説明

微小変位付与装置

【課題】 耐久性に優れる軽量の微小変位付与装置を提供すること。
【解決手段】 基部、基部に薄肉部を介して接続され、この薄肉部の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部、および基部に設置されている、上記の作動部に変位エネルギーを付与して作動部を基部に対して微小変位させる駆動装置を備える微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、この薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、走査型トンネル顕微鏡のプローブを高い精度で位置決めするために有利に用いることができる微小変位付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小変位付与装置は、例えば、走査型トンネル顕微鏡のプローブを微小変位させて観察対象の試料表面に対して精度良く位置決めするため、精密機械加工される対象物を微小変位させて加工用の工具に対して精度良く位置決めするため、あるいは光学レンズを光軸に沿って微小変位させて焦点を精密に調節するために用いられている。
【0003】
特許文献1には、図22に示す構成の従来の微小変位付与装置が開示されている。この微小変位付与装置220は、基板221、基板221に接続されている第一のヒンジ部222aと、基板221に積層圧電アクチュエータ224を介して接続されている第二のヒンジ部222bとにより支持されている第一のレバーアーム223a、そしてレバーアーム223aの先端近傍の部位に接続されているヒンジ部222dと、基板(基部)221に接続されているヒンジ部(薄肉部)222cとにより支持されている第二のレバーアーム(作動部)223bから構成されている。
【0004】
この微小変位付与装置220の積層圧電アクチュエータ224が電圧の印加により長さ方向に伸びると、第一のレバーアーム223aの先端近傍に設けられたヒンジ部222dが、てこの原理によりアクチュエータ224の伸び量よりも大きな量にて上方に微小変位する。これにより第二のレバーアーム(作動部)223bの先端近傍の部位は、上記と同様の理由によりヒンジ部222dの変位量よりも大きな量にて図22に記入した矢印228が示す方向に微小変位する。この微小変位付与装置220を用いることにより、第二のレバーアーム223bの先端近傍の部位に固定された対象物を微小変位させることができる。特許文献1には、このような従来の微小変位付与装置220よりも更に大きな変位量が得られる変位拡大装置(微小変位付与装置)が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、図23に示す構成の微小変位付与装置が開示されている。この微小変位付与装置230は、基部231a、231b、基部231a、231bに薄肉部232を介して接続されている作動部233、そして作動部233を各々の基部に対して微小変位させる圧電アクチュエータ234a、234bから構成されている。
【0006】
この微小変位付与装置230の圧電アクチュエータ234a、234bの各々が電圧の印加により長さ方向に伸びると、作動部233は各々の圧電アクチュエータの伸び量に対応する量にて図23に記入した矢印238が示す方向に微小変位する。非特許文献1には、この微小変位付与装置230の他にも様々な構成の微小変位付与装置が記載されており、そのうちの幾つかを組み合わせて構成される六自由度駆動機構が開示されている。
【0007】
また非特許文献1には、図24に示す構成の微小変位付与装置が開示されている。この微小変位付与装置240は、基部241、基部241に各々薄肉部242a、242bを有する一対の支柱246a、246bを介して接続されている作動部243、そして支柱246aに変位エネルギーを付与して作動部243を基部241に対して微小変位させる積層圧電アクチュエータ244から構成されている。積層圧電アクチュエータ244は、ボールベアリング249を介して支柱246aに変位エネルギーを付与する。
【0008】
この微小変位付与装置240の圧電アクチュエータ244が電圧の印加により長さ方向に伸びると、作動部243は、てこの原理によりアクチュエータ244の伸び量よりも大きな量にて図24に記入した矢印248が示す方向に微小変位する。そして微小変位付与装置240は、例えば、作動部243に固定された走査型トンネル顕微鏡(STM)のプローブ247を微小変位させ、これを観察対象の試料表面に対して精度良く位置決めするために用いられる。
【特許文献1】特開平9−215347号公報
【非特許文献1】江田弘編,「超精密工作機械の製作」,工業調査会,1993年3月1日,p.47−51,p.70−71
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来の微小変位付与装置は、基部に対して作動部を変位可能とするために、両者を薄肉部を介して互いに接続した構成とされている。通常、薄肉部は基部及び作動部と共に、例えば、ステンレススチールなどの金属材料から形成される。このような従来の微小変位付与装置を用いることにより、例えば、上記のように走査型トンネル顕微鏡のプローブを高い精度で位置決めすることができる。しかしながら従来の微小変位付与装置は、長期間にわたって使用を続けると、薄肉部が繰り返し弾性変形されて内部にクラックを生じ、極端な場合には薄肉部が破断して使用できなくなる場合もあり、その耐久性を向上させることが望ましい。
【0010】
本発明の課題は、耐久性に優れる軽量の微小変位付与装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は第一に、基部、基部に薄肉部を介して接続され、この薄肉部の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部、および基部に設置されている、上記の作動部に変位エネルギーを付与して作動部を基部に対して微小変位させる駆動装置を備える微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、この薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置にある。
【0012】
上記の第一の発明の微小変位付与装置の好ましい態様は、下記の通りである。
(1)基部、薄肉部及び作動部が繊維強化複合材から一体に形成され、そして上記の薄肉部に含まれている繊維の両端が、基部及び作動部のそれぞれの内部にまで伸びている。
