説明

微生物を用いたカロテノイドの製造法

【課題】 本発明は、微生物を用いたカロテノイド、特にリコペンなどのカロテン類を効率的に製造する方法を提供することである。
【解決手段】 カルシウム化合物を、その終濃度が3.6mM以上となるよう添加した培地を用い、当該培地によりカロテノイド生産能を有する微生物を培養することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いたカロテノイド、特にリコペンなどのカロテン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、動物や植物、微生物等によって生産される赤色から橙色、黄色を呈する色素で、天然の食用色素や飼料として有用な化合物であり、近年ではその優れた抗酸化活性による発癌抑制効果などが着目され、サプリメントなど健康食品に利用されている。
【0003】
カロテノイドは、酸素原子を含むキサントフィル類と酸素原子を含まないカロテン類の2種類に大別されるが、前者にはアスタキサンチン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン等があり、また後者にはリコピン、β-カロテン、ζ-カロテン、フィトフルエン、α-カロテン、フィトエン、γ-カロテン、ニューロスポレン等がある。
【0004】
カロテノイドは植物からの抽出品が多く、例えばリコペンはトマト果実等から、ルテインはマリーゴールドの花弁等から抽出されている。しかし、植物から抽出できるカロテノイド量は少なく、近年の増大しつつある需要を満たすには大量の植物原料が必要となるが、植物の生育は天候等によって左右されるため、安定的かつ安価なカロテノイドの供給は困難である。そこで、より効率的、安定的かつ安価なカロテノイド供給のため、微生物を用いたカロテノイドの生産が提案されている。
【0005】
微生物を利用してカロテノイドを製造する方法として、例えば、藻類(特許文献1)やケカビ(特許文献2)を利用してリコペンを製造する方法が提案されている。また、海洋性アグロバクテリウム属(後にパラコッカス属へ再分類された)細菌N−81106株(特開平7−184668号)由来のリコペン生産菌を利用する方法、TSTT003株(平成17年10月25日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−20696として受託されている)を利用する方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−313167号公報
【特許文献2】特開2003−304895号公報
【特許文献3】特開2007−151474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した方法の中でも、海洋性アグロバクテリウム属細菌由来のリコペン生産菌を利用する方法は、提案されているカロテノイドの製造方法として優れた方法である。しかし、このようなグラム陰性菌の微生物は、生産したカロテノイドを細胞膜に蓄積し増殖性を損なうという課題がある。カロテノイドは疎水性が高いため、蓄積によって細胞膜の流動性を低下させ、微生物の増殖を抑制してしまうからである。特にリコペンやβ−カロテン等の酸素原子を含まないカロテン類は、酸素原子を含むアスタキサンチンやルテイン等のキサントフィル類に比べて疎水性が高いため、微生物の増殖抑制は顕著であり、増殖が抑制されると、結果的にカロテノイドの効率的な製造が困難になる。
【0008】
そこで本発明は、より効率的にカロテノイド、特にリコペンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、前記目的を達成できる本発明を完成するに至った。即ち本発明は、カロテノイド、特にリコペンを効率的に製造することの可能なカロテノイドの製造方法であって、カルシウム化合物を、その終濃度が3.6mM以上となるよう添加した培地を用い、当該培地によりカロテノイド生産能を有する微生物を培養することを特徴とする。以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、微生物、特にグラム陰性菌の細胞膜の構造を変化させる性質を有するカルシウムを利用することにより、カロテノイドの蓄積による微生物の増殖抑制を緩和するものである。本発明では、終濃度で3.6mM以上、好ましくは3.6mMから7mM、更に好ましくは5mMから7mMのカルシウムを含む培地を使用するが、かかる培地を得るためには、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム又は酢酸カルシウム等の、広く一般に入手可能なカルシウム化合物を培地に添加すれば良い。カルシウムは有水物であっても無水物であっても良く、その培地への添加量は終濃度で前記のようであれば良い。添加するカルシウムの終濃度が3.6mM未満であると本発明の効果が薄れ、逆に7mM以上となるように添加しても、カルシウムを添加する効果が頭打ちとなるからである。なお、微生物の細胞膜構造の変化には、厳密にはカルシウムイオンが影響するが、カルシウムの高いイオン化傾向を勘案すれば、培地に終濃度が3.6ミリモル以上となるカルシウム化合物を添加することは、培地中のカルシウムイオンを3.6ミリモル以上とすることと同義である。
【0011】
