タンク23に循環される。このときの循環流速は0.05〜3m/sec、好適には1〜2m/secとする。流速が速いほど、スケール表面上の拡散層が薄くなり、水中のCOがスケールに到着し易くなる。
【0056】
次に、この電解処理装置を用いた電解処理工程について詳細に説明する。
[電解処理工程]
電解処理工程にあっては、陽極3、陰極4間に電圧を印加すると共に、弁29,31を閉、弁56a,57aを開とする。貯水槽51からの水は、前記ポンプ55、配管56、弁56aを介して通水スペース5に通水され、電解処理された後、弁57a、配管57を介して貯水槽51に戻される。
【0057】
この電解処理工程にあっては、通水スペース5内の陰極4の近傍では水素が発生してアルカリ性となる。このため、陰極4の近傍で重炭酸イオンが炭酸イオンに解離し、Caイオン及びMgイオンより炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが生成し、これらがスケールとして電極表面に析出する。
【0058】
従って、貯水槽51内の水をこの電解装置に通水することにより、循環冷却水のスケール生成傾向が低下する。貯水槽51の水の代わりに、補給水をこの電解装置で処理してから貯水槽51へ供給するようにしてもよい。
【0059】
なお、スケールが主に炭酸塩として析出することにより、系内の硬度成分だけでなく重炭酸イオンも除去して循環水のpHを低下させることができる。
【0060】
スケール析出速度は、第3図のaの範囲、例えば電流密度0.1〜1.5A/dmの間で略一定速度となる。この理由は、スケール析出は循環水中の硬度成分の陰極表面への拡散が律速となっているからである。流速を上げることで硬度成分を陰極表面に到達させ易くすることができるが、流速を上げすぎるとアルカリ雰囲気となっている陰極表面で生じた炭酸塩の核が、陰極4の表面に付着せずに配管57に流れてしまい、電極へのスケール付着速度は下がる。従って、流速は、塩素発生速度にも関連するが、0.01〜1m/secが好ましく、特に0.05〜0.1m/secが好適である。水質、流速及び電流密度が一定であると、単位電極面積あたりのスケール析出速度が一定となるので、異なる冷却塔規模に対しては電極面積を増減することで対応可能となる。
【0061】
自動運転を行うためには、冷却水系内の導電率からイオン濃度を求めて、濃縮管理を行うのが好ましい。スケール析出速度が一定の場合、冷却水系の規模と濃縮倍数、負荷率から、除去すべき硬度成分量を導くことができる。従って、スケール析出速度と必要除去速度を同等として、運転する。そのときの導電率を基準として、導電率がその基準値よりも上がった場合にはブロー装置を作動させて、濃縮倍数を下げ、基準値以下の場合は、ブロー装置を停止して濃縮倍数を上げる。
【0062】
この電解を行うと、陽極5側では、循環水中の塩化物イオンが酸化されて、塩素ガスが発生する。pH4以上ではその塩素ガスが循環水に溶解して次亜塩素酸となる。この次亜塩素酸はpHが8以上となると80%が次亜塩素酸イオンに解離していく。これらは酸化力が強いために循環水中のスライムやカビなどの殺菌をすることができる。この塩素発生量は電流密度によって操作することができる。
【0063】
この塩素発生量の制御を行うには、冷却水系内の残留塩素濃度とORP値との相関を予め把握しておき、残留塩素濃度が0.1〜0.5mgCl/Lとなるように例えば電流密度0.7A/dmを基準として通常の運転を行う。残留塩素濃度が0.1mgCl/Lよりも低くなれば電流密度を上げて塩素発生速度を調整し、0.5mgCl/L以上となれば、電流密度を下げて塩素発生速度を低下させる。0.1〜1.5A/dmの範囲ならば、電流密度が変化しても、第3図の通りスケール析出速度に影響は殆ど無いので、スケール・スライムの同時自動管理が可能となる。
【0064】
一般に、溶液の腐食・スケール傾向を計るインデックスであるランジェリア指数(以下LSIと記載する。)は、正の値になるほどスケール析出傾向となり、負の値になるほど腐食傾向となり、0のときにどちらの傾向も示さない。電解装置1により硬度成分と重炭酸イオンの両方を除去してpHを下げることにより、LSIを0.5〜0.8の若干スケール傾向となるようにコントロールするのが好ましい。LSIを0.5〜0.8程度の正の値で管理しておくと、循環水中のスケール成分は過飽和に達することがない。