(2)駆動装置が二枚以上の板状圧電素子の積層体からなる。
【0013】
本発明は第二に、基部、基部に薄肉部を有する支柱を介して接続され、この薄肉部の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部、および基部に設置されている、上記の作動部もしくは支柱に変位エネルギーを付与して作動部を基部に対して微小変位させる駆動装置を備える微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、この薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置にもある。
【0014】
上記の第二の発明の微小変位付与装置の好ましい態様は、下記の通りである。
(1)基部と作動部とが、両端に薄肉部を有する支柱を介して接続されている。更に好ましくは、基部、薄肉部、支柱及び作動部が繊維強化複合材から一体に形成され、基部の側の薄肉部に含まれている繊維の両端が、基部及び支柱のそれぞれの内部にまで伸び、そして作動部の側の薄肉部に含まれている繊維の両端が、作動部及び支柱のそれぞれの内部にまで伸びている。
(2)駆動装置が二枚以上の板状圧電素子の積層体からなる。
【0015】
本発明は第三に、一枚の板状圧電素子もしくは二枚以上の板状圧電素子の積層体の少なくとも一方の表面に、この表面から離隔した薄肉部を中央に有する作動部を固定してなる微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、この薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置にもある。
【0016】
上記の第三の発明の微小変位付与装置の好ましい態様は、下記の通りである。
(1)作動部が薄肉部と共に繊維強化複合材から一体に形成され、そして上記の薄肉部に含まれている繊維の両端が、それぞれ作動部の縁まで伸びている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の微小変位付与装置は、長期間の使用により薄肉部が繰り返し弾性変形され、その内部にクラックを生じた場合であっても、このクラックの薄肉部厚み方向への更なる成長が、薄肉部厚み方向と交差するように配置された複数本の繊維によって妨げられるため、薄肉部が破断し難く優れた耐久性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の微小変位付与装置を、添付の図面を用いて説明する。図1は、第一の発明の微小変位付与装置の構成例を示す図である。図1(a)、図1(b)、そして図1(c)は、それぞれ微小変位付与装置10の正面図、平面図、そして右側面図である。
【0019】
図1の微小変位付与装置10は、基部11、基部11に薄肉部12を介して接続され、薄肉部12の弾性変形により基部11に対して変位可能とされている作動部13、および基部11に設置されている、上記の作動部13に変位エネルギーを付与して作動部13を基部11に対して微小変位させる駆動装置14などから構成されている。そして微小変位付与装置10の薄肉部12は、薄肉部12の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。
【0020】
図1の微小変位付与装置10の薄肉部12を形成する繊維強化複合材の繊維15としては、例えば、炭素繊維が用いられ、そして母材(マトリックス)19としては、例えば、エポキシ樹脂が用いられる。なお、図1に示す複数本の繊維は、その配置を理解し易くするために、互いに隣接する繊維と繊維との間隔を実際よりは広くして記入してある。互いに隣接する繊維と繊維との間隔に特に制限は無いが、例えば、10〜200μmに設定される。また薄肉部12の厚みは、例えば、0.1〜2.0mmに設定される。
【0021】
そして図1の微小変位付与装置10の駆動装置14としては、例えば、二枚以上の板状圧電素子の積層体(以下、積層型圧電素子という)が用いられている。
【0022】
図2は、図1の微小変位付与装置10の駆動装置14として用いる積層型圧電素子の構成を示す斜視図である。図2の積層型圧電素子は、板状圧電素子21aから板状圧電素子21hまでの合計で八枚の板状圧電素子が積層された構成を有している。
【0023】
これらの板状圧電素子のそれぞれは、厚み方向に分極処理された圧電セラミック板と、その上面及び下面の各々に配置された一対の電極層とから構成されている。例えば、板状圧電素子21aは、分極処理された圧電セラミック板22aと、その上面及び下面の各々に配置された電極層23b、23aとから構成されている。同様に、板状圧電素子21bは、分極処理された圧電セラミック板22bと、電極層23c、23bとから構成されている。電極層23bは、板状圧電素子21aの上面側の電極層及び板状圧電素子21bの下面側の電極層として兼用されている。板状圧電素子21cから板状圧電素子21hまでの各々の板状圧電素子の構成は、板状圧電素子21aと同様である。
【0024】
そして八枚の板状圧電素子は、隣り合う圧電セラミック板の分極方向が互いに逆向きとなるように積層されている。すなわち、例えば、圧電セラミック板22aの分極方向は上向きに、圧電セラミック板22bの分極方向は下向きに、そして圧電セラミック板22cの分極方向は上向きにというように、各々の圧電セラミック板は、その分極方向が板状圧電素子21aの側から板状圧電素子21hの側に向かって交互に逆向きとなるように配置されている。
【0025】
また、上記の板状圧電素子の積層体の上面及び下面には、分極処理されていない圧電セラミック板24b、24aがそれぞれ付設されている。そして図2に示すように、電極層23b、電極層23d、電極層23f及び電極層23hの各々には、その積層型圧電素子の右側面の側の端部に、例えば、ガラス製の絶縁体25aが付設されており、同様に電極層23c、電極層23e及び電極層23gの各々には、その積層型圧電素子の左側面の側の端部に絶縁体25bが付設されている。これらの絶縁体25a、25bが付設されているため、電極層23a、電極層23c、電極層23e、電極層23g及び電極層23iは、積層型圧電素子の右側面に形成された外部電極26によって互いに電気的に接続され、そして電極層23b、電極層23d、電極層23f及び電極層23hは、上記外部電極26と同様に積層型圧電素子の左側面に形成されている外部電極によって互いに電気的に接続される。
【0026】