カルシウム以外の培地成分としては、従来から微生物を利用してカロテノイドを製造する際に使用されている培地成分を特に制限なく使用することができ、また本発明においては、上記したカルシウムの添加以外に特別の成分を追加する必要はない。具体的に、カルシウム以外の培地の成分を例示すれば、例えば、炭素源として廃糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール又は酢酸等を、窒素源としてコーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粕、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、グルタミン酸、アスパラギン酸又はグリシン等を、無機塩としてリン酸1ナトリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム等のリン酸塩又は塩化ナトリウム等を、金属イオンとして塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、塩化第1鉄、塩化第2鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン又は塩化マンガン等を、ビタミン類として酵母エキスやビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール又はピリドキシン等を使用すれば良い。なお培地成分には、上記例示した化合物の有水物又は無水物が制限なく使用できる。
【0012】
本発明において培養する微生物は、カロテノイド生産能を有するものであれば何ら制限されないが、生産したカロテノイドをその細胞膜に蓄積する性質を有する微生物に対して特に効果的である。そのような微生物として、グラム陰性菌を例示することができるが、細菌、中でもパラコッカス属の細菌が好ましい。パラコッカス属細菌の中でも、N−81106株は、良好なカロテノイド生産能を有しており、また本発明に使用する微生物として特に好ましい。
【0013】
本発明では、前記したN−81106株のような天然に存在する微生物以外にも、遺伝子的な改変によってカロテノイド生産能が向上された改変微生物を使用することもできる。かかる改変微生物は、天然に存在する微生物が自然突然変異によって、又は変異原物質や紫外線等による人為的変異導入操作によって、本来有していなかったカロテノイド生産能を獲得し、又は本来有していたカロテノイド生産能が増強した微生物である。本発明では、更に、カロテノイドの生産に係わる遺伝子を導入する等、遺伝子組換え微生物をも使用することができる。
【0014】
上記した改変微生物の一例として、前記N−81106株に人為的に変異を与えてカロテノイド生産能を増強したTSUG1C11株(特開2005−58216号)、TSN18E7株(特開2005−58216号)、TSTT031株(特開2007−181449号)、TSTT052株(平成1年10月18日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P−20690として受託され、その後原寄託についてBP−10754として受託されている)、TSTT003株(平成17年10月25日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM P−20696として受託されている)又はTSLGO3−2株(平成22年12月15日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P−22035として受託されている)を例示することができる。
【0015】
また上記した遺伝子組換え微生物の一例として、N−81106株、TSN18E7株、TSTT031株又はTSTT052株に対し、更に遺伝組換え操作を実施した組換え微生物を例示することができる(特願2005−315070号参照)。
【0016】
以上に説明した微生物を上記説明した培地中で培養することにより、カロテノイドを効率的に製造することができる。微生物を培養する操作について、本発明では特に制限はないが、一例を説明すれば、例えば、15℃から35℃、好ましくは22℃から30℃の範囲の培養温度で、培地のpHをpH6からpH9、好ましくはpH6.5からpH8.0に維持しつつ、20時間から200時間、好ましくは60時間から180時間に渡って培養することが例示できる。例示した培養温度やpHは、培養の初期段階、中期段階及び後期段階の各段階でそれぞれの段階に適切となるように変更することができる。また培地中の糖濃度は、例えば高濃度グルコース等の糖溶液を流加することにより低濃度かつ枯渇しない条件に維持することが好ましい。
【0017】
本発明で用いる微生物を培養すると、微生物内でカロテノイドが生産され、そのカロテノイドは微生物内、特にその細胞膜に蓄積され又は微生物外に放出され、培養液蓄積される。このようにして製造したカロテノイドの回収についても、従来使用されている方法を使用することができる。そのような方法として、例えば、有機溶媒を用いて製造したカロテノイドを抽出する方法を例示することができる。有機溶媒としては、具体的に例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロフォルム、ジメチルフォルムアミド又はジメチルスルフォキシド等を例示することができる。これら有機溶媒は、単独で又は2種類以上を混合して使用することもできる。このようにして回収したカロテノイドは、必要に応じて高度に精製することが可能である。精製方法としては、カロテノイドが微生物の細胞膜に蓄積される場合、まず微生物を培地から遠心分離、デカンテーション又はろ過等の方法で分離し、水を加えてスラリーとし、例えばガラスビーズ、ジルコニアビーズを用いた破砕機又は高圧ホモジナイザーを使用して均一化すると良い。なおここで、特にリコペンの分解を防ぐためには、このスラリーに酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤としてはアスコルビン酸等の還元剤を例示することができる。
【0018】
