説明

微多孔性フィルムの製造方法及び電池用セパレータ

【課題】高い気孔密度及び多孔性を有する微多孔性フィルムを効率よく生産することが可能な、微多孔性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン樹脂組成物を、溶融状態で、ドロー比2〜500で引き取りフィルムを得る工程、(B)前記工程(A)で得たフィルムを100℃以上160℃以下の温度で熱処理する工程、(C)前記工程(B)で得たフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、(D)前記工程(C)で得たフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程を含み、ポリプロピレン樹脂組成物が、MFRが0.1以上4.0未満であるポリプロピレン樹脂を70〜30質量部と、MFRが4.0以上10.0以下であり、アイソタクチシチーが95%を超えるポリプロピレン樹脂30〜70質量部とを、合計で100質量部となるように含有する、微多孔性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性フィルムの製造方法及び電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等に用いられており、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適に用いられている。また、近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途として用いられる一方で、ハイブリッド電気自動車等への応用も図られている。
【0003】
リチウムイオン電池では、電解液として活性の高い有機溶媒を使用するため有機溶媒との反応性が低く、製造費用の安いポリオレフィン系樹脂が電池用セパレータに用いられる場合が多い。ポリオレフィン系樹脂を用いて原反フィルムを製造する方法は理論的または実験室規模で利用することができる多くの工程を含むが、現在市販されているセパレータとして用いられる微多孔性フィルムを製造する方法は充填材またはワックス及び溶剤を使用する湿式法と溶剤を使用しない乾式法とに大別される。また、これら方法により微多孔を形成するのに関連する延伸工程としては1軸法及び2軸法がある。
【0004】
このうち、乾式法は、湿式法に比べてまず広幅の原反フィルム製造が可能で生産工程が比較的に容易であり、溶剤を使用しないので優れた製造環境を有することができ、大量生産が容易であるという長所を有する。
乾式法を用いて微多孔性フィルムを製造する方法は、熱処理(アニール)された原反フィルムを初期に冷延伸し、連続的に高温延伸する工程を含む。一般にこのような工程は、高い結晶化度及び弾性を有する原反フィルムを冷延伸工程を経て、連続的に高温延伸することによって、微多孔性フィルムを形成した後、熱固定によって膜形成を完成する一連の工程を含む。
【0005】
例えば、特許文献1では、乾式法を用いて製造した、高結晶性ポリプロピレンを使用した微多孔性フィルム(電池用セパレータ)が提案されている。また、特許文献2では、特定の重量平均分子量を有するポリプロピレンから形成される積層微多孔性フィルムが開示されている。このように結晶性高分子を素材として微多孔性フィルムを製造する乾式法では、冷延伸を通じて相対的に弱い無定形部分が破裂されて気孔が形成される。
【0006】
【特許文献1】特表2003−519723号公報
【特許文献2】特許第3939778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に記載された微多孔性フィルムの製造方法は、高い気孔密度、多孔性を有する微多孔性フィルムを効率よく生産する観点からは、なお改良の余地を有する。
本発明は、このような問題点を考慮したものであって、その目的は、高い気孔密度及び多孔性を有する微多孔性フィルムを効率よく生産することが可能な、微多孔性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前述の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、ある特定のMFR、及びアイソタクチシチー(ペンダット分率)を有するポリプロピレン樹脂を原料の一部として用いることにより、アニール工程の処理時間が短くても多孔性が良好な微多孔性フィルムを得られることを見出した。これにより、リチウムイオン二次電池用セパレータとして好適な多孔性を有する微多孔フィルムを高生産効率で得ることができることを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
以下の(A)〜(D)の各工程、
(A)ポリプロピレン樹脂組成物を、溶融状態で、ドロー比2〜500で引き取りフィルムを得る工程、
(B)前記工程(A)で得たフィルムを100℃以上160℃以下の温度で熱処理する工程、
(C)前記工程(B)で得たフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(D)前記工程(C)で得たフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程、を含み、
前記ポリプロピレン樹脂組成物が、MFRが0.1以上4.0未満であるポリプロピレン樹脂を70〜30質量部と、MFRが4.0以上10.0以下であり、アイソタクチシチーが95%を超えるポリプロピレン樹脂30〜70質量部とを、合計で100質量部となるように含有する、微多孔性フィルムの製造方法。
[2]
