説明

微小振動子、半導体装置及び通信装置

【課題】 静電駆動型の振動子群からなる微小振動子において、振動子群の境界からの弾性波の反射に起因する不要出力を抑制する。
【解決手段】 基板32上に複数の振動子素子33を配列してなる振動子群341、342が配置され、各振動子素子33は、両端が基板32に支持され静電力で基板32と対向する方向に振動する梁47を有してなり、振動子群341、342の境界線351、352が非方形な形状を成す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば信号フィルタ、ミキサー、共振器などの要素となる微小振動子、この微小振動子を有する半導体装置、及びこの微小振動子による帯域フィルタを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシン(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製された微小振動子が知られている。この微小振動子を高周波フィルタとしての利用がミシガン大学を始めとする研究機関から提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
図18に、上述の高周波フィルタを構成する微小振動子、即ち静電駆動のビーム型振動子の概略を示す。この振動子1は、半導体基板2上に絶縁膜3を介して例えば多結晶シリコンによる入力側配線4と出力電極5が形成され、この出力電極5に対向して空間6を挟んで振動板となる電極、いわゆるビーム(梁)7が形成されて成る。ビーム7は、両端のアンカー部(支持部)8〔8A,8B〕にて支持されるようにブリッジ上に跨いで入力側配線層4に接続される。ビーム7は入力電極となる。入力側配線層4より入力端子t1 が、出力電極5より出力端子t2 が夫々導出される。この振動子1は、ビーム7と接地間にDCバイアス電極V1 が印加された状態で、入力端子t1 を通じてビーム7に高周波信号S1 が供給される。即ち、入力端子t1 からDCバイアス電圧V1 と高周波信号S1 が供給されると、長さで決まる固有振動数を有するビーム7が、出力電極5とビーム7間に生じる静電力で振動する。この振動によって、出力電極5とビームとの間の容量の時間変化とDCバイアス電圧に応じた高周波信号が出力電極5(従って、出力端子t2 )から出力される。高周波フィルタではビーム7の固有振動数(固有周波数)に対応した信号が出力される。
【0004】
一方、多数の振動子を半導体基板、あるいは絶縁基板等の基板上に並べて配置して、信号処理を行うように構成した場合、その信号処理が成されるときの信号品質を確保する、との立場から振動子配置の仕方の適、不適に関して考察し、その実証がなされた例は皆無である。
【0005】
【非特許文献1】C.T.-Nguyen,Micromechanicalcomponents for miniaturized low-power communications(invited plenary),proceedings, 1999 IEEE MTT-S International Microwave Symposium RF MEMS Workshop, June,18,1999,pp,48-77,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術として静電駆動型の振動子の他の構成を図17に示す。この振動子11は、例えば半導体基板12上に絶縁膜13を介して入力電極14及び出力電極15が形成され、この入力電極14及び出力電極15に対向して空間16を挟んで振動板となる電極、いわゆるビーム(梁)17が形成されて成る。ビーム17は、入出力電極14、15をブリッジ上に跨ぎ、入出力電極14、15の外側に配置した配線層18に接続されるように、両端をアンカー部(支持部)19〔19A,19B〕で一体に支持される。入力電極14から入力端子t1 が導出され、入力端子t1 を通じて高周波信号S1 が入力される。出力電極15から出力端子t2 が導出される。ビーム17には所要のDCバイアス電圧V1 が印加される。
【0007】
この振動子11では、入力電極14に高周波信号S1 が入力されると、DCバイアス電圧V1 が印加されたビーム17と入力電極14間に生じる静電力でビーム17が共振し、出力電極15から目的周波数の高周波信号が出力される。この微小振動子11によれば、入出力電極14及び15の対向面積が小さく且つ入出力電極14及び15間の間隔を大きくとれるので、図18の振動子1に比べて入出力電極間の寄生容量Coが小さくなる。したがって、入出力電極14、15間の寄生容量Coを直接透過する信号、つまりノイズ成分が小さくなり、出力信号のSN比が向上する。
【0008】
