微小流量送液装置、及び送液方法
【課題】 微小流量を分離媒体に送液するための送液方法、及び送液装置を提供すること。
【解決の手段】 送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とを計測し、(1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の流量比率を乗じた、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するよう、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、または、(2)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値に、1を超える任意の流量比率を乗じた、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の計算流量値と、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量の計測値が一致するよう、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値を制御する、微小流量送液方法、及び前記方法を利用した送液装置を用いることで、前記課題を解決した。
【解決の手段】 送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とを計測し、(1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の流量比率を乗じた、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するよう、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、または、(2)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値に、1を超える任意の流量比率を乗じた、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の計算流量値と、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量の計測値が一致するよう、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値を制御する、微小流量送液方法、及び前記方法を利用した送液装置を用いることで、前記課題を解決した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
毎分数百nLから数十μLといった微小流量を流すための装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毎分数百nLから数十μLといった微小流量を流すことができる装置は存在するものの、多くの欠点を有する。液体クロマトグラフィでよく知られるストローク機構を有するポンプは、前記微小流量を安定的に流すことは期待できない。別法として、シリンジ式ポンプは、前記微小流量においても比較的安定的に流すことができるものの、シリンジ容量が有限であり、かつ、連続的な使用が困難で各バッチ間に差異が生じやすいといった課題がある。
【0003】
古典的な微小流量を流すための方法として、スプリット法(スタティックスプリット法)が知られている。目的の流量の数十倍から数百倍の流量を流し、分離媒体(7)の前で分岐手段(13)を用いて分岐し、その数十分の一から数百分の一を分離媒体側(A側流路)に流し、残りの大部分を廃棄側(B側流路)に流す方法である(図1参照)。本法ではA側流路とB側流路の圧力比により分岐比率が決まる。定常状態では微小流量を流すことができるが、A側流路とB側流路の圧力比が外乱により変化した場合、分岐比率が変化し、目的の微小流量も変化してしまう欠点がある(特許文献1及び2)。
【0004】
スタティックスプリット法の欠点を解決するために提案されたのが、アクティブスプリット法である(特許文献3)。本法(図2参照)は、A側流路またはB側流路に熱式流量計(5a)を配置し、流量が一定になるよう可動式のオリフィスバルブ(流量制御装置)(5b)で制御するものである。分離媒体(7)の下流側には目的成分の検出や捕獲するための機器を配置することが多いため、図2の装置のようにB側流路に熱式流量計(5a)を配置するのが一般的である。本法は、分離媒体や各配管の物理的な詰まりなどによる外乱が発生しても、スタティックスプリット法と比較し、A側流路に流れる微小流量への影響は少ない。しかしながら、アクティブスプリット法にもいくつかの課題がある。
【0005】
第一の課題として、B側流路の流量を一定にする制御を行なうため、分岐前の流量が変化した場合、その変化分はすべて目的流路であるA側流路の流量変化となる。
【0006】
例えば図2の装置の場合、B側流路の流量値(Fb)を熱式流量計(5a)により任意のサンプリング間隔で計測し、その値が一定になるように流量制御装置(5b)で制御する。この値と分岐前の流量(Fm)との差がA側流路に送液される(Fa)。その流量変化を図3に示す。
【0007】
Fa=Fm−Fb
Fa:A側流路の流量(微小流量)
Fb:B側流路の流量値(大流量)
Fm:分岐前の流量
ここで使用される熱式流量計(5a)は高精度であるため、分岐前の流量(Fm)が変動してもB側流路を一定に保つことができる(図3(a))。よって、分岐前の流量(Fm)が変動した場合、その偏差の殆どがA側流路の流量(Fa)に影響する(図3(b))。たとえば、分岐前の流量(Fm)毎分50μL、B側流路の流量(Fb)を毎分49μLで制御した場合、理論的にはA側流路の流量(Fa)は、毎分1μLとなる。分岐前の流量(Fm)が毎分±0.2μL変動した場合、B側流路の流量(Fb)は毎分49μLで制御されるため、A側流路の流量(Fa)は毎分0.8から1.2μLで変動し、±20%の誤差が生じてしまう。
【0008】
第二の課題として、流す液体の比熱が変化する場合(液体クロマトグラフィで使用される溶媒グラジエントなどの手法)、熱式流量計の応答が変化する。例えば、水で校正を行なった熱式流量計でアセトニトリルを使用した場合、同じ流量でありながら応答出力は水の場合の約30%である。よって、前記熱式流量計を用いたアクティブスプリット法による微小流量を流す方法において、水に続きアセトニトリルを流した場合、送液量が一定であると前記熱式流量計の応答出力が減少するため、応答出力を一定にするにはB側流路の流量が増加させる必要があり、結果的にA側流路の流量が減少する。そのため、アクティブスプリット法により微小流量を流すのは更に困難となる。
【0009】
【特許文献1】特開2004−309135号公報
【特許文献2】特表2004−506896号公報
【特許文献3】特開2006−276021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
分析装置において、毎分数百nLから数十μLといった微小流量を分離媒体へ流すための微小流量送液手段、及び送液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、送液手段によって液体を流し、分岐手段を用いて、分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液装置であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値を任意のサンプリング間隔で計測する第一の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を第一の流量計と同じまたは異なるサンプリング間隔で計測する第二の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を必要に応じて制御する流量制御手段と、
第一及び第二の流量計で計測された流量値に基づいて、送液手段と分岐手段との間の流路、分離媒体側の流路、及び廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御するための信号を送る演算手段とを備え、
前記演算手段は
(1−1)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1未満の任意の値を乗じて、第二の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(1−2)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記流量制御手段を制御する、
または、
(2−1)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1を超える任意の値を乗じて、第一の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(2−2)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記送液手段を制御する、
ことを特徴とする、前記装置である。
【0012】
第二の発明は、前記第一及び第二の流量計が、熱式流量計であることを特徴とする、第一に発明に記載の微小流量送液装置である。
【0013】
第三の発明は、廃棄側の流路に前記第二の流量計及び前記流量制御手段を設置していることを特徴とする、第一から第二の発明に記載の微小流量送液装置である。
【0014】
第四の発明は、前記演算手段には、各サンプリング間隔で計測した時間における、
(1)第一及び第二の流量計で計測された流量値、
(2)第一または第二の流量計で計測されるべき流量の計算値、
(3)流量制御手段または送液手段で制御すべき流量値、
(4)流量制御手段または送液手段の制御に関する情報、
を記録するための記録手段を備えていることを特徴とする、第一から第三の発明に記載の微小流量送液装置である。
【0015】
第五の発明は、送液手段を用いて液体を流し、分岐手段を用いて分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液方法であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
(1−1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の値を乗じて、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の流量値を計算し、
(1−2)前記計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するように、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または
(2−1)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量に、1を超える任意の値を乗じて、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の流量値を計算し、
(2−2)前記計算流量値と、前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値とが一致するように、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御する、
ことを特徴とする、前記方法である。
【0016】
第六の発明は、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に1未満の任意の値を乗じた計算値で制御される流量が、廃棄側の流路に流れる液体の流量であることを特徴とする、第五の発明に記載の微小流量送液方法である。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
計測した送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の流量比率を乗じた流量値を計算し、前記計算流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量の計測値とが一致するよう、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または、
計測した分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値に、1を超える任意の流量比率を乗じた流量値を計算し、前記計算流量値と、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量の計測値とが一致するよう、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御することで、
一定の微小流量の液体を分離媒体側の流路に流すことを特徴としている。
【0019】
本発明の微小流量送液方法における流量値の計測方法としては、液体の流量が計測可能な装置を用いるのであれば限定されないが、特に微小流量の液体を高精度に計測可能な熱式流量計を用いて計測するのが好ましい。
【0020】
本発明の微小流量送液方法において、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する場合は、液体の流量を計測した流路と同じ流路に流れる液体の流量を制御(例えば、流量を計測する流路が分離媒体側の流路の場合、分離媒体側の流路の流量を制御)してもよいし、液体の流量を計測した流路と異なる流路を流れる液体の流量を制御(例えば、流量を計測する流路が分離媒体側の流路の場合、廃棄側の流路の流量を制御)してもよいが、制御の容易性から前者の制御が好ましい。
【0021】
本発明の微小流量送液方法における、流量制御手段を用いた、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量制御方法としては、以下の方法があげられる。
[1]流量を制御する流路上にバルブを設置し、流量を制御する方法。
[2]分岐手段中にバルブを設置し、流量を制御する方法。
このうち、[1]または[2]の方法におけるバルブとしては、流量制御に通常用いられるゲートバルブ(仕切弁)、グローブバルブ(玉形弁)、バタフライバルブ、ダイヤフラムバルブを例示できるが、容易に微小流量の制御が可能なオリフィス板を利用したバルブを用いるのが好ましい。また、オリフィス板を利用したバルブを用いた流量制御では、
[3]オリフィス板が全開の状態から制御を開始し、その状態からオリフィス板を狭める制御、
[4]オリフィス板が中間開度の状態から制御を開始し、その状態からオリフィス板を広げる、または狭める制御、
いずれの制御を行なってもよい。[3]の制御は、流量を開始時の流量から増加させる制御を行なう場合、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量制御を行なう必要があるものの、オリフィス板で制御できる流量の範囲を、[4]の制御と比較し広くすることができる。一方[4]の制御は、オリフィス板で制御できる流量の範囲は[3]の制御と比較し狭いものの、流量を開始時の流量から増加させる制御を行なう場合でも、オリフィス板を広げる制御で対応できる。
【0022】
本発明の微小流量送液方法における、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量制御方法としては、送液手段で流す液体の流量を制御する方法があげられる。
【0023】
本発明の微小流量制御方法では、以下の[1]または[2]のいずれかの制御を行なう方法でもよいし、必要に応じて[1]と[2]の制御を切り替える方法であってもよい。
[1]分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御
[2]送液手段と分岐手段との間の流路に流れる液体の流量を制御
後者の微小流量制御方法を採用した場合には、分離媒体側または廃液側の流路に流れる液体の計測流量値と、計算流量値との間に大きな違いがあり、分離媒体側または廃液側の流路に設置した流量制御装置では流量の制御ができなくなった場合(例えば、オリフィスバルブが全開となった場合)でも、送液手段で流す液体の流量制御に切り替えることで、分離媒体側または廃液側の流路に流れる液体の流量を制御することができる。
【0024】
分離媒体側流路に設置される分離媒体としては、微小試料を分析・分取する目的に合致したものであればよく、微小試料を分析・分取するための液体クロマトグラフ用カラム、キャピラリー電気泳動用カラム、電気泳動などの分析用マイクロプレート、分取用マイクロプレートを例示することができる。また、分取した試料を別の試薬と反応させるマイクロリアクターの構成要素としても、本発明の送液方法を採用できる。
【0025】
