説明

微小粒子分析装置及び微小粒子分析方法

【課題】光照射経路を構成する光源やレンズ等の相対位置の微小なずれに起因するサンプル流上の照射スポットの位置ずれを抑制し、微小粒子に対して高精度に光を照射して、安定した測定性能を得ることが可能な微小粒子分析装置を提供。
【解決手段】光源11と、光源11からの光をマルチモード光ファイバ15の一端15aに集光する第一の集光レンズ141と、マルチモード光ファイバ15の他端15bから出射される光を微小粒子Pに集光する第二の集光レンズ142と、光の照射により微小粒子Pから発生する光を検出する検出器23と、を備える微小粒子分析装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子分析装置及び微小粒子分析方法に関する。より詳しくは、細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的に分析する微小粒子分析装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流する微小粒子に光を照射し、微小粒子からの散乱光や、微小粒子そのものあるいは微小粒子に標識された蛍光物質から発生する蛍光を検出して、微小粒子の光学特性を測定する微小粒子分析装置が用いられている。この微小粒子分析装置では、光学特性の測定の結果、所定の条件を満たすと判定されたポピュレーション(群)を、微小粒子中から分別回収することも行われている。このうち、特に微小粒子として細胞の光学特性を測定したり、所定の条件を満たす細胞群を分別回収したりする装置は、フローサイトメータあるいはセルソータ等と呼ばれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「互いに異なる波長を有する複数の励起光を、所定の周期および互いに異なる位相で照射する複数の光源と、複数の励起光を同一の入射光路上に導光し、染色された粒子に集光する導光部材とを備えたフローサイトメータ」が開示されている。このフローサイトメータは、互いに異なる波長を有する複数の励起光を照射する複数の光源と、前記複数の励起光を同一の入射光路上に導光し、染色された粒子に集光する導光部材と、前記複数の励起光のそれぞれが前記粒子を励起して生じた蛍光を検出し、蛍光信号を出力する複数の蛍光検出器と、を備えるものである(当該文献請求項1・3、図1・3参照)。
【0004】
特許文献1に開示されるような従来の微小粒子分析装置は、光源から出射される、スポットサイズが非常に小さい光を、微小粒子が通流するサンプル流幅に対して十分な大きさのスポットとしてサンプル流上に照射するため、光学倍率の高い光照射経路を採用している。
【0005】
図9に、従来の微小粒子分析装置における光照射経路を模式的に示す。図中、符号111で示す光源からの光(励起光)は、コリメータレンズ112及びミラー113を経て、集光レンズ114によりフローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流するサンプル流S中の微小粒子Pに照射される。図中、矢印Fは、フローセル等内におけるサンプル流S及びシース流の送流方向を示す。
【0006】
励起光の照射によって、微小粒子Pあるいは微小粒子Pに標識された蛍光物質から発生した蛍光は、対物レンズ121を経て、複数の波長フィルタ122に順に透過される。このとき、各波長フィルタにおいて、所定波長域の蛍光が分光される。そして、各波長フィルタで分光された蛍光が、波長フィルタ毎に設けられた検出器123によって検出され、電気信号に変換される。
【0007】
サンプル流S上で要求される光の照射スポットサイズは、例えば10〜100μm程度であり、通常20μm程度である。一方、光源111からの光の出射スポットサイズは、例えば0.5〜2.0μm程度であり、通常1μm程度である。この場合、この光照射経路において、集光レンズ114とコリメータレンズ112との焦点距離の比で決定される光学倍率は、20倍程度に設定されることとなる。
【0008】
このような高い光学倍率を備える光照射経路では、例えば、光源111とコリメータレンズ112との相対位置が1μmずれると、サンプル流S上の照射スポット位置が20μmずれることとなる。このずれは、サンプル流S上の照射スポットサイズと同じ大きさであり、このようなずれが生じると、もはやサンプル流S中の微小粒子Pに光を照射することができず、検出信号を得られなくなる。
【0009】
