説明

微小発光素子

【課題】低出力連続光励起によって、半導体ナノ粒子からの発光スペクトルの挟帯化が可能な微小発光素子を提供する。
【解決手段】金属ナノ薄膜周期構造表面に発生する表面プラズモン共鳴と、ナノメートルレベルで厚み制御された高分子超薄膜中に半導体ナノ粒子を閉じ込めた集積構造とを利用することで、半値幅6nm以下の発光スペクトル挟帯化、および入力光に対ししきい値のない発光挙動を得ることができる。集積構造は、可視光領域において透明な高分子超薄膜と、半導体ナノ粒子を固定することが可能な高分子超薄膜とを有し、集積構造の膜厚が発光波長の半波長程度の厚さであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴や導波モードを発生することができる周期構造基板を利用して、高分子超薄膜により光路長を厳密に制御して作製され、発光材料からの発光を高効率に発生し、低出力光励起によっても発光波長・方向制御可能な微小発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直径1〜10nmの半導体ナノ粒子は、発光効率が高く光耐光性に優れるため、医療分野でのマーカーやレーザ発振用材料など、ナノメートルサイズの光源として期待されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、半導体ナノ粒子の発光は、通常の連続光励起の場合、電子−正孔対の励起子発生の際、オージェ再結合などにより失活する問題がある(例えば、非特許文献2参照)。レーザ発振に特徴的な発光スペクトルの挟帯化を得るためには、フェムト秒パルスレーザなど、高尖頭出力を有する励起光源を必要とする(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
半導体ナノ粒子の発光素子としての利用に際し、他の問題点として、ナノ粒子が凝集しやすい点がある。このような問題点を解決する手段として、Langmuir-Blodgett法を利用してナノ粒子を二次元平面内に均一に分散する方法があげられる(例えば、特許文献1または非特許文献4参照)。
【0005】
一方、金あるいは銀からなる金属ナノ薄膜に周期構造を持たせることで、可視光領域において、光と金属ナノ薄膜内の自由電子とが相互作用することにより、金属ナノ薄膜表面上に表面プラズモン共鳴を発生することができる。発光材料を金属ナノ薄膜表面に配置することで、簡便に発光増強を達成することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−232853号公報
【特許文献2】特開2008−286778号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K.Grieve, P. Mulvaney, F. Grieser, “Synthesis and electronic properties ofsemiconductor nanoparticles/quantum dots”, Curr. Opin. Colloid Interface Sci., 2000年, 5, p.168
【非特許文献2】V. I.Klimov, “Optical nonlinearities and ultrafast carrier dynamics insemiconductor nanocrystals”, J. Phys. Chem. B., 2000年, 104, p.6112
【非特許文献3】V. I.Klimov, A. A. Mikhailovsky, S. Xu, A. Malko, J. A. Hollingsworth, C. A. Leatherdale,H. -J. Eisler, M. G. Bawendi, “Optical gain and stimulated emission innanocrystal quantum dots”, Science, 2000年, 290, p.314
【非特許文献4】H. Tanaka, M. Mitsuishi, T. Miyashita, “Tailored-control of gold nanoparticle adsorption ontopolymer nanosheets”, Langmuir, 2003年, 19, p.3103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光路長を1ナノメートルレベルで制御された集積構造と周期基板構造とを組み合わせることで、低光入力励起により、半値幅が6nm以下にスペクトル挟帯化された半導体ナノ粒子からの発光を取り出すことができる微小発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る微小発光素子は、厚さを制御された高分子超薄膜中に発光材料を導入した集積構造と周期構造基板とを組み合わせて形成され、可視光領域で発光波長および発光方向を制御可能に構成されていることを、特徴とする。
【0010】