本発明の微小流量送液方法を用いた送液装置の一態様を図4に示す。送液ポンプ(2)により溶離液(1)を一定流量で送液する。送液された溶離液(1)は第一の熱式流量計(4)を通過した後、分岐ブロック(13)により分離媒体側(以下、A側流路とする)と廃棄側(以下、B側流路とする)に分岐される。A側流路には液体の流れる順に、第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)、試料注入装置(6)、分析カラム(7)、検出器(9)が配置されている。B側流路に流れた液体はそのまま廃液(11)となる。なお、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置している。また、図4には記載されていないが、B側流路には必要に応じて抵抗管といった圧力調整手段を設置してもよい。
【0026】
ポンプ(2)により送液された溶離液(1)の流量値を第一の熱式流量計(4)により、A側流路に流れる溶離液の流量値を第二の熱式流量計(5a)により、それぞれ任意のサンプリング間隔で計測し、その値を演算機(14)に入力後、前記演算機(14)で、前記計測流量値のうち、第一の熱式流量計(4)で計測された流量値に1未満の任意の流量比率を乗じることでA側流路に流すべき流量を計算する。そして、前記計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)で計測された流量値と比較し、両方の流量値が一致するよう、流量制御装置(5b)の流量を制御する信号を前記演算機(14)から送ることで、A側流路に流れる溶離液の流量制御を行なう。これにより、A側流路は毎分数百nLから数十μLといった微小流量が流れ、B側流路には分岐前の流量とA側流路の流量の差分が流れる。演算機(14)は単独で存在してもよいし、第一の熱式流量計(4)または第二の熱式流量計(5a)に含まれてもよい。なお、前記演算機(14)には前記制御を行なうためのプログラムが備えられており、さらに
(1)第一及び第二の熱式流量計で計測された流量値、
(2)第二の熱式流量計で計測されるべき流量の計算値、
(3)流量制御装置で制御すべき流量値、
(4)流量制御装置の制御に関する情報、
を記録するための記録手段を備えているのが、前記制御を効率的に行なう点で好ましい。
【0027】
図4に示す、A側流路に第二の熱式流量計(5a)を設置した送液手段では、分析カラム(7)の前に、少なくとも数百μL程度の内部容量を有する第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)が設置されている。毎分数百nLから数十μLの微小流量が流れるA側流路に対し、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)の有する内部容量が大きいため、特に毎分数百nLと極めて微小な流量をA側流路に流す場合、第一の熱式流量計(4)を流れた溶離液が流量制御装置(5b)出口に設置された分析カラム(7)に到達するには相当の時間を要し(A側流路の流量が毎分500nLで、前記流量計及び制御装置の有する内部容量が500μLの場合、溶離液が前記流量計及び制御装置の通過するのに計算上1000分を要する)、分析カラム(7)へ到達する時間に遅れが生じる。
【0028】
分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系(例えば、アイソクラティック法での溶出、カラム洗浄、緩衝液置換)の場合は、事前に送液手段に溶離液を流すことで、分析カラム(7)へ到達する時間が遅れる問題は解消できる。また、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置しているため、第二の熱式流量計へ到達する時間の遅れは無視できる。
【0029】
一方、液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント法での溶出)では、分離カラムへの到達時間の遅れがそのまま組成変化への応答の遅れに繋がるため、第二の熱式流量計(5a)と流量制御装置(5b)で流量を制御しても、分析カラム(7)に所望の流量及び組成の溶離液を送液するのは困難である。
【0030】
本発明の微小流量送液方法を用いた送液装置の別の態様を図5に示す。
【0031】
図4の装置との違いは、A側流路の配置が液体の流れる順に、試料注入装置(6)、分析カラム(7)、検出器(9)、第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)となっていることである。なお、図5には記載されていないが、B側流路には必要に応じて抵抗管といった圧力調整手段を設置してもよい。図5の装置も、図4の時と同様、A側流路には毎分数百nLから数十μLといった微小流量を作り出すことができる。
【0032】
分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系(例えば、アイソクラティック法での溶出、カラム洗浄、緩衝液置換)の場合は、図4の装置と同様、事前に送液手段に溶離液を流すことで、分離カラムへ到達する時間が遅れる問題は解消できる。また、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)との間には内部容量を有する分析カラム(7)が設置されているが、事前に送液手段に溶離液を流すことで、第二の熱式流量計へ到達する時間が遅れる問題も解消できる。
【0033】
液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント法での溶出)では、図4の時と同様、分析カラム(7)への到達時間の遅れがそのまま組成変化への応答の遅れに繋がるが、第一の熱式流量計(4)と分析カラム(7)とが接近して設置している場合は、分析カラム(7)へ到達する時間が遅れる問題は無視できる。しかしながら、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)との間には、内部容量を有する分析カラム(7)が設置されているため、第二の熱式流量計へ到達する時間が遅れる問題、つまり組成変化への応答が遅れる問題が無視できなくなる。また、分離した目的成分の分画(捕集)装置、及び質量分析装置といった他の分析装置を第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)の後に設置した場合、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)に少なくとも数百μL程度の内部容量を有しているため、当該分取装置及び他の分析装置に所望の流量及び組成の溶離液を送液するのはさらに困難となる。なお、分画(捕集)装置、及び他の分析装置を分析カラム(7)と第二の熱式流量計(5a)の間に設置した場合は当該分取装置及び他の分析装置へ到達する時間が遅れる問題は解消できるが、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)との間の距離がさらに離れるため、第二の熱式流量計へ到達する時間にさらに大きな遅れが発生する。
【0034】
本発明の微小流量送液方法を用いた送液装置の好ましい態様を図6に示す。
【0035】
図4の装置との違いは、第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)がB側流路に配置されており、A側流路には液体の流れる順に、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及び検出器(9)が配置されていることである。なお、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置している。また、図6には記載されていないが、B側流路には必要に応じて抵抗管といった圧力調整手段を設置してもよい。
【0036】
ポンプ(2)により送液された溶離液(1)の流量値を第一の熱式流量計(4)により、B側流路に流れる溶離液の流量値を第二の熱式流量計(5a)により、それぞれリアルタイムで計測し、その値を演算機(14)に入力後、前記演算機(14)で、前記計測流量値のうち、第一の熱式流量計(5a)で計測された流量値に1未満の任意の流量比率を乗じることでB側流路に流すべき流量を計算する。そして、前記計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)で計測された流量値と比較し、両方の流量値が一致するよう、流量制御装置(5b)の流量を制御する信号を前記演算機(14)から送ることで、B側流路に流れる溶離液の流量をリアルタイムで制御を行なう。これにより、A側流路には分岐前の流量とB側流路の流量の差分が流れる。
【0037】
図6の微小流量送液装置の場合、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)といった内部容量が少なくとも数百μL程度有する装置が、流量の多い廃棄側流路(B側流路)に設置されている。そのため、A側流路に設置の分析カラム(7)へ到達する時間が遅れる問題は解消できる。また、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置しているため、第二の熱式流量計(5a)へ到達する時間が遅れる問題も解消できる。さらに、液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント法での溶出)においても、B側流路に流れる流量に対し、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)の有する内部容量に差がないため、溶離液の組成変化の遅れの問題も解消できる。そのため、液体の組成が経時的に変化しない系/する系を問わず、所望の流量及び組成の溶離液を分析カラム(7)に流すことができる。
【0038】
図6の微小流量送液装置における送液方法では、分岐前の流量値(送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値)(Fm)を任意のサンプリング間隔で計測し、その流量値に、ある一定の流量比率を乗じて、B側流路の流量制御値とし制御を行なう。その流量変化を図7に示す。
【0039】
Fb=Fm・S
Fa=Fm−Fb
Fa:A側流路の流量(微小流量)
Fb:B側流路の流量値(大流量)
Fm:分岐前の流量値
S:流量比率
図6の微小流量送液手段における送液方法では、分岐前の流量値(Fm)を任意のサンプリング間隔で計測できるように第一の熱式流量計(4)が設置されている。分岐前の流量値(Fm)を任意のサンプリング間隔で計測し、その値に1未満の一定の流量比率(S)を乗じて、B側流路の制御流量値として与える。そのため、分岐前の流量値(Fm)が変動した場合であっても、B側流路の流量値(Fb)は分岐前の流量値(Fm)に前記流量比率(S)を乗じた値で制御され(図7(a))、A側流路の流量(Fa)はその差分となる。よって、A側流路の流量(Fa)の変動は、流量の絶対値で制御する従来のアクティブスプリット法(図3(b))による微小流量送液方法と比較し小さくなる(図7(b))。たとえば、図6の装置で、分岐前の流量(Fm)を毎分50μL、分岐比率を(S)を0.98とした場合、B側流路の計算流量値(Fb)は毎分49μL、A側流路の流量(Fa)は、毎分1μLとなる。分岐前の流量値(Fm)が毎分±0.2μL変動した場合、B側流路の流量値(Fb)は毎分48.80から49.12μLで変動する。A側流路の流量(Fa)は毎分0.996から1.004μLで変動し、毎分0.008μL(±0.4%)の誤差で収まる。一方、同様な条件(分岐前の流量:毎分50μL、B側流路の流量:毎分49μL、流量値変動:毎分±0.2μL)で従来のアクティブスプリット法(図2)による微小流量送液方法では、A側流路の流量変動は毎分0.4μL(±20%)の変動となる。
【0040】
溶離液の組成が経時的に変化する溶媒グラジエント溶出法のような場合、従来のアクティブスプリット法では微小流量を流すのは更に困難となる。
【0041】
熱式流量計は使用する溶離液にて事前に補正されているため、異なる溶離液を流した場合、その値は実際の値と乖離する。熱式流量計の出力は下式のように使用する溶離液の比熱により変化する。
【0042】
Vsignal=k・Cp・Φ
Vsignal=出力流量値
k=補正係数
Cp=比熱
Φ=実際の流量
図8に、水で補正を行なった熱式流量計を使用し、水100%からアセトニトリル100%までのグラジエントを行なった場合の熱式流量計の出力の変化を示す。水の比熱は1.00Cal/(g・deg)、アセトニトリルの比熱:0.304Cal/(g・deg)である。水で補正を行なった熱式流量計を使用した場合、水を毎分1.00mLで送液すると、熱式流量計は毎分1.00mLの出力値となる。しかし、溶離液としてアセトニトリルを毎分1.00mLで送液すると、熱式流量計は毎分0.304mLの出力値となる。つまり、溶媒グラジエント溶出法で水100%からアセトニトリル100%までのグラジエントを行なった場合、実際の流量は一定であるにもかかわらず、熱式流量計の出力は経時的に小さくなる。このような特性があるため、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法では不都合が生じる。溶媒グラジエント溶出法で、水100%からアセトニトリル100%まで溶離液の組成変化が伴う場合を例に、従来のアクティブスプリット法(図2)による微小流量送液方法と、図6に示す本発明の微小流量送液方法との違いを説明する。
【0043】
まず、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法では次のようになる(図9参照)。分岐前の流量(Fm)毎分50μL、B側流路の流量(Fb)を毎分49μLで制御した場合、最初水100%であることから、A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分1μLとなる(図9(a))。徐々にアセトニトリルの割合が増加していくと、B側流路の実流量は殆ど変化しないにもかかわらず、熱式流量計の応答は小さくなることから、B側流路の流量を増やす方向に制御され、一定の値(毎分49μL)を保つ(図9(a))。アセトニトリル100%ではB側流路の目標制御流量の値は229%増加し、計算上、毎分161μLとなる。A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分−112μLとなってしまい、制御できなくなる(図9(b))。
【0044】
図6に示す本発明の微小流量送液方法では、同様な条件の場合、次のようになる(図10参照)。
【0045】
分岐前の流量(Fm)毎分50μL、B側流路への流量比率を0.98として制御した場合、最初は水100%であるので、B側流路の計算流量値(Fb)は、分岐前の流量(Fm)毎分50μLに0.98を乗じた、毎分49μLとなり(図10(a))、A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分1μLとなる。徐々にアセトニトリルの割合が増加していくと、実際の流量は殆ど変化しないにもかかわらず、第一の熱式流量計および第二の熱式流量計の応答が同じ割合で減少していく(図10(a))。アセトニトリル100%では分岐前の第一の熱式流量計の出力流量値は毎分15μL(50×0.30)となり、計算上、B側流路の目標制御流量の値は分岐前の流量値(Fm)毎分15μLに0.98を乗じた、毎分14.7μLとなる。A側流路の流量(Fa)は計算上、その差分の毎分0.3μLとなる(図10(b))。しかしながら、実際には、熱式流量計の出力値は70%減少するものの、実流量は殆ど変化していないため、アセトニトリル100%でもB側流路の流量(Fb)は、分岐前の流量(Fm)毎分50μLに0.98を乗じた毎分49μL、A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分1μLとなる。
【0046】
なお、図6の微小流量送液方法では、流量比率(S)が大きくなるほど(1に近づくほど)、流量誤差における、従来のアクティブスプリット法(図2)による微小流量送液方法に対する優位性が高まるため好ましく、分岐比率が0.7(A側流路:B側流路=30:70)から0.999(A側流路:B側流路=1:1000)の範囲が特に好ましい。
【発明の効果】
【0047】
本発明の微小流量送液方法は、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
(1−1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の値を乗じて、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の流量値を計算し、
(1−2)前記計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するように、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または、
(2−1)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値に、1を超える任意の値を乗じて、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の流量値を計算し、
