説明

微多孔性セルロースシート及びその製造方法

【課題】 最大繊維径1μm以下のセルロース繊維からなり、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、及び高通気性を兼ね備えた微多孔性セルロースシートを提供する。
【解決手段】 最大繊維径が1μm以下であるセルロース繊維の集合構造体からなる微多孔性セルロースシートであって、以下の条件:(a)水銀圧入法で求めた細孔分布において細孔容積の80%以上が細孔径1μm以下の範囲であり;(b)微分細孔容積分布のモード径(最大頻度)が細孔径0.4μm以下であり;及び(c)坪量換算透気抵抗度が25[(秒/100cc)/(g/m2)]以下であることを満足する微多孔性セルロースシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微多孔性セルロースシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のナノテクノロジーへの技術注力に見られるように、材料開発の一つの方向性として、より小さな構造単位の制御を挙げることができる。本発明者らはそうした技術動向の中で最大繊維径が1μm以下であるセルロース繊維を利用したシートの製造について検討してきた。このようなセルロース繊維としては、例えば、特許文献1に開示されている1μm以下の繊維径を有する微小繊維状セルロース(以下、本明細書において「MFC」と略す場合がある。)や、特許文献2に記載されているAcetobacter族の酢酸菌や特許文献9に記載されているEnterobacter族のCJF-002菌等のセルロース生産菌が産生する太さが数nm〜200nmの範囲にあるバクテリアセルロース(以下、本明細書において「BC」と略す場合がある。)等が挙げられる。
【0003】
最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維原料は、一般には水系の湿潤状態で得られる。例えば、MFCは綿、木材パルプ、麻、コットンリンター等の天然セルロース素材を水系湿潤下で高度分散処理を施すことにより得られ、BCは水系培養液中でBC生産菌を培養することにより多量の水を含むゲル状物として得られる。最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維をその構成単位として用いた高次構造体においては、微視的に見た場合にセルロース繊維間に微細な空隙が多数存在しており、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、高通気性という特徴を同時に有するような微多孔性構造体の材料設計への応用が期待される。
【0004】
もっとも、特許文献2に記載されているように、一般にセルロース材料においては、その繊維表面に存在する多数の水酸基の存在により、湿潤状態から乾燥させた場合に繊維同士が水素結合により強固に相互膠着してしまい、繊維間の空隙がつぶされてしまうという問題がある。この問題のために、本来期待されるべき小細孔径、高細孔容積、高比表面積、高通気性といった構造特性を乾燥後の構造体に同時に持たせる(微細空隙を多く有する微多孔性構造体を得る)ことが困難であった。
【0005】
セルロース繊維の集合体の製造において生じる乾燥時の繊維間膠着を防止する手段として多くの方法が提案されている。例えば、特許文献2には凍結乾燥や臨界点乾燥などの方法が開示されており、また、特許文献3、6、7、及び10には湿潤セルロース集合体を有機溶媒置換した後に乾燥する方法が開示されている。さらに、特許文献4及び5には第三成分を加えた後に乾燥する方法が記載されており、特許文献8には水と相溶性のある有機溶媒と水との混合液中にセルロース繊維を分散させた後に乾燥させてシート状構造体を得る方法が開示されている。しかしながら、プロセスの煩雑さや得られる微多孔構造体の特性などの観点から、上記の方法はいずれも満足すべき方法とは言えない。
【0006】
例えば、凍結乾燥や臨界点乾燥は、その乾燥に要する膨大なエネルギー負荷を考えれば工業的な採用において極めて不利なプロセスである。有機溶媒置換乾燥法においては、特許文献4及び5に指摘されているように、繊維間の膠着を防止するためにはエタノールやアセトン等の両親媒性溶媒置換を経て最終的にヘキサン等の非極性溶媒にまで置換してから乾燥する必要があり、多種の有機溶媒による煩雑なプロセスが必要とされるという問題点がある。
【0007】
特許文献3には有機溶媒(具体的にはFedors法による溶解度パラメータ(δ)が14.5以下、好ましくは11.5以下の有機溶媒)で置換後に乾燥することにより得られる膠着防止されたBCキセロゲルが開示されている。しかしながら、この刊行物に記載された発明の目的はセルロースの化学修飾のための再分散性に優れた乾燥キセロゲルを提供することにあり、従って、この刊行物にシート形状でのキセロゲルの利用については何ら示唆ないし教示がなく、さらに得られたキセロゲルの特性については水やエタノールへの再分散性しか開示されておらず、その具体的な構造特性は一切不明である。
【0008】
特許文献4及び5には第三成分を添加して乾燥する技術が開示されている。しかしながら、この技術は当該乾燥物を水などに再分散させる場合の易分散化を目的として提供されたものであり、乾燥構造体そのものを活用することを意図したものではない。また、乾燥構造体の空隙には実質的に第三成分が含まれていることから、純粋な多孔質構造とは言い難い。
