説明

微小電気化学検出器

【課題】電極上面及び側面においてレドックスサイクルを発生させることが可能な作用電極を有し、低濃度の検体物質に対しても高い検出感度を有する微小電気化学検出器を提供すること。
【解決手段】電極の膜厚を、ミクロンオーダの厚さとする。すなわち、電極上部面は従来の微小間隙で隔てられた複数の電極構造と同じとし、側面部分に膜厚に等しい幅の電極を電極間隙で隔てて対峙した構造を付加する。従来のくし形薄膜電極に比べて電極面積が約3倍になっている。このことにより、従来の平面型電極でも得られていた電極上面間で発生するレドックスサイクルに加えて、電極側面間で新たに発生するレドックスサイクルにより電流を増加させることができる。さらに、電極間隙と同等の厚膜電極が互いに対峙するように配置されるため、一方の電極側面で酸化又は還元された検体物質が電極上部周辺のバルクへ拡散し難く、もう一方の電極で捕捉され易い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小電気化学検出器に関し、より詳細には、電気化学分析やフローセルあるいは液相クロマトグラフィの検出器などに用いられる微小電気化学検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学的手法を用いて分析を行う場合、検体試料溶液に作用電極、参照電極、対向電極を浸漬し、ポテンシオスタットなどの装置を接続して行われており、その原理は、検体物質が作用電極上で電気化学的に反応した際に生じる電流値が検体物質の濃度に比例することに基づいている。しかし、電気化学反応により電極付近の検体物質を消費するに従い、電流値は減少するため、検体物質が低濃度の場合、検出が困難であった。この問題を解決する方法として、2つの作用電極を微小間隙隔てて配置し、一方の電極で検体物質を酸化し、もう一方の電極で酸化した物質を還元して元の物質に戻すという方法が知られている。この方法では、検体物質の消費を抑え、かつ、2つの電極間で酸化と還元を繰り返させることにより検出感度を向上させることができる。この典型的な例としては、2つの作用電極がかみ合ったくし形電極がある(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、絶縁基板上に半導体の微細加工を用いて、例えば、図1(a)、(b)に示すような作用電極1、2がかみ合ったくし形の薄膜電極を絶縁基板に形成したものである。図2に、2つの作用電極を有するくし形電極のシングルモード特性とデュアルモード特性を示す。シングルモードは、一方の電極にのみ電位を印加するのに対し、デュアルモードは、一方のくし形電極に検体物質に対する酸化電位を印加し、もう一方のくし形電極に還元電位を印加する。これによりデュアルモードでは、酸化と還元を繰り返す、いわゆるレドックスサイクルが起こり、図2に示すように電流を増加させて検出感度を向上させることができる。
【0003】
【非特許文献1】Journal of Electroanalytical Chemistry and Interfacial Electrochemistry, 1988, Vol. 256, pp. 269-282
【非特許文献2】Journal of Electroanalytical Chemistry and Interfacial Electrochemistry, 1989, Vol. 267, pp. 291-297
【非特許文献3】Biosensors and Bioelectronics, 2004, Vol. 20, pp. 887-894
【非特許文献4】Analytical Chemistry, 1990, Vol. 62, pp. 447-452
【非特許文献5】A. Tanaka et al., J. Vac. Sci. Tech, 1989, B7(3), pp. 572-575
