説明

微生物保護剤及び微生物の凍結又は凍結乾燥菌体の製造方法

【課題】菌体の損傷又は死滅を防止し、高い生残率を有する、微生物菌体の凍結又は凍結乾燥工程における製造方法を提供する。
【解決手段】凍結時又は凍結乾燥時の保護剤として、乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理することにより得られる透過液を使用し、高い生残率を有する凍結又は凍結乾燥微生物菌体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の凍結又は凍結乾燥菌体の製造方法、該製造方法により得られる菌体及び保護剤に関する。より詳しく言うと、乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)を微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することを特徴とする凍結又は凍結乾燥微生物菌体の製造方法、該製造方法により得られる菌体及び保護剤に関する。なお、本明細書においてビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)に属する微生物をビフィズス菌、ビフィズス菌以外の乳酸菌を乳酸菌等、ビフィズス菌及び乳酸菌等をまとめて乳酸菌類と記載することがある。
【背景技術】
【0002】
有用な腸内細菌の一つとして広く知られているビフィズス菌は、食品の製造に広く利用されており、発酵乳、乳酸菌飲料等の乳製品を製造する際に用いられている。更に近年、腸内有害菌抑制作用・感染防御作用(例えば、非特許文献1参照)、免疫調節作用(例えば、非特許文献2参照)、コレステロール低下作用(例えば、非特許文献3参照)等の、生菌体を摂取することによって発揮される生体調節機能であるプロバイオティクス機能が次々と明らかにされている。そのため、ビフィズス菌を摂取することにより健康を維持する目的として、ヨーグルト・チーズ等発酵乳飲食品、菓子類等乳酸菌類を含む種々の飲食品の開発や、健康食品や医薬品等の素材として利用するための開発がなされている。
これらの飲食品等にビフィズス菌を添加する場合、予め培養したビフィズス菌を加工して添加するが、その加工には多大な労力及び時間を要し、また加工において高い生残率を維持するためには技術的に極めて困難な点があった。
一方、乳酸菌等は古くからヨーグルト・チーズ等多数の乳製品にスターターとして利用されている。また近年、その整腸作用のみならず、免疫調節作用(例えば、非特許文献2参照)や炎症性腸疾患改善作用(例えば、非特許文献4参照)等のプロバイオティクス機能を期待して、種々の食品に添加されている。
しかし従来これらの乳酸菌等は牛乳等で培養することによりその菌体を取得しているが、そのために多くの労力と多大な時間を要し、また、菌体の品質管理等について十分に注意をしなければならないという問題があった。
従って、予め凍結又は凍結乾燥した乳酸菌類の生菌体を用いることにより、乳酸菌類を含有する飲食品、例えばヨーグルトやチーズ等の乳製品が簡単に製造することができる。しかしながら、これらの製品に必要な菌濃度を有する凍結又は凍結乾燥乳酸菌類を調製することは、融解時又は凍結乾燥時において、菌体が被る損傷又は死滅を防止しなければならないため、極めて困難であった。
従来、これらの問題を解決するために多くの凍結保護物質及び凍結乾燥保護物質が開発された。これらの物質には、脱脂乳・グルタミン酸ナトリウム・ゼラチン及びショ糖(例えば、特許文献1参照)・フェニルアラニン・ヒスチジン・クエン酸・コハク酸・酒石酸及び炭酸アルカリ(例えば、特許文献2参照)等が知られており、その他に、乳糖・トレハロース・脱脂粉乳・ソルビトール・アスコルビン酸ソーダ(例えば、非特許文献5参照)等も知られている。
【特許文献1】特公昭53-8792号公報
【特許文献2】特開昭61-265085号公報
【非特許文献1】A. Garcia-Lafuente et al. Modulation of colonic barrier function by the composition of the commensal flora in the rat. Gut. 48(4): 503-507, 2001.
【非特許文献2】E. Isolauri et al. Probiotics in the management of atopic eczema. Clinical & Experimetal Allergy. 30(11): 1604-1610, 2000.
【非特許文献3】J. Z. Xiao et al. Effects of Milk Products Fermented by Bifidobacterium longum on Blood Lipids in Rats and Healthy Adult Male Volunteers. Journal of Dairy Science. 86: 2452-2461, 2003.
【非特許文献4】K. L. Madsen et al. Lactobacillus species prevents colitis in interleukin 10-gene-deficient mice. Gastroenterology. 116: 1107-1114, 1999.
