説明

微小力測定装置及び生体分子観察方法

【課題】感度の低下を防止しながらタンパク分子等の生体分子を正確に測定して、構造解析等の力学的性質を高精度に観察すること。
【解決手段】互いに向かい合うように対向配置され、それぞれ先端が自由端となるように片持ち状に形成されて主面2a、3aに生体分子Pを固定可能な第1のプローブ2及び第2のプローブ3と、該第1のプローブと第2のプローブとを、それぞれ主面を向かい合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて、互いの距離を可変させる可変手段4と、第1のプローブ及び第2のプローブの撓みをそれぞれ測定する測定手段5と、該測定手段による測定結果に基づいて、生体分子の解析を行う解析手段6とを備え、測定手段が、第1のプローブ及び第2のプローブにそれぞれ生体分子を固定させた状態で、可変手段4により互いの距離を可変させている間の撓み変化を測定する微小力測定装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質等の生体分子の構造解析等、各種の観察を行う微小力測定装置及び生体分子観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム時代を迎え、分子生物学的なアプローチから、DNAやタンパク質をはじめとした生体分子や細胞等の生体試料の形態観察や機能解析への高分解能、多機能観察が求められている。その中で、DNA、RNAやタンパク質等の生体分子の長さを測定したり、幾何学的な構造や力学的な性質等の各種の機能を調べたりすることは、生体分子の解析(解明)に繋がるので、生化学、医学を始めとする多くの分野において非常に有益に行われている。
このような解析においては、生体分子、例えば、例えば、立体構造をとっているタンパク質を両端末付近から引き伸ばして1本の直線状のポリペプチドとすることでタンパク質の力学的な性質を調べて構造解析を行うタンパク質ナノ力学法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
この方法は、図24に示すように、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)等の走査型プローブ顕微鏡のプローブ50を利用してタンパク質Pを引き伸ばす方法である。
まず、図24に示すように、基板51とカンチレバー52の先端に設けられた探針53とを、シラン化剤等で活性化すると共に、架橋剤等を使用してタンパク質Pの両端末近傍を化学的結合により固定する。固定後、プローブ50を基板表面から離間するようにゆっくりと移動させる。これにより、タンパク質Pが徐々に引き伸ばされる。この際、図25に示すように、カンチレバー52に作用する力(張力)の測定を行う。これにより、タンパク質Pの力学的な性質を調べることができ、タンパク質Pの構造解析を行うことができる。
【0004】
特に、タンパク質Pは、その種類によっては、引き伸ばされる前の立体構造の段階において、局所的に高分子鎖が絡まった結び目(結合部分)(図24で示すA、B)が生じる場合がある。この場合には、上述した引っ張り操作をしたときに、各結び目A、Bが離れる(結合が離れる)。この結び目A、Bが離れた場合には、図25に示すように、カンチレバー52に作用する張力が瞬間的に低減する。また、この際の張力の低減具合を見ることで、各結び目A、Bの結合力の大きさ等を検出することができる。
【0005】
このように、タンパク質の力学的性質を調べることで、タンパク質を力学視点から見ることができ、より多角的な構造解析等を行うことができる。ところで、この力学的性質を調べるには、プローブの撓みを検出することが必要とされる。これは、探針にかかる力がプローブの撓みとして現れるためである。
【0006】
この撓みの検出方法は、各種の方法があるが、その1つとして自己検知方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この自己検知方式は、プローブ自体に、該プローブが撓むことで抵抗値が変化するピエゾ抵抗体を設け、この抵抗値の変化量をプローブの撓み量として検出する方法である。なお、この時のプローブにかかる力Fは、F=k(プローブのばね定数)×x(プローブの撓み量(変位量))で表される。
【特許文献1】特開平9−304409号公報
【非特許文献1】竹安邦夫、「ナノバイオロジー ナノテクノロジーによる生命科学」、初版、共立出版株式会社、2004年7月15日、p.52−61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の自己検知方式による方法では、以下の問題が残されていた。
即ち、生体分子を測定する際、特にタンパク質の延伸測定を行う際には、微小な力で結合している結合部分を明確に検出するため、ばね定数の大きな硬いプローブを使用せずに、ばね定数の小さな柔らかいプローブを使用するのが一般的である。ところが、自己検知方式の場合には、上述したようにプローブにかかる力Fは、F=k×xで表されるので、柔らかいばね定数のプローブを用いたときに、変位量に対する抵抗値の変化が少なくなってしまう。その結果、感度が劣ってしまい、タンパク質等の生体分子を正確に測定し難いものであった。
【0008】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、感度の低下を防止しながらタンパク質等の生体分子を正確に測定して、構造解析等の力学的性質を高精度に観察することができる微小力測定装置及び生体分子観察方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の微小力測定装置は、互いに向かい合うように対向配置され、それぞれ先端が自由端となるように片持ち状に形成されて主面に生体分子を固定可能な第1のプローブ及び第2のプローブと、該第1のプローブと第2のプローブとを、それぞれ前記主面を向かい合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて、互いの距離を可変させる可変手段と、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブの撓みをそれぞれ測定する測定手段と、該測定手段による測定結果に基づいて、前記生体分子の解析を行う解析手段とを備え、前記測定手段が、前記第1のプローブ及び第2のプローブにそれぞれ前記生体分子を固定させた状態で、前記可変手段により互いの距離を可変させている間の撓み変化を測定することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の生体分子観察方法は、互いに向かい合うように対向配置され、それぞれ先端が自由端となるように片持ち状に形成されて主面に生体分子を固定可能な第1のプローブ及び第2のプローブを利用して、生体分子を観察する生体分子観察方法であって、前記第1のプローブの前記主面に、前記生体分子の一端を固定させる第1の固定工程と、前記第2のプローブの前記主面に、前記生体分子の他端を固定させる第2の固定工程と、前記第1の固定工程及び前記第2の固定工程後、前記第1のプローブと前記第2のプローブとを、それぞれ前記主面を向い合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて、互いの距離を可変させる可変工程と、該可変工程中における、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブの撓み変化をそれぞれ測定する測定工程と、該測定工程による測定結果に基づいて、前記生体分子を解析する解析工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