(2−2)前記計算流量値と、前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値とが一致するように、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御する、
ことで、一定の微小流量を分離媒体に流すことを特徴としている。このため、送液手段側の問題(例えば、ポンプの脈動)で送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量が変動した場合でも、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量の絶対値のみで制御する従来のアクティブスプリット法と比較し、流量の変動を抑えることができるため、一定の微小流量の液体を精度良く分離媒体側の流路に送液することができる。
【0048】
本発明の微小流量送液方法は流量比率で制御しているため、分離媒体側の流路へ流す流量が微小であるほど、流量の絶対値で制御する従来のアクティブスプリット法に対する、流量精度における優位性が高い。特に、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量に対する、廃棄側の流路に流れる液体の流量の割合が1に近い値、具体的には0.7(分離媒体側:廃棄側=30:70)から0.999(分離媒体側:廃棄側=1:1000)の範囲にすることで、従来のアクティブスプリット法に対する優位性が高まる。
【0049】
本発明の微小流量送液方法を採用した装置、具体的には、送液手段と分離手段との間に流れる液体の流量値を任意のサンプリング間隔で計測する第一の流量計と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を第一の流量計と同じまたは異なるサンプリング間隔で計測する第二の流量計と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流路を必要に応じて制御する流量制御手段と、第一及び第二の流量計で計測された流量値に基づいて、送液手段と分岐手段との間の流路、分離媒体側の流路、及び廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御するための信号を送る演算手段とを備えており、前記演算手段が
(3−1)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1未満の任意の値を乗じて、第二の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(3−2)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記流量制御手段を制御する、
または
(4−1)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1を超える任意の値を乗じて、第一の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(4−2)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記送液手段を制御する、
手段である、微小流量送液装置は、流路に流れる液体の組成変動にともない比熱が変動し、それに応じて熱式流量計の示す流量値が変動したとしても、分離媒体側の流路へ流す流量を流量比で制御しているため、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を、熱式流量計の示す流量の絶対値で制御する従来のアクティブスプリット法と比較し、実際の流量変動を抑えることができるため、一定の微小流量の液体を高い精度で分離媒体側の流路に流し続けることができる。
【0050】
前記装置において、第二の熱式流量計及び流量制御装置を、分離媒体側の流路、廃棄側の流路、いずれの流路にも設置しても、分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系(例えば、アイソクラティック法での溶出、カラム洗浄、緩衝液置換)では、従来のアクティブスプリット法と比較し微小流量制御に優れた送液装置を提供することができる。
【0051】
また、前記装置において、分離媒体に流れる液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント系)での分析、前記分析で分離した目的成分の分画(捕集)及び他の分析装置を用いた分析に適用する場合には、第二の熱式流量計及び流量制御装置を、分離媒体及び前記分取・分析装置の入口側に設置すると、分離媒体側の流路に流れる流量(毎分数百nLから数十μL)に対する、第二の熱式流量計及び流量制御装置の有する内部容量(数百μL)が大きく、液体の組成または試料到達時間に大きな遅延が生じる。そのため、前記分析に対して本発明を適用する場合は、第二の熱式流量計及び流量制御装置を、分離媒体及び前記分取・分析装置の出口側、または廃棄側の流路に設置するのが好ましい。
【0052】
特に、第二の熱式流量計及び流量制御装置がともに廃棄側の流路に設置した場合は、第一の熱式流量計、第二の熱式流量計及び流量制御装置を接近して設置することが可能なため、応答の遅延がなく、かつ、分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系での分析、分離媒体に流れる液体の組成が経時的に変化する系での分析、前記分析で分離した目的成分の分画(捕集)及び他の分析装置を用いた分析、いずれの分析においても一定の微小流量制御が可能な装置を提供することができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
実施例1 アイソクラティック溶出法における送液方法の比較
熱式流量計に流れる液体の組成変化のないアイソクラティック溶出法で流量毎分数十μLの条件で分析を行なった場合における、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法と、本発明の微小流量送液方法との比較を行なった。
【0055】
(A)従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法
従来のアクティブスプリット法による微小流量送液装置のシステム構成を図2に示す。送液ポンプ(2)により溶離液(1)を一定流量で送液し、送液された溶離液(1)は分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数百nLから数十μLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0056】
測定条件は分析カラム(7)として、内径0.3mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(GLサイエンス社製)、溶離液(1)として、アセトニトリル/水(40/60)を使用した。ポンプ(2)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。ポンプ(2)の流量を毎分50μLに設定し送液を行ない、熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)でB側流路の流量値が毎分47.7μLで一定になるように制御し、分析を行なうA側流路には上記の差分である毎分2.3μL流れるように制御を行なった。
【0057】
測定試料としては、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルの4種を混合したものを用いた。
【0058】
(B)本発明の微小流量送液方法
本発明の微小流量送液装置のシステム構成を図6に示す。送液ポンプ(2)により溶離液(1)を一定流量で送液する。送液された溶離液(1)は第一の熱式流量計(4)を通過した後、分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数百nLから数十μLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0059】
測定条件は分析カラム(7)として、内径0.3mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(東ソー社製)、溶離液として、アセトニトリル/水(30/70)を使用した。ポンプ(2)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。ポンプ(2)の流量は毎分50μLに設定し送液を行なった。溶離液は第一の熱式流量計(4)で流量値を計測し、その値(流量値)に流量比率(0.944)を乗じた値を演算機(14)で計算する。そして、前記演算機(14)より、前記計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)の流量値とを一致させる制御信号を流量制御装置(5b)に送り、B側流路の流量値が毎分(第一の熱式流量計の流量値×0.944)μLになるように、分析を行なうA側流路には上記の差分である(第一の熱式流量計の流量値×0.056)μLになるように制御を行なった。
【0060】
測定試料としては、(A)の装置の時と同じ、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルの4種を混合したものを用いた。
【0061】
(C)結果
図11は、(A)のシステム構成(図2)における、B側流路に配置された熱式流量計(5a)からの信号を示した図である。図11に示すように、熱式流量計(5a)の信号は非常に安定しており、B側流路の流量が正確に一定に保たれていることがわかる。図11の状態におけるクロマトグラム(n=20)を図12に、各ピークの溶出時間のCv(%)をまとめた結果を図15(a)にそれぞれ示す。B側流路の流量が正確に一定に保たれているにも関わらず、溶出時間の再現性はCv(%)で1から4%と悪い。これは、送液ポンプの実送液量が、温度や溶離液中気泡の影響等により、毎分±数百nLのオーダで変動していることが原因である。送液ポンプ(2)の実際の送液量が、変動しているなか、B側流路の流量が一定に保たれているため、送液ポンプ(2)に起因する毎分±数百nLのオーダの変動が分析に使用するA側流路の実際の流量に直接加算あるいは減算され、大きな流量変動になっているためである。
【0062】
図13(a)は(B)のシステム構成(図6)における、第一の熱式流量計(4)からの信号、図13(b)は第二の熱式流量計(5a)の信号をそれぞれ示す。図13(c)は第一の熱式流量計(4)からの信号から第二の熱式流量計(5a)の信号を差し引いた値、つまり分析に使用するA側流路の流量変化を示した図である。
【0063】
図13(a)に示すように、第一の熱式流量計(4)の信号は一見安定しているようにも見られるが、毎分±数百nLのオーダで変動している。B側流路の流量は第一熱式流量計(4)の流量値に分岐比率を乗じた値になるように制御しているため、前記実流量の変動と同期して、B側流路の流量(図13(b))も毎分±数百nLのオーダで変動しており、正しくフィードバック制御が行なわれていることが示されている。そのため、分岐前の流量の変動をキャンセルでき、第一の熱式流量計(4)からの信号(図13(a))から第二の熱式流量計(5a)からの信号(図13(b))の差は(A)のシステム構成(図2)と比較し非常に安定している(図13(c))。
【0064】
図13の状態における、クロマトグラム(n=20)を図14に、各ピークの溶出時間のCv(%)を図15(b)にそれぞれ示す。(B)のシステム構成(図6)を用いることにより、分析に使用するA側流路の実際の流量を一定に保つことが可能となり、その結果、溶出時間の再現性はCv(%)で0.5から1%と、(A)のシステム構成(図2)を用いたとき(図15(a))と比較し大幅に改善された。
【0065】
実施例2 溶媒グラジエント溶出法における送液方法の比較
熱式流量計に流れる液体の組成が経時的に変化する溶媒グラジエント溶出法で、流量毎分数十μLの条件で分析を行なった場合における、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法と、本発明の微小流量送液方法との比較を示す。
【0066】
(A)従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法
従来のアクティブスプリット法による微小流量送液装置のシステム構成を図16に示す。送液ポンプA(2)により溶離液A(1)を、送液ポンプB(16)により溶離液B(15)を送液する。送液ポンプA(2)、送液ポンプB(16)の各流量を変化させ溶媒グラジエントを行なう(送液ポンプA(2)と送液ポンプB(16)との流量の和は一定)。送液された溶離液(1、15)は、分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数十μLから毎分数百nLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0067】
測定条件は分析カラム(7)として、内径1mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(東ソー社製)、溶離液(1、15)として、A:アセトニトリル/水(20/80)、B:アセトニトリル/水(70/30)を使用した。ポンプ(2、16)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。グラジエントは30分間で溶離液A100%から溶離液B100%まで変化するグラジエントを行なった。ポンプ(2、16)の総流量を毎分200μLに設定し、熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)でB側流路の流量値が毎分176.5μLで一定になるように制御し、分析を行なうA側流路には上記の差分である毎分23.5μL流れるように制御を行なった。
【0068】
測定試料としては、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘプチルの6種を混合したものを用いた。
【0069】
(B)本発明の微小流量送液方法
本発明のアクティブスプリット法による微小流量送液装置のシステム構成を図17に示す。送液ポンプA(2)により溶離液A(1)を、送液ポンプB(16)により溶離液B(15)を送液する。送液ポンプA(2)、送液ポンプB(16)の各流量を変化させ溶媒グラジエントを行なう(送液ポンプA(2)と送液ポンプB(16)との流量の和は一定)。送液された溶離液(1、15)は第一の熱式流量計(4)を通過した後、分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数十μLから毎分数百nLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0070】
測定条件は分析カラム(7)として、内径1mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(東ソー社製)、溶離液(1、15)として、A:アセトニトリル/水(20/80)、B:アセトニトリル/水(70/30)を使用した。ポンプ(2、16)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。グラジエントは30分間で溶離液A100%から溶離液B100%まで変化するグラジエントを行なった。溶離液は第一の熱式流量計(4)で流量値を計測し、その値(流量値)に流量比率(0.883)を乗じた値を演算機(14)で計算する。そして、前記演算機(14)より、前記計算値と、第二の熱式流量計(5a)の流量値とを一致させる制御信号を流量制御装置(5b)に送り、B側流路の流量値が毎分(第一の熱式流量計の流量値×0.883)μLになるように、分析を行なうA側流路には上記の差分である(第一の熱式流量計の流量値×0.117)μLになるように制御を行なった。
【0071】
測定試料としては(A)のシステム構成(図16)を用いたときと同じ、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘプチルの6種を混合したものを用いた。
【0072】
(C)結果
図18に(A)(B)両システム構成(図16、図17)を用いたときの、クロマトグラムの結果を示す。図18のうち、aが(A)のシステム構成(図16)を用いたときの、bが(B)のシステム構成(図17)を用いたときの結果である。(B)のシステム構成(図17)を用いたときは6種全てのピークが確認でき、良好にグラジエントが行なわれていることがわかる(図18b)。一方、(A)のシステム構成(図16)を用いたときでは極端に溶出が遅れ、80分でも3種のピークしか確認できなかった(図18a)。図18aの結果から、(A)のシステム構成(図16)を用いたときでは分析の途中から流量が極端に低下していることがわかる。
【0073】