そして上記の積層型圧電素子の右側面に備えられた外部電極26と、左側面に備えられた外部電極との間に直流電圧を印加すると、各々の板状圧電素子の一対の電極層間に直流電圧が印加される。その結果、各々の板状圧電素子はその厚み方向に伸び、そして各々の板状圧電素子の伸び量を合計した量にて積層型圧電素子がその長さ方向に伸びる。
【0027】
積層型圧電素子は、その各々の板状圧電素子に印加する直流電圧の値を調節することにより長さ方向の変位量を数nm〜数十nm程度の分解能で制御することが可能であるため、本発明の微小変位付与装置の駆動装置として特に好ましく用いることができる。なお、積層型圧電素子の構成例や製造方法などについては多くの文献(例えば、日本工業技術振興協会固体アクチュエータ研究部会編「精密制御用ニューアクチュエータ便覧」,株式会社フジ・テクノシステムズ,1994年12月21日,p.60−70)に記載があるため詳しい説明は省略する。
【0028】
そして図1の微小変位付与装置10において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が直流電圧の印加により長さ方向に伸びると、作動部13は、てこの原理により積層型圧電素子の伸び量よりも大きな量にて図1に記入した矢印18が示す方向に微小変位する。このような微小変位付与装置10を用いることにより、作動部13に固定された対象物を微小変位させることができる。
【0029】
上記のように微小変位付与装置10の薄肉部12は、薄肉部12の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成されている。この薄肉部12の内部に配置されている繊維15は、微小変位付与装置10の長期間の使用により薄肉部12が繰り返し弾性変形され、その内部にクラックを生じた場合であっても、このクラックの薄肉部厚み方向への更なる成長を抑制する。このため、微小変位付与装置10は、薄肉部12が破断し難く優れた耐久性を示す。なお、このような繊維が薄肉部厚み方向へのクラックの成長を妨げる理由については、後に詳しく説明する。
【0030】
また、上記の薄肉部12に含まれている繊維15は、薄肉部に破断を生じ難くする一方で、作動部13の変位に必要となる薄肉部の弾性変形を妨げ難い。これは微小変位付与装置10の薄肉部12を形成している繊維強化複合材は、繊維の長さ方向には弾性変形(伸縮)し難いが、繊維の長さ方向に交差する方向には繊維が撓んで弾性変形し易いからである。
【0031】
図1に示すように微小変位付与装置10の基部11、薄肉部12及び作動部13は繊維強化複合材から一体に形成され、そして上記の薄肉部12に含まれている繊維の両端が、基部11及び作動部13のそれぞれの内部にまで伸びていることが好ましい。これにより弾性変形によって応力の集中し易い薄肉部12と基部11との接続部、あるいは薄肉部12と作動部13との接続部における薄肉部の破断を更に抑制することができる。
【0032】
また、基部、薄肉部及び作動部を繊維強化複合材から一体に形成することには、更に次のような利点がある。従来の微小変位付与装置では、その剛性を高くするために基部、薄肉部、そして作動部がステンレススチールなどの金属材料から一体に形成されている。しかしながら、例えば、ステンレススチールを用いた場合には、その比重が大きい(約8.0)ために作動部の質量が大きくなり、作動部を微小変位させる積層型圧電素子の作動に大きな電気エネルギーが必要となるため、圧電素子にて発熱を生じ、この発熱により基部や作動部が熱膨張して作動部の変位量に誤差を生じ易くなる。また作動部の質量が大きくなると作動部の固有振動数が小さくなるため、作動部を高速で微小変位させることが難しくなる。
【0033】
図1の微小変位付与装置10の基部11、薄肉部12及び作動部13を、例えば、エポキシ樹脂中に炭素繊維を整列配置させた繊維強化複合材から一体に形成すると、その比重が小さい(約1.5)ために作動部13の質量を小さくすることができる。これにより、上記圧電素子の発熱が抑えられ、基部や作動部の熱膨張が小さくなるので、作動部を高い精度で微小変位させることができるようになり、また作動部の固有振動数が大きくなるので、作動部を高速で微小変位させることができるようになる。
【0034】
繊維強化複合材の繊維の例としては、炭素繊維、炭化珪素(SiC)繊維、アラミド繊維、およびアルミナ繊維などが挙げられる。そして繊維強化複合材の母材(マトリックス)の例としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミノビスマスレイド樹脂、もしくは変性ポリフェニレンオキシド(PPO)樹脂などの樹脂材料、およびアルミニウムなどの軽量金属材料などが挙げられる。母材としては、比重が小さいことから樹脂材料を用いることが好ましい。
【0035】
また、本発明の微小変位付与装置に用いる駆動装置の例としては、圧電アクチュエータ(例えば、積層型圧電素子)、磁歪アクチュエータ(例えば、上記の「精密制御用ニューアクチュエータ便覧」の90頁から111頁に記載されている超磁歪アクチュエータ)、リニアモータ、およびボイスコイルモータなどが挙げられる。駆動装置としては、例えば、サーボモータやステッピングモータなどのモータと、送りネジやラックピニオンなどの送り要素とを組み合わせて構成される駆動装置を用いることもできる。駆動装置としては、上記のように積層型圧電素子を用いることが特に好ましい。更に、後に詳しく説明するように、本発明の微小変位付与装置を、別の本発明の微小変位付与装置の作動部に変位エネルギーを付与する装置として用いることもできる。
【0036】
以下、図3〜図21を用いて本発明の微小変位付与装置の別の構成例について説明するが、各装置が備える薄肉部はその厚み方向に交差するように配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成され、これらの繊維により薄肉部の破断が抑制されて装置の耐久性が向上することについては図1の微小変位付与装置の場合と同様であるので、各装置の説明において薄肉部に含まれる繊維の機能についての説明は省略する。
【0037】
図3は、第一の発明の微小変位付与装置の別の構成例を示す正面図である。図3の微小変位付与装置30の構成は、作動部13と駆動装置14とが薄肉部22を介して接続されていること以外は図1の微小変位付与装置10と同様である。この薄肉部22もまた、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることが好ましい。
【0038】
微小変位付与装置30は、ボールベアリングが用いられていないために図1の微小変位付与装置10よりも装置構成が簡単であるという利点を有している。
【0039】
図4は、第一の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す正面図である。図4の微小変位付与装置40は、基部41、基部41に薄肉部42を介して接続され、薄肉部42の弾性変形により基部41に対して変位可能とされている作動部43、および基部41に設置されている、上記の作動部43に変位エネルギーを付与して作動部43を基部41に対して微小変位させる駆動装置14などから構成されている。そして微小変位付与装置40の薄肉部42は、薄肉部42の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。
【0040】
図4の微小変位付与装置40は、図1の微小変位付与装置10の作動部13に生じる微小変位を、薄肉部32を介して作動部43に付与するように構成されている。すなわち図4の微小変位付与装置40の作動部43に変位エネルギーを付与する装置として、図1の微小変位付与装置10が用いられている。
【0041】
この微小変位付与装置40において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が直流電圧の印加により長さ方向に伸びると、薄肉部32は、てこの原理により積層型圧電素子の伸び量よりも大きな量にて上方に変位し、その結果作動部43が、薄肉部32の変位量よりも大きな量にて図4に記入した矢印48が示す方向に微小変位する。
【0042】
図4の微小変位付与装置40は、作動部43の変位量が図1の微小変位付与装置10の作動部10の変位量よりも大きいという利点を有している。
【0043】
図5は、第一の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す正面図である。図5の微小変位付与装置50は、基部51、基部51に薄肉部52a、52bを介して接続され、薄肉部52a、52bの弾性変形により基部51に対して変位可能とされている作動部53、および基部51に設置されている、上記の作動部53に変位エネルギーを付与して作動部53を基部51に対して微小変位させる駆動装置14から構成されている。そして微小変位付与装置50の薄肉部52a、52bの各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。
【0044】
図5の微小変位付与装置50の基部51、薄肉部52a、52b、および作動部53は、薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から一体に形成され、そして各々の薄肉部に含まれている繊維15の両端は、基部51及び作動部53のそれぞれの内部にまで伸びている。
【0045】
この微小変位付与装置50において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部53は積層型圧電素子の変位量に対応する量にて図5に記入した矢印58が示す方向に微小変位する。微小変位付与装置50は、図24の微小変位付与装置240の場合と同様に、例えば、作動部53に走査型トンネル電子顕微鏡のプローブを取り付けて、これを高精度で位置決めするために用いられる。
【0046】
図6は、第一の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す正面図である。図6の微小変位付与装置60の構成は、基部61と作動部63とを接続する薄肉部62a、62bのそれぞれが、基部61に対して斜めに伸びていること以外は図5の微小変位付与装置50と同様である。
【0047】
図6の微小変位付与装置60の基部61、薄肉部62a、62b、および作動部63は、薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維、すなわち薄肉部62aの厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15aと、薄肉部62bの厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15bとを含む繊維強化複合材から一体に形成される。そして薄肉部62a、62bの各々に含まれている繊維の両端は、基部61及び作動部63のそれぞれの内部にまで伸びている。
【0048】
この微小変位付与装置60において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部63は、基部61と作動部63とが基部61に対して各々斜めに伸びる薄肉部62a、62bを介して接続されているために図6に記入した矢印68が示す方向に微小変位(回転)する。
【0049】
図7は、第一の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す斜視図であり、そして図8は、図7の微小変位付与装置70の部分拡大図である。
【0050】
図7及び図8に示す微小変位付与装置70は、基部71a、71b、基部71a、71bに薄肉部72を介して接続され、薄肉部72の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部73、および各々の基部に設置されている、上記の作動部73に変位エネルギーを付与して作動部73を基部に対して微小変位させる駆動装置14a、14bから構成されている。そして微小変位付与装置70の薄肉部72の各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。図7の微小変位付与装置70は、図5の微小変位付与装置50の二個を、各々の作動部53を向かい合わせて互いに接合した構成を有している。
【0051】
図7の微小変位付与装置70の薄肉部72を形成する繊維強化複合材の繊維15としては、例えば、炭化珪素(SiC)繊維が用いられ、そして母材(マトリックス)としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂が用いられる。
【0052】
そして微小変位付与装置70の基部71a、71b、薄肉部72、および作動部73は、薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から一体に形成され、そして各々の薄肉部に含まれている繊維15の両端は、基部及び作動部のそれぞれの内部にまで伸びている。
【0053】
この微小変位付与装置70において、駆動装置14a、14bの各々として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部73は各々の積層型圧電素子の変位量に対応する量にて図7に記入した矢印78が示す方向に微小変位する。すなわち微小変位付与装置70は、例えば、その作動部73の上に置かれた物品を上下方向に微小変位させて位置決めする装置(昇降ステージ)として用いることができる。
【0054】
図9は、第一の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す斜視図である。但し、微小変位付与装置90の薄肉部92に含まれる繊維の記載は省略してある。
【0055】
図9に示す微小変位付与装置90は、基部91a、91b、基部91a、91bに薄肉部92を介して接続され、薄肉部92の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部93、および各々の基部に設置されている、上記の作動部93に変位エネルギーを付与して作動部93を基部に対して微小変位させる駆動装置14a、14bから構成されている。そして微小変位付与装置90の薄肉部92の各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成される。図9の微小変位付与装置90は、図6の微小変位付与装置60の二個を、各々の作動部63を向かい合わせて互いに接合した構成を有している。
【0056】
そして微小変位付与装置90の基部91a、91b、薄肉部92、および作動部93は、薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から一体に形成され、そして各々の薄肉部に含まれている繊維の両端は、基部及び作動部のそれぞれの内部にまで伸びている。
【0057】
この微小変位付与装置90において、駆動装置14a、14bの各々として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部93は図9に記入した矢印98が示す方向に微小変位(回転)する。すなわち微小変位付与装置90は、例えば、その作動部93の上に置かれた物品を上下方向を軸として微少量にて回転変位させて位置決めする装置(回転ステージ)として用いることができる。
【0058】
図10は、第一の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す斜視図であり、そして図11は、図10の微小変位付与装置100の部分拡大図である。
【0059】
図10及び図11に示す微小変位付与装置100は、基部101a、101b、101c、101d、これらの基部に薄肉部102を介して接続され、薄肉部102の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部103、および各々の基部に設置されている、上記の作動部103に変位エネルギーを付与して作動部103を基部に対して微小変位させる駆動装置14a、14b、14c、14dから構成されている。そして微小変位付与装置100の薄肉部102の各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。微小変位付与装置100は、図5の微小変位付与装置50の四個を、これら作動部が正方形を形成するように並べて互いに接合した構成を有している。
【0060】
図10及び図11に示す微小変位付与装置100の薄肉部102を形成する繊維強化複合材の繊維15としては、例えば、炭素繊維が用いられ、そして母材(マトリックス)としては、例えば、エポキシ樹脂が用いられる。
【0061】
そして微小変位付与装置100の基部101a、101b、101c、101d、薄肉部102、および作動部103は、図11の拡大図に示すように薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から一体に形成されている。そして各々の薄肉部102に含まれている繊維の両端は、基部及び作動部のそれぞれの内部にまで伸びている。
【0062】
この微小変位付与装置100において、駆動装置14a、14bの各々として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部103は積層型圧電素子の変位量に対応する量にて図10に記入した矢印108aが示す方向に微小変位し、そして駆動装置14c、14dの各々として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部103が積層型圧電素子の変位量に対応する量にて矢印108bが示す方向に微小変位する。すなわち微小変位付与装置100は、例えば、その作動部103の上に置かれた物品を二次元方向に微小変位させて位置決めする装置(XYステージ)として用いることができる。
【0063】
また、例えば、上記の図10の微小変位付与装置100の作動部103の上に、図7の微小変位付与装置70の基部71a、71bを固定することで、微小変位付与装置70の作動部73の上に置かれた物品を位置決めするXYZステージを構成することができ、さらに上記作動部73の上に図9の微小変位付与装置90の基部91a、91bを固定することで、微小変位付与装置90の作動部93の上に置かれた物品を位置決めするXYZθステージを構成することができる。
【0064】
図12は、図10の微小変位付与装置100と同様の構成の微小変位付与装置を例にして、本発明の微小変位付与装置の薄肉部に含まれる繊維の機能を説明する図である。図12においては、図10の微小変位付与装置100と対応する構成要素には同じ符号を記入してある。なお、以下では、薄肉部を形成する繊維強化複合材の繊維が炭素繊維である場合を例として、繊維の機能を説明する。
【0065】
図12(a)は、微小変位付与装置の薄肉部102の内部に炭素繊維が存在しない場合に、例えば、装置の長期使用によって作動部103と薄肉部102との接続部位に生じたクラック127の成長の仕方について説明する図である。図12(a)に示すように、微小変位付与装置の薄肉部102には炭素繊維が含まれていないため、さらに装置の使用を続けた場合にはクラック127(あるいは同様に薄肉部102の内部にて生じたクラック)が成長して薄肉部102が破断する可能性が高い。
【0066】
図12(b)は、微小変位付与装置の作動部103の内部に薄肉部102の厚み方向と平行に配置された炭素繊維15aが存在する場合に、上記と同様のクラック127の成長の仕方について説明する図である。図12(b)に示すように、薄肉部102の厚み方向と平行に配置された炭素繊維15aがクラック127の薄肉部の厚み方向に垂直な方向への成長を妨げるため、薄肉部102の破断の可能性は炭素繊維が無い場合(図12(a)の場合)よりも低下する。しかしながら、薄肉部102を破断させ易い、薄肉部厚み方向へのクラックの成長を妨げることはできない。
【0067】
図12(c)は、微小変位付与装置の薄肉部102の内部に薄肉部102の厚み方向と直交(交差)するように配置された炭素繊維15bが存在する場合に、上記と同様のクラック127の成長の仕方について説明する図である。図12(c)に示すように、薄肉部102の厚み方向と直交するように配置された炭素繊維15bがクラック127(あるいは同様に薄肉部102の内部にて生じたクラック)の薄肉部厚み方向への成長を妨げるため、薄肉部の破断の可能性は更に低下する。
【0068】
図12(d)は、微小変位付与装置の薄肉部102の内部に薄肉部102の厚み方向と直交(交差)するように配置された炭素繊維15bと、更に炭素繊維15bに直交するように配置された炭素繊維15aが存在する場合に、上記と同様のクラック127の成長の仕方について説明する図である。図12(d)に示すように、薄肉部102の厚み方向と直交するように配置された炭素繊維15bがクラック127(あるいは同様に薄肉部102の内部にて生じたクラック)の薄肉部厚み方向への成長を妨げ、更に炭素繊維15aがこのクラック127の繊維15bに沿った成長を妨げるため、薄肉部の破断の可能性は更に低下する。
【0069】
上記のように、繊維強化複合材の繊維がその内部に生じたクラックの成長を抑制することについては、公知文献(例えば、電子通信学会編著,「電子工学のための複合材料」,社団法人電子通信学会,昭和61年10月15日,p17−19)に記載されている。
【0070】
図13は、第二の発明の微小変位付与装置の構成例を示す正面図である。図13の微小変位付与装置130は、基部131、基部131に各々薄肉部132a、132bを有する一対の支柱137a、137bを介して接続され、これらの薄肉部の弾性変形により基部131に対して変位可能とされている作動部133、および基部131に設置されている、上記の作動部133に変位エネルギーを付与して作動部133を基部131に対して微小変位させる駆動装置14から構成されている。そして微小変位付与装置130の薄肉部132a、132bの各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。
【0071】
図13の微小変位付与装置130の構成は、作動部133が各々薄肉部132a、132bを有する一対の支柱137a、137bを介して基部131に接続されていること以外は図5の微小変位付与装置50と同様である。
【0072】
そして図13に示すように、基部131と作動部133とは、両端に薄肉部132a、132bを有する支柱を介して接続されていることが好ましい。更に基部131、薄肉部132a、132b、支柱137a、137b及び作動部133は繊維強化複合材から一体に形成され、各々の支柱の基部131の側の薄肉部132bに含まれている繊維15の両端が、基部131及び支柱のそれぞれの内部にまで伸び、そして作動部133の側の薄肉部132aに含まれている繊維15の両端が、作動部133及び支柱のそれぞれの内部にまで伸びていることが好ましい。
【0073】
この微小変位付与装置130において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部133は積層型圧電素子の変位量に対応する量にて図13に記入した矢印138が示す方向に微小変位する。
【0074】
図14は、第二の発明の微小変位付与装置の別の構成例を示す正面図である。図14の微小変位付与装置140の構成は、基部131に設置されている駆動装置14が、支柱137aに変位エネルギーを付与して作動部133を基部131に対して微小変位させること以外は図13の微小変位付与装置130と同様である。このように支柱に変位エネルギーを付与することにより、作動部133を、てこの原理により駆動装置14として用いる積層型圧電素子の変位量よりも大きな量にて微小変位させることができる。
【0075】
図15は、第二の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す正面図である。図15の微小変位付与装置150は、基部131、基部131に各々薄肉部132a、132bを有する一対の支柱137a、137bを介して接続され、これらの薄肉部の弾性変形により基部131に対して変位可能とされている作動部133、および基部131に設置されている、上記の作動部133に変位エネルギーを付与して作動部133を基部131に対して微小変位させる駆動装置14などから構成されている。そして微小変位付与装置150の薄肉部132a、132bの各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。
【0076】
図15の微小変位付与装置の駆動装置14には、基部131に薄肉部132cを介して接続され、この薄肉部132cの弾性変形により基部131に対して変位可能とされている作動部153が備えられており、そして駆動装置14は、作動部153に形成された薄肉部132dを介して作動部133に変位エネルギーを付与する。すなわち図15の微小変位付与装置150の作動部133に変位エネルギーを付与する装置として、第一の発明の微小変位付与装置が用いられている。
【0077】
この微小変位付与装置150において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、薄肉部132dは、てこの原理により積層型圧電素子の伸び量よりも大きな量にて図15に記入した矢印158aが示す方向に微小変位し、その結果作動部133は図15に記入した矢印158が示す方向に微小変位する。
【0078】
図16は、第二の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す正面図である。図16の微小変位付与装置160は、基部161、基部161に薄肉部162a、162bを有する支柱167と、薄肉部162cとを介して接続され、これらの薄肉部の弾性変形により基部161に対して変位可能とされている作動部163、および基部161に設置されている、上記の支柱167に変位エネルギーを付与して作動部163を基部161に対して微小変位させる駆動装置14から構成されている。そして微小変位付与装置160の薄肉部162a、162b、162cの各々は、その厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。
