説明

微小振動子、半導体装置及び通信装置

【課題】 本発明は、振動子群の基板内からの弾性波に起因する不要出力を抑制し、またウエハーの利用効率を向上できるようにした微小振動子、この微小振動子を備えた半導体装置、及びこの微小振動子を信号フィルターとして備えた通信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の微小振動子は、基板上に複数の振動子素子を格子状に規則的に配列してなる振動子群が配置され、各振動子素子が、アンカーにより前記基板に支持され、静電気力で前記基板と対向する方向に駆動される梁を有し、前記各振動子素子の隣接する4つの梁はアンカーを共用していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば信号フィルター、ミキサー、共振器の要素となる微小振動子、この微小振動子を有する半導体装置、及びこの微小振動子による帯域フィルターを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシン(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製された微小振動子が知られている。この微小振動子の高周波フィルターとしての利用がミシガン大学を始めとする研究機関から提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
図15に、上述の高周波フィルターを構成する微小振動子、即ち静電駆動のビーム型振動子の概略を示す。この振動子1は、半導体基板2上に絶縁膜3を介して例えば多結晶シリコンによる入力側配線4と出力電極5が形成され、この出力電極5に対向して空間6を挟んで振動板となる電極、いわゆるビーム(梁)7が形成されて成る。ビーム7は、両端のアンカー部(支持部)8[8A,8B]にて支持されるようにブリッジ上に跨いで入力側配線層4に接続される。ビーム7は入力電極となる。入力側配線層4より入力端子t1が、出力電極5より出力端子t2が夫々導出される。この振動子1は、ビーム7と接地間にDCバイアス電極V1が印加された状態で、入力端子t1を通じてビーム7に高周波信号S1が供給される。即ち、入力端子t1からDCバイアス電圧V1と高周波信号S1が供給されると、長さで決まる固有振動数を有するビーム7が、出力電極5とビーム7間に生じる静電気力で振動する。この振動によって、出力電極5とビームとの間の容量の時間変化とDCバイアス電圧に応じた高周波信号が出力電極5(したがって、出力端子t2)から出力される。高周波フィルターではビーム7の固有振動数(固有周波数)に対応した信号が出力される。
【0004】
一方、多数の振動子を半導体基板、あるいは絶縁基板等の基板上に並べて配置して、信号処理を行うように構成した場合、その信号処理が成されるときの信号品質を確保する、との立場から振動子配置の仕方の適、不適に関して考察し、その実証がなされた例は皆無である。
【0005】
【非特許文献1】C.T.-Nguyen,Micromechanicalcomponents for miniaturized low-power communications(invited plenary),proceedings, 1999 IEEE MTT-S International Microwave Symposium RF MEMS Workshop, June,18,1999,pp,48-77,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術として上述した静電駆動型の振動子の他の構成を図14に示す。この振動子11は、例えば半導体基板12上に絶縁膜13を介して入力電極14及び出力電極15が形成され、この入力電極14及び出力電極15に対向して空間16を挟んで振動板となる電極、いわゆるビーム(梁)17が形成されて成る。ビーム17は、入出力電極14、15をブリッジ上に跨ぎ、入出力電極14、15の外側に配置した配線層18に接続されるように、両端をアンカー部(支持部)19[19A,19B]で一体に支持される。入力電極14から入力端子t1が導出され、入力端子t1を通じて高周波信号S1が入力される。出力電極15から出力端子t2が導出される。ビーム17には所要のDCバイアス電圧V1が印加される。
【0007】
この振動子11では、入力電極14に高周波信号S1が入力されると、DCバイアス電圧V1が印加されたビーム17と入力電極14間に生じる静電気力でビーム17が共振し、出力電極15から目的周波数の高周波信号が出力される。この微小振動子11によれば、入出力電極14及び15の対向面積が小さく且つ入出力電極14及び15間の間隔を大きくとれるので、図15の振動子1に比べて入出力電極間の寄生容量Coが小さくなる。したがって、入出力電極14、15間の寄生容量Coを直接透過する信号、つまりノイズ成分が小さくなり、出力信号のSN比が向上する。