この時のカラム圧力変化を図19に、第一の熱式流量計(4)の出力値(分岐前の流量)を図20に、第二の熱式流量計(5a)の出力値(B側流路の流量)を図21にそれぞれ示す(それぞれ、図中のaが(A)のシステム構成(図16)を用いたとき、bが(B)のシステム構成(図17)を用いたときの結果である)。
【0074】
(A)(B)両システム構成(図16、図17)を用いたときも、グラジエントの進行と共に、第一の熱式流量計(4)の出力値(分岐前の流量)は直線的に低下していく(図20)。これは、実際の流量は変化していないが、溶媒の比熱は変化するため熱式流量計の応答が変化していることに由来する。
【0075】
(A)のシステム構成(図16)を用いたときは、第二の熱式流量計(5a)の出力値(B側流路の流量)が一定になるように制御を行なうため、グラジエント開始後しばらくは一定の値になるが、13分以降は値の低下が見られ、正しく制御されていないことが分かる(図21a)。
【0076】
一方、(B)のシステム構成(図17)を用いたときは、第一の熱式流量計(4)で実流量値を計測し、その値(実流量値)に分岐比率を乗じた計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)の流量値とを一致させる制御を行なっているため、第二の熱式流量計(5a)の出力流量値(B側流路の流量)は、第一の熱式流量計(4)の出力流量値(分岐前の流量)の低下と同期して低下していく(図21b)。
【0077】
第一の熱式流量計(4)の出力流量値と第二の熱式流量計(5a)の出力流量値の差、つまり分析に使用されるA側流路の流量を図22に示す。aは(A)のシステム構成(図16)を用いたときの流量、bは(B)のシステム構成(図17)を用いたときの流量、cは比熱の変化(理論値)の変化を示している。なお、cの比熱は、ボイドの影響を考慮し、2分の遅れをもたしている。
【0078】
(A)のシステム構成(図16)を用いたとき(図22a)は、グラジエント開始後、約2分から急激に低下し約13分以降は全く流れていないことが分かる。一方、(B)のシステム構成(図17)を用いたとき(図22b)は、グラジエント開始時、毎分約27μLであったものが徐々に低下して行き、30分後毎分約17μLになっている。
【0079】
(B)のシステム構成(図17)を用いたとき(図22b)でも計算上の流量が低下しているのは、比熱の変化により熱式流量計の応答が変化しているためである。図20の第一の熱式流量計(4)の出力流量値と第二の熱式流量計(5a)の出力流量値の差を比熱で除すると実際の流量が算出できる。図23は除算後のA側流路の流量である。このように、本発明の微小流量送液方法を用いた場合、グラジエント実行中、毎分約30μLでほぼ一定の流量が得られていることが分かる。
【0080】
(B)のシステム構成(図17)を用いたときでの再現性を図24から26に示す。図24はクロマトグラム(n=10)、図25は溶出時間の変化(n=10)、図26は溶出時間の再現性を示す。(n=10×2)。このように各ピークの溶出時間の再現性はCv(%)で0.1から0.5%と良好な値が得られており(図26)、本発明の流量制御方法を用いることでA側流路に微小流量を精度良く送液可能であることが示唆される。
【0081】
実施例3 本発明の微小流量送液方法を用いたキャピラリィ電気泳動装置
実施例1及び2では、ポンプにより液体を送液する液体クロマトグラフィに本発明を適用した例を示したが、キャピラリィ電気泳動に対しても同様な送液方法を適用することができる。図27にその構成を示す。送液ポンプ(2)の代わりに電解液A(20)を配し、導管を挿入する。A側流路の廃液およびB側流路の廃液配管を電解液B(21)に挿入する。電解液A(20)と電解液B(21)にそれぞれ電極(22)(23)を挿入し、電源(18)に接続することで、液流が発生し、キャピラリィ電気泳動を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】基本的なスプリット法(スタティックスプリット法)で微小流量を送液したときの流路図(アイソクラティック法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図2】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの流路図(アイソクラティック法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図3】従来のアクティブスプリット法における、溶離液組成が変化しない場合(アイソクラティック溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は分岐前の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)はA側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図4】本発明の微小流量送液方法において、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)を、A側流路の試料注入装置(6)の前に配置した場合の流路図。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図5】本発明の微小流量送液方法において、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)を、A側流路の検出器(9)の後に配置した場合の流路図。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図6】本発明の微小流量送液方法において、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)を、B側流路に配置した場合の流路図(アイソクラティック法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図7】本発明の微小流量送液方法における、溶離液組成が変化しない場合(アイソクラティック溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は、分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は分岐前の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)は、A側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図8】水で補正を行なった熱式流量計を使用し、水100%からアセトニトリル100%までのグラジエントを行なった場合の熱式流量計の出力変化。横軸はアセトニトリルの濃度、左縦軸は流量、右縦軸は比熱を表す。破線は実際の流量、塗りつぶした領域は熱式流量計が指示する流量値をそれぞれ示す。
【図9】従来のアクティブスプリット法による、溶離液組成が変化する場合(グラジエント溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は熱式流量計が指示する分岐前の流量、破線は実際の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)はA側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図10】本発明の微小流量送液方法による、溶離液組成が変化する場合(グラジエント溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は熱式流量計が指示する分岐前の流量、破線は実際の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)はA側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図11】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときのB側流路の熱式流量計の出力値の変化。横軸は時間、縦軸は流量を表す。
【図12】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときのクロマトグラム結果(n=20)。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。
【図13】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの各流路の流量変化。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前の流路に配置された、第一の熱式流量計の出力値の変化を示す。(b)はB側流路に配置された、第二の熱式流量計の出力値の変化を示す。(c)は分岐前の流路に配置された、第一の熱式流量計の出力値からB側流路に配置された、第二の熱式流量計の出力値の差を示す。
【図14】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときのクロマトグラム(n=20)。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。
【図15】溶出時間のCv(%)を示した結果(n=10で3バッチ測定)。(a)は従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときのCv(%)を示す。(b)は本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときのCv(%)を示す。
【図16】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの流路図(溶媒グラジエント溶出法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図17】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの流路図(溶媒グラジエント溶出法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図18】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとを比較したクロマトグラム。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図19】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとでカラム圧力の変化を示した図。横軸は時間、縦軸はカラム圧力を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図20】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとで、分岐前の流路に配置された、第一の熱式流量計の出力値の変化を示した図。横軸は時間、縦軸は流量(流量計の出力値)を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図21】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとの、B側流路に配置された第二の熱式流量計の出力値の変化を示した図。横軸は時間、縦軸は流量を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図22】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとの、分岐前の流路に配置された第一の熱式流量計の出力値から、B側流路に配置された第二の熱式流量計の出力値の差を示した図。横軸は時間、縦軸は流量を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。cは溶離液の比熱の変化を示す(ボイドの影響を考慮し、2分の遅れをもたしている)。
【図23】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとの、熱式流量計の出力値の差を比熱で除算した値を示した図。横軸は時間、縦軸は流量を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図24】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときのクロマトグラム結果(n=10)。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。
【図25】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの、溶出時間の変動を示した図(n=10)。
【図26】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの、溶出時間のCv(%)を示した図(n=10で2バッチ測定)。
【図27】本発明の微小流量送液方法をキャピラリィ電気泳動に適用した場合の流路図。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【符号の説明】
【0083】
1.溶離液A
2.送液ポンプA
3.圧力計
4.第一の熱式流量計
5a.第二の熱式流量計
5b.流量制御装置
6.試料注入装置
7.分析カラム
8.カラム恒温槽
9.検出器
10.廃液A
11.廃液B
12.フィードバック信号
13.分岐ブロック
14.演算機
15.溶離液B
16.送液ポンプB
17.可変抵抗
18.電源
19.電気泳動分離媒体
20.電解液A
21.電解液B
22.電極A
23.電極B
【技術分野】
【0001】
毎分数百nLから数十μLといった微小流量を流すための装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毎分数百nLから数十μLといった微小流量を流すことができる装置は存在するものの、多くの欠点を有する。液体クロマトグラフィでよく知られるストローク機構を有するポンプは、前記微小流量を安定的に流すことは期待できない。別法として、シリンジ式ポンプは、前記微小流量においても比較的安定的に流すことができるものの、シリンジ容量が有限であり、かつ、連続的な使用が困難で各バッチ間に差異が生じやすいといった課題がある。
【0003】
古典的な微小流量を流すための方法として、スプリット法(スタティックスプリット法)が知られている。目的の流量の数十倍から数百倍の流量を流し、分離媒体(7)の前で分岐手段(13)を用いて分岐し、その数十分の一から数百分の一を分離媒体側(A側流路)に流し、残りの大部分を廃棄側(B側流路)に流す方法である(図1参照)。本法ではA側流路とB側流路の圧力比により分岐比率が決まる。定常状態では微小流量を流すことができるが、A側流路とB側流路の圧力比が外乱により変化した場合、分岐比率が変化し、目的の微小流量も変化してしまう欠点がある(特許文献1及び2)。
【0004】
スタティックスプリット法の欠点を解決するために提案されたのが、アクティブスプリット法である(特許文献3)。本法(図2参照)は、A側流路またはB側流路に熱式流量計(5a)を配置し、流量が一定になるよう可動式のオリフィスバルブ(流量制御装置)(5b)で制御するものである。分離媒体(7)の下流側には目的成分の検出や捕獲するための機器を配置することが多いため、図2の装置のようにB側流路に熱式流量計(5a)を配置するのが一般的である。本法は、分離媒体や各配管の物理的な詰まりなどによる外乱が発生しても、スタティックスプリット法と比較し、A側流路に流れる微小流量への影響は少ない。しかしながら、アクティブスプリット法にもいくつかの課題がある。
【0005】
第一の課題として、B側流路の流量を一定にする制御を行なうため、分岐前の流量が変化した場合、その変化分はすべて目的流路であるA側流路の流量変化となる。
【0006】
例えば図2の装置の場合、B側流路の流量値(Fb)を熱式流量計(5a)により任意のサンプリング間隔で計測し、その値が一定になるように流量制御装置(5b)で制御する。この値と分岐前の流量(Fm)との差がA側流路に送液される(Fa)。その流量変化を図3に示す。
【0007】
Fa=Fm−Fb
Fa:A側流路の流量(微小流量)
Fb:B側流路の流量値(大流量)
Fm:分岐前の流量
ここで使用される熱式流量計(5a)は高精度であるため、分岐前の流量(Fm)が変動してもB側流路を一定に保つことができる(図3(a))。よって、分岐前の流量(Fm)が変動した場合、その偏差の殆どがA側流路の流量(Fa)に影響する(図3(b))。たとえば、分岐前の流量(Fm)毎分50μL、B側流路の流量(Fb)を毎分49μLで制御した場合、理論的にはA側流路の流量(Fa)は、毎分1μLとなる。分岐前の流量(Fm)が毎分±0.2μL変動した場合、B側流路の流量(Fb)は毎分49μLで制御されるため、A側流路の流量(Fa)は毎分0.8から1.2μLで変動し、±20%の誤差が生じてしまう。
【0008】
