説明

微生物による環状アミノ酸の製造法

【課題】医農薬化合物を創製する際の合成原料または中間体として重要な光学純度の高い環状アミノ酸を、簡便で安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】式(I)


[式(I)中、Xは、直鎖または分枝鎖のC1−C6炭化水素鎖を表す]で示されるL−ジアミノ酸を、式(II)


で示される環状アミノ酸に変換する活性を有するパラコッカス属に属する微生物を用い、式(I)のL−ジアミノ酸から式(II)で示される環状アミノ酸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬化合物を創製する際の合成原料または中間体として重要な、光学活性環状アミノ酸の微生物を用いる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬理活性を有する化合物の創製において、環状アミノ酸である(S)−ピペコリン酸や(S)−3−モルホリンカルボン酸等を分子内に含んだ化合物や、環状アミノ酸を合成中
間体または原料として利用した例は多い(非特許文献1、特許文献1〜8参照)。従って、光学純度の高い光学活性環状アミノ酸である(S)−ピペコリン酸、(S)−3−モル
ホリンカルボン酸、(R)−3‐チオモルホリンカルボン酸、5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸等は、合成医農薬品の原料として有用な化合物である。
【0003】
【化3】

従来の光学活性(S)−3‐モルホリンカルボン酸を製造する方法としては、
光学活性アジリジン−2−カルボン酸誘導体を出発物質として、3段階の合成反応(2−クロロエタンの付加、ベンジル基の脱離およびトリエチルアミン環化剤として使用する環化反応)を経て製造する方法(非特許文献2、3参照)、
L−セリン誘導体から5段階の合成反応を経て製造する方法(非特許文献4参照)、
ジアミノ酸等からα位のアミノ基を脱アミノ化して1位に二重結合をもつ環状アミノ酸を生成する酵素(たとえばアミノ酸オキシダーゼ)と、シュードモナス属の微生物等から得られるN−メチル−L−アミノ酸デヒドロゲナーゼとを用いた酵素反応によって、L−4−オキサリジンから中間体の上記環状アミノ酸を経て(S)−3−モルホリンカルボン酸を製造する方法(特許文献9参照)が知られている。
【0004】
また、光学活性(S)−ピペコリン酸(L−ピペコリン酸と表記されることもある。)を製造する方法としては、
L−リジンやその誘導体を出発物質として、亜硝酸ナトリウムによるα位アミノ基のジアゾ化および水酸化バリウムや水酸化ナトリウムを環化剤として用いる環化反応によって(S)−ピペコリン酸を製造する方法(非特許文献5、特許文献10参照)、
L−α−アミノカプロン酸のε位にエチレンアセタールを持つ化合物を酸性条件下で還元して(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献11参照)、
前述のようにシュードモナス属の微生物から得られるN−メチル−L−アミノ酸デヒドロゲナーゼなどを用いた酵素反応によってL−リジンからから(S)−ピペコリン酸を製
造する方法(特許文献9参照)、
アルカリゲネス属、プロデンシア属、プロテウス属、バチルス属、アグロバクテリウム属、モルガネラ属、プラノコッカス属の何れかに属する微生物を用いて菌体反応によってL−リジンから(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献12参照)、
フラボバクテリウム属の微生物等が有するリジン−6−アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子(lat)と大腸菌やコリネ型細菌等が有するピロリン−5−カルボン酸レ
ダクターゼをコードする遺伝子(proC)とが導入された組換え大腸菌を用いた培養変換によって、あるいはそのような組換え大腸菌の菌体破砕液を用いて、L−リジンからデルタ−1−ピペリデイン−2−カルボン酸を経て(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献13参照)、
アグロバクテリウム属の微生物が有するオルニチンシクロデアミナーゼまたはこれと相同のストレプトミセス属の微生物が有する酵素を用いた酵素反応により、あるいはこれらの酵素をコードする遺伝子(ocd、pipA、rapL)が導入された組換え大腸菌の菌体破砕液
を用いて、L−リジンから(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献14参照)、
ノイロスポラ属、シュードモナス属、大腸菌及びメタノール資化性菌などの微生物起源の、または豚腎などの動物起源のD−アミノ酸オキシダーゼと水素化ホウ素等の還元剤とを、D−またはDL−ピペコリン酸に作用させ、D−ピペコリン酸からΔ1−ピペリデイ
ン−2−カルボン酸への選択的な酸化と還元剤によるラセミ体の生成反応との共役反応により(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献15参照)、
N−保護−D−ピペコリン酸誘導体を加水分解しうる酵素(D−アミノアシラーゼ)を用いた酵素反応により、または当該酵素を含有するアルスロバクター属の微生物を用いた菌体培養により、ラセミ体ピペコリン酸誘導体から(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献16参照)、
アルカリゲネス属の微生物が有するN−アシル−ピペコリン酸アシラーゼを用いた酵素反応による、N−アセチル−(R,S)−ピペコリン酸の立体選択的な加水分解により(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献17参照)、
シュードモナス属またはクレブシエラ属の微生物を用いた菌体反応により、あるいはこれらの微生物に含まれるS−アミノ酸アミダーゼを用いた酵素反応により、(R,S)−ピペコリン酸アミドから(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献18参照)、
(±)−ピペコリン酸を溶媒中で光学分割剤としてのS−(−)−2−フェノキシプロピオン酸と反応させ、生成した難水溶性のS−(−)−ピペコリン酸・S−(−)−2−フェノキシプロピオン酸塩を回収し、これを酸で複分解することにより光学的に純粋なS−(−)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献19参照)、
ハロゲン基を側鎖末端に有し、アミノ基がアセチル基等で保護されたアミノ酸誘導体(たとえば比較的安価なアセタミドマロン酸ジエチルから4段階の合成反応を経て得られるN−アセチル−2−アミノ−6−ブロモヘキサン酸)のラセミ体溶液に、アスペルギルス属の微生物が有するL−アミノアシラーゼを添加し、L−エナンチオマー特異的作用による脱アセチル化を行う酵素反応および分子内環化によって(S)−ピペコリン酸を製造する方法(特許文献20参照)が知られている。
【0005】
光学活性(R)−3−チオモルホリンカルボン酸を製造する方法としては、有機合成による方法(非特許文献2、3参照)や、L−4−チアリジンから酵素反応或いは菌体破砕液によって製造する方法(特許文献9、14参照)が知られている。
【0006】
5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸を製造する方法としては5−ヒドロキシ−DL−リジンから酵素反応或いは菌体破砕液によって製造する方法(特許文献9、14参照)が知られている。
【特許文献1】国際公開第02/83624号パンプレット
【特許文献2】国際公開第02/85860号パンプレット
【特許文献3】国際公開第2004/74291号パンプレット
【特許文献4】国際公開第2004/92167号パンプレット
【特許文献5】国際公開第2005/108359号パンプレット
【特許文献6】米国特許第7169780号
【特許文献7】米国公開2002−0099047号
【特許文献8】米国公開2004−0152745号
【特許文献9】特開2005−95167号公報
【特許文献10】特開2004−51606号公報
【特許文献11】特開2008−7480号公報
【特許文献12】日本国特許第3266635号
【特許文献13】国際公開第01/48216号パンプレット
【特許文献14】日本国特許第3943540号
【特許文献15】日本国特許第3135367号
【特許文献16】特表2002−509441号公報
【特許文献17】特表平09−503669号公報
【特許文献18】特開平08−56652号公報
【特許文献19】特開2000−178253号公報
【特許文献20】特開2004−261086号公報
【非特許文献1】J. Med. Chem. , 1995, Vol. 38, p.1853‐1864
【非特許文献2】Bull. Chem. Soc. Jpn. , 1987, Vol. 60, p.2963‐2965
【非特許文献3】Peptide Chemistry , 1986, p.153-156
【非特許文献4】J. Org. Chem. , 2007, Vol. 72, p.4254-4257
【非特許文献5】Chem. Pharm. Bull. , 1976, Vol. 24, p.621-631
【非特許文献6】Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 1967, p.401-406
【非特許文献7】Bull. Soc. Chim. Belg. , 1982, p.713-723
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2〜4記載の化学合成による光学活性(S)‐3‐モルホリンカルボン酸また
は(R)−3−チオモルホリンカルボン酸の製造方法では、各反応終了時に中間体を反応液から取り出す工程が必要であり、操作が煩雑であることから生産コストが高くなる問題点がある。非特許文献5記載の化学合成による(S)−ピペコリン酸の製造方法も反応工程数が多く操作が煩雑であり、特許文献11の製造方法は原料物質がL−リジンのように安価ではないという問題がある。特許文献19記載の光学分割剤を使用する製造方法では光学分割剤が高価であり、また非修飾ピペコリン酸のみを対象としていて(S)‐3‐モルホリンカルボン酸の製造には利用できないという問題がある。
【0008】
また、特許文献9に記載された、酵素反応によってジアミノ酸から(S)‐3‐モルホリンカルボン酸、(S)−ピペコリン酸、(R)‐3‐チオモルホリンカルボン酸、5−ヒド
ロキシ-(S)-ピペコリン酸など製造する方法は、収率が低いことに加え、酵素反応を行うための酵素が高価であったり、酵素の調製を菌体から行う必要があるなど、製造時の工程数増加・製造コスト増という問題がある。特許文献14記載の酵素反応を利用した(S)−ピペコリン酸、(R)−3−チオモルホリンカルボン酸、5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸などを製造する方法も、酵素反応を行うための酵素を遺伝子組み換え大腸菌の菌体破砕などにより調製する必要があり、製造時の工程数増加・製造コスト増という問題があるため、必ずしも満足できるものではない。酵素反応を利用してラセミ体から(S)−ピペコリン酸を製造する特許文献15〜17記載の方法もやはり、酵素の調製が煩雑で製造工程が多いという問題がある。特許文献20記載の方法には、酵素反応の基質となる化合物を有機合成により調製するため工程数が多いという問題もある。
【0009】
さらに、特許文献12に記載された、自然界から分離されたアルカリゲネス属等に属す
る微生物を利用して(S)−ピペコリン酸を製造する方法では、菌体反応に使用する微生物の生産時の培養温度が20℃という低温であり、工業的に製造する場合にはコスト増要因となる。また、この菌体反応における最大生産量も約4.2g/Lと低く工業的に満足できるものではなかった。更に、L−リジン以外のジアミノ酸を原料にして(S)−ピペコリン酸以外の環状アミノ酸を製造することに関する記載が全く無いため、(S)‐3‐モ
ルホリンカルボン酸等の製造に応用できるかどうか不明である。
【0010】
特許文献13記載の遺伝子組換え大腸菌を利用した培養変換による(S)−ピペコリン酸の製造法についても、L−リジン以外のジアミノ酸を原料にして(S)−ピペコリン酸以外の環状アミノ酸を製造することに関する記載が全く無いため、(S)‐3‐モルホリン
カルボン酸等の製造に応用できるかどうか不明である。特許文献18記載のラセミ体ピペコールアミドからシュードモナス属またはクレブシエラ属の微生物を利用した菌体反応による(S)−ピペコリン酸製造方法には光学純度が低いという問題がある。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、自然界から分離された微生物またはその変異株を用いて、微生物変換により工業製法的に効率よく、安価に、各種のジアミノ酸から光学活性環状L−アミノ酸の生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意研究を行った。その結果、本発明者により自然界の種々の分離源から分離された各種の微生物のうち、パラコッカス(Paracoccus)属に属する微生物、その中でもパラコッカス・エスピーAB10292(Paracoccus sp.AB10292)株またはその変異株であるパラコッカス・エスピーAB10302(Paracoccus sp.AB10302)株とパラコッカス属基準株が、各種のジアミノ酸から光学活性環状アミノ酸を生産することを発見し、本発明を完成した。
【0013】
即ち本発明は、
式(I)
【0014】
【化4】