特許文献6には、BCのヒドロゲルに有機溶媒(具体的には比誘電率が80以下、好ましくは10以下の有機溶媒)による置換を施す技術が開示されている。しかし、この技術の効果としては電気二重層コンデンサの内部抵抗に関する効果しか開示されておらず、その構造特性については一切不明である。
【0009】
特許文献7には、微細セルロース繊維からなる湿紙を水と相溶性があり表面張力の小さい有機溶媒(具体的にはメタノール、エタノール、又はアセトン等)で置換した後に乾燥して多孔質高気密度紙を得る方法が開示されている。しかしながら、得られる紙の透気抵抗度は、例えば25(g/m2)の坪量のシートにおいて1000(秒/100cc)以上であり、シートの坪量換算透気抵抗度は40 [(秒/100cc)/(g/m2)]以上である。
特許文献8には、水と相溶性のある有機溶媒(具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、又はジメチルスルホキサイド、あるいはこれらの2種以上からなる混合物)と水との混合液中にミクロフィブリル状セルロース繊維を分散させ、その後に乾燥させてシート状構造体を得る方法が開示されている。しかし、実施例に開示された具体例では、4(g/m2)の坪量のシートにおいて透気抵抗度が250〜300(秒/100cc)であり、シートの坪量換算透気抵抗度は62.5〜75 [(秒/100cc)/(g/m2)]である。
【0010】
特許文献10には、湿潤BC集合体を圧搾風乾やアセトン置換などに付して水分が対BCで200〜300 wt%となるように水分除去してから、比誘電率3以下の有機溶媒(具体的にはトルエン、シクロヘキサン、又は四塩化炭素)に浸漬分散させ、その後に乾燥して100(m2/g)程度の高比表面積の構造体を得る方法が開示されている。湿潤BCの固形分濃度を物理的に濃縮する方式としては、吸引濾過、圧搾、フィルタープレス、又は遠心分離等の方式が知られているが、保水性が高いBCのような材料を湿潤状態で25wt%以上の固形分まで濃縮するにはかなりのエネルギー負荷を伴うという問題がある。また、同刊行物には、湿潤BCの水分除去が不十分な場合はゲル化が起きてしまう等の問題点も指摘されており、有機溶媒も比誘電率3以下の疎水性の強いものに限定されている。さらに、同刊行物におけるシートの製造方法やその構造特性に関する開示は不十分である。
【0011】
以上のように、ミクロフィブリル状セルロース繊維を用いて、その素材の持つ特性を十分に生かした微多孔性セルロース構造体を簡便なプロセスで得る方法は知られておらず、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、及び高通気性を同時に有する微多孔性セルロース構造体を簡便に得る方法の提供が望まれている。
【特許文献1】特開昭56-100801号公報
【特許文献2】特開昭62-36467号公報
【特許文献3】特開平6-233691号公報
【特許文献4】特開平9-59301号公報
【特許文献5】特開平9-165402号公報
【特許文献6】特開平10-125560号公報
【特許文献7】特開平10-140493号公報
【特許文献8】特開平10-248872号公報
【特許文献9】特開2001-321164号公報
【特許文献10】特開2004-204380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、ミクロフィブリル状セルロース繊維の特性を十分に生かした微多孔性セルロース構造体を提供すること、及び該微多孔性セルロース構造体を簡便なプロセスで製造する方法を提供することにある。より具体的には、最大繊維径1μm以下のセルロース繊維からなり、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、及び高通気性を兼ね備えた微多孔性セルロースシート、及び該微多孔性セルロースシートを簡便に製造する方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維の湿潤集合体に、イソブチルアルコール、2-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、及び酢酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有する有機溶媒、又は上記有機溶媒と水との混合物による置換処理を行なった後に乾燥すると、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、及び高通気性というミクロフィブリル状セルロース繊維の優れた特性を同時に満足する微多孔性セルロース構造体を安定に製造できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0014】
すなわち、本発明により、(1)最大繊維径が1μm以下であるセルロース繊維の集合構造体からなる微多孔性セルロースシートであって、以下の条件:
(a)水銀圧入法で求めた細孔分布において細孔容積の80%以上が細孔径1μm以下の範囲であり;
(b)微分細孔容積分布のモード径(最大頻度)が細孔径0.4μm以下であり;及び
(c)坪量換算透気抵抗度が25[(秒/100cc)/(g/m2)]以下である
を満足する微多孔性セルロースシートが提供される。
【0015】
上記発明の好ましい態様によれば、
(2)シートの坪量換算透気抵抗度が20[(秒/100cc)/(g/m2)]以下である上記(1)に記載の微多孔性セルロースシート;
(3)細孔容積が1.2ないし3.0 (cm3/g)の範囲である上記(1)又は(2)に記載の微多孔性セルロースシート;
(4)シート坪量が2ないし60 (g/m2)の範囲である上記(1)ないし(3)のいずれか一つに記載の微多孔性セルロースシート;