【0008】
一方、図13に示すように、同一基板上に複数(いわゆる多数)の振動子(以下、振動子素子という)、例えば下部電極である入出力電極14、15とビーム17を有する振動子素子21[21A,21B、21C]を、入出力電極14、15を共通とするようにして並列接続し振動子群として構成し、全体の合成インピーダンスを下げて、高周波デバイスへの適用を可能したものも提案されている。
【0009】
ところで、RF信号が静電駆動型の振動子群に入力され、振動子群の共振が起きるとき、隣接して配置された振動子素子の共振特性が近似的に同じである場合には、振動子素子間の干渉のため振動子群の集団的な振動現象が起きる。
【0010】
図12に示すように、個別の振動子素子21は、上述したように電気的に駆動されるビーム(梁)17であり、ビーム17から離れて設けられた下部電極である入出力電極14、15により駆動される。振動は基板22に垂直な方向に励起される。このため、その反力Fが入出力電極14、15、アンカー部19[19A,19B]に印加され、それらの部分が基板22の側から見れば振動源となり、基板振動が誘起される。基板面を伝播する弾性波が発生することもあり、更にまた、複数の振動源から発した弾性波は基板内で互いに伝播し合い、基板内に定在波が発生することもある。このようにして発生した基板振動は振動子素子を励振させることとなる。
このため、個別の振動子素子の特性を基に設計が成された振動子群においては、所望の信号出力に対して雑音となるか、信号干渉によるリップルの発生となる。このような複雑な系の振動特性を正確にシミュレーションし、設計として取り込むのは極めて困難である。故に、このような不要出力を抑制する振動子群の構造、配置、配線の仕方を見出すことが要請されている。
【0011】
一方、振動子素子の集団励振に起因する基板振動により誘起される振動子素子の疑似的な(個別振動子の共振周波数とは異なる共振周波数での)共振現象の発生を抑制するためには、振動子間の間隔を広げることが一般には考えられているが、ウエハーの利用効率が悪い。
【0012】
本発明は、上述の点に鑑み、振動子群の基板振動に起因する不要出力を抑制し、またウエハーの利用効率を向上できるようにした微小振動子、この微小振動子を備えた半導体装置、及びこの微小振動子を信号フィルターとして備えた通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の微小振動子は、基板上に複数の振動子素子を格子状に規則的に配列してなる振動子群が配置され、各振動子素子が、アンカーにより前記基板に支持され、静電気力で前記基板と対向する方向に駆動される梁を有し、前記各振動子素子の隣接する4つの梁はアンカーを共用しているか、アンカーに繋がるDC給電線路で結ばれることを特徴とする。
【0014】
また、前記各振動子素子が下部電極と前記梁を有してなり、前記下部電極が前記格子状の対角線方向に延びる配線に接続されている。さらに、前記振動子素子が、2次高調波振動モードで励振される。また、前記振動子素子が下部電極となる入力電極及び出力電極と前記梁を有してなり、前記隣接する4つの振動子素子の入力電極又は出力電極のいずれか一方の電極が前記共用するアンカー又はDC給電部を挟んで互いに対向するように配置されている。
【0015】
本発明の半導体装置は、上述した微小振動子を有して成ることを特徴とする。
【0016】
本発明の通信装置は、送信信号及び/又は受信信号の帯域制限を行うフィルターを備えた通信装置において、フィルターとして、上述した微小振動子によるフィルターが用いられて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の微小振動子によれば、複数の振動子素子を格子状に規則的に配列し、各振動子素子の隣接する4つの梁はアンカーを共用するか、4つのアンカーが隣接して設置され(震源と見るときには)実効的に1つのアンカーと見なせる構成であるので、振動子群の各振動子素子の梁が基板と対向する方向に振動するとき、(実効的に)共用したアンカー(以下「共用アンカー」と記す)では4つの梁の反力の合力が印加され、基板に平行な向きの力は打ち消し合うため、この合力は基板の垂直方向の応力として基板に印加される。基板は、ずり歪み(基板面方向の歪み)より寧ろ圧縮歪みには十分な剛性を有するので、結果として振動子群の集団振動に起因する基板振動の発生を抑制することができ、振動子群の基板振動に起因する不要出力を抑制できる。すなわち、複数の静電駆動型振動子素子のアンカーから洩れる振動エネルギーに起因する基板振動の発生を抑制することにより、雑音レベルを下げることができる。また、振動子群に亘る擬似的な共振現象による例えば共振器の透過特性に現れるリップルの発生を抑制することができる。基板内の不要出力である弾性波の発生を見積もり易くなり、その発生源を制御し易くなる。結果として、例えば共振器の透過特性に現れる、信号干渉によるリップルの発生を抑制することができる。従って、共振特性の良い微小振動子を提供することができる。
