説明

微小物体捕集装置、微小物体量測定装置、微小物体捕集方法および微小物体量測定方法。

【課題】検査液に含まれる微小物体を捕集するための微小物体捕集装置を、単純な構成によって提供する。
【解決手段】捕集用電極に第1の周波数の交流電圧または第2の周波数の交流電圧を印加することにより前記微小物体を捕集する微小物体捕集部3と、前記微小物体捕集部に検査液を導入する検査液導入部1と、前記微小物体捕集部に分離用液体を導入する分離用液体導入部5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の微小物体を捕集するための微小物体捕集装置および微小物体捕集方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶液中に存在する微小物体(具体的には、大きさ0.1μmから10μm程度の細菌やプラスチック粒子や粘土粒子)の濃度を測定する方法として、誘電泳動力を用いて微小物体を捕集する方法がある。
【0003】
誘電泳動力とは、不均一電場中において微小物体に誘起されたダイポールモーメントに働く力である。その強度は電場強度の勾配に比例し、微小物体の誘電率と液体の誘電率との大小関係および電極に印加する電圧の周波数によって、引力または斥力が働く。例えば、ポリスチレンの微粒子を純水中に懸濁させたポリスチレン懸濁液の場合、この力は100kHzで引力となり、2MHzで斥力となる。引力となる場合は、電場強度が強い電極のエッジ部近傍に微粒子が捕集され、斥力が働く場合は、電場強度強い電極近傍から、微小物体は離れていき、電場強度が弱い位置に集まる。上記の引力の働く場合を正の誘電泳動いい、斥力が働く場合を負の誘電泳動という。
【0004】
図18に、誘電泳動力を利用した分離装置の例を示す。図18に示す装置は、核を有する血球細胞である白血球細胞(K562)と、一般的なグラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)とを分離する分離方法に用いられる装置であり、特許文献1に開示されている。
【0005】
図18において、501は溶液を保持するためのチャンバーであり、対向する電極503および504を具備した底面502と壁面から構成されている。電極503、504は不図示の配線を通して不図示の高周波電源に接続されている。チャンバー501には流入口505と流出口506が具備され、流入口505には不図示のポンプを通して不図示の試料タンクに接続されている。流出口506にも不図示の回収用タンクが接続されている。
【0006】
図18のBは、図18(A)の点線断面をX−X'方向に見た断面図である。本例で電極503と504は櫛歯形状をしており、それぞれが直接接触しないように底面502に対向して配置されている。
【0007】
特許文献1記載の分離方法によれば、電極503、504に500kHz、50Vの高周波電圧を印加した状態で、白血球細胞と大腸菌とを含む混合液を25μl/sの流速で流入口510から流す。
【0008】
特許文献1記載の分離方法によれば、白血球は、投入した量の3%のみが回収され、残りの97%は装置内に捕獲される。大腸菌は投入量の95%が回収される。このように、本発明の細胞分離方法を用いると、非常に効率的に血球細胞と大腸菌とが分離できる。
【0009】
なお、特許文献1記載の分離方法では、溶液として所定の電導率の溶液を用いなければならない。具体的には、前記溶液の導電率が10mS/m以上1500mS/m未満に限定される。したがって、血液を特許文献1の分離方法に用いる場合には、さらに血液を上記導電率に調整する血液処理工程が該分離方法に含まれる。
【0010】
血液処理工程の一つに、血液の液体成分を置換する方法がある。特許文献1における血液の液体成分を置換する工程は、血液の固形成分を収集し、それをさらに純水や緩衝溶液、血清で懸濁する工程であり、具体的には、血液遠心分離後、5%血清溶液で懸濁して置換する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−284778号公報(平成21年12月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1記載の分離方法によれば、溶液の導電率を調整するため、検査液の液体成分を置換する。その工程は固形成分を、遠心分離等を用いて一旦収集した後に希釈するという複数工程からなり複雑である。また、前記検査液の液体成分を置換する手段を備える微小物体捕集装置はその構成が複雑となってしまう。
【0013】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、検査液(特許文献1における溶液)に含まれる微小物体を捕集するための微小物体捕集装置を、単純な構成によって提供することを目的とする。
【0014】
また、前記検査液に含まれる微小物体の量を高感度または高精度に測定する微小物体量測定装置を、単純な構成によって提供することを目的とする。
【0015】
また、前記検査液に含まれる微小物体を捕集するための微小物体捕集方法を、単純な工程によって提供することを目的とする。
【0016】
また、前記検査液に含まれる微小物体の量を高感度または高精度に測定する微小物体量測定方法を、単純な工程によって提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の微小物体捕集装置は、微小物体を含む検査液から前記微小物体を捕集する微小物体捕集装置であって、捕集用電極に第1の周波数の交流電圧または第2の周波数の交流電圧を印加することにより前記微小物体を捕集する微小物体捕集部と、前記微小物体捕集部に検査液を導入する検査液導入部と、前記微小物体捕集部に分離用液体を導入する分離用液体導入部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、前記検査液の導電率を測定する導電率測定手段を備えることを特徴とする。