(5)シート坪量が3ないし30 (g/m2)の範囲である上記(1)ないし(4)のいずれか一つに記載の微多孔性セルロースシート;
(6)以下の式で定義される膜の不均一性パラメータHの範囲が0.01以上0.2以下である上記(1)ないし(5)のいずれか一つに記載の微多孔性セルロースシート;
【数1】

(ただし、Tr,avとTr,sdは、それぞれ、乾燥膜面に対し垂直に850nmの波長の光を照射した際の透過率Trを膜面に沿って直線方向に40μmごとに合計30mm(データ点数:750点)の長さ分採取したときの全Trの平均値及び標準偏差を意味する)
【0016】
(7)セルロース繊維がバクテリアセルロースである上記(1)ないし(6)のいずれか一つに記載の微多孔性セルロースシート;
(8)バクテリアセルロースがCJF-002菌株又はその変異株により生成されたバクテリアセルロースである上記(7)に記載の微多孔性セルロースシート;
(9)セルロース繊維が木材パルプ由来の繊維である上記(1)ないし(6)のいずれか一つに記載の微多孔性セルロースシート;
(10)セルロース繊維が再生セルロース繊維に由来するセルロース繊維である上記(1)ないし(6)のいずれか一つに記載の微多孔性セルロースシート
が提供される。
【0017】
別の観点からは、微多孔性セルロースシートの製造方法であって、以下の工程:
(a)水を媒体として調製されたセルロース繊維の集合構造体(ただし、該セルロース繊維の最大繊維径は1μm以下である)における媒体の水を、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、及び酢酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有する有機溶媒、又は該有機溶媒と水との混合物により置換する工程;及び
(b)工程(a)で得られた上記集合構造体を乾燥する工程
を含む方法が本発明により提供される。
この発明の好ましい態様によれば、水を媒体とするセルロース繊維の集合構造体がシート状の湿紙であり、高圧ホモジナイザーにより50〜150MPaの圧力下で1〜30回の離解処理を受けたセルロース繊維の水系スラリーを抄造する工程により得られる湿紙である上記の方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の微多孔性セルロースシートは、従来のセルロース不織布と比べて孔径の小さな細孔を有しており、さらに高細孔容積、高比表面積、及び高通気性を兼ね備えているので、ミクロフィブリル状セルロース繊維の優れた特性を同時に満足する微多孔性セルロースシートとして有用である。本発明の微多孔性セルロースシートは、各種高機能性フィルター、電池用セパレータ、コンデンサ用セパレータ、低線膨張性基材、又は機能紙などの素材として、ミクロフィブリル状セルロース繊維の優れた特性を生かせるあらゆる技術分野に適用できる。また、本発明の方法により、上記の特徴を有する微多孔性セルロースシートを簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のセルロースシートは、最大繊維径が1μm以下であるセルロース繊維の集合構造体からなる微多孔性セルロースシートであって、以下の条件:
(a)水銀圧入法で求めた細孔分布において細孔容積の80%以上が細孔径1μm以下の範囲であり;
(b)微分細孔容積分布のモード径(最大頻度)が細孔径0.4μm以下であり;及び
(c)坪量換算透気抵抗度が25[(秒/100cc)/(g/m2)]以下である
を満足することを特徴としている。
【0020】
本発明の微多孔性セルロースシートの製造に用いるセルロース系物質としては、綿、木材パルプ、麻、又はコットンリンターなどの天然セルロース繊維の高度叩解品、レーヨン、ベンベルグ、又はリヨセル等の再生セルロース繊維の高度叩解品、あるいはセルロース生産菌により合成されるBC等が利用可能である。
【0021】
BCとはセルロース生産能を有する微生物により生合成されるフィブリル状セルロース系物質のことであり、培養法により容易に得ることができる。セルロース生産能を有する微生物としては、アセトバクター、キシリナム、サブスピーシーズ、シュクロファーメンタ(Acetobacter xylinum subsp.sucrofermentans)、アセトバクター、キシリナム(Acetobacter xylinum )ATCC23768、アセトバクター、キシリナムATCC23769、アセトバクター、パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus )ATCC10245、アセトバクター、キシリナムATCC14851、アセトバクター、キシリナムATCC11142及びアセトバクター、キシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属、エンテロバクター属、又はクリューベラ属に属するセルロール生産性の微生物、あるいはエンテロバクター属のCJF-002菌株などを挙げることができる。さらには、それらをNTG(ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株を利用することもできるが、BCの調製に利用可能な微生物は上記に具体的に例示した微生物に限定されることはない。
【0022】