【0065】
循環水中に、スケールが析出しない過飽和に近い濃度でスケール成分を残存させておくことで、系内配管や熱交換器への腐食速度の低減が可能となる。循環水中のカルシウム硬度は冷却水系の熱交換部や配管、冷却塔の充填材などにスケールを析出させない80〜120mgCaCO/Lで運転することが望ましく、さらにはMアルカリ度を80〜120mgCaCO/Lに制御して、飽和指数LSIを0.5〜0.8にすることが好ましい。
【0066】
従って、冷却水の自動濃縮管理を行う場合、冷却水系のMアルカリ度は80〜120mgCaCO/Lで運転管理するのが好ましい。電解装置1で除去すべき硬度成分量は、補給水と共に冷却水系に流入する硬度成分からブロー水と共に排出される硬度成分量を引けば、導くことが可能となる。自動濃縮管理を行うには、Mアルカリ度80〜120mgCaCO/Lとなる場合の導電率を測定しておき、その範囲に入るようにブロー水排出、補給水補給の管理をする。例えば、Mアルカリ度80mgCaCO/Lのときの導電率が80mS/m、Mアルカリ度120mgCaCO/Lのときの導電率が140mS/mとした場合、導電率が80mS/mより低い場合はブロー排出を停止して蒸発した分は補給水を流入して濃縮し、140mS/mに達したらブローを開始して補給水を流入させる。以後はこれの繰り返しとすることで、補給水の負荷変動が生じても、導電率管理によってスケールが析出することなく、また腐食を起こすことなくランジェリア指数を管理することができる。
【0067】
[スケール除去工程]
この電解処理を継続すると、陰極4のスケール付着量が増加してくるので、電解処理工程を停止し、スケール除去工程を行う。このスケール除去工程にあっては、弁56a,57aを閉、弁29,31を開とすると共に、ポンプ24を起動し、エゼクタ25へタンク23内の水を供給する。
【0068】
エゼクタ25からの炭酸ガス気泡を巻き込んだ炭酸ガス溶解水は、通水スペース5へ流入し、陰極4に付着していたスケールを溶解させる。この際、この水に含まれていた気泡がスケールと接触して陰極4から剥離させる作用も奏される。
【0069】
このスケールの除去工程が終了した後は、ポンプ24を停止し、弁29,31を閉とした後、溶解タンク23内の水を該タンク23に設けられている排出ライン(図示略)を介して排出する。一般に、水道水に二酸化炭素を飽和させた水ではpH4.8以下になることはなく、炭酸カルシウムを溶解させた放流水のpHは5.8以上となるので、この排出ラインからの排出水は中和処理することなく放流することができる。
【0070】
なお、溶解タンク23内の水は、スケール除去工程に繰り返し使用可能である。溶解タンク23内の水が汚れてきたときに、一部又は全部を排出し、代わりに水を該タンク23に供給するようにしてもよい。
【実施例】
【0071】
[実施例1]
図2に示す開放系循環冷却水ラインに図1の本発明装置を設置した。
【0072】
この循環ラインは厚木市水5倍濃縮で300冷凍トンの開放系循環冷却水ラインに設置したとき、補給水カルシウム硬度が40mgCaCO/Lから5倍濃縮理論カルシウム硬度は200mgCaCO/Lとなる。
【0073】
電解装置1における炭酸カルシウムスケール析出速度が20gCaCO/m/hrとなり、残留塩素濃度0.3mgCl/Lとなるように電流密度を1.0A/dmに設定して自動運転を開始した。電気伝導度は50〜70mS/m内となるように管理し、電気伝導度が70mS/mを上回ればブローを開始し、補給水を補給することで電気伝導度を下げて、冷却水循環溶液中のMアルカリ度を100mgCaCO/L前後で維持した。
【0074】
運転開始時のORPは800mVで0.3mgCl/Lとなった。その状態で系内のスライムポテンシャル変動を0.5〜2倍にしても、残留塩素濃度は0.2〜0.5mgCl/Lの範囲で安定していた。
【0075】
電流密度はORP値で自動に変化するようにした。ORP値は500mVから1300mVまで変動し、それに伴って電流密度も0.7A/dmから1.4A/dmまで変動した。この電流密度範囲では、スケール析出速度は、安定して約20gCaCO/m/hr程度であった。3ヶ月運転した後の開放点検時の熱交換器へのスケール・スライム付着は見られなかった(表1参照)。