【0019】
また、前記第1の周波数は、前記導電率において、測定対象物に対して正の誘電泳動が強く働く周波数であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の微小物体量測定装置は、検査液に含まれる微小物体の数を測定する微小物体量測定装置であって、本発明の微小物体捕集装置と、前記微小物体捕集装置が捕集した前記微小物体の量を測定する検出部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の微小物体捕集方法は、微小物体を含む検査液から捕集対象物である微小物体を捕集する微小物体捕集方法であって、捕集用電極を備える微小物体捕集部に前記検査液を導入するステップと、前記捕集用電極に第1の周波数の交流電圧を印加し、捕集対象物である微小物体と他の微小物体とを捕集するステップと、捕集された微小物体を前記捕集用電極に保持したまま、分離用液体を前記微小物体捕集部に導入し、前記微小物体捕集部内の検査液を分離用液体に置換するステップと、前記捕集用電極に第2の周波数の交流電圧を印加して前記捕集対象物である微小物体を保持する状態を維持したまま、前記微小物体捕集部へ分離用液体を導入し、前記捕集用電極から離脱した前記他の微小物体を排出するステップと、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、前記検査液の導電率を測定するステップを備え、前記第1の周波数は、前記導電率において、測定対象物に対して正の誘電泳動が強く働く周波数であることを特徴とする。
【0023】
また本発明の微小物体量測定方法は、検査液に含まれる測定対象物である微小物体の数を測定する微小物体量測定方法であって、本発明の微小物体捕集方法によって、測定対象物である微小物体を捕集するステップと、前記測定対象物である微小物体の量を測定するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、単純な構成または工程によって、検査液に含まれる微小物体を捕集することができる。
【0025】
また、単純な構成または工程によって、微小物体の量を高感度または高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る微小物体捕集装置の構成を示したブロック図である。
【図2】本実施形態に係る微小物体捕集方法のフロー図である。
【図3】本実施形態に係る微小物体量測定装置を概略的に示した断面図である。
【図4】本実施形態に係る微小物体量測定装置の微小物体捕集部および検出部を概略的に示した一部上面図である。
【図5】本実施形態に係る微小物体量測定方法のフロー図である。
【図6】本実施形態に係る大腸菌及び粘土粒子の捕集および離脱の様子を示した図である。
【図7】本実施形態に係る微小物体量測定装置の微小物体捕集部および検出部を概略的に示した一部上面図である。
【図8】本実施形態に係る本実施例おける微小物体量測定方法に係るフロー図である。
【図9】本実施形態に係る微小物体量測定装置の微小物体捕集部および検出部を概略的に示した一部上面図である。
【図10】本実施形態に係る微小物体量測定方法のフロー図である。
【図11】(a)本実施形態に係る測定対象物が濃縮用電極に捕集される様子を示した模式図である。(b)本実施形態に係る測定対象物がセンサ部に誘導された様子を示した模式図である。
【図12】本実施形態に係る微小物体量測定装置の検出部8を概略的に示した一部上面図である。
【図13】本実施形態に係る微小物体量測定方法に係るフロー図である。
【図14】本実施形態に係る測定対象物の捕集の状態を示した模式図である。
【図15】本実施形態に係る電気浸透流により測定対象物がセンサ部の中央に誘導された様子を示した模式図である。
【図16】本実施形態に係る微小物体量測定装置の微小物体捕集部および検出部を概略的に示した一部上面図である。
【図17】本実施形態に係る微小物体量測定方法に係るフロー図である。
【図18】従来技術に係る誘電泳動力を利用した分離装置の例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明における検査液は水道からの水や、フィルター濾過された水が想定されるが、これ以外の食品製造過程の水、産業用洗浄水、生体由来の体液、分泌物、排泄物、環境中の海洋、河川、貯水槽中の水であっても良い。また、水でなくとも、有機溶媒であってもよい。
【0028】
本発明における微小物体とは、誘電泳動により力を働かせることが可能な大きさのあらゆる粒子を意味する。例えば、粘土粒子やガラス粒子、鉱物粒子、ポリスチレン等の高分子による粒子や、カーボンナノチューブ、金コロイドなどの金属粒子およびそれらに何らかのコーティングを施した粒子、細菌、真菌、放線菌、リケッチア、マイコプラズマ、ウイルス、として分類されているいわゆる微生物、原生動物や原虫のうちの小型のもの、生物体の幼生、動植物細胞、精子、血球、核酸、蛋白質等も含む広い意味での生体または生体由来の微小物体を含む。
【0029】
本発明の一実施形態である微小物体捕集装置について、図に基づいて説明する。
【0030】
図1は本実施形態に係る微小物体捕集装置の構成を示したブロック図である。微小物体捕集装置とは、微小物体を含む検査液から前記微小物体を捕集する装置である。本実施形態に係る微小物体捕集装置は、検査液導入部1と微小物体捕集部3と分離用液体導入部4とを備える。検査液導入部1は弁2を介して微小物体捕集部3と接続され、分離用液体導入部4は弁5を介して微小物体捕集部3と接続される。
【0031】
検査液導入部1は、微小物体を含む検査液を微小物体捕集部3に供給する手段である。
【0032】