以下の(E)工程、
(E)前記工程(D)で得たフィルムを100℃以上160℃未満の温度で熱固定する熱固定工程、
を更に含む[1]に記載の製法方法。
[3]
前記ポリプロピレン樹脂組成物の分子量分布が3〜10である[1]又は[2]に記載の製法方法。
[4]
前記ポリプロピレン樹脂組成物の全体のMFRが0.4〜9.0である[1]〜[3]のいずれかに記載の製法方法。
[5]
前記ポリプロピレン樹脂組成物に含まれるポリプロピレンの、全体としてのアイソタクチシチーが92%〜98%である[1]〜[4]のいずれかに記載の製法方法。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により得られた微多孔性フィルムを含む電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い気孔密度及び多孔性を有する微多孔性フィルムを効率よく生産することが可能な、微多孔性フィルムの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、以下の(A)〜(D)の各工程、
(A)ポリプロピレン樹脂組成物を、溶融状態で、ドロー比2〜500で引き取りフィルムを得る工程、
(B)前記工程(A)で得たフィルムを100℃以上160℃以下の温度で熱処理する工程、
(C)前記工程(B)で得たフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(D)前記工程(C)で得たフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程、
を含むと共に、前記ポリプロピレン樹脂組成物(以下、「Ac」と略記することがある)が、MFRが0.1以上4.0未満であるポリプロピレン樹脂(以下、「PPa」と略記することがある)を70〜30質量部と、MFRが4.0以上10.0以下であり、アイソタクチシチーが95%を超えるポリプロピレン樹脂(以下、「PPb」と略記することがある)30〜70質量部とを、合計で100質量部となるように含有する。
ここで、本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、以下の(E)工程、
(E)前記工程(D)で得たフィルムを100℃以上160℃未満の温度で熱固定する熱固定工程、
を更に含むことが好ましい。
【0012】
前記Acとしては、ポリプロピレン樹脂を主成分として含むことが好ましい。本実施形態において「主成分」とは、特定の成分が、マトリックス成分(成分全体)中に占める割合として、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上、特に好ましくは100質量%すなわち全量、であることを意味する。
また、ポリプロピレン樹脂とは、その原料モノマーの主成分がプロピレンであるポリマーをいう。従って、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。透気性や破膜温度の観点からは、ホモポリマーが好ましい。ポリプロピレン樹脂の重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系の触媒やメタロセン系の触媒などが挙げられる。
【0013】
なお、前記Acには必要に応じて、他の付加的成分、例えば、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤など)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等を含有してもよい。これらの付加的成分が前記Ac中に占める割合としては、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0014】
前記Acに含まれるポロプロピレン樹脂の全体としてのアイソタクチシチーは、90%〜100%であることが好ましく、より好ましくは92%〜98%であり、更に好ましくは95%〜100%であり、特に好ましくは98%〜100%である。
【0015】
また、前記Acの分子量分布としては、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。前記Acの分子量分布をこのような範囲に設定することは、高分子量側の長い分子鎖はせん断流動下では引き延ばされやすく核生成を速める原因となり、低分子量側の短い分子鎖は動きやすいため結晶成長を速める原因となって、アニール工程において処理時間が短くても好適な多孔性を有する傾向となるため好ましい。
【0016】
更に、前記AcのMFRとしては、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは1.0以上であり、上限として好ましくは9.0以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは3.0以下、特に好ましくは1.5以下である。MFRを当該範囲に設定することは、成膜性を向上させる観点から好ましい。
【0017】
前記PPaのMFRは、0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上である。上限としては、4.0未満、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下である。
一方、PPbのMFRは、4.0以上、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.0以上である。上限としては、10.0以下、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下である。
