説明

微小物体検出方法及び微小物体検出装置

【課題】微小物体を容易に検出することを可能とする。
【解決手段】光電変換素子12がマトリクス状に配置され、検出対象物21を固定する抗体17から構成される固定層が形成されたマルチフォトセンサ11を用意する。マルチフォトセンサ11の直上に、検出対象物である細菌21を含む検体を配置し、固定層の抗体17により細菌21を固定する。ルシフェラーゼ31と抗体32との結合体を滴下して、ルシフェラーゼ31を細菌21に付着させる。ルシフェリンとATPとを含む溶液41を滴下する。発光反応42により、細菌21の周辺が発光する。フォトセンサ11により発光反応42を検出する。得られた検出信号から、細菌21を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフォトセンサを用いて比較的微小な物体を検出する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌は人間の消化管に数100種類(500種類以上とも)100兆個ほど存在し、人間の健康維持に深く関与している。これら腸内細菌は体に良い働きをする善玉菌と悪影響を及ぼす悪玉菌の2種類に大別される。体内における腸内細菌の総数は決まっているため、善玉菌と悪玉菌の存在割合が人間の体調変化に影響していると言える。また、個々の腸内細菌と病気との因果関係についても研究が進んでおり、大腸ガンや動脈硬化などへ影響を及ぼす腸内細菌の存在が明らかになっている。ゆえに、体内の善玉菌と悪玉菌の存在割合や特定の種類の細菌の個数を簡便に検査することができれば、個人の健康管理(ヘルスケア)に非常に役立つと考えられる。
【0003】
現在、このような検査は人間の糞便から腸内細菌を採取して行われている。腸内細菌の大きさは0.3μm〜5.0μm程度であるので、細菌の姿を見るためには高倍率の顕微鏡あるいは電子顕微鏡が必要になる。但し、腸内細菌の多くは偏性嫌気性菌であり大気に触れると死滅してしまうため、糞便から採取・培養して顕微鏡で確認できる種類は全体の一部である。ゆえに、近年では、糞便から抽出された腸内細菌のDNA解析が利用されている。このため、従来の腸内細菌の検査手法には大規模な装置が必要であり時間もかかる。
【0004】
また、細菌以外の微小物体の検出に顕微鏡を使用することは可能であるが、レンズ系が必要であり、装置が大型化してしまう。
【0005】
細菌等の簡便な検査という課題に対して、非特許文献1は、CMOSセンサにより、ルシフェラーザの発光(生物発光)を検出することにより、微生物を検知する技術を開示する。
【非特許文献1】Helmy Eltoukhy, Khaled Salama, ”A 0.18−um CMOS Bioluminescence Detection Lab−on−Chip” IEEE JOURNAL OF SOLID−STATES, VOL. 41, NO.3, MARCH 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物発光は、非常に微弱であり、検出が困難であり、ノイズの影響を受けやすい。また、検体は流体であるため、安定せず、非特許文献1に開示されているCMOSセンサでは、正確で安定的な検出が困難である。
【0007】
同様の問題は、微生物に限らず、タンパク質等の物質、粒子など、任意の微小物体を検出する場合に同様に存在する。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、微小物体を安定的に容易に検出することが可能な検出方法と検出装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、微小物体をより正確に検出することが可能な検出方法と検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る微小物体検出方法は、
複数の光電変換素子がマトリクス状に配置されたマルチフォトセンサの直上に、検出対象物を固定する固定層を形成する工程と、
前記固定層が形成されたマルチフォトセンサの直上に、前記検出対象物を含む検査対象流体を配置する配置工程と、
前記検出対象物に発光物質を付着させる付着工程と、
発光物質を付着させた前記検出対象物を前記マルチフォトセンサにより検出する検出工程と、
を備える。
【0010】
例えば、前記検出工程により得られた応答から、前記検出対象物を判別する工程を配置しても良い。
【0011】
前記付着工程は、例えば、発光反応を起こす物質を前記検出対象物に付着する工程を含む。
【0012】
前記付着工程は、例えば、ルシフェラーゼを付着する工程と、ルシフェリンとATPを加える工程と、から構成される。
【0013】
前記付着工程は、例えば、検出対象物に付着する抗体とルシフェラーゼとの結合体を供給する工程と、ルシフェリンとATPを加える工程と、から構成される。
【0014】
前記固定層は、例えば、シリコンと前記検出対象物を抗原とする抗体との結合体の層から構成され、前記固定層を形成する工程は、前記結合体のシリコンを前記マルチフォトセンサの光電変換面に固定する工程から構成される。
【0015】
例えば、前記検出対象物は微生物であり、前記配置工程実行前に、前記マルチフォトセンサの光電変換面上に、シリコンと前記検出対象の微生物を抗原とする抗体との結合体の層を形成する工程を備え、前記付着工程は、前記検出対象物に付着する抗体とルシフェラーゼとの結合体を供給する工程と、ルシフェリンとATPを加える工程と、から構成される。
【0016】
前記検出工程は、例えば、前記マルチフォトセンサの出力のノイズを測定し、ノイズの揺らぎ成分を抑圧してノイズの固定成分を求める工程と、前記検出対象物に付着した発光物質の発光を前記マルチフォトセンサにより複数回検出することにより揺らぎ成分を抑圧すると共に前記ノイズの固定成分との差分を求めることによりノイズの固定成分を除去する工程と、を備えてもよい。
【0017】
本発明の第2の観点に係る微小物体検出装置は、
光電変換素子で構成された光検出器がマトリクス状に複数配置されたマルチフォトセンサと、
前記マルチフォトセンサ上に形成され、検出対象物を固定する固定層と、
前記固定層上に、前記検出対象物を含む検査対象流体を供給する供給手段と、
前記検出対象物に発光物質を付着させる付着手段と、
を備える。
【0018】
例えば、前記マルチフォトセンサを構成する各前記光検出器の出力信号を処理し、前記検査対象流体に含まれる発光物質を付着させた前記検出対象物の応答を判別することにより検出対象物を検出する処理手段をさらに備えてもよい。
【0019】
前記付着手段は、例えば、発光反応を起こす物質を前記検出対象物に付着する。
【0020】
例えば、前記マルチフォトセンサと前記供給手段と前記付着手段とは人間又は動物が飲み込み可能にカプセル化されており、前記処理手段は、前記カプセル内又は外部に配置され、前記マルチフォトセンサの出力を通信により受信する、ように構成してもよい。
【0021】
