説明

微生物の迅速検出方法

【課題】微生物の酸化還元活性を迅速に検出できる物質を用いて、広範な微生物種を迅速に検出できる方法を提供すること
【解決手段】微生物含有試料を酸化還元指示薬及び還元型キノンに接触させ、前記酸化還元指示薬が還元されて生じる色を測定することを特徴とする、前記試料中の微生物を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の検出方法に関するものである。具体的には、微生物の感受性試験、同定試験、食品微生物検査、環境微生物検査等に用いる微生物の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床検査現場において検体より分離された細菌の薬剤感受性試験および同定試験は極めて重要な検査項目である。しかしながら、現在、広く用いられている上記検査用試薬は分離培養後、さらに18−24時間、菌種によってはそれ以上の培養時間が必要である。従って、微生物の早期の増殖又は微生物活性測定の迅速化が求められている。
一方、食品微生物検査は食中毒を防止することを目的として、検査が実施されている。一般的に、食品微生物の出荷前検査等では数日間培養する方法が用いられている。そのため、検査結果が得られるまでに長時間を要し、最終製品を出荷するまでの製品保管にコストがかかる。従って、食中毒防止および製品保管コスト削減の観点から検査の迅速化が求められる。
【0003】
また、生きた微生物を検出するための指標として種々の指示薬が存在し、このうち代表的なものとしては酸化還元指示薬が挙げられる。酸化還元指示薬を微生物培養液中に添加しておくと、生きた微生物の還元力により酸化還元指示薬が還元される。そして還元された該指示薬の色を観察することで微生物の存在を検知することができる。
さらに、酸化還元指示薬を用いて微生物をより迅速に検出するために、微生物を酸化還元指示薬と酸化型キノンとの存在下で培養する方法が報告されている。これは酸化型キノンの共存により酸化還元反応を促進し、微生物の増殖または微生物の活性を迅速に測定することができるというものである(特許文献1〜4参照)。ここでよく用いられる酸化型キノンは2−メチル−1,4−ナフトキノン(メナジオン)であるが、メナジオンは微生物の中でグラム陽性球菌などに対して発育阻害作用を持つため、適用範囲が限られる(特許文献5参照)。
【特許文献1】特公平06―030628号公報
【特許文献2】特開平02−276594号公報
【特許文献3】特開平02−211898号公報
【特許文献4】特開平03−228697号公報
【特許文献5】特開平10−210998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、微生物の発育阻害作用が無い、微生物の酸化還元活性を迅速に検出できる物質を用いて、広範な微生物種を迅速に検出できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記特許文献2は、酸化還元指示薬と酸化型キノンを含む培養液で生細胞を培養することにより、酸化型キノンが酸化還元指示薬の触媒として作用することを報告している。即ち、この文献記載の発明は、生きた微生物が有する酵素であるデヒドロゲナーゼの還元力により酸化型キノンが還元型キノンに変換され、この還元型キノンが酸化還元指示薬を還元して色の変化を生じさせるというものである。従って、培養液に還元型キノンを添加すると、微生物が存在しなくても酸化還元指示薬が還元されてしまうため、微生物の検出には不適であると考えられていた。
本発明者は鋭意研究を行なった結果、全く意外にも、実際に酸化還元指示薬を添加した微生物の存在しない培養液に還元型キノンを添加しても、予想に反し酸化還元指示薬の色の変化が引き起こされることは無い上に、還元型キノンもまた酸化還元指示薬の触媒として作用するということを見出し、本願第一の発明を完成した。さらに、還元型キノンを酸化型キノンと共存させることでより広範囲の微生物に対して効果が得られることを見出し本願第2の発明を完成した。
【0006】
即ち本願第1の発明は、微生物含有試料を酸化還元指示薬及び還元型キノンに接触させ、前記酸化還元指示薬が還元されて生じる色を測定することを特徴とする、前記試料中の微生物を検出する方法である。
【0007】
また、本願第2の発明は、微生物含有試料を酸化還元指示薬、還元型キノン及び酸化型キノンに接触させ、前記酸化還元指示薬が還元されて生じる色を測定することを特徴とする、前記試料中の微生物を検出する方法である。
【0008】
更に本発明は、酸化還元指示薬と還元型キノンと必要により酸化型キノンを有する微生物検出用試薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化還元指示薬を含む微生物含有試料に還元型キノンを添加することにより酸化型キノンでは効果が得られなかった微生物種についても迅速な検出が可能となる。さらに還元型キノンと酸化型キノンを同時に添加することにより、さらに広範な微生物種について迅速な検出が可能となる。