本発明に係る微小発光素子で、前記周期構造基板は、可視光領域での表面プラズモン共鳴あるいは導波モード結合を可能とする周期構造を有する金属ナノ薄膜から成ることが好ましい。この場合、本発明に係る微小発光素子は、金属ナノ薄膜周期構造表面に発生する表面プラズモン共鳴や導波モードと発光材料とを、厚み制御された高分子超薄膜中に閉じ込めた集積構造を利用することを、特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る微小発光素子で、前記発光材料は半導体ナノ粒子から成ることが好ましい。本発明に係る微小発光素子で、前記集積構造は、可視光領域において透明な高分子超薄膜と、前記発光材料を固定することが可能な高分子超薄膜とを有し、前記集積構造の膜厚が発光波長の半波長程度の厚さであることが好ましい。本発明に係る微小発光素子は、前記発光材料の発光スペクトルのピーク幅が著しく挟帯化するよう構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属ナノ薄膜などから成る周期構造表面に発生する表面プラズモン共鳴あるいは導波モードが、精密集積構造により閉じ込められた半導体ナノ粒子などから成る発光材料からの発光を増強し、その発光のスペクトル挟帯化を達成することが可能である微小発光素子を提供することができる。これにより、フェムト秒パルスレーザを使用しなくとも、6nm以下に挟帯化されたスペクトルを有する発光を容易に実現できる。
【0013】
さらには、このようなナノスケールの積層体により、様々な発光材料の発光強度の増強が可能となり、有機ELデバイスや光電変換素子あるいは面発光素子として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の微小発光素子の、光路長を制御し発光物質を担持する物質の一例としてのポリマー[p(DDA/DONH)]の化学構造を示す構造式である。
【図2】本発明の実施の形態の微小発光素子の、銀ナノ薄膜周期構造の側面図および原子間力顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施の形態の微小発光素子を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態の微小発光素子の、測定系を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態の微小発光素子からの発光スペクトルを示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の微小発光素子の、発光強度の入射光強度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態の微小発光素子は、1方向に沿って形成された複数の溝部を有する金属ナノ薄膜周期構造表面に、中央付近にCdSeナノ粒子を配置し、発光波長(650nm)の約半分の光路長を有するナノ構造体(集積構造)を積層して形成されている。この微小発光素子を、連続光タイプのアルゴンイオンレーザ(波長514nm)にて励起することで、発光波長650nm、半値幅6nm以下に発光増強された光を取り出すことができた。
【実施例1】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0017】
図面に基づき、この発明の実施例について述べる。
まず、図1に示すアミノ基を含むアクリルアミド系ポリマー(p(DDA/DONH))の合成方法について述べる。末端にアクリロイル基、あるいはメタクリロイル基を有するスクシンイミド基とN−ドデシルアクリルアミドのコポリマーとをラジカル共重合により合成した。未反応のスクシンイミドコモノマーおよびN−ドデシルアクリルアミドは、再沈殿法により除去することができる。得られた共重合体と2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)とを高分子反応することにより、p(DDA/DONH)を得た。
【0018】
半導体ナノ粒子は、市販のCdSeナノ粒子(発光波長中心650nm)を使用した。この場合、CdSeナノ粒子は水溶性であり、表面が帯電していて、分散状態であることが望ましい。
【0019】
次に、図2に基づいて、表面プラズモン共鳴や導波モードを使用した微小発光素子をもたらすことが可能な銀ナノ構造体について述べる。図2は、1方向に沿った複数の溝部を有する銀ナノ薄膜2の構造である。使用した周期構造の間隔は400〜500nmであるが、10〜800nmで調整可能である。図2の下に、原子間力顕微鏡写真を示す。溝部の深さは約20〜40nmである。銀の厚みは、30〜150nmが望ましい。
【0020】
図3は、図2に示す銀ナノ薄膜周期構造7の上に、ポリ(N−ドデシルアクリルアミド)(pDDA)LB膜4、p(DDA/DONH)LB膜5およびCdSeナノ粒子6を積層した微小発光素子の構造図である。pDDA LB膜4は可視光領域では透明な媒質として利用することができ、1層あたりの膜厚は1.76nmである。まず、pDDA LB膜4を48層、Langmuirトラフを用いた垂直浸漬法により固体基板上に移しとった。吸光度および吸光係数(2.8×10−1cm−1 at 500nm)から求めたCdSeナノ粒子6の表面数密度は、6.7×10(cm−2)であった。粒径5nmを考慮すると、約13%の表面被覆率であると算出される。
【0021】
続いて、p(DDA/DONH)LB膜5を10層積層し、CdSeナノ粒子水溶液に浸漬した。p(DDA/DONH)LB膜5は、CdSeナノ粒子6を静電相互作用によって基板上に固定する役割をはたし、1層あたり2nmの膜厚である。この時、CdSeナノ粒子6は、凝集することなく均一に分散された状態でp(DDA/DONH)LB膜5の上に固定化される。
【0022】
さらに、pDDA LB膜4を60層積層し、CdSeナノ粒子6の単粒子層がちょうど発光素子中央に配置され、光路長が発光波長の約半分となるように積層数を調整した。ここでの光路長は、発光波長650nmと同一であり、(LB膜1層の膜厚)×(屈折率)より積層数を逆算した。屈折率は、集積構造全体が1.5であると仮定した。