静置培養で得られるBCは、一般には食品用素材のナタデココとして知られる。巨視的には多量の水を含んだゲル状物として得られるが、微視的には数nm〜200 nm程度の太さを有するセルロース繊維が連続的に交絡した構造を有している。これに対して、攪拌培養で得られるBCは、その培養条件に応じて巨視的にはペレット状粒子や紐状分散物といった形態をとるが、微視的にはやはり数nm〜200 nm程度の太さを有するセルロース繊維が連続的に3次元的に交絡した構造を有している。静置培養により得られるBCゲル状物を利用する場合は、その培養段階において型等にはめてゲル状物質に所望の形状を付与することが可能であり、あるいは得られたゲル状物を所望の形状に切り出して活用することもできる。
【0023】
本発明の微多孔性セルロースシートの製造に用いられるセルロース繊維としては、最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維を用いることが好ましい。最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維は、上記のセルロース系物質を水系湿潤下で高度分散することで得られる。分散方式としては、一般的には製紙機械のビーター又はディスクリファイナー、あるいはジョルダンなどが知られているが、本発明の微多孔性セルロースシートの製造に用いられるセルロース繊維を調製するためには、さらに高度な分散機能を有する装置を利用することが好ましい。分散機能を有する装置としては、例えば、マスコロイダー(増幸産業製)やSS5(エム、テクニック製)のような磨砕型分散機、クレアミックス(エム、テクニック製)のような液液せん断型分散機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の固液せん断型分散機等が挙げられる。もっとも、セルロース系物質から最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維を調製することができる装置であれば、分散方式は特に限定されることはない。
【0024】
得られるスラリーの性状や運転性、及びその経済性の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。操作圧力としては少なくとも50MPa以上であることが望ましく、例えば80MPa以上の高圧であることがさらに好ましい。工業的な生産への応用に際しては150MPa程度が上限となる場合がある。得られるセルロース繊維の最大繊維径を1μm以下とするための処理回数は、操作圧力及び使用するセルロース原材料に強く依存する。例えば、BCを用いる場合には、80MPaの操作圧力で1〜3回程度の処理を行なうことにより本発明の微多孔性セルロースシートの製造に適したセルロース繊維が得られるが、木材パルプを用いる場合には、ビーターやディスクリファイナー等で十分な予備離解を施したうえで、さらに80MPaの操作圧力で10〜30回程度の高圧ホモジナイザー処理を行うことが必要となる場合がある。このようにして水系で高度分散されたセルロース繊維は、通常0.1〜3 wt%程度のスラリーとして次工程に供することができる。
【0025】
一般的に、BCはその生成段階においてすでに繊維径が1μm以下のセルロース繊維となっており、通常はBCをさらにミクロフィブリル化する必要はない。従って、本発明の製造方法において、セルロース集合体としてBCのゲル状物、ペレット状粒子、又は紐状分散物をそのまま用いることができる。もっとも、必要に応じて、前記分散装置等を用いてこのゲル状物を離解分散させ、均一スラリー化して次工程へ提供することも可能である。本発明の微多孔性セルロースシートは薄い均一なシートであり、該シートを得るためには成形加工前にBCのセルロース集合体を均一離解分散しておくことが好ましく、その場合の分散方法としては前記のような各種分散方法が採用できる。これらのうち、高圧ホモジナイザーの採用が好ましい。
【0026】
このようにして提供された最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維が分散したスラリーをシート状に成形加工する方法としては、例えば、抄造法によりシート状に成形する方法、基材上にスプレー塗布して薄膜状に成形する方法等が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。得られるシートの均一性の観点からは抄造法を採用することが好ましい。
【0027】
最大繊維径1μm以下のセルロース繊維を用いて抄造を行う場合には、該セルロース繊維の捕集性の観点から十分な緻密性を有する濾布の使用が必須であり、またそのような濾布は乾燥後にセルロースの薄層シートを容易に剥離できるような良好な剥離性を有していることが好ましい。この観点から、ポリエステルやポリアミドのモノフィラメント(長繊維1本よりなる原糸)からなる平織物、ポリエステルのマルチフィラメント(細い長繊維を複数本撚り合せた原糸)よりなる平織物、二重織物、又は綾織物、ポリエステルとポリアミドのマルチフィラメントを用いた平織物、二重織物、又は綾織物、あるいはポリエステルやポリプロピレンを用いた一般にはフェルトと呼ばれる厚手の不織布等が濾布として好適である。機械特性向上のために、上記の織物を支持体の上にラミネートさせた積層構造の濾布も使用可能である。また、濾布からのセルロース紙の剥離性向上のために濾布の濾過面にポリウレタンやテフロン(登録商標)をラミネート又はコートすることも有効である。
【0028】
本発明のセルロースシートの製造に適した濾布としては、例えば、通気度(JIS L 1096に準じる)が5〜100(cm3/cm2/分)の範囲の濾布を用いることができる。この範囲より通気度が大きいと、セルロース繊維の脱落が多くなり、収率が低下する場合がある。この範囲より通気度が小さいと、濾水性が不良となり、工業的生産の際に抄紙速度を上げることが困難になる場合がある。