前記光検出器の出力ノイズを測定し、ノイズの揺らぎ成分を抑圧してノイズの固定成分を求める手段と、前記検出対象物に付着した発光物質の発光を検出した前記光検出器の出力を複数回測定することにより出力に含まれる揺らぎ成分を抑圧する手段と前記出力と前記ノイズの固定成分との差分を求めることによりノイズの固定成分を除去する手段とを備える検出手段と、を配置してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の微小物体の検出方法及び検出装置によれば、検出対象物を固定した上で発光させるので安定して発光を検出すること、および、検出対象物をマルチフォトセンサの直上で発光させるので微弱な発光でも効率良く高感度に検出することが可能であり、検出対象物の検出が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態に係る微小物体の検出方法と検出装置について、腸内の細菌を検出する場合を例に、図10の手順図を参照しつつ説明する。
【0024】
(1) まず、マルチフォトセンサ11を用意する。マルチフォトセンサ11は、所謂CMOS集積回路で形成され、例えば、数mm×数mmのチップサイズを有し、図1(a)に示すように、複数のフォトダイオード(光電変換素子)12がマトリクス状に配置された構成を有する。
【0025】
各フォトダイオード12は、受光面(光電変換面)の受光光量(あるいは受光した光強度)に応じた信号を生成する。例えば、このフォトダイオード12を一般的なCCDやCMOSイメージセンサと同様の電荷蓄積型方式で使用する。すなわち、初期化時にフォトダイオード12の寄生容量成分の電子(負電荷)を放電し、その後、フォトダイオードが受光すると光電変換が起こり、電子が発生し、フォトダイオード12の寄生容量に蓄積される。この寄生容量に蓄積される電子の電荷は負なので、フォトダイオード12(寄生容量)の出力電圧は、初期化時が最も高く、電子が蓄積されるに従い低くなる。ある時間この蓄積動作を行った後のフォトダイオード12の出力電圧は、受光光量に比例して低くなる。初期化時のフォトダイオード12の出力電圧を基準とした電圧振幅を出力とすると、受光光量に比例して高くなる。以下、この初期化時のフォトダイオード12の出力電圧を基準とした電圧振幅のことを、フォトダイオードの応答と表現する。つまり、フォトダイオードの応答は受光光量に比例して大きくなる。
【0026】
図1(b)に示すように、フォトダイオード12は、単結晶シリコン基板13の表面領域にマトリクス状に形成され、表面がシリコン酸化膜等の光透過性の保護層14により保護されている。マルチフォトセンサ11の上部には、レンズを設置しない。
【0027】
(2) 続いて、検出対象の細菌を抗原とする抗体を、マルチフォトセンサ11の保護層14上に一様に定着させる(ステップS11)。抗体は、細菌毎に異なるため、検出対象である細菌を抗原とする抗体を保護層14上に定着させる。
【0028】
一例として、広島大学黒田研究室で開発されたシリコン結合プロテイン(SBP)を使用可能である。SBP(Silicon Material Binding Protein)は、酸化ケイ素含有物質に特異的に結合するタンパク質であり、一例として、配列番号1,3,5,7,9,又は11に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。
【0029】
SBPにより、対応する抗体をマルチフォトセンサ11の保護層14に定着させるには、まず、SBP16を保護層14に結合させる。具体的には、0.1M塩化ナトリウムを含む溶液中でSiO2から構成される保護層14にSBP16を結合させる。このためには、例えば、SBP溶液中にマルチフォトセンサ11の保護層14を浸漬する方法、保護層14の表面にSBP溶液を塗布又はスポットする方法などを用いることができる。SBP16と保護層14とを十分結合させるにはインキュベートさせることが好ましい。条件は特に限定されないが、4℃〜室温で数秒から30秒程度インキュベートすることが好ましい。
【0030】
続いて、抗体17をSBP16に結合させる。これにより、SBP16が、抗体17をマルチフォトセンサ11に定着させる接着材として機能し、図2に模式的に示すように、抗体17を、マルチフォトセンサ11の表面(保護層14)に隙間なく一様に定着させることができる。
【0031】
抗体17をSBP16に結合させる手法としては、例えば、SBP16が結合した保護層14を、抗体17を含有する溶液中に浸漬する方法、SBP16を塗布又はスポットした箇所に抗体17を含有する溶液を塗布又はスポットする方法などを用いることができる。SBP16と抗体17とを十分結合させるにはインキュベートさせることが好ましい。条件は特に限定されないが、4℃〜室温で数秒から30秒程度インキュベートすることが好ましい。
【0032】
また、SBP16を修飾タンパク質として用いてもよい。例えばSBP16をビオチン化することにより、アビジン化した抗体を結合することができる。即ち目的の抗体をアビジン化することにより、目的の抗体をSBP16に結合することができ、目的の抗体が保護層14に固定される。
【0033】
SBP16と抗体17との間に他のタンパク質を介してもよい。例えば、ビオチン化したSBP16にアビジン化したプロテインA又はプロテインGを結合し、更に目的の抗体を結合すれば、所望の抗体が保護層14に固定化される。ここで、SBP16と抗体17の間に介在するタンパク質の数は限定されない。
以上により、対応する抗体をマルチフォトセンサ11の保護層(光電変換面)14に一様に定着させることができる。
【0034】
なお、SBPを使用する例に限定されず、この対応する抗体を、抗体の電荷や疎水的性質を利用して結合させる物理的吸着方法、或いはシランカップリング剤等で修飾し架橋剤を用いて抗体を共有結合により固定化する方法等、他の任意の手法で定着させてもよい。
【0035】
続いて、必要に応じて、マルチフォトセンサ11を生理食塩水等で洗浄し、不要な抗体などを除去する。
【0036】
(3) 続いて、図3に模式的に示すように、検出対象の細菌21を含む液体(検体)22、例えば腸液、をマルチフォトセンサ11の表面に滴下し(ステップS12)、所定時間放置する。この間、抗体17が活動可能な温度を維持する。
すると、図4に模式的に示すように、検出対象の細菌21が、マルチフォトセンサ11の表面に定着されている抗体17に捕捉され、マルチフォトセンサ11の表面に固定される。
【0037】
続いて、マルチフォトセンサ11の表面を生理食塩水等により洗浄する(ステップS13)。これにより、マルチフォトセンサ11の表面の抗体17に捕捉された細菌21、即ち、検出対象の細菌21だけが、マルチフォトセンサ11の表面に残る。
【0038】
(4) 続いて、図5に示すように、検出対象の細菌21を補足するための抗体32(抗体17と同一のものでもよい)が付いたルシフェラーゼ31を含有する溶液33をマルチフォトセンサ11の保護層14上に滴下する(ステップS14)。
【0039】
ルシフェラーゼ31に付加されている抗体32が細菌21の表面に捕捉される。このため、図6に模式的に示すように、マルチフォトセンサ11上に形成された抗体17の層に捕捉・固定されている細菌21の表面がルシフェラーゼ31で覆われる。
【0040】
これにより、マルチフォトセンサ11に接続した抗体17と、ルシフェラーゼ31が付いた抗体32で検出対象の細菌21が挟み込まれる。
【0041】
(5) 続いて、残余の抗体32及びルシフェラーゼ31を、生理食塩水等で洗浄する(ステップS15)。
【0042】