[式(I)中、Xは、飽和のまたは部分的に若しくは全体的に不飽和の、直鎖または分枝鎖のC1−C6炭化水素鎖を表し、該炭化水素鎖は、その内部および/または末端に、O、S、P、Nの内から選択する一個または数個のヘテロ原子またはヘテロ原子団を含んでいてもよく、あるいは、−R、−OR、−SR、=O、−C(O)OR、−C(S)OR、−C(O)NR'R"、−C(S)NR'RR"、−CN、−NO2、−X、−MgX、−NR'R"、
−NR'C(O)R、−SiR及び−SiOR(R、R'及びR"は、同一のまたは相違する
、水素または2〜20の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖の飽和のまたは全体的に若しくは部分的に不飽和の炭化水素基を表す。)の内から選択する一個または数個の同じまたは異なる基によって置換されていてもよく、R'とR"は、それらを有する原子と共に環を形成していてもよい。]で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類を、式(II)
【0015】
【化5】

[式(II)中、Xは式(I)中で規定した通りである。]で示される環状アミノ酸および/またはその塩類に変換する活性を有するパラコッカス属に属する微生物を用い、培養変換或いは菌体反応変換によって、式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類、または式(I)で示されるL−ジアミノ酸および対応するD−ジアミノ酸、それらの塩類を様々な割合で含む鏡像体混合物から、式(II)で示される環状アミノ酸および/またはその塩類を効率よく生産する製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の微生物による環状アミノ酸の製造法は、培養が容易なパラコッカス属に属する微生物またはその変異株を利用して、安価なジアミノ酸から各種の光学活性環状L−アミノ酸への安定した生産・供給を実現するものであり、光学活性環状アミノ酸の製造効率の向上や製造コストの削減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用する式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類、または式(I)で示されるL−ジアミノ酸および対応するD−ジアミノ酸、それらの塩類を様々な割合で含む鏡像体混合物は、市販品を購入して使用することができるし、公知の方法によって微生物による発酵生産物から製造することもできる。
【0018】
たとえば、L−4−オキサリジンであれば、L−4−オキサリジン一塩酸塩(和光純薬工業社製及びAldrich社製)が市販されており、非特許文献6に記載のように、Streptomyces chartreuseまたはStreptomyces erythrochromogenesに属する放線菌を培養し、培養液中
からL−4−オキサリジンおよび/またはその塩類を分離・精製することも可能である。また、新たにL−4−オキサリジン生産微生物を自然界から分離して製造に使用してもよい。発酵生産によってL−4−オキサリジンを製造することで、安価に出発物質としてのL−4−オキサリジンを容易に入手することができる。
【0019】
L−リジン塩酸塩またはL−およびD−リジン塩酸塩混合物、L−4−チアリジン塩酸塩
および5−(R,S)ヒドロキシ−L−および5−(R,S)ヒドロキシ−D−リジン塩酸塩混合物は市販品(和光純薬工業社製など)を購入して使用することができる。
【0020】
本発明の方法で用いられる光学活性環状アミノ酸の生産菌は、パラコッカス属に属する微生物で、光学活性環状アミノ酸を産生する能力を有するものであれば、いかなる微生物でもよい。パラコッカス属に属する微生物としては、例えば、パラコッカス・ヴェルスタス NBRC14567(Paracoccus versutus)、パラコッカス・チオシアネイタス N
BRC14569(Paracoccus thiocyanatus)、パラコッカス・アミノフィルス NBRC16710(Paracoccus aminophilus)、パラコッカス・アミノボランス NBRC1
6711(Paracoccus aminovorans)、パラコッカス・コクリイ NBRC16713(Paracoccus kocurii)、パラコッカス・アルカリフィルス NBRC16719(Paracoccus alcaliphilus)、パラコッカス・セリニフィルス NBRC100798(Paracoccus
seriniphilus)、パラコッカス・コリエンシス NBRC102292(Paracoccus koreensis)、パラコッカス・パントトロフス NBRC102493(Paracoccus pantotrophus)、パラコッカス・デニトリフィカンス NBRC102528(Paracoccus denitr
ificans)、パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)、パラ
コッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)等があげられる。
【0021】
上記パラコッカス属に属する微生物の中で、パラコッカス・エスピー AB10292
(Paracoccus sp. AB10292)株は、本発明者が神奈川県伊勢原市より採取した土壌から新たに分離した菌株である。このAB10292株の菌学的諸性質を次に記載する。
【0022】
(A)形態的特徴
(1)細胞形態:桿菌で大きさは0.1〜1.1×1.1〜2.0μm
(2)ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地上での生育:生育は良好。コロニー形状は円形、隆起状態は半球状、コロニー周縁は全縁状であり、色調は光沢を帯びたクリーム色である。
【0023】
(B)生理生化学的性状
(1)グラム染色: −
(2)OFテスト: −
(3)好気条件での生育: +
(4)嫌気条件での生育: −
(5)生育温度:
10℃ +
27℃ +
37℃ −
(6)カタラーゼ: +
(7)オキシダーゼ: +
(8)ウレアーゼ: −
(9)硝酸塩還元性: +
(10)脱窒反応: −
(11)6%食塩耐性: −
(12)β‐ガラクトシダーゼ: −
(13)アルギニンジヒドロラーゼ: −
(14)L−リジンデカルボキシラーゼ: −
(15)L−オルニチンデカルボキシラーゼ: −
(16)クエン酸の利用性: −
(17)硫化水素産生: −
(18)トリプトファミナーゼ: −
(19)インドール産生: −
(20)アセトイン産生: −
(21)ゼラチナーゼ: −
(22)各種糖から酸の生成:
D−グルコース −
D−マンニトール −
D−ソルビトール −
D−メリビオース −
L−ラムノース −
L−アラビノース −
シュークロース −
ミオ‐イノシトール −
D−アミダグリン −
(23)炭素源の資化性
D−グルコース +
D−キシロース +
D−マンニトール −
D−フルクトース −
シュークロース −
ミオ‐イノシトール −
以上のとおりAB10292株の主性状は、グラム陰性の桿菌で好気条件にて生育し、カタラーゼ、オキシダーゼ、硝酸塩還元性が陽性であり、ウレアーゼ、脱窒反応が陰性であった。
【0024】
さらに16Sリボゾームの塩基配列解析結果から、本菌株はパラコッカス属に近縁の細菌であると考えられた。しかし、表1に示すようにパラコッカス属基準株との相同性の一致率は低いため、16Sリボゾームの塩基配列解析結果から種まで特定することは困難であった。
【0025】
【表1】