【0029】
上記の操作により、最大繊維径が1μm以下のセルロース繊維により構成された集合体を得ることができる。該集合体は水を媒体とする集合体として得られるが、該集合体の媒体としての水をイソブチルアルコール、2-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、及び酢酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有する有機溶媒、又は該有機溶媒と水との混合物(以下、「置換用の溶媒」と呼ぶ場合がある)で置換し、その後に該集合体を乾燥することによって、本発明の微多孔性セルロースを得ることができる。水を上記の置換用の溶媒で置換する操作としては、1回のみの置換処理を行なってもよいが、向流多段置換等の逐次置換や繰り返し置換を行なってもよい。逐次置換又は複数の置換を組み合わせて行なう場合には、上記の置換用の溶媒の組成を適宜異なるものに変更してもよい。
【0030】
上記の置換工程では、セルロース繊維により構成される集合体において媒体として用いられている水に対して、置換させるべき有機溶媒又は該有機溶媒と水との混合物を直接接触させ、最終的に有機溶媒又は該有機溶媒と水との混合物を媒体とした集合体を得ることができる。この置換工程では、例えばアセトンやエタノール等の両親媒性有機溶媒を用いた予備的な置換操作は必要ない。
【0031】
上記の置換処理を行う温度は特に限定されず、該有機溶媒の融点以上の温度であればいかなる温度を適用してもよいが、置換効率を高めるために、該有機溶媒の沸点以下で加熱することが好ましい。さらに、有機溶媒の引火点以上への加熱は引火や爆発等の危険性を伴うので、工業的採用の際には、それらを総合的に判断して決めることが望ましい。
【0032】
このようにして得られた置換後のセルロース繊維集合体を乾燥することによって本発明の微多孔性セルロースを得ることができる。乾燥を行なうに際して、必要に応じて圧搾等の物理的手段により予めその固形分率を調整することもできる。乾燥方法は特に限定されず、当該セルロース構造体の形状を損なわない方法であれば任意の方法を採用することができる。例えば、熱風乾燥法又は加熱接触式乾燥法等の通常工業的に用いられている方法を採用することができ、真空乾燥法や凍結乾燥法などを採用することもできる。2種以上の乾燥方法を組み合わせて用いてもよい。工業的に最も簡便なプロセスと考えられる熱風乾燥や加熱接触式乾燥を採用することが好ましく、通常はそれで十分である。
【0033】
本発明の方法により得られる微多孔性セルロース構造体の微視的構造や通気性は、例えば、水銀圧入法による細孔分布測定、ガス吸着法による比表面積測定、及びガーレー法による透気度の測定などの周知の方法により容易に確認することができる。水銀圧入法とは、水銀の表面張力が大きなことを利用して、圧力を加えながら試料の細孔に水銀を浸入させていき、圧力に対する圧入した水銀量を測定して、試料内の細孔径とその容積の分布を求める方法である。ガス吸着法とは、試料の表面に吸着占有体積が既知のガス分子を吸着させ、その量から試料の比表面積(試料単位重量当りの表面積)を求める方法であり、窒素吸着法による測定を行いBET法により比表面積を算出することができる。透気度は、一定圧力のもとで一定量の気体がシートを通過するのに要する時間を測定することにより評価することができ、シートの透気抵抗度を坪量あたりに換算して規格化して坪量の異なるシート同士の通気性を比較することができる。例えば、測定されたシートの透気抵抗度y(秒/100cc)をシートの坪量x(g/m2)で除した数値y/x[(秒/100cc)/(g/m2)]をシートの坪量換算透気抵抗度と定義できる。
【0034】
本発明の微多孔性セルロースシートは、細孔分布において細孔容積の80%以上が細孔径1μm以下の範囲に存在しており、かつ微分細孔容積分布のモード径(最大頻度)がいずれも細孔径0.4μm以下である小さな細孔を有している。さらに、通気性に関しては、例えば坪量換算透気抵抗度が25[(秒/100cc)/(g/m2)]以下であり、微多孔性でありながら通気性も高いという特徴を有している。比表面積については、例えば50〜120(m2/g)程度の高い数値を有している。
【0035】
シート内部の細孔径が小さくなると、例えばフィルター用途であれば微小粒子の捕捉性能の向上を期待することができ、例えば電気二重層コンデンサ等の蓄電デバイス用セパレータ用途であればセパレータを介しての電極活物質の移動及び接触に起因する短絡(ショート)を防ぐ効果が期待できる。細孔分布は、全細孔に占める細孔径1μm以下の細孔の割合が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、同様の理由から、微分細孔容積のモード径は0.4μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
シートの通気性が高くなると、例えばフィルター用途であれば圧力損失の低下を期待することができ、電気二重層コンデンサ等の蓄電デバイス用のセパレータ用途であれば両電極間をイオンが移動する際の内部抵抗の低下を期待することができる。この観点から、シートの坪量換算透気抵抗度は25[(秒/100cc)/(g/m2)]以下であることが好ましく、20[(秒/100cc)/(g/m2)]以下であることがより好ましく、15[(秒/100cc)/(g/m2)]以下であることが特に好ましい。シートの細孔容積はその数値が高いほど一般には通気性が高くなることから、1.2(cm3/g)以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.5(cm3/g)以上である。細孔容積が大きくなり過ぎるとシート形態を維持することが困難になる場合もあるので、実際上は3.0(cm3/g)付近を上限とすることが望ましい。