【非特許文献5】Ana S. Carvalho et al. Relevant factors for the preparation of freeze-dried lactic acid bacteria. International Dairy Journal. 14(10): 835-847, 2004.
【0003】
しかしながら、これらの従来技術によっても、凍結時及び凍結乾燥時の菌体の損傷又は死滅は甚大であり、高濃度、かつ安定した凍結菌体又は凍結乾燥菌体を調製するのは困難であった。特に菌体調製時に菌体分散液と菌が資化する保護物質とを混合した状態においては、可及的低温で、かつ迅速に凍結作業を実施しなければ、菌の活発な代謝によって生産される酸により凍結すべき菌体分散液のpHが低下し、生残率が顕著に低下する。更に、凍結時の菌体分散液のpHは、融解時又は凍結乾燥時の菌体の損傷又は死滅に著しい影響を与えるため、凍結前の菌体分散液のpHには十分に注意を払い、場合によってはアルカリ等で中和する必要があった。
更に、凍結又は凍結乾燥菌体の製造工程においては、菌体分散液を凍結する速度が菌体の損傷又は死滅において甚大な影響を与える。即ち、可及的速やかに液温を低下させることが望ましいが、工業的規模で製造する場合には、急速凍結を実施する上で克服しなければならない問題が多数存在していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、従来、微生物の凍結又は凍結乾燥工程において菌体の損傷又は死滅を防止し得る汎用保護剤は存在せず、その開発が期待されていた。よって、本発明は、これらの問題点を考慮し、微生物の生残性向上に優れた効果を有し、かつ、製品の風味に悪影響を与えず、製造コストのかからない、新規な微生物の生残性向上剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一方、チーズを製造する際に大量の乳清(チーズホエイ)が副産物として排出される。乳清には独特の風味があり、そのままでは飲用に適さないため、そこからホエイタンパク質を濃縮したWPCや、イオン交換樹脂吸着法を行った後に濃縮、乾燥させた分離ホエイタンパク質(WPI)の生産に主に用いられる。これらはカゼインと比べてアミノ酸組成に優れており、栄養価値が高くしかも安価な食品素材として幅広く利用されている。しかし、近年、チーズの消費量増加に伴い、WPCやWPIを製造する際に生じる廃液量も増加しており、環境保護や資源の有効利用の面からも更なる利用方法の開発が必要とされている。
【0006】
本発明者らはこのWPC及びWPIを製造する際に生じる廃液が、安価で大量に入手可であることに着目する一方で、上記課題を解決すべく前記凍結乾燥微生物菌体の製造方法について鋭意研究を行った結果、乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理することにより得られる透過液(パーミエイト)を微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することにより、工程において菌体の損傷又は死滅を防止し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
従って、本発明は、下記の構成からなる発明である。
(1)乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)を微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することを特徴とする凍結又は凍結乾燥微生物菌体の製造方法。
(2)乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)中の乳糖を、酵素及び/又は熱により分解した後に、微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することを特徴とする凍結又は凍結乾燥微生物菌体の製造方法。
(3)微生物が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属のいずれか1種以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られる微生物の凍結又は凍結乾燥菌体。
(5)乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)を有効成分とする微生物の凍結又は凍結乾燥保護剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、凍結又は凍結乾燥工程において菌体の損傷又は死滅が少なく、かつ生残率の高い凍結又は凍結乾燥微生物菌体の製造方法、該製造方法により得られる菌体及び保護剤を提供することを目的としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法の特徴は、乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)を微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することにある。以下、本発明について詳しく説明する。
本発明にて、透過液(パーミエイト)を調製する際に使用する原材料として、乳又は乳清が挙げられる。乳としては、食品製造に通常用いられる乳であればいずれの乳を使用してもよく、例えば全乳、脱脂調製乳、還元乳、濃縮乳、バターミルク、クリーム、脱脂粉乳、又はこれらの混合物を挙げることができる。