また、PPbのアイソタクチシチーは、95%を超え、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上である。
更に、PPaとPPbとの配合比としては、PPa/PPb(質量比)として70/30〜30/70、より好ましくは70/30〜40/60である。
【0018】
本発明者らは、特定のMFRを有するPPaと、特定のMFR及び特定のアイソタクチシチーを有するPPbとを上述のような配合比で混合し、原料組成物として用いることで、アニール工程において処理時間が短くても多孔性が良好であること、リチウムイオン二次電池用セパレータとして好適な多孔性を有した微多孔フィルムを高生産効率で得ることができることを見出した。
この要因の詳細は詳らかではないが、せん断流動下では分子鎖が配向され、結晶化が誘起されるため、流動性に富み、結晶成長を早める効果が期待される高アイソタクチシチーの低分子量成分の混合がアニール工程において有効に働き、ポリプロピレン樹脂の結晶配向性が向上し、後段の延伸工程において、結晶間の開列が均一に発生し、透気性が向上するものと考えられる。
【0019】
前記(A)工程において、ポリプロピレン樹脂組成物からフィルムを得る方法としては、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等のシート成形方法を採用し得る。中でも、本実施形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、Tダイ押出成形が好ましい。
【0020】
前記(A)工程におけるドロー比、すなわち、フィルムの巻取速度(単位:m/分)をポリプロピレン樹脂組成物Acの押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値としては、2〜500、好ましくは100〜400、より好ましくは150〜350である。また、フィルムを巻き取る際のフィルムの巻取速度は、好ましくは約2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分である。
ドロー比を上記範囲とすることは、得られる微多孔性フィルムの透気性を向上させる観点から好適である。
【0021】
前記(B)工程における熱処理方法としては、例えば、フィルムを加熱ロール上に接触させる方法、巻き取る前に加熱気相中に曝す方法、フィルムを芯体上に巻き取り加熱気相又は加熱液相中に曝す方法、並びにこれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。
また、熱処理時の温度としては、100℃〜160℃、好ましくは120℃〜150℃である。温度を当該範囲に設定することは、後に得られる微多孔性フィルムの透気性を向上させる観点や、フィルム間の融着を防止する観点から好適である。
なお、熱処理時の時間としては、好ましくは10秒間〜100時間、より好ましくは1000秒間以下である。
【0022】
前記(C)工程における延伸温度は、−20℃以上90℃未満、好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。−20℃以上で延伸することにより、フィルム破断を抑制する傾向にあるため好ましく、90℃未満で延伸することにより、得られる微多孔性フィルムの透気性がより向上する傾向にあるため好ましい。ここで、冷延伸の延伸温度は冷延伸工程におけるフィルムの表面温度である。
また、前記(C)工程における延伸倍率は、少なくとも一方向に、好ましくは1.05倍〜5.0倍、より好ましくは1.2倍〜2.0倍である。延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にあるため好ましく、5.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にあるため好ましい。なお、フィルムの冷延伸は、少なくとも一方向に行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは、フィルムの押出し方向(以下「MD方向」という)にのみ一軸延伸を行う。
【0023】
前記(D)工程における延伸温度は、90℃以上160℃未満、好ましくは110℃以上140℃以下の温度である。90℃以上で延伸することにより、フィルムが破断し難くなる傾向にあるため好ましく、160℃未満で延伸することにより、得られる微多孔性フィルムの透気性がより向上する傾向にあるため好ましい。ここで、熱延伸の延伸温度は熱延伸工程におけるフィルムの表面温度である。
また、前記(D)工程における延伸倍率は、少なくとも一方向に、好ましくは1.05倍〜5.0倍、より好ましくは1.1倍〜4.5倍、更に好ましくは2.0倍〜4.0倍である。延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にあるため好ましく、5.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にあるため好ましい。なお、フィルムの冷延伸は、少なくとも一方向に行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは、MD方向にのみ一軸延伸を行う。
【0024】
前記(E)工程における熱固定温度としては、100℃以上160℃未満であり、好ましくは130℃以上140℃以下である。なお、熱固定温度とは、熱固定工程における微多孔性フィルムの表面温度である。