また、隣り合う振動子素子間の間隔を狭くできるので、ウエハー(基板)上に振動子群を配置するときのウエハーの利用効率を向上することができる。
【0018】
各振動子素子の下部電極を格子状の対角線方向に延びる配線に接続することにより、格子状に配列した各振動子素子の下部電極を纏めて共通に接続することができる。この構成を採ることにより高周波信号配線の占める基板上の面積(フットプリント)を少なくすることができ、振動子群(共振器)の対地容量、すなわち、高周波信号の基板への漏洩量を低減することができる
【0019】
隣接する4つの振動子素子の下部電極となる入力電極又は出力電極のいずれか一方の電極を「共用アンカー」を挟んで対向するように配置することにより、基板には「共用アンカー」間距離の√2倍の周期で基板に垂直な方向に応力が印加される。この場合、対角線方向に波面を持つ弾性波が発生する可能性がある。弾性波の周波数は「共用アンカー」の間隔を調整することにより制御することができる。例えば、Si基板中の音速を5800m/sとして、「共用アンカー」間隔が10umとすると弾性波の周波数は410MHzとなる。仮に梁の共振周波数が100MHzであるとすると、結果として「共用アンカー」起因の弾性波は誘起されにくくなる。このようにして基板振動の発生を抑制することができる。
【0020】
本発明の半導体装置によれば、半導体装置の構成要素となる振動子に上述の本発明の微小振動子を用いることにより、雑音の少ない優れた特性を有する半導体装置を提供することができる。
【0021】
本発明の通信装置によれば、帯域フィルターに本発明の微小振動子によるフィルターを用いることにより、雑音の少ない優れたフィルター特性が得られ、信頼性の高い通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
本実施の形態に係る微小振動子は、並列に配置した振動子群において、不要出力を見積もり、制御し易くするために発生源である、(基板の振動が問題になるので)アンカー、電極は規則的に配置される。結果として、微小振動子は、多数の振動子素子を基板上に格子状に規則的に並べた振動子群として形成されることとなる。互いの梁の長さ方向が直行するように置かれた2つの振動子素子を単位として、基板上に規則的に平行移動を行い、振動子群を構成する。
このような構成とすることにより、梁の振動と基板の振動との位相の整合が取り易くなり、基板振動の制御がし易くなる。基板振動を抑制したり、基板振動を梁の振動に取り込むこともでき易くなる。例えば、隣接する4つの梁が「共用アンカー」により設置されたときには、基板には「共用アンカー」間距離の√2倍の周期で、4つの梁の反力の合力が印加され、基板に弾性波が発生する可能性が生ずるが、その周波数は、基板中の音速と「共用アンカー」間距離により制御することができる。さらに、構成要素である振動子素子は、例えば2次高調波振動モードで励振するように、下部電極となる入力電極及び出力電極と、この下部電極に対向する梁(ビーム)とを有して構成することができる。この2次高調波振動モードの振動子素子からなる並列振動子群では、例えばRF(高周波)信号の入力配線、出力配線が格子状に配置した振動子素子に対して対角線の方向に配線を延ばして形成される。各振動子素子の入力電極に接続される入力配線、出力電極に接続される出力配線は、それぞれ共通となるように対角線方向に延びるように接続される。また、格子状に配列された各振動子素子においては、隣接する4つの振動子素子の入力電極又は出力電極のいずれか一方の電極が、4つの梁に「共用アンカー」を挟んで対向するように、従って入力電極−入力電極−出力電極−出力電極と配列されるように成される。このような構成の微小振動子の場合には、基板には、「共用アンカー」間距離の√2倍の周期で圧縮応力が印加される。基板は、ずり歪より寧ろ圧縮歪には十分な剛性を有するので、結果として基板振動による振動子素子への影響はより軽微に抑えることができる。
【0024】
図1に、本発明に係る微小振動子の概念的な実施の形態を示す。本実施の形態で対象とする振動子素子は、マイクロスケール、ナノスケールの素子である。なお、本実施の形態では、一例として基板上に下部電極である入力電極及び出力電極と、両端を支持して振動素子となるビームとを配置して構成される機械共振周波数100MHZの静電駆動型振動子群を取り上げる。
【0025】
本実施の形態に係る微小振動子31は、図1に示すように、基板、本例で高抵抗シリコン基板の表面に絶縁膜が形成された基板上に、複数の静電駆動型の振動子素子33からなる振動子群34を配置して構成される。振動子群34内での振動子素子33は、格子状に規則性をもって配列されている。各振動子素子33は、後述する(図2を用いて詳述する)が、下部電極である入力電極43、出力電極44及び配線層45と、両端を配線層45に支持して振動電極となるビーム(梁)47とで構成される。各振動子素子33は、その入力電極43を基板上に形成した共通の入力配線36に接続し、その出力電極44を基板上に形成した共通の出力電極配線37に接続し、そのビーム47を基板上に形成した共通のDCバイアス給電線38に接続するようにして、並列接続される。
ここでは、DCバイアス給電線38は、ビーム47の両端を支持するように接続した配線層45を兼ねている。格子状に配列された各隣接する4つの振動子素子33では、その4つのビーム47の端部が「共用アンカー」部(模式的に実線丸印、破線丸印で示す。48〔48a,48b〕と、場合によっては、DC給電配線とから構成される)によって支持される。すなわち、「共用アンカー」部は4つのビーム47が交わる交差部に対応して設けられる。
【0026】
各振動子素子33の入出力電極43、44はビーム47の長手方向に直交して配置されると共に、「共用アンカー」部を挟んで隣接する4つの振動子素子33を1組として見たとき、それぞれの入力電極43又は出力電極44のいずれか一方の電極、本例では入力電極43がアンカー48を挟んで対向するように内側に配置され、出力電極44がその外側に配置される。即ち、入力電極43は破線印のアンカー48aを挟んで互いに対向して配置され、出力電極44は実線印のアンカー48bを挟んで互いに対向して配置される。また、各振動子素子33の入力電極43を共通に接続する入力電極配線36、及び出力電極44を共通に接続する出力配線37は、格子状の対角線の方向に延びるように、対角線方向に沿う振動子素子33の入力電極43同志、出力電極44同志を接続するようになされる。
【0027】
図2及び図3は、それぞれ図1のA−A’断面(水平方向)、B−B’断面(垂直方向)で切断した場合の断面図である。本例では、各振動子素子33を2次高調波振動モードで駆動する。
【0028】
各振動子素子33は、前述と同様に図2に示すように、シリコン基板41の表面に絶縁膜(例えばシリコン酸化膜)42が形成された基板32上に、下部電極となる入力電極43及び出力電極44と、入出力電極43、44を挟む両側の配線層45[45A,45B]を形成し、この入出力電極43、44に対して空間46を挟んで対向する振動電極となるビーム(梁)47を配置して構成される。ビーム47は、両端が配線層45[45A,45B]に電気的かつ機械的に接続されたアンカー部(支持部)48[48A,48B]に支持される。このビーム47はいわゆる両持ち梁構造に形成される。
この振動子素子33は、前述と同様に、ビーム47にDCバイアス電圧を印加し、入力電極43に例えばRF信号を入力すると、ビーム47が共振し、出力電極44に目的周波数のRF信号が出力される。この振動子素子33は、図2に示すように、2次高調波振動モード49で共振する。
【0029】
この2次高調波振動モード49で振動子群34を振動させる場合、図3に示すように、各ビーム47においては、ビーム47の模式的に破線丸印で示すアンカー部48a(アンカー部48A,48Bを一体として示す)側が下部電極である入力電極43に近接し、ビーム47の模式的に実線丸印で示すアンカー部48b(アンカー部48A,48Bを一体として示す)側が下部電極である出力電極44に近接するように振動する。即ち、格子状に配列された複数の振動子素子33において、水平方向に隣り合う振動子素子33は互いに逆位相で振動し、垂直方向に隣り合う振動子素子33も互いに逆位相で振動することになる。
【0030】
このように入力電極と出力電極を交互に設けることで、アンカー48a,48b下の基板振動を制御することができる。例えば破線のアンカー48a直下の基板32には、ビーム47と入力電極43が反発することによる、基板に垂直な方向の引っ張り応力が発生し、その4つのビーム47(図1参照)の合力F1の影響が働く。また、実線のアンカー48b直下の基板32には、ビーム47と出力電極44が引き合うことによる、基板に垂直な方向の圧縮応力が発生し、その4つのビーム47の合力F2の影響が働く。従って、振動子群34の振動時には、各ビーム47のアンカー48直下の基板32には、基板に垂直な方向の引っ張り応力と圧縮応力が交合にかかるようになる。振動子素子33の振動で基板32には、基板面に垂直方向の圧縮歪みが与えられ、この圧縮歪みに対して基板は十分な剛性を有するので、結果として基板振動は抑制される。
【0031】
図4は、振動子素子のアンカー部45の例を示す構成図である。
図4Aに示す振動子素子のアンカー部45の形状は、アンカーを共用する部分が十字型となる。
図4Bに示す振動子素子のアンカー部45の形状は、アンカーを共用する部分が四角型となる。
アンカー部45の形状は、4つのビームに共用できるものであれば、その他、種々の構成を採り得る。
アンカー部45の形状は、例えば図4Cに示すように分離され、それらがDC給電配線で結ばれた、4つのビームのアンカーが実効的に共用である、構成を採り得る。
【0032】
図5は、下部電極配線の、図1の入力配線36、出力配線37とは異なる構成例である。図1の入力配線36、出力配線37は其々が2本の配線で構成されているが、全く同じ高周波信号が流れるので其々を1本の配線にまとめることができる。図5の構成は、図1の其々2本の配線に対応する入力配線36、出力配線37を、其々1本の配線でまとめて配置される。その他の構成は図1と同様である。この構成を採ることにより高周波信号配線の占める基板面積を少なくすることができ、共振器の対地容量、すなわち、高周波信号の基板への漏洩量を低減することができる。
【0033】
次に、図6及び図7を用いて本実施の形態の微小振動子の製造方法を説明する。なお、同図は図1のAーA’線上の断面構造を示す。工程の仕様は通常のCMOS作製プロセスで用いられるものと同等である。
先ず、図6Aに示すように、高抵抗のシリコン基板51の上面に絶縁膜として例えば酸化シリコン薄膜(HDP膜:High Density Plasma酸化膜)と窒化シリコン薄膜との複合膜52を成膜した基板32を用意する。本例では膜厚200nm程度の複合膜52を成膜する。続けて、この複合膜52上に導電性膜、例えば導電性のある多結晶シリコン薄膜(PDAS膜:Phosphorus Doped Amorphous Silicon)53を所要の膜厚、本例では380nm程度に成膜する。
【0034】
次に、図6Bに示すように、レジストマスクを形成し、このレジストマスクを介して例えばドライエッチング法により多結晶シリコン薄膜53を選択的にエッチング除去し、下部電極である入力電極43及び出力電極44と、ビーム(梁)の固定部を兼ねる配線層45[45A,45B]を形成する。
【0035】
次に、図6Cに示すように、形成された入力電極43、出力電極44及び配線層45[45A,45B]を絶縁膜の例えば酸化シリコン膜(HDP膜)54で埋め戻し、化学機械研磨法(CMP)により平坦化し、入力電極43、出力電極44及び配線層45[45A,45B]の表面を露出させる。
【0036】
次に、図6Dに示すように、表面に入力電極43及び出力電極44とビームとの間の間隔に相当する所要の厚さの犠牲層55を形成する。本例では50nm程度の厚さの酸化シリコン薄膜(LPーTEOS(low Pressure Tetra-Ethoxy-Silane)膜)による犠牲層55を形成する。
【0037】
次に、図7Eに示すように、犠牲層5上に必要に応じて薄い膜厚、例えば20nm程度の多結晶シリコン薄膜56を形成した後、この多結晶シリコン薄膜56及び犠牲層55を例えばドライエッチング法により選択的にエッチング除去して両配線層45[45A,45B]に達する透孔56[56A,56B]を形成する。
【0038】
次に、図7Fに示すように、表面に多結晶シリコン薄膜56を有する犠牲層55上に、多結晶シリコン膜(PDAS膜)57を所要の厚さになるまで成膜する。続いて、ドライエッチング法により多結晶シリコン膜57をパターニングして両端が配線層45A,45Bに接続されたビーム(梁)47を形成する。この場合、ビーム47の両端から延長して配線層45A,45Bに接続する部分、すなわち透孔56A,56B内の部分がビーム47のアンカー部(支持部)48[48A,48B]となる。
【0039】
次に、図1の配線36、37、38及びパッド(図示せず)となる導電膜、例えばアルミシリコン(AlーSi)薄膜を形成し、配線36、37、38、パッド上にレジストマスクを形成した後、例えばフッ化水素溶液を用いて不要なアルミシリコン膜及び犠牲層55を選択的に除去する。これにより、図7Gに示すように、入力電極43及び出力電極44とビーム47との間に50nmの空間46を有する振動子素子33を形成する。同時に配線、すなわち入力配線36、出力配線37、DCバイアス給電線38を形成する。振動子素子33の概略寸法の一具体例として、図7Gに示す通り、ビーム長さLが13.2μm、ビームの膜厚tが1μm、空間hが50nmとすることにより、2次の高調波が励起された時の共振周波数がおよそ100MHzとなるように振動子素子33が設計される。このようにして目的の微小振動子31を得る。