また、図10(B)に、従来の微小粒子分析装置の照射スポットにおける光強度分布を模式的に示す。図10(A)に示すように、フローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流するサンプル流S中の微小粒子Pに光Lが照射されている場合、サンプル流S上の照射スポットの光の断面強度分布は、図10(B)に示すようなガウス分布をとる。すなわち、サンプル流S上の照射スポットにおける光の断面強度は、スポットの中心で強く、周辺では大きく減弱する。このため、サンプル流S上の照射スポット位置にずれが生じると、微小粒子Pに照射される光の実効強度が大きく低下し、検出信号が減衰してしまう。
【0010】
本発明に関連して、特許文献2には、光照射経路に、レーザ発振器から出射されたレーザ光をシースフローに集光するための光ファイバを備えたフローサイトメータが開示されている(当該文献図1、段落0013参照)。この光ファイバは、レーザ発振器とビームエキスパンダとの間に配されるものであり、レーザ発振器から出射されたレーザ光をビームエキスパンダに対し、単に導光するためのみに機能するものである。特許文献2には、光ファイバを用いて、光源から出射される光のスポットサイズを変化させることは、記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−46947号公報
【特許文献2】特開2004−184217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図9に示すような従来の微小粒子分析装置では、光照射経路の光学倍率の高さのために、光照射経路を構成する光源やレンズ等の相対位置がわずかにずれても、サンプル流上の照射スポット位置に大きなずれが生じていた。また、サンプル流S上の照射スポットの光の断面強度分布がガウス分布となるため、照射スポット位置にずれが生じると、微小粒子に照射される光の実効強度が大きく低下していた。
【0013】
光照射経路を構成する光源やレンズ等の相対位置の微小なずれは、装置に加わる振動や温度変化などによって容易に発生し、また経時的に自然にずれが生じてくることもある。従って、従来の微小粒子分析装置では、サンプル流上の照射スポットの位置ずれによる検出信号の変化が大きく、装置性能の安定性や測定精度に問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、光照射経路を構成する光源やレンズ等の相対位置の微小なずれに起因するサンプル流上の照射スポットの位置ずれを抑制し、微小粒子に対して高精度に光を照射して、安定した測定性能を得ることが可能な微小粒子分析装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題解決のため、本発明は、光源と、光源からの光をマルチモード光ファイバの一端に集光する第一の集光レンズと、マルチモード光ファイバの他端から出射される光を微小粒子に集光する第二の集光レンズと、光の照射により微小粒子から発生する光を検出する検出器と、を備える微小粒子分析装置を提供する。
この微小粒子分析装置は、前記光源からの光の前記マルチモード光ファイバ端における入射位置を、経時的に変化させる光偏向手段を備えることが好ましい。
前記光偏向手段は、前記光源からの光を回折させる音響光学偏向器あるいは電気光学偏向器として構成でき、この場合、音響光学偏向器に周波数を切換えて音波を印加する制御手段あるいは前記電気光学偏向器に電圧値を切換えて電圧を印加する制御手段が設けられる。
この微小粒子分析装置において、前記マルチモード光ファイバの光出射端におけるコアの断面形状は、円形又は矩形に形成されていることが好適となる。
【0016】
本発明は、また、光源からの光をマルチモード光ファイバの一端に集光し、他端から出射される光を微小粒子に集光、照射して、微小粒子から発生する光を検出する手順を含む微小粒子分析方法を提供する。
前記手順においては、前記光源からの光の前記マルチモード光ファイバ端における入射位置を、経時的に変化させることが好ましい。
また、前記手順においては、印加する音波の周波数を経時的に変化させた音響光学偏向器あるいは印加する電圧の電圧値を経時的に変化させた電気光学偏向器により、前記光源からの光を回折させて前記マルチモード光ファイバの一端に集光することが好適となる。
【0017】