この熱固定の方法としては、熱固定後の微多孔性フィルムの長さが、熱固定前の微多孔性フィルムの長さに対して3〜50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」という)、延伸方向の寸法が変化しないように熱固定する方法、等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法における冷延伸工程、熱延伸工程、その他の延伸工程及び熱固定工程の各工程において、延伸又は熱固定は、ロール、テンター、オートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、一軸方向及び/又は二軸方向に行うことができる。特に、得られる微多孔性フィルムに要求される透気度や気孔率のような物性や用途の観点から、少なくとも1つの工程において、ロールによる2段階以上の一軸延伸/固定を行うことが好ましい。
【0026】
次に、本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法により得られる微多孔性フィルムの物性について説明する。
微多孔性フィルムの気孔率は20%〜80%であり、より好ましくは30%〜70%、更に好ましくは40%〜60%、特に好ましくは53〜57%である。その気孔率を20%以上に設定することにより、十分なイオン透過性を確保し得る傾向にある。一方、気孔率を80%以下に設定することにより、微多孔性フィルムが十分な機械強度を確保し得る傾向にある。
なお、微多孔性フィルムの気孔率は、前記Acの組成、各延伸工程における延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調節することができる。例えば、その気孔率を高くするには、ドロー比を高くしたり、延伸倍率を高くしたりすればよい。
【0027】
微多孔性フィルムの透気度は、好ましくは10秒/100cc〜5000秒/100ccであり、より好ましくは50秒/100cc〜1000秒/100cc、更に好ましくは100秒/100cc〜300秒/100cc、特に好ましくは150秒/100cc〜250秒/100ccである。透気度が5000秒/100cc以下である場合、微多孔性フィルムが十分なイオン透過性を確保し得る傾向にある。一方、透気度が10秒/100cc以上である場合、欠陥のない、より均質な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。
なお、微多孔性フィルムの透気度は、前記Acの組成、各延伸工程における延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調節することができる。例えば、その透気度を高くするには、延伸倍率を高くしたり、熱固定における緩和倍率を低くしたりすればよい。
【0028】
微多孔性フィルムの膜厚は、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0029】
本実施形態の製造方法により製造された微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的にはリチウム二次電池用セパレータとして好適に用いられる。その電池用セパレータは、微多孔性フィルムとして本実施形態の微多孔性フィルムを備える他は、公知の構成を有し、公知の方法により作製されればよい。その他、本実施形態の微多孔性フィルムは各種分離膜としても用いられる。
なお、上述した各種パラメータについては特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各種特性の評価方法は下記の通りである。
【0031】
(1)MFR(g/10分)
MFRは、メルトインデックスと同義であり、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件下でポリプロピレン樹脂(組成物)のMFRを測定した。その単位はg/10分である。
【0032】
(2)アイソタクチシチー(ペンダット分率)
ポリプロピレン樹脂(組成物)における樹脂のアイソタクチシチーは試料をODCB−dに135〜140℃で半日程度かけて溶解させ、その後一晩室温で放置した後、NMR測定に供し(135℃測定)、13CNMRで確認した。アイソタクチシチー測定は、日本電子製の核磁気共鳴装置装置(商品名「JEOL ECS400」)を用いて行った。核種として13Cを用い、完全デカップリング法にてNMR管5mmφ、測定温度130℃、溶媒ODCB−d、濃度10ww%、積算回数1000回(20hr)、待ち時間5secの条件で行い、CH3ピークの各積分値から求め、触媒規制を仮定した統計計算に従い算出した。厳密な算出方法は「社団法人 日本分析化学会偏 高分子分析ハンドブック 初版 PP13, 200, 205, 212, 286」を参照。
【0033】
(3)膜厚(μm)
微多孔性フィルムの膜厚は、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)を用いて測定した。
【0034】
(4)気孔率(%)
微多孔性フィルムの気孔率は、微多孔性フィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積V(cm3)及び質量M(g)と、フィルムを構成する樹脂組成物の密度d(g/cm3)とから下記式を用いて算出した。
気孔率(%)={(V−M/d)/V}×100
【0035】
(5)透気度(秒/100cc)