そのため、Bergey's manual of Systematic Bacteriology (1984) 及び International
Journal of Systematic Bacteriology 誌を参考にして、上記5菌株とAB10292株との生理・生化学的比較試験を行った。
【0026】
その結果、パラコッカス・デニトリフィカンス NBRC102528(Paracoccus denitrificans)及びパラコッカス・アミノボランス NBRC16711(Paracoccus aminovorans)とはAB10292株が脱窒反応活性を持たない点、37℃での生育ができない点で異なった。
【0027】
パラコッカス・アルカリフィルス NBRC16719(Paracoccus alcaliphilus)とはAB10292株がウレアーゼ活性を持たない点、37℃での生育ができない点で異なり、パラコッカス・セリニフィルス NBRC100798(Paracoccus seriniphilus)とはAB10292株が生育可能なソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地でパラコッカス・セリニフィルス NBRC100798(Paracoccus seriniphilus)が生育できない点から明らかに異なるものであった。
【0028】
パラコッカス・アミノフィルス NBRC16710(Paracoccus aminophilus)とは
硝酸塩還元活性をAB10292株が硝酸塩還元活性を持つ点で異なった。以上の結果から、生理・生化学的性状の比較を行っても種まで特定することは困難であった。
【0029】
従って、本発明者は本菌株をパラコッカス・エスピー(Paracoccus sp.)と同定し、パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)と命名した。なお、この菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所生物寄託センターに寄託申請され、平成20年7月16日、FERM P―21605号として受託されている。
【0030】
ここまで光学活性環状アミノ酸生産菌パラコッカス・エスピー AB10292(Parac
occus sp.AB10292)株について説明したが、一般的には菌類の菌学上の性状は極めて変化しやすく、一定したものではない。菌類は、自然的あるいは通常行われている紫外線照射、X線照射、変異誘発剤(例えば、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジンおよびエチルメタンスルホネート等)または遺伝子組換えを用いる人為的変異手段により変異することは周知の事実である。このような自然変異株ならびに人工変異株も含め、パラコッカス属に属し、光学活性環状アミノ酸を生産する能力を有する菌株はすべて本発明に使用することができる。
【0031】
その具体的な例として、パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株の高濃度L-リジン塩酸塩耐性変異株であるパラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株があげられる。なお、この変異株は、独立行政法人産
業技術総合研究所生物寄託センターに寄託申請され、平成20年7月16日、FERM P―21606号として受託されている。
【0032】
これらの微生物を培養中に、直接ジアミノ酸を培養液に添加させ、ジアミノ酸の大部分が光学活性アミノ酸に変換されるまで培養を行う。これらの微生物を培養して菌体をえた後、ジアミノ酸をふくむ反応液中に菌体を懸濁して、反応させてもよい。また、これらの微生物の突然変異体や遺伝子組換え体あるいはそれらの菌体処理物等を本発明に使用することができる。
【0033】
本発明の培養変換および菌体反応に使用する菌体の生産で使用されるジアミノ酸以外の培地成分としては、炭素源、窒素源、無機塩類、生育因子及び使用する微生物が要求する栄養物質を含有する培地であればいずれであってもよい。炭素源としては、グルコース、キシロース、マルトース、グリセリン、デンプン、デキストリン、水飴、糖蜜、動・植物油等の光学活性環状アミノ酸生産菌が利用可能なものが使用可能である。窒素源としては大豆粉、小麦胚芽、魚粉、コーンスティープリカー、酵母エキス、アミノ酸、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等光学活性環状アミノ酸生産菌が利用可能なものを使用できる。また、必要により微量金属塩、例えばコバルト、鉄、ニッケル、マンガン等を添加できる。また、6‐アミノヘキサン酸のような光学活性環状アミノ酸の生産を促進するような無機および有機物を適当に添加することが出来る。また、硫酸アンモニウムのような無機窒素源を添加しない培地で、且つジアミノ酸を添加しない培地を使用しても菌体反応に使用可能な菌体を生産することができる。
【0034】
本発明の培養変換における培養は好気条件下で、静置培養、振とう培養、攪拌培養等で行う。通常培養温度は15〜40℃の範囲であるが、多くの場合24〜30℃で培養する。培養中のpHは3.0〜8.0の範囲で行なうのが好ましく、必要に応じて培養液中のpH調整を行ってもよいし、炭酸カルシウムのようなpH調整剤を添加してもよい。ジアミノ酸および/またはその塩類は初発に添加してもよいし、培養途中から一度に或いは少量ずつ添加してもよい。培養日数は通常1〜14日間であるが、培養中の光学活性環状アミノ酸蓄積量が最高に達したときに培養を停止し、培養液から生産物を一般的な方法に準じて採取する。これらの培地組成、培地の液性、培養温度、撹拌速度および通気量等の培養条件は、使用する菌株の種類および外部条件等に応じて好ましい結果が得られるように便宜調節あるいは選抜する。液体培養において発泡がある場合はシリコン油、植物油および界面活性剤等の消泡剤を便宜使用する。
【0035】
本発明の菌体反応に使用する菌体の培養は、好気条件下で、静置培養、振とう培養、攪拌培養等で行う。通常培養温度は15〜40℃の範囲であるが、多くの場合24〜30℃で培養する。培養中のpHは3.0〜8.0の範囲で行なうのが好ましく、必要に応じて培養液中のpH調整を行ってもよいし、炭酸カルシウムのようなpH調整剤を添加してもよい。ジアミノ酸や6‐アミノヘキサン酸のような変換活性を増強する物質は、初発に添
加してもよいし、培養途中から一度に或いは少量ずつ添加してもよい。培養日数は通常12時間〜7日間であるが、菌体反応時に環状アミノ酸を変換できる活性を有した微生物が生育したときに培養を停止し、培養液から菌体を一般的な方法に準じて回収する。これらの培地組成、培地の液性、培養温度、撹拌速度および通気量等の培養条件は、使用する菌株の種類および外部条件等に応じて好ましい結果が得られるように便宜調節あるいは選抜する。液体培養において発泡がある場合はシリコン油、植物油および界面活性剤等の消泡剤を便宜使用する。
【0036】
菌体反応は好気条件下で、振とう条件、通気攪拌条件等で行う。通常反応温度は15〜40℃の範囲であるが、多くの場合25〜37℃で反応する。混合液中のpHは3.0〜8.0の範囲で行なうのが好ましく、緩衝液中か或いは必要に応じて反応液中のpH調整を行っても良い。ジアミノ酸は初発に添加しても良いし、反応途中から一度に或いは少量ずつ添加しても良い。また、環状アミノ酸の生産効率を高めるために、培地中にグルコースやキシロース等の糖類、有機酸、アミノ酸、無機塩類、微量元素、界面活性剤等の生産効率を高められる物質を添加して反応を行っても良い。混合日数は通常6時間〜7日間であるが、混合液中の光学活性環状アミノ酸蓄積量が最高に達したときに反応を停止し、反応液から生産物を一般的な方法に準じて採取する。これらの反応液組成、反応温度、撹拌速度および通気量等の混合反応条件は、使用する菌株の種類や使用するジアミノ酸および外部条件等に応じて好ましい結果が得られるように便宜調節あるいは選抜する。液体反応において発泡がある場合はシリコン油、植物油および界面活性剤等の消泡剤を便宜使用する。
【0037】
培養液や菌体反応液からの光学活性環状アミノ酸の精製は通常の方法で行う。具体的な精製方法としては遠心分離装置や膜分離装置または菌体凝集剤で菌体とろ液を分離或いは溶液をアルカリ性にして菌体を溶菌した後、ろ液あるいは溶菌液から光学活性環状アミノ酸をイオン交換樹脂法、電気透析法、カラムクロマトグラフィー法、晶析法などを用いるか、あるいはこれらを組み合わせて精製できる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこの具体例に限定されるものではない。