本発明において、「マルチモード光ファイバ」とは、コア内を多くのモード(光の通り道)に分かれて光が伝搬する光ファイバを指す。これに対して、コア内を伝搬するモードが1つである光ファイバは、「シングルモード光ファイバ」と称される。
「マルチモード光ファイバ」では、光はコア内を多くのモードに分かれて伝搬し、あるモードはコア中を真っ直ぐ最短距離で進み、あるモードは反射を繰り返しながら遠回りして進む。このため、マルチモード光ファイバでは、入射端から入射した光がコア中を拡がりながら進む。
【0018】
また、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。
また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、光照射経路を構成する光源やレンズ等の相対位置の微小なずれに起因するサンプル流上の照射スポットの位置ずれを抑制し、微小粒子に対して高精度に光を照射して、安定した測定性能を得ることが可能な微小粒子分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路及び光検出経路を説明するための模式図である。
【図2】マルチモード光ファイバ15の入射端15aに入射されるレーザ光のスポットLaを説明するための模式図である。
【図3】マルチモード光ファイバ15の出射端15bから出射されるレーザ光のスポットLbを説明するための模式図である。
【図4】サンプル流S上の照射スポットの光強度分布を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路を説明するための模式図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る微小粒子分析装置において、スペックルパターンが除去されたレーザ光の照射スポットを説明するための模式図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路の変形例を説明するための模式図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路を説明するための模式図である。
【図9】従来の微小粒子分析装置における光照射経路を説明するための模式図である。
【図10】従来の微小粒子分析装置における、サンプル流S上の照射スポットの光強度分布を説明するための模式図である。
【図11】スペックルを有する出射光の照射スポットに生じるスペックルパターンを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0022】
1.第一実施形態に係る微小粒子分析装置
図1に、本発明の第一実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路及び光検出経路を模式的に示す。
【0023】
図中、符号11で示す光源からの光(レーザ光)は、コリメータレンズ12によって平行光となり、ミラー13によって各光源11からのレーザ光が同軸上に配置されて、集光レンズ141によってマルチモード光ファイバ15の入射端15aに入射される。
【0024】
マルチモード光ファイバ15の入射端15aに入射されたレーザ光は、マルチモード光ファイバ15内を伝搬され、出射端15bから出射される。出射されたレーザ光は、集光レンズ142によってフローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流するサンプル流S中の微小粒子Pに照射される。図中、矢印Fは、フローセル等内におけるサンプル流S及びシース流の送流方向を示す。
【0025】
励起光の照射によって、微小粒子あるいは微小粒子に標識された蛍光物質から発生した蛍光は、対物レンズ21を経て、複数の波長フィルタ22に順に透過される。このとき、各波長フィルタにおいて、所定波長域の蛍光が分光される。そして、各波長フィルタで分光された蛍光が、波長フィルタ22毎に設けられた検出器23によって検出され、電気信号に変換される。なお、ここでは、図示を省略したが、本発明に係る微小粒子分析装置の光検出経路には、微小粒子から発生する散乱光の検出器及びこれに付随するミラーやフィルタ等も含まれる。
【0026】
検出器23及び散乱光を検出するための検出器は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCD(charge coupled device)やCMOS(complementary metal oxide semiconductor)素子等のエリア撮像素子などとされる。微小粒子から発生する蛍光を検出するための光検出経路は、従来公知の微小粒子分析装置と同様の構成とでき、図に示す構成に限定されないものとする。