【0023】
図4に、測定光学系を示す。作製したサンプルを、溝線方向が鉛直方向と平行になるように回転ステージに設置した。連続光タイプのアルゴンイオンレーザ(514nm)のp偏光を入射したときにサンプルから最大の発光が得られるように、入射レーザ9の入射角11を設定した。このとき、サンプルから1方向にのみ強い発光が得られるため、フォトダイオードアレイを搭載したアームの測定角12を調整し、ファイバー光学系を利用してその発光10を検出した。
【0024】
次に、図5に基づいて発光特性について述べる。図5は、図4の測定光学系に対し、入射角18°、測定角8°に設定して得られた発光スペクトルである。溶液中でピーク波長650nm、半値幅30nmの発光を示すCdSeナノ粒子からの発光が、6nmの半値幅に挟帯化されている。このようなスペクトルの挟帯化は、入射光強度10μWから得られた。
【0025】
図6は、発光強度(Emission Intensity)の入射光強度(Incident Intensity)依存性である。入射光強度に対し、直線的に増加しており、見かけ上しきい値のないレーザとしても機能する可能性が示された。
【0026】
CdSeナノ粒子の微小発光素子を平滑な銀基板に担持したサンプルからの発光と、本発明の微小発光素子からの発光とを比較したところ、約100倍増強されていることがわかった。
【0027】
さらに、偏光板を用いて発光の偏光状態を調べたところ、この発光は、溝線方向に対し垂直方向からs偏光を入射したとき、最も強い発光が得られること、その発光はs成分を有していることがわかった。
【0028】
本発明の実施の形態の微小発光素子からの発光は、集積構造の膜厚が115nm以上の時に観測され、膜厚が変化するとともに、最大の発光強度が得られる励起光の入射角度と発光の検出角度の条件も変化した。
【0029】
pDDA LB膜を積層せず、銀ナノ薄膜周期構造上に、p(DDA/DONH)LB膜10層およびCdSeナノ粒子を積層した微小発光素子から、溝線方向に対し垂直方向からp偏光を入射したとき、p成分を有している最も強い発光が得られることがわかった。その発光の半値幅は10nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る微小発光素子は、光機能性、電子機能性材料として使用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0031】
1 樹脂基板
2 銀ナノ薄膜
3 酸化シリコン
4 pDDA LB膜
5 p(DDA/DONH)LB膜
6 CdSeナノ粒子
7 銀ナノ薄膜周期構造
8 樹脂基板
9 入射レーザ
10 発光
11 入射角
12 測定角
13 CdSeナノ粒子
14 高分子LB膜
15 樹脂基板
16 銀ナノ薄膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さを制御された高分子超薄膜中に発光材料を導入した集積構造と周期構造基板とを組み合わせて形成され、可視光領域で発光波長および発光方向を制御可能に構成されていることを、特徴とする微小発光素子。
【請求項2】
前記周期構造基板は、可視光領域での表面プラズモン共鳴あるいは導波モード結合を可能とする周期構造を有する金属ナノ薄膜から成ることを、特徴とする請求項1記載の微小発光素子。
【請求項3】
前記発光材料は半導体ナノ粒子から成ることを、特徴とする請求項1または2記載の微小発光素子。
【請求項4】
前記集積構造は、可視光領域において透明な高分子超薄膜と、前記発光材料を固定することが可能な高分子超薄膜とを有し、前記集積構造の膜厚が発光波長の半波長程度の厚さであることを、特徴とする請求項1、2または3記載の微小発光素子。
【請求項5】
前記発光材料の発光スペクトルのピーク幅が著しく挟帯化するよう構成されていることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載の微小発光素子。


【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−37474(P2012−37474A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180209(P2010−180209)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :国立大学法人東北大学(発表会の主催:東北大学工学部化学・バイオ工学科、共催:東北大学) 刊行物名 :平成21年度 化学・バイオ工学卒業研修B 発表要旨 発行年月日:平成22年2月18日 発行者名 :社団法人 応用物理学会 刊行物名 :2010年春季 第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 発行年月日:2010年(平成22年)3月3日 発行者名 :社団法人 高分子学会 刊行物名 :第59回 高分子学会年次大会予稿集 発行年月日:平成22年5月11日 発行者名 :国立大学法人東北大学(Seminarの主催:東北大学多元物質科学研究所、共催:東北大学) 刊行物名 :JSPS/NRF 3▲rd▼ Joint Seminar for nanomaterials 講演予稿集 発行年月日:2010年(平成22年)6月24日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】