本実施例では、(S)−3−モルホリンカルボン酸及び(S)−ピペコリン酸の定量分
析及び光学純度分析を以下の方法で実施した。
【0039】
培養液上清或いは混合液上清中の定量分析は高速液体クロマトグラフィーを用い内部標準法にて算出した。分析条件は以下のとおりである。
カラム :YMC社製 Hydrosphere C18(内径4.6mm、長さ25cm)
カラム温度 :40℃
検出器 :UV検出器
測定波長 :410nm
溶媒 :A液;アセトニトリル:水(0.04%リン酸)=35:65
B液;アセトニトリル:水(0.04%リン酸)=80:20
流速 :1.0ml/min
グラジエント:測定開始から5分後までA液100%、30分後にA液80%・B液20%となるよう直線的グラジエントを行い、30分から35分までB液100%で溶媒を流した。
内部標準 :2−アミノエタノール
サンプル調製:測定液1mlに活性炭を10mg添加して1分間よく撹拌し、15000rpmで10分間遠心分離を行って遠心上清を得た。その上清中の(S)−3−モル
ホリンカルボン酸または(S)−ピペコリン酸濃度が1mg/ml以下になるよう蒸留水で
希釈し、その希釈液10μl、0.5mg/ml濃度の2−アミノエタノール溶液(0.1M炭酸水素ナトリウム水溶液)90μl、186mg/ml濃度の2,4−ジニトロフ
ルオエロベンゼン溶液(メタノール溶液)50μl、エタノール400μlを混合撹拌後、室温で1時間放置して誘導体化した。
溶出時間 :(S)−3−モルホリンカルボン酸 13.6(min)
(S)−ピペコリン酸 26.7(min)
2−アミノエタノール 9.9(min)
(S)−3−モルホリンカルボン酸及び(S)−ピペコリン酸の光学純度分析法はキラ
ルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーで行った。分析条件は以下の通りである。
カラム :ダイセル社製 CHIRALPAK WH(内径4.6mm、長さ25cm)
カラム温度 :50℃
検出器 :UV検出器
測定波長 :254nm
溶媒 :0.25mM硫酸銅水溶液
流速 :1.0ml/min
溶出時間 :(R)−3−モルホリンカルボン酸 36.9(min)
(S)−3−モルホリンカルボン酸 43.9(min)
(R)−ピペコリン酸 13.7(min)
(S)−ピペコリン酸 20.7(min)
1H‐および13C‐NMRは特に指示がない限り、重水(D2O)の溶液で、日本電子(株)社
製の核磁気共鳴装置(モデルJNM−LA300)を使用して測定した。
【0040】
[実施例1]
パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株を利用した、培養変換による(S)−3−モルホリンカルボン酸の製造
L−4−オキサリジン一塩酸塩3g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラ
スコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更にその培地中にパラコッカス
・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株をスラントから一白金耳接種した。合計10本の三角フラスコを27℃で3日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。培養終了後、培養液中の(S)−3−モルホリンカルボン酸濃度を測定したところ、375mg/Lであった。
【0041】
この10本の三角フラスコから回収した培養液約1Lを遠心分離により菌体と上清に分けた。その上清に活性炭5gを加えて1時間攪拌した後、ろ紙を使用して活性炭を除去した。そのろ液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(H+型)500mlを充
填したカラムに通過させて(S)−3−モルホリンカルボン酸を吸着させ、更に2Lの脱イオン交換水を通過させてカラムを洗浄した後、2%アンモニア水2.5Lで溶出した。(S)−3−モルホリンカルボン酸を含む溶出液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水250mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液をデュオライトC‐20(NH4+型)250mlを充填したカラムに通過させ、更に2Lの脱イオン交換水でカラムを洗浄して(S)−3−モルホリンカルボン酸を回収した。その通過液と回収液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水80mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液を弱塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA‐368S 80mlを充填したカラムに通過させ
、その後800mlの脱イオン交換水でカラムを洗浄して(S)−3−モルホリンカルボン酸を回収した。
【0042】
上記により得た通過液と回収液を減圧下濃縮し、メタノールを加えて結晶化させた。結
晶をろ別して回収し、乾燥させたところ152mgの白色結晶が得られた。
この結晶のNMR分析における1H-NMRと13C-NMRのケミカルシフト値が、非特許
文献2記載の(S)−3−モルホリンカルボン酸のそれと一致した。
1H-NMR
d (ppm):3.98(1H,dd)、3.77(1H,dt)、3.51‐3.68(3H
,m)、3.17(1H,dt)、3.01(1H,ddd)
13C-NMR
d (ppm):171.3、66.8、64.0、57.7、42.9
また、光学純度を測定するためにHPLC分析を行ったが(R)−3−モルホリンカルボン酸のピークは検出されず、得られた結晶は(S)−3−モルホリンカルボン酸のみであった。
【0043】
[実施例2]
高濃度L‐リジン塩酸塩耐性変異株パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株の調製
SCD液体培地(日本製薬製)にパラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株を一白金耳植菌し、27℃の往復振とう機で18時間培養した。その培養液1mlを0.85%食塩水で10倍に希釈し直径9cmの滅菌シャーレに分注した後、この菌体懸濁液に東芝製GL-15殺菌灯を使用して紫外線を90秒間照射した。
【0044】
L‐リジン一塩酸塩 55g/L、酵母エキス 0.1g/L、塩化ナトリウム 1g/
L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム 1g/L、 塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フ
ラスコに入れたフラスコを1本作成し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更に
、そのフラスコに紫外線を照射した菌体懸濁液10mlを接種して、27℃、回転数180rpmのロータリーシェーカーで7日間好気培養した。
【0045】
L‐リジン一塩酸塩濃度が50g/Lになるよう調整したソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地(日本製薬製)を直径9cmの滅菌シャーレに分注して寒天培地を作成し、ロータリーシェーカーで培養した培養液を塗沫して27℃で培養を行った。寒天上に生育してきたコロニーを分離・選抜して、パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を調製した。
【0046】
[実施例3]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、培養変換による(S)−3−モルホリンカルボン酸の製造
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を用いる以外は実施例1と同様に実施した。培養液中の(S)−3−モルホリンカルボン酸の生産量は501mg/Lであった。
【0047】
[実施例4]
パラコッカス基準株を利用した、培養変換による(S)−3−モルホリンカルボン酸の製造
表2に示したパラコッカス属に属する種々の基準株を用いる以外は実施例1と同様に実施した。各菌株の培養液中の(S)−3−モルホリンカルボン酸の生産量は表2に示すようであった。
【0048】
【表2】