この発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法においては、まず、第1のプローブの主面をシラン化剤等で活性化すると共に架橋剤等を使用して、タンパク質等の生体分子の一端を化学的結合により固定させる第1の固定工程を行う。次いで、可変手段により第2のプローブと第1のプローブとを相対的に移動させて接近させ、第2のプローブの主面に生体分子の他端を固定する第2の固定工程を行う。これにより、生体分子は、第1のプローブの主面及び第2のプローブの主面にそれぞれ両端が固定された状態となる。
【0012】
生体分子の固定後、可変手段により、第1のプローブと第2のプローブとをそれぞれ主面を向かい合わせにした状態を維持しながら相対的に離間させる可変工程を行う。これにより、例えば、立体構造をとっているタンパク質は、両端末で引き伸ばされて(延伸)、1本の直線状ポリペプチドとなる。また、この可変工程を行っている間に、測定手段により両プローブの撓み変化をそれぞれ測定する測定工程を行う。そして、この測定工程による測定結果に基づいて、解析手段により生体分子を解析する解析工程を行う。
【0013】
これにより、例えば、上述した直線状のポリペプチドとするのに必要な張力を測定することができる。また、タンパク質は、通常高分子鎖が絡まった結び目(結合部位)が存在している状態であるが、両プローブで引っ張られる際、これら結び目は解けてしまう。この際、例えば、結び目が解ける直前までは、その結合力により結び目が両プローブを引っ張る形になるので、両プローブの撓みが大きくなる。また、結び目が解けた瞬間は、瞬間的に両プローブに作用する力が低減するので、撓みが小さくなる。
このように、測定工程及び解析工程を行うことで、直線状ポリペプチドとするのに必要な張力や、結び目の結合力の大きさ等の力学的性質を調べることができ、タンパク質の構造解析を行うことができる。
【0014】
特に、第1のプローブ及び第2のプローブとして、ばね定数の小さな柔らかいプローブを利用したとしても、従来と異なり2つのプローブにより生体分子を両端末から引っ張った状態で測定を行うので、作用反作用により両プローブにそれぞれ同じ力をかけることができる。よって、従来のように1つのプローブで測定を行う場合とは異なり、感度を約2倍に倍増することができる。従って、タンパク質等の生体分子を正確に測定することができ、構造解析等の力学的性質を高精度に観察することができる
また、2つのプローブで生体分子の両端末を引っ張るので、従来の場合と比べて、同じ力を加えるときに移動させる距離を伸ばすことができ、移動分解能を向上することができる。
【0015】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明の微小力測定装置において、前記第1のプローブ又は前記第2のプローブの少なくともいずれか一方が、前記主面に探針を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
この発明に係る微小力測定装置においては、第1のプローブ又は第2のプローブの少なくともいずれか一方は、主面に探針を備えているので、タンパク質等の生体分子を固定する際に、狙った生体分子のみを確実に探針の先端に固定することができる。そのため、測定対象物質である生体分子の量を極力少なくすることができる。よって、多量の生体分子の測定結果が重なることがなく、より解析し易い力の変位曲線を得ることができる。
【0017】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明の微小力測定装置において、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブの主面にそれぞれ形成された導電膜と、該導電膜を介して、前記第1のプローブと前記第2のプローブとの間に所定の電圧を印加する電圧印加手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の生体分子観察方法は、上記本発明の生体分子観察方法において、前記第1の固定工程及び前記第2の固定工程が、前記第1のプローブと前記第2のプローブとの間に所定の電圧を印加して、前記生体分子を誘電泳動させて第1のプローブ及び第2のプローブの主面にそれぞれ固定させることを特徴とするものである。
【0019】
この発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法においては、第1の固定工程及び第2の固定工程の際に、電圧印加手段により導電膜を介して第1のプローブと第2のプローブとの間に所定の電圧を印加することで、タンパク質等の生体分子を誘電泳動させて両プローブの主面に引き寄せることができる。よって、生体分子の両端を略同じタイミングで、確実に両プローブに固定することができる。従って、生体分子をより容易に固定することができ、固定工程にかける時間をさらに短縮することができる。また、タンパク質が1分子であっても、容易且つ確実に両プローブに固定することができる。
【0020】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明のいずれかの微小力測定装置において、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブが、基端側から先端側に向かう方向が同一方向を向くように平行に並んで配されていることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係る微小力測定装置においては、第1のプローブと第2のプローブとが、共に同一方向を向くように平行に並んで配されている。即ち、ピンセットの如く2重に重なるように配されている。よって、第1のプローブ及び第2のプローブが占める設置スペースを極力抑えることができ、小型化を図ることができる。また、両プローブの基端側を片側に揃えることができるので、可変手段により動かし易くなり、構成の簡略化を図ることができる。
【0022】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明のいずれかの微小力測定装置において、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブで固定された前記生体分子を観察する顕微鏡装置を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
