説明

微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタおよび方法

【課題】微生物セルロースを生産するための装置と方法を提供する。
【解決手段】容器の中にセルロース生産菌を含む液体培地を準備し;各中空管は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有し、交互にその一部が容器内の液体培地中に浸漬されかつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、同軸的に間隔をあけて配置されたまたは相互に軸離間して配置された複数の中空管を水平軸を中心に回転して、微生物に中空管の外面に微生物セルロースを形成させると共に、容器の中空管により妨げられない液体培地の水平面に微生物セルロースのシート物を形成し;さらに各中空管の外面から微生物セルロースを取り外して、管状の微生物セルロースを得る、微生物セルロースの製造装置および製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタおよび方法に関するものである。特に、本発明は、管状の微生物セルロースおよび微生物セルロースのシート物(シート)を同時に生産するためのバイオリアクタおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くのバクテリア、特に酢酸菌(Acetobacter)の菌株を培養すると、バクテリア・セルロースを生産できる。糖および酸素存在下で、酢酸菌(Acetobacter)細胞は、細胞に付着した繊維(fibril)形態で細胞外にセルロースを合成する。静置培養でインキュベートされた細胞によって生産された繊維は、相互に絡み合って、外皮(pellicle)として知られている親水性ネットワークを形成する。この外皮は、通常、浅いトレーに含まれる静止・無攪拌培地(motionless and undisturbed culture)の気体と液体との界面で形成する。細胞除去後の、粘性のあるゲル様の微生物セルロース外皮は、創傷被覆材、紙、化粧品やスピーカー振動膜などの多くの用途がある。
【0003】
従来、バクテリア外皮の生産は、静置培養条件下で行われるが、手間がかかる上多大な時間がかかる。例えば、特許文献1には、外皮由来の(pellicular)微生物セルロースを生産するために使用される回転ディスク型のバイオリアクタが開示される。上記特許文献1のバイオリアクタは、底部に微生物培養用の液体培地を収容する容器(trough)、シャフト、および当該シャフトに取り付けられた一連の平行な環状盤体を有する。ここで、環状盤体の外部は、液体培地の水平面下に浸漬されるが、環状盤体は、微生物セルロース生産菌が付着、成長できるような適当なメッシュサイズを有し、これにより、微生物に、微生物セルロースを細胞外に合成させる。このバイオリアクタはさらに、環状盤体を回転させるために、回転装置がシャフトに取り付けられる。したがって、回転装置が作動すると、環状盤体の外部が液体培地の水平面の下に交互に浸される。
【0004】
管状の微生物セルロースの外皮は、人工血管の作製などの、特別な用途により生産される。特許文献2には、上記を目的とした中空モジュールが開示され、この中空モジュールは、2個のガラス半チューブ(half tube)、ガラス製シリンダー、および2個のO形リングを有する。また、2個のガラス半チューブは、間に管状空間が形成されるように、2個のO形リングを用いてガラス製シリンダーに取り付けられ、そして、上側のスリットと下側のスリットは2個のガラス半チューブの間で形成される。上側のスリット、下側のスリット、および管状空間は、相互接続されている。下側のスリットを、微生物培養用の液体培地の水平面で生育した外皮由来の微生物セルロースと接触させることにより、微生物セルロースが下側のスリット、管状空間および上側のスリット中に生育して、管状の微生物セルロースを形成する。上記特許文献2の第一の実施形態によると、液体培地の水平面に微生物セルロースを生育させるのに7日間を必要とし、(3mmの内径と4.5mmの外径を有する)管状の微生物セルロースに生育するには更に2〜3週間かかる。
【0005】
特許文献3には、付着増殖生物リアクタ(attached growth biological reactor)が開示され、当該リアクタは、糸状菌の付着と成長のために十分粗い外表面を有する水平方向に配置された縦軸に対して回転可能な剛体シリンダ;当該シリンダの下に配置され、シリンダの少なくとも一部が浸漬するくらいの培地を含む容器(trough);水平にかつシリンダに平行に配置され、シリンダと接触することによりシリンダ表面の物質をこすり落とすための、ブレード;およびシリンダに連結され、シリンダを回転させるための回転装置、を有する。上記リアクタは、糸状菌の連続的生産には使用できるものの、このシリンダは、管状微生物セルロースの生産には不適当である。
【0006】