【0079】
図16の微小変位付与装置160の基部161、薄肉部162a、162b、162c、支柱167、および作動部163は、各々の薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から一体に形成されている。そして支柱167の基部161の側の薄肉部162bに含まれている繊維の両端は、基部161及び支柱167のそれぞれの内部にまで伸び、そして作動部163の側の薄肉部162aに含まれている繊維の両端は、作動部163及び支柱167のそれぞれの内部にまで伸びている。また薄肉部162cに含まれている繊維の両端は、基部161及び作動部163のそれぞれの内部にまで伸びている。
【0080】
この微小変位付与装置160において、駆動装置14として用いる積層型圧電素子が長さ方向に伸びると、作動部163が、てこの原理により積層型圧電素子の変位量よりも大きな量にて図16に記入した矢印168が示す方向に微小変位する。
【0081】
図17は、第三の発明の微小変位付与装置の構成例を示す斜視図であり、そして図18は、図17に記入した切断線I−I線に沿って切断した微小変位付与装置170の断面図である。
【0082】
図17及び図18に示す微小変位付与装置170は、板状圧電素子174の各々の表面に、この表面から離隔した薄肉部172を中央に有する作動部173a、173bを固定した構成を有している。このような構成の微小変位付与装置は、ムーニーアクチュエータとも呼ばれており、その構成や動作原理の詳細については、特開平6−338640号、特開平7−162051号及び特開2001−15823号の各公報に記載されている。
【0083】
そして図17の微小変位付与装置170において、作動部173a、173bの各々の薄肉部172は、薄肉部172の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維15を含む繊維強化複合材から形成される。作動部173a、173bのそれぞれは、例えば、板状の繊維強化複合材を切削加工して薄肉部を形成することにで容易に作製することができ、例えば、エポキシ樹脂を用いて板状圧電素子174の表面に固定される。
【0084】
この微小変位付与装置170において、板状圧電素子174がその厚み方向に伸びると、作動部173a及び173bは、それぞれ図18に記入した矢印178a、178bが示す方向に微小変位する。一方、板状圧電素子174は上記のように厚み方向に伸びると同時に、そのポアソン比に基づいて上下の表面の面積が縮小する。この面積の縮小により、各々の薄肉部172は、板状圧電素子174の側とは逆側に膨出するように撓んで微小変位する。すなわち薄肉部172は、板状圧電素子表面の面積の縮小を薄肉部厚み方向の変位に変換する。従って微小変位付与装置170は、板状圧電素子174が厚み方向に伸びると、この伸び量に対応する量に、さらに圧電素子表面の面積の縮小を薄肉部厚み方向に変換した変位量を加えた量にて上下方向に伸びる(微小変位する)。このような微小変位付与装置170を用いると、板状圧電素子を単体で用いる場合よりも大きな変位量が得られる。
【0085】
図18に示すように、作動部173a、173bの各々は、薄肉部172と共に繊維強化複合材から一体に形成され、そして上記の薄肉部172に含まれている繊維の両端が、それぞれ作動部の縁まで伸びていることが好ましい。また、より大きな変位量を得るために、微小変位付与装置170の板状圧電素子174に代えて、二枚以上の板状圧電素子の積層体(積層型圧電素子)を用いることも好ましい。なお、作動部は、板状圧電素子(あるいは積層型圧電素子)の一方の表面にのみ固定されていてもよい。
【0086】
図19は、第三の発明の微小変位付与装置の別の構成例を示す断面図である。図19の微小変位付与装置190は、作動部193a、193bの各々の厚みが薄肉部192と同じ厚みに設定されていること以外は、図17及び図18に示す微小変位付与装置170と同様の構成である。各々の作動部は、例えば、板状の繊維強化複合材を湾曲させて作製することができ、その縁部にて板状圧電素子174の表面に固定されている。
【0087】
図20は、第三の発明の微小変位付与装置のさらに別の構成例を示す斜視図であり、そして図21は、図20に記入した切断線II−II線に沿って切断した微小変位付与装置200の断面図である。図20及び図21に示す微小変位付与装置200の構成は、作動部203a、203bがそれぞれドーム状に形成され、中央に板状圧電素子174の表面と離隔した薄肉部202が備えられていること以外は図17の微小変位付与装置170と同様である。また図20及び図21に示すように、薄肉部202を形成する繊維強化複合材としては、薄肉部の厚み方向に交差するように整列配置された複数本の繊維15aと、この繊維15aと直交するように整列配置された複数本の繊維15bとを含む繊維強化複合材を用いることも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第一の発明の微小変位付与装置の構成例を示す図である。
【図2】図1の微小変位付与装置の駆動装置として用いる積層型圧電素子の構成を示す斜視図である。
【図3】第一の発明の微小変位付与装置の別の構成例を示す正面図である。
【図4】第一の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す正面図である。
【図5】第一の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す正面図である。
【図6】第一の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す正面図である。
【図7】第一の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す斜視図である。但し、薄肉部に含まれる繊維の記載は省略してある。
【図8】図7の微小変位付与装置の部分拡大図である。
【図9】第一の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す斜視図である。但し、薄肉部に含まれる繊維の記載は省略してある。
【図10】第一の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す斜視図である。但し、薄肉部に含まれる繊維の記載は省略してある。
【図11】図10の微小変位付与装置の部分拡大図である。