この発明に係る微小力測定装置においては、両プローブで生体分子を引っ張っている最中に、倒立顕微鏡等の顕微鏡装置により生体分子を、例えば、蛍光観察することができる。このように、測定手段による測定に加え、顕微鏡装置を利用して同時に各種の観察(例えば、タンパク質のどの結合部位が離れたか等の観察)を行えるので、生体分子をより多角的に観察することができる。
【0024】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明の微小力測定装置において、前記可変手段が、前記第1のプローブと前記第2のプローブとの相対的な位置関係を維持したまま、両プローブの向きを一体的に可変可能であることを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る微小力測定装置においては、第1のプローブ及び第2のプローブに生体分子の両端をそれぞれ固定した後、可変手段により両プローブの相対的な位置関係を維持したまま、両プローブの向きを一体的に変化させることができる。これにより、生体分子を顕微鏡装置で観察し易い位置に位置させることができる。そして、この位置調整の後に、顕微鏡装置で観察を行いながら測定を行う。このように、顕微鏡装置で観察を行う前に、生体分子の位置を調整できるので、使い易く操作性が向上すると共に測定結果の信頼性を向上することができる。
【0026】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明のいずれかの微小力測定装置において、前記測定手段が、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブにそれぞれ設けられ、撓み量に応じて抵抗値が変化する第1の歪み検出素子及び第2の歪み検出素子と、両歪み検出素子の抵抗値変化に基づいて、第1のプローブ及び第2のプローブの撓み変化を算出する算出回路とを備えていることを特徴とするものである。
【0027】
この発明に係る微小力測定装置においては、第1のプローブ及び第2のプローブにそれぞれ設けられた歪み検出素子を利用した自己検知方式により、撓み変化(歪み変化)を検出する。即ち、第1のプローブが撓むと、撓み量に応じて第1の歪み検出素子の抵抗値が変化する。また、同様に第2のプローブが撓むと、撓み量に応じて第2の歪み検出素子の抵抗値が変化する。そして、ホイートストンブリッジ回路等の算出回路は、この両歪み検出素子の抵抗値変化に基づいて、両プローブの撓み変化を算出する。
このように、一般的な光てこ方式ではなく、自己検知方式により撓みを測定できるので、レーザ光を照射及び受光する光学系が不要となり、構成の簡略化を図ることができると共に、小型化を図ることができる。
【0028】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明の微小力測定装置において、前記歪み検出素子が、ピエゾ抵抗素子であることを特徴とするものである。
【0029】
この発明に係る微小力測定装置においては、歪み検出素子がピエゾ抵抗素子であるので、半導体プロセスを利用して容易且つ高精度に、狙った場所に作りこむことができる。よって、より正確に両プローブの撓み(歪み)を検出することができる。
【0030】
また、本発明の微小力測定装置は、上記本発明の微小力測定装置において、前記第1の歪み検出素子及び前記第2の歪み検出素子の近傍に、環境条件補正用の参照用素子を備えていることを特徴とするものである。
【0031】
この発明に係る微小力測定装置においては、参照用素子を備えているので、温度条件等の各種の環状条件により発生する電気特性の影響を相殺することができる。よって、両歪み検出素子の抵抗値を温度等の環境条件に影響されずに、撓み量に応じてより正確に変化させることができる。その結果、測定結果の信頼性を向上することができる。
【0032】
また、本発明の生体分子観察方法は、上記本発明の生体分子観察方法において、前記第1の固定工程が、前記第1のプローブの前記主面に設けられた探針に、前記生体分子の一端を固定することを特徴とするものである。
【0033】
この発明に係る生体分子観察方法においては、タンパク質等の生体分子の一端を固定する際に、狙った生体分子のみを確実に探針の先端に固定することができる。そのため、測定対象物質である生体分子の量を極力少なくすることができる。よって、多量の生体分子の測定結果が重なることがなく、より解析し易い力の変位曲線を得ることができる。
【0034】
また、本発明の生体分子観察方法は、上記本発明の生体分子観察方法において、前記第2の固定工程が、前記第2のプローブの前記主面に設けられた探針に、前記生体分子の他端を固定することを特徴とするものである。
【0035】
この発明に係る生体分子観察方法においては、タンパク質等の生体分子の他端を固定する際に、狙った生体分子のみを確実に探針の先端に固定することができる。そのため、測定対象物質である生体分子の量を極力少なくすることができる。よって、多量の生体分子の測定結果が重なることがなく、より解析し易い力の変位曲線を得ることができる。
【0036】
また、本発明の生体分子観察方法は、上記本発明のいずれかの生体分子観察方法において、前記第1の固定工程及び前記第2の固定工程を行う前に、前記生体分子に蛍光物質を標識させる蛍光標識工程を備え、前記測定工程が、前記可変工程中における前記蛍光物質の動きを観察する観察工程を備えていることを特徴とするものである。
【0037】
この発明に係る生体分子観察方法によれば、まず、第1の固定工程及び第2の工程を行う前に、生体分子に蛍光物質を標識させる蛍光標識工程を行う。これにより、例えば、タンパク質の結び目が蛍光物質で標識される。その後、可変工程中に、倒立顕微鏡等により蛍光物質の動きを観察する観察工程を行う。これにより、両プローブで引っ張られて結び目が破断した箇所を、蛍光物質の動きにより明確に判断することができる。
このように、測定手段による測定に加え、蛍光物質を利用した各種の観察を行えるので、生体分子をより多角的に観察することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法によれば、第1のプローブ及び第2のプローブとして、ばね定数の小さな柔らかいプローブを利用したとしても、2つのプローブを利用して生体分子を両端末側から引っ張った状態で測定を行うので、作用反作用により両プローブにそれぞれ同じ力をかけることができる。よって、従来のように1つのプローブで測定を行う場合とは異なり、感度を約2倍に倍増することができる。従って、タンパク質等の生体分子を正確に測定することができ、構造解析等の力学的性質を高精度に観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法の第1実施形態について、図1から図10を参照して説明する。なお、本実施形態では、生体分子として、タンパク質を例にして説明する。
本実施形態の微小力測定装置1は、図1に示すように、互いに向い合うように対向配置され、それぞれ先端が自由端となるように片持ち状に形成されて主面2a、3aにタンパク質Pを固定可能な第1のプローブ2及び第2のプローブ3と、これら第1のプローブ2と第2のプローブ3とを、それぞれ主面2a、3aを向い合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて、互いの距離を可変させる可変手段4と、第1のプローブ2及び第2のプローブ3の撓みをそれぞれ測定する測定手段5と、該測定手段5による測定結果に基づいて、タンパク質Pの解析を行うパーソナルコンピュータ(以下、PCと称する)(解析手段)6とを備えている。