上記の特許の内容は、参考で全体を本明細書中に引用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,071,727号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/093445号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,246,854号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献では、管状の微生物セルロースの生産のための方法とモジュールが開示されるが、生産効率やモジュールの改善の余地が依然としてある。このことは、特により大きい管状の微生物セルロースに対する必要性が高まるに従って、当てはまる。例えば、食品産業に使用される食物ケーシング、特に微生物セルロースがベジタリアンの食物の一種として見なされるので、ベジタリアンのケーシング、に関しては、現在の生産効率やモジュールは、産業からの実際の必要性において遅れをとっていることが知られている。
【0009】
本発明の目的は、管状の微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタ、特に新規なモジュールを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、管状の微生物セルロースを生産するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、異なる直径の管状の微生物セルロースを同時に生産するためのバイオリアクタ、特にモジュールを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる別の目的は、異なる直径の管状の微生物セルロースを同時に生産するための方法を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、管状の微生物セルロースおよび微生物セルロースのシート物(シート)を同時に生産するためのバイオリアクタおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、複数の中空管が同軸的に間隔をあけて配置されまたは相互に軸離間して配置され、各中空管は、交互に、その一部が容器内の液体培地中に浸漬され、かつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、前記容器内で水平に回転するように配置されてなる、水平モジュールをバイオリアクタに用いることによって、上記目的が達成できうることを知得し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタであって、前記微生物セルロースは、管状の微生物セルロースを含み、前記バイオリアクタは、微生物の培養のための液体培地を収容するための容器と、複数の中空管が同軸的に間隔をあけて配置されるまたは相互に軸離間して配置される水平モジュールと、を有し、前記水平モジュールは、各中空管が、交互に、その一部が容器内の液体培地中に浸漬され、かつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、前記容器内で水平に回転するように配置されてなる、微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタによって達成される。
【0016】
本発明はまた、容器の中にセルロース生産菌を含む液体培地を準備し;
各中空管は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有し、交互にその一部が容器内の液体培地中に浸漬されかつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、同軸的に間隔をあけて配置されたまたは相互に軸離間して配置された複数の中空管を水平軸を中心に回転して、微生物に中空管の外面に微生物セルロースを形成させると共に、容器の中空管により乱されない(妨げられない)液体培地の水平面に微生物セルロースのシート物を形成し;さらに各中空管の外面から微生物セルロースを取り外して、管状の微生物セルロースを得る、微生物セルロースの製造方法によっても達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、直径が大きい管状の微生物セルロースを高い生産量効率で生産できるという利点がある。
【0018】
本発明の別の利点としては、異なる直径の管状の微生物セルロースを同時に生産できることがある。また、本発明によると、管状の微生物セルロースおよび微生物セルロースのシート物(シート)を同時に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態による3本の中空管が共に合体して(同軸的に相互に間隔をあけて配置されて)組み立てられた水平モジュールを示す分解斜視図である。
【図2】図2は、容器30が透明である、本発明の他の好ましい実施形態によるバイオリアクタを示す側面図である。
【図3】図3は、本発明の別の好ましい実施形態によるスペーサーを示す側面図である。
【図4】図4は、容器30が透明である、本発明の他の好ましい実施形態によるバイオリアクタを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一の態様によると、微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタであって、前記微生物セルロースは、管状の微生物セルロースを含み、前記バイオリアクタは、微生物の培養のための液体培地を収容するための容器と、複数の中空管が同軸的に間隔をあけて配置されまたは相互に軸離間して配置され、各中空管は、交互に、その一部が容器内の液体培地中に浸漬され、かつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、前記容器内で水平に回転するように配置されてなる、水平モジュールと、を有する、微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタに関するものである。