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、くし形電極を一例とする従来の複数の作用電極を有するパターン状薄膜電極では、電極面と電極間隙面が図1(b)のようにほぼ同一面上にあり、一方の電極で発生した酸化体がもう一方の電極に到達せずに、バルクの溶液へ拡散してしまう。そのため、酸化された検体物質がどの程度還元されたかを示す捕捉率が100%とならず、電流の増加が抑制されてしまうという課題があった。この課題を解決する1つの方法としては、図1(a)、(b)の構成のまま電極間隙を極めて微小にしていくことが考えられるが、そのためには、極めて高度な加工技術や高価な加工装置が必要となり、経済的な面で大きな不利益が生じる。又は、2つの電極を同一平面に配置するのではなく、段差を有する基板上に立体的に配置することによって電極間隙を小さくする方法も提案されている(非特許文献2参照)。しかし、どちらの方法にしても、電極間隙が小さくなるほど、検体物質などが電極間に堆積して電極間がショートし、測定不能になり易いという課題があった。
【0005】
一方、電極同士を対峙させてレドックスサイクルを向上させようとする方法(非特許文献3参照)も知られている。しかし、電極は側面だけの構造であり、シリコンのボッシュエッチングによる高アスペクト比の構造作製やその平坦化処理、加えて斜め蒸着をしなくてはならないなど製造工程が複雑になるため、コストや歩留に課題がある。また、電極上部は絶縁体となっていることから、電極上面及び電極間隙上部には電圧印加による電界が生じない。そのため、電極上部周辺では、電気化学反応による検体物質の濃度勾配が形成されず、バルク濃度のままとなってしまう。その結果、対峙する電極側面間で生じた酸化体あるいは還元体が電極上部周辺のバルクへ拡散していまい、レドックスサイクルの効率が低下するという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、電極上面及び側面においてレドックスサイクルを発生させることが可能な作用電極を有し、低濃度の検体物質に対しても高い検出感度を有する微小電気化学検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、複数の作用電極が互いに微小間隙で隔てられて絶縁基板上に対向して配置された電気化学検出器において、前記作用電極の上面が同一平面上及び平行な平面上のいずれかに配置されていると共に、前記作用電極の側面の高さが隣接する前記作用電極間の距離の0.1倍以上であり、前記作用電極の上面及び側面において電気化学反応を生じさせることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された発明は、複数の作用電極が互いに微小間隙で隔てられて絶縁基板上に対向して配置された電気化学検出器において、前記作用電極の上面が同一平面上及び平行な平面上のいずれかに配置されていると共に、前記作用電極の側面の高さが100nm以上であり、前記作用電極の上面及び側面において電気化学反応を生じさせることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の微小電気化学検出器において、複数の前記作用電極が複数のくし形電極をかみ合わせたものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の微小電気化学検出器において、複数の前記作用電極が複数の同心円状の電極からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極上面及び側面でレドックスサイクルを発生させることができるので、平面的には同等の構造を有する複数の薄膜作用電極からなる電気化学検出器に比べ、同じ検体物質の濃度においてより大きな電流を得ることが可能であり、捕捉率も向上させることができる高感度な微小電気化学検出器を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図3(a)に従来の作用電極の断面図を示し、(b)に本発明の実施形態に係る作用電極の断面図を示す。本発明は、これまで図3(a)に示すように100nm程度であった電極の膜厚を、図3(b)に示すようなミクロンオーダの厚さとする。すなわち、電極上部面は従来の微小間隙で隔てられた複数の電極構造と同じとし、側面部分に膜厚に等しい幅の電極を電極間隙で隔てて対峙した構造を付加する。図4(a)に本発明の一実施形態に係るくし形電極の上面図を示し、(b)に断面図を示す。