微小物体捕集部3は、供給された検査液中の微小物体を捕集する手段である。具体的には、検査液を収容する容器と前記容器内面に露出した2つ以上の捕集用電極に所定の周波数の交流電圧を印加する手段により構成される。微小物体捕集部は、前記捕集用電極間に所定の周波数の交流電圧を印加することにより、容器中に収容された検査液に含まれる所定の微小物体に対し誘電泳動力を働かせ、前記微小物体を捕集することができる。また、微小物捕集部3には排出口があり、容器に収容できない量の液体が供給された場合、前記排出口より余分な液体が排出される構成となっている。
【0033】
分離用液体導入部4は、分離用液体を微小物体捕集部3に供給する手段である。
【0034】
図2は、本実施形態に係る微小物体捕集方法のフロー図である。まず初めに、弁2を開き、微小物体を含んだ検査液を検査液導入部1より弁2を介して微小物体捕集部3へと導入させる(S001)。このとき弁5は閉じられており、検査液が分離用液体導入部4に流入することはない。
【0035】
次に微小物体捕集部3の捕集用電極に第1の周波数の交流電圧を印加し、当該周波数で正の誘電泳動が働く微小物体を捕集する(S002)。本工程において捕集する微小物体は、本実施例形態に係る微小物体捕集方法において、捕集する対象物である特定の微小物体(以下、「捕集対象物」と呼ぶ)のみならず、他の微小物体を含んでいてもよい。例えば、検査液の中に大腸菌と粘土粒子が混在しており、捕集対象物が大腸菌のみであっても、検査液の導電率等の関係上、検査液から大腸菌を捕集し、かつ粘土粒子を捕集しないことが困難である場合には、大腸菌と粘土粒子との両方を捕集できる周波数を第1の周波数として印加し、捕集用電極に大腸菌と粘土粒子とを捕集すればよい。
【0036】
なお、印加中も検査液導入部1から微小物体捕集部3への検査液の供給を継続してよい。この場合、捕集用電極により多くの微小物体を捕集することができる。従って、多くの検査液から一度に大量の微小物体を捕集できる。なお、捕集用電極に捕集されない他の微小物体および余剰の液体は、順次排出口から排出される。
【0037】
次に、弁2を閉じて検査液導入部1から微小物体捕集部3への検査液の供給を停止し、その次に、弁5を開き、分離用液体を分離用液体導入部4から微小物体捕集部3に導入する。このとき、弁2は閉じられているので、分離用液体が検査液導入部1に流入することはない。なお、分離用液体の微小物体捕集部3への導入が完了するまでの間、第1の周波数の交流電圧による捕集用電極への印加を継続する。これにより、捕集された微小物体を捕集用電極に保持したまま、微小物体捕集部3内の検査液を分離用液体に置換することができる(S003)。
【0038】
分離用液体としては、第2の周波数の交流電圧を印加した場合に、捕集対象物に正の誘電泳動力が働き、かつ検査液にふくまれる他の微小物体には正の誘電泳動力が働かない所定の導電率の液体、より望ましくは負の誘電泳動力が働く所定の導電率の液体を用いる。また、捕集用電極に流れる電流量を下げ、低消費電力を実現するためには、分離用液体の導電率は低い方が好ましい。例えば、分離用液体として純水や蒸留水などを用いる。
【0039】
次に、分離用液体導入部4から微小物体捕集部3への分離用液体の導入を継続しながら、捕集用電極に第2の周波数の交流電圧を印加する(S004)。捕集対象物については捕集用電極に保持された状態が維持されるが、他の微小物体には正の誘電泳動力が働かないので、捕集用電極から離脱することができる。分離用液体導入部4から微小物体捕集部3への分離用液体の導入は継続されているので、捕集用電極から離脱した他の微小物体は、余剰の分離用液体とともに排出される。
【0040】
例えば、検査液が大腸菌と粘土粒子との混合液であり、捕集対象物が大腸菌である場合は、大腸菌には正の誘電泳動が働き、かつ粘土粒子には負の誘電泳動が働く周波数を第2の周波数として印加することによって、粘土粒子を微小物体捕集部3の外に排出することができる。
【0041】
最後に、捕集用電極への電圧の印加を停止し、微小物体捕集部3内に収容された捕集対象物を排出する(S005)。排出方法は、分離用液体導入部4から導入される分離用液体とともに排出する方法であっても良いし、他の方法であっても良い。
【0042】
本実施形態によれば、検査液の導電率に関わらず、検査液に含まれる捕集対象物を検査液から捕集することができる。また、他の微小物体を誤って捕集することが無い。また、遠心分離等を用いて一旦収集した後に希釈するという複雑な工程を用いずに、捕集することができるので、工程が単純である。また、液体成分を置換する手段として、分離用液体導入部4を備えるので、構成が単純である。
【実施例1】
【0043】
図3は本実施例に係る微小物体量測定装置100を概略的に示した断面図である。微小物体量測定装置100は、検査液導入部1、弁2、微小物体捕集部3、分離用液体導入部4、弁5、検出部8、流入管91、排出管92、試料セル93、基板94を含んで構成される。試料セル93には2つの開口部を繋ぐ流路が形成されており、流路の底面には基板94が配置される。検査液導入部1および分離用液体導入部4と、試料セル93の一方の開口部とは流入管91で接続される。なお、検査液導入部1と試料セル93との間には弁2が設けられており、分離用液体導入部4と試料セル93との間には弁5が設けられている。また、試料セル93の他方の開口部には液体を排出する流出管92が接続されている。
【0044】
微小物体捕集部3と検出部8とは基板94上に配置される。なお、微小物体捕集部3は、流路における流入管91側に設けられ、検出部8は流路における排出管92側に設けられる。
【0045】
微小物体捕集部3内部には、捕集用電極31が設けられる。
【0046】
検出部8には、微小物体の量を検出する手段として、表面プラズモンセンサが設けられている。表面プラズモンセンサに代えて、インピーダンス法による検出手段や蛍光検出や散乱光検出手段などのその他の検出手段を設けてもよい。
【0047】