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1、2は、本発明の好ましい実施形態による3本の中空管を共に合体することにより組み立てられた水平モジュールを示す。
【0023】
本発明の好ましい実施形態を示す図1および2において、水平モジュール10は、3個の中空管を備えて組み立てられる。図中、水平モジュール10は、3個の中空管11、12、13を有し、これらの中空管は、同軸的に間隔をあけて配置される。なお、図中では、中空管の本数は、3本であるが、中空管の本数は、特に3本に限定されず、いずれの本数でもよいが、2〜5本が好ましく、中空管は2〜5本の円筒状管であることが特に好ましい。
【0024】
また、中空管は、例えば、中空管11、12、および13の直径が、それぞれ、30mm、40mm及び50mmであり、これらの肉厚はいずれも1.0mmである。また、本発明のバイオリアクタは、2個のスペーサー20を含んでいてもよい。好ましくは、中空管11、12、および13が同軸的に間隔をあけて配置される当該形態のバイオリアクタでは、水平モジュール10は、中空管の両末端に位置する2個のスペーサー20をさらに有する。このスペーサー20は、中空管11、12、13を同軸的に間隔をあけて固定するために使用され、それぞれ、中空管から離れる方向にスペーサーから水平方向に伸長するシャフト22を備える。また、2本のシャフト22は、中空管11、12、13が容器内で水平軸の周りを容器内で回転するように同軸であり、前記容器に回転可能に設けられる。
【0025】
この場合、各スペーサー20は、断面十字形部材21及びシャフト22を有してもよい。断面十字形部材21は、十字の中心周辺に4個の連結用のクレフト(joining cleft)23を有する。ここで、各連結用のクレフト23は、中空管の端部と連結しこれを保持するために使用され、実質的に等間隔で断面十字形部材21に設けられることが好ましい。図では、3個の連結用のクレフト23が各断面十字形部材21の中心周辺に設けられている。各断面十字形部材21の連結用のクレフトの数は特に限定されず、4個であってもよい。また、連結用のクレフトの位置もまた限定されないが、例えば、一の連結用のクレフト23と次の隣接する連結用のクレフト23との間隔が5mmでありうる。この場合には、例えば、第一の連結用のクレフトが、十字の中心点から15mmの位置に設けられ、第一の中空管11(30mmの直径がある)の端部と連結して、これを保持しうる。次に、第二の連結用のクレフトが、十字の中心点から20mmの位置に設けられ、第二の中空管12(40mmの直径がある)の端部と連結して、これを保持しうる。最後に、第三の連結用のクレフトが、十字の中心から25mmの位置に設けられ、第三の中空管13(50mmの直径がある)の端部と連結して、これを保持しうる。上記によって、3個の中空管11、12、および13の一方の端部は、スペーサー20と、5mm間隔で、連結用のクレフト23を介してそれぞれ連結できる。次に、上記と同様にすることにより、3個の中空管11、12、および13の他端もまた、別のスペーサー20と、5mm間隔で、連結用のクレフト23を介してそれぞれ連結できる。すなわち、前記スペーサーは20、断面十字形部材21を有し、前記断面十字形部材21は、等間隔で十字の中心周辺に連結用のクレフト(joining cleft)23を有し、前記連結用のクレフト23は、中空管の端部と連結しこれを保持するために使用され、前記断面十字形部材21の端部は、十字の中心でシャフト22が配置されてなることが好ましい。
【0026】
また、上記部材を上記したようにして組み立てることによって、2本のシャフト22は、スペーサー20から水平方向に伸張する。この際、シャフト22は、水平に回転する軸と同軸でありうる。これにより、中空管が容器内で水平軸の周りを回転する。また、シャフト22は、容器に回転可能なように固定されることが好ましい。さらに、上記組み立て後の、水平モジュール10は、3個の中空管11、12、13が同軸的に間隔をあけて配置される。
【0027】
なお、本発明のバイオリアクタは、上記形態に限定されない。例えば、上記したような中空管が同軸的に間隔をあけて配置される形態では、中空管の最内管の直径は、好ましくは1〜5cmである。また、同軸的に隣接する中空管同士の間隔は、好ましくは0.5〜2cmである。
【0028】
また、本発明において、中空管11、12、13は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有することが好ましい。より好ましくは、きめの粗い外面は、規則的織り目(規則性テキスチュア;regular texture)14を有する。これにより、微生物の付着及び均一な生育が可能となる。
【0029】