一方、図16に示すように、同一基板上に複数(いわゆる多数)の振動子(以下、振動子素子という)、例えば下部電極である入出力電極14、15とビーム17を有する振動子素子21〔21A,21B、21C〕を、入出力電極14、15を共通とするようにして並列接続し振動子群として構成し、全体の合成インピーダンスを下げて、高周波デバイスへの適用を可能したものも提案されている。
【0009】
ところで、RF信号が静電駆動型の振動子群に入力され、振動子群の共振が起きるとき、隣接して配置された振動子素子の共振特性が近似的に同じである場合には、振動子素子間の干渉のため振動子群の集団的な振動現象が起きる。
【0010】
図15に示すように、個別の振動子素子21は、上述したように電気的に駆動されるビーム(梁)17であり、ビーム17から離れて設けられた下部電極である入出力電極14、15により駆動される。振動は基板22に垂直な方向に励起される。このため、その反力Fが入出力電極14、15、アンカー部19〔19A,19B〕に印加され、それらの部分が基板22の側から見れば振動源となり、複数の振動源から発した弾性波は基板内で互いに伝播し合う。このようにして発生した基板振動は振動子素子を励振させることとなる。
【0011】
図13に示すように、基板22を含めたある平面形状に配置された複数(多数を含む)の振動子素子21が並列接続して配置されて成る振動子群24は、弾性体と見なすことができる。入力電極14、出力電極15、DCバイアス供給線23は、各振動子素子21に共通に形成される。従って、図13及び図14に示すように、振動子群24の境界線25の形状が平行四辺形の場合、弾性波は振動子群24の境界線25の形状により反射される。反射された弾性波は定在波26となり、個別の振動子素子の特性とは異なる共振状態が起きるのが一般的である。このため、個別の振動子素子の特性を基に設計が成された振動子群においては、所望の信号出力に対して雑音となるか、信号干渉によるリップルの発生となる。このような複雑な系の振動特性を正確にシミュレーションし、設計として取り込むのは極めて困難である。故に、このような不要出力を抑制する振動子群の構造、配置、配線の仕方を見出すことが要請されている。
【0012】
本発明は、上述の点に鑑み、振動子群の境界からの弾性波の反射に起因する不要出力を抑制するようにした微小振動子、この微小振動子を備えた半導体装置、及びこの微小振動子を信号フィルタとして備えた通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る微小振動子は、基板上に複数の振動子素子を配列してなる振動子群が配置され、各振動子素子は、片側端部または両端が基板に支持され静電力で基板と対向する方向に振動する梁を有してなり、振動子群の境界線が非方形な形状を成すことを特徴とする。
【0014】
境界線は、振動子群の最外周の振動子素子の重心を結んだ線であって、かつ、隣接する梁の重心間距離の、梁の長辺長方向、短辺長方向での平均値の大きな方の値の1/2以下の凹凸を直線と見做した線で規定される。境界線が成す多角形は、辺の数が最小であり、その面積が振動子群最外周の全ての振動子の重心を結んで成される多角形の面積に最も近いよう、選択される。境界線は、このようにして決められた多角形の外周と規定する。
【0015】
振動子群の境界線の非方形な形状としては、境界線の何れかに平行な2本の平行線の境界線で切り取られる長さが互いに等しくならないような形状とするのが好ましい。
【0016】
境界線の形状として三角形を選択することができる。
【0017】
振動子群を構成する複数の振動子素子は、基板上に規則性をもって配列することができる。
【0018】
振動子素子としては、2次高調波振動モードで励振されるように構成することができる。
【0019】
本発明に係る半導体装置は、上述した微小振動子を有して成ることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る通信装置は、送信信号及び/又は受信信号の帯域制限を行うフィルタを備えた通信装置において、フィルタとして、上述した微小振動子によるフィルタが用いられて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る微小振動子によれば、振動子群の境界線を非方形な形状にすることにより、振動子群の動作時に、基板内に発生する弾性波が振動子群の境界線により反射されることにより誘起される定在波が収斂し、大きな振幅を有する、振動子群にわたる少数の振動モードとなることを抑制することができる。すなわち、複数の振動子素子を配置した振動子群では、例えばビーム(梁)を支持するアンカー部から漏れる振動エネルギーに起因して振動子群にわたって発生する振幅の大きな定在波の発生が抑制される。このため、この振動子群の不要信号や雑音レベルを下げることができる。従って、本発明による微小振動子を構成要素として用いれば、雑音の少ない優れた特性を有する各種のデバイス、例えば信号処理装置を実現することができる。