(6) 続いて、図7(a)に示すように、ルシフェリンとATP(アデノシン三リン酸)の溶液41を十分に加える(ステップS16)。
【0043】
これにより、図7(b)に示すように、次の反応式に従い(生物)発光反応42が起こる。
ルシフェリン+ATP→(ルシフェラーゼ(酵素))→オキシルシフェリン+発光
つまり、酵素であるルシフェラーゼの周辺が、ルシフェリンとATPの反応により発光する。このとき、ルシフェリンとATPは消費されるが、ルシフェラーゼは酵素なので消費されない。そして、ルシフェリンとATPがルシフェラーゼに対して十分に存在する場合、発光反応42による発光量はルシフェラーゼ31の量に比例する。
【0044】
この状態で、図示せぬ制御回路によりマルチフォトセンサ11を制御して、撮像させる(ステップS17)。ルシフェラーゼ31で覆われた細菌21が直上に存在するフォトダイオード12は、発光反応42による発光を検出してその応答は大きくなる。
【0045】
例えば、細菌に比べて十分大きなフォトダイオード12上に、ルシフェラーゼ31で覆われた複数の細菌21が、図8に模式的に示すように付着したとすると、各フォトダイオード12の応答は図9(a)に示すようにフォトダイオード上の細菌21の数に比例し、各フォトダイオード12の応答を1つの画素としたグレースケールによる出力パターンは図9(b)に示すようになる。ここで、出力パターンの各画素は白いほど応答が大きく、黒いほど応答が小さいことを示している。即ち、フォトダイオード12の応答の大きさで各フォトダイオード12に付着した細菌21の数を推定できる。
【0046】
(7) 次に、実験等により予め求めておいた、フォトダイオード12の応答の大きさxと検体中の細菌の数(密度)との関係式fから、検体中の細菌の数(密度)f(x)を求める(ステップS18)。
【0047】
(8) 以上で、1回の検出処理が終了する。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態に係る検出方法によれば、培養することなく、特定の細菌の存在および量を確認することが出来る。
また、フォトダイオード12上に固定(捕捉)された細菌21の数を推定できるので、捕捉された細菌21の個数から検体中の細菌21の個数や密度を推測することが出来る。
また、レンズなどの光学系が必要無いので、検出対象とマルチフォトセンサ11との間に無駄な空間を必要とせず、小型化が可能である。
【0049】
次に、上述の検出方法を実行する検出装置(装置)の構成と動作について説明する。
(検出装置の第1の例)
検出装置100は、図11に示すように、ステージ101上にマトリクス状に配置されたマルチフォトセンサ11から構成されたマルチフォトセンサ群102を備える。
【0050】
各マルチフォトセンサ11は、図1を参照して説明したように、マトリクス状に配置されたフォトダイオード12を備えている。
各マルチフォトセンサ11の周囲には、図12に断面で示すように、すり鉢状にくぼみ121が形成されており、マルチフォトセンサ11は、中央に形成された台122の上に配置されている。マルチフォトセンサ群102は、壁103で囲まれ、その壁面に排水口104が取り付けられている。マルチフォトセンサ11上に滴下された液体は、くぼみ121に収容され、排水口104を通って排水される。この排水口104は開閉可能で、排水口104を閉じると、マルチフォトセンサ群102を囲む壁103の内側に、マルチフォトセンサ11上に滴下された液体が溢れ、マルチフォトセンサ11がその液体で満たされる。
【0051】
ステージ101上には、図示せぬアームでX,Y,Z方向に移動するディスペンサ111,112、113、114が配置されている。
ディスペンサ111は、検体容器116から検体を採取し、採取した検体を、その検体に割り当てられたマルチフォトセンサ11に、図3に示したように滴下する。
ディスペンサ112は、洗浄用の生理食塩水等を各マルチフォトセンサ11に滴下する。
ディスペンサ113は、ルシフェラーゼ31と抗体32の結合体を含む溶液を各フォトセンサ11に滴下する。
ディスペンサ114は、ルシフェリンとATPとを含む溶液を各マルチフォトセンサ11に滴下する。
【0052】
また、ステージ101上には、検体を収容した検体容器(試験管等)116と、ディスペンサ111を洗浄する洗浄装置115とが配置されている。
また、ステージ101の周辺部には、撮像時に、マルチフォトセンサ群102の周囲を囲って暗状態とするカバー(蓋)131が配置されている。カバー131は、光不透過性の材質で構成され、内面は光吸収性の材料で覆われている。
【0053】
また、ステージ101内には、制御処理及び画像処理を実行するコントローラ141が配置されている。コントローラ141は、マイクロプロセッサ、プログラムを記憶したメモリ、入出力回路等から構成されている。
【0054】
次に、上記構成の検出装置100の動作を、図13のフローチャートを参照して説明する。
なお、この例では、検体容器116の数がNであるとする。
【0055】
まず、コントローラ141は、検体総数をNに設定し、処理ポインタiに1を設定する(ステップS31)。
コントローラ141は、ディスペンサ111を駆動して、まず、第iの検体を収容した検体容器116から、検体を採取し(ステップS32)、第iのマルチフォトセンサ11上に滴下する(ステップS33)。このとき、マルチフォトセンサ11上からこぼれた検体はくぼみ121に収容される。
続いて、ディスペンサ111を洗浄装置115により洗浄する(ステップS34)。
【0056】
次に、処理ポインタiがNに達したか否かを判別し(ステップS35)、達していなければ、処理ポインタiに1加えて(ステップS36)、ステップS32にリターンし、第iの検体について同様の処理を実行する。
【0057】
ステップS35で、i=Nと判別されると(ステップS35;Yes)、全ての検体を対応するマルチフォトセンサ11上に配置する処理が終了しているので、ディスペンサ111による処理を終了する。
【0058】
続いて、コントローラ141は、ディスペンサ112を制御して、第1〜第Nのマルチフォトセンサ11の表面を生理食塩水で洗浄する(ステップS37)。
【0059】
続いて、コントローラ141は、ディスペンサ113を制御して、第1〜第Nのマルチフォトセンサ11の表面に、抗体32と結合したルシフェラーゼ31の溶液を図5に示したように滴下する(ステップS38)。
続いて、コントローラ141は、ディスペンサ112を制御して、第1〜第Nのマルチフォトセンサ11の表面を生理食塩水で洗浄する(ステップS39)。このステップS39までは、排水口104を開いた状態にし、くぼみ121に収容された液体は排水口104を通して排水される。
【0060】
続いて、コントローラ141は、ディスペンサ114を制御して、第1〜第Nのマルチフォトセンサ11の表面に、ルシフェリンとATPを滴下する(ステップS40)。このステップS40を行う前に、排水口104を閉じることで、マルチフォトセンサ11がルシフェリンとATPとで十分満たされる。
続いて、コントローラ141は、カバー131で、マルチフォトセンサ群102を覆って、暗い状態とし、第1〜第Nのマルチフォトセンサ11を制御して、発光検出処理を行う(ステップS41)。
【0061】