【0037】
シートの坪量は用途に応じて適宜選択可能であるが、蓄電デバイス用セパレータでは内部抵抗の関係から薄いことが好ましい。ピンホール等の欠陥を防止する観点から実際上は2(g/m2)付近を下限とすることが望ましく、強度の観点から3(g/m2)以上あることが好ましい。エアフィルター等の用途については、粒子捕捉容量との関係からある程度の厚みが要求されるが、生産上の困難性から実際上は60(g/m2)付近を上限とすることが望ましく、生産性の向上の観点からは30(g/m2)以下に設定することがより好ましい。
【0038】
シートの均一性を評価するために、以下に示す膜の不均一性パラメータHを導入することができる。例えば、0.01≦H≦0.2であり、好ましくは0.01≦H≦0.15であり、さらに好ましくは0.01≦H≦0.10である。この範囲で均一性に優れ物性的にも安定した品質のシートを提供することができる。
【数2】

ただし、Tr,avとTr,sdは、それぞれ、乾燥膜面に対し垂直に850nmの波長の光を照射した際の透過率Trを膜面に沿って直線方向に40μmごとに合計30mm(データ点数:750点)の長さ分採取したときの全Trの平均値及び標準偏差を意味する。
【0039】
本発明の微多孔性セルロースシートは、セルロースの有する耐熱性や耐薬品性といった特性に加えて、微多孔性かつ高通気性といった特徴を同時に有しているので、例えば、各種高機能性フィルター、電池用セパレータ、コンデンサ用セパレータ、低線膨張性基材、又は機能紙等、その特性を生かせるあらゆる技術分野に適用できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されることはない。
[物性評価方法]
膜厚
20cm角に切り出したシートについて、Mitutoyo製のシックネスゲージ(Code;547-401)を用いて5点の膜厚測定を行い、その平均値を膜厚d(μm)とした。
坪量
前記のシートについて、JIS P 8124(紙及び板紙-坪量測定方法)に準拠した方法で坪量を測定した。
透気抵抗度
前記のシートについて、JIS P 8117(紙及び板紙−透気度試験方法−、ガーレー試験機法)に準拠した方法で透気抵抗度を評価した。評価は同一シート上の異なる4点について室温下で行い、その平均値を透気抵抗度とした。また、透気抵抗度を坪量で除することにより坪量換算透気抵抗度を得た。
【0041】
繊維径
日立製作所製の走査型電子顕微鏡S-900(以下、SEMと記す)を用いて、シートを1万倍以上の倍率(加速電圧5〜10kV)で観察して評価した。原料として用いるミクロフィブリル状セルロース繊維の繊維径については、1万倍程度のSEM画像中に含まれる何れの繊維についても繊維径が1μm以下であり、合計100本以上の繊維について1μmの繊維径を超える繊維が確認できない場合、最大繊維径が1μm以下であると定義する。ただし、画像において数本の微細繊維が多束化して1μm以上の繊維径となっていることが明確に確認できる場合には1μm以上の繊維径とはしないものとする。
【0042】
細孔分布、細孔容積
島津製作所製の細孔分布測定装置Pore Sizer 9320を用いて水銀圧入法により測定した。なお、シート状試料を水銀圧入法で測定する場合、初期水銀充填時に水銀が充填されなかった試料間の隙間や試料容器と試料間の隙間も細孔と見なされてしまうが、本発明の試料の評価については、SEMの観察結果と照らし合わせて、実質的に細孔径数μm以下の領域に現れる細孔のみが試料内の細孔と考えて差し支えない。従って、微分細孔容積分布の細孔径数μm付近に認められる極小値より大孔径側に現れる細孔データについては試料間及び試料と容器の隙間とみなして無視した。比較例として用いた各種シートについても同様の補正を行った。
微分細孔容積分布とは細孔径を横軸に、試料中のその細孔径に相当する細孔容積を縦軸にプロットした分布曲線である。この分布曲線においてピーク値(最大頻度)をとる点の細孔径をモード径と呼ぶ。
また、細孔容積とは、この測定法によって試料中に侵入した水銀の総量であり、つまり試料中の空隙量に相当し、微分細孔分布曲線の下部の面積に相当する。積分細孔分布曲線は、微分細孔分布曲線の積分値を細孔径に対して表示した分布曲線である。
【0043】
比表面積
ユアサアイオニクス社製の比表面積測定装置NOVA 4000eを用いて窒素による測定を行い、BET法により算出した。
膜の不均一性パラメータH
TurbiscanTM MA-2000(英弘精機社)を使用した。対象とする膜サンプルを10mm×50mmの長方形に切り取り、同装置に付属しているガラス製試験管内の底蓋に接する程度の位置に該膜サンプルの長軸が試験管の長さ方向に真っ直ぐ(ピンと張って)設置する。この際に、レーザー光が膜サンプルのほぼ中央付近に垂直に当たるような位置に設置する。次に同装置の常法的な使用法に従い、850nmのレーザー光を試験管の長さ方向に走査させる。同装置は常法にて40μm毎に計60mmの範囲で試験管長さ方向の透過率を検出するが、このプロファイルを確認し、膜が当たっていると考えられる部分の30mm分を切り取り(対象とし)、以下の式にて定義される不均一性パラメータHを算出する。
【数3】

ここで、Tr,avとTr,sdは、それぞれTrの平均値及び標準偏差を意味する。
【0044】
[セルロース原料の調整]