【0027】
検出器23及び散乱光を検出するための検出器により変換された電気信号は、微小粒子Pの光学特性の測定のために供される。光学特性測定のためのパラメータは、従来公知の微小粒子分析装置と同様に、例えば、微小粒子Pの大きさを判定する場合には前方散乱光が、構造を判定する場合には側方散乱光が、微小粒子Pに標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光等が採用される。
【0028】
図2に、マルチモード光ファイバ15の入射端15aに入射されるレーザ光のスポットを示す。図中、符号Laは入射されるレーザ光のスポットを、符号151は光ファイバのクラッドを、符号152がコアをそれぞれ示す。コア152は、クラッド151に比して屈折率が高く設計されており、光は全反射によってコア内に閉じ込められた状態で伝搬する。なお、ここでは、コア152の断面形状を矩形とした場合を例に説明するが、コア152の断面形状は円形や楕円形であってもよい。
【0029】
コア152の大きさ(面積)は、入射スポットLaの大きさ(面積)に比して十分大きくされており、レーザ光はコア152の一部領域に入射される。コア152の大きさは、例えば10〜500μm四方であり(以下では、20μm四方であるものとして説明する)、入射スポットLaの大きさは、例えば数μm径である。
【0030】
レーザ光の入射スポットLaの大きさは十分に小さいため、マルチモード光ファイバ15より前の光学経路においてずれが生じたとしても、入射スポットLaがコア152を外れることはない。例えば、光源11とコリメータレンズ12との相対位置が1μm動いても、入射端15aにおける入射スポットLaの移動距離は、数μm程度となるためである。
【0031】
図3に、マルチモード光ファイバ15の出射端15bから出射されるレーザ光のスポットを示す。図中、符号Lbは出射されるレーザ光のスポットを示す。
【0032】
マルチモード光ファイバ15に入射したレーザ光は、コア内を多くのモードに分かれて伝搬し、あるモードはコア中を真っ直ぐ最短距離で進み、あるモードは反射を繰り返しながら遠回りして進む。このため、入射端15aのコア152の一領域に入射されたレーザ光は、コア中を拡がりながら進み、出射端15bではコア152の全領域に均一に拡がった出射スポットLbとして出射される。
【0033】
レーザ光の出射スポットLbが入射スポットLaよりも拡大されていることで、出射端15bから出射されたレーザ光を、集光レンズ142によって微小粒子Pに集光、照射する際に、集光レンズ142の光学倍率を低く設定できる。例えば、上記のようにコア152の大きさが20μm四方である場合、出射端15bでのレーザ光の出射スポットLbのサイズも20μm四方である。このため、サンプル流S上での光の照射スポットサイズを例えば従来装置と同程度の20μmとする場合、出射端15bから出射されたレーザ光は、集光レンズ142により光学倍率1倍程度でサンプル流S上に投射できる(図1参照)。
【0034】
このように集光レンズ142の光学倍率を低く設定することで、サンプル流Sより前の光学経路においてずれが生じた場合にも、サンプル流S上での光の照射スポットが、サンプル流Sを外れることを防止できる。例えば、マルチモード光ファイバ15の出射端15bと集光レンズ142との相対位置が1μm動いても、サンプル流Sにおけるレーザ光の照射スポットの移動距離も、1μmとごく小さくなるためである。なお、ここでは、集光レンズ142により等倍でレーザ光をサンプル流S上に投射する場合を説明したが、必要に応じ、光学倍率が高くなり過ぎない範囲で拡大、又は縮小してもよい。
【0035】
図4(B)に、サンプル流S上の照射スポットの光強度分布を模式的に示す。図4(A)に示すように、マルチモード光ファイバ15の出射端15bから出射され、集光レンズ14光を経たレーザ光Lbは、フローセル内やマイクロチップ上に形成された流路内を通流するサンプル流S中の微小粒子Pに照射されている。
【0036】