コントローラ141は、第1〜第Nのマルチフォトセンサ11から発光検出信号(各フォトダイオード12の応答からなるパターン信号)を収集して処理し、検体別に検出発光量から細菌等の数の推定を行い、検体毎に細菌等の密度等を求める(ステップS42)。
【0062】
このような構成とすれば、大量の検体を高速に処理し、各検体に含まれている特定の細菌等の数や密度を推定できる。
【0063】
なお、検出装置100は、上記構成に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
例えば、マルチフォトセンサ群102をユニット化して、交換可能とする等してもよい。ディスペンサ111〜114の数なども任意である。
【0064】
また、マルチフォトセンサ11をマトリクス状に複数個配置する例を示したが、マルチフォトセンサ11の数は任意であり、1つだけでもよい。
【0065】
(検出装置の第2の例)
次に、検出装置を超小型で、人間や動物が飲め込める形態に構成した例を説明する。
検出装置200は、図14に示すように、数ミリ角の円筒形のカプセル201内に収容されている。なお、人間以外の適用対象動物に応じた形態としてもよい。
カプセル201内には、マルチフォトセンサユニット211と、ルシフェラーゼユニット212と、ルシフェリンユニット213と、第1と第2の洗浄ユニット214、215と、センサ制御ユニット216と、メモリ制御ユニット217と、不揮発性メモリ218と、バッテリを含む電源ユニット219とが配置されている。
【0066】
カプセル201は、樹脂等の胃液や腸液に溶解しない材料から構成され、開口が形成されている。
マルチフォトセンサユニット211は、図15に示すように、小室231の底面にマルチフォトセンサ11が配置されたモジュールから構成される。マルチフォトセンサユニット211には、開口233が形成され、カプセル201の開口と連通している。開口233は、扉(開閉弁)として機能するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)234により開閉される。
【0067】
ルシフェラーゼユニット212は、抗体32とルシフェラーゼ31の結合体を含む溶液が加圧注入されたモジュールである。
ルシフェリンユニット213は、ルシフェリンとATPとを含む溶液が加圧注入されたモジュールである。
第1と第2の洗浄ユニット214,215は、生理食塩水が加圧注入されたユニットである。
【0068】
図15及び図16に示すように、マルチフォトセンサユニット211とルシフェラーゼユニット212の間、マルチフォトセンサユニット211とルシフェリンユニット213の間、マルチフォトセンサユニット211と第1の洗浄ユニット214の間、マルチフォトセンサユニット211と第2の洗浄ユニット215の間は弁として機能するMEMS241,242,243、244によりそれぞれ封止されている。
【0069】
センサ制御ユニット216は、電源ユニット219からの電力を受け、MEMS234,241〜244とマルチフォトセンサ11とを制御する。また、センサ制御ユニット216は、マルチフォトセンサ11から読み取った検出データをメモリ制御ユニット217に送信する。
【0070】
メモリ制御ユニット217は、電源ユニット219からの電力を受け、センサ制御ユニット216から送信された検出データを受信し、不揮発性メモリ218に格納する。また、メモリ制御ユニット217は、通信部を備える。この通信部は、図14に示すコイルアンテナ244と、図示せぬ整流回路と容量を備え、外部からの電磁波により発電し、動作電力を発生し、容量にチャージする。そして、メモリ制御ユニット217は、通信部のコイルアンテナ244を介して不揮発性メモリ218の情報を外部に送信する。
【0071】
不揮発性メモリ218は、フラッシュメモリ等の半導体メモリから構成される。
電源ユニット219は、バッテリ、レギュレータ回路等を備える。
【0072】
次に、上記構成の検出装置200の動作を説明する。
所定の操作により、センサ制御ユニット216及びメモリ制御ユニット217を起動した後、カプセル化された検出装置200は、利用者(人間又は動物)に、水などで丸ごと飲み込まれ、体内に入る。
【0073】
センサ制御ユニット216は、電源ユニット219からの電力を使用して動作し、内部タイマにより時間を計測し、飲み込んでから胃を通過して腸に到達すると予想される所定の時間を計測する。
センサ制御ユニット216は、所定の時間を計時すると(検出装置200が腸に達すると)、まず、MEMS234を制御して、マルチフォトセンサユニット211の開口233を開く。これにより、開口233を介して腸液がマルチフォトセンサユニット211内に流入する。腸液内の特定の細菌は、マルチフォトセンサ11の表面に形成された抗体層を構成する抗体17に捕捉されて固定される。
【0074】
続いて、センサ制御ユニット216は、開口233を開いた状態のまま、マルチフォトセンサユニット211と第1の洗浄ユニット214との間のMEMS243を開く。これにより、第1の洗浄ユニット214からマルチフォトセンサユニット211内に生理食塩水が注入され、腸液がマルチフォトセンサユニット211内から排出される。
【0075】
続いて、センサ制御ユニット216は、MEMS234を制御して、開口233を閉じ、ルシフェラーゼユニット212との間に配置されたMEMS241を開く。これにより、ルシフェラーゼ31と抗体32の結合体がマルチフォトセンサユニット211内に噴出する。これにより、ルシフェラーゼ31に結合している抗体32が、抗体17に捕捉されて固定されている細菌21を捕捉し、付着する。
【0076】
続いて、センサ制御ユニット216は、MEMS234を制御して、開口233を開き、第2の洗浄ユニット215との間のMEMS244を開く。これにより、第2の洗浄ユニット215からマルチフォトセンサユニット211内に生理食塩水が注入され、残余のルシフェラーゼ31がマルチフォトセンサユニット211外に排出される。
【0077】
続いて、センサ制御ユニット216は、MEMS234を制御して、開口233を閉じ、ルシフェリンユニット213との間のMEMS242を開く。これにより、ルシフェリンユニット213からマルチフォトセンサユニット211内にルシフェリンとATPとが注入され、細菌21に捕捉されているルシフェラーゼ31と反応して、発光する。
【0078】
続いて、センサ制御ユニット216は、マルチフォトセンサ11に発光反応を検出させる。
続いて、センサ制御ユニット216は、発光検出データを読み込み、メモリ制御ユニット217に送信する。
メモリ制御ユニット217は、センサ制御ユニット216から発光検出データを受信し、不揮発性メモリ218に格納する。
【0079】
また、メモリ制御ユニット217は、発光検出データを解析し、固定・捕捉された細菌の数を推測し、腸内の細菌の数(密度)を予測し、不揮発性メモリ218に格納する。
【0080】
その後、検出装置200は、肛門から排泄され、図17に示すように、便器301のトラップ302に捕獲される。
トラップ302の近傍には、電磁波を送信する通信機303が配置されており、間欠的に電磁波をトラップ302に向けて出力する。
【0081】