[実施例5]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、菌体反応による(S)−3−モルホリンカルボン酸の製造
6−アミノヘキサン酸7.2g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物
80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコ
に入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、その培地中にパラコッカス・エスピ
ー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株をスラントから一白金耳接種し、27℃で回転数180rpmのロータリーシェーカーで24時間好気培養して前培養液を作成した。
【0049】
次に、65L容ジャファーメンターに6−アミノヘキサン酸7.2g/L、酵母エキス8g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム 1g/L、塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地を30L加え、121℃で25分間蒸気滅菌した。植菌直前に別滅菌したグルコース溶液(300g/L
)をジャファーメンターに2L添加し、更に前培養液300mlを植菌して27℃、攪拌回転数180rpm、通気量1vvmで38時間培養を行った。
【0050】
培養液から遠心分離機で菌体を回収し、ろ過滅菌した基質溶液(L−4−オキサリジン一塩酸塩30g/L、グルコース 22.5g/LとなるようpH6.98の300mM
リン酸バッファーで溶解)3Lをその回収した菌体に加えて懸濁し、5L容ミニジャーファーメンターに菌体懸濁液を加えた。反応温度27℃、攪拌回転数450rpm、通気量0.5vvmで25時間菌体反応を行った。反応終了後の反応液中の(S)−3−モルホリンカルボン酸濃度を測定したところ、13.8g/Lであった。
【0051】
この反応液から遠心分離により菌体を除去し、その上清に活性炭24gを加えて1時間攪拌した後、ろ紙を使用して活性炭を除去した。そのろ液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(H+型)2Lを充填したカラムに通過させて(S)−3−モルホリン
カルボン酸を吸着させ、更に5Lの脱イオン交換水でカラムを洗浄した後、2%アンモニア水で溶出した。(S)−3−モルホリンカルボン酸を含む溶出液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水1Lを加えて固形物を溶解した。その溶解液をデュオライトC‐20(NH4+型)1Lを充填したカラムに通過させ、更に2Lの脱イオン交換水でカラム
を洗浄して(S)−3−モルホリンカルボン酸を回収した。
【0052】
その通過液と回収液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水900mlを加えて固形物を溶解した。強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA‐113(CH3COO-型)200mlを充填したカラムに通過させ、その後このカラムを脱イオン交換水で洗浄して(S)−3−モルホリンカルボン酸を回収した。
【0053】
上記により得た通過液と回収液を減圧濃縮し、活性炭による脱色、0.45μmフィルターによるろ過後、ろ液を濃縮しつつメタノールを加えて結晶化させた。結晶をろ別して回収し、乾燥させたところ(S)−3−モルホリンカルボン酸の白色結晶が34.5g得られた。
【0054】
光学純度を測定するためにHPLC分析を行ったが(R)−3−モルホリンカルボン酸のピークは検出されず、得られた結晶は(S)−3−モルホリンカルボン酸のみであった。
【0055】
[実施例6]
パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株を利用した、培養変換による(S)−ピペコリン酸の製造
L−リジン一塩酸塩10g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物
0μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更にその培地中にパラコッカス・エスピ
ー AB10292(Paracoccus sp. AB10292)株をスラントから一白金耳接種した。合
計10本の三角フラスコを27℃で3日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。培養液中の(S)−ピペコリン酸濃度を測定したところ、5.8g/Lであった。
【0056】
この10本の三角フラスコから回収した培養液約1Lを遠心分離により菌体と上清に分けた。その培養液上清に活性炭5gを加えて1時間攪拌した後、ろ紙を使用して活性炭を除去した。そのろ液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(H+型)1Lを充
填したカラムに通過させて(S)−ピペコリン酸を吸着させ、更に4Lの脱イオン交換水でカラムを洗浄した後、2%アンモニア水5Lで溶出した。(S)−ピペコリン酸を含む溶出液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水500mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液をデュオライトC‐20(NH4+型)500mlを充填したカラムに通過させ、更に2Lの脱イオン交換水でカラムを洗浄して(S)−ピペコリン酸を回収した。その通過液と回収液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水200mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液を弱塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA‐368S 1
00mlを充填したカラムに通過させ、その後このカラムに 1Lの脱イオン交換水を通
過させて(S)−ピペコリン酸を回収した。
【0057】
上記により得た通過液と回収液を減圧下濃縮し、メタノールを加えて結晶化させた。結晶をろ別して回収し、乾燥させたところ3.2gの白色結晶が得られた。
この結晶のHPLC分析による溶出時間及びNMR分析における1H-NMRと13C-NM
Rのケミカルシフト値が、標準品である(S)−ピペコリン酸のそれと一致した。
1HNMRデータ:
d(ppm):1.37−1.59(3H,m)、1.70−1.77(2H,m)、2.08(1H,m)、2.86(1H,m)、3.27(1H,m)、3.43(1H,m)
13CNMRデータ:
d(ppm):175.4、59.8、44.5、27.3、22.6、22.4
また、光学純度を測定するためにHPLC分析を行ったが(R)−ピペコリン酸のピークは検出さず、得られた結晶は(S)−ピペコリン酸のみであった。
【0058】
[実施例7]
パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株を利用した、DL−リジン一塩酸からの培養変換による(S)−ピペコリン酸の製造
DL−リジン一塩酸塩3g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム 1g/L、塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更にその培地中にパラコッカス・エスピ
ー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株をスラントから一白金耳接種した。その三角フラスコを27℃で3日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。培養液中の(S)−ピペコリン酸濃度を測定したところ、0.76g/Lであった。
【0059】
[実施例8]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、培養変換による(S)−ピペコリン酸の製造
L−リジン一塩酸塩5g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物 80
μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更にその培地中にパラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株をスラントから一白金耳接種した。27℃
で24時間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養して前培養液を作成した。
【0060】
L−リジン一塩酸塩65g/L、酵母エキス5.5g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物80μg/L、炭酸カルシウム2g/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前にそのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(375g/L)を16ml添加し、更にそ
の培地中に前培養液を5ml接種した。27℃で12日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養し、培養液中の(S)-ピペコリン酸濃度を測定したところ3
8.4g/Lであった。
【0061】
[実施例9]
パラコッカス属基準株を利用した、培養変換による(S)−ピペコリン酸の製造
L−リジン一塩酸塩3g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前にそのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更にその培地中に表3に示したパラコッカ
ス属に属する種々の菌株をスラントから一白金耳接種した。その後、27℃で3日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。各菌株培養液中の(S)−ピペコリン酸生産量は表3に示すようであった。
【0062】
【表3】