MFC-1
MFC原料として木材パルプの高度叩解品である市販のセリッシュKY-100G(ダイセル社製、固形分約10wt%の脱水ケーク)を用いた。セリッシュKY-100Gはセルロース濃度が0.1wt%となるように水中に再分散させた後に、家庭用ミキサーで約4分間の均一分散処理を行った。この0.1wt%均一分散スラリーを本実施例におけるMFC-1原料とした。
MFC-2
精製クラフトパルプを水中に1wt%となるように分散させ、ビーターにより2時間の叩解処理を行った。こうして得られた予備離解スラリーを前記の高圧ホモジナイザーを用いて80MPaで20回の離解処理を行った。得られたスラリーを水で0.1wt%に希釈し、家庭用ミキサーで約4分間の均一分散処理を行った。この0.1wt%均一分散スラリーを本実施例におけるMFC-2原料とした。
【0045】
BC-1(CJF-002菌)
本実施例のBCとしては主としてCJF-002菌により生成されたBC(以下、BC-1と表記する)を用いた。その製造方法について以下に詳細に説明する。
タービン型攪拌翼を有する容積20m3の攪拌型醗酵槽に、表1に示す組成の合成培地12m3を張り込み、121℃で30分間高圧蒸気滅菌処理した。そこに、同組成の培地で、30℃にて48時間振とう培養させたシード菌液1.2 Lを無菌的に植菌し、30℃で約50時間の培養を行った。培養期間中、培養槽の内圧は49kPaに、pHは7.0に、攪拌回転数は54rpmに、そして通気量は7.8Nm3/Hrにそれぞれ制御した。また、培養期間中はグルコース濃度を適宜計測し、グルコースが完全消費された時点で再び121℃で30分間の殺菌処理を行って培養終了とした。
【0046】
【表1】

【0047】
この培養液をスクリュープレス機(富国工業社製、SHX-200x1500L型)により脱水することで培養液中に生成したBC-1を脱水ケークとして回収した。得られた脱水ケークは、水へ再分散させた後に再脱水して、残留培地成分を除去した。さらにこの脱水ケークを1%水酸化ナトリウム水溶液中へ再分散して80℃で60分間の洗浄処理を行い、BCに付着した菌体を完全溶解した。このBC-1洗浄スラリーを硫酸により中和した後に再脱水し、以後、脱水ケークの水への再分散と脱水を合計3回繰り返して、残留培地成分や菌体成分等の不純物の少ない、固形分約10wt%のBC-1脱水ケークを得た。
【0048】
次に、この脱水ケークをBC濃度が1.0wt%となるように水に再分散させ、KRK高濃度ディスクレファイナー(熊谷理機工業株式会社製、型式No.2500-I、レファイナープレートはType-Dを使用して、プレート間のクリアランスは50μmに設定)で20回の予備分散処理を行った後に、高圧ホモジナイザー(ニロ、ソアビ社製、NS3015H)を用いて、圧力80MPaで3回の分散処理を実施した。かかるBC-1の離解分散スラリーをさらに水で0.1wt%に希釈し、家庭用ミキサーで約4分間の均一分散処理を行った。この0.1wt%均一分散スラリーを本実施例のBC-1原料とした。
【0049】
BC-2(酢酸菌)
本実施例のBCとしては酢酸菌の静置培養によるBC(以下、BC-2と表記する)も用いた。その製造方法について以下に詳細に説明する。
表2に示す組成の合成培地を調製し121℃で20分間の高圧蒸気滅菌処理を施した。この合成培地100mlを直径15cmの滅菌済みシャーレに入れ、あらかじめ同培地にて30℃で7日間生育させた酢酸菌保存菌株(Acetobacter Xylinum)IFO13693株10vol%をこの合成培地に添加した。この後、30℃、7日間の静置培養を行って酢酸菌を増殖させるとともに厚膜状のBC-2のヒドロゲルを産出させ、この時点で再び121℃で30分間の殺菌処理を行って培養終了とした。
【0050】
【表2】

【0051】
このヒドロゲルを流水中で十分洗浄して残留培地成分等を除去した後で、家庭用ミキサーで約6分間の離解処理を行いBC-2のスラリーを得た。このスラリーを遠心分離する事でBC-2を脱水ケークとして回収した。以降は前記のBC-1の処理に準じた方法で水酸化ナトリウム及び水による洗浄処理と高度分散処理を行い、最終的に0.1wt%均一分散スラリーを得て本実施例のBC-2原料とした。
【0052】
[湿潤セルロース集合体の成形]
前記のセルロース繊維のスラリーを用いて、抄造法により湿潤シート状セルロース集合体を作成した。抄造は抄紙部25cm角の自動角型シートマシーン(熊谷理機工業社製)を用いてバッチ法で行った。抄造に際して濾布は主としてポリエステルモノフィラメント製460メッシュ濾布を使用したが、一部敷島カンバス製のフィルタークロスを利用した。その詳細を表3に示した。また、これらの濾布の構造や通気度については表4に示した。抄造により得られたセルロース湿紙は、つづく溶媒置換工程におけるシート形状維持のためにポリエステルモノフィラメント製の460メッシュの平織物で上から覆うことにより、上下を支持体で挟まれた状態で採取した。このようにして得られた湿紙を平板式プレス機により圧搾した。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
[実施例1〜16]
前記方法により得られたMFC湿紙及びBC湿紙を前記支持体で挟まれた状態のまま、室温下で表3に記載の各種溶媒中で10分間の浸漬置換処理を施した。この後に一回当該シートを液から一回引きあげ、置換溶媒を新鮮なものに更新してから再度10分間の浸漬置換処理を行い、シート中の水分を完全に溶媒に置換した。このシートを平板プレス機により圧搾した後に表3に記載の各種温度で乾燥し、支持体から剥離して乾燥セルロースシートを得た。この乾燥セルロースシートの諸物性を調べたところ表3に示した通りであり、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、及び高通気性を兼ね備えたセルロースシートであった。
