説明

微生物の殺菌処理効果測定方法

【課題】迅速かつ正確に、微生物の殺菌処理効果を測定する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の微生物の殺菌処理効果測定方法は、殺菌処理され、所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された所定領域内の微生物数を計数する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の方法による微生物の殺菌効果を迅速に計測・判定するための測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品等の様々な工業製品、工業分野で、微生物の増殖による製品等の品質低下,食中毒事件が問題になっている。このため、微生物の増殖を抑制する目的で、加熱,紫外線照射,放射線照射,オゾン処理,エチレンオキサイドガス処理、電解水,各種薬剤による殺菌・消毒処理法が検討・開発されている。
【0003】
これらの殺菌・消毒処理法の効果を判定するためには、(1)微生物を含む試料について、殺菌・消毒法を施し、(2)処理後の試料を標準寒天培地等の適当な増殖培地と混合した後に、適当な条件(温度,好気性/嫌気性雰囲気,etc)下で24時間以上培養した後、(3)微生物が増殖して形成したコロニー数を計数し、生菌数をCFU(colony formation Unit)として求め、(4)殺菌未処理の対照試料の生菌数との比較によって殺菌・消毒処理法の効果を判定する。
【0004】
また、滅菌処理が十分であるか否かを判断するための指標としてB.subtilisの芽胞などを用い、滅菌処理された芽胞の多角光散乱と滅菌処理されなかった多角光散乱とを比較することにより、滅菌処理の有効性を検出する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、細菌試料を生菌特異的にあるいは死菌特異的に蛍光染色した後に、フローサイトメータあるいは、蛍光顕微鏡で、生菌あるいは死菌を選択的に計数する方法が知られている。
【特許文献1】特表2002−542836公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コロニーを計数する方法は、コロニーが形成されるのに長い時間が必要とされるので、殺菌・消毒処理効果の判定に時間がかかる。
【0007】
芽胞の多角光散乱を比較する方法では、多角光散乱の差異が必ずしも滅菌率の差異と一致しないという問題がある。
【0008】
生菌又は死菌特異性の蛍光色素を用いる方法では、細胞膜透過性を基に、微生物の生死を判定するために、必ずしも蛍光色素の染色性と微生物の生死が一致しないという問題がある。
また、芽胞は蛍光染色され難く、蛍光色素による生死の区別は困難である。
【0009】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、迅速かつ正確に、微生物の殺菌処理効果を測定する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の微生物の殺菌処理効果測定方法は、殺菌処理され、所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された所定領域内の微生物数を計数する。
【0011】
殺菌対象に対して殺菌処理を施すと、殺菌対象に含まれる微生物の一部が死滅し、一部が生き残る。殺菌処理された試料を所定時間培養すると、生微生物の増殖活性(大きさ、長さ、核酸量など)が変化する。このとき、死微生物の増殖活性は変化しないため、上記所定時間の培養によって、生微生物と死微生物とを区別できるようになる。
【0012】
本発明では、2種類の増殖活性情報に基づいて2次元散布図を作成し、この2次元散布図内で、例えば生微生物に対応した領域を区画して、この区画された領域内の微生物数を計数する。すなわち、本発明では、2種類の増殖活性情報に基づいて、生微生物と死微生物とを区別して計数するので、極めて精度よく、生微生物と死微生物とを区別することができる。そして、例えば、生微生物に対応した領域に属する微生物の数が所定の数値以下であるか否かを調べることにより、殺菌処理の効果が十分であるか否かを測定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明における試料の培養工程にかかる時間は、微生物の増殖活性を変化させるのに必要な時間で足りる。この時間は、微生物がコロニーを形成するまでにかかる時間よりもはるかに短いため、本発明により短時間で殺菌処理効果を測定することが可能となる。