【0040】
上記第1のプローブ2は、例えば、シリコン支持層、酸化層及びシリコン活性層の3層を熱的に貼り合わせたSOI基板から形成されており、図2に示すように、平板状のレバー部10と、該レバー部10の基端側を片持ち状に支持する支持部11とを備えている。また、レバー部10と支持部11との接合部分であるレバー部10の基端側には、開口12が形成されており、レバー部10が基端側でより屈曲して撓み易くなっている。即ち、レバー部10の基端側は、応力が集中する応力集中部として機能するようになっている。なお、この開口12の数は、1つに限定されず、2つ以上形成して構わないし、形成されていなくても構わない。
【0041】
また、支持部11及びレバー部10の基端側には、第1のプローブ2の撓み量に応じて抵抗値が変化する歪み検出素子であるピエゾ抵抗素子(第1のピエゾ抵抗素子)13が、開口12の両側にレバー部10の長手方向に向かって設けられている。なお、このピエゾ抵抗素子13は、SOI基板にイオン注入法や拡散法等により不純物が注入された形成されたものである。
また、このピエゾ抵抗素子13には、アルミニウム等の金属配線14が電気的に接続されており、金属配線14と併せた全体的な形状がU字状になるように形成されている。また、金属配線14の端部は、2つの外部接続端子15にそれぞれ電気的に接続されている。つまり、一方の外部接続端子15から金属配線14に流れた電流は、一方のピエゾ抵抗素子13を通った後、開口12を回り込んで他方のピエゾ抵抗素子13に流れ、その後、他方の外部接続端子15から外部に流れるようになっている。
なお、ピエゾ抵抗素子13及び金属配線14上には、図示しない絶縁膜が成膜されており、外部と電気的に接触しないようになっている。
【0042】
また、本実施形態の第1のプローブ2は、レバー部10の近傍に隣接してレファレンスレバー部16が支持部11に片持ち状態に支持されている。このレファレンスレバー部16は、レバー部10より長さが若干短く形成され、レバー部10と同様に基端側に開口12が形成されていると共に、環境条件補正用のレファレンス用ピエゾ抵抗素子(参照用素子)17が設けられている。このレファレンス用ピエゾ抵抗素子17にも、金属配線14を介して外部接続端子15が電気的に接続されている。
本実施形態では、このレファレンス用ピエゾ抵抗素子17は、ピエゾ抵抗素子13の温度補償のために使用される。なお、このレファレンスレバー部16は必須ではなく、設けなくても構わない。
【0043】
上記第2のプローブ3は、第1のプローブ2と同様に例えば、シリコン支持層、酸化層及びシリコン活性層の3層を熱的に貼り合わせたSOI基板から形成されており、図3に示すように、平板状のレバー部20と、該レバー部20の主面3a上の先端に形成された探針20aと、レバー部20の基端側を片持ち状に支持する支持部21とを備えている。また、第1のプローブ2と同様に、レバー部20の基端側に開口22が形成されていると共に、第2のプローブ3の撓み量に応じて抵抗値が変化する歪み検出素子であるピエゾ抵抗素子(第2のピエゾ抵抗素子)23が、開口22の両側にレバー部20の長手方向に向かって設けられている。このピエゾ抵抗素子23も同様に、金属配線24及び2つの外部接続端子25が電気的に接続されている。
なお、ピエゾ抵抗素子23及び金属配線24上には、図示しない絶縁膜が成膜されており、外部と電気的に接触しないようになっている。
【0044】
更に、本実施形態の第2のプローブ3も第1のプローブ2と同様に、レファレンスレバー部26が支持部21に片持ち状態に支持されており、基端側に開口22が形成されていると共に環境条件補正用のレファレンス用ピエゾ抵抗素子27が設けられている。
そして、このように構成された第2のプローブ3は、支持部21を介して図示しない架台に固定されている。
【0045】
一方、上記第1のプローブ2は、図1に示すように、支持部11を介して、XY方向及びZ方向に粗動移動及び微小移動するXYZステージ30上に載置されている。これにより、第1のプローブ2と第2のプローブ3とが、XY方向及びZ方向に対して相対的に移動して、互いの距離が可変するようになっている。このXYZステージ30は、例えば、3方向に移動可能な圧電素子であり、駆動部31から印加された電圧に応じて3方向に移動するようになっている。即ち、これらXYZステージ30及び駆動部31は、上記可変手段4を構成している。
【0046】
また、第1のプローブ2及び第2のプローブ3の外部接続端子15、25は、それぞれ歪み検出部32に電気的に接続されている。この歪み検出部32は、外部接続端子15、25及び金属配線14、24を介してピエゾ抵抗素子13、23にそれぞれ所定の電圧を印加すると共に、両ピエゾ抵抗素子13、23の抵抗値変化に基づいて第1のプローブ2及び第2のプローブ3の撓み変化を算出するブリッジバランス回路(算出回路)33とを備えている。
このブリッジバランス回路33は、図4に示すように、4個の抵抗R1、R2、R3、R4を結線し、対向する2組の頂点の一方を入力電圧E1、他方を出力電圧E2とした回路である。ここで、第1のプローブ2のピエゾ抵抗素子13が抵抗R2として、第2のプローブ3のピエゾ抵抗素子23が抵抗R4として結線されている。
【0047】
そして、このブリッジバランス回路33は、入力電圧E1と4つの抵抗R1、R2、R3、R4の各抵抗値とで決定される出力電圧E2を出力するようになっている。よって、両プローブ2、3が撓んで各ピエゾ抵抗素子13、23の抵抗値が変化すると、ブリッジバランス回路33は、この抵抗変化に応じた出力電圧E2を出力する。つまり、この出力電圧E2をモニタすることで、両プローブ2、3の撓み変化を算出することができる。
特に、ブリッジバランス回路33の出力電圧E2は、(抵抗R2とR4との歪みの和)から(抵抗R1と抵抗R3との歪みの和)を引いたものに比例するものである。そして、本実施形態では、両ピエゾ抵抗素子13、23を抵抗R2、R4として結線しているので、高感度に両プローブ2、3の撓み変化を算出することができる。
【0048】
即ち、上記ピエゾ抵抗素子13、23、金属配線14、24、外部接続端子15、25及びブリッジバランス回路33は、上述した測定手段5を構成している。そして、該測定手段5は、第1のプローブ2及び第2のプローブ3にそれぞれタンパク質Pを固定させた状態で、可変手段4により互いの距離を可変させている間の撓み変化を測定するようにPC6に制御されている。また、ブリッジバランス回路33は、出力電圧E2をPC6に出力している。
【0049】
一方、PC6は、送られてきた出力電圧E2に基づいて、タンパク質Pを引っ張る際に必要な張力(引張力)等を算出し、タンパク質Pの力学的性質等の構造解析を行うようになっている。また、このPC6は、可変手段4等、各構成品を総合的に制御していると共に、XYZステージ30の移動距離から、両プローブ2、3にタンパク質Pを固定した後の、第1のプローブ2の移動距離を算出して、移動距離に対する張力の変化具合等を算出することができるようになっている。