[実施例10]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、菌体反応による(S)−ピペコリン酸の製造
6−アミノヘキサン酸7.2g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム 1g/L
、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラス
コに入れたフラスコを10本作成し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、その培
地中にパラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株をスラントから一白金耳接種して、27℃で2日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。
【0063】
次に、培養液を集めて約1Lとし、8000rpmで20分間遠心分離を行って上清を除去した。その沈殿した菌体に50mMリン酸バッファー(pH6.98)を200ml加えてよく撹拌し、再び8000rpmで20分間遠心分離を行って上清を除去して菌体反応用の菌体を得た。
【0064】
その菌体に、ろ過滅菌した基質溶液(L−リジン一塩酸塩 30g/L、グルコース 22.5g/LになるようpH6.98の300mMリン酸バッファーで溶解)を100ml加えて懸濁し、500ml容三角フラスコにその菌体懸濁液を加えた。27℃、回転数180rpmのロータリーシェーカーで27時間菌体反応を行った後、反応液中の(S)−ピペコリン酸濃度を測定したところ、16.2g/Lであった。
【0065】
[実施例11]
パラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株を利用した、培養変換によるtrans−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸及びcis−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸の製造
5−ヒドロキシ−DL−リシン塩酸塩3.3g/L(和光純薬製)、酵母エキス2g/L
、塩化ナトリウム 1g/L、リン酸2水素カリウム0.29g/L、リン酸水素2ナトリウム12水和物 6.86g/L、塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L
)を8ml添加し、更にその培地中にパラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株をスラントから一白金耳接種した。この三角フラスコ3本を27℃で3日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。
【0066】
培養液上清をTLCで分析したところ、5−ヒドロキシ−DL−リシン塩酸塩とは明らかに異なるRf値を示す青紫色のニンヒドリン発色物質が2物質認められた(展開溶媒 アセトニトリル:メタノール:水=3:1:1、Rf値=0.308、0.356、メルク社製TLCプレート;シリカゲル60F254)。
【0067】
この三角フラスコから回収した培養液約300mLを遠心分離により菌体と上清に分けた。その遠心上清を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(H+型)100ml
を充填したカラムに通過させてニンヒドリン発色物質を吸着させ、更に500mLの脱イオン交換水でカラムを洗浄した後、2%アンモニア水500mLで溶出した。溶出液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水50mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(NH4+型)50mlを充填したカラムに通過させ、更に250mLの脱イオン交換水でカラムを洗浄してニンヒドリン発色物質を回収した。その通過液と回収液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水50mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液を強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA‐113(CH3COO-型) 10mlを充填したカラムに通過させ、更に50mlの脱イ
オン交換水でカラムを洗浄してニンヒドリン発色物質を回収した。
【0068】
上記により得た通過液と回収液を減圧下濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水1mlを加えて固形物を溶解した。活性炭素(顆粒状・和光純薬製)70mlを充填したカラムを用いて溶解液のカラムクロマトグラフィーを行い、ニンヒドリン発色する2物質を回収した。
【0069】
上記により得た回収液を減圧下濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水0.5mlを加えて固形物を溶解した。強酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオン UBK530(Ca2+
)200mlを充填したカラムを用いて溶解液のカラムクロマトグラフィーを行い、Rf値=0.356を示す物質を44mg、Rf値=0.308を示す物質を84mg単離した。
【0070】
Rf値=0.356を示す物質をNMR分析したところ、その1H-NMRと13C-NM
Rのケミカルシフト値が、非特許文献7に記載されているtrans−5−ヒドロキシ-
(S)-ピペコリン酸のそれと一致した。また、この物質の比旋光度は[α]D=−20.2°(c;1.0、H2O、23℃)であった。
1HNMRデータ:
d(ppm):1.54−1.64(1H,m)、1.68−1.81(1H,m)、2.01−2.10(1H,m)、2.24−2.33(1H,m)、2.78−2.86(1H,m)、3.43(1H,dd)、3.59(1H,dd)、3.94(1H,m)
13CNMRデータ:
d(ppm):173.8、63.2、58.0、47.2、29.8、23.8
【0071】
【化6】