図4(a)のような上面図は、従来のくし形電極と同じであるが、図4(b)の断面を見ると、電極の膜厚が電極幅や電極間隙と同程度となっており、これだけでくし形薄膜電極に比べて電極面積が約3倍になっている。このことにより、従来の平面型電極でも得られていた電極上面間で発生するレドックスサイクルに加えて、電極側面間で新たに発生するレドックスサイクルにより電流を増加させることができる。さらに、電極間隙と同等の厚膜電極が互いに対峙するように配置されるため、一方の電極側面で酸化又は還元された検体物質が電極上部周辺のバルクへ拡散し難く、もう一方の電極で捕捉され易くなっている。
【0014】
図5に、本願発明の一実施形態に係るくし形電極において発生するレドックスサイクルの様子を模式的に示す。ここではくし形電極を例に、電極間隙が極めて微小でなくとも、従来のくし形電極に比べてレドックスサイクルが増大して電流値が増加すると共に、捕捉率が向上する理由を説明する。
【0015】
作用電極1、2の上面部分だけをみると、図2に示した従来のパターン状薄膜電極でのレドックスサイクルと同様な状況となっている。本発明では、これに加えて、作用電極1、2の側面間でレドックスサイクルが生じる。しかも、各作用電極の両側面は、それぞれ隣接する作用電極の側面との間でレドックスサイクルを生じさせる。そのため、電極幅、電極間隙が同じくし形電極において、電極側面の高さも電極幅、電極間隙と同じにすると、電極側面間でレドックスサイクルをほとんど生じさせないくし形薄膜電極に比べて約3倍の電流が得られる。すなわち、電極幅がw、隣接する酸化電位を印加される作用電極の歯と還元電位を印加される作用電極の歯との電極間隙がg、電極側面高さがhであったとすると、まず、上面はこれまでのくし形薄膜電極と同じであるので、電極幅w、電極間隙gのくし形電極とみなせる。一方、このくし形電極は、側面高さhで、電極間隙gの対峙する電極が整列しているので、これら上面と側面の領域を合わせてくし形電極とみなすことができる。しかも、歯の数がm対だとすると、側面同士で形成されるくし形電極の歯の数は(2m−1)対となるので、hとwが同じ場合には、上面でのくし形電極のほぼ2倍の電流が得られる。したがって、本発明のくし形厚膜電極全体では、電極幅、電極間隙が同じくし形薄膜電極の約3倍の電流が得られる。
【0016】
より正確には、電極幅w、電極間隙g、電極高さh、電極長b、歯の数m対のくし形電極の場合、得られる電流量は次式で表される。
i=ip+is (1)
p=2mbnFDCK(1−p)/K(p)
p=4S/{(1+S)(1+S)}、 S=sin(πg/2(w+g))
s=(2m−1)(bh)nFDC/g
【0017】
ここで、ipは平面くし形電極による電流、isは対峙する電極側面による電流、nは電子移動反応に含まれる電子の数、Fはファラデー定数、Dは電気化学反応をする物質の拡散係数、Cは電気化学反応をする物質のバルク濃度、K()は第一種楕円積分である。
【0018】
さらに、図4(a)に示すように、電極上面は全て同一平面上に配置されているのに対し、電極側面は互いに対向するように配置されているため、隣接する2つの電極間で電気力線が直線となり、検体物質がバルクへ拡散しにくくなっていると考えられる。但し、電極上面は、全て同一平面上になくてもよく、絶縁基板からの高さが異なる平行な平面上にそれぞれ配置されていてもよい。ここで重要なのは、電極側面が電極間隙に対して十分な高さ、すなわち、後述するように作用電極間の間隙の長さの0.1倍以上、又は、100nm以上を有することである。
【0019】
また、図6(a)に、従来の電極上面が絶縁されたくし形電極において発生するレドックスサイクルの様子を模式的に示し、(b)に本願発明の一実施形態に係るくし形電極において発生するレドックスサイクルの様子を模式的に示す。図6(a)の従来のくし形電極は、作用電極1、2が絶縁体13の側面に形成されている。そのため、電極上部の電気化学作用は、電極間隙での電気化学作用に比べて弱くなり、電極間隙上部における酸化体・還元体の濃度勾配と電極間隙における酸化体・還元体の濃度勾配とが一致しない。そのため、電極間隙からバルクへ酸化体又は還元体が拡散し易くなると考えられる。一方、本発明では、図6(b)に示すように、電極間隙上部にも電極上面の電気化学作用による定常的な濃度勾配ができており、これが電極間隙で形成される直線的な濃度勾配と一致するので、検体物質がバルクへ拡散しにくくなることも期待できる。