【0014】
また、殺菌処理された試料を所定時間培養した後に、その試料に含まれる全微生物数を測定することによって、殺菌処理効果を測定することも可能ではあるが、この場合、微生物数の変化を測定するので、生微生物が分裂して増殖するのを待つ必要がある。一方、本発明では、微生物数の変化を測定するのではなくて、増殖活性の変化した微生物数を測定する。通常、増殖活性の変化は、微生物数の変化の前に起きるので、本発明によれば、短時間で殺菌処理効果を測定することができる。
【0015】
また、殺菌処理された後の生微生物の損傷状態は様々で、ほとんど損傷を受けておらず、培養を始めてから短時間で増殖を開始するものもあれば、大きな損傷を受けて、培養を始めてから増殖を開始するまでに長時間を要するものもある。従来のコロニー数を計数する方法では、例えば24時間以内に生微生物が増殖を開始していれば1つのコロニーとして計数されていたため、そのコロニーの成長が、培養後1時間で始まったのか、10時間で始まったのかなどといった情報を得ることができなかった。このため、生微生物の損傷状態についての情報を得ることができなかった。
【0016】
本発明では、例えば培養後1時間毎に、区画された所定領域内の微生物数を計数することができるので、例えば、生微生物の増殖活性がどの程度の時間で変化したのかについての情報を得ることができる。通常、生微生物の損傷が小さい場合には、短時間で増殖活性が変化し、損傷が大きい場合には、増殖活性が変化するまでに長時間を要するので、この増殖活性変化に要する時間を測定することにより、生微生物の損傷状態を知ることができる。また、同一時間の測定でも、損傷の程度によって、増殖活性の変化の割合に差異を生じる。この状態を知ることにより、殺菌後どの程度の時間で微生物数が増加するのかを予測することができるようになり、例えば、殺菌処理を行う頻度、方法、条件を決定するのに役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
1.第1の実施形態
本発明の第1の実施形態の微生物の殺菌処理効果測定方法は、殺菌処理され、所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された所定領域内の微生物数を計数する。
【0018】
1−1.試料を殺菌処理し、所定時間培養する工程
殺菌処理とは、例えば、化学的・物理的手段により、微生物を死滅させる、又は不活性にさせることをいう。具体的には、例えば、(1)試料に紫外線/放射線を照射すること、(2)試料に殺菌効果を有する化学物質を加えること、(3)試料を加熱処理することなどが含まれる。
【0019】
微生物の種類は限定されず、殺菌対象に、1種類又は複数の種類の微生物が含まれていてもよい。微生物とは、その大きさについては、例えば、径又は長さが0.1μm〜100μm程度のものをいう。
【0020】
試料を所定時間培養するとは、試料を所定時間、試料に含まれる微生物の生育にとって好適な環境に置くことをいう。
【0021】
微生物の生育にとって好適な環境は、測定対象とする試料、微生物によって異なり、実施の形態は特に限定されるものではない。例えば、測定対象とする微生物が細菌の場合は、液体培地の使用が好適である。具体的には、例えば、一般細菌を増殖させるためには、普通ブイヨン培地,ハートインヒュージョンブイヨン培地,トリプトソイブイヨン培地などが好適に使用される。
【0022】
測定試料が液体の場合は、そのまま測定試料と液体培地を混合するだけでよい。また、測定試料が固形,半固形の場合、試料と生理食塩水,ペプトン水等適当な希釈液とを混合してストマッカー等を用いてホモジナイズした後に、試料と液体培地を混合することが好ましい。
【0023】
ホモジナイズ後の試料に最小径100μm以上の微生物以外の粒子が存在する場合は、測定の精度が低化するため、メッシュを用いてろ過をすることが好ましい。メッシュの大きさは、100μm程度であることが好ましい。ろ過は、培養開始前、好ましくはフローサイトメータでの測定前に実施することが好適である。ホモジナイズする際に,希釈液の代わりに培養に使用する液体培地を用いれば、工程が簡略化できる。
【0024】