【0040】
本実施の形態に係る微小振動子31によれば、振動子群34を構成する複数の振動子素子33の配列を格子状にすることにより、図3で説明したように、動作時に基板振動を抑制することができ、基板振動の振動子群への影響をより軽微に抑えることができる。また、格子状の水平方向および垂直方向に隣り合う振動子素子33が互いに逆位相関係で振動するので、「共用アンカー」に加えられる基板に平行な方向の力が相殺されて、基板振動が抑制される。このように、微小振動子の動作時に、アンカー部48から漏れる振動エネルギーに起因して振動子群34にわたって発生する基板振動の発生が抑制でき、振動子群(いわゆる並列共振器)34の不要信号や雑音レベルを下げることができる。すなわち、本実施の形態による微小振動子31を構成要素として用いれば、雑音の少ない優れた特性を有する各種デバイス、例えば信号処理装置を実現することができる。
【0041】
また、格子状に規則的に複数の振動子素子33を配置した場合は、振動子群34の占有ウエハー面積を必要最小限に止めることができるため、DC給電配線に係わり発生する浮遊容量を最小限にすることができる。また、格子状に規則的に複数の振動子を配置することにより、下部電極を結ぶ信号配線の長さを短縮でき、更に、図5に例示したように、2次モードで駆動される振動子素子の場合には、信号配線をまとめることにより、信号配線が占めるウエハー面積を最小限に留めることができ、信号配線に係わり発生する浮遊容量を最小限にすることができる。(後述の図8−10に該当する振動子の場合も、同様に信号配線をまとめることができる。)また、振動子群34の占有ウエハー面積を必要最小限に留めることができるので、ウエハーの利用効率を向上することができる。このために信号処理装置の性能の向上と低価格が実現することができる。
【0042】
図1の微小振動子31では、図2に示す第2高調波振動モード49の振動子素子33を用いたが、その他の振動モードの振動子素子を適用することもできる。例えば、図8に示すような、基板61上に下部電極となる出力電極62と、両端をアンカー部66で支持され、DCバイアスと入力信号が入力される振動電極であるビーム63とを有してなる1次振動モード64の振動子素子67を適用することができる。この1次モードの振動子を用いる場合、DC給電線路はRF信号線路を兼ねる。また、図9に示すように基板61上に例えば入力電極71を挟んで両側に出力電極72を配置し、この入力電極71及び出力電極72に対向して両端がアンカー部74に支持されるビーム73を配置して成る3次高調波振動モード75の振動子素子76を適用することができる。さらに図10に示すように基板61上に例えば下部電極となる入力電極71と出力電極72を、両者間が広く離なれるように配置し、この入力電極71と出力電極72に対向してビーム73を配置して成る3次高調波振動モード75の振動子素子77を適用することができる。
【0043】
本発明に係る他の実施の形態においては、上述の微小振動子31を用いて、信号フィルター、ミキサー、共振器、及びそれらが含まれるSiP(システム・イン・パッケージ)デバイスモジュール、SoC(システム・オン・チップ)デバイスモジュール等の半導体装置を構成することができる。
本実施の形態の半導体装置によれば、雑音の少ない優れた特性を有する微小振動子を備えるので、信頼性に高い半導体装置を提供することができる。
【0044】
上述した実施の形態の静電駆動型の振動子群からなる微小振動子は、高周波(RF)フィルター、中間周波(IF)フィルター等の帯域信号フィルターとして用いることができる。
【0045】
本発明は、上述した実施の形態の微小振動子によるフィルターを用いて構成される携帯電話機、無線LAN機器、無線トランシーバ、テレビチューナ、ラジオチューナ等の、電磁波を利用して通信する通信装置を提供することができる。
【0046】
次に、上述した本発明の実施の形態のフィルターを適用した通信装置の構成例を、図11を参照して説明する。
まず送信系の構成について説明すると、Iチャンネルの送信データとQチャンネルの送信データを、それぞれデジタル/アナログ変換器(DAC)201I及び201Qに供給してアナログ信号に変換する。変換された各チャンネルの信号は、バンド・パス・フィルター202I及び202Qに供給して、送信信号の帯域以外の信号成分を除去し、バンド・パス・フィルター202I及び202Qの出力を、変調器210に供給する。