通信機303からの電磁波(搬送波)が照射されると、トラップ302で捕獲された検出装置200のコイルアンテナ244には、誘起起電力が発生し、これが整流回路で整流されて、容量にチャージされる。容量のチャージ量が一定量に達すると、メモリ制御ユニット216は、不揮発性メモリ218に記憶されていたデータを読み出し、通信部を介して識別情報等と共に送信する。通信機303はこれを受信し、図示せぬセンタ等に送信する。
センタでは、受信した識別情報と発光検出データ(或いは、処理済みの細菌数(密度)を示すデータ等)に基づいて、適切な処理を行う。
【0082】
このような構成とすれば、電池は、腸内で発光検出データをメモリに格納する動作までで十分であるので、バッテリの容量が小さくでき、小型化でき、ひいては全体を小型化できる。
【0083】
また、センサモジュール(マルチフォトセンサユニット211、ルシフェラーゼユニット212と、ルシフェリンユニット213と、第1と第2の洗浄ユニット214、215と、センサ制御ユニット216)とメモリモジュール(センサモジュール以外)とを別体とし、センサ制御ユニット216とメモリ制御ユニット217との間を無線通信で結び、両モジュール間を無線通信で接続する構成とすれば、センサモジュールとメモリモジュールとを分離できる。これにより、例えば、メモリモジュールについては、汎用カプセル化して、回収後再利用可能とし、センサモジュールは使い捨てるようにしてもよい。
【0084】
以上の説明では、MEMSで扉や弁を構成し、MEMSを制御することで、複数の液の流れを制御したが、蝋のような熱で溶ける物質で弁を構成し、熱による不可逆的な制御を行っても良い。蝋に限らず、各部を適切なタンパク質や炭水化物で構成してもよい。また、MEMSを制御するのにセンサ制御ユニット216でタイマを使用するのではなく、図示せぬpHセンサを利用して胃酸から腸液に至るpHの変化を観測して腸の位置を特定してもよい。また、体外からカプセル201へ通信部のコイルアンテナ244を通して位置情報を送信するような図示せぬ位置検出装置を使用してMEMSを制御してもよい。
【0085】
(回路構成について)
以上の実施の形態において、マルチフォトセンサ11が検出する発光は、非常に微弱であり、暗電流やショット雑音などの影響を受けやすく、正確な測定は困難である。
そこで、以下、マルチフォトセンサ11による発光の検出に適した検出回路の構成について説明する。
【0086】
この検出回路600は、図18に示すように、マルチフォトセンサ11を構成する単一の光検出器610と、AD変換器620と、加算平均回路630と、メモリ640と、減算器650と、コントローラ660と、から構成される。
【0087】
図示するように、光検出器610は、NMOSスイッチ611と、フォトダイオード12との直列回路により構成される。NMOSスイッチ611は、ワード線等を介してコントローラ660によりオン(接続)・オフ(遮断)される。
【0088】
図19を用いて、光検出器610の動作を説明する。この光検出器610は一般的なCCDやCMOSイメージセンサと同様の電荷蓄積型方式である。まず、コントローラ660によりsw信号をHighにして、NMOSスイッチ611をオンすると、フォトダイオード12の寄生容量成分の電子が放電され、光検出器610の出力電圧は電源電圧Vdd近くの電圧値に初期化される。そして、sw信号をLowにして、NMOSスイッチ611をオフする。フォトダイオード12には発光反応による光が入射されているので、フォトダイオード12では光電変換が起こり、電子が発生し、フォトダイオード12の寄生容量に蓄積される。このため、光検出器610の出力電圧Vpは、図19に例示するように、時間経過に従い減少していく(蓄積動作)。
【0089】
この蓄積動作に要する時間は露光時間(蓄積時間)と呼ばれる。適切な露光時間後の光検出器610の出力電圧は、初期化時の電圧値から受光光量(入射光強度)に比例して低くなる。ここで、初期化時の光検出器610の電圧値を基準とした電圧振幅を光検出器610の応答とすると、光検出器610の応答は受光光量に比例して大きくなる。
【0090】
AD変換器620は光検出器610からの出力電圧Vpをデジタル値に変換する。
光検出器610の応答が0(光検出器の初期化時)から始まって増加するのに従い、AD変換器620のデジタル出力も0から始まって離散的に増加する。
【0091】
加算平均回路630は、加算器631と、メモリ632と、除算器633とから構成され、加算平均演算を行う。まず、メモリ632の値を0にする(初期化)。その後、1回目に入力された信号は、メモリ632の値が0なので、加算器631を通過して、メモリ632にそのまま記憶される。2回目に入力された信号は加算器631でメモリ632に記憶された1回目の入力信号を加算され、メモリ632の値は1回目と2回目の加算値に更新記憶される。この動作をコントローラ660により設定された回数k回繰り返すと、メモリ632には、1回目からk回目までの入力信号を加算した値が記憶される。最後に、除算器633によりメモリ632に記憶された値をkで割ることで、加算平均回路630の出力はk回入力された信号の加算平均値を示す。
【0092】
メモリ640は、加算平均回路630の出力Dpを一時記憶する。
【0093】
減算器650は、加算平均回路630からの出力Dpからメモリ640に記憶したDmを減算し、検出回路600の出力とする。
【0094】
コントローラ660は、プロセッサ等から構成され、検出回路600の全体の動作を制御する。
【0095】
次に上記構成の検出回路600の動作原理を説明する。
図20に、微弱光検出時の光検出器610の応答特性を示す。光検出器610により微弱な光を後段の回路が検出可能な電圧信号として検出するためには、露光時間を数十秒から数分間、もしくはそれ以上に伸ばす必要がある。この長時間露光により、光検出器610の感度は向上するが、様々な雑音の影響も顕在化する。光検出器における雑音は、平均的に見ると一定値を示す固定成分と確率的にゆらぐランダム成分とに分けられる。
【0096】
固定成分の主要因は暗電流である。暗電流とは入射光が無くてもフォトダイオード12に流れる電流のことであり、図20(a)に示すように、ルシフェラーゼの発光反応が無い場合でも、暗電流により時間経過に比例して光検出器610の応答が大きくなる。暗電流の大きさは、CMOS集積回路の製造ばらつきの影響によりフォトダイオード12毎に異なり、温度依存性により温度が高いほど大きくなる。
【0097】
ランダム成分の主要因は、暗電流ショットノイズ、光ショットノイズ(発光反応が入力されている場合)、NMOSスイッチ611のリセットノイズ、AD変換前のアナログ回路のランダムノイズ(熱雑音、フリッカノイズ)である。これらのノイズの頻度分布は、図20(b)に示すように、近似的に正規分布(ガウス分布)に従う。ランダム成分の大きさも、温度依存性により温度が高いほど大きくなる。
【0098】
仮に雑音成分が固定成分のみならば、図20(a)のように、発光反応が有る場合と無い場合の光検出器610の応答をそれぞれ取得し差をとれば、雑音の固定成分を除去した発光反応の信号成分が取得できる。しかし、微弱光検出の場合、暗電流に比べて発光反応の信号成分が極めて小さい場合を想定している。この場合、発光反応の信号成分は、図20(a),(b)のように、雑音のランダム成分に埋もれてしまう。市販の高感度CCDやCMOSイメージセンサでは、イメージセンサをペルチェ素子や液体窒素などで冷却することで、温度依存性のあるこれらの雑音を抑制する手法が採られている。しかし、抗体17,32やSBP16などのバイオ要素、ルシフェラーゼの発光反応は低温では上手く機能しないため、常温での雑音抑制手法が必要となる。