【0022】
振動子群の境界線の非方形な形状としては、境界線の何れかに平行な2本の平行線の境界線で切り取られる長さが互いに等しくならない形状とすることができる。これにより上記定在波の発生を確実に抑制することができる。
【0023】
振動子群の境界線の形状が三角形であるときは、上記定在波の発生を確実に抑制することができると共に、振動子群の占有ウェハー面積を必要最小限にすることができる。これによって、配線による浮遊容量を最小限にすることができる。
【0024】
また、振動子群の振動子素子を規則的に配置するときは、振動子群の占有ウェハー面積を必要最小限に留めることができ、配線に係わり発生する浮遊容量を最小限にすることができる。このため、信号処理装置の性能と低価格を実現することができる。
【0025】
本発明に係る半導体装置によれば、半導体装置の構成要素となる振動子に上述の本発明の微小振動子を用いることにより、雑音の少ない優れた特性を有する半導体装置を提供することができる。
【0026】
本発明に係る通信装置によれば、帯域フィルタに本発明の微小振動子によるフィルタを用いることにより、雑音の少ない優れたフィルタ特性が得られ、信頼性の高い通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
本実施の形態は、同一基板上に並列に配置した振動子群において、振動子群の境界からの弾性波の反射に起因する不要出力を抑制するために、振動子群の境界の形状を非方形にする。このようにして、本実施の形態では、弾性波の振動子群内での伝播距離を実効的に長くして弾性定在波が立ちにくくする。
【0029】
振動子群は、複数(多数を含む)の前述した静電駆動するビーム型振動子素子を有して成る。個別振動子素子の配置の仕方は問わない。例えば全く不規則に並べてもよい。しかしながら、この場合、複数の振動子素子を基板上に並べて作製しようとすると、プロセス管理上の種々不具合は発生する。リソグラフィのためのマスクの作製は極めて面倒であるし、化学機械研磨法(CMP)によりウェハーの平坦化を行う場合、研磨量の不均一が発生する。また、ウェハーの利用効率が悪化し、素子が高価になる。こうした事情を踏まえると現実的には、振動子素子の配置は規則的にならざるを得ない。このような前提の下での、非方形の振動子群境界線で最も簡単な形状の例は、三角形である。
【0030】
非方形としては、平行四辺形、正多角形を除く三角形、四角形、多角形とすることができる。典型的には四角形、長四角形でなく歪んだ形状にする。非方形の好ましい形態は、図4A,Bに示すように、複数の振動子素子33が配列された振動子群34を囲む境界線35の何れかに平行な少なくとも振動子素子33のビーム(梁)の長さaを超える距離だけ離れた2本の平行線101、102の境界線35により切り取られる長さX1,X2が等しくないものを指す。代表的には三角形がある。台形は、ここで規定される非方形ではないが、上底と下底の長さに十分な差異があれば、非方形である場合と近似的に等しい効果を得ることができる。
【0031】
境界線35は、図5に示すように、1つの振動子群34の最外周部にある振動子素子33の重心、すなわちビームの中心Oを結んだ曲線である。境界線35は、図6に示すように、ビーム間距離b(b1、b2)のいずれか大きい距離の平均値の1/2以下の凹凸は無視して直線と見做す。すなわち、境界線35は次のようにして決められる。最外周に位置する全ての振動子素子33の重心(つまりビーム47の重心に相当する)を結んでなる多角形81を求める。そして、境界線35のなす多角形の辺の数が最小となるように、振動子素子33の重心と境界線35との距離c(c1、c2)が、隣接する振動子素子33の、振動子素子長辺長方向の平均重心間隔の1/2か、隣接する振動子素子33の、振動子素子短辺長方向の平均重心間隔の1/2のいずれか大きい値以下の条件を満たして、設定する。得られた多角形から、その面積が振動子群の最外周の全ての振動子素子33の重心を結んでなる多角形81の面積に最も近い値を持つ、振動子素子33の重心を結んでなる多角形を選び、境界線35とする。
【0032】
図1に、本発明に係る微小振動子の概念的な実施の形態を示す。本実施の形態で対象とする振動子素子は、マイクロスケール、ナノスケールの素子である。なお、本実施の形態では、一例として基板上に下部電極である入力電極及び出力電極と、両端を支持して振動素子となるビームとを配置して構成される機械共振周波数100MHZの静電駆動型振動子群を取り上げる。
【0033】
本実施の形態に係る微小振動子31は、図1に示すように、基板、本例では高抵抗シリコン基板の表面に絶縁膜が形成された基板32上に、多数の静電駆動型の振動子素子33を配列してなる複数、本例では2つの振動子群34〔341、342〕を配置して構成される。