本実施例の表面プラズモンセンサは、光源81、コリメートレンズ82、集光レンズ83、プリズム84、コリメートレンズ85、センサ部86、光検出部87を含んで構成される。
【0048】
光源81は半導体レーザ、外部共振半導体レーザ、固体レーザ、ガスレーザ、単色性の良いLEDなどから形成され、センサ部86へ光を供給する。光検出部87は反射光の入射角依存性を計測するため、CCDやCMOSなどの1次元センサにより構成されることが好ましいが、CCDやCMOSなどの2次元センサでも良い。この場合、一方向に加算または平均を取ることでラインセンサと同等の役割を果たすように構成する。また、光検出部87は分割されたフォトダイオードを検出面に形成させた構成であってもよい。
【0049】
センサ部86の材料は、表面プラズモン共鳴角を示す角度の幅を小さくするため吸収損失の少ないAuまたはAgが好ましく、その厚みは表面プラズモン共鳴を生じさせるため100nm以下にすることが好ましい。また、AuやAgなどの金属薄膜の下地にクロムやチタンなどを下地として用いた層状構造としてもよい。なお、下地が表面プラズモンセンサの検出能力に影響を与えないようにするため、下地の厚みを5nm以下とすることが好ましい。
【0050】
光源81から照射された光は、コリメートレンズ82、集光レンズ83、プリズム84の順の光学経路をたどっているが、光がセンサ部86に集光されればよく、コリメートレンズ82、集光レンズ83、プリズム84を異なる順に配置してもよく、また、その他の光学部材を配置してもよい。また、センサ部86に入射する光はP偏光とする。
【0051】
図4は微小物体量測定装置の微小物体捕集部3および検出部8を概略的に示した一部上面図である。微小物体捕集部3には捕集用電極31aおよび捕集用電極31bからなる捕集用電極31が配置されている。また、微小物体捕集部3は、交流電源32と周波数制御手段33とを備える。交流電源32の一方の端子は捕集用電極31aに接続され、他方の端子は捕集用電極31bに接続され、捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間に交流電圧を印加ことができる。周波数制御手段33は交流電源32が印加する電圧の周波数を制御する手段である。
【0052】
図4は、流入管91から排出管92に向かう流路方向に対して捕集用電極31aと捕集用電極31bとが交互に配置された櫛歯型電極を示している。捕集用電極31aと捕集用電極31bとからなる捕集用電極31は、基板94上に形成される。その場合、基板94は光源81が照射する光に対して透明であり、その屈折率はプリズムと同程度であることが好ましい。これにより、光利用効率を向上させ、不要な反射による迷光の発生や干渉性ノイズを低減させることができる。また、捕集用電極31は、図2に示すようにセンサ部86と同一の基板上に形成されていても良い。
【0053】
交流電源32から捕集用電極31aおよび捕集用電極31bに印加する交流電圧は、位相が異なる交流電圧とする。より強い電場強度を電極間に与えるため、位相が180度シフトしていることが望ましい。また、捕集用電極31aまたは捕集用電極31bのうちいずれか一方を、交流電源32と配線せずに接地し、他方の捕集用電極にのみ交流電圧を印加する形態としても良い。交流電圧の波形は、矩形波、三角波などの波形を用いることが可能であるが、高調波による影響が少ないSin波がもっとも適している。
【0054】
図5は、本実施例に係る微小物体量測定方法のフロー図である。まず初めに、弁2を開き、微小物体を含んだ検査液を検査液導入部1より弁2、流入管91を介して微小物体捕集部3へと導入させる(S001)。このとき弁5は閉じられており、検査液が分離用液体導入部4に流入することはない。
【0055】
次に周波数制御手段33が交流電源32を制御して、捕集用電極31に第1の周波数の交流電圧を印加させ、当該周波数で正の誘電泳動が働く微小物体を捕集する(S002)。本工程において捕集する微小物体は、本微小物体量測定方法において、測定する対象物である特定の微小物体(以下、「測定対象物」と呼ぶ)のみならず、他の微小物体を含んでいてもよい。例えば、検査液の中に大腸菌と粘土粒子とが混在しており、大腸菌のみを測定したい場合であっても、検査液の導電率等の関係上、検査液から大腸菌を捕集し、かつ粘土粒子を捕集しないことが困難である場合には、大腸菌と粘土粒子との両方を捕集できる周波数を第1の周波数として印加し、捕集用電極31に大腸菌と粘土粒子とを捕集すればよい。
【0056】
図6(a)は本工程における大腸菌110及び粘土粒子111の捕集の様子を示した図である。図6(a)は、捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間に、大腸菌110及び粘土粒子111が捕集されていることを示している。
【0057】
なお、印加中も検査液導入部1から微小物体捕集部3への検査液の導入を継続してよい。この場合、より多くの検査液からより多くの微小物体を捕集することができ、高感度の測定が可能となる。なお、捕集用電極31に捕集されない他の微小物体および余剰の液体は、排出管92から順次排出される。同様に、検査液導入部1から微小物体捕集部3への検査液の導入を断続的に行なってもよい。
【0058】
次に、弁2を閉じて検査液導入部1から微小物体捕集部3への検査液の導入を停止し、その次に、弁5を開き、分離用液体を分離用液体導入部4から弁5、流入管91を介して微小物体捕集部3に導入する。このとき、弁2は閉じられているので、分離用液体が検査液導入部1に流入することはない。なお、分離用液体の導入が完了するまでの間、第1の周波数の交流電圧を捕集用電極31に印加し続ける。これにより、捕集された微小物体を捕集用電極31に保持したまま、検査液を分離用液体に置換することができる(S003)。
【0059】
分離用液体として、第2の周波数の交流電圧を印加した場合に、測定対象物に正の誘電泳動力が働き、検査液にふくまれる他の微小物体には正の誘電泳動力が働かない(より望ましくは負の誘電泳動力が働く)、所定の導電率の液体を用いる。また、捕集用電極31に流れる電流量を下げ、低消費電力を実現するためには、分離用液体の導電率は低い方が好ましい。具体的には、分離用液体として純水や蒸留水などを用いる。
【0060】
次に、分離用液体導入部4から微小物体捕集部3への分離用液体の導入を継続しながら、捕集用電極31に第2の周波数の交流電圧を印加する(S004)。測定対象物については捕集用電極31に保持された状態が維持されるが、他の微小物体には正の誘電泳動力が働かないので、捕集用電極31から離脱することができる。分離用液体導入部4から微小物体捕集部3への分離用液体の導入は継続されているので、捕集用電極31から離脱した他の微小物体は、余剰の分離用液体とともに排出管92から排出される。
【0061】
例えば、検査液が大腸菌と粘土粒子との混合液であり、測定対象物が大腸菌である場合は、大腸菌には正の誘電泳動が働き、かつ粘土粒子には負の誘電泳動が働く周波数を、第2の周波数として印加することによって、粘土粒子を微小物体捕集部3の外に排出することができる。
【0062】
図6(b)は、本工程において粘土粒子111が捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間から離脱し、液体の流れとともに下流に流れる様子を概略的に示している。この時、大腸菌110は捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間に保持されており、下流に流れることは無い。
【0063】
次に、捕集用電極31への電圧の印加を停止する。分離用液体導入部4から微小物体捕集部3への分離用液体の導入は継続されているので、捕集用電極31から離脱した測定対象物は、分離用液体の流れによって、センサ部86近傍に導かれる。(S105)。
【0064】
次に検出部8がセンサ部86近傍に導かれた測定対象物の量を測定する(S106)。測定対象物の量の測定は、検出部8の表面プラズモンセンサが行なう。
【0065】
本実施例における表面プラズモンセンサによる測定方法について説明する。光源81から照射された光は経路をたどり、コリメートレンズ82を透過して平行光となった後、集光レンズ83に入射する。集光レンズ83に入射した光は、プリズム84に入射され、プリズム84上に配置されたセンサ部86に集光される。センサ部86に集光された光は多様な角度成分の光を含んでおり、全反射角以上の角度で入射された光はプリズム84とセンサ部86の界面で全反射され、コリメートレンズ85に入射する。コリメートレンズ85に入射した光は、平行光となり、その後、光検出部87へ受光する。光検出部87では受光した反射光の反射光強度の入射角依存性を計測する。
【0066】
センサ部86に光がエバネッセント波の内表面プラズモン共鳴角で入射された場合、表面プラズモンがセンサ部86の金属表面において励起される。このとき、表面プラズモン共鳴による電場の溶液中への染み出しにより光泳動が生じ、微小物体がセンサ部86表面近傍に捕集される。また、表面プラズモン励起によって生じた熱によって生じた対流によってセンサ部86に微小物体が集められる力や、光電場による勾配力つまり光電場による誘電泳動力や、光ピンセット効果による吸着力などの、複数の力の合力によって、センサ部86に微小物体が捕集され、吸着される。
【0067】
以下、表面プラズモンセンサの動作原理について説明する。表面プラズモンとは、金属薄膜上に励起される自由電子と光の結合モードである。プリズム上に金属薄膜が配置されており、金属薄膜上に被検出物が接している場合に、プリズムを介して金属薄膜に光を照射すると、全反射角以上の入射角で入射された光は、全反射され、エバネッセント波が生じる。エバネッセント波は金属薄膜を減衰しながら透過し、金属薄膜と被検出物の接する界面まで到達する。このうち特定の入射角(以下、表面プラズモン共鳴角と言う)で入射された場合、金属薄膜と被検出物の界面に表面プラズモンが励起される。表面プラズモンは金属薄膜と被検出物の界面を減衰しながら伝搬するため、表面プラズモン共鳴角における反射光の強度は減少する。表面プラズモン共鳴角は、金属薄膜の表面近傍の誘電率変化に応じて敏感に変化する。従って、表面プラズモン共鳴角の変化量を測定することで、金属表面に付着した物質の濃度を高感度に定量することができる。
【0068】
したがって、表面プラズモン共鳴角で入射された光の反射率は他の入射角の光と比較して低下している。表面プラズモン共鳴角の値は、センサ部86の表面近傍の誘電率変化に応じて敏感に変化する。センサ部86に捕集・吸着される微小物体の量とセンサ部86表面近傍の誘電率との間には因果関係があるため、光検出部87にて表面プラズモン共鳴角を測定することで、センサ部86の金属表面に付着した微小物体の量を高感度に定量することが可能となる。
【0069】
本実施例によれば、検査液に含まれる検査対象物を検査液から捕集して、量を測定するので、検査対象物の量を高感度または/かつ高精度で測定することができる。また、遠心分離等を用いて一旦収集した後に希釈するという複雑な工程を用いずに、捕集することができるので、工程が単純である。また、液体成分を置換する手段として、分離用液体導入部4を備えるので、構成が単純である。
【0070】
なお、測定対象物は大腸菌に限定されない。誘電泳動力を働かせることが可能な物体であれば、測定対象物とすることができる。
【0071】
また、非測定対象物である微小物体は粘土粒子に限定されない。捕集用電極に交流電流を印加した場合に働く誘電泳動力が、測定対象物に働く誘電泳動力より弱くなる場合がある物体であれば、測定対象物と分離することができる。
【0072】