微多孔性フィルムの透気度は、JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて測定した。なお、微多孔性フィルムの膜厚を20μmとした場合の値に換算した値を、その微多孔性フィルムの透気度とした。
【0036】
(6)分子量,分子量分布(Mw/Mn)
ポリプロピレン樹脂組成物における樹脂の分子量分布は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)から求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnの値である。GPC測定は、東ソー社製のGPS装置(商品名「HLC−8121GPC/HT」)を用いて行った。カラムとして東ソー社製の商品名「TSKgel GMHHR−H(20)」(2本)を用い、移動相o−ジクロロベンゼン(o−DCB)、カラム温度155℃、流量1.0mL/分、試料濃度0.5mg/mL(o−DCB)、注入量500μL、試料溶解温度160℃、試料溶解時間3時間の条件で行った。分子量の校正は、ポリスチレンで行い、ポリスチレン換算分子量でMw及びMnを求め、分子量分布を導出した。
【0037】
使用したポリプロピレン樹脂は以下の通りである。
(PP−1) プロピレンホモポリマー、MFR=0.4、アイソタクチシチー=98%
(PP−2) プロピレンホモポリマー、MFR=6.0、アイソタクチシチー=98%
(PP−3) プロピレンホモポリマー、MFR=6.0、アイソタクチシチー=95%
(PP−4) プロピレンホモポリマー、MFR=9.0、アイソタクチシチー=92%
【0038】
[実施例1]
第一原料供給口及び第二原料供給口を有する、口径20mm、L/D=30の単軸押出機を準備した。220℃に設定した単軸押出機に対し、(PP−1)成分70質量部を第一原料供給口から、(PP−2)成分30質量部を第二原料供給口から夫々投入し、押出機先端に設置したリップ厚3.0mmのTダイから樹脂を押し出した。
その後直ちに、溶融した樹脂に25℃の冷風を当て、ドロー比150倍にて95℃に冷却したキャストロールで引き取り、前駆体フィルムを得た(シート成形工程)。この前駆体フィルムを140℃で15分熱処理した。その後、25℃の温度で縦方向に一軸延伸(延伸倍率:1.15倍)して第1の延伸フィルムを得た(冷延伸工程)。その後、第1の延伸フィルムを更に、130℃の温度で同一方向に一軸延伸(延伸倍率:2.5倍、歪速度:2.0/秒)して、第2の延伸フィルムを得た(熱延伸工程)。さらに、第2の延伸フィルムに対して150℃で熱固定を施して(熱固定工程)、微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムについて、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1〜4]
下表1に示した条件以外は、実施例1に記載の方法に準じて微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムについて、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、同じアニール工程の処理時間で比較すると、特定のMFR、アイソタクチシチーを有する原料を用いて製造した実施例1の微多孔性フィルムが、透気度・気孔率が良好であることを見出した。これにより、リチウムイオン二次電池用セパレータとして好適な多孔性を有した微多孔フィルムを高生産効率で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(D)の各工程、
(A)ポリプロピレン樹脂組成物を、溶融状態で、ドロー比2〜500で引き取りフィルムを得る工程、
(B)前記工程(A)で得たフィルムを100℃以上160℃以下の温度で熱処理する工程、
(C)前記工程(B)で得たフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(D)前記工程(C)で得たフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程、を含み、
前記ポリプロピレン樹脂組成物が、MFRが0.1以上4.0未満であるポリプロピレン樹脂を70〜30質量部と、MFRが4.0以上10.0以下であり、アイソタクチシチーが95%を超えるポリプロピレン樹脂30〜70質量部とを、合計で100質量部となるように含有する、微多孔性フィルムの製造方法。
【請求項2】
以下の(E)工程、
(E)前記工程(D)で得たフィルムを100℃以上160℃未満の温度で熱固定する熱固定工程、
を更に含む請求項1に記載の製法方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレン樹脂組成物の分子量分布が3〜10である請求項1又は2に記載の製法方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン樹脂組成物の全体のMFRが0.4〜9.0である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製法方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレン樹脂組成物に含まれるポリプロピレン樹脂の全体としてのアイソタクチシチーが92%〜98%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製法方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた微多孔性フィルムを含む電池用セパレータ。