【0050】
次に、このように構成された微小力測定装置1により、タンパク質Pを観察する生体分子観察方法について以下に説明する。
本実施形態の生体分子観察方法は、第1のプローブ2の主面2aに、タンパク質Pの一端P1を固定させる第1の固定工程と、第2のプローブ3の主面3aに設けられた探針20aに、タンパク質Pの他端P2を固定させる第2の固定工程と、第1の固定工程及び第2の固定工程後、第1のプローブ2と第2のプローブ3とを、それぞれ主面2a、3aを向い合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて互いの距離を可変させる可変工程と、該可変工程中における第1のプローブ2及び第2のプローブ3の撓み変化をそれぞれ測定する測定工程と、該測定工程による測定結果に基づいて、タンパク質Pを解析する解析工程とを備えている。
これら各工程について、以下に詳細に説明する。
【0051】
まず、初期設定として、第1のプローブ2の主面2aをシラン化剤等で活性化すると共に、架橋剤等を利用してタンパク質Pが化学的に結合するように予め準備を行う。また、第2のプローブ3の探針20aの表面についても同様に、シラン化剤や架橋剤等を用いて、タンパク質Pが化学的に結合するように準備を行う。
次いで、図5に示すように、第1のプローブ2の主面2a上に、複数のタンパク質Pの一端P1を化学的結合により固定させる第1の固定工程を行う。
【0052】
次いで、図6に示すように、駆動部31からXYZステージ30に電圧を印加して、XYZステージ30を第2のプローブ3に向けて粗動移動させる。これにより、第1のプローブ2と第2のプローブ3とが、互いに主面2a、3aを向い合わせにした状態で接近する。そして、第1のプローブ2と第2のプローブ3とが一定距離接近した段階で、図7に示すように、粗動移動から微動移動に切り替える。これにより、第1のプローブ2の主面2a上に固定された複数のタンパク質Pの中から、所望するタンパク質Pを選択し、該タンパク質Pの他端P2と第2のプローブ3の探針20aとを接触させることができる。その結果、図8に示すように、タンパク質Pの他端P2を探針20aの先端に固定することができる。この第2の固定工程により、選択されたタンパク質Pは、第1のプローブ2及び第2のプローブ3に両端が固定された状態となる。
なお、第1のプローブ2の主面2a上に固定され、選択されなかった他のタンパク質Pは、図8に示すように、他端P2が自由端となった状態になっている。
【0053】
タンパク質Pの固定後、再度駆動部31からXYZステージ30に電圧を印加して、図9に示すように、XYZステージ30をZ方向に微動移動させ、第1のプローブ2と第2のプローブ3とを、それぞれ主面2a、3aを向い合わせにした状態を維持しながら離間させる可変工程を行う。これにより、立体構造をとっているタンパク質Pを引き伸ばして(延伸)、1本の直線状ポリペプチドとすることができる。
そして、この可変工程を行っている間に、測定手段5により両プローブ2、3の撓み変化をそれぞれ測定する測定工程を行うと共に、該測定手段5の測定結果に基づいて、PC6によりタンパク質Pを解析する解析工程を行う。
【0054】
即ち、可変工程を行っている間、両プローブ2、3はタンパク質Pに引っ張られるので、撓んだ状態となる。ここで、第1のプローブ2が撓むと、第1のピエゾ抵抗素子13の抵抗値が撓み量に応じて変化する。つまり、ブリッジバランス回路33の抵抗R2の抵抗値が変化する。また、第2のプローブ3が撓むと、第2のピエゾ抵抗素子23の抵抗値が撓み量に応じて変化する。つまり、ブリッジバランス回路33の抵抗R4の抵抗値が変化する。その結果、ブリッジバランス回路33は、該撓み量に応じた出力電圧E2をPC6に出力する。
そして、PC6は、送られてきた出力電圧E2から両プローブ2、3の撓み変化を測定することができ、タンパク質Pを一本の直線状ポリペプチドとするのに必要な張力を測定することができる。
【0055】
また、タンパク質Pは、図9に示すように、通常高分子鎖が絡まった結び目(結合部位)A、Bが存在している状態であるが、両プローブで引っ張られる際にこれら結び目A、Bは解けてしまう。この際、結び目A、Bが解ける直前までは、その結合力により結び目A、Bが両プローブ2、3を引っ張る形になるので、両プローブ2、3の撓みが大きくなる。また、結び目A、Bが解けた瞬間は、瞬間的に両プローブ2、3に作用する力が低減するので、撓みが小さくなる。
このように、可変工程中の両プローブ2、3の撓み変化を測定することで、図10に示すように、結び目A、Bの結合力の大きさ等の力学的性質を調べることができ、タンパク質Pの構造解析を行うことができる。
【0056】
特に、本実施形態の微小力測定装置1によれば、第1のプローブ2及び第2のプローブ3として、ばね定数の小さな柔らかいプローブを利用したとしても、従来と異なり2つのプローブによりタンパク質Pを両端末P1、P2側から引っ張った状態で測定するので、作用反作用により両プローブ2、3にそれぞれ同じ力をかけることができる。よって、従来のように1つのプローブで測定を行う場合とは異なり、感度を約2倍に倍増することができる。つまり、ブリッジバランス回路33の4つの抵抗R1、R2、R3、R4のうち、抵抗R2及びR4を各ピエゾ抵抗素子13、23の抵抗として利用できるので、より大きな出力電圧E2を出力でき、感度を増加させることができる。従って、構造解析等の力学的性質を高精度に観察することができる。
【0057】
また、第2のプローブ3が探針20aを備えており、第2の固定工程の際に探針20aの先端にタンパク質Pの他端P2を固定するので、狙ったタンパク質Pのみを確実に探針20aの先端に固定することができる。よって、タンパク質Pを固定し易くなり、操作性が向上すると共に、固定工程にかける時間を短縮することができる。
また、一般的な光てこ方式ではなく、ピエゾ抵抗素子13、23による自己検知方式により撓みを測定するので、レーザ光を照射及び受光する光学系が不要となり、構成の簡略化を図ることができると共に小型化を図ることができる。
【0058】
更に、第1のプローブ2及び第2のプローブ3は、それぞれレファレンス用ピエゾ抵抗素子17、27を備えているので、温度条件等の各種の環境条件により発生する電気特性の影響を相殺することができる。レファレンス用ピエゾ抵抗素子17、27は、それぞれ図5に示す抵抗R1と抵抗R3である。即ち、ピエゾ抵抗素子13、23の抵抗値は、プローブ2、3の撓み以外に、温度条件等によっても変化してしまうが、レファレンス用ピエゾ抵抗素子17、27を参照することで、温度による影響を相殺することができる。その結果、測定結果の信頼性をより向上することができる。
【0059】
次に、本発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法の第2実施形態について、図11から図16を参照して説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態と第2実施形態との異なる点は、第1実施形態では、第2のプローブ3のみに探針20aを設けた構成にしたが、第2実施形態では、第1のプローブ40が、図11に示すように、第1のプローブ3と同様にレバー部10の先端に探針41を備えている点である。