測定対象物または非測定対象物である微小物体としては、粘土粒子やガラス粒子、鉱物粒子、ポリスチレン等の高分子による粒子や、カーボンナノチューブ、金コロイドなどの金属粒子およびそれらに何らかのコーティングを施した粒子、細菌、真菌、放線菌、リケッチア、マイコプラズマ、ウイルス、として分類されているいわゆる微生物、原生動物や原虫のうちの小型のもの、生物体の幼生、動植物細胞、精子、血球、核酸、蛋白質等も含む広い意味での生体または生体由来の微小物体のいずれであっても良い。
【実施例2】
【0073】
図7は本実施例の微小物体量測定装置の微小物体捕集部3および検出部8を概略的に示した一部上面図である。本実施例の微小物体量測定装置の主たる構成は実施例1と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について説明する。
【0074】
本実施例の微小物体量測定装置は、液体の導電率を測定する導電率測定手段34を備える。本実施例の導電率測定手段34は、図7に示すように、捕集用電極31を導電率測定用端子として兼用する構成とする。また、検査液導入部1または検出部8に収容された液体の導電率の測定を行うように導電率測定端子を該部に配置してもよい。
【0075】
図8は本実施例おける微小物体量測定方法に係るフロー図である。本実施例の処理フローの主たる構成は、実施例1と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について以下に説明する。
【0076】
実施例1におけるステップ(S002)に代えて、本実施例においては、ステップ(S102a)とステップ(S102c)とを実施する。
【0077】
ステップ(S102a)においては、導電率測定手段34が検査液の導電率を測定する。
【0078】
ステップ(S102c)は、第1の周波数の選択方法が実施例1と異なる点を除いて、実施例1のステップ(S002)と同じである。ステップ(S102c)においては、周波数制御手段33が、周波数選択手段34が測定した導電率において、測定対象物に対して正の誘電泳動が他の周波数より強く働く周波数を第1の周波数とする。これにより、第1の周波数での捕集効率が向上する。
【0079】
また、ステップ(S102a)の次のステップ(S102b)において、検査液の導電率が、ステップ(S004)が実施可能である上限値よりも低い場合には、ステップ(S102c)〜ステップ(S003)の工程を省略しても良い。これにより、分離用液体を消費せず、かつ検査時間を短縮することができる。
【実施例3】
【0080】
図9は本実施例の微小物体量測定装置の微小物体捕集部3および検出部8を概略的に示した一部上面図である。本実施例の微小物体量測定装置の主たる構成は実施例1と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について説明する。
【0081】
本実施例の検出部8には、濃縮用電極88がセンサ部86を中心に放射状に4つ配置されている。濃縮用電極88の形状および配置は、センサ部86を中心に角度間隔90度の回転対称形とする。濃縮用電極88の形状が、センサ部86に近い先端部が細くなる形状であれば、交流電流を印加した時に先端部の電場強度が強くなり、強い誘電泳動力を働かせて多くの測定対象物を捕集できるので、電極形状は、センサ部86に近い先端部が細くなる形状であることが望ましい。
【0082】
濃縮用電極88は第2の交流電源89と接続されている。センサ部86を中心とする回転方向において隣り合う濃縮用電極88同士は、異なる位相の電圧が印加可能なよう、第2の交流電源89の異なる端子に接続されている。第2の周波数制御手段80は交流電源89が印加する電圧の周波数を制御する手段である。
【0083】
図10は本実施例おける微小物体量測定方法に係るフロー図である。本実施例の処理フローの主たる構成は、実施例1と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について以下に説明する。
【0084】
実施例1におけるステップ(S006)に代えて、本実施例においては、ステップ(S106a)〜ステップ(S106e)を実施する。
【0085】
ステップ(S106a)において、第2の周波数制御手段80は交流電源89から濃縮用電極に第2の周波数の交流電圧を印加させる。第2の周波数は測定対象物に対し正の誘電泳動を働かせる周波数であるため、ステップ(S105)においてセンサ部86に導かれた測定対象物は、電場強度の強い場所、すなわち濃縮用電極88の間、特にセンサ部86に近い先端部近傍に多く捕集される。
【0086】
図11(a)はステップ(S106a)において測定対象物110が濃縮用電極88に捕集される様子を示した模式図である。このとき、センサ部86は電界強度が弱いため、測定対象物が集まらない。
【0087】
次に、表面プラズモンセンサを用いて反射光強度を測定し、第1の出力信号とする(S106b)。表面プラズモンセンサによる測定方法の詳細は実施例1のステップ(S106)に詳細に記載されているので、詳細説明を省略する。
【0088】
次に、第2の周波数制御手段80は、第2の交流電源89から濃縮用電極88に印加する交流電圧を第3の周波数に切り替える(S106c)。第3の周波数は測定対象物に対し負の誘電泳動を働かせ、濃縮用電極88に捕集した測定対象物体をセンサ部86に誘導する。
【0089】
図11(b)は本工程において、測定対象物110がセンサ部86に誘導された様子を示した模式図である。
【0090】
次に、表面プラズモンセンサを用いて反射光強度を測定し、第2の出力信号とする(S106d)。表面プラズモンセンサによる測定方法の詳細は実施例1のステップ(S106)に詳細に記載されているので、詳細説明を省略する。
【0091】
最後に、第2の出力信号と第1の出力信号の差分を求め、前記差分に基づき、測定対象物の量を算出する(S106e)。
【0092】