【図12】本発明の微小変位付与装置の薄肉部に含まれる繊維の機能を説明する図である。
【図13】第二の発明の微小変位付与装置の構成例を示す正面図である。
【図14】第二の発明の微小変位付与装置の別の構成例を示す正面図である。
【図15】第二の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す正面図である。
【図16】第二の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す正面図である。
【図17】第三の発明の微小変位付与装置の構成例を示す斜視図である。
【図18】図17に記入した切断線I−I線に沿って切断した微小変位付与装置の断面図である。
【図19】第三の発明の微小変位付与装置の別の構成例を示す断面図である。
【図20】第三の発明の微小変位付与装置の更に別の構成例を示す斜視図である。
【図21】図20に記入した切断線II−II線に沿って切断した微小変位付与装置の断面図である。
【図22】従来の微小変位付与装置の構成例を示す正面図である。
【図23】従来の微小変位付与装置の別の構成例を示す斜視図である。
【図24】従来の微小変位付与装置の更に別の構成例とその使用の態様を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0089】
10、30、40、50、60、70、90、100、130、140、150、160、170、190、200 微小変位付与装置
11、41、51、61、71a、71b、91a、91b、101a、101b、101c、101d、131、161 基部
12、22、32、42、52a、52b、62a、62b、72、92、102、132a、132b、132c、132d、162a、162b、162c、172、192、202 薄肉部
13、43、53、63、73、93、103、133、153,163、173a、173b、193a、193b、203a、203b 作動部
14、14a、14b、14c、14d 駆動装置
15、15a、15b 繊維
16 ボールベアリング
18、48、58、68、78、98、108a、108b、138、148、158、168、178a、178b 作動部の変位方向を示す矢印
19 母材
21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、21h、174 板状圧電素子
22a、22b、22c 分極処理されている圧電セラミック板
23a、23b、23c、23d、23e、23f、23g、23h、23i 電極層
24a、24b 分極処理されていない圧電セラミック板
25a、25b 絶縁体
26 外部電極
127 クラック
137a、137b、167 支柱
220、230、240 微小変位付与装置
221 基板
222a、222b、222c、222d ヒンジ部
224、244 積層圧電アクチュエータ
223a、223b レバーアーム
228 レバーアーム223bの変位方向を示す矢印
231a、231b、241 基部
232、242a、242b 薄肉部
233、243 作動部
234a、234b 圧電アクチュエータ
238、248 作動部の変位方向を示す矢印
246a、246b 支柱
247 プローブ
249 ボールベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部、該基部に薄肉部を介して接続され、該薄肉部の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部、および該基部に設置されている、上記の作動部に変位エネルギーを付与して該作動部を基部に対して微小変位させる駆動装置を備える微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、該薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置。
【請求項2】
基部、薄肉部及び作動部が繊維強化複合材から一体に形成され、そして上記の薄肉部に含まれている繊維の両端が、基部及び作動部のそれぞれの内部にまで伸びている請求項1に記載の微小変位付与装置。
【請求項3】
駆動装置が二枚以上の板状圧電素子の積層体からなる請求項1もしくは2に記載の微小変位付与装置。
【請求項4】
基部、該基部に薄肉部を有する支柱を介して接続され、該薄肉部の弾性変形により基部に対して変位可能とされている作動部、および該基部に設置されている、上記の作動部もしくは支柱に変位エネルギーを付与して該作動部を基部に対して微小変位させる駆動装置を備える微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、該薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置。
【請求項5】
基部と作動部とが、両端に薄肉部を有する支柱を介して接続されている請求項4に記載の微小変位付与装置。
【請求項6】
基部、薄肉部、支柱及び作動部が繊維強化複合材から一体に形成され、基部の側の薄肉部に含まれている繊維の両端が、基部及び支柱のそれぞれの内部にまで伸び、そして作動部の側の薄肉部に含まれている繊維の両端が、作動部及び支柱のそれぞれの内部にまで伸びている請求項5に記載の微小変位付与装置。
【請求項7】
駆動装置が二枚以上の板状圧電素子の積層体からなる請求項4乃至6のうちのいずれかの項に記載の微小変位付与装置。
【請求項8】
一枚の板状圧電素子もしくは二枚以上の板状圧電素子の積層体の少なくとも一方の表面に、該表面から離隔した薄肉部を中央に有する作動部を固定してなる微小変位付与装置において、少なくとも上記の薄肉部が、該薄肉部の厚み方向と交差するように整列配置された複数本の繊維を含む繊維強化複合材から形成されていることを特徴とする微小変位付与装置。
【請求項9】
作動部が薄肉部と共に繊維強化複合材から一体に形成され、そして上記の薄肉部に含まれている繊維の両端が、それぞれ作動部の縁まで伸びている請求項8に記載の微小変位付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2006−14585(P2006−14585A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154503(P2005−154503)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500222021)