【0056】
[比較例17〜20]
比較例として、市販のコンデンサ用セパレータ(ニッポン高度紙製TF40-30、TF40-50)、及びセルロース原料としてBC-1又はBC-2を用い、溶媒としてイソプロピルアルコール又はアセトンを用いた場合に得られたセルロースシートについて諸物性を測定した。その結果は表3に示す通りであり、小細孔径、高細孔容積、高比表面積、及び高通気性のうち、少なくとも1以上の物性において本発明の微多孔性セルロースシートよりも劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の微多孔性セルロースシート(実施例2及び4)と比較例のセルロースシート(比較例17及び比較例20)の微分細孔容積分布を示した図である。
【図2】本発明の微多孔性セルロースシート(実施例2及び4)と比較例のセルロースシート(比較例17及び比較例20)の積分細孔容積分布を示した図である。
【図3】本発明の微多孔性セルロースシート(実施例2及び4)と比較例のセルロースシート(比較例17及び比較例20)の積分細孔容積分布を全細孔容積で規格化して表示した図である。
【図4】本発明の微多孔性セルロースシート(実施例4)のSEM観察像を示した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大繊維径が1μm以下であるセルロース繊維の集合構造体からなる微多孔性セルロースシートであって、以下の条件:
(a)水銀圧入法で求めた細孔分布において細孔容積の80%以上が細孔径1μm以下の範囲であり;
(b)微分細孔容積分布のモード径(最大頻度)が細孔径0.4μm以下であり;及び
(c)坪量換算透気抵抗度が25[(秒/100cc)/(g/m2)]以下である
を満足する微多孔性セルロースシート。
【請求項2】
シートの坪量換算透気抵抗度が20[(秒/100cc)/(g/m2)]以下である請求項1に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項3】
細孔容積が1.2ないし3.0 (cm3/g)の範囲である請求項1又は2に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項4】
シート坪量が2ないし60 (g/m2)の範囲である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項5】
シート坪量が3ないし30 (g/m2)の範囲である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項6】
以下の式で定義される膜の不均一性パラメータHの範囲が0.01以上0.2以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の微多孔性セルロースシート。
【数1】

ただし、Tr,avとTr,sdは、それぞれ、乾燥膜面に対し垂直に850nmの波長の光を照射した際の透過率Trを膜面に沿って直線方向に40μmごとに合計30mmの長さ分採取したときの全Trの平均値及び標準偏差を意味する。
【請求項7】
セルロース繊維がバクテリアセルロースである請求項1ないし6のいずれか1項に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項8】
バクテリアセルロースがCJF-002菌株又はその変異株により生成されたバクテリアセルロースである請求項7に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項9】
セルロース繊維が木材パルプ由来の繊維である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項10】
セルロース繊維が再生セルロース繊維に由来するセルロース繊維である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の微多孔性セルロースシート。
【請求項11】
微多孔性セルロースシートの製造方法であって、以下の工程:
(a)水を媒体として調製されたセルロース繊維の集合構造体(ただし、該セルロース繊維の最大繊維径は1μm以下である)における媒体の水を、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、及び酢酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有する有機溶媒、又は該有機溶媒と水との混合物により置換する工程;及び
(b)工程(a)で得られた上記集合構造体を乾燥する工程
を含む方法。
【請求項12】
水を媒体とするセルロース繊維の集合構造体がシート状の湿紙であり、高圧ホモジナイザーにより50〜150MPaの圧力下で1〜30回の離解処理を受けたセルロース繊維の水系スラリーを抄造する工程により得られる湿紙である請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−193858(P2006−193858A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6584(P2005−6584)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】