本実施例によれば、測定対象物をセンサ部86に確実に捕集することができるので、微小物体捕集部3によって捕集された測定対象物をより確実にセンサ部86へと導くことができ、測定対象物の量の測定に関する感度および/または精度を向上させることができる。
【0093】
また、測定対象物が集まっていない状態での反射光強度を第1の信号として測定し、測定対象物を集めた状態での反射光強度を第2の信号として測定して、その差分に基づき測定対象物の量を算出するので、第1信号と第2信号とに共通する要因、すなわち溶液の温度などによる誘電率の変化を差分信号から排除することができる。従って、第1信号と第2信号とで異なる要因、すなわち、測定対象物の疎密による誘電率の変化を信号として検出することができ、もって、測定対象物の量をより正確に検出することができる。
【0094】
なお、図9においては、交流電源32と第2の交流電源89とはそれぞれ異なる構成要素として記載されているが、1つの交流電源で、交流電源32および第2の交流電源89とを兼ねる構成としても良い。これにより、微小物体量検出装置の構成を単純とすることができる。
【0095】
同様に、周波数制御手段33と第2の周波数制御手段80とを1つの周波数制御手段で兼ねる構成としても良い。これにより、微小物体量検出装置の構成を単純とすることができる。
【0096】
また、濃縮用電極88は、電極の数と配置については偶数個であって、回転対称性を有すれば、他の個数および配置であっても良い。また、電極の形状については、図9の形状に限定されない。
【実施例4】
【0097】
図12は本実施例の微小物体量測定装置の検出部8を概略的に示した一部上面図である。本実施例の微小物体量測定装置の主たる構成は実施例3と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について説明する。
【0098】
本実施例の微小物体量測定装置は、センサ部86および濃縮用電極88の形態が実施例3と異なる。
【0099】
センサ部86は、図12に示すように液体の流れる下流方向に頂点を有する菱形である。
また、濃縮用電極は2つ配置される。本実施例は、センサ部86が一方の濃縮用電極を兼ねる構成であるため、交流電源89と配線とするための導体86aがセンサ部86と一体として形成される。また、他方の濃縮用電極88aがセンサ部86の近くに配置される。
【0100】
導体86aおよび濃縮用電極88aは第2の交流電源89に接続される。導体86aと濃縮用電極88aとにそれぞれ異なる位相の電圧が印加可能なよう、導体86aと濃縮用電極88aとは、第2の交流電源89の異なる端子にそれぞれ接続される。
【0101】
図13は本実施例における微小物体量測定方法のフロー図である。本実施例の処理フローの主たる構成は、実施例3と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について以下に説明する。
【0102】
本実施例においては、ステップ(S106a)における測定対象物の捕集の形態が実施例3と異なる。また、実施例3におけるステップ(S106c)に代えて、本実施例においては、ステップ(S206c)を実施する。
【0103】
図14は、ステップ(S106a)における測定対象物110の捕集の状態を示した模式図である。第2の周波数は測定対象物に対し正の誘電泳動を働かせる周波数であるため、ステップ(S105)においてセンサ部86に導かれた測定対象物は、電場強度の強い場所、すなわちセンサ部86と濃縮用電極88aとの間、特にセンサ部86の濃縮用電極88a側の頂点付近に多く捕集される。この時、センサ部86の中央近傍は、電界強度が弱いため、微小物体は集まらない。
【0104】
ステップ(S206c)においては、センサ部86と濃縮用電極88aとの間に、電気浸透流を発生させる周波数である第4の周波数の交流電圧を印加する。電気浸透流とは、電極近傍に形成される電気二重層に存在するイオンに電気力が働き、当該イオンが動き出すことによって生じる流体の流れのことである。電極に電圧が印加されると印加された電圧と反対の極性を持つイオンが電極近傍に集まり、印加された電圧と同極性をもつイオンは遠ざけられ、電極近傍に電気二重層が形成される。当該イオンには、電極印加された電圧から生じた電場により電気力が働き、電極面近傍で流体の流れが生じる。この流れが電気浸透流である。ここで電極近傍に微小物体があると、上記により発生した流体の流れにより、微小物体は流される。電気浸透流による力の大きさは電極のエッジ部近傍で特に大きく電極中心部に近づくにつれて小さくなる。よって、微小物体は電極上の中央近傍に誘導される。水中の微小物体に働く力は、上記誘電泳動力と電気浸透流による力の合力が働くことになる。これらの力はそれぞれ印加される交流電圧の周波数の関数となっているため、交流電圧の周波数によって支配的になる力が異なる。例えば、純水中において、電極に印加する電圧の周波数を100Hz〜10kHzとすると、微小物体に働く力は電気浸透流による力が他の力と比較して支配的となる。
【0105】
電気浸透流により、センサ部86と濃縮用電極88aとの間に捕集された測定対象物はセンサ部86の中央へ誘導される。
【0106】
図15は電気浸透流により測定対象物110がセンサ部86の中央に誘導された様子を示した模式図である。
【0107】
本実施例によれば、電気浸透流を用いて測定対象物110をセンサ部86の中央に誘導するので、実施例3と比較して、短時間で誘導することができ、短時間で測定対象物の量を測定することができる。
【0108】
なお、ステップ(S206c)開始時において、センサ部86より濃縮用電極88aに近い位置に存在する測定対象物110は、ステップ(S206c)において濃縮用電極88aの中央に誘導されてしまうため、ステップ(S106d)において測定することができない。これを防止するため、濃縮用電極88aをセンサ部86の下流に配置することが望ましい。この場合、図14に示すように、ステップ(S106a)において、センサ部86の上流より流れてきた測定対象物110は、センサ部86付近に捕集される。センサ部86付近に捕集された測定対象物110は、図15に示すように、センサ部86の中央に誘導されるため、ステップ(S106d)において測定することができる。