または、図3に示されるように、断面Y字形部材21Aを有するスペーサー20Aを使用することによって、図1及び2と同様の水平モジュール10を組み立てることができる。図3は、本発明の別の好ましい実施形態によるスペーサーを示す側面図である。ここで、図3に示されるスペーサー20Aを、図1及び2に示されるスペーサー20と比べると、唯一の違いは、前者は断面Y字形部材21Aであるのに対して、後者は断面十字形部材21であることであるが、双方とも、シャフト22及び連結用のクレフト23を有する点では同じである。すなわち、スペーサーは、断面Y字形部材を有し、前記断面Y字形部材は、等間隔でY字の中心周辺に連結用のクレフト(joining cleft)を有し、前記連結用のクレフトは、中空管の端部と連結しこれを保持するために使用され、前記断面Y字形部材の端部は、Y字の中心でシャフトが配置されてなることが好ましい。
【0030】
図2は、容器30が透明である、本発明の他の好ましい実施形態によるバイオリアクタを示す側面図である。図2中、バイオリアクタは、水平モジュール10、および微生物の培養のための液体培地40を収容するための容器30を有する。水平モジュール10及び容器30は、本発明の微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタを構成する主要な部材である。ここで、容器30には、両側面の上縁に2個の半円形の刻み目(くぼみ)31が配置される。これにより、水平モジュール10のシャフトを保持し、水平モジュール10を、容器30内で水平軸の周りを回転するように配置すると共に、3個の中空管11、12、13を、それぞれ、交互にその一部が容器30内の液体培地40中に浸漬しかつ他の一部が液体培地40の水平面より上に露出させることになる。シャフト22の一方は、ノッチ(切込み)24を有していてもよい。このノッチ24を伝導軸の対応する直線状のボタン(図示せず)に連結して、伝導軸をモーターで回転すると、図2の水平モジュール10は水平軸を中心に回転する。
【0031】
本発明は、上記形態に限定されるものではなく、他の形態を本発明のバイオリアクタに適用してもよい。例えば、図1や図2に示される水平モジュール10の数を、2個など、複数個にまで増加してもよい。または、水平モジュール10を構成する中空管の数を、3個ではなく、さらに増加するあるいは減少してもよい。より具体的には、水平モジュール10を構成する中空管の数を、1個か2個を加える(即ち、4個もしくは5個とする)、または1個か2個を減らす(即ち、2個もしくは1個とする)ことも可能である。
【0032】
上記形態では、水平モジュールが中空管が同軸的に間隔をあけて配置された構造であったが、本発明は、上記形態に限定されるものではなく、図4に示されるように、中空管が相互に軸離間して配置されていてもよい。
【0033】
図4は、容器30が透明である、本発明の他の好ましい実施形態によるバイオリアクタを示す側面図である。図4では、2個の直径が50mmの中空管を水平方向に軸離間させて使用する以外は、バイオリアクタの各部材は全て図2に示されていたものと同じである。なお、図4において、2個の中空管は、水平方向に平行に軸離間して配置される。図中、図2と同様の部材については同様の図番及び記号を付している。なお、本発明は、上記形態に限定されるものではない。例えば、中空管の直径は、好ましくは2〜20cmである。また、水平モジュール同士の間隔(軸間隔)もまた、特に制限されず、容器の大きさおよび水平モジュールの数によって適宜設定され、水平モジュールが均一に存在するような間隔(軸間隔)であることが好ましい。また、図3に示される水平モジュール10の数は、2個であったが、当該個数に限定されるものではなく、1個であってもあるいは3個以上(例えば、3〜5個)であってもよい。
【0034】
本発明のバイオリアクタは、覆いのために容器30の上でふたをさらに有していてもよい。これにより、空気中からの様々なバクテリアによる液体培地40の汚染(混入)を最小にすることができる。ふたが存在するとき、容器30の周囲の壁の高さは、水平モジュール10の最高部より高くなるように設定する必要がある。これにより、ふたは容器を適切に覆うことができ、空気中からの様々なバクテリアによる液体培地40の汚染(混入)を最小にすることができる。選択的に、本発明のバイオリアクタを、微生物の培養を行うために、様々なバクテリアによって汚染されないような環境に置かれてもよい。
【0035】
本発明の装置を用いて微生物セルロースを生産する方法に使用されうる微生物は、特に制限されないが、例えば、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)が好ましい。
【0036】
本発明のバイオリアクタを用いることにより、管状の微生物セルロース、特に直径が大きい管状の微生物セルロースを高い生産量効率で生産できる。また、本発明のバイオリアクタを用いると、異なる直径の管状の微生物セルロースを、または管状の微生物セルロースおよび微生物セルロースのシート物(シート)を、同時に生産することもできる。
【0037】