第二の課題として、流す液体の比熱が変化する場合(液体クロマトグラフィで使用される溶媒グラジエントなどの手法)、熱式流量計の応答が変化する。例えば、水で校正を行なった熱式流量計でアセトニトリルを使用した場合、同じ流量でありながら応答出力は水の場合の約30%である。よって、前記熱式流量計を用いたアクティブスプリット法による微小流量を流す方法において、水に続きアセトニトリルを流した場合、送液量が一定であると前記熱式流量計の応答出力が減少するため、応答出力を一定にするにはB側流路の流量が増加させる必要があり、結果的にA側流路の流量が減少する。そのため、アクティブスプリット法により微小流量を流すのは更に困難となる。
【0009】
【特許文献1】特開2004−309135号公報
【特許文献2】特表2004−506896号公報
【特許文献3】特開2006−276021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
分析装置において、毎分数百nLから数十μLといった微小流量を分離媒体へ流すための微小流量送液手段、及び送液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、送液手段によって液体を流し、分岐手段を用いて、分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液装置であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値を任意のサンプリング間隔で計測する第一の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を第一の流量計と同じまたは異なるサンプリング間隔で計測する第二の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を必要に応じて制御する流量制御手段と、
第一及び第二の流量計で計測された流量値に基づいて、送液手段と分岐手段との間の流路、分離媒体側の流路、及び廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御するための信号を送る演算手段とを備え、
前記演算手段は
(1−1)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1未満の任意の値を乗じて、第二の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(1−2)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記流量制御手段を制御する、
または、
(2−1)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1を超える任意の値を乗じて、第一の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(2−2)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記送液手段を制御する、
ことを特徴とする、前記装置である。
【0012】
第二の発明は、前記第一及び第二の流量計が、熱式流量計であることを特徴とする、第一に発明に記載の微小流量送液装置である。
【0013】
第三の発明は、廃棄側の流路に前記第二の流量計及び前記流量制御手段を設置していることを特徴とする、第一から第二の発明に記載の微小流量送液装置である。
【0014】
第四の発明は、前記演算手段には、各サンプリング間隔で計測した時間における、
(1)第一及び第二の流量計で計測された流量値、
(2)第一または第二の流量計で計測されるべき流量の計算値、
(3)流量制御手段または送液手段で制御すべき流量値、
(4)流量制御手段または送液手段の制御に関する情報、
を記録するための記録手段を備えていることを特徴とする、第一から第三の発明に記載の微小流量送液装置である。
【0015】
第五の発明は、送液手段を用いて液体を流し、分岐手段を用いて分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液方法であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
(1−1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の値を乗じて、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の流量値を計算し、
(1−2)前記計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するように、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または
(2−1)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量に、1を超える任意の値を乗じて、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の流量値を計算し、
(2−2)前記計算流量値と、前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値とが一致するように、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御する、
ことを特徴とする、前記方法である。
【0016】
第六の発明は、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に1未満の任意の値を乗じた計算値で制御される流量が、廃棄側の流路に流れる液体の流量であることを特徴とする、第五の発明に記載の微小流量送液方法である。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
計測した送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の流量比率を乗じた流量値を計算し、前記計算流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量の計測値とが一致するよう、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または、
計測した分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値に、1を超える任意の流量比率を乗じた流量値を計算し、前記計算流量値と、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量の計測値とが一致するよう、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御することで、
一定の微小流量の液体を分離媒体側の流路に流すことを特徴としている。
【0019】
本発明の微小流量送液方法における流量値の計測方法としては、液体の流量が計測可能な装置を用いるのであれば限定されないが、特に微小流量の液体を高精度に計測可能な熱式流量計を用いて計測するのが好ましい。
【0020】
本発明の微小流量送液方法において、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する場合は、液体の流量を計測した流路と同じ流路に流れる液体の流量を制御(例えば、流量を計測する流路が分離媒体側の流路の場合、分離媒体側の流路の流量を制御)してもよいし、液体の流量を計測した流路と異なる流路を流れる液体の流量を制御(例えば、流量を計測する流路が分離媒体側の流路の場合、廃棄側の流路の流量を制御)してもよいが、制御の容易性から前者の制御が好ましい。
【0021】
本発明の微小流量送液方法における、流量制御手段を用いた、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量制御方法としては、以下の方法があげられる。
[1]流量を制御する流路上にバルブを設置し、流量を制御する方法。
[2]分岐手段中にバルブを設置し、流量を制御する方法。
このうち、[1]または[2]の方法におけるバルブとしては、流量制御に通常用いられるゲートバルブ(仕切弁)、グローブバルブ(玉形弁)、バタフライバルブ、ダイヤフラムバルブを例示できるが、容易に微小流量の制御が可能なオリフィス板を利用したバルブを用いるのが好ましい。また、オリフィス板を利用したバルブを用いた流量制御では、
[3]オリフィス板が全開の状態から制御を開始し、その状態からオリフィス板を狭める制御、
[4]オリフィス板が中間開度の状態から制御を開始し、その状態からオリフィス板を広げる、または狭める制御、
いずれの制御を行なってもよい。[3]の制御は、流量を開始時の流量から増加させる制御を行なう場合、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量制御を行なう必要があるものの、オリフィス板で制御できる流量の範囲を、[4]の制御と比較し広くすることができる。一方[4]の制御は、オリフィス板で制御できる流量の範囲は[3]の制御と比較し狭いものの、流量を開始時の流量から増加させる制御を行なう場合でも、オリフィス板を広げる制御で対応できる。
【0022】
本発明の微小流量送液方法における、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量制御方法としては、送液手段で流す液体の流量を制御する方法があげられる。
【0023】
本発明の微小流量制御方法では、以下の[1]または[2]のいずれかの制御を行なう方法でもよいし、必要に応じて[1]と[2]の制御を切り替える方法であってもよい。
[1]分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御
[2]送液手段と分岐手段との間の流路に流れる液体の流量を制御
後者の微小流量制御方法を採用した場合には、分離媒体側または廃液側の流路に流れる液体の計測流量値と、計算流量値との間に大きな違いがあり、分離媒体側または廃液側の流路に設置した流量制御装置では流量の制御ができなくなった場合(例えば、オリフィスバルブが全開となった場合)でも、送液手段で流す液体の流量制御に切り替えることで、分離媒体側または廃液側の流路に流れる液体の流量を制御することができる。
【0024】
分離媒体側流路に設置される分離媒体としては、微小試料を分析・分取する目的に合致したものであればよく、微小試料を分析・分取するための液体クロマトグラフ用カラム、キャピラリー電気泳動用カラム、電気泳動などの分析用マイクロプレート、分取用マイクロプレートを例示することができる。また、分取した試料を別の試薬と反応させるマイクロリアクターの構成要素としても、本発明の送液方法を採用できる。
【0025】
本発明の微小流量送液方法を用いた送液装置の一態様を図4に示す。送液ポンプ(2)により溶離液(1)を一定流量で送液する。送液された溶離液(1)は第一の熱式流量計(4)を通過した後、分岐ブロック(13)により分離媒体側(以下、A側流路とする)と廃棄側(以下、B側流路とする)に分岐される。A側流路には液体の流れる順に、第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)、試料注入装置(6)、分析カラム(7)、検出器(9)が配置されている。B側流路に流れた液体はそのまま廃液(11)となる。なお、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置している。また、図4には記載されていないが、B側流路には必要に応じて抵抗管といった圧力調整手段を設置してもよい。
【0026】
ポンプ(2)により送液された溶離液(1)の流量値を第一の熱式流量計(4)により、A側流路に流れる溶離液の流量値を第二の熱式流量計(5a)により、それぞれ任意のサンプリング間隔で計測し、その値を演算機(14)に入力後、前記演算機(14)で、前記計測流量値のうち、第一の熱式流量計(4)で計測された流量値に1未満の任意の流量比率を乗じることでA側流路に流すべき流量を計算する。そして、前記計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)で計測された流量値と比較し、両方の流量値が一致するよう、流量制御装置(5b)の流量を制御する信号を前記演算機(14)から送ることで、A側流路に流れる溶離液の流量制御を行なう。これにより、A側流路は毎分数百nLから数十μLといった微小流量が流れ、B側流路には分岐前の流量とA側流路の流量の差分が流れる。演算機(14)は単独で存在してもよいし、第一の熱式流量計(4)または第二の熱式流量計(5a)に含まれてもよい。なお、前記演算機(14)には前記制御を行なうためのプログラムが備えられており、さらに
(1)第一及び第二の熱式流量計で計測された流量値、
(2)第二の熱式流量計で計測されるべき流量の計算値、
(3)流量制御装置で制御すべき流量値、
(4)流量制御装置の制御に関する情報、
を記録するための記録手段を備えているのが、前記制御を効率的に行なう点で好ましい。
【0027】
図4に示す、A側流路に第二の熱式流量計(5a)を設置した送液手段では、分析カラム(7)の前に、少なくとも数百μL程度の内部容量を有する第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)が設置されている。毎分数百nLから数十μLの微小流量が流れるA側流路に対し、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)の有する内部容量が大きいため、特に毎分数百nLと極めて微小な流量をA側流路に流す場合、第一の熱式流量計(4)を流れた溶離液が流量制御装置(5b)出口に設置された分析カラム(7)に到達するには相当の時間を要し(A側流路の流量が毎分500nLで、前記流量計及び制御装置の有する内部容量が500μLの場合、溶離液が前記流量計及び制御装置の通過するのに計算上1000分を要する)、分析カラム(7)へ到達する時間に遅れが生じる。
【0028】
分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系(例えば、アイソクラティック法での溶出、カラム洗浄、緩衝液置換)の場合は、事前に送液手段に溶離液を流すことで、分析カラム(7)へ到達する時間が遅れる問題は解消できる。また、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置しているため、第二の熱式流量計へ到達する時間の遅れは無視できる。
【0029】
一方、液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント法での溶出)では、分離カラムへの到達時間の遅れがそのまま組成変化への応答の遅れに繋がるため、第二の熱式流量計(5a)と流量制御装置(5b)で流量を制御しても、分析カラム(7)に所望の流量及び組成の溶離液を送液するのは困難である。
【0030】
本発明の微小流量送液方法を用いた送液装置の別の態様を図5に示す。
【0031】
図4の装置との違いは、A側流路の配置が液体の流れる順に、試料注入装置(6)、分析カラム(7)、検出器(9)、第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)となっていることである。なお、図5には記載されていないが、B側流路には必要に応じて抵抗管といった圧力調整手段を設置してもよい。図5の装置も、図4の時と同様、A側流路には毎分数百nLから数十μLといった微小流量を作り出すことができる。
【0032】
分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系(例えば、アイソクラティック法での溶出、カラム洗浄、緩衝液置換)の場合は、図4の装置と同様、事前に送液手段に溶離液を流すことで、分離カラムへ到達する時間が遅れる問題は解消できる。また、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)との間には内部容量を有する分析カラム(7)が設置されているが、事前に送液手段に溶離液を流すことで、第二の熱式流量計へ到達する時間が遅れる問題も解消できる。
【0033】
液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント法での溶出)では、図4の時と同様、分析カラム(7)への到達時間の遅れがそのまま組成変化への応答の遅れに繋がるが、第一の熱式流量計(4)と分析カラム(7)とが接近して設置している場合は、分析カラム(7)へ到達する時間が遅れる問題は無視できる。しかしながら、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)との間には、内部容量を有する分析カラム(7)が設置されているため、第二の熱式流量計へ到達する時間が遅れる問題、つまり組成変化への応答が遅れる問題が無視できなくなる。また、分離した目的成分の分画(捕集)装置、及び質量分析装置といった他の分析装置を第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)の後に設置した場合、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)に少なくとも数百μL程度の内部容量を有しているため、当該分取装置及び他の分析装置に所望の流量及び組成の溶離液を送液するのはさらに困難となる。なお、分画(捕集)装置、及び他の分析装置を分析カラム(7)と第二の熱式流量計(5a)の間に設置した場合は当該分取装置及び他の分析装置へ到達する時間が遅れる問題は解消できるが、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)との間の距離がさらに離れるため、第二の熱式流量計へ到達する時間にさらに大きな遅れが発生する。