【0020】
本発明による微小電気化学検出器は、従来の複数の作用電極を有する平面薄膜型の電気化学的検出器に対して、その電極薄膜を作用電極間の間隙の長さの0.1倍以上とすることによって、電極側面間でレドックスサイクルを発生させて測定電流値を増加させるものである。電極間隙は、ミクロンオーダ以上である方が製造は容易になるが、レドックスサイクル数が低下するため、電流の見かけの増加は小さくなる。一方、ミクロンオーダ以下の間隙を有する電極は、製造上難しくなるが、レドックスサイクル数は向上する。また、電極高さと電極間隙の比(アスペクト比)についても、小さい場合は製造上容易となるが、レドックスサイクル数は小さくなり、アスペクト比が大きくなれば、製造上の困難さは増すが、レドックスサイクル数は向上する。
【0021】
本発明による微小電気化学検出器は、その電極膜厚を作用電極間の間隙の長さの0.1倍未満であっても、効果はあるが小さい。例えば、電極膜厚hが電極間隙gの0.1倍のくし形電極の場合、式(1)により側面の電極による増加率は以下のように表される。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、K()は第一種楕円積分であるが、例えば、電極幅と電極間隙が同じくし形電極の場合、K(p)/K(1−p)は2となるので、平面くし形電極に比べて2割ほど電流値が増加することが分かる。これに対し、電極薄膜と電極間隙が同じくし形電極では、h/gが1なので、増加率は3倍となることが分かる。さらに、電極膜厚が電極間隙の2倍で電極幅と電極間隙が同じ場合には、増加率は5倍となる。
【0024】
一方、捕捉率とレドックスサイクル数の関数は、次式で示されることが知られている(非特許文献4)。
レドックスサイクル数=1/(1−φaφb)
ここで、φa、φbはそれぞれアノードからカソードへの捕捉率およびカソードからアノードへの捕捉率である。アノードとカソードが同じ電極幅の場合には、φaとφbは同じとなる。この式を用いて、捕捉率が90%から99%までのレドックスサイクル数を求めると、以下のようになる。
【0025】
【表1】

【0026】
この結果から分かるように、捕捉率が90%以上の場合、捕捉率が1%向上するだけでレドックスサイクル数は大きく向上することが分かる。
【0027】
電極基板としては、表面あるいは全体が絶縁性の基板であれば物質を問わないが、酸化膜付きシリコン基板、石英基板、酸化アルミニウム基板、ガラス基板、プラスチック基板などを挙げることができる。電極用の材料としては金、白金、銀、クロム、チタン、ステンレスなどの金属、p型及びn型シリコン、p型及びn型ゲルマニウム、硫化カドミウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、ガリウムリン、ガリウム砒素、インジウムリン、カドミウムセレン、カドミウムテルル、ニ砒化モリブデン、セレン化タングステン、ニ酸化銅、酸化スズ、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物などの半導体、伝導性カーボンなどの半金属を使用することができる。
【0028】
ここで、本発明の一実施形態に係る微小電気化学検出器の作製工程について説明する。まず、絶縁基板上に蒸着、スパッタ、CVD、または塗布法などを用いて導電性膜を形成する。この導電性膜上にレジストを塗布し、そこに電極のパターンを有する画像マスクを重ね、あるいは電子線などを用いて直接パターンを露光し、現像してパターンをレジストに転写する。パターン転写後、残ったレジストパターンをマスクにして、導電性膜をエッチングし、微小電極を形成する。あるいは、絶縁基板上に厚膜のレジストを塗布し、電極パターンを露光、現像してパターンを形成後、無電解メッキと電界メッキを行い、レジストを除去して微小電極を形成することもできる。さらに、インプリント法やインクジェット法などを用いてメッキのためのパターンを形成して、微小電極を作製したり、導電塗料を利用してパターンを直接形成することも可能である。