特に真菌の場合、酸化型キノンは酵母に対する効果が大きいが、カビに対しては非常に小さい。また、カビについては一般的に増殖が遅いため検出時間が長いという問題があったが、本発明の還元型キノンを用いた方法はカビに対する効果が大きいために、カビの検出を迅速に行うことが可能となる。更に、酸化型キノンと還元型キノンを併用することで、真菌全般の検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、微生物含有試料を酸化還元指示薬及び還元型キノン(さらに必要により酸化型キノン)に接触させ、前記酸化還元指示薬が還元されて生じる色を測定して、前記試料中の微生物を検出する方法であるが、酸化還元指示薬、還元型キノン、酸化型キノンはそれぞれ微生物の培養の前後いかなる段階で添加してもよい。すなわち、微生物検出用試薬の夫々の成分の添加時期に制限はない。
【0011】
本発明に用いる微生物含有試料としては、特に制限はないが、微生物とそれを培養する培地が好ましく、微生物を培養する培地としては液体培地が好ましいが、寒天培地等の半固形培地を用いることもできる。具体的にはポテトデキストロースブロス、ポテトデキスロース寒天培地などが挙げられる。
対象となる微生物としては、細菌や真菌が挙げられ、カビや酵母が好ましい。
【0012】
本発明に用いる酸化還元指示薬としては、例えばテトラゾリウム塩、レサズリン、ジクロロインドフェノール、メチレンブルー、ニュートラルレッド等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、微生物の有する還元力により発色、発光、または蛍光を発するような全ての酸化還元指示薬を用いることができる。
酸化還元指示薬の添加量に限定はないが、酸化還元指示薬を高濃度で添加すると微生物の増殖に影響を及ぼすおそれがあり、逆に低濃度であると色調変化を捉えにくくなるので、両者のバランスを考慮して指示薬ごとに調節することが望ましい。一般的に、この濃度は、0.001μg/mLから10mg/mLが好ましい。
【0013】
還元型キノンとしては、例えば1,4−ベンゼンジオール(ハイドロキノン)、ブロモハイドロキノン、テトラメチルハイドロキノン(デュロハイドロキノン)、1,4−ジハイドロキシナフタレン(1,4−ナフタレンジオール)、2−メチル−4−アミノ−1−ナフトール(ビタミンK5)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。還元型キノンの添加量に特に限定はないが、高濃度で添加すると微生物に対する毒性を生じることがあり、また、酸化還元指示薬に直接作用して色の変化を引き起こしてしまうおそれがある。従ってこれらの影響がないか、無視できる程度の濃度に設定することが望ましく、0.001μg/mLから10mg/mLの範囲が望ましい。
【0014】
任意に使用できる酸化型キノンとしては、例えば、ナフトキノン類、ベンゾキノン類、アントラキノン類、メナジオン、テトラメチルベンゾキノン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。酸化型キノンの添加量に特に限定はないが、0.001μg/mLから10mg/mLの範囲が望ましい。
【0015】
微生物検出用試薬の添加後は、微生物が生育できる条件で色調の変化を測定すればよい。なお、試料中に十分な量の微生物がない場合には、当該微生物が増殖できる条件で培養した後に色調を測定すればよい。試料中に十分量の微生物が存在する場合、測定までの時間は、1時間で十分である。
【0016】
酸化還元指示薬が還元されて生じる色は酸化還元指示薬の種類により目視、吸光検出器、蛍光検出器、発光検出器等の光学的な検出器やその他の検出器により検出することができる。例えばテトラゾリウム塩であるWST-1(4-[3‐(4‐ヨードフェニル)-2-(4-ニトロフェニル)-2H-5‐テトラゾリノ]−1,3-ベンゼン ジスルフォネート)は還元されて440nm付近に吸収極大を持つようになるため、440nmの吸収を測定することで検出できる。また、レサズリンは青色を呈しているが、還元されると赤色のレゾルフィンに変化し、レゾルフィンは励起されると590nm付近にピークをもつ蛍光を発する。従ってレゾルフィンの色は目視、および蛍光検出器で検出することができる。
酸化還元指示薬が還元されて生じる色の検出は色の変化をエンドポイントで測定しても良いし、一定時間ごとにモニターしてシグナルの変化を検知することでも行うことができる。数分ごとにモニターすることで、酸化還元指示薬の初期の色の変化を検出することができるので迅速な検出に適している。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
実施例1 還元型キノン類の酸化還元指示薬触媒効果