【0034】
本発明の微小流量送液方法を用いた送液装置の好ましい態様を図6に示す。
【0035】
図4の装置との違いは、第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)がB側流路に配置されており、A側流路には液体の流れる順に、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及び検出器(9)が配置されていることである。なお、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置している。また、図6には記載されていないが、B側流路には必要に応じて抵抗管といった圧力調整手段を設置してもよい。
【0036】
ポンプ(2)により送液された溶離液(1)の流量値を第一の熱式流量計(4)により、B側流路に流れる溶離液の流量値を第二の熱式流量計(5a)により、それぞれリアルタイムで計測し、その値を演算機(14)に入力後、前記演算機(14)で、前記計測流量値のうち、第一の熱式流量計(5a)で計測された流量値に1未満の任意の流量比率を乗じることでB側流路に流すべき流量を計算する。そして、前記計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)で計測された流量値と比較し、両方の流量値が一致するよう、流量制御装置(5b)の流量を制御する信号を前記演算機(14)から送ることで、B側流路に流れる溶離液の流量をリアルタイムで制御を行なう。これにより、A側流路には分岐前の流量とB側流路の流量の差分が流れる。
【0037】
図6の微小流量送液装置の場合、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)といった内部容量が少なくとも数百μL程度有する装置が、流量の多い廃棄側流路(B側流路)に設置されている。そのため、A側流路に設置の分析カラム(7)へ到達する時間が遅れる問題は解消できる。また、第一の熱式流量計(4)と第二の熱式流量計(5a)は接近して設置しているため、第二の熱式流量計(5a)へ到達する時間が遅れる問題も解消できる。さらに、液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント法での溶出)においても、B側流路に流れる流量に対し、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)の有する内部容量に差がないため、溶離液の組成変化の遅れの問題も解消できる。そのため、液体の組成が経時的に変化しない系/する系を問わず、所望の流量及び組成の溶離液を分析カラム(7)に流すことができる。
【0038】
図6の微小流量送液装置における送液方法では、分岐前の流量値(送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値)(Fm)を任意のサンプリング間隔で計測し、その流量値に、ある一定の流量比率を乗じて、B側流路の流量制御値とし制御を行なう。その流量変化を図7に示す。
【0039】
Fb=Fm・S
Fa=Fm−Fb
Fa:A側流路の流量(微小流量)
Fb:B側流路の流量値(大流量)
Fm:分岐前の流量値
S:流量比率
図6の微小流量送液手段における送液方法では、分岐前の流量値(Fm)を任意のサンプリング間隔で計測できるように第一の熱式流量計(4)が設置されている。分岐前の流量値(Fm)を任意のサンプリング間隔で計測し、その値に1未満の一定の流量比率(S)を乗じて、B側流路の制御流量値として与える。そのため、分岐前の流量値(Fm)が変動した場合であっても、B側流路の流量値(Fb)は分岐前の流量値(Fm)に前記流量比率(S)を乗じた値で制御され(図7(a))、A側流路の流量(Fa)はその差分となる。よって、A側流路の流量(Fa)の変動は、流量の絶対値で制御する従来のアクティブスプリット法(図3(b))による微小流量送液方法と比較し小さくなる(図7(b))。たとえば、図6の装置で、分岐前の流量(Fm)を毎分50μL、分岐比率を(S)を0.98とした場合、B側流路の計算流量値(Fb)は毎分49μL、A側流路の流量(Fa)は、毎分1μLとなる。分岐前の流量値(Fm)が毎分±0.2μL変動した場合、B側流路の流量値(Fb)は毎分48.80から49.12μLで変動する。A側流路の流量(Fa)は毎分0.996から1.004μLで変動し、毎分0.008μL(±0.4%)の誤差で収まる。一方、同様な条件(分岐前の流量:毎分50μL、B側流路の流量:毎分49μL、流量値変動:毎分±0.2μL)で従来のアクティブスプリット法(図2)による微小流量送液方法では、A側流路の流量変動は毎分0.4μL(±20%)の変動となる。
【0040】
溶離液の組成が経時的に変化する溶媒グラジエント溶出法のような場合、従来のアクティブスプリット法では微小流量を流すのは更に困難となる。
【0041】
熱式流量計は使用する溶離液にて事前に補正されているため、異なる溶離液を流した場合、その値は実際の値と乖離する。熱式流量計の出力は下式のように使用する溶離液の比熱により変化する。
【0042】
Vsignal=k・Cp・Φ
Vsignal=出力流量値
k=補正係数
Cp=比熱
Φ=実際の流量
図8に、水で補正を行なった熱式流量計を使用し、水100%からアセトニトリル100%までのグラジエントを行なった場合の熱式流量計の出力の変化を示す。水の比熱は1.00Cal/(g・deg)、アセトニトリルの比熱:0.304Cal/(g・deg)である。水で補正を行なった熱式流量計を使用した場合、水を毎分1.00mLで送液すると、熱式流量計は毎分1.00mLの出力値となる。しかし、溶離液としてアセトニトリルを毎分1.00mLで送液すると、熱式流量計は毎分0.304mLの出力値となる。つまり、溶媒グラジエント溶出法で水100%からアセトニトリル100%までのグラジエントを行なった場合、実際の流量は一定であるにもかかわらず、熱式流量計の出力は経時的に小さくなる。このような特性があるため、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法では不都合が生じる。溶媒グラジエント溶出法で、水100%からアセトニトリル100%まで溶離液の組成変化が伴う場合を例に、従来のアクティブスプリット法(図2)による微小流量送液方法と、図6に示す本発明の微小流量送液方法との違いを説明する。
【0043】
まず、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法では次のようになる(図9参照)。分岐前の流量(Fm)毎分50μL、B側流路の流量(Fb)を毎分49μLで制御した場合、最初水100%であることから、A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分1μLとなる(図9(a))。徐々にアセトニトリルの割合が増加していくと、B側流路の実流量は殆ど変化しないにもかかわらず、熱式流量計の応答は小さくなることから、B側流路の流量を増やす方向に制御され、一定の値(毎分49μL)を保つ(図9(a))。アセトニトリル100%ではB側流路の目標制御流量の値は229%増加し、計算上、毎分161μLとなる。A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分−112μLとなってしまい、制御できなくなる(図9(b))。
【0044】
図6に示す本発明の微小流量送液方法では、同様な条件の場合、次のようになる(図10参照)。
【0045】
分岐前の流量(Fm)毎分50μL、B側流路への流量比率を0.98として制御した場合、最初は水100%であるので、B側流路の計算流量値(Fb)は、分岐前の流量(Fm)毎分50μLに0.98を乗じた、毎分49μLとなり(図10(a))、A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分1μLとなる。徐々にアセトニトリルの割合が増加していくと、実際の流量は殆ど変化しないにもかかわらず、第一の熱式流量計および第二の熱式流量計の応答が同じ割合で減少していく(図10(a))。アセトニトリル100%では分岐前の第一の熱式流量計の出力流量値は毎分15μL(50×0.30)となり、計算上、B側流路の目標制御流量の値は分岐前の流量値(Fm)毎分15μLに0.98を乗じた、毎分14.7μLとなる。A側流路の流量(Fa)は計算上、その差分の毎分0.3μLとなる(図10(b))。しかしながら、実際には、熱式流量計の出力値は70%減少するものの、実流量は殆ど変化していないため、アセトニトリル100%でもB側流路の流量(Fb)は、分岐前の流量(Fm)毎分50μLに0.98を乗じた毎分49μL、A側流路の流量(Fa)は、その差分の毎分1μLとなる。
【0046】
なお、図6の微小流量送液方法では、流量比率(S)が大きくなるほど(1に近づくほど)、流量誤差における、従来のアクティブスプリット法(図2)による微小流量送液方法に対する優位性が高まるため好ましく、分岐比率が0.7(A側流路:B側流路=30:70)から0.999(A側流路:B側流路=1:1000)の範囲が特に好ましい。
【発明の効果】
【0047】
本発明の微小流量送液方法は、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
(1−1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の値を乗じて、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の流量値を計算し、
(1−2)前記計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するように、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または、
(2−1)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値に、1を超える任意の値を乗じて、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の流量値を計算し、
(2−2)前記計算流量値と、前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値とが一致するように、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御する、
ことで、一定の微小流量を分離媒体に流すことを特徴としている。このため、送液手段側の問題(例えば、ポンプの脈動)で送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量が変動した場合でも、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量の絶対値のみで制御する従来のアクティブスプリット法と比較し、流量の変動を抑えることができるため、一定の微小流量の液体を精度良く分離媒体側の流路に送液することができる。
【0048】
本発明の微小流量送液方法は流量比率で制御しているため、分離媒体側の流路へ流す流量が微小であるほど、流量の絶対値で制御する従来のアクティブスプリット法に対する、流量精度における優位性が高い。特に、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量に対する、廃棄側の流路に流れる液体の流量の割合が1に近い値、具体的には0.7(分離媒体側:廃棄側=30:70)から0.999(分離媒体側:廃棄側=1:1000)の範囲にすることで、従来のアクティブスプリット法に対する優位性が高まる。
【0049】
本発明の微小流量送液方法を採用した装置、具体的には、送液手段と分離手段との間に流れる液体の流量値を任意のサンプリング間隔で計測する第一の流量計と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を第一の流量計と同じまたは異なるサンプリング間隔で計測する第二の流量計と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流路を必要に応じて制御する流量制御手段と、第一及び第二の流量計で計測された流量値に基づいて、送液手段と分岐手段との間の流路、分離媒体側の流路、及び廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御するための信号を送る演算手段とを備えており、前記演算手段が
(3−1)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1未満の任意の値を乗じて、第二の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(3−2)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記流量制御手段を制御する、
または
(4−1)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1を超える任意の値を乗じて、第一の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(4−2)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記送液手段を制御する、
手段である、微小流量送液装置は、流路に流れる液体の組成変動にともない比熱が変動し、それに応じて熱式流量計の示す流量値が変動したとしても、分離媒体側の流路へ流す流量を流量比で制御しているため、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を、熱式流量計の示す流量の絶対値で制御する従来のアクティブスプリット法と比較し、実際の流量変動を抑えることができるため、一定の微小流量の液体を高い精度で分離媒体側の流路に流し続けることができる。
【0050】
前記装置において、第二の熱式流量計及び流量制御装置を、分離媒体側の流路、廃棄側の流路、いずれの流路にも設置しても、分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系(例えば、アイソクラティック法での溶出、カラム洗浄、緩衝液置換)では、従来のアクティブスプリット法と比較し微小流量制御に優れた送液装置を提供することができる。
【0051】
また、前記装置において、分離媒体に流れる液体の組成が経時的に変化する系(例えば、溶媒グラジエント系)での分析、前記分析で分離した目的成分の分画(捕集)及び他の分析装置を用いた分析に適用する場合には、第二の熱式流量計及び流量制御装置を、分離媒体及び前記分取・分析装置の入口側に設置すると、分離媒体側の流路に流れる流量(毎分数百nLから数十μL)に対する、第二の熱式流量計及び流量制御装置の有する内部容量(数百μL)が大きく、液体の組成または試料到達時間に大きな遅延が生じる。そのため、前記分析に対して本発明を適用する場合は、第二の熱式流量計及び流量制御装置を、分離媒体及び前記分取・分析装置の出口側、または廃棄側の流路に設置するのが好ましい。
【0052】
特に、第二の熱式流量計及び流量制御装置がともに廃棄側の流路に設置した場合は、第一の熱式流量計、第二の熱式流量計及び流量制御装置を接近して設置することが可能なため、応答の遅延がなく、かつ、分離媒体に流れる液体の組成が変化しない系での分析、分離媒体に流れる液体の組成が経時的に変化する系での分析、前記分析で分離した目的成分の分画(捕集)及び他の分析装置を用いた分析、いずれの分析においても一定の微小流量制御が可能な装置を提供することができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
実施例1 アイソクラティック溶出法における送液方法の比較
熱式流量計に流れる液体の組成変化のないアイソクラティック溶出法で流量毎分数十μLの条件で分析を行なった場合における、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法と、本発明の微小流量送液方法との比較を行なった。
【0055】
(A)従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法