【0029】
次に、本発明方法を実施する場合の具体例を以下に説明するが、本発明はこれから実施例に限定されるものでないことは云うまでもない。
【0030】
[実施例1]
図7(a)〜(d)に、本発明の実施形態に係る微小電気化学検出器の作用電極として使用するカーボン膜の製造工程を示す。まず、絶縁基板3である厚さ0.5mmの石英ウェハに接着性を増強するための接着補助材AP−400(東レ社製)をスピナーで塗布、乾燥し、接着補助層4を形成する(図7(a)、(b))。その上に、ポリアミック酸ワニス5(デュポン社製 Pyre−ml)を、500rpm、10sec、1000rpm、50secで塗布し、120℃で1時間過熱・乾燥し、さらに250℃で1時間、窒素ガス雰囲気下で加熱、硬化させる(図7(c))。その後、基板を減圧・過熱可能な石英管を有する電気炉中に設置し、マイナス3乗トール台の減圧下で、室温から1000℃まで昇温して炭化させる。
【0031】
このようにして製造したカーボン膜6は、約4.5μmの厚さをもち、表面低数十〜百数十オームの導電性を有することができる(図7(d))。
【0032】
図8(a)〜(i)に、本発明の実施形態に係る微小電気化学検出器で使用するカーボンくし形電極の作製工程を示す。カーボン膜6が形成された基板に酸素ドライエッチング耐性のあるシリコン含有ポジ型レジスト7(非特許文献5参照)を塗布し(図8(a)、(b))、紫外線マスクアライナ(キャノン製 PLA−600F)により、くし形電極パターンが残るようなマスクパターン8(パターン部が黒、電極幅10μm、間隙5μm、歯の長さ2mm)を通して露光する(図8(c)、(d))。次に、東京応化製NMD-W現像液にて、50秒現像、その後水洗、乾燥する(図8(e))。
【0033】
レジストパターンを形成した基板を、酸素ドライエッチング装置(アネルバ製DEM451)中に設置し、酸素圧10Pa、100sccm、70Wの条件で30分ドライエッチングして、レジストパターンのくし形を残してドライエッチングする(図8(f))。さらに、くし形部とパッド部をパッシベーションマスク12で露出させ、他の部分を保護、絶縁する形に、パッシベーション用レジスト11(東京応化製 OFPR−800LB)によるパッシベーションを形成(図8(g)〜(i))、くし形カーボン電極チップを製造する。
【0034】
この方法により、電極幅10μm、電極間隙5μm、電極高さ4.5μm、1本の歯の電極長2mm、歯数65対である、図4に示すようなくし形電極を製造することができた。このようにして、数μm程度の厚膜の高導電性のミクロパターンを容易に得られる。
【0035】
[実施例2]
実施例1においてカーボン膜4を酸素ドライエッチングによりパターニング後、シリコン含有ポジ型レジストを剥離せずに200℃で1時間過熱することにより、溶媒に不溶化した。その後、実施例2と同様にパッシベーションを形成した。その結果、上面が絶縁膜で覆われ、側面だけが導電性を有する電極となる厚膜くし形電極が得られた。電極をポテンシオスタットに接続するためのパッド部分は、硬化したレジストを機械的に剥離させることにより導通を実現することができる。
【0036】
以下、実施例1、2のIDA電極の特性について検証した結果を説明する。
【0037】
フェロセニルメチルトリメチルアンモニウムブロマイド(東京応化製 水溶性フェロセン)を0.15Mのリン酸緩衝液(インビトロジェン社製)に濃度が1mMとなるように溶解し、試料溶液とした。実施例2で製造したカーボンくし形電極およびAg/AgCl参照電極、Ptワイヤ対向電極を、上記試料溶液を入れたセルに設置し、デュアルポテンシオスタット(ALS社製 ALS1000)に接続しサイクリックボルタンメトリの測定を行った。電位の範囲は0Vより0.7Vで、掃引速度は10mV/sとした。
【0038】
図9に、シングルモードにおける、くし形電極のサイクリックボルタンメトリの結果を示す。これは、実施例1で製造したくし形電極の内の一方のみを働かせた場合のシングルモードでの測定結果と、電極膜厚以外は同じ形状であって、電極膜厚が100nm未満の薄膜くし形電極での測定結果を示している。本発明の厚膜くし形電極でのピーク電流値が、従来の薄膜くし形電極の2.56μAに比べて、3.2μA程度と大きな値を示すと共に、ピークセパレーションも70mV程度と良好な電気化学反応特性を有している。