【0034】
各振動子群34〔341、342〕内では多数の振動子素子33が並列接続され、さらに両振動子群341及び342が並列接続される。各振動子群341及び342は、非方形、本例では3辺の長さが異なる不等辺三角形、図示では直角三角形の境界線35〔351、532〕を持つように形成される。両境界線351及び352は、夫々の振動子群341、342の基板32内で夫々発生する弾性波が相互に伝播しない距離W1だけ離れている。また、直角三角形の境界線351、352は、振動子群34〔341、342〕をコンパクトに配置できるように、互いの三角形の斜辺が対向するように形成される。
なお、図1では理解し易くするために、境界線351,352に含まれている振動子素子33の数を省略しているが、実際は多数の振動子素子33が配列されているものである。
【0035】
振動子群34〔341、342〕内での振動子素子33は、規則性をもって配列されている。各振動子素子33は、後述する(図2を用いて詳述する)が、下部電極である入力電極43、出力電極44及び配線層45と、両端を配線層45に支持して振動電極となるビーム(梁)47とで構成される。各振動子素子33は、その入力電極43を基板上に形成した共通の入力配線36に接続し、その出力電極44を基板上に形成した共通の出力電極配線37に接続し、そのビーム47を基板上に形成した共通のDCバイアス給電線38に接続するようにして、並列接続される。
【0036】
各振動子素子33は、前述と同様に図2に示すように、シリコン基板41の表面に絶縁膜(例えばシリコン酸化膜)42が形成された基板32上に、下部電極となる入力電極43及び出力電極44と、入出力電極43、44を挟む両側の配線層45〔45A,45B〕を形成し、この入出力電極43、44に対して空間46を挟んで対向する振動電極となるビーム(梁)47を配置して構成される。ビーム47は、両端が配線層45〔45A,45B〕に電気的かつ機械的に接続されたアンカー部(支持部)48〔48A,48B〕に支持される。このビーム47はいわゆる両持ち梁構造に形成される。
この振動子素子33は、前述と同様に、ビーム47にDCバイアス電圧を印加し、入力電極43に例えばRF波周波数信号を入力すると、ビーム47が共振し、出力電極44に目的周波数のRF信号が出力される。この振動子素子33は、図2に示すように、2次高調波振動モード49で共振する。
【0037】
次に、図7及び図8を用いて本実施の形態の微小振動子の製造方法を説明する。なお、同図は図1のAーA′線上の断面構造を示す。工程の仕様は通常のCMOS作製プロセスで用いられるものと同等である。
先ず、図7Aに示すように、高抵抗のシリコン基板51の上面に絶縁膜として例えば酸化シリコン薄膜(HDP膜:High Density Plasma酸化膜)と窒化シリコン薄膜との複合膜52を成膜した基板32を用意する。本例では膜厚200nm程度の複合膜52を成膜する。続けて、この複合膜52上に導電性膜、例えば導電性のある多結晶シリコン薄膜(PDAS膜:Phosphorus doped amorphous silicon)53を所要の膜厚、本例では380nm程度に成膜する。
【0038】
次に、図7Bに示すように、レジストマスクを形成し、このレジストマスクを介して例えばドライエッチング法により多結晶シリコン薄膜53を選択的にエッチング除去し、下部電極である入力電極43及び出力電極44と、ビーム(梁)の固定部を兼ねる配線層45〔45A,45B〕を形成する。
【0039】
次に、図7Cに示すように、形成された入力電極43、出力電極44及び配線層45〔45A,45B〕を絶縁膜の例えば酸化シリコン膜(HDP膜)54で埋め戻し、化学機械研磨法(CMP)により平坦化し、入力電極43、出力電極44及び配線層45〔45A,45B〕の表面を露出させる。
【0040】
次に、図7Dに示すように、表面に入力電極43及び出力電極44とビームとの間の間隔に相当する所要の厚さの犠牲層55を形成する。本例では50nm程度の厚さの酸化シリコン薄膜(LPーTEOS膜)による犠牲層55を形成する。
【0041】
次に、図8Eに示すように、犠牲層5上に必要に応じて薄い膜厚、例えば20nm程度の多結晶シリコン薄膜56を形成した後、この多結晶シリコン薄膜56及び犠牲層55を例えばドライエッチング法により選択的にエッチング除去して両配線層45〔45A,45B〕に達する透孔56〔56A,56B〕を形成する。
【0042】
次に、図8Fに示すように、表面に多結晶シリコン薄膜56を有する犠牲層55上に、多結晶シリコン膜(PDAS膜)57を所要の厚さになるまで成膜する。続いて、ドライエッチング法により多結晶シリコン膜57をパターニングして両端が配線層45A,45Bに接続されたビーム(梁)47を形成する。この場合、ビーム47の両端から延長して配線層45A,45Bに接続する部分、すなわち透孔56A,56B内の部分がビーム47のアンカー部(支持部)48〔48A,48B〕となる。