従来のアクティブスプリット法による微小流量送液装置のシステム構成を図2に示す。送液ポンプ(2)により溶離液(1)を一定流量で送液し、送液された溶離液(1)は分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数百nLから数十μLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0056】
測定条件は分析カラム(7)として、内径0.3mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(GLサイエンス社製)、溶離液(1)として、アセトニトリル/水(40/60)を使用した。ポンプ(2)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。ポンプ(2)の流量を毎分50μLに設定し送液を行ない、熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)でB側流路の流量値が毎分47.7μLで一定になるように制御し、分析を行なうA側流路には上記の差分である毎分2.3μL流れるように制御を行なった。
【0057】
測定試料としては、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルの4種を混合したものを用いた。
【0058】
(B)本発明の微小流量送液方法
本発明の微小流量送液装置のシステム構成を図6に示す。送液ポンプ(2)により溶離液(1)を一定流量で送液する。送液された溶離液(1)は第一の熱式流量計(4)を通過した後、分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数百nLから数十μLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0059】
測定条件は分析カラム(7)として、内径0.3mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(東ソー社製)、溶離液として、アセトニトリル/水(30/70)を使用した。ポンプ(2)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。ポンプ(2)の流量は毎分50μLに設定し送液を行なった。溶離液は第一の熱式流量計(4)で流量値を計測し、その値(流量値)に流量比率(0.944)を乗じた値を演算機(14)で計算する。そして、前記演算機(14)より、前記計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)の流量値とを一致させる制御信号を流量制御装置(5b)に送り、B側流路の流量値が毎分(第一の熱式流量計の流量値×0.944)μLになるように、分析を行なうA側流路には上記の差分である(第一の熱式流量計の流量値×0.056)μLになるように制御を行なった。
【0060】
測定試料としては、(A)の装置の時と同じ、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチルの4種を混合したものを用いた。
【0061】
(C)結果
図11は、(A)のシステム構成(図2)における、B側流路に配置された熱式流量計(5a)からの信号を示した図である。図11に示すように、熱式流量計(5a)の信号は非常に安定しており、B側流路の流量が正確に一定に保たれていることがわかる。図11の状態におけるクロマトグラム(n=20)を図12に、各ピークの溶出時間のCv(%)をまとめた結果を図15(a)にそれぞれ示す。B側流路の流量が正確に一定に保たれているにも関わらず、溶出時間の再現性はCv(%)で1から4%と悪い。これは、送液ポンプの実送液量が、温度や溶離液中気泡の影響等により、毎分±数百nLのオーダで変動していることが原因である。送液ポンプ(2)の実際の送液量が、変動しているなか、B側流路の流量が一定に保たれているため、送液ポンプ(2)に起因する毎分±数百nLのオーダの変動が分析に使用するA側流路の実際の流量に直接加算あるいは減算され、大きな流量変動になっているためである。
【0062】
図13(a)は(B)のシステム構成(図6)における、第一の熱式流量計(4)からの信号、図13(b)は第二の熱式流量計(5a)の信号をそれぞれ示す。図13(c)は第一の熱式流量計(4)からの信号から第二の熱式流量計(5a)の信号を差し引いた値、つまり分析に使用するA側流路の流量変化を示した図である。
【0063】
図13(a)に示すように、第一の熱式流量計(4)の信号は一見安定しているようにも見られるが、毎分±数百nLのオーダで変動している。B側流路の流量は第一熱式流量計(4)の流量値に分岐比率を乗じた値になるように制御しているため、前記実流量の変動と同期して、B側流路の流量(図13(b))も毎分±数百nLのオーダで変動しており、正しくフィードバック制御が行なわれていることが示されている。そのため、分岐前の流量の変動をキャンセルでき、第一の熱式流量計(4)からの信号(図13(a))から第二の熱式流量計(5a)からの信号(図13(b))の差は(A)のシステム構成(図2)と比較し非常に安定している(図13(c))。
【0064】
図13の状態における、クロマトグラム(n=20)を図14に、各ピークの溶出時間のCv(%)を図15(b)にそれぞれ示す。(B)のシステム構成(図6)を用いることにより、分析に使用するA側流路の実際の流量を一定に保つことが可能となり、その結果、溶出時間の再現性はCv(%)で0.5から1%と、(A)のシステム構成(図2)を用いたとき(図15(a))と比較し大幅に改善された。
【0065】
実施例2 溶媒グラジエント溶出法における送液方法の比較
熱式流量計に流れる液体の組成が経時的に変化する溶媒グラジエント溶出法で、流量毎分数十μLの条件で分析を行なった場合における、従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法と、本発明の微小流量送液方法との比較を示す。
【0066】
(A)従来のアクティブスプリット法による微小流量送液方法
従来のアクティブスプリット法による微小流量送液装置のシステム構成を図16に示す。送液ポンプA(2)により溶離液A(1)を、送液ポンプB(16)により溶離液B(15)を送液する。送液ポンプA(2)、送液ポンプB(16)の各流量を変化させ溶媒グラジエントを行なう(送液ポンプA(2)と送液ポンプB(16)との流量の和は一定)。送液された溶離液(1、15)は、分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数十μLから毎分数百nLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0067】
測定条件は分析カラム(7)として、内径1mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(東ソー社製)、溶離液(1、15)として、A:アセトニトリル/水(20/80)、B:アセトニトリル/水(70/30)を使用した。ポンプ(2、16)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。グラジエントは30分間で溶離液A100%から溶離液B100%まで変化するグラジエントを行なった。ポンプ(2、16)の総流量を毎分200μLに設定し、熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)でB側流路の流量値が毎分176.5μLで一定になるように制御し、分析を行なうA側流路には上記の差分である毎分23.5μL流れるように制御を行なった。
【0068】
測定試料としては、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘプチルの6種を混合したものを用いた。
【0069】
(B)本発明の微小流量送液方法
本発明のアクティブスプリット法による微小流量送液装置のシステム構成を図17に示す。送液ポンプA(2)により溶離液A(1)を、送液ポンプB(16)により溶離液B(15)を送液する。送液ポンプA(2)、送液ポンプB(16)の各流量を変化させ溶媒グラジエントを行なう(送液ポンプA(2)と送液ポンプB(16)との流量の和は一定)。送液された溶離液(1、15)は第一の熱式流量計(4)を通過した後、分岐ブロック(13)によりA側流路とB側流路に分岐される。A側流路は分析に使用される流路であり、試料注入装置(6)、分析カラム(7)及びカラム恒温槽(8)、検出器(9)が配置されている。B側流路には第二の熱式流量計(5a)、流量制御装置(5b)が配置されている。A側流路は毎分数十μLから毎分数百nLといった微小流量が流れる流路である。B側流路は残りの大部分が流れる流路である。
【0070】
測定条件は分析カラム(7)として、内径1mm、長さ50mm、粒径3μmのODSカラム(東ソー社製)、溶離液(1、15)として、A:アセトニトリル/水(20/80)、B:アセトニトリル/水(70/30)を使用した。ポンプ(2、16)としては東ソー社製のCCPMを一部改良して使用した。グラジエントは30分間で溶離液A100%から溶離液B100%まで変化するグラジエントを行なった。溶離液は第一の熱式流量計(4)で流量値を計測し、その値(流量値)に流量比率(0.883)を乗じた値を演算機(14)で計算する。そして、前記演算機(14)より、前記計算値と、第二の熱式流量計(5a)の流量値とを一致させる制御信号を流量制御装置(5b)に送り、B側流路の流量値が毎分(第一の熱式流量計の流量値×0.883)μLになるように、分析を行なうA側流路には上記の差分である(第一の熱式流量計の流量値×0.117)μLになるように制御を行なった。
【0071】
測定試料としては(A)のシステム構成(図16)を用いたときと同じ、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘプチルの6種を混合したものを用いた。
【0072】
(C)結果
図18に(A)(B)両システム構成(図16、図17)を用いたときの、クロマトグラムの結果を示す。図18のうち、aが(A)のシステム構成(図16)を用いたときの、bが(B)のシステム構成(図17)を用いたときの結果である。(B)のシステム構成(図17)を用いたときは6種全てのピークが確認でき、良好にグラジエントが行なわれていることがわかる(図18b)。一方、(A)のシステム構成(図16)を用いたときでは極端に溶出が遅れ、80分でも3種のピークしか確認できなかった(図18a)。図18aの結果から、(A)のシステム構成(図16)を用いたときでは分析の途中から流量が極端に低下していることがわかる。
【0073】
この時のカラム圧力変化を図19に、第一の熱式流量計(4)の出力値(分岐前の流量)を図20に、第二の熱式流量計(5a)の出力値(B側流路の流量)を図21にそれぞれ示す(それぞれ、図中のaが(A)のシステム構成(図16)を用いたとき、bが(B)のシステム構成(図17)を用いたときの結果である)。
【0074】
(A)(B)両システム構成(図16、図17)を用いたときも、グラジエントの進行と共に、第一の熱式流量計(4)の出力値(分岐前の流量)は直線的に低下していく(図20)。これは、実際の流量は変化していないが、溶媒の比熱は変化するため熱式流量計の応答が変化していることに由来する。
【0075】
(A)のシステム構成(図16)を用いたときは、第二の熱式流量計(5a)の出力値(B側流路の流量)が一定になるように制御を行なうため、グラジエント開始後しばらくは一定の値になるが、13分以降は値の低下が見られ、正しく制御されていないことが分かる(図21a)。
【0076】
一方、(B)のシステム構成(図17)を用いたときは、第一の熱式流量計(4)で実流量値を計測し、その値(実流量値)に分岐比率を乗じた計算流量値と、第二の熱式流量計(5a)の流量値とを一致させる制御を行なっているため、第二の熱式流量計(5a)の出力流量値(B側流路の流量)は、第一の熱式流量計(4)の出力流量値(分岐前の流量)の低下と同期して低下していく(図21b)。
【0077】
第一の熱式流量計(4)の出力流量値と第二の熱式流量計(5a)の出力流量値の差、つまり分析に使用されるA側流路の流量を図22に示す。aは(A)のシステム構成(図16)を用いたときの流量、bは(B)のシステム構成(図17)を用いたときの流量、cは比熱の変化(理論値)の変化を示している。なお、cの比熱は、ボイドの影響を考慮し、2分の遅れをもたしている。
【0078】
(A)のシステム構成(図16)を用いたとき(図22a)は、グラジエント開始後、約2分から急激に低下し約13分以降は全く流れていないことが分かる。一方、(B)のシステム構成(図17)を用いたとき(図22b)は、グラジエント開始時、毎分約27μLであったものが徐々に低下して行き、30分後毎分約17μLになっている。
【0079】
(B)のシステム構成(図17)を用いたとき(図22b)でも計算上の流量が低下しているのは、比熱の変化により熱式流量計の応答が変化しているためである。図20の第一の熱式流量計(4)の出力流量値と第二の熱式流量計(5a)の出力流量値の差を比熱で除すると実際の流量が算出できる。図23は除算後のA側流路の流量である。このように、本発明の微小流量送液方法を用いた場合、グラジエント実行中、毎分約30μLでほぼ一定の流量が得られていることが分かる。
【0080】
(B)のシステム構成(図17)を用いたときでの再現性を図24から26に示す。図24はクロマトグラム(n=10)、図25は溶出時間の変化(n=10)、図26は溶出時間の再現性を示す。(n=10×2)。このように各ピークの溶出時間の再現性はCv(%)で0.1から0.5%と良好な値が得られており(図26)、本発明の流量制御方法を用いることでA側流路に微小流量を精度良く送液可能であることが示唆される。
【0081】
実施例3 本発明の微小流量送液方法を用いたキャピラリィ電気泳動装置
実施例1及び2では、ポンプにより液体を送液する液体クロマトグラフィに本発明を適用した例を示したが、キャピラリィ電気泳動に対しても同様な送液方法を適用することができる。図27にその構成を示す。送液ポンプ(2)の代わりに電解液A(20)を配し、導管を挿入する。A側流路の廃液およびB側流路の廃液配管を電解液B(21)に挿入する。電解液A(20)と電解液B(21)にそれぞれ電極(22)(23)を挿入し、電源(18)に接続することで、液流が発生し、キャピラリィ電気泳動を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】基本的なスプリット法(スタティックスプリット法)で微小流量を送液したときの流路図(アイソクラティック法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図2】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの流路図(アイソクラティック法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図3】従来のアクティブスプリット法における、溶離液組成が変化しない場合(アイソクラティック溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は分岐前の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)はA側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図4】本発明の微小流量送液方法において、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)を、A側流路の試料注入装置(6)の前に配置した場合の流路図。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図5】本発明の微小流量送液方法において、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)を、A側流路の検出器(9)の後に配置した場合の流路図。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図6】本発明の微小流量送液方法において、第二の熱式流量計(5a)及び流量制御装置(5b)を、B側流路に配置した場合の流路図(アイソクラティック法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図7】本発明の微小流量送液方法における、溶離液組成が変化しない場合(アイソクラティック溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は、分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は分岐前の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)は、A側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図8】水で補正を行なった熱式流量計を使用し、水100%からアセトニトリル100%までのグラジエントを行なった場合の熱式流量計の出力変化。横軸はアセトニトリルの濃度、左縦軸は流量、右縦軸は比熱を表す。破線は実際の流量、塗りつぶした領域は熱式流量計が指示する流量値をそれぞれ示す。