【0039】
図10に、デュアルモードにおける、くし形電極のサイクリックボルタンメトリの結果を示す。これは、本発明の厚膜くし形電極及び薄膜くし形電極で、一方の電極を0Vに固定し、もう一方の電極を0Vから0.7Vまで速度10mV/Sで掃引した際の結果を示している。従来の薄膜くし形電極では、限界電流値が9.63μAであった。この値は、非特許文献2の示す理論値の9.76μAに極めて近いものである。また、掃引した電極での限界電流と0Vに保持した電極の限界電流の比である捕捉率は92%であった。
【0040】
一方、本発明の厚膜くし形電極の限界電流は23μAであり、と薄膜くし形電極での電解電流の2.4倍となった。また、式(1)により算出した理論値は2.35μAであり、実験値と理論値とはよい一致を示している。さらに、捕捉率は96%に向上しており、薄膜くし形電極による電流値を差し引いた電極側面だけの捕捉率は99%となった。
【0041】
さらに、実施例2で製造した上面が絶縁膜に覆われた厚膜くし形電極で同様の実験を行ったところ、限界電流は1.35μA、捕捉率は94%であった。
【0042】
以上の結果、本発明の電気化学検出器により、従来より多い電流値と高い捕捉率が得られることが分かった。
【0043】
[実施例3]電解メッキ法での厚膜金IDA電極の製造を含む実施例
厚さ0.5mmの石英ウェハをピラニア洗浄液(硫酸と過酸化水素水50:50の溶液)で洗浄後、純水でリンスし、乾燥した。この基板にスパッタ法により、Ti0.5nm、Au50nmとなるように基板全面にコートした。この基板をMCC Primer 80/20(HMDS)で前処理し、厚膜レジスト(日本化薬製:KMPR1005)を500rpm、10sec、4000rpm、50secで塗布し、100℃のホットプレートで2分間乾燥させた。レジストの厚さは5μmであった。次に、この基板を実施例1と同様に紫外線マスクアライナにより電極パターンを露光し、現像、リンスして歯の長さ2mm、歯の幅10μm、歯と歯の間隔5μm、歯の数65対のくし形電極パターンを得た。
【0044】
この基板を、金メッキ液(田中貴金属製)に浸漬し、厚膜レジストで覆われていない部分に金を析出させた。その後、MEK溶液に浸し、レジストを溶解、除去し、厚膜の金くし形電極を得た。その後、この基板を、Arイオンミリング装置にて、下地のスパッタにより形成したAu薄膜部分を除去できる程度にドライエッチングし、厚膜Auくし形電極とした。これらの工程により、電極幅10μm、電極間隙5μmの実施例1と同じパターンの金くし形電極を得た。
【0045】
この厚膜くし形電極を用いて、実施例1、2と同様にIDA電極の特性について測定を行ったところ、実施例1のカーボン電極と同様の応答が得られた。
【0046】
次に、カーボンくし形電極での作用電極の膜厚変動効果について説明する。
【0047】
実施例1と作用電極の厚み以外が同じ厚膜くし形電極で、作用電極の膜厚をそれぞれ1μm(タイプA)、3μm(タイプB)としたもの、実施例1と同じ2つのくし形の作用電極を組み合わせた電極パターンで、作用電極の形状を電極幅5μm、電極間隙5μm、電極高さ4.5μm、電極長さ2mm、歯の数100対としたもの(タイプC)、タイプCの電極幅を3μm、歯の数を125対としたもの(タイプD)を作製した。その後、これらタイプA〜Dのくし形電極に対して実施例1(タイプ1)と同様の測定をしたところ、下表の結果が得られた。
【0048】
【表2】

【0049】
ここで、電流値Sはシングルモードの電流値、電流値Dはデュアルモードの電流値である。この結果から、電極高さが高くなるほど、および、電極幅を狭めて電極間隙の数が増えるほど電流量が増すことが分かる。
【0050】
[実施例4]
実施例1において、くし形電極のパターンのかわりに同心円状にかみ合った電極パターンのマスクを用いて露光した。電極幅5μm、電極間隙5μm、電極厚5μmで最内の円形電極の直径は30μm、最外のドーナツ状電極の直径は2mmで、50対の同心円状電極が交互にかみ合った電極を作製した。
【0051】