乳清としては、牛乳、水牛、山羊等の哺乳動物の乳からチーズを製造した副産物、乳のpHを酸性にし酸カゼインを得た副産物、乳を精密濾過膜などで処理して得られた透過液などを用いることができる。これらが酸性である場合には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のpH調整剤により、pHを中性付近に再調整することで使用することができる。これらは粉末状でもよいが、これを酵素反応させる時は水溶液の状態で使用することができる。
これらの原材料を限外濾過(UF)膜処理して、透過液(パーミエイト)を得ることができる。このときの膜処理としては、分子量5,000カット以上又は10,000カット以上の限外濾過(UF)膜を用いるとよい。得られた透過液には主に8〜20g/100gの乳糖の他、ミネラル類、ビタミン類、アミノ酸、ペプチド等の低分子物質が含まれる。
ミネラル類としては、乳中に含まれる水溶性のミネラル、例えば、20mg〜1,000mg/100gのカルシウム、30〜1,000mg/100gのカリウム、30〜300mg/100gのリン、10〜100mg/100gのマグネシウム等が挙げられる。
ビタミン類としては、乳中に含まれる水溶性のビタミン、例えば、0.04mg〜2mg/100gビタミンB2、0.01〜0.5mg/100gのビタミンB1、0.03〜1.5mg/100gのナイアシン、0.5〜25mg/100gのビタミンC等が挙げられる。
得られた透過液(パーミエイト)は水溶液のままで、または、濃縮や乾燥することにより粉末化して微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥菌体を調製することができる。
【0010】
本発明の凍結又は凍結乾燥保護剤の実施態様としては、得られた透過液(パーミエイト)を水溶液のままで、または濃縮や乾燥することにより粉末化して、微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥菌体を調製することができる。粉末化した場合は、保存や運搬等の点で利点がある。また、粉末化したものを再度溶液にした後、微生物菌体と混合することもできる。
【0011】
本発明における微生物保護剤の適応の対象となる微生物は、凍結又は凍結乾燥して使用される有用な微生物であり、その種類は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビフィズス菌、乳酸菌等、細菌、黴、酵母等である。より具体的には、
ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する微生物であり、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)等が挙げられる。なお、使用するビフィズス菌は、これらの菌種に限定されるものではない。
また、乳酸菌等は、一般に乳酸菌に分類されている微生物であり、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、特にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・デルブルッキー・亜種・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)等、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物、特に、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物、特にラクトコッカス・ラクティス・亜種・ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)が挙げられる。なお、使用する乳酸菌等は、これらの菌種に限定されるものではない。
【0012】
また、乳酸菌類以外の細菌としては、プロピオン酸菌(Propionibacterium)属に属する微生物、特にプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)等、バチルス(Bacillus)属に属する微生物、特にバチルス・サチラス(Bacillus subtilis)等が挙げられる。また、黴は、ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物、例えばペニシリウム・ロックフォルチ(Penicillium roqueforti)等、酵母はサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する微生物、例えばサッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。なお、使用する細菌・黴・酵母は、これらの菌種に限定されるものではない。
【0013】
微生物の菌体は常法により製造することができる。例えば、グルコース、酵母エキス、ペプトン等を含む液体培地で前記微生物の1種又は2種以上を通常25〜45℃で、4〜24時間培養し、培養液から菌体を集菌し、洗浄する等の処理を行った上で湿菌体を得る。
【0014】
得られた湿菌体に通常、当該透過液を10〜75%、望ましくは25〜50%の濃度で添加し、均一に混合する。
【0015】
混合後、凍結又は凍結乾燥は、常法により行うことができる。凍結する場合は、例えば−20℃〜−160℃以下(液体窒素等を使用)、凍結乾燥する場合は、棚温度35℃以下、1.0 × 10-1 torr程度の真空下で行うことができる。
【0016】
また、乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)中の乳糖を、酵素及び/又は熱により分解した後に、微生物と混合することもできる。乳糖分解は、β−ガラクトシダーゼを用いて行うことが好ましい。