培養は、微生物の種類によって増殖培養可能な温度域が存在するが、増殖至適温度で培養することが好適である。例えば、低温菌では25℃前後,中温菌では35℃前後,高温菌では50℃前後が好適である。例えば、食中毒を引き起こす病原菌あるいは、腐敗・変敗菌の多くは、中温菌であり、37℃前後で培養される。
【0025】
これらの条件以外にも、特殊な菌では、塩,pH,酸素濃度等、増殖条件として種々の条件が要求される場合がある。試験対象となる微生物の増殖条件は詳細に検討されており、種々の文献,教科書が容易に入手可能である。
【0026】
所定時間とは、微生物の増殖活性を変化させるのに必要な時間をいう。「変化させる」とは、例えば、電気的又は光学的手段によって得られるデータから、未処理の試料と処理済み試料とを区別できる程度に差異を生じさせることをいう。微生物の増殖活性が最大にならずとも、2次元散布図上の分布が変化する程度でよい。
【0027】
1−2.試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された所定領域内の微生物数を計数する工程
【0028】
1−2−1.増殖活性情報の測定
増殖活性情報とは、培養により変化する微生物の特性に関する情報をいい、具体的には、例えば、微生物の大きさ、長さ、及び、微生物の細胞内含有物、例えば核酸含有度合いに関する情報などである。
【0029】
微生物の大きさに関する情報(大きさ情報)は、例えば、電気的又は光学的に測定することができ、長さに関する情報(長さ情報)及び核酸含有度合いに関する情報(核酸情報)は、例えば、光学的に測定することができる。
【0030】
「電気的に測定」は、電気抵抗式フローサイトメータなどを用いて行うことができ、「光学的に測定」は、光学式フローサイトメータなどを用いて行うことができる。また、電気的及び光学的測定の両方を行うことができるフローサイトメータも市販されており、例えば、シスメックス社製の型式BACTANAを用いることができる。
【0031】
大きさ情報は、電気的には、例えば、(a)試料を、オリフィスと、オリフィスを介して電解液によって電気的に接続された一対の電極とを備える電気抵抗式フローサイトメータに導入し、(b)電解液中の個々の微生物がオリフィスを通過する際の電極間電気抵抗値変化を測定する工程を備える方法により、測定することができる。通常、オリフィス通過する微生物の体積が大きいほど、電極間電気抵抗値が大きくなるので、このような方法により、微生物の大きさ情報を測定することができる。
【0032】
大きさ及び長さ情報は、光学的には、例えば、(a)試料を光学式フローサイトメータに導入し、個々の微生物に光を照射し、(b)個々の微生物により散乱された光に関する情報(散乱光情報)を測定する工程を備える方法により、測定することができる。「散乱光情報」には、散乱光強度、散乱光パルス幅などが含まれる。一般に、散乱光強度は、微生物の大きさ(太さ)に強く相関するので、大きさ情報は、散乱光強度で表すことが好ましい。また、散乱光パルス幅は、微生物の長さに強く相関するので、長さ情報は、散乱光パルス幅で表すことが好ましい。なお、「散乱光」には、前方散乱光、側方散乱光及び後方散乱光などが含まれる。
【0033】
核酸情報は、光学的に、例えば、(a)試料中の微生物を核酸特異性の蛍光色素で染色し、(b)得られた試料を光学式フローサイトメータに導入し、染色された個々の微生物に光を照射し、(c)個々の微生物から発せられる蛍光に関する情報(蛍光情報)を測定する工程を備える方法により、測定することができる。「蛍光情報」には、蛍光強度、蛍光パルス幅などが含まれる。一般に、蛍光強度は、微生物に含まれる核酸含有量と強く相関するので、核酸情報は、蛍光強度で表すことが好ましい。なお、「核酸特異性の蛍光色素で染色する」には、例えば蛍光標識核酸プローブで標識することも含まれる。
【0034】
核酸特異性の蛍光色素には、微生物中の核酸(RNA、DNA)を特異的に染色するとともに、光を吸収し、蛍光を発するものが用いられる。ここで、「核酸を特異的に染色する」とは、主に核酸を染色することをいい、本発明の目的を逸脱しない範囲で、例えば、培養中に増加あるいは活性化する微生物中のタンパク質、酵素など、核酸以外のものを染色する場合を除外するものではない。従って、「核酸特異性の蛍光色素」には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、例えば、微生物中のタンパク質、酵素など、核酸以外のものを染色する蛍光色素も含まれる。このような蛍光色素には、例えば、特開平9−104683、特開2001−258590に記載の色素を用いることができる。この色素を用いると、1分以内に微生物の核酸を染色することができ、好適である。
【0035】
微生物の核酸の染色は基本的に核酸特異性の蛍光色素と緩衝剤を含む水溶液である希釈液を用いて行われる。染色を行う前に試料を希釈液で希釈する。その希釈液には、微生物の細胞膜を損傷させ、色素が細胞内に入りやすくするため、又は、微粒子の分散を改善するための薬剤、例えば、界面活性剤を加えることが好ましい。また、蛍光色素の安定性が悪い場合には,色素をエチレングリコール等の溶液で保存し、使用時に希釈液と混合して使用することが好適である。
【0036】
1−2−2.2次元散布図、所定領域
上述した方法で測定した増殖活性情報のうちの2種類を用いて、2次元散布図を作成する。この2種類の増殖活性情報は、例えば、大きさ情報と、長さ情報と、核酸情報のうちの何れか2つである。また、2種類の増殖活性情報は、好ましくは、大きさ情報と核酸情報である。この2つの増殖活性情報は、通常、短時間の培養で変化するため、短時間での殺菌処理効果測定を可能にする。
【0037】
2次元散布図内の「所定領域」は、例えば、ディスプレイ上に表示された2次元散布図内に、マウスなどのポインティングデバイスなどを用いて、多角形の頂点を指定することによって設定することができる。「所定領域」の形状・位置は、殺菌処理効果を測定しやすいように、適宜決定することができる。
【0038】
ここで、2次元散布図と、2次元散布図内の所定領域の一例を図1に示す。図1は、微生物が桿菌(さらに具体的には、枯草菌)である場合について、蛍光強度及び前方散乱光強度に基づいて描かれた2次元散布図である。この2次元散布図内には、桿菌の芽胞状態、発芽状態及び栄養型状態にそれぞれ対応する芽胞領域、発芽領域及び栄養型領域が設定されている。本発明では、この各領域に属する微生物数を計数することにより、殺菌処理効果測定を行う。
【0039】
2.第2の実施形態
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態の方法で得られた計数結果と、殺菌処理されておらず且つ所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された前記所定領域内の微生物数を計数して得られる計数結果とを比較する工程を含む。
【0040】
すなわち、本実施形態では、殺菌処理を行った試料と行っていない試料とを同一条件で培養し、培養後の試料中に存在する所定領域内の微生物数を比較する。第1の実施形態では、殺菌処理を行った試料に含まれる微生物数の絶対値から殺菌処理効果を測定していたため、殺菌処理前に試料に含まれる微生物数によっては、殺菌処理効果測定がばらつく可能性があるが、第2の実施形態では、殺菌処理を行ったものと行っていないものの間の相対値を用いて、殺菌処理効果を測定することができるので、第1の実施形態よりも正確に殺菌処理効果を測定することができる。
【0041】
3.第3の実施形態
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態の方法で得られた計数結果と、前記殺菌処理とは異なる方法で殺菌処理され、所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された前記所定領域内の微生物数を計数して得られる計数結果とを比較する工程を含む。
【0042】
すなわち、本実施形態では、異なる方法で殺菌処理がされた2つの試料を同一条件で培養し、培養後の試料中に存在する所定領域内の微生物数を比較する。これにより、2つの殺菌処理方法を直接比較することができ、適切な殺菌処理方法を選択することが容易になる。
【0043】
4.第4の実施形態
本発明の第4の実施形態は、上記何れかの実施形態において、前記試料の培養前後の前記所定領域内の微生物数の変化を求める工程をさらに含む。
【0044】
本実施形態では、所定時間の培養によって、所定領域内の微生物数がどのように変化したのかを求める。上記実施形態では、所定時間の培養による所定領域内の微生物数の変化を観察することができない。このため、殺菌処理後に生存する微生物がどの程度活性であるか(成長又は増殖しやすいか)についての情報を得ることができない。本実施形態では、培養前後の所定領域内の微生物数の変化を求めるので、殺菌処理後に生存する微生物の活性状態についての情報を得ることができ、さらに正確に殺菌処理効果を測定することができる。
【0045】
5.第5の実施形態
本発明の第5の実施形態は、上記何れかの実施形態において、前記試料を第1培養時間で培養した前記所定領域内の微生物数と、前記試料を第2培養時間で培養した前記所定領域内の微生物数との変化を求める工程をさらに含む。
【0046】
本実施形態では、第1培養時間と第2培養時間の間に、所定領域内の微生物数がどのように変化したのかを求める。これにより、第4の実施形態と同様に、殺菌処理後に生存する微生物の活性状態についての情報を得ることができ、さらに正確に殺菌処理効果を測定することができる。
【0047】
6.その他
第1の実施形態についての説明は、その趣旨に反しない限り、第2〜第5の実施形態について当てはまる。
「2種類」、「2次元」は、それぞれ、少なくとも「2種類」「2次元」を意味する。従って、3種類以上の増殖活性情報に基づいて3次元以上の散布図に所定領域を作成する場合も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例1】
【0048】
本発明の実施例を以下に示す。本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものでは無い。
【0049】
(1)測定用試料の調製
まず、枯草菌芽胞を含む試料を初期濃度106/mLで調製した。この試料を90-110℃で10分間加熱することにより殺菌処理を施した。殺菌処理後の試料1mLとハートインヒュージョンブイヨン培地9mLを混合し、35℃で培養した。
【0050】
次に、一定時間培養後の上記試料50μLに希釈液340μLを添加して攪拌した後、染色液10μLを添加し、42℃で20秒間インキュベートすることにより、核酸特異性の蛍光色素での染色を行い、測定用試料を調製した。
【0051】
試薬は以下の組成のものを使用した。
(希釈液)
クエン酸二水塩 21.6g/L
ミリスチルトリメチルアンモニウムブロマイド 1g/L
精製水 1.0L
NaOHでpH2.5に調製した
(染色液)
下記の構造を有する色素 50mg
【0052】
【化1】

エチレングリコール 1.0L
【0053】
(2)測定方法
633nmの赤色半導体レーザを光源とするフローサイトメータ(シスメックス社製の型式BACTANA)を用いて、調製した試料について赤色蛍光(650nm以上)強度及び前方散乱光強度を測定した。
【0054】
(3)測定結果
まず、殺菌処理を行っていない試料について、上記測定によって得られた結果を図2に示す。図2(a)〜(c)は、それぞれ培養前、培養1時間、培養4時間での測定結果の分布を示す2次元散布図である。
図2(a)を参照すると、培養前は、大部分の枯草菌の蛍光強度は非常に小さいことが分かる。これは、培養前は大部分の枯草菌が芽胞状態であり、核酸染色性が非常に弱いことを示している。
図2(b)を参照すると、培養1時間で、多くの枯草菌の蛍光強度が強くなっていることが分かる。これは、培養により、多くの枯草菌が発芽状態に移行し、これらの枯草菌に含まれる核酸含有量の増加とともに染色性が向上したことを示している。
図2(c)を参照すると、培養4時間で、多くの枯草菌の蛍光強度及び前方散乱光強度の両方が強くなっていることが分かる。これは、培養により、多くの枯草菌が栄養型状態に移行し、これらの枯草菌に含まれる核酸含有量が増加し、かつ、そのサイズが大きくなったことを示している。
【0055】
生存している枯草菌(生枯草菌)は、このように、芽胞状態から発芽状態を経て、栄養型状態に移行する。一方、殺菌処理で死亡した枯草菌は、芽胞状態のままである。従って、芽胞状態、発芽状態及び栄養型状態の各状態の枯草菌の数の変化を調べることにより、どの程度の枯草菌が殺菌処理後に生存しているのかを知ることができる。そこで、図1に示すように、枯草菌の芽胞状態、発芽状態及び栄養型状態にそれぞれ対応する芽胞領域、発芽領域及び栄養型領域を設定し、各領域に属する枯草菌数を計数した。
【0056】
図3〜図5にその結果を示す。図3〜図5は、それぞれ、芽胞領域、発芽領域、栄養型領域について、培養時間と枯草菌数との関係を示すグラフである。各グラフには、未加熱(殺菌処理なし)、90℃・95℃・100℃・110℃でそれぞれ加熱殺菌した試料についてのデータを示している。
【0057】
図3を参照すると、培養4時間目までに、110℃で加熱処理をした試料以外については、測定値(芽胞領域内の枯草菌数)が減少していることが分かる。測定値が減少した理由は、生枯草菌が発芽状態に移行したことであると考えられる。110℃での加熱処理した試料については、測定値が変化しないことから、ほぼ全ての枯草菌が死滅したと考えられる。これは、110℃での加熱処理が有効な殺菌方法であるということを示している。
また、100℃で加熱処理をした試料については、測定値の減少速度が遅いことが分かる。測定値の減少速度が遅い理由は、加熱処理により枯草菌が損傷を受け、発芽領域への移行速度が遅くなったことであると考えられる。これは、100℃での加熱処理である程度の効果が得られることを示している。
【0058】
図4を参照すると、培養1時間目までに、110℃で加熱処理をした試料以外については、測定値(発芽領域内の枯草菌数)が増加していることが分かる。測定値が増加した理由は、生枯草菌が発芽状態に移行したことであると考えられる。また、未加熱の試料・90℃で殺菌処理した試料については、培養2時間目までに測定値が減少していることが分かる。これは、この2つの試料に含まれる生枯草菌が非常に活性で、培養2時間目までに栄養型状態に移行したためであると考えられる。また、95℃・100℃で加熱処理した試料については、測定値が徐々に減少している。これは、これらの試料に含まれる生枯草菌がある程度の損傷を受けていて、成長が遅くなっているためであると考えられる。本発明によれば、このように、殺菌処理後に生存している生枯草菌の活性状態又は損傷状態をも知ることができる。また、発芽領域内の枯草菌数を計数すると、1時間という極めて短時間で殺菌処理効果の有効性を判断することができることが分かる。
【0059】
図5を参照すると、培養2時間目までに、100℃・110℃で加熱処理をした試料以外については、測定値(発芽領域内の枯草菌数)が増加していることが分かる。また、95℃で加熱した試料については、測定値の増加速度が小さく、95℃の加熱処理で枯草菌は、ある程度の損傷を受けることが分かる.また、培養8時間目までに、100℃で加熱処理をした試料については、測定値が増加したが、110℃で加熱処理をした試料については、測定値が変化していないことが分かる。従って、図5によると、100℃以上での加熱処理である程度の殺菌効果が得られるが、十分な殺菌効果を得るには、110℃以上で加熱する必要があると分かる。
【0060】
図6は、培養時間と枯草菌の総数との関係を示すグラフである。図6を参照すると、培養4時間目までに、95℃以上で加熱処理した試料については、有意の差異が見られず、培養8時間目であっても、100℃と110℃の加熱処理に差異は見られない。さらに培養を継続し、24時間の培養を行うと、100℃で加熱処理した試料では枯草菌数は増加し、110℃で加熱処理した試料では増加せず、十分な殺菌効果を得るには、110℃以上で加熱する必要があると分かる。
【0061】
このように、芽胞領域、発芽領域及び栄養型領域の何れか1つの領域内の枯草菌数を計数すると、総数を計数するよりも、短時間で殺菌処理効果を測定することができる。
【0062】
(4)有効性の検証
本発明の方法の有効性を検証するために同一の条件で殺菌処理を施した試料について、従来の方法で殺菌処理効果を測定した。
【0063】
具体的には、まず、実施例1と同一の条件で枯草菌を含む試料を調製し、その試料について実施例1と同一の条件で加熱による殺菌処理を行った。殺菌処理後の試料1mLを約20mLの寒天培地と混釈したのち、35℃で48時間培養し、コロニー数を計数した。殺菌処理を施さなかった未加熱の試料についても同様の方法でコロニー数を計数した。
【0064】
この結果を図7に示す。110℃で加熱処理した試料では、コロニーが観測されなかった。また、100℃で加熱処理した試料では、その他の試料に比べてコロニー数が少なかった。すなわち、従来の方法によると、十分な殺菌効果を得るには、110℃で加熱処理する必要があり、100℃での加熱処理でのある程度の効果が得られるということが分かった。この結果は、本発明による結果と一致しており、本発明の有効性を裏付けている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】蛍光強度及び前方散乱光強度に基づく2次元散布図と、2次元散布図内の所定領域の一例である。
【図2】殺菌処理を施していない試料について、(a)培養前,(b)培養1時間,(c)培養4時間で測定した蛍光強度及び前方散乱光強度に基づく2次元散布図である。
【図3】芽胞領域について、培養時間と枯草菌数との関係を示すグラフである。