既に説明したように、マルチモード光ファイバ15に入射したレーザ光は、コア内を多くのモードに分かれて伝搬し、コア中を拡がりながら進む。そのため、入射端15aのコア152の一領域に入射されたレーザ光は、出射端15bではコア152の全領域に均一に拡がった出射スポットLbとして出射される。従って、サンプル流S上の照射スポットの光の断面強度は、図4(B)に示すように、出射端15bにおけるコア152形状(ここでは矩形)で均一に分布する。この断面強度分布は、入射端15aにおけるレーザ光の入射スポットLaの位置によらず、常に均一である。
【0037】
このように、サンプル流S上の照射スポットの光の断面強度を均一な分布とすることで、サンプル流S上の照射スポット位置やサンプル流Sの送流位置に仮にずれが生じたとしても、微小粒子Pに照射される光の実効強度が大きく低下することがなくなり、検出信号の減衰を抑制できる。
【0038】
以上のように、本発明に係る微小粒子分析装置の光照射経路では、入射端15aへ入射するレーザ光のスポットサイズを均一に拡大して出射端15bから出射させることで、集光レンズ142の光学倍率を低く設定し、光学経路のずれによる、サンプル流S上でのレーザ光の照射スポット位置の移動を抑制できる。
【0039】
従って、本発明に係る微小粒子分析装置では、光照射経路を構成する光源やレンズ等の相対位置の微小なずれに起因するサンプル流上の照射スポットの位置ずれを抑制し、微小粒子に対して高精度に光を照射して、安定した測定性能を得ることが可能である。
【0040】
さらに、入射端15aにおけるレーザ光の入射スポットLaの大きさはコア152に対して十分に小さくできるため、レーザ光が入射端15aでコア152から漏れ出すことがなく、常に均一な断面強度分布でサンプル流S上にレーザ光を照射できる。
【0041】
従って、サンプル流S上の照射スポット位置やサンプル流Sの送流位置に仮にずれが生じたとしても、微小粒子Pに照射される光の実効強度が大きく低下するのを防止し、検出信号の減衰を抑制できる。
【0042】
2.第二実施形態に係る微小粒子分析装置
図5に、本発明の第二実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路の一部を模式的に示す。光照射経路のうち図示しない部分及び光検出経路は、第一実施形態に係る微小粒子分析装置と同様の構成とできる。従って、ここでは説明を省略する。
【0043】
一般に、マルチモード光ファイバに単一縦モード又はこれに準ずる可干渉性を有する光を入射すると、出射される光の断面強度分布に「スペックル」と称される強度ムラが現れることが知られている。スペックルは、マルチモード光ファイバへのレーザ光の入射位置が固定されている場合に、コア内を伝播する各モードの伝搬経路も固定されてしまうことに起因して発生する。スペックルを有する出射光を照射すると、照射スポットに、図11に示すような、「スペックルパターン」と称されるランダムな強度ムラが生じる(図中、点線円で囲った領域参照)。
【0044】
本実施形態に係る微小粒子分析装置は、このスペックルパターンを除去するため、マルチモード光ファイバ15の入射端15aにおけるレーザ光の入射位置を、経時的に変化させる光偏向手段を備えることを特徴としている。
【0045】
図5を参照して具体的に説明する。光源からのレーザ光は、ミラー16に反射され、集光レンズ141によってマルチモード光ファイバ15の入射端15aに入射される。このとき、ミラー16の角度を、光偏向手段として構成されたアクチュエータ(不図示)によって、図中矢印R方向に変化させることにより、レーザ光の反射方向を変えることができる。そして、反射角度が変化するレーザ光を、集光レンズ141によって入射端15a上の焦点面に集光することによって、入射端15a上の入射スポットLaの位置をコア151内において変化させることができる(図中、ブロック矢印参照)。
【0046】
さらに、ミラー16の角度をアクチュエータによって一定の周期であるいはランダムに切換えることで、入射端15a上のコア151内を周期的にあるいはランダムに移動する入射スポットLaを得ることができる。なお、アクチュエータには、電磁コイルやピエゾ素子等が採用される。
【0047】
このように、入射端15a上における入射スポットLaの位置を経時的に移動させることで、コア内を伝播する各モードの伝搬経路を常に変化させ、図6に示すように、出射される光の断面強度分布を時間的に平均化して、照射スポットのスペックルパターンを除去することが可能となる(図中、点線円で囲った領域参照)。
【0048】