【0043】
次に、図1の配線36、37、38及びパッド(図示せず)となる導電膜、例えばアルミシリコン(AlーSi)薄膜を形成し、配線36、37、38、パッド上にレジストマスクを形成した後、例えばフッ化水素溶液(DHF)を用いて不要なアルミシリコン膜及び犠牲層55を選択的に除去する。これにより、図8Gに示すように、入力電極43及び出力電極44とビーム47との間に50nmの空間46を有する振動子素子33を形成する。同時に配線、すなわち入力配線36、出力配線37、DCバイアス給電線38を形成する。振動子素子33の概略寸法の一具体例として、図8Gに示す通り、ビーム長さLが13.2μm、ビームの膜厚tが1μm、空間hが50nmとすることにより、2次の高調波が励起された時の共振周波数がおよそ100MHzとなるように振動子素子33が設計される。このようにして目的の微小振動子31を得る。
【0044】
本実施の形態に係る微小振動子31によれば、振動子群34〔341、342〕の境界線35〔351、352〕の形状を非方形、例えば不等辺三角形にすることにより、図3に示すように、動作時に基板32内で発生する弾性波50、50’は振動子群34〔341、342〕の境界35で反射するも一つの定在波に収斂しない。すなわち、弾性波50は、境界線35で反射した反射波の相互干渉により抑制される。このように、微小振動子の動作時に、アンカー部32から漏れる振動エネルギーに起因して振動子群34〔31、342〕にわたって発生する定在波の発生が抑制できる。このため、振動子群(いわゆる並列共振器)34〔341、342〕の不要信号や雑音レベルを下げることができる。すなわち、本実施の形態による微小振動子31を構成要素として用いれば、雑音の少ない優れた特性を有する各種デバイス、例えば信号処理装置を実現することができる。
【0045】
また、規則的に個別の振動子素子33を配置した場合は、振動子群34〔341、342〕の占有ウェハー面積を必要最小限に止めることができるため、配線に係わり発生する浮遊容量を最小限にすることができる。また、振動子群34の形状を図示のような直角三角形にすることにより、占有ウェハー面積を必要最小限に止めることができ、この点でも配線に係わり発生する浮遊容量を最小限にすることができる。このために信号処理装置の性能の向上と低価格とを実現することができる。
【0046】
図1の微小振動子31では、図2に示す第2高調波振動モード49の振動子素子33を用いたが、その他の振動モードの振動子素子を適用することもできる。例えば、図9に示すような、基板61上に下部電極となる出力電極62と、両端をアンカー部66で支持され、DCバイアスと入力信号が入力される振動電極であるビーム63とを有してなる1次振動モード64の振動子素子67を適用することができる。また、図10に示すように基板51上に例えば入力電極71を挟んで両側に出力電極72を配置し、この入力電極71及び出力電極72に対向して両端がアンカー部74に支持されるビーム73を配置して成る3次高調波振動モード75の振動子素子76を適用することができる。さらに図11示すように基板61上に例えば下部電極となる入力電極71と出力電極72を、両者間が広く離なれるように配置し、この入力電極71と出力電極72に対向してビーム73を配置して成る3次高調波振動モード75の振動子素子77を適用することができる。
【0047】
上例では、ビームを両持ち梁構造とした振動子素子を用いたが、片持ち梁構造のビームを有する振動子素子を用いることもできる。
【0048】
本発明に係る他の実施の形態においては、上述の微小振動子31を用いて、信号フィルタ、ミキサー、共振器、及びそれらが含まれるSiP(システム・イン・パッケージ)デバイスモジュール、SoC(システム・オン・チップ)デバイスモジュール等の半導体装置を構成することができる。
本実施の形態の半導体装置によれば、雑音の少ない優れた特性を有する微小振動子を備えるので、信頼性に高い半導体装置を提供することができる。
【0049】
上述した実施の形態の静電駆動型の振動子群からなる微小振動子は、高周波(RF)フィルタ、中間周波(IF)フィルタ等の帯域信号フィルタとして用いることができる。
【0050】
本発明は、上述した実施の形態の微小振動子によるフィルタを用いて構成される携帯電話機、無線LAN機器、無線トランシーバ、テレビチューナ、ラジオチューナ等の、電磁波を利用して通信する通信装置を提供することができる。
【0051】
次に、上述した本発明の実施の形態のフィルタを適用した通信装置の構成例を、図12を参照して説明する。