【図9】従来のアクティブスプリット法による、溶離液組成が変化する場合(グラジエント溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は熱式流量計が指示する分岐前の流量、破線は実際の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)はA側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図10】本発明の微小流量送液方法による、溶離液組成が変化する場合(グラジエント溶出法)の流量制御を示したグラフ。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前およびB側流路の流量の変化を示したグラフであり、実線は熱式流量計が指示する分岐前の流量、破線は実際の流量、塗りつぶした領域はB側流路の熱式流量計/流量制御装置の制御値を示す。(b)はA側流路の流量の変化を示したグラフであり、塗りつぶした領域はA側流路の流量を示す。
【図11】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときのB側流路の熱式流量計の出力値の変化。横軸は時間、縦軸は流量を表す。
【図12】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときのクロマトグラム結果(n=20)。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。
【図13】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの各流路の流量変化。横軸は時間、縦軸は流量を表す。(a)は分岐前の流路に配置された、第一の熱式流量計の出力値の変化を示す。(b)はB側流路に配置された、第二の熱式流量計の出力値の変化を示す。(c)は分岐前の流路に配置された、第一の熱式流量計の出力値からB側流路に配置された、第二の熱式流量計の出力値の差を示す。
【図14】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときのクロマトグラム(n=20)。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。
【図15】溶出時間のCv(%)を示した結果(n=10で3バッチ測定)。(a)は従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときのCv(%)を示す。(b)は本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときのCv(%)を示す。
【図16】従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの流路図(溶媒グラジエント溶出法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図17】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの流路図(溶媒グラジエント溶出法)。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【図18】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとを比較したクロマトグラム。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図19】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとでカラム圧力の変化を示した図。横軸は時間、縦軸はカラム圧力を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図20】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとで、分岐前の流路に配置された、第一の熱式流量計の出力値の変化を示した図。横軸は時間、縦軸は流量(流量計の出力値)を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図21】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとの、B側流路に配置された第二の熱式流量計の出力値の変化を示した図。横軸は時間、縦軸は流量を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図22】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとの、分岐前の流路に配置された第一の熱式流量計の出力値から、B側流路に配置された第二の熱式流量計の出力値の差を示した図。横軸は時間、縦軸は流量を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。cは溶離液の比熱の変化を示す(ボイドの影響を考慮し、2分の遅れをもたしている)。
【図23】溶媒グラジエント溶出法において、従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときと、本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときとの、熱式流量計の出力値の差を比熱で除算した値を示した図。横軸は時間、縦軸は流量を表す。aは従来のアクティブスプリット法で微小流量を送液したときの結果を示す。bは本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの結果を示す。
【図24】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときのクロマトグラム結果(n=10)。横軸は時間、縦軸は吸光度を表す。
【図25】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの、溶出時間の変動を示した図(n=10)。
【図26】本発明の微小流量送液方法で微小流量を送液したときの、溶出時間のCv(%)を示した図(n=10で2バッチ測定)。
【図27】本発明の微小流量送液方法をキャピラリィ電気泳動に適用した場合の流路図。長鎖線はA側流路、長破線はB側流路を示す。
【符号の説明】
【0083】
1.溶離液A
2.送液ポンプA
3.圧力計
4.第一の熱式流量計
5a.第二の熱式流量計
5b.流量制御装置
6.試料注入装置
7.分析カラム
8.カラム恒温槽
9.検出器
10.廃液A
11.廃液B
12.フィードバック信号
13.分岐ブロック
14.演算機
15.溶離液B
16.送液ポンプB
17.可変抵抗
18.電源
19.電気泳動分離媒体
20.電解液A
21.電解液B
22.電極A
23.電極B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液手段によって液体を流し、分岐手段を用いて、分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液装置であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値を任意のサンプリング間隔で計測する第一の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を第一の流量計と同じまたは異なるサンプリング間隔で計測する第二の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を必要に応じて制御する流量制御手段と、
第一及び第二の流量計で計測された流量値に基づいて、送液手段と分岐手段との間の流路、分離媒体側の流路、及び廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御するための信号を送る演算手段とを備え、
前記演算手段は
(1−1)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1未満の任意の値を乗じて、第二の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(1−2)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記流量制御手段を制御する、
または、
(2−1)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1を超える任意の値を乗じて、第一の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(2−2)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記送液手段を制御する、
ことを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
前記第一及び第二の流量計が、熱式流量計であることを特徴とする、請求項1に記載の微小流量送液装置。
【請求項3】
廃棄側の流路に前記第二の流量計及び前記流量制御手段を設置していることを特徴とする、請求項1から2に記載の微小流量送液装置。
【請求項4】
前記演算手段には、各サンプリング間隔で計測した時間における、
(1)第一及び第二の流量計で計測された流量値、
(2)第一または第二の流量計で計測されるべき流量の計算値、
(3)流量制御手段または送液手段で制御すべき流量値、
(4)流量制御手段または送液手段の制御に関する情報、
を記録するための記録手段を備えていることを特徴とする、請求項1から3に記載の微小流量送液装置。
【請求項5】
送液手段を用いて液体を流し、分岐手段を用いて分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液方法であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
(1−1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の値を乗じて、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の流量値を計算し、
(1−2)前記計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するように、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または
(2−1)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量に、1を超える任意の値を乗じて、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の流量値を計算し、
(2−2)前記計算流量値と、前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値とが一致するように、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御する、
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項6】
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に1未満の任意の値を乗じた計算値で制御される流量が、廃棄側の流路に流れる液体の流量であることを特徴とする、請求項5に記載の微小流量送液方法。
【請求項1】
送液手段によって液体を流し、分岐手段を用いて、分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液装置であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値を任意のサンプリング間隔で計測する第一の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を第一の流量計と同じまたは異なるサンプリング間隔で計測する第二の流量計と、
分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を必要に応じて制御する流量制御手段と、
第一及び第二の流量計で計測された流量値に基づいて、送液手段と分岐手段との間の流路、分離媒体側の流路、及び廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御するための信号を送る演算手段とを備え、
前記演算手段は
(1−1)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1未満の任意の値を乗じて、第二の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(1−2)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記流量制御手段を制御する、
または、
(2−1)第二の流量計で計測された流量値を入力値として、当該流量値に1を超える任意の値を乗じて、第一の流量計で計測されるべき流量値を計算し、
(2−2)第一の流量計で計測された流量値を入力値として、前記計算流量値と比較し、両方の流量値を一致させるように、前記送液手段を制御する、
ことを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
前記第一及び第二の流量計が、熱式流量計であることを特徴とする、請求項1に記載の微小流量送液装置。
【請求項3】
廃棄側の流路に前記第二の流量計及び前記流量制御手段を設置していることを特徴とする、請求項1から2に記載の微小流量送液装置。
【請求項4】
前記演算手段には、各サンプリング間隔で計測した時間における、
(1)第一及び第二の流量計で計測された流量値、
(2)第一または第二の流量計で計測されるべき流量の計算値、
(3)流量制御手段または送液手段で制御すべき流量値、
(4)流量制御手段または送液手段の制御に関する情報、
を記録するための記録手段を備えていることを特徴とする、請求項1から3に記載の微小流量送液装置。
【請求項5】
送液手段を用いて液体を流し、分岐手段を用いて分離媒体側の流路及び廃棄側の流路とに分岐させることで、微小流量の液体を分離媒体に流す微小流量送液方法であって、
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値と、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値を計測し、
(1−1)前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に、1未満の任意の値を乗じて、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流すべき液体の流量値を計算し、
(1−2)前記計算流量値と、前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量値とが一致するように、分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量を制御する、
または
(2−1)前記分離媒体側の流路または廃棄側の流路に流れる液体の流量に、1を超える任意の値を乗じて、送液手段と分岐手段との間に流すべき液体の流量値を計算し、
(2−2)前記計算流量値と、前記送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値とが一致するように、送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量を制御する、
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項6】
送液手段と分岐手段との間に流れる液体の流量値に1未満の任意の値を乗じた計算値で制御される流量が、廃棄側の流路に流れる液体の流量であることを特徴とする、請求項5に記載の微小流量送液方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2010−101630(P2010−101630A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270539(P2008−270539)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
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