図7に、本発明の第二実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路の変形例の一部を模式的に示す。光照射経路のうち図示しない部分及び光検出経路は、第一実施形態に係る微小粒子分析装置と同様の構成とできる。従って、ここでは説明を省略する。
【0049】
光源からのレーザ光は、光偏向手段として構成された音響光学偏向器17に入射される。音響光学偏向器17に入射したレーザ光は、音響光学偏向器17内のブラッグ回折格子により回折され、スリット18を透過した一次回折光が、集光レンズ141によって入射端15a上の焦点面に集光される。図中、符号θは、一次回折光の回折角度を示している。
【0050】
このとき、音響光学偏向器17に印加する音波の周波数を変化させることにより、一次回折光の回折角度θを変えることができる。そして、回折方向(角度θ)が変化するレーザ光を、集光レンズ141によって入射端15a上の焦点面に集光することによって、入射端15a上の入射スポットLaの位置をコア151内において変化させることができる(図中、ブロック矢印参照)。
【0051】
さらに、音響光学偏向器17に印加する音波の周波数を周波数制御部171によって一定の周期であるいはランダムに切換えることで、入射端15a上のコア151内を周期的にあるいはランダムに移動する入射スポットLaを得ることができる。なお、音響光学偏向器17は、電気光学偏向器であってもよい。この場合、周波数制御部171に代えて、電気光学偏向器に印加する電圧値を一定の周期であるいはランダムに切換える電圧値制御部を設け、一次回折光の回折角度θを変化させる。
【0052】
このように、入射端15a上における入射スポットLaの位置を経時的に移動させることで、コア内を伝播する各モードの伝搬経路を常に変化させ、図6に示したように、出射される光の断面強度分布を時間的に平均化して、照射スポットのスペックルパターンを除去することが可能となる(図中、点線円で囲った領域参照)。
【0053】
以上のように、本発明に係る微小粒子分析装置の光照射経路では、入射端15a上における入射スポットLaの位置を経時的に移動させることで、サンプル流S上にスペックルパターンのない均一な断面強度分布を有する照射スポットを形成できる。
従って、本発明に係る微小粒子分析装置では、照射スポット中の微小粒子Pの通流位置によらず、一定強度のレーザ光を微小粒子Pに照射して、検出信号強度のばらつきを抑制することが可能となる。
【0054】
3.第三実施形態に係る微小粒子分析装置
図8に、本発明の第三実施形態に係る微小粒子分析装置の光照射経路の一部を模式的に示す。光照射経路のうち図示しない部分及び光検出経路は、第一実施形態に係る微小粒子分析装置と同様の構成とできる。従って、ここでは説明を省略する。
【0055】
本実施形態に係る微小粒子分析装置は、光偏向手段として音響光学偏向器17を有し、波長域の異なる複数の光源を備えることを特徴としている。
【0056】
各光源からの発せられた波長域の異なるレーザ光は、ミラー13によって回折効率がそれぞれ最大となる入射角度で音響光学偏向器17に入射される。音響光学偏向器17に入射したレーザ光は、音響光学偏向器17内のブラッグ回折格子により回折され、スリット18が一次回折光を透過させる。このとき、各レーザ光の一次回折光は、その波長域によって異なる回折角度で出射される。符号143,143で示す一対のレンズ及び符号19で示すプリズムは、音響光学偏向器17から異なる回折角度で出射されてくる各レーザ光の一次回折光を同軸上に配置するために機能する。
【0057】
すなわち、スリット18を挟んで配設された一対のレンズ143,143は、音響光学偏向器17と共役面を作る。プリズム19は、この共役面に配され、音響光学偏向器17から異なる回折角度で出射されてくる各レーザ光の一次回折光の方向を一致させて集光レンズ141に導光する。これにより、集光レンズ141の焦点面であるマルチモード光ファイバ15の入射端15a上に、各光源からの発せられた波長域の異なるレーザ光を集光できる。
【0058】
そして、音響光学偏向器17に印加する音波の周波数を周波数制御部171によって一定の周期であるいはランダムに切換えることで、入射端15a上のコア内を周期的にあるいはランダムに移動する入射スポットLaを得ることができる。
【0059】
このように、音響光学偏向器17と共役面を作る一対のレンズ143,143及びプリズム19を設けることで、波長域の異なる複数の光源を用いる場合にも、入射端15a上における入射スポットLaの位置を経時的に移動させて、出射される光の断面強度分布を時間的に平均化することが可能となる。