【0047】
変調器210では、各チャンネルごとにバッファアンプ211I及び211Qを介してミキサー212I及び212Qに供給して、送信用のPLL(Phase-Locked Loop)回路203から供給される送信周波数に対応した周波数信号を混合して変調し、両混合信号を加算器214で加算して1系統の送信信号とする。この場合、ミキサー212Iに供給する周波数信号は、移相器213で信号位相を90°シフトさせてあり、Iチャンネルの信号とQチャンネルの信号とが直交変調されるようにしてある。
【0048】
加算器214の出力は、バッファアンプ215を介して電力増幅器204に供給し、所定の送信電力となるように増幅する。電力増幅器204で増幅された信号は、送受信切換器205と高周波フィルター206を介してアンテナ207に供給し、アンテナ207から無線送信させる。高周波フィルター206は、この通信装置で送信及び受信する周波数帯域以外の信号成分を除去するバンド・パス・フィルターである。
【0049】
受信系の構成としては、アンテナ207で受信した信号を、高周波フィルター206及び送受信切換器205を介して高周波部220に供給する。高周波部220では、受信信号を低ノイズアンプ(LNA)221で増幅した後、バンド・パス・フィルター222に供給して、受信周波数帯域以外の信号成分を除去し、除去された信号をバッファアンプ223を介してミキサー224に供給する。そして、チャンネル選択用PLL回路251から供給される周波数信号を混合して、所定の送信チャンネルの信号を中間周波信号とし、その中間周波信号をバッファアンプ225を介して中間周波回路230に供給する。
【0050】
中間周波回路230では、供給される中間周波信号をバッファアンプ231を介してバンド・パス・フィルター232に供給して、中間周波信号の帯域以外の信号成分を除去し、除去された信号を自動ゲイン調整回路(AGC回路)233に供給して、ほぼ一定のゲインの信号とする。自動ゲイン調整回路233でゲイン調整された中間周波信号は、バッファアンプ234を介して復調器240に供給する。
【0051】
復調器240では、供給される中間周波信号をバッファアンプ241を介してミキサー242I及び242Qに供給して、中間周波用PLL回路252から供給される周波数信号を混合して、受信したIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分を復調する。この場合、I信号用のミキサー242Iには、移相器243で信号位相を90°シフトさせた周波数信号を供給するようにしてあり、直交変調されたIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分を復調する。
【0052】
復調されたIチャンネルとQチャンネルの信号は、それぞれバッファアンプ244I及び244Qを介してバンド・パス・フィルター253I及び253Qに供給して、Iチャンネル及びQチャンネルの信号以外の信号成分を除去し、除去された信号をアナログ/デジタル変換器(ADC)254I及び254Qに供給してサンプリングしてデジタルデータ化し、Iチャンネルの受信データ及びQチャンネルの受信データを得る。
【0053】
ここまで説明した構成において、各バンド・パス・フィルター202I,202Q,206,222,232,253I,253Qの一部又は全てとして、上述した実施の形態の構成のフィルターを適用して帯域制限することが可能である。
【0054】
本発明の通信装置によれば、雑音の少ない優れた特性を有するフィルターを用いるので、信頼性の高い通信装置を提供することができる。
【0055】
図11の例では、各フィルターをバンド・パス・フィルターとして構成したが、所定の周波数よりも下の周波数帯域だけを通過させるロー・パス・フィルターや、所定の周波数よりも上の周波数帯域だけを通過させるハイ・パス・フィルターとして構成して、それらのフィルターに上述した各実施の形態の構成のフィルターを適用してもよい。また、図11の例では、無線送信及び無線受信を行う通信装置としたが、有線の伝送路を介して送信及び受信を行う通信装置が備えるフィルターに適用してもよく、さらに送信処理だけを行う通信装置や受信処理だけを行う通信装置が備えるフィルターに、上述した実施の形態の構成のフィルターを適用してもよい。
【0056】
本発明に係るMEMS素子は、上述の実施の形態に限らず、図示せざるも、MEMS素子を用いたジャイロセンサ、赤外線センサ、圧力センサ、加速度センサ、高周波スイッチ等のセンサに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る微小振動子の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】図1のA−A’線の断面図である。
【図3】図1のB−B’線の断面図である。
【図4】A 図1のアンカー部(DC配線層)の要部を示す平面図である。 B 図1のアンカー部(DC配線層)の他の形態を示す平面図である。 C 図1のアンカー部(DC配線層)の更に別の形態を示す平面図である。
【図5】図1のRF信号配線(配線層)の他の形態を示す平面図である。
【図6】A〜D 本実施の形態に係る微小振動子の製造方法の一実施の形態を示す製造工程図(その1)である。
【図7】E〜G 本実施の形態に係る微小振動子の製造方法の一実施の形態を示す製造工程図(その2)である。
【図8】本発明に係る振動子素子の他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図9】本発明に係る振動子素子の他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図10】本発明に係る振動子素子の他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図11】本発明に係る通信装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図12】振動子素子の動作時に基板内において弾性波が発生することを説明する説明図である。
【図13】複数の振動子を並列配置した微小振動子の例を示す構成図である。
【図14】従来の静電駆動型の振動子を示す構成図である。
【図15】先行技術に係る静電駆動型の振動子を示す構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1・・振動子、2・・半導体基板、3・・絶縁膜、4・・入力側配線、5・・出力電極、6・・空間、7・・ビーム、8・・アンカー部、11・・振動子、12・・半導体基板、13・・絶縁膜、14・・入力電極、15・・出力電極、16・・空間、17・・ビーム、18・・配線層、19・・アンカー部、21・・振動子素子、22・・基板、
31・・微小振動子、32・・基板、33・・振動子素子、34・・振動子群、36・・入力配線、38・・DCバイアス給電線、42・・絶縁膜、43・・入力電極、44・・出力電極、45・・配線層、46・・空間、47・・ビーム、48・・アンカー部、49・・2次高調波振動モード、51・・シリコン基板、52・・複合膜、53・・多結晶シリコン薄膜、54・・酸化シリコン膜、55・・犠牲層、56・・多結晶シリコン薄膜、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の振動子素子を格子状に規則的に配列してなる振動子群が配置され、
各振動子素子が、アンカーにより前記基板に支持され、静電気力で前記基板と対向する方向に駆動される梁を有し、
前記各振動子素子の隣接する4つの梁は、アンカーを共用しているか、アンカーに繋がるDC給電線路で結ばれる
ことを特徴とする微小振動子。
【請求項2】
前記各振動子素子が下部電極と前記梁を有してなり、
前記下部電極が前記格子状の対角線方向に延びる配線に接続されている
ことを特徴とする請求項1記載の微小振動子。
【請求項3】
前記振動子素子が、2次高調波振動モードで励振される
ことを特徴とする請求項1記載の微小振動子。
【請求項4】
前記振動子素子が下部電極となる入力電極及び出力電極と前記梁を有してなり、
前記隣接する4つの振動子素子の入力電極又は出力電極のいずれか一方の電極が前記共用するアンカー又はDC給電部を挟んで互いに対向するように配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の微小振動子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の微小振動子を有して成る
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
送信信号及び/又は受信信号の帯域制限を行うフィルターを備えた通信装置において、
前記フィルターとして、請求項1から請求項4のいずれかに記載の微小振動子によるフィルターが用いられて成る
ことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−174174(P2006−174174A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364800(P2004−364800)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)