まず送信系の構成について説明すると、Iチャンネルの送信データとQチャンネルの送信データを、それぞれデジタル/アナログ変換器(DAC)201I及び201Qに供給してアナログ信号に変換する。変換された各チャンネルの信号は、バンド・パス・フィルタ202I及び202Qに供給して、送信信号の帯域以外の信号成分を除去し、バンド・パス・フィルタ202I及び202Qの出力を、変調器210に供給する。
【0052】
変調器210では、各チャンネルごとにバッファアンプ211I及び211Qを介してミキサー212I及び212Qに供給して、送信用のPLL(phase-locked loop)回路203から供給される送信周波数に対応した周波数信号を混合して変調し、両混合信号を加算器214で加算して1系統の送信信号とする。この場合、ミキサー212Iに供給する周波数信号は、移相器213で信号位相を90°シフトさせてあり、Iチャンネルの信号とQチャンネルの信号とが直交変調されるようにしてある。
【0053】
加算器214の出力は、バッファアンプ215を介して電力増幅器204に供給し、所定の送信電力となるように増幅する。電力増幅器204で増幅された信号は、送受信切換器205と高周波フィルタ206を介してアンテナ207に供給し、アンテナ207から無線送信させる。高周波フィルタ206は、この通信装置で送信及び受信する周波数帯域以外の信号成分を除去するバンド・パス・フィルタである。
【0054】
受信系の構成としては、アンテナ207で受信した信号を、高周波フィルタ206及び送受信切換器205を介して高周波部220に供給する。高周波部220では、受信信号を低ノイズアンプ(LNA)221で増幅した後、バンド・パス・フィルタ222に供給して、受信周波数帯域以外の信号成分を除去し、除去された信号をバッファアンプ223を介してミキサー224に供給する。そして、チャンネル選択用PLL回路251から供給される周波数信号を混合して、所定の送信チャンネルの信号を中間周波信号とし、その中間周波信号をバッファアンプ225を介して中間周波回路230に供給する。
【0055】
中間周波回路230では、供給される中間周波信号をバッファアンプ231を介してバンド・パス・フィルタ232に供給して、中間周波信号の帯域以外の信号成分を除去し、除去された信号を自動ゲイン調整回路(AGC回路)233に供給して、ほぼ一定のゲインの信号とする。自動ゲイン調整回路233でゲイン調整された中間周波信号は、バッファアンプ234を介して復調器240に供給する。
【0056】
復調器240では、供給される中間周波信号をバッファアンプ241を介してミキサー242I及び242Qに供給して、中間周波用PLL回路252から供給される周波数信号を混合して、受信したIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分を復調する。この場合、I信号用のミキサー242Iには、移相器243で信号位相を90°シフトさせた周波数信号を供給するようにしてあり、直交変調されたIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分を復調する。
【0057】
復調されたIチャンネルとQチャンネルの信号は、それぞれバッファアンプ244I及び244Qを介してバンド・パス・フィルタ253I及び253Qに供給して、Iチャンネル及びQチャンネルの信号以外の信号成分を除去し、除去された信号をアナログ/デジタル変換器(ADC)254I及び254Qに供給してサンプリングしてデジタルデータ化し、Iチャンネルの受信データ及びQチャンネルの受信データを得る。
【0058】
ここまで説明した構成において、各バンド・パス・フィルタ202I,202Q,206,222,232,253I,253Qの一部又は全てとして、上述した実施の形態の構成のフィルタを適用して帯域制限することが可能である。
【0059】
本発明の通信装置によれば、雑音の少ない優れた特性を有するフィルタを用いるので、信頼性の高い通信装置を提供することができる。
【0060】
図12の例では、各フィルタをバンド・パス・フィルタとして構成したが、所定の周波数よりも下の周波数帯域だけを通過させるロー・パス・フィルタや、所定の周波数よりも上の周波数帯域だけを通過させるハイ・パス・フィルタとして構成して、それらのフィルタに上述した各実施の形態の構成のフィルタを適用してもよい。また、図12の例では、無線送信及び無線受信を行う通信装置としたが、有線の伝送路を介して送信及び受信を行う通信装置が備えるフィルタに適用してもよく、さらに送信処理だけを行う通信装置や受信処理だけを行う通信装置が備えるフィルタに、上述した実施の形態の構成のフィルタを適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る微小振動子の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】図1のAーA′線上の振動子素子の断面図である。