この電極を用いて他の実施例と同様の測定を行ったところ、シングルモードでの電流値2.98μA、デュアルモードでの電流値25.5μAとなった。一方、電極膜厚が100nm以下の同じ形状の同心円電極では、シングルモードでの電流値が2μA、デュアルモードでの電流値は9.18μAであった。
【0052】
ここでは、同心円状の各作用電極の電極幅は一定としたが、フレネルゾーンプレートのように、最内の円形電極の電極幅を最も広くし、外側の電極ほど電極幅を狭くしたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)は従来の薄膜くし形電極の上面図であり、(b)はその断面図である。
【図2】2つの作用電極を有するくし形電極のシングルモード特性とデュアルモード特性を示す図である。
【図3】(a)は従来の作用電極の断面図であり、(b)は本発明の実施形態に係る作用電極の断面図である。
【図4】(a)は本発明の一実施形態に係るくし形電極の上面図であり、(b)はその断面図である。
【図5】本願発明の一実施形態に係るくし形電極において発生するレドックスサイクルの様子を模式的に示して電流増加の仕組みを説明する図である。
【図6】(a)は電極上面が絶縁されたくし形電極において発生するレドックスサイクルの様子を模式的に示し、(b)は本願発明の一実施形態に係るくし形電極において発生するレドックスサイクルの様子を模式的に示して捕捉率向上の仕組みを説明する図である。
【図7】(a)〜(d)に、本発明の実施形態に係る微小電気化学検出器の作用電極として使用するカーボン膜の製造工程を示す図である。
【図8】(a)〜(i)に、本発明の実施形態に係る微小電気化学検出器で使用する厚膜カーボンくし形電極の作製工程を示す図である。
【図9】シングルモードにおける、くし形電極のサイクリックボルタンメトリの結果を示す図である。
【図10】デュアルモードにおける、くし形電極のサイクリックボルタンメトリの結果を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1、2 作用電極
3 絶縁基板
4 接着補助層
5 ポリイミド膜
6 カーボン膜
7 シリコン含有ポジ型レジスト
8 マスクパターン
9 紫外線
10 カーボンくし形電極
11 パッシベーション用レジスト
12 パッシベーションマスク
13 絶縁体
O 酸化体
R 還元体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作用電極が互いに微小間隙で隔てられて絶縁基板上に対向して配置された電気化学検出器において、
前記作用電極の上面が同一平面上及び平行な平面上のいずれかに配置されていると共に、前記作用電極の側面の高さが隣接する前記作用電極間の距離の0.1倍以上であり、前記作用電極の上面及び側面において電気化学反応を生じさせることを特徴とする微小電気化学検出器。
【請求項2】
複数の作用電極が互いに微小間隙で隔てられて絶縁基板上に対向して配置された電気化学検出器において、
前記作用電極の上面が同一平面上及び平行な平面上のいずれかに配置されていると共に、前記作用電極の側面の高さが100nm以上であり、前記作用電極の上面及び側面において電気化学反応を生じさせることを特徴とする微小電気化学検出器。
【請求項3】
複数の前記作用電極が複数のくし形電極をかみ合わせたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小電気化学検出器。
【請求項4】
複数の前記作用電極が複数の同心円状の電極からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小電気化学検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−210362(P2009−210362A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52679(P2008−52679)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【出願人】(502091722)ビーエーエス株式会社 (1)