【0060】
このように構成された第1のプローブ40を利用して、タンパク質Pの観察を行う場合には、まず、第1のプローブ40の探針41の表面を、シラン化剤や架橋剤等を利用してタンパク質Pが化学的結合するように予め準備しておく。次いで、図11に示すように、第1のプローブ40をXYZステージ30により微動移動させて、タンパク質Pに接近させ、図12に示すように、探針41にタンパク質Pの一端P1を固定する第1の固定工程を行う。
次いで、図13に示すように、XYZステージ30により第1のプローブ40を粗動移動させて、第2のプローブ3に一定距離接近させる。そして、図14に示すように、第1のプローブ40を微動移動させて、タンパク質Pの他端P2を第1のプローブ40の探針41に近づける。そして、図15に示すように、第1のプローブ40の探針41の先端にタンパク質Pの他端P2を固定させる。これにより、タンパク質Pは、両プローブ40、3の探針20a、41の先端にそれぞれ固定される。その後、図16に示すように、両プローブ40、3が離間するように第1のプローブ40を微動移動させて、タンパク質Pを引っ張って測定を開始する。
【0061】
このように、両プローブ40、3に探針20a、41をそれぞれ設けることで、タンパク質Pの両端P1、P2をそれぞれより確実に固定することができる。そのため、測定対象物質であるタンパク質Pの量を極力少なくすることができる。よって、多量のタンパク質Pの測定結果が重なることがなく、より解析し易い力の変位曲線を得ることができる。
【0062】
次に、本発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法の第3実施形態について、図17から図20を参照して説明する。なお、第3実施形態において第2実施形態と同一の構成については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、第1のプローブ40の探針41にタンパク質Pを固定する際に、第1のプローブ40をXYZステージ30で微動移動させながら探針41とタンパク質Pの一端P1とを接近させて、固定を行ったが、第3実施形態では、タンパク質Pを誘電泳動させて両探針20a、41に引き寄せる点である。
【0063】
即ち、本実施形態の両プローブ40、3には、それぞれ主面2a、3aから探針20a、41にかけて図示しない導電膜が設けられており、導電性を有する探針20a、41となっている。また、本実施形態の微小力測定装置は、導電膜を介して両探針20a、41間、即ち、第1のプローブ40と第2のプローブ3との間に所定の電圧を印加する図示しない電圧印加手段を備えている。
【0064】
このように構成された微小力測定装置により、タンパク質Pの観察を行う場合には、まず、図17に示すように、XYZステージ30により第1のプローブ40を粗動移動させて第2のプローブ3に一定距離まで接近させた後、図18に示すように、第1のプローブ40と第2のプローブ3との間に電圧印加手段により所定の電圧を印加しながら、第1のプローブ40を微動移動させる。すると、タンパク質Pは誘電泳動により両プローブ40、3の探針41、20aに引き寄せられる。その結果、図19に示すように、タンパク質Pの両端P1、P2を略同じタイミングで、確実に両探針20a、41に固定することができる。
【0065】
従って、タンパク質Pをさらに容易且つ確実に固定することができる。よって、操作性を向上することができると共に、固定工程にかける時間をさらに短縮することができる。
そして、タンパク質Pの固定後、図20に示すように、両プローブ40、3が離間するように第1のプローブ40を微動移動させて、タンパク質Pを引っ張って測定を開始する。
【0066】
次に、本発明に係る微小力測定装置及び生体分子観察方法の第4実施形態について、図21から図23を参照して説明する。なお、第4実施形態において第3実施形態と同一の構成については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第4実施形態と第3実施形態との異なる点は、第3実施形態では、第1のプローブ40と第2のプローブ3とが基端側が逆向きになるように対向配置されていると共に、第1のプローブ40のみがXYZステージ30により移動可能に構成されていたのに対し、第4実施形態の微小力測定装置は、第1のプローブ40と第2のプローブ3とが、基端側から先端側に向かう方向が同一方向を向くように平行に並んで配されており、それぞれがXYZステージ30によりXYZ方向に移動可能とされている点である。
【0067】
即ち、本実施形態の第1のプローブ40と第2のプローブ3とは、図21に示すように、共に同一方向を向くように平行に並んだ状態で横向きに配されている。即ち、ピンセットの如く2重に重なるように配されている。そして、両プローブ40、3は、共にXYZステージ30によって、XY方向に移動可能に構成されている。
また、本実施形態の微小力測定装置は、第1のプローブ40及び第2のプローブ3で固定されたタンパク質Pを観察する倒立顕微鏡(顕微鏡装置)45を備えている。この倒立顕微鏡45は、第1のプローブ40及び第2のプローブ3の上方側に配置されている。なお、第1のプローブ40及び第2のプローブ3の下方側に配置しても構わない。
【0068】
このように構成された微小力測定装置によりタンパク質Pを観察する場合を以下に説明する。また、本実施形態の生体分子観察方法は、第1の固定工程及び第2の固定方法を行う前に、タンパク質Pに蛍光物質を標識させる蛍光標識工程を備え、測定工程が、可変工程中における蛍光物質の動きを観察する観察工程を備えている。
【0069】
まず、第1の固定工程及び第2の固定工程を行う前に、上記蛍光標識工程を行う。これにより、タンパク質Pの各結び目が蛍光物質で標識される。この標識が終了した後、図21に示すように、タンパク質Pを間に挟んだ状態で両プローブ40、3を微動移動させて接近させる。また、これと同時に両探針20a、41間に電圧を印加させる。その結果、図22に示すように、タンパク質Pを誘電泳動させて両探針20a、41に引き寄せ、タンパク質Pの両端P1、P2を探針20a、41にそれぞれ固定することができる。
【0070】
この第1の固定工程及び第2の固定工程が終了した後、図23に示すように、XYZステージ30により両プローブ40、3を離間させるようにそれぞれ移動させて、タンパク質Pを引っ張る可変工程を行う。そして、この可変工程を行っている間に、測定工程及解析工程を行うと共に、倒立顕微鏡45により蛍光物質の動きを観察する観察工程を行う。これにより、両プローブ40、3で引っ張られて結び目A、Bが破断した箇所を、蛍光物質の動きにより明確に判断することができる。このように、測定手段5による測定に加え、蛍光物質及び倒立顕微鏡45を利用した蛍光観察を行えるので、タンパク質Pをより多角的に観察することができる。
【0071】
特に、自己検知方式により両プローブ40、3の撓みを測定しているので、光てこ方式とは異なり、レーザ等の光学系を両プローブ40、3の近傍に設置する必要がない。そのため、倒立顕微鏡45を両プローブ40、3の近傍に自由に設置することができる。よって、倒立顕微鏡45の特性を十分に引き出すことができると共に、設計の自由度を向上することができる。