【図3】本発明の説明に供する振動子群で発生した基板内の弾性波の反射状態の説明図である。
【図4】A,B 本発明による振動子群の境界線の形状を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る振動子群及びその境界線の形状を示す拡大図である。
【図6】本発明の振動子群の境界線の説明図である。
【図7】A〜D 本実施の形態に係る微小振動子の製造方法の一実施の形態を示す製造工程図(その1)である。
【図8】E〜G 本実施の形態に係る微小振動子の製造方法の一実施の形態を示す製造工程図(その2)である。
【図9】本発明に係る振動子素子の他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図10】本発明に係る振動子素子の他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図11】本発明に係る振動子素子の他の実施の形態を示す概略構成図である。
【図12】本発明に係る通信装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図13】比較例に係る振動子群の構成図である。
【図14】図12の振動子群において定在波が発生することを説明する説明図である。
【図15】振動子素子の動作時に基板内において弾性波が発生することを説明する説明図である。
【図16】複数の振動子を並列配置した微小振動子の例を示す構成図である。
【図17】従来の静電駆動型の振動子を示す構成図である。
【図18】先行技術に係る静電駆動型の振動子を示す構成図である。
【符号の説明】
【0062】
31・・微小振動子、32・・基板、33・・振動子素子、34〔341、342〕・・振動子群、35〔351、352〕・・境界線、36・・入力配線、37・・出力配線、38・・DCバイアス給電線、41・・シリコン基板、42・・絶縁膜、43・・入力電極、44・・出力電極、45〔45A,45B〕・・配線層、46・・空間、47・・ビーム(梁)、48〔48A,48B〕・・アンカー部、49・・2次高調波もード、50・・弾性波


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数の振動子素子を配列してなる振動子群が配置され、
前記各振動子素子は、片側端部または両端が前記基板に支持され静電気力で前記基板と対向する方向に振動する梁を有してなり、
前記振動子群の境界線が非方形な形状を成す
ことを特徴とする微小振動子。
【請求項2】
前記境界線は、振動子群の最外周の振動子素子の重心を結んだ線であって、かつ、隣接する梁の重心間距離の、梁の長辺長方向、短辺長方向での平均値の大きい方の値の1/2以下の凹凸を直線と見做した線で規定される
ことを特徴とする請求項1記載の微小振動子。
【請求項3】
前記振動子群の境界線の非方形な形状は、前記境界線の何れかに平行な2本の平行線の前記境界線で切り取られる長さが互いに等しくならないような形状である
ことを特徴とする請求項1記載の微小振動子。
【請求項4】
前記振動子群の境界線の形状は、三角形である
ことを特徴とする請求項1記載の微小振動子。
【請求項5】
前記振動子群を構成する複数の振動子素子が前記基板上に規則性をもって配列されて成る
ことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の微小振動子。
【請求項6】
前記振動子素子が2次高調波振動モードで励振される
ことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の微小振動子。
【請求項7】
前記振動子素子が2次高調波振動モードで励振される
ことを特徴とする請求項5記載の微小振動子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の微小振動子を有して成る
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
送信信号及び/又は受信信号の帯域制限を行うフィルタを備えた通信装置において、
前記フィルタとして、請求項1から請求項7のいずれかに記載の微小振動子によるフィルタが用いられて成る
ことを特徴とする通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−186634(P2006−186634A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377721(P2004−377721)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)