【0099】
そこで、雑音のランダム成分を抑制するために加算平均演算を行う。正規分布に従う信号をn回加算平均すると、信号/ノイズ比(S/N)は√(n)倍に改善され、図20(c)のように、加算平均を行うほど雑音のランダム成分の分散が小さくなる。
【0100】
すなわち、発光反応が有る場合と無い場合の光検出器610の応答をそれぞれ複数回取得し、それぞれ加算平均演算を行って雑音のランダム成分を十分抑制したところで差をとれば、雑音の固定成分およびランダム成分に因らない発光反応の信号成分が取得できる。
【0101】
図18に示した検出回路600は、この加算平均演算を利用した雑音抑制手法が実行できる。まず、図6のように、マルチフォトセンサ11を構成するフォトダイオード12の直上にルシフェラーゼ31で覆われた細菌21が捕獲されている状態であるとする。そして、検出装置100のカバー131に相当するものでマルチフォトセンサ11を覆い、暗状態にする。
【0102】
このルシフェラーゼの発光反応前の暗状態での光検出器610の応答を取得し、AD変換器620によりデジタル化し、加算平均回路630に入力する動作をk回行う。加算平均回路630は、k回の加算平均演算を行い、雑音のランダム成分を抑制した発光反応前の光検出器610のデジタル応答を出力し、メモリ640に記憶させる。
【0103】
その後、検出装置100のカバー131に相当するものを外し、マルチフォトセンサ11をルシフェリンとATPの溶液で満たし、再び、検出装置100のカバー131に相当するものでマルチフォトセンサ11を覆い、暗状態にしてルシフェラーゼの発光反応を起こす。
【0104】
このルシフェラーゼの発光反応後の暗状態での光検出器610の応答を取得し、AD変換器620によりデジタル化し、加算平均回路630に入力する動作をk回行う。加算平均回路630は、k回の加算平均演算を行い、雑音のランダム成分を抑制した発光反応後の光検出器610のデジタル応答を出力する。
【0105】
そして、減算器650は、加算平均回路630からの雑音のランダム成分を抑制した発光反応後の光検出器610のデジタル出力Dpからメモリ640に記憶した雑音のランダム成分を抑制した発光反応前の光検出器610のデジタル出力Dmを減算して、雑音の固定成分とランダム成分に因らない発光反応の信号成分を取得して検出回路600の出力とする。
【0106】
以上の検出回路600の動作をコントローラ660が制御する。このようにして、微弱な発光反応を検出できる。
【0107】
ここで、検出回路600では、加算平均演算を利用しているが、積分演算を使用しても良い。加算平均回路630から除算器633を外すと積分回路になる。積分回路を使って微弱光検出処理を行うと、出力の値が加算平均回路630を使用したときのk(加算回数)倍になる。2進数のデジタル演算では除算は、法数(割る数)が2のn乗の場合、被除数(割られる数)を下位方向にnビットシフトすることで実現できる。小数点以下の値を切り捨てるとシフトしたnビット分の情報が無駄になり精度が悪くなる。一方、除算器633を外した手法では出力がk倍されるだけで精度は良いので、検出回路600の出力を用いて細菌21の数の推定などを行う場合には、k倍されていることが分かってさえいれば問題は無く、むしろ都合が良い。
【0108】
AD変換器620には、逐次比較型やフラッシュ型など様々な方式のものが適用できる。但し、図20で示した微弱な発光反応の検出方法を実現するためには、微小な発光反応の信号成分を検出する必要があるため高精度、高分解能のAD変換器が必要になり回路構成が複雑になる傾向にある。
【0109】
そこで、光検出器610の所定の露光時間後の電圧信号を出力とするのではなく、図21(a)〜(c)に示すように、光検出器610の応答が所定の値に達するまでの露光時間を出力とすることも可能である。この手法でも、図21(b)に示すように、雑音の固定成分とランダム成分の影響があるので、図20の手法と同様に、光検出器610の出力信号(時間信号)を加算平均することで雑音のランダム成分を抑制し、発光反応前後の出力を比較することで、発光反応の信号成分を獲得することが望ましい。
【0110】
この手法を実現するための図18の検出回路600のAD変換器620と加算平均回路630に置き換え可能な回路例を図22に示す。図22のPWM型AD変換器670は、コンパレータ671、2入力AND回路672、カウンタ673で構成され、いわゆるパルス幅変調(PWM)型AD変換器の回路構成を採っている。このPWM型AD変換器670は、正確には、AD変換器620と、加算平均回路630から除算器633を除いた積分回路とを合わせた構成に相当する。除算器633を除いても問題がないことは前述の通りである。
【0111】
図23を用いて、PWM型AD変換器670の回路動作を説明する。予め、参照電圧Vrefを適当な値に定め、コンパレータ671のマイナス端に入力しておく。光検出器610の出力Vpはコンパレータ671のプラス端に接続されている。まず、rst信号をHighにしてLowに戻すことでカウンタ673の値Dpを0にする。同時にsw信号をHighにして、光検出器610を初期化する。このとき、コンパレータ671の出力VcmpはHighになる。
【0112】
そして、sw信号をLowにすると、光検出器610の蓄積動作が始まり、出力電圧Vpが時間の経過と共に低下する。暫くすると光検出器610の出力電圧Vpが参照電圧Vrefよりも小さくなり、コンパレータ671の出力電圧VcmpがLowになる。sw信号の反転信号とコンパレータ671出力Vcmpが入力された2入力AND回路672の出力信号ceは、蓄積動作が始まってから光検出器610の出力電圧が参照電圧Vrefより小さくなるまでの時間Highを示す。つまり、このce信号がHighになっている時間が、図21(a)において光検出器610の応答が所定の値に達するまでの露光時間に相当し、光検出器610の出力時間信号(アナログ値)となる。
【0113】
ce信号はカウンタ673のクロックイネーブル端に入力される。カウンタ673は、クロックイネーブル端がHighになっている間だけ、クロック(clk)信号が立ち上がる毎にカウントアップし、出力Dpが増加する。すなわち、光検出器610のアナログ時間信号がカウンタ673によりデジタル時間信号に変換される。clk信号の周波数が高いほどAD変換精度(分解能)が高くなる。
【0114】
その後、再びsw信号をHighにして光検出器610の初期化を行い、Lowにして蓄積動作を始める。このとき、rst信号をHighにしなければ、カウンタ673には、前の光検出器610の出力時間信号が保持されている。この状態で、ce信号が再びHighになると、カウンタ673は保持された出力時間信号に加算する形でカウントアップを始める。すなわち、rst信号をHighにするまでの間、光検出器610の出力時間信号が積分される。以上より、PWM型AD変換器670は、時間領域のAD変換と積分演算を実行することが出来る。
【0115】
このPWM型AD変換器670を、検出回路600のAD変換器620および加算平均回路630と置き換えることで、図21を用いて説明した、微弱光検出処理が実行できる。