【0072】
なお、上記実施形態において、第1のプローブ40と第2のプローブ3との相対的な位置関係を維持したまま、両プローブ40、3の向きを一体的に可変するように可変手段4を構成しても構わない。
こうすることで、第1のプローブ40及び第2のプローブ3でタンパク質Pを固定した後、両プローブ40、3の相対的な位置関係を維持したまま、向きを一体的に変化させて、タンパク質Pを倒立顕微鏡45で観察し易い位置に位置させることができる。このように、測定を開始する前に、タンパク質Pの位置を微調整できるので、使い易く操作性が向上すると共に測定結果の信頼性を向上することができる。
【0073】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0074】
例えば、上記各実施形態では、生体分子としてタンパク質を例にしたが、タンパク質に限られるものではない。
また、第1のプローブ又は第2のプローブの少なくともいずれか一方に探針を設けた構成にしたが、この場合に限られず、第1実施形態の第1のプローブの如く、両プローブを共に探針がない平板状のレバー部のみで構成しても構わない。この場合においても、同様の作用効果を奏することができる。
【0075】
また、ピエゾ抵抗素子を利用した自己検知方式により、プローブの撓みを測定したが、この場合に限られず、レーザ光を利用した光てこ方式によりプローブの撓みを測定するように構成しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る微小力測定装置の構成図である。
【図2】図1に示す微小力測定装置の第1のプローブを示す斜視図である。
【図3】図1に示す微小力測定装置の第2のプローブを示す斜視図である。
【図4】図1に示す歪み検出部が有するブリッジバランス回路を示す図である。
【図5】図1に示す微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、第1のプローブの主面にタンパク質の一端を固定させた状態を示す図である。
【図6】図1に示す微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図5に示す状態から第1のプローブを第2のプローブに向けて微動移動させている状態を示す図である。
【図7】図1に示す微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図6に示す状態から第2のプローブに所定距離接近させた後、タンパク質の他端が第2のプローブの探針に接触するように、第1のプローブを微動移動させている状態を示す図である。
【図8】図1に示す微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図7に示す状態から、第2のプローブの探針とタンパク質の他端とを固定させた状態を示す図である。
【図9】図1に示す微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図8に示す状態から、第1のプローブと第2のプローブとが離間するように第1のプローブを微動移動させて、タンパク質を引き伸ばしている状態を示す図である。
【図10】タンパク質を引き伸ばす際に、プローブに作用する引張力(張力)の変位を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、第1のプローブの探針をタンパク質の一端に接触させるように、第1のプローブを微動移動させている状態を示す図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図11に示す状態から、第1のプローブの探針にタンパク質の一端を固定させた状態を示す図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図12に示す状態から、第1のプローブを第2のプローブに向けて微動移動させている状態を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図13に示す状態から第2のプローブに所定距離接近させた後、タンパク質の他端が第2のプローブの探針に接触するように、第1のプローブを微動移動させている状態を示す図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図14に示す状態から、第2のプローブの探針とタンパク質の他端とを固定させた状態を示す図である。
【図16】本発明の第2実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図15に示す状態から、第1のプローブと第2のプローブとが離間するように第1のプローブを微動移動させて、タンパク質を引き伸ばしている状態を示す図である。
【図17】本発明の第3実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、タンパク質を間に挟んだ状態で、第2のプローブに向けて第1のプローブを粗動移動させている状態を示す図である。
【図18】本発明の第3実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図17に示す状態の後、両プローブの探針間に電圧を印加させながら第1のプローブを微動移動させ、タンパク質を誘電泳動により両探針に引き寄せている状態を示す図である。
【図19】本発明の第3実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図18に示す状態の後、両プローブの探針とタンパク質の両端とを固定させた状態を示す図である。
【図20】本発明の第3実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図19に示す状態から、第1のプローブと第2のプローブとが離間するように第1のプローブを微動移動させて、タンパク質を引き伸ばしている状態を示す図である。
【図21】本発明の第4実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、蛍光標識されたタンパク質を間に挟んで、ピンセット状に平行に並んだ両プローブをそれぞれ微動させながら、両探針間に所定の電圧を印加させ、タンパク質を誘電泳動により両探針間に引き寄せている状態を示す図である。
【図22】本発明の第4実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図20に示す状態の後、両プローブの探針とタンパク質の両端とを固定させた状態を示す図である。
【図23】本発明の第4実施形態に係る微小力測定装置により、タンパク質の構造解析を行う生体分子観察方法の一例を示した工程図であって、図22に示す状態から、第1のプローブと第2のプローブとが離間するように第1のプローブを微動移動させて、倒立顕微鏡で蛍光物質の動きを観察しながら、タンパク質を引き伸ばしている状態を示す図である。
【図24】タンパク質の構造解析を行う従来のナノ力学法を説明する図であって、カンチレバー先端の探針にタンパク質の一端を固定させた後、探針を離間させてタンパク質を引き伸ばしている状態を示す図である。