Rf値=0.308を示す物質は、1H-NMRと13C-NMRの分析結果及び生成に使
用した基質から考えてcis−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸と考えられる。また、この物質の比旋光度は[α]D=−30.6°(c;2.0、H2O、23℃)であった。1HNMRデータ:
d(ppm):1.77−2.14(4H,m)、3.19(1H,dd)、3.32(1H,dt)、3.63(1H,dd)、4.15−4.19(1H,m)
13CNMRデータ:
d(ppm):173.4、60.8、2、58.0、47.5、27.6、20.5
【0072】
【化7】

[実施例12]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、菌体反応によるtrans−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸及びcis−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸の製造
6−アミノヘキサン酸 7.2g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム 1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム 1g/L、 塩化マンガン4水和物 80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラ
スコに入れたフラスコを2本作成し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、その培
地中にパラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株をスラントから一白金耳接種し、27℃で40時間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。
【0073】
次に、培養液から遠心分離機で菌体を回収し、ろ過滅菌した基質溶液(5−ヒドロキシ−DL−リシン塩酸塩20g/L、グルコース 15g/LとなるようpH6.98の3
00mMリン酸バッファーで溶解)20mLをその回収した菌体に加えて懸濁し、100ml容三角フラスコに菌体懸濁液を加えた。その後、反応温度27℃、回転数160rpmのロータリーシェーカーで32時間菌体反応を行った。
【0074】
生産を確認するために反応液上清をTLCで分析したところ、Rf値=0.308と0.356にそれぞれ、trans−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸とcis−5−ヒドロキシ-(S)-ピペコリン酸のニンヒドリン発色が認められた(展開溶媒 アセトニトリル:メタノール:水=3:1:1、メルク社製TLCプレート;シリカゲル60F254
)。
【0075】
[実施例13]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、培養変換による(R)−3−チオモルホリンカルボン酸の製造
L−アラニン20mg/L、L−グルタミン酸水素ナトリウム一水和物20mg/L、L−バリン20mg/L、L−イソロイシン20mg/L、L−ロイシン20mg/L、チアミン塩酸塩5mg/L、(+)ビオチン0.1mg/L、シアノコバラミン2.5m
g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、硫酸鉄7水和物250μg/L、硫酸銅5水和物250μg/L、塩化カルシウム2.5mg/L、硫酸亜鉛7水和物500μg/L、塩化マンガン4水和物500μg/L、塩化ニッケル6水和物250μg/L、モリブデン酸ナトリウム2水和物250μg/L、ヨウ化カリウム5μg/L、ホウ酸25μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れたフラスコを10本作成し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコにL−4−チアリジン一塩酸塩水溶液(20g/L、pH7.0)10mlを各フラスコにろ過滅菌して添加した。同様に別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を各フラスコに8ml添加し、その培
地中にパラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株をスラントから一白金耳接種し、27℃で90時間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。
【0076】
次に、培養液から遠心分離機で菌体を除去し、その上清を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(H+型)500mlを充填したカラムに通過させて(R)−3−チオ
モルホリンカルボン酸を吸着させ、更に2Lの脱イオン交換水で洗浄した後、2%アンモニア水5Lで溶出した。溶出液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水250mlを加えて固形物を溶解した。その溶解液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(NH4+型)250mlを充填したカラムに通過させ、更に2Lの脱イオン交換水でカラムを洗浄した。その通過液と回収液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水80mlを加えて固形物を溶解した。その溶液を強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA‐116(CH3COO-型)80mlを充填したカラムに通過させ、更に800mlの脱イオン交換水でカラムを洗浄した。
【0077】
上記により得た通過液と回収液を減圧下濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水20mlを加えて固形物を溶解した。その溶液をTLCで分析したところ、Rf値=0.494にニンヒドリン発色物質が認められた(展開溶媒 アセトニトリル:メタノール:水=3:1:1、メルク社製TLCプレート;シリカゲル60F254)。
【0078】
その溶液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水4mlを加えて固形物を溶解した。弱酸性陽イオン交換樹脂アンバーライト CG−50(NH4+型)250mlを充填
したカラムを用いてその溶液のカラムクロマトグラフィーを行い、Rf値=0.494を示す物質を含む画分を回収した。その溶液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水20mlを加えて固形物を溶解し、活性炭による脱色、0.45μmフィルターによるろ過後、その溶液を濃縮しつつメタノールを加えて結晶化させた。結晶をろ別して回収し、乾燥させたところ白色結晶が84mg得られた。
【0079】
このRf値=0.494を示すニンヒドリン発色物質は、1H-NMRと13C-NMRの
分析結果及び生成に使用した基質から考えて(R)-3-チオモルホリンカルボン酸と考えられる。また、この物質の比旋光度は[α]D=−53.2°(c;2.0、H2O、23℃)であった。
1HNMRデータ:
d(ppm):2.74−2.82(1H,m)、2.89−3.13 (3H,m)、3.29(1H,ddd)、3.69(1H,dt)、3.84(1H,dd)
13CNMRデータ:
d(ppm):172.3、59.3、45.3、27.5、23.8
【0080】
【化8】

[実施例14]
パラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株を利用した、菌体反応による(R)−3−チオモルホリンカルボン酸の製造
6−アミノヘキサン酸7.2g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物
80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコ
に入れたフラスコを4本作成し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、その培地中
にパラコッカス・エスピー AB10302(Paracoccus sp.AB10302)株をスラントから一白金耳接種し、27℃で44時間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。
【0081】
次に、培養液から遠心分離機で菌体を回収し、基質溶液(L−4−チアリジン一塩酸塩
10g/L、グルコース 7.5g/LとなるようpH6.98の300mMリン酸バッファーで溶解)40mLをその回収した菌体に加えて懸濁し、200ml容三角フラスコに菌体懸濁液を加えた。その後、反応温度27℃、回転数160rpmのロータリーシェーカーで27時間菌体反応を行った。
【0082】
反応液上清をTLCで分析したところ、L−4−チアリジン一塩酸塩はほとんど消失し、Rf値=0.494に(R)-3-チオモルホリンカルボン酸のニンヒドリン発色が認められた(展開溶媒 アセトニトリル:メタノール:水=3:1:1、メルク社製TLCプレート;シリカゲル60F254)。
【0083】
この反応液から遠心分離により菌体を除去し、そのろ液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(H+型)40mlを充填したカラムに通過させて(R)-3-チオモル
ホリンカルボン酸を吸着させ、更に200mlの脱イオン交換水でカラムを洗浄した後、2%アンモニア水で溶出した。ニンヒドリン発色物質を含む溶出液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水40Lを加えて固形物を溶解した。その溶解液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC‐20(NH4+型)20mlを充填したカラムに通過させ、更に100mlの脱イオン交換水でカラムを洗浄して(R)-3-チオモルホリンカルボン酸を回収した。
【0084】
その通過液と回収液を減圧濃縮して乾固させた後、脱イオン交換水10mlを加えて固形物を溶解した。その溶液を強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA‐113(CH3
COO-型)3mlを充填したカラムに通過させ、更に脱イオン交換水でカラムを洗浄し
て(R)-3-チオモルホリンカルボン酸を回収した。
【0085】
上記により得た通過液と回収液を減圧濃縮し、活性炭による脱色、0.45μmフィルターによるろ過後、溶液を濃縮しつつメタノールを加えて結晶化させた。結晶をろ別して回収し、乾燥させたところ(R)-3-チオモルホリンカルボン酸の白色結晶が70.5mg得られた。この結晶の比旋光度は、[α]D=−53.7°(c;2.0、H2O、23℃)であった。
【0086】
[比較例1]
D−リジン一塩酸塩3g/L、酵母エキス2g/L、塩化ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、リン酸水素2カリウム1g/L、塩化マンガン4水和物80μg/L、pH8.0の培地100mlをバッフル付き500ml容三角フラスコに入れ、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。植菌直前そのフラスコに別滅菌したグルコース溶液(250g/L)を8ml添加し、更にその培地中にパラコッカス・エスピー AB10292(Paracoccus sp.AB10292)株をスラントから一白金耳接種した。その三角
フラスコを27℃で3日間、回転数180rpmのロータリーシェーカーで好気培養した。培養終了後の培養液中に(S)-ピペコリン酸及び(R)-ピペコリン酸のいずれも検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式(I)中、Xは、飽和のまたは部分的に若しくは全体的に不飽和の、直鎖または分枝鎖のC1−C6炭化水素鎖を表し、該炭化水素鎖は、その内部および/または末端に、O、S、P、Nの内から選択する一個または数個のヘテロ原子またはヘテロ原子団を含んでいてもよく、あるいは、−R、−OR、−SR、=O、−C(O)OR、−C(S)OR、−C(O)NR'R"、−C(S)NR'RR"、−CN、−NO2、−X、−MgX、−NR'R"、
−NR'C(O)R、−SiR及び−SiOR(R、R'及びR"は、同一のまたは相違する
、水素または2〜20の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖の飽和のまたは全体的に若しくは部分的に不飽和の炭化水素基を表す。)の内から選択する一個または数個の同じまたは異なる基によって置換されていてもよく、R'とR"は、それらを有する原子と共に環を形成していてもよい。]で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類を、式(II)
【化2】

[式(II)中、Xは式(I)中で規定した通りである。]で示される環状アミノ酸および/またはその塩類に変換する活性を有するパラコッカス属に属する微生物を、式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類を含有する培地、あるいは式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類とそれらに対応するD−ジアミノ酸および/またはその塩類とからなる鏡像体混合物を含有する培地で培養し、式(II)で示される環状アミノ酸および/またはその塩類を生成させることを特徴とする光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項2】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類を、前記式(II)で示される環状アミノ酸および/またはその塩類に変換する活性を有するパラコッカス属に属する微生物の菌体を、前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類を含有する溶液、あるいは前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類とそれらに対応するD−ジアミノ酸および/またはその塩類とからなる鏡像体混合物を含有する溶液と懸濁し、前記式(II)で示される環状アミノ酸および/またはその塩類を生成させることを特徴とする光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項3】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸がL-4-オキサリジンであり、前記式(II)で示される環状アミノ酸が(S)−3−モルホリンカルボン酸である、請求項1または2に記載の光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項4】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸がL-リジンであり、前記式(II)で示され
る環状アミノ酸が(S)−ピペコリン酸である、請求項1または2に記載の光学活性環状ア
ミノ酸製造方法。
【請求項5】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸が5−ヒドロキシ−L−リジンであり、前記前記式(II)で示される環状アミノ酸がtrans−5−ヒドロキシ−(S)−ピペコリン酸である、請求項1または2に記載の光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項6】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸が5−ヒドロキシ−L−リジンであり、前記式(II)で示される環状アミノ酸がcis−5−ヒドロキシ−(S)−ピペコリン酸である、請求項1または2に記載の光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項7】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸がL-4-チアリジンであり、前記式(II)で示される環状アミノ酸が(R)−3−チオモルホリンカルボン酸である、請求項1または2に記載の光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項8】
前記パラコッカス属に属する微生物が、パラコッカス・エスピー AB10292株(Paracoccus sp. AB10292 FERM P-21605)またはその変異株パラコッカス・エスピー AB
10302株(Paracoccus sp. AB10302 FERM P-21606)であることを特徴とする、請求
項1〜7のいずれかに記載の光学活性環状アミノ酸製造方法。
【請求項9】
前記式(I)で示されるL−ジアミノ酸および/またはその塩類を、前記式(II)で示される環状アミノ酸および/またはその塩類に変換する活性を有するパラコッカス属に属する微生物である、パラコッカス・エスピー AB10292株(Paracoccus sp. AB10292 FERM P-21605)およびその変異株であるパラコッカス・エスピー AB10302株
(Paracoccus sp. AB10302 FERM P-21606)。

【公開番号】特開2010−88395(P2010−88395A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263978(P2008−263978)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】