その後、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー又はゲルろ過クロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィーにより精製することが可能であるが、中でも逆相クロマトグラフィー又は順相クロマトグラフィーが好ましい。液体クロマトグラフィーによってカロテノイドを精製する場合には、420nmから510nmに吸光ピークを有する画分、更に高い精製度を達成する場合には450nmから490nmに吸光ピークを有する画分を取得すれば良い。
【発明の効果】
【0019】
カロテノイド生産能を有する微生物をカルシウムを添加した培地で培養するという、極めて簡単な操作により、カロテノイド生産能を有する微生物のカロテノイド生産性を向上することができる。この操作は、単に培地に対して一定量のカルシウム化合物を添加するだけで実施できるから、実施者に熟練は不要であり、また実施に要する時間は極めて短時間である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】1.2ミリモルの塩化カルシウムを添加した培地でTSLGO2−23株を培養した時のカロテノイド生産パターンを示すHPLCチャートである。
【図2】3.6ミリモルの塩化カルシウムを添加した培地でTSLGO2−23株を培養した時のカロテノイド生産パターンを示すHPLCチャートである。
【図3】7.2ミリモルの塩化カルシウムを添加した培地でTSLGO2−23株を培養した時のカロテノイド生産パターンを示すHPLCチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を更に詳細に説明するために実施例を記載するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
実施例1 リコペン生産変異株の作製
【0023】
TSTT052株を表1に示す培地3mLに植菌し、試験管中、25℃、150rpmで1晩振とう培養を行った。この培養液のうち1mLを1.5mLエッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、5分間の遠心分離により微生物を回収した。この微生物をpH7.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(以下「緩衝液A」とする)1mLに懸濁し、次いで3mg/mLのN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(以下「NTG」とする)水溶液10μLを加え、30分から60分間静置した。その後、遠心分離して上清を除去し、緩衝液Aに再懸濁する操作を2回繰り返してNTGを除去した。さらに、表1に示す培地1mLにこの微生物を懸濁し、試験管中、25℃、150rpmで4時間から5時間振とう培養した。得られた培養液を適度に希釈し、表2に示す組成の平板培地に塗布して、25℃で1週間静置培養を行った。生育してきたコロニーのうちリコペン生産菌に特有の桃色を呈するコロニーを選別し、フラスコ培養による変異株の評価に供した。
【0024】
選別した変異株を、表1に示す培地3mLに植菌し、試験管中、25℃、150rpmで1晩振とう培養した。次いでこの培養液0.5mLを、100mL容バッフル付三角フラスコに入れた表1に示す培地60mLへ植菌し、25℃、120rpmで6日間振とう培養を行った。培養中は培養液を適宜抜き取り、濁度(OD660nm)、グルコース濃度、及びカロテノイド生産量を経時的に分析した。
【0025】
カロテノイド生産量の定量は以下のように行った。まず培養液0.8mLを1.5mL容エッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、5分間の遠心分離により微生物を回収した。この微生物を50μLの純水に懸濁し、次いで550μLのジメチルフォルムアミド、及び1000μLのアセトンを順次加え振とうすることでカロテノイドを抽出した。抽出残渣を15,000rpm、20分間の遠心分離により除去した後、得られた抽出上清を逆相クロマトグラフィー(商品名、TSKgel−ODS80TMカラム、東ソー株式会社製)を用いた高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」とする)で定量した。なお、カロテノイドの分離はA液として純水とメタノールの5:95の混合溶媒、B液としてメタノールとテトラヒドロフランの7:3の混合溶媒を用い、1mL/minの流速で、A液を5分間カラムに通液させた後、同じ流速においてA液からB液へ5分間の直線濃度勾配溶出を行い、さらにB液を5分間通過させることにより行った。カロテノイド濃度は470nmの吸光度をモニターし、既知濃度のリコペン試薬(和光純薬社製)で作成した検量線より濃度を算出した。
【0026】
上記の方法に従って変異株のリコペン生産性を評価し、リコペンを選択的に高生産する新規変異株2D038株を取得した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

実施例2 2D038株への変異導入によるリコペン高生産菌の作製
実施例1と同様に、2D038株を表1に示す培地3mLに植菌し、試験管中、25℃、150rpmで1晩振とう培養を行った。この培養液のうち1mLを1.5mLエッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、5分間の遠心分離により微生物を回収した。
【0029】
この微生物を1mLの緩衝液Aに懸濁し、次いで3mg/mLのNTG水溶液10μLを加え、30分から60分間静置した。その後、遠心分離して上清を除去し、緩衝液Aに再懸濁する操作を2回繰り返してNTGを除去した。さらに、表1に示す培地1mLにこの微生物を懸濁し、試験管中、25℃、150rpmで4時間から5時間振とう培養した。得られた培養液を適度に希釈し、表2に示す組成の平板培地に塗布して、25℃で1週間静置培養を行った。生育してきたコロニーのうち桃色の強いものを選別し、フラスコ培養による変異株の評価に供した。