【図25】タンパク質Pを引き伸ばす際に、探針に作用する引張力(張力)の変位を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
P タンパク質(生体分子)
P1 タンパク質の一端
P2 タンパク質の他端
1 微小力測定装置
2、40 第1のプローブ
2a 第1のプローブの主面
3 第2のプローブ
3a 第2のプローブの主面
4 可変手段
5 測定手段
6 PC(解析手段)
13 ピエゾ抵抗素子(第1の歪み検出素子、第1のピエゾ抵抗素子)
17、27 レファレンス用ピエゾ抵抗素子(参照用素子)
20a 第2のプローブの探針
23 ピエゾ抵抗素子(第2の歪み検出素子、第2のピエゾ抵抗素子)
33 ブリッジバランス回路(算出回路)
41 第1のプローブの探針
45 倒立顕微鏡(顕微鏡装置)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合うように対向配置され、それぞれ先端が自由端となるように片持ち状に形成されて主面に生体分子を固定可能な第1のプローブ及び第2のプローブと、
該第1のプローブと第2のプローブとを、それぞれ前記主面を向かい合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて、互いの距離を可変させる可変手段と、
前記第1のプローブ及び前記第2のプローブの撓みをそれぞれ測定する測定手段と、
該測定手段による測定結果に基づいて、前記生体分子の解析を行う解析手段とを備え、
前記測定手段は、前記第1のプローブ及び第2のプローブにそれぞれ前記生体分子を固定させた状態で、前記可変手段により互いの距離を可変させている間の撓み変化を測定することを特徴とする微小力測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微小力測定装置において、
前記第1のプローブ又は前記第2のプローブの少なくともいずれか一方は、前記主面に探針を備えていることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微小力測定装置において、
前記第1のプローブ及び前記第2のプローブの主面にそれぞれ形成された導電膜と、
該導電膜を介して、前記第1のプローブと前記第2のプローブとの間に所定の電圧を印加する電圧印加手段とを備えていることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の微小力測定装置において、
前記第1のプローブ及び前記第2のプローブは、基端側から先端側に向かう方向が同一方向を向くように平行に並んで配されていることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の微小力測定装置において、
前記第1のプローブ及び前記第2のプローブで固定された前記生体分子を観察する顕微鏡装置を備えていることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の微小力測定装置において、
前記可変手段は、前記第1のプローブと前記第2のプローブとの相対的な位置関係を維持したまま、両プローブの向きを一体的に可変可能であることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の微小力測定装置において、
前記測定手段は、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブにそれぞれ設けられ、撓み量に応じて抵抗値が変化する第1の歪み検出素子及び第2の歪み検出素子と、両歪み検出素子の抵抗値変化に基づいて、第1のプローブ及び第2のプローブの撓み変化を算出する算出回路とを備えていることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の微小力測定装置において、
前記歪み検出素子は、ピエゾ抵抗素子であることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の微小力測定装置において、
前記第1の歪み検出素子及び前記第2の歪み検出素子の近傍に、環境条件補正用の参照用素子を備えていることを特徴とする微小力測定装置。
【請求項10】
互いに向かい合うように対向配置され、それぞれ先端が自由端となるように片持ち状に形成されて主面に生体分子を固定可能な第1のプローブ及び第2のプローブを利用して、生体分子を観察する生体分子観察方法であって、
前記第1のプローブの前記主面に、前記生体分子の一端を固定させる第1の固定工程と、
前記第2のプローブの前記主面に、前記生体分子の他端を固定させる第2の固定工程と、
前記第1の固定工程及び前記第2の固定工程後、前記第1のプローブと前記第2のプローブとを、それぞれ前記主面を向い合わせにした状態を維持しながら相対的に接近又は離間させて、互いの距離を可変させる可変工程と、
該可変工程中における、前記第1のプローブ及び前記第2のプローブの撓み変化をそれぞれ測定する測定工程と、
該測定工程による測定結果に基づいて、前記生体分子を解析する解析工程とを備えていることを特徴とする生体分子観察方法。
【請求項11】
請求項10に記載の生体分子観察方法において、
前記第1の固定工程は、前記第1のプローブの前記主面に設けられた探針に、前記生体分子の一端を固定することを特徴とする生体分子観察方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の生体分子観察方法において、
前記第2の固定工程は、前記第2のプローブの前記主面に設けられた探針に、前記生体分子の他端を固定することを特徴とする生体分子観察方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項に記載の生体分子観察方法において、
前記第1の固定工程及び前記第2の固定工程は、前記第1のプローブと前記第2のプローブとの間に所定の電圧を印加して、前記生体分子を誘電泳動させて第1のプローブ及び第2のプローブの主面にそれぞれ固定させることを特徴とする生体分子観察方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載の生体分子観察方法において、
前記第1の固定工程及び前記第2の固定工程を行う前に、前記生体分子に蛍光物質を標識させる蛍光標識工程を備え、
前記測定工程が、前記可変工程中における前記蛍光物質の動きを観察する観察工程を備えていることを特徴とする生体分子観察方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2007−120967(P2007−120967A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309691(P2005−309691)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/物性・生体情報ナノマッピングシステム(機能性ナノプローブ)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】