【0116】
但し、PWM型AD変換器670を用いて実行する処理は、図20を用いて説明した処理に近似的には等しいが、厳密には同じ処理ではない。露光時間一定の場合の光検出器610の電圧出力(図20)はフォトダイオード12の受光光量に比例するが、光検出器610での電圧変化を一定としたときの露光時間出力(図21)はフォトダイオード12の受光光量に反比例する。PWM型AD変換器670を用いた検出回路600で細菌21の有無を判定する程度であれば特に問題は無いが、細菌21の数や密度を推定する場合は上記反比例性を念頭に判定処理を行う必要がある。
【0117】
このように、PWM型AD変換器670を使用した処理は、図20を用いて説明した処理とは厳密には違うが、回路構成が単純かつ変換時間が長いほど変換精度が高いという利点があり、微弱光検出には比較的適した回路構成だと言える。
【0118】
また、PWM型AD変換器670を改良することで、光検出器610のリセットノイズを除去することも出来る。図24(a)に示すように、光検出器610のNMOSスイッチ611をオフするときに、リセット(kTC)ノイズが入り、光検出器610の出力電圧がシフトする。但し、出力電圧の傾きは変わらない。リセットノイズの影響で、図22の回路では図24(a)に示すようにce信号の立ち下がりの時間が変動してしまう。そこで、図24(b)に示すように、参照電圧を2つ(Vrt、Vrb)用意し、光検出器610の出力電圧が参照電圧Vrtより小さくなったときにce信号を立ち上げ、さらにもう一つの参照電圧Vrbより小さくなったときにce信号を立ち下げれば、リセットノイズの影響を除去できる。
【0119】
図22のPWM型AD変換器670に置き換えることでリセットノイズの影響を除去可能な回路例を図25(a)に示す。回路は、2つのコンパレータ671と、3入力AND回路674と、カウンタ673で構成され、図25(b)に示すように、所望の動作を実行できる。
【0120】
また、コンパレータ671を一つだけ用いた回路例を図26(a)に示す。回路は1つのコンパレータ671と、参照電圧の切替スイッチ675と、D−フリップフロップ676と、カウンタ673で構成され、図26(b)に示すように、所望の動作を、コンパレータ一つを使った回路構成で実行できる。
【0121】
なお、この検出回路600の構成と動作は、一例であり、限定されるものではない。
【0122】
(変形例)
【0123】
(1)マルチフォトセンサ11を構成するフォトダイオード12のアレイを、図27(a)、(b)に示すように、幾つかの領域に分け、各々別種の抗体を配置することで、複数の細菌の判別及び計数を同時に行うことも可能である。また、エリアセンサに限らず、ラインセンサでも、シングルセンサでもよい。
【0124】
(2)検出の対象は任意であり、アレルギー原因性物質、花粉、タンパク質なども可能である。つまり、図6のように、マルチフォトセンサ11の直上に、検出対象を介してルシフェラーゼ31を固定できれば検出対象は任意である。その意味において、金属、樹脂、等の粒子なども、これらの物質に選択的に接続する物質を抗体の代わりに使用すれば、検出可能である。
【0125】
(3)フォトセンサ11の上に固定層としてSBPを使用したが、検出対象を固定する手法は任意である。
【0126】
(4)上記実施の形態では、発光させるために、ルシフェリン、ATP、ルシフェラーゼ31を使用したが、検出対象自体又はその周囲を発光させることができるならば、その手法は任意である。
【0127】
(5)また、マルチフォトセンサ11の上に、検体を配置する例を示したが、図28に例示するように、プレパラートのような任意の板(層、膜を含む)501をマルチフォトセンサ11の上に配置し、ここに、必要に応じて、抗体層などの固定層を配置し、ここに検体を配置するようにしてもよい。この場合もマルチフォトセンサ11の直上に検体を配置することができ、装置を小型に維持できる。即ち、検体をマルチフォトセンサ11上に直接又は光透過性の膜・層を介して近接して配置することができ、微弱発光をより容易且つ正確に検出することが可能となる。
【0128】
その他、前記のハードウエア構成は一例であり、任意に変更及び修正が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0129】
この発明は、特定の微小物体の検出に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】(a),(b)は、実施の形態に係るマルチフォトセンサの図である。
【図2】マルチフォトセンサに固定層を形成した状態を示す図である。
【図3】マルチフォトセンサ上に検体を滴下する様子を示す図である
【図4】マルチフォトセンサの固定層に検出対象物が捕捉・固定された様子を示す図である。
【図5】マルチフォトセンサにルシフェラーゼを滴下する様子を示す図である。
【図6】検出対象物にルシフェラーゼが付着した様子を示す図である。
【図7】(a)はマルチフォトセンサにルシフェリンとATPを滴下する様子を示す図であり、(b)は細菌に付着したルシフェラーゼの周辺で発光反応が起きている様子を示す図である。
【図8】マルチフォトセンサにルシフェラーゼが付着した細菌が固定されている状態を示す図である。
【図9】(a)は、検出対象(細菌)の数に対する光電変換素子の応答の大きさの関係を示したグラフである。(b)は、図8の状態で得られる出力パターンの例である。
【図10】検出処理の手順を示す図である。
【図11】検出装置の第1の例の構成を示す図である。
【図12】図11のマルチフォトセンサ群の構成を例示する図である。
【図13】検出装置の動作を示す手順図である。
【図14】検出装置の第2の例の構成を示す図である。
【図15】検出装置の第2の例の構成を示す図である。
【図16】検出装置の第2の例の構成を示す図である。
【図17】検出装置の使用例を示す図である。
【図18】検出回路の構成例のブロック図である。
【図19】光検出器の出力電圧特性を示したグラフである。
【図20】微弱光を検出するための検出回路の動作原理を示す図である。
【図21】PWM型AD変換器を用いて、微弱光を検出するための動作原理を示す図である。
【図22】図18の検出回路の一部に置き換え可能なPWM型AD変換回路のブロック図である。
【図23】PWM型AD変換回路のタイミングチャートである。
【図24】(a)は、図22に示したPWM型AD変換器へのリセットノイズの影響を示した図であり、(b)はその影響を解決する手法を示した図である。
【図25】(a)は、図24(b)で示したリセットノイズの影響を除去するためのPWM型AD変換器の回路例のブロック図であり、(b)はそのタイミングチャートである。
【図26】(a)は、図24(b)で示したリセットノイズの影響を除去するためのPWM型AD変換器の回路例のブロック図であり、(b)はそのタイミングチャートである。
【図27】(a)、(b)は、フォトセンサの表面に異なる固定層(抗体層)を形成した例を示す図である。
【図28】プレパラートなどを使用する例を説明する図である。
【符号の説明】
【0131】
11 マルチフォトセンサ(撮像装置)
12 フォトダイオード(光電変換素子)
13 単結晶シリコン基板
14 保護層