したがって、本発明の第二の態様によると、容器の中にセルロース生産菌を含む液体培地を準備し;各中空管が、交互に、その一部が容器内の液体培地中に浸漬され、かつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、同軸的に間隔をあけて配置されたまたは相互に軸離間して配置された複数の中空管を水平軸を中心に回転して、微生物に中空管の外面に微生物セルロースを形成させると共に、容器の中空管により妨げられない(乱れのない(disturbed))液体培地の水平面に微生物セルロースのシート物を形成し;さらに各中空管の外面から微生物セルロースを取り外して、管状の微生物セルロースを得る、ことを有し、前記中空管は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有する、微生物セルロースの製造方法に関するものである。なお、上述したように、本発明の第二の態様による方法は、本発明の第一の態様によるバイオリアクタを使用する以外は、公知の方法と同様の方法・条件(例えば、使用する微生物、液体培地、培養条件など)を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。
【0038】
本発明によれば、微生物セルロースを生産するための方法は、上記した本発明のバイオリアクタを使用することによる微生物の培養を含む。このため、本発明の方法は、本発明の特徴である本発明のバイオリアクタを使用すること以外の要件、培養条件などは、特に制限されず、背景技術(例えば、背景技術で記載された特許公報など)に記載された条件が同様にしてあるいは修飾して使用できる。これにより、微生物は、各中空管11、12、13の外表面に管状の微生物セルロースを形成でき、さらに、容器30の中空管11、12、13により妨げられない液体培地の水平面に微生物セルロースのシート物(シート状の微生物セルロース)を形成できる。
【0039】
微生物セルロースを集める際には、水平モジュール10を容器30から取り出して、分解する。次に、中空管11、12、13を互いに分離する。本発明の方法では、中空管の外面(外表面)が粗く、内面(内裏面)が滑らかであるため、微生物によって形成された微生物セルロースは、粗い外面に主に優先して付着する。したがって、中空管を、互いに容易に切り離すことができる。その結果、例えば、最外の中空管13の内面が真ん中の中空管12の外面の微生物セルロースに付着することがなく、外面に微生物セルロースの層を有する中空管が得られる。中空管は容易に取り外すことができるので、微生物セルロースの損傷を防止できる。次に、微生物セルロースの層を中空管の外面から剥がし、その後、微生物を取り除くことにより、管状の微生物セルロースの生産物が生産物として得られる。選択的ではあるが、管状の微生物セルロースをさらに乾燥するおよび/または水分(潤い)を与えることを行なってもよい。容器30から水平モジュール10を取り外した後、容器30中の液体培地40から微生物セルロースのシート物を得る(除去する)ことが好ましい。その後、微生物を取り除くことにより、微生物セルロースのシート物(シート状の微生物セルロース)が生産物として得られる。選択的ではあるが、微生物セルロースのシート物(シート状の微生物セルロース)をさらに乾燥するおよび/または水分(潤い)を与えることを行なってもよい。
【0040】
本発明において、中空管は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有する。ここで、きめの粗い外面は、表面が粗ければ特に制限されないが、規則的織り目(regular texture)を有することが好ましい。これにより、微生物の付着及び均一な生育が可能となる。また、バイオリアクタの構造(例えば、水平モジュールや中空管の構造など)は、上記本発明の第一の態様と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0041】
本発明のバイオリアクタは、異なる直径の管状の微生物セルロースを生産できることに加えて、培養時間を効果的に短縮し、さらに時間やスペースという様々な単位当たりの微生物セルロースの収率を向上することができる。
【0042】
本発明の方法を用いて微生物セルロースを生産する方法に適する微生物は、特に制限されないが、例えば、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)が好ましく使用できる。しかし、本発明のバイオリアクタは、上記微生物に限定されるものではなく、真菌やアクチノバチルス等のアクチノバクテリア(Actinobacteria)等の繊維(フィラメント)を生産する微生物を培養するのにも使用できる。また、本発明のバイオリアクタは、固形物を生産する微生物の培養にも使用できる。嫌気的に培養する必要のある微生物を培養する際、液体培地を攪拌して、微生物と培地との混合を促進してもよい。これにより、培地の利用効率が上がる。
【0043】
本発明のバイオリアクタは、食品に使用されるケーシングの生産に、あるいは生体材料の生産に適用できる。また、本発明のバイオリアクタまたは方法を用いて生産された微生物セルロースは、創傷被覆材、紙、化粧品やスピーカー振動膜などの多くの分野に利用されうる。
【実施例】
【0044】
本発明をより良く理解するために、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるものではない。
【0045】
実施例1:3個の中空管を組み合わせた水平モジュールを有するバイオリアクタ
本実施例では、図1及び図2に示されるバイオリアクタ(直径が、それぞれ、30mm、40mm及び50mmで、肉厚が1.0mmの中空管11、12、13が、同軸的に5mm間隔で配置された構造)を用いた。ここで、容器30の大きさは、長さ33cm、幅23cm、および高さ4cmであり、3個の中空管11、12、13の長さは、30cmであった。シャフト22をモーターにより、10rpmで回転した。水平モジュール10も、10rpmで水平軸を中心に回転した。
【0046】
バイオリアクタを、微生物を培養するために、細菌で汚染されていない環境に設置した。ここで、液体培地40は、35mmの深さとした。培養温度は30℃とした。下記表1に示される組成で予め調製した前置振盪培養液(pre-agitated culture)を、液体培地40として用いた。この前置振盪培養液に、5%の微生物[グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)]を添加した。この前置振盪培養液を、30℃で2日間、120rpmで、細菌で汚染されていない環境下でインキュベートした。インキュベート終了時には、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)が大量に得られた。
【0047】
【表1】

【0048】
培養を、室温で、標準大気環境下で、7日間、行なった。
【0049】
全体として、容器の中空管により乱されない(妨げられない)液体培地の水平面から、1.62g/Lの微生物セルロースのシート物が得られ、また、3種の異なる大きさの管状の微生物セルロース(全体の重量が、1.425g/L)が水平モジュールから得られた。ゆえに、本実施例によると、総収量が3.045g/Lの微生物セルロースが得られた。
【0050】
実施例2:2個の中空管を組み合わせた水平モジュールを有するバイオリアクタ
実施例1のバイオリアクタにおいて、3個の中空管のうち2番目の中空管(直径:40mm)を使用しなかった以外は、実施例1で使われたステップとバイオリアクタを使用した。
【0051】
これにより、全体として、容器の中空管により乱されない(妨げられない)液体培地の水平面から、1.745g/Lの微生物セルロースのシート物が得られ、また、2種の異なる大きさの管状の微生物セルロース(全体の重量が、1.815g/L)が水平モジュールから得られた。ゆえに、本実施例によると、総収量が3.56g/Lの微生物セルロースが得られた。
【0052】
実施例3:単一の中空管を用いた水平モジュールを有するバイオリアクタ
実施例1のバイオリアクタにおいて、3個の中空管のうち1番目と2番目の中空管(直径:それぞれ、30mm、40mm)を使用しなかった以外は、実施例1で使われたステップとバイオリアクタを使用した。
【0053】
これにより、全体として、容器の中空管により乱されない(妨げられない)液体培地の水平面から、1.745g/Lの微生物セルロースのシート物が得られ、また、1種の管状の微生物セルロース(重量が、0.77g/L)が水平モジュールから得られた。ゆえに、本実施例によると、総収量が2.515g/Lの微生物セルロースが得られた。
【0054】
実施例4:2個中空管を軸離間して用いた水平モジュールを有するバイオリアクタ
実施例3において、図4に示すバイオリアクタ(直径が50mmで、肉厚が1.0mmの中空管13(2個)が相互に平行して軸離間して配置された構造)を用いた以外は、実施例3で使われたステップとバイオリアクタを使用した。なお、本実施例において、これら2個の軸離間された相互に平行な中間管13は、65mmの最小軸距離で、相互に軸離間して配置された。
【0055】
これにより、全体として、容器の中空管により乱されない(妨げられない)液体培地の水平面から、2.15g/Lの微生物セルロースのシート物が得られ、また、2個の管状の微生物セルロース(全体の重量が、2.255g/L)が水平モジュールから得られた。ゆえに、本実施例によると、総収量が4.405g/Lの微生物セルロースが得られた。
【0056】
上記実施例1〜4の結果を下記表2に要約する。
【0057】
【表2】

【0058】
上記表2の結果から、実施例1〜4の微生物セルロースの総収量のうち、2個の中空管が相互に軸離間して配置された実施例4のバイオリアクタの場合に、総収量が最も高いことが分かる。この理由としては、2個の相互に軸離間して配置された中空管が液体培地により強い乱れ(disturbance)を生じて、これにより容器内の液体培地中で微生物がより均一に分布し、他の実施例に比して液体培地の利用効率が高いたためであると推察される。予想できなかったことに、実施例4(2個の中空管が相互に平行して軸離間して配置された構造)の中空管1本当たりの管状の微生物セルロースの収率は、実施例3(1個の中空管が配置された構造)に比べて、約3倍であり、予想される約2倍ではなかった。
【0059】
本発明を好ましい実施形態と共に説明してきたが、特許請求の範囲に規定される本発明の概念および範囲を逸脱しない限り、上記実施の形態に多くの変更や修飾が可能であると、解される。
【符号の説明】
【0060】
10…水平モジュール、
11、12、13…中空管、
14…テクスチャ、
20、20A…スペーサー、
21…断面十字形部材、
21A…断面Y字形部材、
22…シャフト、
23…連結用のクレフト、
24…ノッチ(切込み)、
30…容器、
31…半円形の刻み目(くぼみ)、
40…液体培地。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタであって、
前記微生物セルロースは、管状の微生物セルロースを含み、
前記バイオリアクタは、微生物の培養のための液体培地を収容するための容器と、複数の中空管が同軸的に間隔をあけて配置されるまたは相互に軸離間して配置される水平モジュールと、を有し、
前記水平モジュールは、各中空管が、交互に、その一部が容器内の液体培地中に浸漬され、かつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、前記容器内で水平に回転するように配置されてなる、微生物セルロースを生産するためのバイオリアクタ。
【請求項2】
前記中空管は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有する、請求項1に記載のバイオリアクタ。
【請求項3】
前記きめの粗い外面は、規則的織り目(regular texture)を有する、請求項2に記載のバイオリアクタ。
【請求項4】
前記中空管は、2〜5本の円筒状管である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオリアクタ。
【請求項5】
前記中空管は、同軸的に間隔をあけて配置され、前記中空管の最内管の直径が1〜5cmであり、前記間隔が0.5〜2cmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオリアクタ。
【請求項6】
前記中空管が同軸的に間隔をあけて配置された前記水平モジュールは、中空管の両末端に位置する2個のスペーサーをさらに有し、
前記スペーサーは、中空管を同軸的に間隔をあけて固定するために使用され、
前記スペーサーは、それぞれ、中空管から離れる方向にスペーサーから水平方向に伸長するシャフトを備え、
前記2本のシャフトは、前記中空管が容器内で水平軸を中心に回転するように同軸であり、前記容器に回転可能に設けられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオリアクタ。
【請求項7】
前記スペーサーは、断面十字形部材を有し、
前記断面十字形部材は、等間隔で十字の中心周辺に連結用のクレフト(joining cleft)を有し、前記連結用のクレフトは、中空管の端部と連結しこれを保持するために使用され、
前記断面十字形部材の端部は、十字の中心でシャフトが配置されてなる、請求項6に記載のバイオリアクタ。
【請求項8】
前記スペーサーは、断面Y字形部材を有し、
前記断面Y字形部材は、等間隔でY字の中心周辺に連結用のクレフト(joining cleft)を有し、前記連結用のクレフトは、中空管の端部と連結しこれを保持するために使用され、
前記断面Y字形部材の端部は、Y字の中心でシャフトが配置されてなる、請求項6に記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
前記中空管は、相互に軸離間して配置される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオリアクタ。
【請求項10】
前記中空管の直径が2〜20cmである、請求項9に記載のバイオリアクタ。
【請求項11】
容器の中にセルロース生産菌を含む液体培地を準備し;
各中空管は、きめの粗い外面および滑らかな内面を有し、交互にその一部が容器内の液体培地中に浸漬されかつ他の一部が液体培地の水平面より上に露出するように、同軸的に間隔をあけて配置されたまたは相互に軸離間して配置された複数の中空管を水平軸を中心に回転して、微生物に中空管の外面に微生物セルロースを形成させると共に、容器の中空管により妨げられない液体培地の水平面に微生物セルロースのシート物を形成し;さらに
各中空管の外面から微生物セルロースを取り外して、管状の微生物セルロースを得る、
微生物セルロースの製造方法。
【請求項12】
前記微生物は、グルコンアセトバクター・ザイリナス(Gluconacetobacter xylinus)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記きめの粗い外面は、規則的織り目(regular texture)を有する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記中空管は、2〜5本の円筒状管である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記中空管は、同軸的に間隔をあけて配置され、前記中空管の最内管の直径が1〜5cmであり、前記間隔が0.5〜2cmである、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記中空管は、相互に軸離間して配置される、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記中空管の直径が2〜20cmである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
容器中の液体培地から微生物セルロースのシート物を除去することをさらに有する、請求項11〜17のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−284150(P2010−284150A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181901(P2009−181901)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(596032694)財団法人食品工業発展研究所 (9)
【Fターム(参考)】