【実施例5】
【0109】
図16は本実施例の微小物体量測定装置の微小物体捕集部3および検出部8を概略的に示した一部上面図である。本実施例の微小物体量測定装置の主たる構成は実施例1と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について説明する。
【0110】
本実施例の微小物体量測定装置において、本実施例の検出部8は、微小物体の量を検出する手段として、表面プラズモンセンサの代わりに、インピーダンス測定手段801を備える。
【0111】
本実施例においては、インピーダンス測定手段801は、図16に示すように、捕集用電極31aおよび捕集用電極31bに接続され、捕集用電極31aと捕集用電極31bとをインピーダンス測定手段801の測定用端子として兼用する構成とする。これにより、インピーダンス測定手段801は捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間の抵抗値を測定することができる。すなわち、本実施例は微小物体捕集部3が検出部8を兼ねる構成である。
【0112】
図17は本実施例おける微小物体量測定方法に係るフロー図である。本実施例の処理フローの主たる構成は、実施例1と同じであるので、同じである部分に関する説明を略し、異なる部分について以下に説明する。
【0113】
実施例1におけるステップ(S105)、ステップ(S106)に代えて、本実施例においては、ステップ(S306)を実施する。
【0114】
ステップ(S306)において、インピーダンス測定手段801は、捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間のインピーダンスを測定し、測定されたインピーダンスに対応して測定対象物の量を算出する。捕集用電極31aと捕集用電極31bとの間に捕集された測定対象物の量とインピーダンスの間には関係があるので、インピーダンスより測定対象物の量を算出することは可能である。
【0115】
本実施例によれば、微小物体捕集部3が検出部8を兼ねる構成であるので、構造が単純である。また、ステップ(S105)の工程が不要である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係る微小物体捕集装置、微小物体量測定装置、微小物体捕集方法および微小物体量測定方法は、溶液中の微小物体を検出する水質センサや上記水質センサを搭載した浄水器、洗浄機、浄水タンク、浄水プラント、分析装置、微生物検査装置などに適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 検査液導入部
2 弁
3 微小物体捕集部
4 分離用液体導入部
5 弁
8 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体を含む検査液から前記微小物体を捕集する微小物体捕集装置であって、
捕集用電極に第1の周波数の交流電圧または第2の周波数の交流電圧を印加することにより前記微小物体を捕集する微小物体捕集部と、
前記微小物体捕集部に検査液を導入する検査液導入部と、
前記微小物体捕集部に分離用液体を導入する分離用液体導入部と、
を備える微小物体捕集装置。
【請求項2】
前記検査液の導電率を測定する導電率測定手段を備えることを特徴とする請求項1記載の微小物体捕集装置。
【請求項3】
前記第1の周波数は、前記測定された導電率において、測定対象物に対して正の誘電泳動が他の周波数より強く働く周波数であること
を特徴とする請求項2記載の微小物体捕集装置。
【請求項4】
検査液に含まれる微小物体の数を測定する微小物体量測定装置であって、
請求項1記載の微小物体捕集装置と、
前記微小物体捕集装置が捕集した前記微小物体の量を測定する検出部と、
を備えることを特徴とする微小物体量測定装置。
【請求項5】
微小物体を含む検査液から捕集対象物である微小物体を捕集する微小物体捕集方法であって、
捕集用電極を備える微小物体捕集部に前記検査液を導入するステップと、
前記捕集用電極に第1の周波数の交流電圧を印加し、捕集対象物である微小物体と他の微小物体とを捕集するステップと、
捕集された微小物体を前記捕集用電極に保持したまま、分離用液体を前記微小物体捕集部に導入し、前記微小物体捕集部内の検査液を分離用液体に置換するステップと、
前記捕集用電極に第2の周波数の交流電圧を印加して前記捕集対象物である微小物体を保持する状態を維持したまま、前記微小物体捕集部へ分離用液体を導入し、前記捕集用電極から離脱した前記他の微小物体を排出するステップと、
を備えることを特徴とする微小物体捕集方法。
【請求項6】
前記検査液の導電率を測定するステップを備え、
前記第1の周波数は、前記測定された導電率において、測定対象物に対して正の誘電泳動が他の周波数より強く働く周波数であることを特徴とする請求項5記載の微小物体捕集方法。
【請求項7】
検査液に含まれる測定対象物である微小物体の数を測定する微小物体量測定方法であって、
請求項5記載の微小物体捕集方法によって、測定対象物である微小物体を捕集するステップと、
前記測定対象物である微小物体の量を測定するステップと、
を備えることを特徴とする微小物体量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−71256(P2012−71256A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218022(P2010−218022)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】