【0060】
本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。これら変更例または修正例は、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、意図した効果を減縮することもない。すなわち、これら変更例または修正例は、特許請求の範囲によって包含されているものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る微小粒子分析装置は、マルチモード光ファイバを用いて光照射経路を構成することで、光源やレンズ等の相対位置の微小なずれに起因するサンプル流上の照射スポットの位置ずれを抑制し、微小粒子に対して高精度に光を照射して、安定した測定性能を得ることができる。従って、本発明に係る微小粒子分析装置は、マイクロチップの取り替えの都度に光照射経路のずれが起こり易いマイクロチップ型微小粒子分析装置として特に有用に用いられる。また、汎用デバイスであるマルチモード光ファイバを用いることで、装置の製造コストを抑えることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
11 光源
12 コリメータレンズ
13 ミラー
141,142 集光レンズ
15 マルチモード光ファイバ
151 コア
152 クラッド
16 ミラー
17 音響光学偏向器
171 周波数制御部
18 スリット
19 プリズム
21 対物レンズ
22 波長フィルタ
23 検出器
La 入射スポット
Lb 出射スポット
S サンプル流
P 微小粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
光源からの光をマルチモード光ファイバの一端に集光する第一の集光レンズと、
マルチモード光ファイバの他端から出射される光を微小粒子に集光する第二の集光レンズと、
光の照射により微小粒子から発生する光を検出する検出器と、
を備える微小粒子分析装置。
【請求項2】
前記光源からの光の前記マルチモード光ファイバ端における入射位置を、経時的に変化させる光偏向手段を備える請求項1記載の微小粒子分析装置。
【請求項3】
前記光偏向手段が、前記光源からの光を回折させる音響光学偏向器として構成され、
前記音響光学偏向器に周波数を切換えて音波を印加する制御手段を備える請求項2記載の微小粒子分析装置。
【請求項4】
前記光偏向手段が、前記光源からの光を回折させる電気光学偏向器として構成され、
前記電気光学偏向器に電圧値を切換えて電圧を印加する制御手段を備える請求項2記載の微小粒子分析装置。
【請求項5】
前記マルチモード光ファイバの光出射端におけるコアの断面形状が、円形又は矩形に形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の微小粒子分析装置。
【請求項6】
光源からの光をマルチモード光ファイバの一端に集光し、他端から出射される光を微小粒子に集光、照射して、微小粒子から発生する光を検出する手順を含む微小粒子分析方法。
【請求項7】
前記手順において、前記光源からの光の前記マルチモード光ファイバ端における入射位置を、経時的に変化させる請求項6記載の微小粒子分析方法。
【請求項8】
前記手順において、印加する音波の周波数を経時的に変化させた音響光学偏向器により、前記光源からの光を回折させて前記マルチモード光ファイバの一端に集光する請求項7記載の微小粒子分析方法。
【請求項9】
前記手順において、印加する電圧の電圧値を経時的に変化させた電気光学偏向器により、前記光源からの光を回折させて前記マルチモード光ファイバの一端に集光する請求項7記載の微小粒子分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−13690(P2012−13690A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136986(P2011−136986)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(511151053)アイサイト ミッション テクノロジー インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】iCyt Mission Technology, Inc.