16 SBP(Silicon Material Binding Protein)
17 抗体
21 細菌
22 検体
31 ルシフェラーゼ
32 抗体
33 溶液
41 ルシフェリンとATPの混合溶液
42 発光反応
100 検出装置
101 ステージ
102 マルチフォトセンサ群
103 壁
104 排水口
121 くぼみ
122 台
111〜114 ディスペンサ
115 洗浄装置
116 検体容器
131 カバー
141 コントローラ
200 検出装置
201 カプセル
211 マルチフォトセンサユニット
212 ルシフェラーゼユニット
213 ルシフェリンユニット
214 第1洗浄ユニット
215 第2洗浄ユニット
216 センサ制御ユニット
217 メモリ制御ユニット
218 不揮発性メモリ
219 電源ユニット
231 小室
233 開口
234 MEMS(扉)
241〜244 MEMS(弁)
244 コイルアンテナ
301 便器
302 トラップ
303 通信機
501 板(プレパラート)
600 検出回路
610 光検出器
611 NMOSスイッチ
620 AD変換器
630 加算平均回路
631 加算器
632 メモリ
633 除算器
640 メモリ
650 減算器
660 コントローラ
670 PWM型AD変換器
671 コンパレータ
672 2入力AND回路
673 カウンタ
674 3入力AND回路
675 切替スイッチ
676 D−フリップフロップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光電変換素子がマトリクス状に配置されたマルチフォトセンサの直上に、検出対象物を固定する固定層を形成する工程と、
前記固定層が形成されたマルチフォトセンサの直上に、前記検出対象物を含む検査対象流体を配置する配置工程と、
前記検出対象物に発光物質を付着させる付着工程と、
発光物質を付着させた前記検出対象物を前記マルチフォトセンサにより検出する検出工程と、
を備える微小物体検出方法。
【請求項2】
前記検出工程により得られた応答から、前記検出対象物を判別する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の微小物体検出方法。
【請求項3】
前記付着工程は、発光反応を起こす物質を前記検出対象物に付着する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の微小物体検出方法。
【請求項4】
前記付着工程は、
ルシフェラーゼを付着する工程と、
ルシフェリンとATP(アデノシン三リン酸)を加える工程と、
を備える、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微小物体検出方法。
【請求項5】
前記付着工程は、
前記検出対象物に付着する抗体とルシフェラーゼとの結合体を供給する工程と、
ルシフェリンとATPを加える工程と、
を備える、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微小物体検出方法。
【請求項6】
前記固定層は、シリコンと前記検出対象物を抗原とする抗体との結合体の層から構成され、
前記固定層を形成する工程は、前記結合体のシリコンを前記マルチフォトセンサの光電変換面に固定する工程から構成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の微小物体検出方法。
【請求項7】
前記検出対象物は微生物であり、
前記配置工程実行前に、前記マルチフォトセンサの光電変換面上に、シリコンと前記検出対象の微生物を抗原とする抗体との結合体の層を形成する工程を備え、
前記付着工程は、前記検出対象物に付着する抗体とルシフェラーゼとの結合体を供給する工程と、ルシフェリンとATPを加える工程と、から構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の微小物体検出方法。
【請求項8】
前記検出工程は、
前記マルチフォトセンサの出力のノイズを測定し、ノイズの揺らぎ成分を抑圧してノイズの固定成分を求める工程と、
前記検出対象物に付着した発光物質の発光を前記マルチフォトセンサにより複数回検出することにより揺らぎ成分を抑圧すると共に前記ノイズの固定成分との差分を求めることによりノイズの固定成分を除去する工程と、
を備える、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の微小物体検出方法。
【請求項9】
光電変換素子で構成された光検出器がマトリクス状に複数配置されたマルチフォトセンサと、
前記マルチフォトセンサ上に形成され、検出対象物を固定する固定層と、
前記固定層上に、前記検出対象物を含む検査対象流体を供給する供給手段と、
前記検出対象物に発光物質を付着させる付着手段と、
を備える微小物体検出装置。
【請求項10】
前記マルチフォトセンサを構成する各前記光検出器の出力信号を処理し、前記検査対象流体に含まれる発光物質を付着させた前記検出対象物の応答を判別することにより検出対象物を検出する処理手段をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の微小物体検出装置。
【請求項11】
前記付着手段は、発光反応を起こす物質を前記検出対象物に付着する、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の微小物体検出装置。
【請求項12】
前記マルチフォトセンサと前記供給手段と前記付着手段とは人間又は動物が飲み込み可能にカプセル化されており、
前記処理手段は、前記カプセル内又は外部に配置され、前記マルチフォトセンサの出力を通信により受信する、
ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の微小物体検出装置。
【請求項13】
前記光検出器の出力ノイズを測定し、ノイズの揺らぎ成分を抑圧してノイズの固定成分を求める手段と、
前記検出対象物に付着した発光物質の発光を検出した前記光検出器の出力を複数回測定することにより出力に含まれる揺らぎ成分を抑圧する手段と前記出力と前記ノイズの固定成分との差分を求めることによりノイズの固定成分を除去する手段とを備える検出手段と、
をさらに備える、ことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の微小物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−43980(P2010−43980A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208792(P2008−208792)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第1回 広島大学 半導体・バイオ融合集積化技術シンポジウム、国立大学法人広島大学、平成20年 6月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 半導体・バイオ融合集積化技術の構築」プロジェクトに係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】