【0030】
実施例2と同様に、選別した変異株を表1に示す培地3mLに植菌し、試験管中、25℃、150rpmで1晩振とう培養した。次いでこの培養液1mLを、100mL容バッフル付三角フラスコに入れた表1に示す培地60mLへ植菌し、25℃、120rpmで5日間振とう培養を行った。培養中は培養液を適宜抜き取り、濁度(OD660nm)、グルコース濃度、及びカロテノイド生産量を経時的に分析した。
【0031】
カロテノイド生産量の定量は以下のように行った。まず培養液0.2mLを2.0mL容エッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、5分間の遠心分離により微生物を回収した。この微生物20μLの純水に懸濁し、次いで480μLのジメチルフォルムアミド、及び500μLのアセトンを順次加え振とうすることでカロテノイドを抽出した。抽出残渣を15,000rpm、20分間の遠心分離により除去した後、実施例2に記載の方法に従ってHPLC分析によりカロテノイドを定量した。
【0032】
上記の方法に従って変異株の増殖性やリコペン生産性を評価し、2D038株と同等のリコペン生産性を有し、増殖性が向上した変異株TSLGO2−23株を取得した。表4に濁度及びリコペン生産量の最大値を示した。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

実施例3 リコペン生産変異株の評価
実施例2で示した変異株2D038株及びTSLGO2−23株を表1に示す培地3mLに植菌し、試験管中、25℃、150rpmで1晩振とう培養した。次いでこの培養液1mLを、100mL容バッフル付三角フラスコに入れた表3に示す培地20mLへ植菌し、25℃、120rpmで4日間振とう培養を行った。培養中は培養液を適宜抜き取り、濁度(OD660nm)、グルコース濃度、pH、及びカロテノイド生産量を経時的に分析した。カロテノイド生産量の定量は以下のように行った。まず培養液0.1mLを2.0mL容エッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、5分間の遠心分離により微生物を回収した。この微生物を20μLの純水に懸濁し、次いで480μLのジメチルフォルムアミド、及び500μLのアセトンを順次加え振とうすることでカロテノイドを抽出した。抽出残渣を15,000rpm、20分間の遠心分離により除去した後、実施例2に記載の方法に従ってHPLC分析によりカロテノイドを定量した。
【0035】
上記の方法に従って変異株の増殖性やリコペン生産性を評価した。表5に濁度(OD660nm)、リコペン生産量、グルコース消費量の結果を示すように、TSLGO2−23は2D038株よりも増殖性に優れ実施例3と同じ結果が得られた。またリコペン生産量は実施例3よりも増加し、120mg/Lであった。
【0036】
【表5】

実施例4 リコペン生産変異株のカルシウムによる影響
TSLGO2−23株を表1に示す培地3mLに植菌し、試験管中、25℃、150rpmで1晩振とう培養した。次いでこの培養液1mLを、100mL容バッフル付三角フラスコに入れた表3に示す培地のうち塩化カルシウム濃度を3.6mM、7.2mM、10.8mMに変更した組成の培地20mLへ植菌し、25℃、120rpmで4日間振とう培養を行った。培養終了後、濁度(OD660nm)、グルコース濃度、及びカロテノイド生産量を測定した。カロテノイド生産量の定量は以下のように行った。まず培養液0.1mLを2.0mL容エッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、5分間の遠心分離により微生物を回収した。この微生物を20μLの純水に懸濁し、次いで480μLのジメチルフォルムアミド、及び500μLのアセトンを順次加え振とうすることでカロテノイドを抽出した。抽出残渣を15,000rpm、20分間の遠心分離により除去した後、実施例2に記載の方法に従ってHPLC分析によりカロテノイドを定量した。
【0037】
上記の方法に従って変異株の増殖性やリコペン生産性を評価した。表6に培養終了時の濁度(OD660nm)及びリコペン生産量、グルコース消費量を示す。表6の通り、塩化カルシウムの濃度を3.6ミリモル以上に増やすことで濁度及びリコペン生産量とも有意に増加した。
【0038】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム化合物を、その終濃度が3.6mM以上となるよう添加した培地を用い、当該培地によりカロテノイド生産能を有する微生物を培養することを特徴とする、カロテノイドの製造方法。
【請求項2】
前記カロテノイドが酸素原子を含まないカロテン類であることを特徴とする、請求項1に記載のカロテノイドの製造方法。
【請求項3】
請求項1及び請求項2に記載のカロテノイドがリコペンであることを特徴とする、カロテノイドの製造方法。
【請求項4】
前記微生物が、生産したカロテノイドを細胞膜に蓄積する微生物であることを特徴とする、請求項1から3項のいずれかに記載のカロテノイドの製造方法。
【請求項5】
前記微生物がパラコッカス属細菌であることを特徴とする、請求項4に記載のカロテノイドの製造方法。
【請求項6】
前記パラコッカ属細菌がN−81106株又はその変異株であることを特徴とする、請求項5に記載のカロテノイドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−139164(P2012−139164A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294127(P2010−294127)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】