還元型キノン類の酸化還元指示薬触媒効果を調べるため、以下の検討を行った。0.01 mg/mLレサズリン含有ポテトデキストロースブロスに対して3種類の還元型キノン、1,4−ベンゼンジオール(ハイドロキノン)、ブロモハイドロキノン、2−メチル−4−アミノ−1−ナフトール(ビタミンK5)を各々0.2 −0 mg/mL添加した。Aspergillus niger ATCC16404胞子液を終濃度1×105 CFU/mLとなるように培地に添加した。菌液を添加した培地をマルチウェルプレートに50 μL分注し、25℃で培養した。微生物活性によりレサズリンが還元され生じるレゾルフィンを蛍光プレートリーダーにより、経時的に測定した。得られた測定結果を横軸に検出時間、縦軸に蛍光強度をとったグラフにして図1から3に示す。図1から3について蛍光強度が100 RFUに到達した時間を検出時間として、表1に示した。
【0019】
【表1】

【0020】
また、同じ培養液を酸素センサの固相されたマルチウェルプレートで酸素消費量を経時的に測定することにより微生物の呼吸活性を測定した。得られた測定結果を横軸に検出時間、縦軸に蛍光強度をとったグラフにして図4−6に示す。
表1に示すように、還元型キノンは対象実験に比較して、レサズリンの還元を促進し、検出時間が大幅に短縮された。また、図4−6に示すように、還元型キノンの添加は、酸素消費量に影響を与えないことから、微生物に対する毒性は認められなかった。
【0021】
実施例2 還元型キノン類および酸化型キノン類併用効果
還元型キノン類および酸化型キノン類を併用した場合の酸化還元指示薬触媒効果を調べるため、以下の検討を行った。0.01 mg/mLレサズリン含有ポテトデキストロースブロスに対して還元型キノンであるハイドロキノンを0.02 mg/mL、酸化型キノンであるメナジオンを0.02 mg/mLを各々単独、もしくは混合添加した。Aspergillus niger ATCC16404胞子液を終濃度1×105 CFU/mLとなるように培地に添加した。また、ポテトデキストロース寒天培地に一晩、前培養したCandida albicans JCM1542のコロニーを生理食塩水に懸濁し、終濃度1×105 CFU/mLとなるように培地に添加した。菌液を添加した培地をマルチウェルプレートに50μL分注し、25℃で培養した。各微生物活性によりレサズリンが還元され生じるレゾルフィンを蛍光プレートリーダーにより、経時的に測定した。得られた結果を前記実施例1と同様に蛍光強度が100 RFUに到達した時間を検出時間として、表2に示した。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示すように、メナジオンを添加した場合には、Candida albicans JCM1542ではキノン類無添加培地に比較して大幅に検出時間が短縮された。一方で、Aspergillus niger ATCC16404に対するメナジオンの時間短縮効果は微弱であった。また、ハイドロキノンを添加した培地ではCandida albicans JCM1542には時間短縮効果はなかったのに対して、Aspergillus niger ATCC16404では大幅に検出時間が短縮された。さらに、メナジオンとハイドロキノンの両方を添加した培地では、Aspergillus niger ATCC16404 、Candida albicans JCM1542ともに大幅に検出時間が短縮された。以上の結果から、酸化型キノンまたは還元型キノンを単独添加した場合にはAspergillus niger ATCC16404またはCandida albicans JCM1542のいずれか一方にしか触媒効果が認められなかったのに対して、酸化型キノンおよび還元型キノンを混合添加した場合には、Aspergillus niger ATCC16404およびCandida albicans JCM1542両微生物の酸化還元指示薬触媒効果が認められることを明らかにした。
このことから、還元型キノンおよび酸化型キノンを併用することにより、より広範囲の微生物に対して効果が得られることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】検出時間と蛍光強度を示す図である。
【図2】検出時間と蛍光強度を示す図である。
【図3】検出時間と蛍光強度を示す図である。
【図4】経時的な酸素消費量の変化を示す図である。
【図5】経時的な酸素消費量の変化を示す図である。
【図6】経時的な酸素消費量の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物含有試料を酸化還元指示薬及び還元型キノンに接触させ、前記酸化還元指示薬が還元されて生じる色を測定することを特徴とする、前記試料中の微生物を検出する方法。
【請求項2】
微生物含有試料を酸化還元指示薬、還元型キノン及び酸化型キノンに接触させ、前記酸化還元指示薬が還元されて生じる色を測定することを特徴とする、前記試料中の微生物を検出する方法。
【請求項3】
還元型キノンがハイドロベンゾキノン類、ナフトハイドロキノン類及びアントラハイドロキノン類からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2記載の微生物を検出する方法。
【請求項4】
酸化還元指示薬と還元型キノンを有する微生物検出用試薬。
【請求項5】
更に、酸化型キノンを有する請求項4記載の微生物検出用試薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate