説明

微生物リスクの簡易評価方法とその課題を回避する機能性空間

【課題】自然環境下で起こっている微生物に起因する問題に対して、空間という限定的な環境内における有機物劣化の進行具合によって、空間が有する潜在的な微生物リスクを簡易に評価する方法を提供すること、並びにその評価方法を用い、微生物リスクを回避する機能性空間、機能性空間を構成するための機能性部材を提供する。
【解決手段】木材、紙、プラスチック、粘土、粘土焼成物、鉱物、ガラス、金属、セメント、石材、織物、繊維、塗料等から構成される部材を、立体的に組み立てた空間内に、食品や植物等の有機物を配置してその劣化状況を観察する、微生物リスクの評価方法。有機物の劣化に対する解決手法として、食品に利用されたりする安全性が担保された微生物によって有機物を分解した懸濁物を、上記部材の原料として製造段階で配合してなる機能性部材、並びに上記機能性部材の製造方法。上記機能性部材を立体的に組み立てた機能性空間。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体である空間が有する潜在的な微生物リスクを、有機物の劣化状況により判断する方法、有機物の劣化を遅延させるための機能性空間、及び機能性空間を構成する機能性部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物に起因する問題としては、食中毒等の衛生問題、院内感染、シックハウスの原因物質の放散等による健康被害、農作物や家畜等の病気、食品の腐敗、建物の劣化等が上げられる。前記微生物被害のうち、人や動物への直接的な健康被害に対しては原因の究明が進んでいる。しかしながら、建物では微生物よりも防災に関わる基準が重要視されており、消費者に購入された後の食品も、腐敗した場合は廃棄もしくはリサイクルされるだけで、同じ微生物被害であっても、直接生体へ影響を及ぼす微生物のように、適正な処理を行われているとはいえない。
【0003】
このような扱いの差は微生物の種類によって生まれる。病原性微生物については感染症法や国立感染症研究所の病原体等安全管理規定等によって定められており、危険度に準じて適切な管理がなされている。しかしながら、微生物は突然変異や自然遺伝子交換等によって遺伝子が変化し、突如として有害性を有する個体になりうる危険性もある。すなわち、微生物が繁殖しやすい環境は、人に感染する病原性微生物を増殖させる可能性もあるため、日常的に観察される有機物の腐敗に対しても、生物リスクがあることを注意しなければならない。
【0004】
次に、有機物の腐敗の原理と一般的な対処法について説明する。有機物は光、熱、酸化物等の影響により劣化し、最終的に微生物によって分解される。微生物の制御法は、殺菌技術と保存技術との組み合わせであり、殺菌技術として、加熱、UV、マイクロ波、放射線等、保存技術として、低温、冷凍、凍結、加圧、窒素充填、湿度調整、殺菌剤の直接添加等があり、バイオプリザベーションのように有用な微生物で直接制御する方法もある。十分な殺菌がなされた場合、保存期間中は微生物を制御できるが、保存条件が悪かったり、保存状態を解かれたりすれば、有機物は微生物の影響を受けて腐敗する。
【0005】
最も簡単な保存方法として容器を使う方法があり、一般に使用されている保存容器に、トルマリン等の鉱物や、銀、銅等の金属、機能性成分、微生物等の生物資源を配合して、保存性を高める工夫を行った機能性容器も市販されている。しかしながら、機能性原料の基本は接触することで効果を発現するため、容器に接触している部分の対策は可能であっても、有機物内で微生物が繁殖した場合は、対策を行うことはできない。
【0006】
また、保存性に関わる説明についても課題が多い。例えば、鉱物の効果の一つとされるマイナスイオンについては、微弱な放射線を利用している場合もあり、製造及び使用時の安全性に疑問が残る。金属も、希少価値が高いものもあり、廃棄される容器等への利用は省資源化の方向性にそぐわない手段といえる。一方、生物資源を利用する方法もあり、環境対策の観点からも望ましい手段と考えられるが、温度等に対する依存度も高く、生物由来成分が製品中に残存して機能を発現するかについての確実な論拠が見られていない。
【0007】
例えば、特許文献1のように、生物資源を添加することで効能を発現したとしても、抗微生物性がセラミックス等の酸化物による作用である可能性や、吸着性能が有機物を含有した樹脂が加熱処理によって発泡したことで形成された孔隙による可能性も予想され、添加した生物資源そのものを分離、抽出できなければ、生物資源元来の機能を発現したことを証明することができないという課題もある。
【0008】
加えて、酵素のような例では、活性中心と基質が特異的に結合することで反応が起こることになるが、機能性の発現は対象との直接的な干渉が必要であって、製品に機能性成分を混入してしまうと活性部位が露出せず、対象物との接触が起きなければ機能性を発現しえないことになる。さらに、生体由来成分は生命現象を維持するための物質であって、通常の環境以外では失活して有効に作用することは少ない。
【0009】
微生物を直接利用する方法についても、微生物が製品中で生存することによる効果の発現を期待するわけであるが、微生物が産生するタンパク質や酵素等は、前述のごとく物理化学的ストレスに弱いため、珪藻土のような生物遺骸等が製品の構造的、物理的機能に寄与することはあっても、微生物や微生物の産生物質等の機能性が、製品の機能として発現するとは考えられない。
【0010】
上記のように生物資源については課題も多く見られるものの、近年では海中火口付近の熱水より微生物が存在した痕跡が確認されたといった報告もなされており、微生物の生存条件についても定説を見直す必要がでてきている。
【0011】
一方、従来発見されなかった微生物が新たに検出され、利用されるようになれば、新たな微生物リスクも想定する必要がある。しかしながら、既知の微生物は、自然界に存在する微生物の約1%と考えられており、今後検出される可能性がある99%の微生物に対し、全てに原因究明的な対策を講じることは不可能といえる。
【0012】
さらに、微生物被害として、想定外の事象も確認されるようになってきている。例えば、非特許文献1に示す高松塚古墳の場合、壁劣化の一因として、当時漆喰に混入したアクリル樹脂自体、カビが繁殖しやすい製品であった可能性を示す試験結果も公表されており、今後は未解明の微生物被害に関する報告がさらに増える可能性がある。
【0013】
上記のように、未知微生物や微生物痕跡による影響については、従来の品質管理基準に規定されておらず、製造時定点での微生物検査のみでは、製品使用環境における安全性を高めることにはつながらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−95633公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】遺跡等で使用する樹脂のカビへの抵抗性について
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、不特定の微生物リスクへの対処法として、模擬空間において微生物の繁殖度合いを評価し、複数の製品によって空間を形成した後に発生する潜在的な微生物リスクを予め検出すること、並びに、評価結果に基づいて改良を加えた微生物リスクを回避するための機能性空間、機能性空間を構成するための微生物汚染を回避した機能性部材の製造方法を提供し、空間構成部材からの微生物被害を低減した健全な空間を構築して、安全性を担保すること、を解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(リスク評価方法)
上記課題を解決するためのリスク評価は、一般に生産される製品群のうち、単独で内部に空洞を有する構造体(I)、製品を部材として立体的に成型した構造体(II)、単独(I)もしくは製品を部材として立体的に成型した構造体(II)内部表面に、異なる製品を被覆、塗布、貼付、静置等して成型する複合的な構造体(III)、が対象となる。
【0018】
また、構造体を構成する製品もしくは製品の複合物が、少なくとも天井面、壁面、床面の一面以上を構成していること、内部が全体的に外界より隔離されていること、もしくは一部開放されているが全体的には囲われている必要がある。
【0019】
前記の製品及び製品複合物は、木材、紙、プラスチック、粘土、粘土焼成物、鉱物、ガラス、金属、セメント、石材、繊維、塗料等を素材として単独もしくは複合で使用し、成型時に構造体の面を構成できること、もしくは被覆、塗布、静置した際に構造体に適合できる性状を有すること、を特徴とする。
【0020】
そして、上記構造体内部に、穀類、生鮮品、青果物、肉類、パン・菓子類、飲料等で水分を有する食品や、野菜、花卉等の植物を水に挿し、接触もしくは非接触の状態で静置して経過を観察し、カビの発生や変色等の変化を肉眼で観察することで、空間自体が持ち合わせる有機物を劣化させる能力を評価することができる。
【0021】
さらに、本発明による成果は、有機物の劣化状況の判別方法として利用できると共に、有機物の劣化を遅延せしめる機能性空間、及び機能性空間を構成するための機能性部材の開発の評価方法として役立てることができる。
【0022】
(機能性空間)
本発明の機能性空間を開示する前に、本発明における空間の定義を定める必要がある。そもそも空間という単語は、数学や物理分野で定義される。言葉の意味においても、辞書には何もない場所と記されており、固有の物体としての認識はない。しかし、住空間といった言葉は日常使用されており、本出願人が意図する空間も、日常的に使用される特定の環境を指している。
【0023】
次に、日常使用する空間という単語を解釈する。空間は空(ソラ)と間(ケン)により構成されている単語である。空とは実在し、且つ一般に認知されている周辺環境、間とは日本文化固有の長さの単位と捉えることが適している。つまり、空間という言葉の意味は実在する環境を一定の規模で区切った部分環境として認識することができ、さらにそれが空洞を有する立体的な構造であると想定できる。すなわち、一般に言われる空間とは、内部に空洞を有する構造体を指していることになる。
【0024】
そして、本発明における空間は前記製品により成型された構造体のことを意図し、機能性空間も同様に構成されることになる。すなわち、本発明の機能性空間は、製品単独で内部に空洞を有する構造体(I)、製品を部材として立体的に成型した構造体(II)、単独(I)もしくは製品を部材として立体的に成型した構造体(II)内部表面に、異なる製品を被覆、塗布、貼付、静置等して成型する複合的な構造体(III)であって、且つその構造体自体が有機物の劣化を遅延させる性能を有すること、を特徴とする。
【0025】
さらに、本発明の機能性空間は、空間を形成する製品が機能性部材で構成されており、機能性部材が天井面、壁面、床面の全体もしくは一部を構成する必要がある。
【0026】
(機能性部材の製造方法)
本発明の機能性部材は、木材、紙、プラスチック、粘土、粘土焼成物、鉱物、ガラス、金属、セメント、石材、繊維、塗料等の素材を混合、圧延、押出等によって成型される空間用部材に、機能性成分を原料として製造段階で添加すること、機能性部材に添加する機能性成分が、微生物によって有機物を有用分解して増殖させた懸濁状の液体もしくは固形物であること、を特徴とする。
【0027】
上記微生物を含む懸濁物の添加理由として、一般に、空間内における有機物の劣化が、▲1▼有機物自身に原因があること、▲2▼空間外から進入して増殖した微生物によること、が想定しうる原因となるが、本出願人は、左記原因に▲3▼構成部材及び構成部材からなる空間による腐敗の誘引作用、の可能性を加え、有機物劣化が部材によって誘導されると予測した。
【0028】
すなわち、製造段階において、製品には自然環境中の微生物が少なからず混入しており、混入微生物が従来の検出法では必ずしも検出できない可能性があること、もしくは既知の微生物において、殺菌処理によって不検出となった場合も、菌体や胞子等が残存し、条件が整うことで増殖を再開しうる可能性があること、さらには自然混入した微生物が殺菌されたとしても、製品の性質を変えてしまい、有機物の劣化を誘引する可能性があること、といった未解明の可能性について否定しうる研究がなく、前記理由により微生物汚染された部材によって構成された空間内に有機物を設置した場合、構成される部材の影響を直接もしくは間接的に受けることによって、有機物の劣化が促進される可能性は否定できず、左記リスクを回避する手段として、有益な微生物を原料として添加し、自然混入微生物よりも優占した状況を、人為的に作り出す必要がある。
【0029】
次に、本発明の機能性成分となる微生物の選定条件であるが、当該微生物による使用上の安全性を担保するには、食品加工に利用される少なくとも無害とされる微生物であること、高温条件での増殖が可能な微生物や耐久性のある芽胞を形成するような微生物のように、殺菌処理を行ったとしても残存する可能性があり、製造ラインを汚染することが懸念される微生物でないこと、を選抜する基準とした。
【0030】
加えて、当該微生物の出所が明らかで、一般的な殺菌処理によって死滅もしくは不検出になることが確認されている微生物を使用することが望ましい。それは上記微生物懸濁物を原料として添加する行為が、新たな微生物リスクとならないために必要な措置といえる。
【0031】
但し、化学物質のみによる殺菌は、混入の可能性が予想される未知の微生物に適合しなければ意味が無く、さらに部材成型後の揮発、溶出等による生体への悪影響や、耐性菌を生み出す危険性もあるばかりか、上記微生物のみを死滅させる可能性もあるため、必ずしも本発明には適しておらず、仮に併用する場合においても、本発明における原料微生物の生存を著しく阻害しない範囲での使用量に留める必要がある。
【0032】
そして、微生物の優占は、上記微生物により数的有利を作ること、もしくは栄養競合に優れた性質を有する微生物を使用すること、によって実現する。
【0033】
数的有利を作る方法として、製造場所の常在微生物よりも多い微生物数を添加すること、が条件に上げられるが、有機質素材を活用する製造場所以外における環境中の微生物数はごく少数であり、本発明のように増殖した微生物を添加する場合は、少量でも優勢となるため、添加量に然程拘る必要はない。
【0034】
栄養競合に優れた性質を有する微生物の条件として、製品への自然混入が予想される微生物同様、自然環境下で生存しうる種であること、食品加工に利用される微生物の中でも、人工培地以外の栄養源として、食品含有の糖類をタンパク質や脂質等が混濁した状態で資化できること、さらに自然混入微生物よりも多い菌数を、有機物が混濁した液体もしくは固形物に摂取した際、増殖後に自然混入微生物よりも菌数の割合が多くなり、優占しえること、を選択条件とした。これは人工培養された微生物の種類によっては、天然の有機物を分解する能力が低下していることもあり、自然環境下で増殖速度が遅い微生物は、生存競争に不利となるため、想定外の微生物リスクを回避するための原料微生物に適さないことになる。
【発明の効果】
【0035】
一般に行われる製品の微生物検査は、製造段階における微生物の混入度合いを示すものではなく、殺菌後の微生物数を検査しているため、自然混入微生物の製品外への影響については想定されていない。しかしながら、本発明の微生物リスクの評価方法によって、空間形成後の微生物リスクを検出することができるため、より高い安全性を実現する空間の形成に寄与する。
【0036】
また、当該評価方法により、同じ原料を使用した部材によって形成された空間においても、製法や原料のグレード、その他要因により、部材の質が変化し、空間内部に設置した有機物に及ぼす影響が変わる可能性についても検出できるため、商品開発の基準とすることができる。
【0037】
そして、上記評価の結果に基づき、改良された機能性部材からなる機能性空間は、微生物リスクが回避されることで、当該空間に保管される有機物は劣化が遅延することになる。
【0038】
さらに、当該機能性空間は、原料微生物となる有益な微生物により、部材の製造段階における自然混入微生物と物理的に置換することで汚染が回避されるため、当該部材によって構成された構造体の内部に対して、部材からの汚染拡大が解消されることになり、結果として空間内であれば有機物をどこに設置したとしても、劣化遅延の効果を得ることが可能となり、特に機能性部材に接触する必要もなくなる。
【0039】
加えて、本発明による機能性部材は、原料微生物が有機物に影響を及ぼすわけではなく、原料微生物の添加により腐敗性が解消されたことで獲得した部材自体の性能であるため、原料微生物に依存することなく、機能性部材単独でも有機物に微弱な影響を及ぼすことになり、立体的な空間を形成しなくとも微弱な効果を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】閉鎖された空間の種類を示した説明図である。
【図2】一部が開放されている空間を示した説明図である。
【図3】空間を構成する種類を示した説明図である。
【図4】リスク評価のための有機物の配置状況を示した説明図である。
【図5】機能性空間に対する機能性部材の設置位置を示した説明図である。
【図6】機能性石膏ボード、機能性糊、機能性塩化ビニル製壁紙を複合した機能性部材の構成例を示した説明図である。
【図7】模擬空間内に有機物を設置して試験を行っている様子を示した説明図である。
【図8】炭酸カルシウムに原料微生物を添加して保存した様子を示す説明図である。
【図9】機能性珪藻土内装材と一般塩化ビニル製壁紙による模擬空間を構成して試験を行った様子を示した説明図である。
【図10】機能性塩化ビニル製壁紙と一般塩化ビニル製壁紙による模擬空間を構成して試験を行った様子を示した説明図である。
【図11】機能性塩化ビニル製壁紙と一般塩化ビニル製壁紙による模擬空間内における45日目におけるピーマンの状態を示した説明図である。
【図12】原料微生物添加アルミニウム片と無添加アルミニウム片の生花への直接的な影響を調査した12日目の状態を示した説明図である。
【図13】原料微生物添加樹脂容器と無添加樹脂容器で5日間栽培された緑豆を収穫して3日目の生育状況を示した説明図である。
【図14】原料微生物添加袋と無添加袋に同一パックの納豆を各袋に分けて冷蔵庫内で2ヶ月保存した様子を示した説明図である。
【図15】原料微生物添加コーティング剤塗装タンクと無添加コーティング剤塗装タンク内に張った水の2年後の様子を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、実施例及び空間構成例を挙げて、さらに本発明の詳細を説明する。
【実施例1】
【0042】
(リスク評価方法)
本発明では、全体が覆われている構造体(1−A、1−B)、一部が開放されている構造体(2)、を空間とする。
【0043】
そして微生物リスクを評価する際は、完全に隔離された空間(3−A)、一部開放されているものの他資材によって覆われている空間(3−B)、一部開放されているものの実際の床によって遮蔽されている空間(3−C)、を用意する。
【0044】
空間内部には、有機物を床面に直接設置する方法(4−A)、有機物を台や器等に置いて設置する方法(4−B)、有機物を天井面より吊るして設置する方法(4−C)、があり、空間内部に有機物が設置されてさえいれば、設置箇所については特に選ぶ必要はない。
【0045】
有機物の種類として、食品であれば種類は選ばず、代表例としては野菜や食肉、パン等の加工品、飲料等が挙げられ、試験には製造ロット番号もしくは製造日が同じものを使用する。また、花等の植物のように酸化による花色の変化が見られるものを検体として使用することもできるが、植物を使用する場合は、同じ株から取り分けたものよりも、異なる株であって、同じ位置、同じ時期に花芽分化しているものを使用しなければ、正確な試験結果は得られず、植物を試験する場合はサンプル数を増やした方が良い。
【実施例2】
【0046】
次に、実施例1記載の空間を機能化していくための構成方法について説明する。
(機能性空間)
本発明による機能性空間は、有機物の劣化を遅延させる機能を有する機能性部材よって構成される。そして模擬空間を成型した際の、機能性部材の設置箇所については、単独で全体に適用する(5−A)、機能性部材を複合して使用する(5−B)、機能性部材と普通の部材を併用する(5−C)、方法が挙げられる。
【0047】
機能性部材により構成された機能性空間は、実施例1による微生物リスクの評価方法に基づき、有機物劣化が遅延している様子を観察する。但し、予備試験として、機能性部材を単独で床面に設置し、その上に植物等を配置することで、退色等の変化を観察することができる。
【実施例3】
【0048】
次に、機能性部材の製造方法について説明する。
(試験1)
機能性部材の原料の一種である炭酸カルシウムに微生物を繁殖させた例を示す。非滅菌サトウキビ廃糖蜜を主とする懸濁液に乳酸菌を主とする微生物を摂取して培養してなる微生物懸濁液(以下、原料微生物という)を、炭酸カルシウムがスラリー状になるまで添加して混濁物とし、常温で十分乾燥させた後に粉末にして、密閉性の高いポリ袋に保存して観察した結果、図8に示すとおり微生物添加炭酸カルシウム(8−2)にカビが発生した。
【0049】
常温乾燥では乾燥が不十分であり、さらに密閉性の高い容器内で湿度が保たれたことによって、包装内のいずれかに存在したカビが、微生物懸濁液に含まれる有機物を栄養源として繁殖したためと考えられる。すなわち、本発明で選抜された原料微生物を使用したとしても、単に摂取するだけでは、腐敗性を抑えることはできず、逆に雑菌を繁殖させることにもなるため、留意が必要である。
【0050】
(試験2)
次に、機能性部材の原料となる珪藻土の改良を行った。試験1で使用した原料微生物を、珪藻土が完全に湿る程度に添加し、自然乾燥を行った自然乾燥珪藻土、完全に湿った珪藻土を水分が1%以下になるまで乾燥した機械乾燥珪藻土を、人工培地に置いてカビの発生状況を観察したところ、機械乾燥珪藻土ではカビが発生しなかった。なお、機械乾燥珪藻土の乾燥は外部に委託した。
【0051】
【表1】

【0052】
(試験3)
試験2構成2の原料珪藻土及び試作1記載の原料微生物を添加した珪藻土と、一般の塩化ビニル製壁紙で、リスク評価用模擬空間を構築して試験を行った例を示す。空間は合板により形成され、その内部を当該建築資材で複合化する。内部に配置した食品は、牛乳、パン、食肉である。評価開始後、塩化ビニル製壁紙で内部を複合化した空間は、肉眼でパンにカビの発生が確認できたが、珪藻土を複合化した空間では、パンへのカビの発生は観察されなかった。食肉は乾燥が進み差は現れなかった。牛乳はそれぞれ若干の臭気が確認されたが、臭気に違いが見られた。
【0053】
珪藻土は元々調湿性能を有しており、珪藻土の使用により環境中の湿度が低く保たれた場合、カビの繁殖は抑制される。さらに、珪藻土に消石灰のようなアルカリ原料を配合して珪藻土内部をアルカリ性に保てば、カビの生育至的pHでなくなり、カビの生育そのものを抑制することもできる。加えて、本発明のように、乳酸菌等の発酵微生物を原料微生物として添加することで、珪藻土中の微生物がより健全になって、有機物が腐敗しづらい環境の形成に貢献する。
【0054】
(試験4)
塩化ビニル製壁紙の改善例について示す。構成例2に示す微生物を含浸した粘土を強制乾燥してなる原料を、製造段階で添加して成型した塩化ビニル製壁紙を、一般石膏ボードで構成された空間表面に貼り付けて構造体を形成し、微生物リスクの評価を行った。配置した食品は食肉、パン、ピーマンで、食肉及びパンは腐敗する前に乾燥し、変化が見られなかったものの、ピーマンは10日程で変色しはじめ、最終的には無添加の壁紙のみにカビの発生が確認された。
【0055】
(試験5)
原料微生物を金属に添加した例を示す。構成例2に示す微生物を拭きつけ、十分に乾燥したアルミニウムのインゴットを溶融し、冷却して切り出した原料微生物添加アルミニウム片と、同様に作成した無添加アルミニウム片を作成し、それぞれ水中に浸漬した。当該浸漬水には、花芽分化がほぼ同時期であったユーストマを2本挿して、経過を観察したところ、無添加アルミニウム片は10日目以降に片方に花弁の褐変が開始されたのに対し、原料微生物添加アルミニウム片では、12日目までは変化が見られず、14日目において同時に褐変等の変化が見られ、原料微生物添加アルミニウムは劣化が遅延する傾向が観察された。
【0056】
(試験6)
原料微生物の活用例について記す。原料微生物を粘土等に含浸し、カビが発生しないレベルまで十分に乾燥した状態で樹脂等に混合し、内部に空間を持つ容器を成型した場合、一部が遮蔽されていなくても、内容物が充填されることで空間内部が露出しなくなる環境となる場合は、その効果が発揮される事になる。
【0057】
例えば、原料微生物を添加した樹脂で成型された容器の内部に緑豆を充填し、暗所で生育させ、モヤシによって外界と遮蔽された環境を形成した場合、当該モヤシと同様に同時期に無添加容器で栽培されたモヤシとの生育状況を、容器から取り分けてから比較すると、原料微生物添加容器栽培モヤシは子葉を展開し、更に成長したのに対し、無添加容器栽培モヤシは2日ほどで腐敗を開始した。
【0058】
(試験7)
上記試験以外において、単独で空洞を構成するポリエチレン製袋においても、有機物の腐敗を遅延させる効果を確認している。
【0059】
(試験8)
また、有機物の劣化ではないものの、FRP表面を原料微生物を添加したコーティング剤を塗装する事で複合化し、立体化することで空間を形成したタンク内部に、水を貼った状態で静置し、水質の変化を観察した結果、原料微生物添加コーティング剤塗装タンクは2年経った段階でも水垢がほとんど発生しなかったが、無添加コーティング剤塗装タンクでは、水垢が発生し、排水溝付近の金属にも腐食が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、内部構造を有する全ての構造体に対して適応できるため、有機物に係る全ての産業分野において利用できるが、特に建築分野や食品加工分野における利用価値が高い。
【符号の説明】
【0061】
1−A 立方体の構造体
1−B 球体の構造体
2 一部開放した構造体
3−A 密閉した空間構成
3−B 一部開放し空間をフィルムで密閉した空間構成
3−B−1 フィルム類
3−C 一部開放した構造体の開放面を床面に設置して密閉した空間構成
4−1 床面
4−2 有機物
4−A 床面へ直接有機物を設置した試験例
4−B 台の上に有機物を設置した試験例
4−B−1 台等
4−C 有機物を天井面から吊るした紐にぶら下げた試験例
4−C−1 有機物を吊るす紐
5−1 機能性部材
5−2 非機能性部材
5−A 単一の機能性部材で成型された空間
5−B 全部が機能性部材である複数の部材で成型された空間
5−C 一部が機能性部材でない複数の部材で成型された空間
6−1 機能性石膏ボード
6−2 機能性糊
6−3 機能性塩化ビニル製壁紙
8−1 炭酸カルシウム
8−2 原料微生物添加炭酸カルシウム
9−1 機能性珪藻土内装材で構成された機能性空間
9−2 一般塩化ビニル製壁紙で構成された空間
10−1 機能性塩化ビニル製壁紙で構成された機能性空間A
10−2 機能性塩化ビニル製壁紙で構成された機能性空間B
10−3 一般塩化製ビニル製壁紙で構成された空間
11−1 機能性塩化ビニル製壁紙で構成された機能性空間A内に配置された食品
11−2 機能性塩化ビニル製壁紙で構成された機能性空間B内に配置された食品
11−3 一般塩化製ビニル製壁紙で構成された空間内に配置された食品
12−1 水に挿した花(ネガティブコントロール)
12−2 無添加アルミニウム片を浸漬した水に挿した花(ポジティブコントロール)
12−3 原料微生物添加アルミニウム片を浸漬した水に挿した花
13−1 原料微生物添加樹脂容器で栽培された緑豆
13−2 無添加樹脂容器で栽培された緑豆
14−1 原料微生物添加樹脂袋で保存された納豆
14−2 無添加樹脂袋で保存された納豆
15−1 原料微生物添加コーティング剤塗装タンク内の水
15−2 無添加コーティング剤塗装タンク内の水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材、紙、プラスチック、粘土、粘土焼成物、鉱物、ガラス、金属、セメント、石材、繊維、塗料等を原料とする平面もしくは球体状に成型された製品において、単独で内部に空洞を有する構造体、複数の製品を部材として立体的に成型した構造体、単独もしくは複数の製品を部材として立体的に成型した構造体内部表面に、異なる製品を被覆、塗布、貼付、静置等して成型する複合的な構造体のいずれか一種を用意し、構造体の内部空間に食品や植物等の有機物を配置して、カビの発生状況を肉眼で観察することで、潜在的な微生物リスクを判定することを特徴とする空間の微生物リスク評価方法
【請求項2】
請求項1記載の微生物リスク評価方法による試験結果に基づき、有機物の劣化を遅延させる空間を形成するために改良された構造体用部材であって、部材自体が単体もしくは複合体として、有機物に直接接触しなくとも劣化を遅延させる機能を発現することを特徴とする機能性部材
【請求項3】
請求項2記載の機能性部材によって、請求項1記載の構造体を構成することを特徴とする機能性空間
【請求項4】
部材となる製品の製造段階において、有機物懸濁物を含む乳酸菌を主とする有益な微生物を原料として添加し、当該微生物が優占して自然混入微生物に置き換わることで、部材の微生物汚染が回避され、部材による空間中の微生物被害を回避することを特徴とする請求項2記載の機能性部材の製造方法
【請求項5】
請求項4記載の微生物が食品に利用される種類であって、製品の製造段階における通常の殺菌方法により製品中より検出できなくなることを特徴とする機能性部材用原料微生物

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−234706(P2011−234706A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119836(P2010−119836)
【出願日】平成22年5月9日(2010.5.9)
【特許番号】特許第4743334号(P4743334)
【特許公報発行日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(510145624)合同会社イーエムバイオエンジニアリング (1)
【Fターム(参考)】