【図4】発芽領域について、培養時間と枯草菌数との関係を示すグラフである。
【図5】栄養型領域について、培養時間と枯草菌数との関係を示すグラフである。
【図6】培養時間と枯草菌の総数との関係を示すグラフである。
【図7】従来の方法による、培養時間とコロニー数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌処理され、所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された所定領域内の微生物数を計数する微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項2】
前記計数結果と、殺菌処理されておらず且つ所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された前記所定領域内の微生物数を計数して得られる計数結果とを比較する工程を含む請求項1に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項3】
前記計数結果と、前記殺菌処理とは異なる方法で殺菌処理され、所定時間培養された試料中に含まれる微生物の2種類の増殖活性情報を測定し、この2種類の増殖活性情報に基づいて作成された2次元散布図内において区画された前記所定領域内の微生物数を計数して得られる計数結果とを比較する工程を含む請求項1に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項4】
前記試料の培養前後の前記所定領域内の微生物数の変化を求める工程をさらに含む請求項1〜3の何れか1つに記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項5】
前記試料を第1培養時間で培養した前記所定領域内の微生物数と、前記試料を第2培養時間で培養した前記所定領域内の微生物数との変化を求める工程をさらに含む請求項1〜3の何れか1つに記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項6】
2種類の増殖活性情報は、微生物の大きさを示す大きさ情報と、微生物の長さを示す長さ情報と、微生物の核酸含有度合いを示す核酸情報のうちの何れか2つである請求項1〜3の何れか1つに記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項7】
2種類の増殖活性情報は、微生物の大きさを示す大きさ情報と微生物の核酸含有度合いを示す核酸情報である請求項1〜3の何れか1つに記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項8】
前記大きさ情報が電気的又は光学的に測定され、前記長さ情報及び核酸情報が光学的に測定される請求項6又は7に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項9】
電気的又は光学的測定が、フローサイトメータによって行われる請求項8に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項10】
前記大きさ情報及び長さ情報が散乱光情報で表され、前記核酸情報が蛍光情報で表される請求項8又は9に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項11】
前記大きさ情報が散乱光強度で表され、前記長さ情報が散乱光パルス幅で表され、前記核酸情報が蛍光強度で表される請求項8又は9に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項12】
微生物が桿菌である請求項1から11のいずれか1つに記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項13】
前記所定領域が芽胞領域、発芽領域及び栄養型領域から少なくとも1つ選択される請求項12に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−67974(P2006−67974A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258723(P2004−258723)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】