【0017】
本発明においては、以上のように当該膜処理透過液を添加、混合することにより凍結又は凍結乾燥時の微生物菌体の損傷又は死滅を軽減し、かつ高い生残率で高濃度の微生物菌体の凍結又は凍結乾燥菌体を得ることができる。
【0018】
次に実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
なお、以下に記載する実施例は本発明を説明するものであり、実施例の記述に限定するものではない。
【実施例1】
【0019】
(乳酸菌類の調製)
GAM培地(日水製薬社製)に最終濃度1%になるようにグルコースを添加したものに、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)JCM 1217Tの前培養液2%を接種し、37℃で16時間培養し、ビフィズス菌液1,000mLを得た。この菌液250mLを冷却した後、500mLの遠沈管に入れ5,000rpm ×10分の遠心分離を行い、デカンテーションにより上清を適量除去することによって、25倍にビフィズス菌が濃縮されたビフィズス菌液を得た。
(透過液の調製)
チーズホエイ80kgをクリームセパレーターにて遠心分離後、65℃で30分殺菌し、分画分子量10,000のUF膜(PW1812T、材質:ポリエーテルサルフィン、モジュール:スパイラル型、膜面積:0.55m2、DESALINATION社製)を用いて、循環流量10L/分、平均圧力4kg/cm2で19倍まで濃縮し、固形14%、乳糖11%、タンパク質0.3%、ミネラル0.6%のUF透過液75kgを得た。得られた透過液はそのまま本発明の凍結又は凍結乾燥保護剤として使用することができる。
(凍結乾燥菌体の調製)
調製したビフィズス菌液に、水(試料1)、脱脂粉乳(雪印乳業社製)10%及びL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬社製)1%を含む溶液の混合液(試料2)、10%乳糖(和光純薬社製)水溶液(試料3)、実施例1で調製した透過液(試料4)を等量加えることによって、12.5倍にビフィズス菌が濃縮された4種類の各ビフィズス菌液を得た。
得られた各菌液を常法に従って凍結乾燥処理を行い(共和真空凍結乾燥装置 RLE-308、共和真空技術社製、棚温:35℃以下、真空度:1.0 x 10-1 torr)、約3gの各凍結乾燥ビフィズス菌体を得た。
得られた凍結乾燥ビフィズス菌体を37℃下で強制劣化試験に供し、試験開始から3週間後のサンプル中の生菌数を測定し、生残率を算出した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0020】
(乳酸菌類の調製)
M17培地(DIFCO社製)に最終濃度0.5%になるようにラクトースを添加したものに、ラクトコッカス・ラクティス・亜種・ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)JCM 5805Tの前培養液2%を接種し、30℃で16時間培養し、乳酸菌液1,000mLを得た。この菌液を、実施例1と同一の処理を行うことによって25倍に乳酸菌が濃縮された乳酸菌液を得た。
(凍結乾燥菌体の調製)
この菌液に、水(試料1)、脱脂粉乳(雪印乳業社製)10%及びL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬社製)1%を含む溶液の混合液(試料2)、10%乳糖(和光純薬社製)水溶液(試料3)、実施例1で調製した透過液(試料4)を等量加えることによって、12.5倍に乳酸菌が濃縮された4種類の各乳酸菌液を得た。
得られた各菌液を常法に従って凍結乾燥処理を行い、約3gの各凍結乾燥乳酸菌体を得た。
得られた凍結乾燥乳酸菌体を37℃下で強制劣化試験に供し、試験開始から3週間後のサンプル中の生菌数を測定し、生残率を算出した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0021】
(乳酸菌類の調製)
MRS培地(DIFCO社製)にラクトバチルス・デルブルッキー・亜種・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)JCM 1002T、又はラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)JCM 1131T、又はラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)JCM 1134T、又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)JCM 1149Tの前培養液2%を接種し、37℃で16時間培養し、乳酸菌液1,000mLを得た。この菌液を、実施例1と同一の処理を行うことによって25倍に乳酸菌が濃縮された各乳酸菌液を得た。
(凍結乾燥菌体の調製)
この菌液に、水(試料1)、脱脂粉乳(雪印乳業社製)10%及びL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬製)1%を含む溶液の混合液(試料2)、10%乳糖(和光純薬製)水溶液(試料3)、実施例1で調製した透過液(試料4)を等量加えることによって、12.5倍に濃縮された4種類の各乳酸菌液を得た。
得られた各菌液を常法に従って凍結乾燥処理を行い、約3gの各凍結乾燥乳酸菌体を得た。
得られた凍結乾燥乳酸菌体を37℃下で強制劣化試験に供し、試験開始から3週間後のサンプル中の生菌数を測定し、生残率を算出した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示される結果から、いずれの乳酸菌類に対しても、当該膜処理透過液を用いた試料4は、保護剤を用いなかった試料1、公知の保護剤を用いた2及び3と比較して高い生残率を有することが認められた。なお、本発明品である試料4は、試料3と同程度の乳糖量であるが、試料3に比べて高い生残性を示し、当該膜処理透過液の生残性効果における優位性が確認された。
【実施例4】
【0024】
(乳酸菌類の調製)
実施例1と同一の方法にて、25倍に濃縮されたビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)JCM 1217Tの菌液を得た。
(透過液の調製)
実施例1と同一の方法にてUF透過液75kgを得た。その後、得られた透過液を、減圧濃縮により全固形率が65重量%となるように濃縮した。得られた濃縮UF膜透過液5kgに、β−ガラクトシダーゼ(スミラクトL、新日本化学工業社製)25gを添加して、55℃で2時間酵素反応を行った後、ホールドチューブを有するプレート式熱交換機を用いて、85℃で5分間加熱して酵素反応を停止させた。このようにして乳糖分解シロップ状組成物4kgを得た。得られた透過液はそのまま本発明の凍結又は凍結乾燥保護剤として使用することができる。
(凍結乾燥菌体の調製)
調製したビフィズス菌液に、水(試料1)、脱脂粉乳(雪印乳業社製)10%及びL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬社製)1%を含む溶液の混合液(試料2)、10%乳糖(和光純薬社製)水溶液(試料3)、乳糖分解シロップ状組成物(試料5)を等量加えることによって、12.5倍にビフィズス菌が濃縮された4種類の各ビフィズス菌液を得た。
得られた各菌液を実施例1と同一の方法にて凍結乾燥処理を行い約3gの各凍結乾燥ビフィズス菌体を得た。
得られた凍結乾燥ビフィズス菌体を37℃下で強制劣化試験に供し、試験開始から3週間後のサンプル中の生菌数を測定し、生残率を算出した。結果を表2に示す。
【実施例5】
【0025】
(乳酸菌類の調製)
実施例2と同一の方法にて、25倍に濃縮されたラクトコッカス・ラクティス・亜種・ラクティス(Lactococcus lactis ssp. lactis)JCM 5805Tの菌液を得た。
(凍結乾燥菌体の調製)
この菌液に、水(試料1)、脱脂粉乳(雪印乳業社製)10%及びL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬社製)1%を含む溶液の混合液(試料2)、10%乳糖(和光純薬社製)水溶液(試料3)、実施例4で調製した乳糖分解シロップ状組成物(試料5)を等量加えることによって、12.5倍に乳酸菌が濃縮された4種類の各乳酸菌液を得た。
得られた各菌液を実施例1と同一の方法にて凍結乾燥処理を行い、約3gの各凍結乾燥乳酸菌体を得た。
得られた凍結乾燥乳酸菌体を37℃下で強制劣化試験に供し、試験開始から3週間後のサンプル中の生菌数を測定し、生残率を算出した。結果を表2に示す。
【実施例6】
【0026】
(乳酸菌類の調製)
実施例3と同一の方法にて、25倍に濃縮されたラクトバチルス・デルブルッキー・亜種・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)JCM 1002T、又はラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)JCM 1131T、又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)JCM 1149Tの各菌液を得た。
(凍結乾燥菌体の調製)
この菌液に、水(試料1)、脱脂粉乳(雪印乳業社製)10%及びL−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬社製)1%を含む溶液の混合液(試料2)、10%乳糖(和光純薬社製)水溶液(試料3)、実施例4で調製した乳糖分解シロップ状組成物(試料5)を等量加えることによって、12.5倍に乳酸菌が濃縮された4種類の各乳酸菌液を得た。
得られた各菌液を実施例1と同一の方法にて凍結乾燥処理を行い、約3gの各凍結乾燥乳酸菌体を得た。
得られた凍結乾燥乳酸菌体を37℃下で強制劣化試験に供し、試験開始から3週間後のサンプル中の生菌数を測定し、生残率を算出した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2に示される結果から、いずれの乳酸菌類に対しても、当該膜処理透過液を用いた試料5は、保護剤を用いなかった試料1、及び公知の保護剤を用いた2及び3と比較して高い生残率を有することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)を微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することを特徴とする凍結又は凍結乾燥微生物菌体の製造方法。
【請求項2】
乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)中の乳糖を、酵素及び/又は熱により分解した後に、微生物菌体と混合し、凍結又は凍結乾燥することを特徴とする凍結又は凍結乾燥微生物菌体の製造方法。
【請求項3】
微生物が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法により得られる微生物の凍結又は凍結乾燥菌体。
【請求項5】
乳又は乳清を限外濾過(UF)膜処理して得られる透過液(パーミエイト)を有効成分とする微生物の凍結又は凍結乾燥保護剤。