【0076】
[比較例1]
比較例として、図2において制御装置を停止し、電解装置の電流密度を一定の1.0A/dmに保って運転を行った。スライムが発生しやすい夏場でスライムポテンシャルが2倍となった場合に、塩素消費量も2倍となったが、電流密度一定で運転しているので塩素発生量が不足し、スライムが繁殖した。そこで、スライム負荷変動を0.1〜2倍にした結果、0.1倍にしたときに塩素発生量が過剰となり、炭素鋼チューブの腐食が見られた。
【0077】
実施例1、比較例1での循環水中カルシウム硬度と残留塩素濃度、熱交換器への効率低下度合を計測したところ、表1の通りであった。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施の形態に用いられる電解装置の断面図である。
【図2】循環型冷却水系の系統図である。
【図3】電流密度とスケール析出速度及び塩素発生速度との模式的な相関図である。
【符号の説明】
【0080】
1 電解装置
2 ケーシング
3 陽極
4 陰極
23 溶解タンク
25 エゼクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環型冷却水系の循環水及び/又は補給水よりなる被処理水を、電極を有する電解装置に通水して電解して、前記電極表面にスケールを析出させると共に、塩素系酸化剤を生成させる電解処理工程を有する循環型冷却水系の電解処理方法において、
該循環型冷却水系の循環水の残留塩素濃度又は酸化還元電位を測定し、該残留塩素濃度又は酸化還元電位が所定範囲となるように電極間の電流密度を制御することを特徴とする循環型冷却水系の電解処理方法。
【請求項2】
請求項1において、電流密度を、系にスケールが析出せず、かつ腐食もしない電流密度の範囲内で制御することを特徴とする循環型冷却水系の電解処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、電流密度を0.1〜1.5A/dmの範囲内で制御することを特徴とする循環型冷却水系の電解処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記電解処理工程での電解処理により、前記電極に所定量以上のスケールが付着した場合にスケール除去工程を実施し、その後、電解処理工程に復帰することを特徴とする循環型冷却水系の電解処理方法。
【請求項5】
請求項4において、該スケール除去工程において、炭酸ガス及び/又は炭酸ガス溶解水を該電解装置に供給することを特徴とする循環型冷却水系の電解処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記電解処理工程において、循環型冷却水系の循環水中の導電率を測定し、この導電率が所定範囲となるようにブロー水量及び/又は補給水量を制御することを特徴とする循環型冷却水系の電解処理方法。
【請求項7】
電極を有する電解装置と、
該電解装置内に、循環型冷却水系の循環水又は補給水よりなる被処理水を通水する手段と、
を備えてなる循環型冷却水系の処理装置において、
該循環型冷却水系の循環水の残留塩素濃度又は酸化還元電位を測定する手段と、
測定された残留塩素濃度又は酸化還元電位が所定範囲となるように電極への通電量を制御する手段とを備えたことを特徴とする循環型冷却水系の処理装置。
【請求項8】
請求項7において、電極への通電量を制御する手段が、系にスケールが析出せず、かつ腐食もしない通電量に制御する手段であることを特徴とする循環型冷却水系の処理装置。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記循環型冷却水系の循環水中の導電率の測定手段と、この導電率が所定範囲となるようにブロー水量及び/又は補給水量を制御する手段とを備えたことを特徴とする循環型冷却水系の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−98003(P2006−98003A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286369(P2004−286369)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】